幻想郷混沌録   作:109号区の王道

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第2話 「竹林の洗礼に悪魔の制裁」

「そういえば人修羅さんって」

「どうした?」

 

 永遠亭とやらに向かって鈴仙の案内で竹林を移動してから数分。鈴仙は唐突に人修羅の方に向き直って、問いかけた。

 

「まぁ、その模様とか、どうみても人間じゃないんですけど、どんな妖怪なんですか? それとも神様だったり?」

 

 そう言われて、人修羅は、改めて自分の身体を見てみる。そこには黒に緑の縁がついたような模様が縦横無尽についている。思えば落とされてすぐのことで人間に擬態する暇もなかった。後頭部に手をやると、明らかに人間にはない角のような突起に触れる。模様だけならタトゥーと言い張れなくも無いが、これは言い訳できない。

 何の効果もない謎の器官なのに何故あるのだろうか。この身体にした張本人も分からないと言っていたので、もうどうしようもないが。

 

「いや、俺は悪魔の類だ。どっちにしても人外には変わりないが」

「悪魔……あの、失礼かもしれないですけど、服は……?」

「……この世界に来たら無くなっていた」

 

 本当は仲魔にも全く指摘されないし、自分でもめんどくさかったので放置していただけだったのだが、丁度いい言い訳もさっき出来たばっかりだったので、そういうことにしておく。

 

「そういうこともあるんですね……悪魔でもやっぱり服は着るんですね」

「というと?」

「妖怪や妖精が多いので悪魔の方は少し珍しい、と言いますか。いるところにはいるんですけどね。だからもしかしたら服を着ない悪魔の人もいるのかなー……なんて」

「そういうもんなのか……? どんな人外がこの世界にいるんだ?」

 

 悪魔が珍しいなら、しばらくしたら余計な混乱を避けるためにも擬態しておいた方がいいのだろうか、と思いつつ引き続き質問する。

 

「そうですね……吸血鬼や天狗とか。地底には鬼とかもいますし、妖怪じゃなくても天人とか魔法使いとか……あの月にも人がいたり、人間だけど普通じゃないっていうのも多いです。天界や魔界とかにも繋がっていますしね」

「どうも混沌としてるな。それに加えて神までいるのか」

 

 幻想郷。人修羅は未だにその全貌を全く見据えられないが、なんとも特殊過ぎる世界らしい。恐らく鈴仙も兎の妖怪というものなのだろう。普通、世界同士が繋がるなどというのは例外中の例外なはずだが、鈴仙の様子からして、この世界ではそれが普通。人外が溢れているのも普通、ということなんだろう。それに月に人がいるというのも大分特殊だ。人修羅はまだまだ知らない世界があることをハプニングにより落とされた世界で痛感させられていた。

 

「幻想郷というのは表の世界で忘れられた者たちの集う世界なんです。忘れられた妖や非常識が自然と集まってくる……そんなところなので」

「表の世界……というのは?」

「何も知らない人間が住んでいる地球とその宇宙のことです。社会を築き、都市を築き、日常を過ごす……まぁ、私は逆に表の世界のことはそんなに知らないので、聞いた話ですけれど」

 

 誤魔化すように笑う鈴仙をよそに、人修羅は聞いた話について思考する。つまり幻想郷における表の世界とは、恐らく人修羅が人間だった頃に過ごしたような文明的で現代的な世界のことを指すのだろう。そこで風化していった非科学的なものが、この世界に集まってきている、ということなら、確かに人外やら世界が乱雑に存在するというのも有り得るのだろう。

 だが、そんな世界が何の統制も無しに維持できるものなのだろうか……聞けば聞くほど、この世界の謎は深まっていく。

 

「はは、よく分かりませんよね。こういうのはお師匠様に聞くのがいいですよ。話は難しいですけど、私よりも幻想郷については詳しいはずです」

「その師匠っていうのは永遠亭に?」

「えぇ。師匠……永琳様はこの先の永遠亭で薬師をやっているんです。私はその弟子……結構こき使われてる感じはしますけどね」

 

 また誤魔化すように苦笑いする鈴仙。なんだか傍目から見ても、苦労してるんじゃないかと推察できる。なんというか妙に人間臭い妖怪だな、とも。

 その時、丁度後方の茂みから物音がする。微かに首を動かしてみてみれば、何か小柄な生き物がついてきている―――大きなウサ耳を茂みからこれ見よがしに出しながら。

 

「……鈴仙。あれはなんだ?」

「え? ……あ、てゐでしょ!? 何やってるの!?」

「知り合いか」

「この竹林の主……です、一応。ちょっと待っててくださいね、引っ掴んで何企んでるか白状させてきますから」

「ちょっと初手から物騒過ぎないか?」

 

 相手がどんな性格しているのかとか全く知らないが、見つけた途端その敵意の剥き出しようは流石にないんじゃないかと思いながら、肩を怒らせてゐと呼んだウサ耳にずかずかと近づいていく鈴仙。

 

「え……?」

「は?」

 

 次の瞬間、地面にめり込む鈴仙の足。そのままバランスを崩して下へ下がっていく身体。それも重力に従って。なんか嫌な既視感のあるその光景に人修羅は数秒後、その現場を覗かざるを得なかった。

 

「きゃあぁぁぁぁ―――――――!?」

「嘘だろ、おい、鈴仙!?」

 

 見れば5m程の深さの落とし穴に見事に腰からハマっている鈴仙の姿が。怪我はどうやらしてないようだが、土塗れでさっきまでの美少女の面影は完全に隠れてしまっていた。文字通り泥兎だった。

 

「ふふふ、鈴仙はすーぐ引っ掛かるんだから、楽ってもんよね、誘導とか」

「なんですって、てゐ! 今すぐ引き上げなさいよ!」

「するわけないでしょ! 自力で這い上がってくんのよ!」

「……いや、いつの間にそっち移動してたんだよ」

 

 見れば、人修羅たちが向かおうとしていた方向の方に一人の少女が立っている。さっきまでいたはずの場所と人修羅たちから見て、ほぼほぼ反対側の方にだ。

 その姿は桃色の半袖ワンピースを着た、子供だ。人修羅にはその姿が10代以下にすら見える程の。

 人修羅が兎二人の会話に割って入ると、てゐはすぐに性格の悪そうな薄ら笑いを浮かべて、人修羅の眼を見てくる。正直、この時点で嫌な予感しかしない。

 

「いやー、鈴仙がなんだか変な奴連れてるもんだから、気になっちゃってねー」

「変な奴って俺のことか」

「そ。あんたもこの竹林に入ったからには、私の標的。さて、あんたは鈴仙よりできる奴なのかしら?」

「いや入ったも何も事故的だから、今回は見逃して欲し―――」

「問答無用!」

 

 めんどくさく思いながら、どうにか何事もなく通れるように話そうと思った瞬間に、てゐがそこらへんにいたカエルを投げつけてくる。しかもどう見ても毒ガエルみたいな見た目のおぞましいカエルを。

 

「こいつ……」

 

 子供の悪戯にしても度を過ぎている。というかこいつは子供じゃない―――今の悪意満々の一撃でそれを理解する。

 カエルを半身を逸らして躱すと同時に、てゐに向かって突っ込んでいく。人修羅にしてみたら一歩で消し飛ばせる距離だ。すぐに人修羅の手がてゐに―――

 

「あ、そんな素直に向かってきちゃうんだ」

「? なんか二度目のデジャ―――」

 

 届かない。何故か途中で足元の感覚が消え去った。そして下がっていく視界、感じる重力。もしかしなくてもこれは―――理解すると同時に身体に伝わる衝撃。正直何ともない衝撃だが、なんというか自分に残ったなけなしのプライドが傷ついたような心の痛みがある。そしてどうやら、自分は落とし穴系の罠が苦手だということも。

 

「い、いてぇ……」

「あーあ、あんたも引っ掛かっちゃうかぁ。ま、今回はこのままトンズラさせ―――」

「それだけはさせるか……!」

 

 流石にこのまま情けない姿だけ見せて逃げられるわけにはいかない。穴の中ですぐに起き上がって、跳びあがる。穴からの脱出ではなく、穴の縁に手をかけるために。

 

「え?」

「ちょっとお前もこっち来てもらおうか」

 

 てゐが踵を返そうとした時、地面から割れるような音が響く。その後、地面が動いて擦れるような音がてゐの真下から。何が起こっているのか分からないが、冷や汗だけは全然止まらない。

 

「え、え、嘘でしょ!?」

「とにかく……お前の性根だけは叩き直さんといかんようだ」

 

 縁にかけた手から地に入る亀裂が、瞬く間にてゐを取り囲む。瞬間、人修羅は乗っているてゐごと割った岩盤を持ち上げていた。遠隔で持ち上げられたてゐと人修羅の眼が合う。そしてもともと金色の人修羅の眼が紫色へと発光していく。

 

「俺と眼が合ったなら―――」

「ぴっ!?」

「―――カエルの気持ちが味わえる。蛇と相対した、な」

 

『イービルアイ』

 

 人修羅が持つ邪眼。凝縮された呪いの力が目を合わせたてゐの精神と肉体を蝕んでいく。そして、その感覚に耐え切れず、てゐは程なくして意識を静かに閉じた。

 そのまま持ち上げた岩盤を滑り落ちていきそうだったので、すぐに岩盤を戻して、落とし穴を這い上がってくる。すると、丁度同じように鈴仙が這い上がってくるところだった。

 

「捕まえたぞ」

「え? いや、捕まえたっていうか、さっきの凄い音は!?」

「岩盤を持ち上げて、足元をふらつかせた」

「え?えぇ……っていうか、てゐ気絶してません!?」

「邪眼で睨んだからな……まぁ、手加減はしてある。本来は問答無用で瀕死にまで追い込むような代物だが、数分で目を覚ます」

「邪眼……邪眼が能力の悪魔、っていうことですか……?」

「イービルアイは(スキル)の一つに過ぎん。他にも色々使えるが……機会があったらな」

「その機会は無い方がいい気がしますね……」

 

 終始、驚愕したような視線を向けてくる鈴仙。当然だろう、相手を問答無用で瀕死に追い込む邪眼というだけでも幻想郷内で十分やっていけるような能力なのに、それをさらっと技の一つと言い切ってしまっているのだから。もし、邪眼以上の技があったらと思うと、ゾッとする。

 人修羅の方も方で、やり過ぎたかと思う所はあったが、まだ完全に引かれては無いようなので、安心していた。

 

「それじゃあ、引き続き永遠亭に戻りましょうか?」

「あぁ、そうし―――」

 

 そして人修羅が言い終わらない内にまた鳴り響く轟音。それもそんなに遠くじゃないことが見なくても分かる―――分かるが、とにかく見てみると、そこでは竹林の中なのに天を衝くような爆炎柱が突然吹き上げていた。

 

「あ、あぁ……何やってるの、妹紅!?」

 

 またパニくって炎の元に叫び向かう鈴仙と爆炎を交互に見て―――

 

「……思った以上に混沌としてるな、この世界」

 

 ―――思わず人修羅は独り言ちていたのだった。

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