黒翼の魔王   作:リョウ77

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再会はどこでするかわからない

 ステラとエレンが朝の鍛錬に参加してから3日目。2人もようやく本格的に形になってきた。

 

「さすがだな。まさか、2度目の長距離走で俺と同じペースでついてくるとはな」

「はぁ、はぁ、は、はい。これくらいは・・・」

 

 エレンの方は、昨日の時点から自分のペースを守るようにという真からの言いつけがあったが、2回目の長距離走ではそれなりに消耗したものの、ほとんど真と同じペースで走破することができた。

 だが、エレンからすれば太い足場でないと走れないため、真と比べればまだまだだと考えていた。

 そして、

 

「はぁー!はぁー!ご、ゴール・・・!」

「お疲れ様」

 

 初日では盛大に倒れ、2日目でも吐いてしまったステラは、一輝よりも大幅に遅れたものの、ちゃんと一輝に追いついてゴールした。

 ステラが魔力の才能におぼれず、己を鍛錬し続けてきたことがわかる。

 とはいえ、消耗度合いで言えばエレンの比ではない。

 ステラが息を整えるのを待ってから、一輝は先ほどまで自身が飲んでいたスポーツドリンクを水筒のコップに注いでステラに渡す。

 

「はい。スポーツドリンク」

「え・・・」

 

 だが、ステラは戸惑いを見せた。

 

「それ・・・間接キス・・・」

「どうしたの?・・・あ、ごめん、ステラ。男が口を付けたコップを使うなんて嫌だよね」

「べっ、別にイヤなんて一言も言ってないでしょ!むしろ・・・その逆っていうか・・・」

「ぎゃく?」

「ななな、なんでもないわよ!いいから、それ寄越しなさい!」

 

 顔を疲労とは違う理由で紅潮させながら、ステラは若干キレ気味の口調でコップを奪い取って飲み干した。

 

(わかりやすいですね)

(だな。なのに、信じれるか?一輝は欠片も気づいてないんだぜ?)

 

 お前が言うなと言いたいエレンだが、ここではその言葉を飲み込み、一輝の方を見る。

 一輝の方は、なぜか申し訳なさを覚えているような表情だ。

 一輝と言い、真と言い、鍛錬に青春をつぎ込んだ男とは、どうしてこうも鈍感と言うか、感情の機微に疎いのか。

 そんな哲学じみたことを考えているエレンだったが、そこで一輝が始業式の看板に目を向けていることがわかった。

 

「ようやく、始業式か・・・」

 

 2人、特に一輝にとって、今年からは不当に奪われたチャンスを掴む機会でもある。いろいろと思うところがあるのだろう。

 だが、ステラは違うところに気付いた。

 

「なんだか楽しそうね、イッキ」

「そう見える?実は会いたい人がいてさ」

「もしかして、例の妹さんか?」

「うん、そう」

「妹さん?・・・そう言えば、決闘の時、妹がどうとか言ってたわね」

「そうだったのか?」

「うん。その妹が、どうやら新入生として入ってくるらしいんだ」

 

 一輝が言うには、4年前に実家を飛び出して以来、会うことも連絡をとることもなかったようだ。

 敵だらけの一輝の親族の中で、唯一一輝から距離をとらずに接してきた、銀髪ツインテールの女の子らしい。泣き虫で、恥ずかしがり屋で、甘えん坊な性格で、なおかつ伐刀者としての才能にあふれているらしい。

 この4年の間に、どれほど成長したのか。それが楽しみで仕方ないらしい。

 そして、この話を聞いてエレンもふと気になることを尋ねた。

 

「そう言えば、シンには兄弟はいないのですか?」

「いるぞ?兄貴と双子の妹」

「お兄さんはともかく、双子だったんですか」

「あぁ。まぁ、俺と違って武曲学園に通っているけどな」

「そうなんですか?」

「最近、武曲は七星剣武祭で成績トップを維持してるから、そこで自分磨きをするんだと。なにせ、去年の七星剣王は武曲から出たしな」

「なるほど・・・ちなみに、どういう性格なんですか?」

「あ~、それは・・・」

 

 エレンの何気ない問い掛けに、真は非常に微妙な表情を浮かべ、

 

「・・・生粋の問題児と言うか、破天荒と言うか・・・」

「シンがそれを言いますか?」

「いや、それはそうなんだが、まぁ、俺からしてもいろいろと問題があるってことだ」

 

 教師陣からの妨害があったとはいえ、自分から授業をさぼった真からでさえ“問題児”と言わしめる、双子の妹。

 真の表情から、なんとなく聞かない方がいいと察したエレンは話題を変えた。

 

「そ、それで、お兄さんはどういう人なんですか?」

「俺よりも7こ上で、騎士学園で教師をしてる。こっちも、今の所属は武曲だけどな。主に、妹の面倒を見るために。性格は、絵に描いたような真面目人間で、超強い」

「超強い、って・・・どれくらいですか?」

「そうだな・・・能力の関係上、あまり長い間は戦えないが、たぶん理事長先生クラスとタメを張るくらい」

「え!?」

 

 真の身内に、世界ランキングのトップ3に入るほどの実力者がいる。

 その事実に驚愕しながらも、エレンはあることに気付いた。

 

「あれ?ですが、A級リーグにキサラギの名前はありませんよ?」

「そりゃそうだろ。兄貴、リーグ登録してないから」

「そうなんですか?」

「あぁ。『魔導騎士の本分は国と民の防衛。見世物になるつもりはさらさらない』ってね。んで、最初のころは俺に魔力制御とか教えてくれてて、その時の経験を踏まえて教師になったそうだ」

「なるほど・・・たしかに、真面目ですね」

 

 魔導騎士になったら、リーグ登録をすることがほとんどだ。大会で活躍すれば賞金も貰えるため、軍に所属しつつリーグ戦を行うという魔導騎士が圧倒的に多い。

 そのため、真の兄のような考え方の人間はかなり少ないと言える。

 

「当然、学園の教師から猛反発されたそうだが、最終的に教師の方から折れたらしい」

 

 ちょうどその時、真は武者修行の最中だったため詳しいことはわからないが、そこそこ大きな問題になったそうだ。

 結果として、真の兄はとくに反発していた教師5人を模擬戦でまとめて黙らせたことで意見を通したという。

 

「なんというか・・・真面目は真面目でも、結局トラブルを起こすんですね」

「あぁ。真面目とは言ったが、周りからすれば、あくまでよく言えばの話だ。逆に、悪く言えば頑固だって捉え方もできる。まっ、俺はそういう兄貴を見て育った部分もあるけどな」

 

 どうやら、真の反逆したがりは兄の影響らしい。

 

「とはいえ、どっちも武曲所属だから、会うことはないだろう。だから、そこまで気にする必要はない」

 

 この時の真は、本気でそう思っていた。

 だが、気づいていなかった。その考えが、とてつもなく甘かったということに。

 

 

* * *

 

 

 始業式も終わり、真たちはそれぞれの教室に向かった。

 残念ながら、全員同じ教室というわけにはいかず、一輝とステラは一組に、真とエレンは四組になった。

 ステラの近衛であるエレンは、このことに若干の不満があったが、理事長が外賓だからと優遇するつもりはないと言っており、エレンもそれに頷いた以上、どうすることもできない。

 そもそも、近衛と言ってもステラに護衛が必要なのかと言われればそうだと言い切ることもできないため、そのことについてとやかく言うつもりはなかった。

 

「そういえば、担任は誰なんでしょうか」

「どうだろうな。少なくとも、去年の俺の担任はリストラされたから、俺の知らん先生の可能性が高い」

 

 ここでも縁があるのか、隣同士になった真とエレンがそんなことを話す。

 ちなみに、ここで真が言ったリストラの対象は前理事長派の教師のことで、半分近くがリストラの対象になった。

 そのため、その抜けた穴を埋めるために様々なところから教師を集めているという話もあった。

 

「まぁ、誰が担任でも変わらないような気はするが・・・」

 

 真がそんなことを言った直後、ガラガラと音を立ててスーツを纏った黒髪の男性が入ってきた。おそらく、この教室の担任だろう。

 少しいかついながらも凛々しい顔立ちのため、女子はすでにテンションが上がり気味になっている。

 

「あの人が担任みたいですね・・・って、シン?」

 

 そんな中、真だけがその教師の姿を見て固まっていた。心なしか、冷や汗もかいている。

 

「えっと、シン?」

「悪い、エレン。ちょっと急用ができた」

 

 困惑するエレンには目もくれず、真はさっさと席を立った。

 次の瞬間、

 

「ちょっと待て」

「ぐえ!?」

 

 まるでカエルのような声をあげながら、真の体が宙に浮き始めた。

 突然のことに教室内は騒然となるが、お構いなしに真は叫んだ。

 

「ちょっ、このっ!さっさと離しやがれ、()()!!」

 

 “兄貴”という真の言葉に、クラスの全員がバッ!と教師の方を向いた。

 

「離すかどうかは、貴様の言い分を聞いてからにしよう」

 

 対する担任は、我関せずと言わんばかりに真にのみ意識を向ける。

 

「いや、ちょいとトイレに行こうと・・・」

「嘘だな。そのまま帰るつもりだっただろう」

「うっせーよ!っていうか、なんで兄貴がここにいるんだよ!」

「理事長から呼ばれたのだ。今の破軍が人手不足なのは貴様も知っているだろう。それと、学校では先生と呼べ。あと敬語も使うんだ」

「んなもん知るかイダダダダダダッ!!ちょっ、潰れる!それ以上はまじで潰れるって!こんなん横暴だ!能力の無駄遣いだ!」

「だったら、早く態度を改めろ」

「痛い痛い痛いって!わかった!わかりました、先生!」

 

 ようやく真がそう言うと、ようやく不可視の力が解かれたのか、真の体が床に落ちた。

 

「いつつ・・・くっそ、思い切り潰してきやがって・・・」

「えっと、シン、この人が、例の・・・」

「あぁ・・・俺の兄貴だ」

「そういうことだ。俺の名前は如月(まさし)という。愚弟が世話になる」

 

 仁の自己紹介に、教室内は呆気にとられるが、なんとか立て直した真が代わりに尋ねた。

 

「それで・・・なんで兄貴がここにいるんだ?」

「だから、先生と呼べと・・・いや、もういいか。さっきも言ったが、現理事長が前理事長とその派閥の教師を大量リストラしたからな。穴埋めの形で俺が呼ばれたわけだ」

「いや、それはわかったけどさ・・・愛華(あいか)は大丈夫なのか?」

 

 また新しく出てきた名前に、クラスメイトの頭上には?マークが乱立しているが、それには気を配らず仁は苦渋の表情を浮かべた。

 

「大丈夫なはずだ」

「いやぜってぇー大丈夫じゃないやつだろ。なんでこっち優先したんだよ」

「お前が授業をさぼって留年と聞かされなければ、ここには来なかったんだがな」

「ごもっともで・・・」

 

 つまり、真を力づくで言うことを聞かせるために抜擢された、ということだ。

 当然、仁も詳しい事情は把握しているが、それとこれとは話が別だ。

 

「幸い、あちらには学生にも優秀な人材がいる。その者たちに愛華の制御を頼んできた」

「教師が生徒に生徒の面倒を見させるとか、完全に終わってんな・・・」

「あの・・・そろそろ授業を進んでもらってもいいですか?」

 

 ここでようやく、ある程度我を取り戻したエレンが、おずおずと手を挙げながら発言した。

 仁も、エレンの発言にハッとして取り直した。

 

「おっと、そうだったな。とはいえ、初日の今日は授業はない。必須の連絡事項が1つあるだけだ。皆、学生証を出してくれ」

 

 仁に言われて、全員が液晶端末の生徒手帳を取り出す。

 

「まず、始業式でも理事長がおっしゃっていたが、今年から破軍学園は七星剣武祭の選抜から『能力値選別』を徹底的に廃止し、『全校生徒参加の実戦選抜』で行うことになった。全校生徒で選抜戦を行い、その中から上位6名を選手として選抜する。試合の日程は生徒手帳に『選抜戦実行委員会』からメールで届く。それを確認して、指定の日時、指定の場所に来るように。来なかった場合は不戦敗として扱われるから、そのつもりで」

「質問」

 

 ここで、真が挙手をした。

 

「何だ?」

「具体的な日程と試合数、成績への影響は?」

「良い質問だが、悪いが試合数と日程はまだ詳しくは言えない。だが、選抜戦は1人最低でも10戦は行うことになり、3日に1回は必ず試合があると思ってくれ」

 

 3日に1回の試合数に周りでは「そんなに?」「遊べねーじゃん」といった声があがるが、少なくとも一輝が大きなハンデを負うことはなさそうだと真は安堵した。

 

「成績についてだが、選抜戦には罰則や成績への影響はほとんどない。参加しなかったからといって罰則を受けることも成績で減点されることもないし、仮に選抜戦で勝ったとしても気休め程度しかボーナスは入らない。だから、選抜戦には興味ない、または出たくないという者は実行委員会に不参加の旨を記して返信してくれ。選抜戦直前でも不参加の変更は可能だ。一度不参加の意思を表明すれば、その後は自動的に選抜戦の抽選から弾かれてしまうから、参加する場合は注意するように」

 

 そこで、仁は「だが」と言葉を切って続けた。

 

「本来、限られたものにしか与えられない七星剣武祭への出場権を、全員に平等にチャンスを与えられるというのは、またとない機会だ。もし少しでも高みへ行こうという気概があるのであれば、参加することを薦める。ここでの経験は、決して無駄にならないからな」

 

 仁のその言葉に、何人かが胸を打たれたようで、決意のこもった眼差しが生まれた。

 

「では、これで今日のホームルームは終わりだ。各自、好きに過ごすように」

 

 仁がそう締めると、一斉に生徒たちが立ち上がって教室から出たり談笑を始めた。

 その中、真はエレンと共に仁の元に向かった。

 

「は~。こっちに来るなら連絡してくれよ、兄貴。マジでビビったんだが」

「兄弟とはいえ、そうやすやすと教師の配属先を事前に教えるものか。むしろ、真こそ予想できなかったのか?」

「教師を引き込むって話は聞いてたけどな、愛華のストッパーだった兄貴がこっちに来るなんて考えないだろ」

「それもそうだがな。だが、向こうには現七星剣王がいる。実力で言えば愛華は一歩劣るのだから、問題ないと判断したまでだ」

「いーや、俺は甘いと思うね。あいつ、人様の裏をかくのはやたらと上手いから、絶対に何度か出し抜かれる。賭けてもいい」

「では、もし愛華が問題を起こしたら、その時は貴様に寿司をおごってやろう。回らないやつだ」

「お?マジで?言ったな?約束だぞ?」

「あの~、ちょっといいですか?」

 

 完全に2人の世界に入ってしまったことで蚊帳の外になっていたエレンが、おずおずと会話に入りこんだ。

 

「む?彼女があのエレン・アンリネットか?」

「そう。ついでに言えば、俺のルームメイト」

「なにっ!?いや、そういえば理事長からも男女同室の話はあったか。だが、まさかお前がな・・・」

「そう言うな。あと、俺がガキの時に話した指輪の女の子だったよ」

「ほう?なるほど、そうだったのか」

 

 真がエレンを紹介すると、仁は頭から足元までじろじろと観察する。

 そして、最後にジッとエレンの顔を見て、

 

「ふむ。なかなか良い女性だな。愚弟のことを、よろしく頼む」

「い、いえ、私もお世話になっている身なので・・・それよりも、先ほどから出ているアイカと言うのは、シンの双子の妹さんのことですか?」

「なんだ、聞いてたのか」

「はい。お兄さんと双子の妹がいること。お兄さんは真面目で、妹さんは問題児だと」

 

 軽く説明したエレンに、仁は真に呆れた視線を向ける。

 

「貴様、自分のことを差し置いて愛華のことを問題児と言ったのか」

「いや、事実じゃん。なんだったら、俺より質悪くない?」

「まぁ、それもそうだが」

 

 真と仁の会話に、いよいよエレンは頭が痛くなってくる。

 

「授業をさぼって留年した真よりも問題があるって・・・何をしたんですか?」

「あ~、そうだな・・・まぁ、いつかは会うことになるだろうから、その時に説明する」

「できれば、そうならないことを祈りたいがな」

 

 どうやら、この場での回答はためらわれるらしい。

 さらに嫌な予感が膨らむエレンだったが、2人が話さないというなら無理に聞き出すこともないだろう。

 

「そんじゃ、俺たちは一輝たちのところに行くから」

「いや、待て。俺も行こう。その一輝という少年には興味がある」

 

 その場から去ろうとした真を呼び止めて、仁は同行すると言い出した。

 

「そうなんですか?」

「あぁ。かの“紅蓮の皇女”を倒したこともそうだが、どうして彼が入学できたのかも聞きたいしな」

「ちょっと・・・!」

 

 あまりに不躾な言い方にエレンは突っかかろうとするが、兄弟である分、仁の胸の内を正確に理解した真がなだめた。

 

「落ち着け。別に兄貴はそういうつもりで言ったわけじゃないから」

「本当ですか?」

「あぁ。兄貴が言いたいのは、『Eランクの上が合格ラインの破軍に、Fランクの一輝がどうやって合格したのか』ってことだ」

「言われてみれば・・・」

 

 本来であれば、一輝は門前払いとまでは言わなくても、面接をしたところで最初から合格できるラインに達していない。それなのに、一輝は破軍に在学している。

 その秘密が気になる仁に、真が説明する。

 

「なんか、面接の時にCランクの教員に決闘を申し込んで勝ったんだってさ」

「ふむ、そうなのか」

「え!?」

 

 真の説明に仁は納得の表情を見せたが、エレンの表情は驚愕に染まった。

 教師相手に決闘を申し込んで勝ったのもそうだが、それを受け入れた教員も教員だ。

 普通なら、冗談として受け流されるか、あるいはその場で不合格を言い渡されても不思議ではない。

 とはいえ、面接では『自由に自分をアピールする』だけであり、『教員と決闘してはいけない』という決まりはない。普通では絶対に合格できない一輝と、魔導騎士という職業が戦闘職であるという事実からも、前代未聞とはいえ理にかなっている。

 そして、それを有言実行してみせた一輝に、仁はさらに強い関心を持った。

 ちなみに、真は普通に加速の能力を見せるだけのつもりだったが、一輝とその教員の決闘の際に生じた魔力の正確な感知で合格を言い渡された。

 

「聞けば、理事長もハンデ戦とはいえ敗北したと言っていたな。せっかくだ。俺も模擬戦を申し込んでみようか」

「ほどほどにな・・・」

 

 血の気の多さを見せつける仁に真は呆れるが、エレンはたしかにこの2人が兄弟であると確信した。

 そのとき、

 

ドカァーーーン!!

 

 激しい爆発音と衝撃波が、一輝たちがいるはずの1組の教室から鳴り響いた。

 

「なっ、なんだ!?」

「さ、さぁ・・・」

 

 真とエレンは突然の事態に困惑するが、仁はすぐに気を取り直して近くにいる生徒から事情を聴いた。

 

「何が起こった?」

「そ、それが、首席のステラ・ヴァーミリオンさんと三席の黒鉄珠雫(しずく)さんが固有霊装(デバイス)を出して喧嘩を・・・」

「教室を木端微塵に吹き飛ばす喧嘩か。シャレになんねぇな」

「まったく、ステラ様はいったい何を・・・」

「それが・・・」

 

 さらに詳しいことには、一輝の妹であるという珠雫が出合い頭に一輝にディープキスを敢行したこと、それに混乱したステラが一輝は自分のご主人様であると宣言したこと、それを発端に悪口からの盛大な喧嘩が勃発した、ということだった。

 

「ステラ・・・」

「ステラ様・・・」

 

 2人は思わず頭を抱えた。

 いや、2人もステラだけに問題があるとは思っていない。というか、兄妹でディープキスを敢行したことの方がよっぽど問題だ。

 とはいえ、まさか教室を木端微塵にするほどの喧嘩にまで発展するとは・・・。

 

「・・・とりあえず、どうする?俺も止めるの手伝おうか?」

「いや、いい。これは教師の仕事だ」

 

 それだけ言って、仁は歩いて教室に向かって中の様子を確認した。

 中では、ステラと珠雫が周囲の様子などまったく目に入らない様子で炎と氷の伐刀絶技を放っている。

 

「う~わ・・・マジでやり合ってんじゃん」

「どっちも本気ですね・・・」

 

 正直なところ、この横槍はかなりめんどくさい。新入生はもちろんだが、並の教師でも歯が立たないだろう。

 だが幸い、ここに2人をまとめて鎮圧できる人物がいた。

 

「小競り合いはその辺にしてもらおうか・・・“銀刹(ぎんせつ)”」

 

 仁の詠唱と共に、その手に銀色の両刃の長剣を握り、地面に突き立てる。

 

「“縛羅(ばくら)”」

 

 次の瞬間、ステラと珠雫の動きはおろか、ステラからまき散らされる炎や珠雫の周囲に浮かんでいる氷塊がまるで時間が止まったかのように制止した。

 

「えっ、な、何よこれ!?」

「体も、氷も、まったく動かせない・・・!?」

 

 だが、実際に時間が止められているわけではないようで、ステラと珠雫も困惑の声を挙げる。

 

「シン、マサシの能力は・・・」

「空間操作。いわば、理事長先生の時間操作と対になる能力だ」

 

 世界の空間そのものに干渉することができる能力。

 その能力もさることながら、ステラの圧倒的な膂力を完封できるほどの出力もある。

 真の『世界のトップ3に匹敵する』という評価も納得がいった。

 たしかに、強大な力の持ち主であるようだ。

 

「一応、細かい範囲の指定が難しいのと常に広い効果範囲で魔力の消耗が激しいっていう欠点はあるが、兄貴と同じく空間に直接作用する技がない限り、兄貴の伐刀絶技(ノウブルアーツ)は防ぐこともできず、守りを抜くこともできない。まさしく、最強の一角だ」

 

 真の解説に、エレンは畏怖と尊敬の念を覚えた。

 だが、問題の当事者である2人はそれどころではなくて、

 

「入学初日からいい度胸だ。貴様ら、覚悟しろよ?」

 

 仁の凄みのある声と顔に、ステラと珠雫は体も動かせず、怯えることしかできなかった。




毎年のように発令される特別警報。
毎年来る10年に1度の災害とか、もはやわけがわからない。
新型コロナといい地震大雨その他諸々の災害と言い、最近は世界が人間を殺しにかかっているような気さえします。
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