新約 鬼滅の刃 作:枢木リンネ
小説って、やっぱ難し過ぎて逃走しそうになりました。
文章変だったり矛盾が起きてるかもしれませんが、頑張りました。
———鬼殺隊。
文字通り、鬼を殺す力を有した剣士とその剣士を支える者達が集まった政府非公認の組織。
総勢数百人を超える構成員が所属。悪鬼滅殺を掲げ、闇に紛れて人々を守り、悪鬼を滅殺する。
いつの日か、厄災が払われるその日まで……。
義勇は日輪刀を抜いたまま、夜闇の中を駆け巡る。
かつて同期の隊士に、普段から何を考えているのか分からないと言われた事もあるくらい感情の変化に乏しい義勇の顔には、僅かながら戦闘による傷を負っていた。
今、この森全体が鬼の巣窟となっていたからだ。
本来、鬼は同族嫌悪によって鬼同士の助け合いや徒党を組む事はなく、食料となる人間を確保出来ずにいれば飢餓状態に陥って共喰いすら始める。
お館様から鬼のここ最近鬼の数が急激に増えているという通達が鎹鴉を経由して伝えられた。
多くの目撃情報はこの地域に集中していた為、鬼殺隊士達に大規模な共同任務として指令が下された。
義勇も指令を受けた。
現在判明しているだけで十体以上の鬼が存在する。
同じく任務に就いていた隊士達の多くは負傷し、木に背中を預けて座り込んでいる者、その場で倒れ込んでいる者、そんな隊士達を介抱する者などがいた。
義勇はそんな状況に目もくれず、ただ走る。
途中、鬼に襲撃されてる隊士がいれば助太刀に入って鬼の頸を刎ねる。
襲い掛かってくる鬼がいれば頸を刎ねる。
義勇は森に入ってから既に八体の鬼を狩っていた。
それでも義勇は足を止める事なく森を走るのだった。
******
「やめろ……やめてく———ぐあっ‼︎」
恐怖に染まり命乞いをした隊士の声は届かず、無情にも頭部を踏み潰され、ひしゃげた中身と鮮血が地に飛び散るり
鬼はつまらなそうに見下ろす。
辺り一面は、他にも頭部を潰された隊士の亡骸がいくつも転がっていた。
「俺の命を狙っておいて、死にたくないから命乞いするとか舐めてんのか? ぶっちゃけ、おめぇらの命なんざどーでもいいんだよ」
そう吐き捨てると、鬼は潰した頭部の中身を掴むと頬張り始めた。
肉を擦り潰し、血の溢れる音が森に響く。
鬼にとって人間の肉を食べている時が至福の時。
人間を喰えば喰うほどその身は強くなる。
特にこの鬼は人間の頭部の中身、脳味噌が好きだった。
この、ねっとりとした食感が堪らない。
「あ〜……やっぱつまんねえ〜」
脳味噌を食べ終えると口元にべったり付いた血を腕で拭いながら、退屈な表情を浮かべて天を見上げる。
今日だけでもう十人の人間を殺し、脳味噌を食らった。
それも鬼殺隊の脳味噌。
人間の肉の中でも、鬼殺隊の肉は鬼を殺すために鍛えらた身体と知識は鬼にとって栄養がある。
少なくとも、この鬼はそう思っていた。
しかし、今日殺した奴はどれもこれも大したことないただの雑魚だった。
鬼にとって、鬼殺隊は栄養があって自分を楽しませてくれる存在だ。
自分を殺しに来るから戦えるし、勝てばその血肉は食料になる。
どうせ戦えるなら強い相手が良い。
戦っても食べても力が付く。
そうすればもっと上の領域に辿り着ける。
「ったく、俺は強い奴と殺し合いたいんだよ……」
そう呟くと、鬼の発達した聴覚がこちらに向かってくる足音を捉えた。
「おいおい。今日は獲物が次々と沸いてくるから最高じゃねえかよ」
鬼は唇を舐めると、足音のする方へと顔を向ける。
左目に刻まれた下弐の文字が、姿を現した無地と亀甲柄の羽織を着た男を次の獲物として捉えた。
「せいぜい俺を楽しませてくれよな」
******
義勇が森を駆け抜け、少し開けた場所に出る。
目に映ったのは、頭部を潰された隊士と口元と手が血で濡れた鬼。
「次の獲物はお前か?」
鬼の言葉に義勇は最大限の警戒をした。
鬼の左目に刻まれた下弐という文字が、義勇の集中力を一気に高めたのだ。
下弐……その文字の意味を義勇は知っている。
鬼の中でも最強と謳われる一二体の鬼、十二鬼月の一体。
こいつは下弦の弐の地位にいる。
十二鬼月は通常の鬼をも遥かに凌ぐ能力を持っており、普通の隊士で戦ってもまともに太刀打ち出来るものではない。
「お前強いな? 対面しただけでも分かる。そこら辺に転がってる肉共より腕が立つな。もしかして柱か?」
鬼は何かを感じたのか問い掛けた。
「……俺は柱じゃない」
義勇は答えた。
「マジかよ。お前くらいの実力でも柱じゃないのか? まぁ良い。俺は砕っていうんだよ。死ぬまでの間覚えといてくれや」
次の瞬間、砕は義勇に接近して右手の拳を突き放つ。
それをしゃがんで躱し、刀を斬りあげて右手を斬り落とす。
そのまま身体を半転させて石突の頸を斬るために振り下ろす。
石突はその斬撃を右脚で蹴り上げ、刀と蹴撃がぶつかり合う。
「くっ‼︎」
「ちぃ‼︎」
激しい衝撃に義勇の身体は宙に浮いて後方へと押され、右脚を斬られながらも砕は左足一本で後方へと飛んで距離を取った。
義勇が着地して構え直した時には、砕の斬られた右手と右足の再生は終わっていた。
「やっぱ強え。柱でもない奴に傷を付けられるとは思ってなかった」
嬉しそうに呟き、砕は距離を詰め、義勇に右拳で突く。
首を傾けて躱した義勇は刀を振ろうとするが、既に左拳による突きが義勇の右頰へと放たれていた。
刀の軌道を変え、左拳を斬る。
右足で踏み込んで、懐に入り込んだ義勇。
一気に間合いを詰めた事で砕の右拳と脚による打撃を放つ余裕がない。
義勇の刀が頸を捉えた。
「っ⁉︎」
突然、義勇の足元が崩れた。
不安定になった地面に足を取られ、体勢を崩した義勇は左膝を着いてしまう。
その隙を砕は見逃さず、右脚で義勇の頰を蹴り飛ばした。
衝撃で地面に転がる義勇は途中でなんとか体勢を取り、両足に力を入れて勢いを殺す。
ずさぁと音と砂煙を立てて、止まる事が出来た義勇の額から血が流れる。
あの一瞬、首を捻り身体を吹き飛ばされる方へと飛んだ事で、蹴りの威力を殺し、ダメージを最小限に抑えた。
まともに受けて入れば、義勇の頭蓋骨は確実に粉々になっていただろう。
砕の立ってる場所の前、つまり義勇が立っていた場所は地面が強い衝撃を受けたのか凸凹に割れていた。
(あれが奴の血鬼術か……)
鬼の中でも多くの人を喰らい、一定以上の力を備えた鬼にのみ発現する異能の力。
個々に能力は違うが、全てが鬼殺隊にとって脅威となる。
おそらく、ヤツの血鬼術は地面を破壊させる能力だろう。
「ちっ、仕留め損ねたか」
———血鬼術 崩震礫
砕と義勇の間の地は割れ、破片となって義勇を襲う。
即座に反応した義勇は円を描くように砕を中心に走り出す。
動き回る事で、砕の血鬼術による攻撃を防ごうと考えたからだ。
「悪いが、その動きは読んでるぞ」
砕は地面を割る勢いで踏み込み、義勇との距離を縮めた。
あくまで砕は血鬼術は相手の動きを制限させる手段としか捉えてない。
己の武器は鬼狩りとの戦いで鍛え抜いて磨いた体術と、人間を喰らい力を蓄えた身体。
現に、今まで血鬼術だけで鬼狩りを殺した事はない。
使い方によっては、崩壊させた足場を利用して生き埋めにする事さえ可能だ。
しかし、砕は己が体術のみで鬼狩りを殺し、その脳味噌を、血肉を喰らった。
そうして下弦の弐という地位を築き上げた。
先回りして義勇の前に移動した砕は、拳を繰り出す。
義勇も応戦して、刀を振るう。
響き渡る金属と拳の衝突音。
砕の拳撃を弾けば義勇の斬撃も弾く。
斬撃で拳を斬り落とせば蹴撃が左腿を襲う。
お互いの頰を拳と刀が掠める。
お互いの息もつく暇もないほど、長い打撃と斬撃の応酬が目にも留まらぬ速さで繰り広げられる。
だが、この攻防にも終わりがくる。
鬼と違い、人間には体力の限界がある。
たとえどれだけ鍛えようが無尽蔵の体力を誇る鬼には到底敵わない。
加えて鬼は傷を負っても短時間で回復する。
人間の義勇は止血は出来ても、怪我を即座に治す事は出来ない。
一瞬、義勇の身体が揺らぐ。
砕はその瞬間を待ってたかのように義勇の脇腹に蹴りを放つ。
「ぐっ‼︎」
骨身を砕く強い衝撃に、義勇は吹き飛ばされる。
「…………」
刀の切っ先を地に刺し、杖代わりにしてなんとか立ち上がる。
こいつは今まで戦ってきた下弦の中では一番強い。
以前、別の任務で砕と同じ下弦の弐と戦った事がある。
確かにそいつも強かった。
しかし、それでも今目の前にいるこの砕という鬼の方が明らかに強い。
脇腹に激痛が走る。
内臓と骨が今の蹴りで持ってかれた感触がある。
その前に受けた左腿にも折れてるだろう。
そして頭部から流れる大量の血。
義勇はすでに激しい頭痛と目眩で意識に障害が出始めていた。
口から血を流し、深い傷を負いながらも義勇は刀を構える。
俺はまだ、戦える。
義勇の目はそう言っていた。
「やべぇ、お前強えよ。今ので骨と内臓を破壊したのにそれでも立ち上がってくるんだからよ。正直、ここまでやり合える奴なんざ俺は今まで遭遇した事ねえ」
砕は再び構えた。
「けどな。これで終わらせる!」
———血鬼術 崩震礫
周囲の地面が義勇と砕の立つ場所以外全て砕けた。
崩れた大地はまともな足場はなく、宙に飛ぶ破片は視界と移動を遮るのには充分だった。
(意識しろ。心は常に静かに。ヤツに辿り着く最短で最善の道筋を……)
ヒュゥゥゥゥ‼︎
呼吸音が口から漏れる。
そして、義勇は崩れた足場を強く蹴った。
———水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱
崩れる足場を着地時間、着地面積を最小に抑え、義勇は動き出す。
水の呼吸は水のように変幻自在の歩法によりどんな敵が相手でも対応出来る。
水流飛沫・乱は足場の悪いこの状況下に最も適した型。
沈む足場、宙に浮かぶ足場、崩れて不安定な足場を即座に移動していく。
最短で砕の元に辿り着く道を辿る。
「そうこなきゃ面白くねえ! 俺も全力でお前を殺す!」
歓喜の声を上げ、砕は立っていた場所から義勇に向かって地を蹴った。
正直、あの怪我で立っているのがやっとだと思っていた。
最後はあえて足場を破壊して義勇がその場で迎え撃つ体勢を整わせて打ち倒そうとした。
あの男の技量ならそれくらい可能だ。
しかし、砕の予想とは裏腹に義勇は自ら打って出た。
それが堪らなく砕の心を躍らせた。
(コイツは間違いなく俺を次の領域に進めてくれる! お前を殺して、その血肉を喰らって俺は上弦へと辿り着く!)
砕は拳を作らず、貫手の構えをする。
指先を伸ばした突きは、拳や普通の突きより力が一点に集中される為、殺傷力が高くなる。
向かってくる砕に対し、義勇は着地した足場に力を込める。
ヤツより強く、ヤツより早く、ヤツの頸を斬る為に。
(……終わらせる!)
義勇は力強く踏み込む。
両手を目の前で交差させて砕へと飛ぶ。
———水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
交差させた腕を勢いよく水平に振るう。
砕の貫手が義勇の心臓へ。
義勇の水の斬撃が砕の頸へ。
同時に放たれた。
お互いが空中ですれ違い、着地する。
ガクッと義勇は片膝を着く。
左肩が裂け、血が溢れ出す。
呼吸が乱れ、荒い息遣いをしていた。
「俺の……負け……かよ……」
上空から砕の声が聞こえた。
次の瞬間、義勇の後ろにドスンという音が聞こえた。
「クソ……もっと上の領域に辿り着けるはずだったのによ……お前みたいな奴と出会うとは……」
砕は頸だけの状態になっていた。
離れた胴体と頸が塵になって消え始めた。
「まあ……最後の相手にはお前のような強い奴が相手で良かったわ……」
「……俺は強くない」
「俺に勝っといて……強くないとかほざくな……」
砕は塵となって消えた。
義勇はふらつきながらも立ち上がった。
下弦の弐は討伐した。
しかし、この森にはまだ鬼が潜んでいる。
休んでいる暇はない。
重い足取りで義勇は森の奥へと進むのだった。
******
「重傷者はこっちへ! 手の空いてる方は治療の手伝いをお願いします!」
花柱、胡蝶カナエの声が蝶屋敷中へと響き渡る。
大規模な合同任務に参加し、負傷した多くの隊士が運ばれていた。
カナエは蝶屋敷の女主人として、隊士達の治療に当たっていた。
「カナエ様。こちらの患者の手当てが終わりました」
「ありがとうユリ。次はあちらの患者の手当てをお願い」
「分かりました」
ユリと呼ばれた少女はカナエの指示を聞き、次の患者の治療に入る。
カナエが蝶屋敷の女主人を任されて初めて多くの患者が搬送されてくる。
処置が遅れれば助かる命も助からない。
迅速にかつ的確な指示と処置を行っていく。
大方の患者の治療を終えたカナエはふぅ〜と一息ついた。
搬送されてきた重傷者は全員なんとか峠を越えた。
軽傷者も今は妹のしのぶとアオイが治療している。
そちらの応援に行って終わったら、何か美味しい茶請けのお菓子を出してあげようと考えていた。
「姉さん‼︎」
突然、しのぶが大声を上げてカナエのいる部屋に現れた。
その表情は明らかに焦っていた。
「どうしたのしのぶ?」
「今隠の人が重傷者を搬送してきの!」
妹の慌てた声に、ただ事ではないと察したカナエは急いで患者の元へと向かう。
「⁉︎」
カナエは重傷者を見て目を開いて言葉を失う。
搬送された隊士は詰襟の上から着ている羽織の上部は、頭部と左肩からの出血で元の色が分からないほど血に染まっていた。
「とにかくこちらの部屋へ! しのぶも手伝って!」
「わ、分かったわ!」
二人は即座に切り替えて、患者を部屋へと運び込む。
ベッドの上に乗せて羽織と隊服を脱がすと、二人はまた言葉を失った。
身体中に、切り傷や刺し傷、打撲傷や裂傷といった多くの傷があった。
それもちゃんとした治療がされた形跡はなく、雑に処置した状態だった。
一体どうすれば、こんな状態で任務が出来るのか不思議で仕方ない。
その姿に、しのぶは思わず固まってしまう。
もしかしたら助からないかもしれない。
そんな考えがしのぶの頭の中を過ぎった。
「しっかりしなさい! しのぶ!」
カナエの言葉にはっと我に返ったしのぶは、患者に声を掛けながら、治療に専念するのだった。
暗くて何もない景色の水面の上に一羽の紫蝶が舞い降りる……。
その波紋は広がり、全ての歯車を動かす……。
次はもっと早く投稿したいです。