黒翼の魔王   作:リョウ77

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来てほしくなくてもやってくる

 仁によって迅速に収束したものの、当然首席と三席が喧嘩で教室を木端微塵にした一件は問題になった。

 教員の協議の結果、ステラと珠雫は1週間の自宅謹慎、要するに停学を言い渡された。

 当然、これは大きな話題になり、一輝のクラスメイトの新聞部である日下部加々美(くさかべかがみ)という女子生徒が速攻で記事を作って全校生徒に知れ渡ることとなった。

 もちろん、一輝も盛大にため息を吐いていたが、記事のことに関してはむしろホッとしていると語っていた。

 曰く、この事件がなければ一輝とステラの主従関係のことについていろいろなことを書かれそうだったとのことだった。

 たしかに、当事者以外の人間が聞けば勘違いしか生まないのだから、それが没になったのは一輝としてもありがたかっただろう。

 それでも、付き人であるエレンの心労は計り知れないのに変わりはないが。

 

「はぁ・・・」

「それ、もう何度目のため息だ?」

 

 午前中の授業が終わり、これから食堂に向かおうというタイミングで、エレンはため息を漏らす。最初は面白半分でため息の回数をカウントしていた真も、50を超えたあたりで数えるのをやめた。

 

「ショッキングなのはわからなくもないが、さすがにやめた方がいいんじゃないのか?ぶっちゃけ、聞いてるこっちも気が滅入る」

「それはそうなんですが・・・ステラ様も明日で謹慎が解けます。ですが、初日でこの様子だと、復帰してからも問題を起こさないか心配で・・・」

「いや、それは俺も似たり寄ったりではあるが・・・さすがに、停学処分を受けておいて、また問題を起こすなんてことはないと思うぞ?ステラも、相手の方も」

 

 同じく停学処分を受けていた珠雫も、一輝にドン引きされかねないという側面からも一輝を性的に襲うようなことはしないはずだ。

 それでも、小競り合いを起こす可能性は高いが、別クラスの真やエレンが考えたところで仕方のないことでもある。

 

「ともかく、先で起こるかもしれないあれこれは当人たちに任せるしかないだろ」

「・・・それもそうですね。私も、覚悟を決めなければ」

 

 真に諭され、ようやくエレンもうじうじ悩むのをやめた。

 

「ですので、今夜は一緒に寝ても?」

「お前、こういう時ちゃっかりしてるよな」

 

 ついでに、同衾の要求もした。

 ちなみに、真とエレンはすでに同じベッドで寝ている。

 それも、結局ほぼ毎日。

 明らかに取り決めを破っているが、エレンの言い分は次の通りだ。

 

「私があの時決めた2,3日に1回の添い寝は一晩中のもので、朝にシンの寝顔を見るための添い寝は私は起きているのでノーカウントです」

 

 どう考えても屁理屈もいいところだが、何度注意しても止めなかったため真も注意するのをやめてされるがままになっている。

 今となっては、二日連続で一緒に寝ることもあるほどだ。

 着々と内堀を埋められている真だが、本人はそのことにあまり気づいていない。

 というより、気づく余裕がない、というべきか。

 

「まぁ、それは帰ってから決めるとして、今日は何を食べる?」

「そうですね・・・せっかくですし、定食ものを選んでみますか」

 

 とりあえず目先の問題は解決した(先送りとも言う)2人は、軽い足取りで食堂に向かう。

 そのとき、真が足を止めて、いきなり周囲を見渡し始めた。

 

「ん・・・?」

「どうかしましたか?」

「いや、なんか嫌な予感が・・・」

 

 その言葉にエレンも周囲を見渡すが、変わったところは特にない。

 気のせいかと思いつつも、再び食堂に向かおうとしたところで、真は再度足を止めた。

 

「なぁ、何か聞こえなかったか?」

「むしろ、他の人たちの声で少しうるさいくらいですが・・・」

 

 エレンに心当たりはないが、何かを捉えたらしい真はしきりに周囲を見回す。

 

「・・・・・・ぃ~」

「この声・・・まさかっ」

「シン、何が聞こえているんですか?私には何も・・・」

 

 あくまで魔術に特化したエレンには雑踏の音しか聞こえないが、身体と魔術、両方を極めつつある真には、()()()()()()()と同時に()()()()()()()()()ある人物の声が、はっきりと聞こえた。

 

「・・・にぃ~!」

「ちっ、あのバカ、マジで来やがった!」

「シン?いったい誰が・・・」

「お~兄~ぃ~!!」

 

 次の瞬間、人垣の中から、黒髪に数本のメッシュが入った少女が、後ろから真めがけて思い切り飛び込んできた。

 突然の事態に、先に少女に気付いたエレンは硬直してしまう。

 が、

 

「むぎゅっ!?」

 

 真は振り向かないまま、抜く手も見せずに少女の顔を鷲掴みにした。

 そこでようやく、周りも異変に気付いた。

 なぜなら、その少女は明らかに破軍学園のものではない制服を着ていたからだ。

 

「おい、愛華。なんでてめぇがここにいるんだ!」

「妹が兄に会いに行くことの何が悪い!」

「大阪にいるくせして昼休みに来ることが問題なんだよ!ていうか、またか!またなのかお前ぇ!!」

「うぎゃ~!いたいいたい!お兄、ギブギブ!」

 

 片手で少女の顔面を鷲掴んで叱る様は、他から見れば興味半分近づきたくない半分な案件だが、そんな周りの視線を無視して真は少女を怒鳴る。

 

「お前さ、何度も言われてるよな!学生騎士の能力の無断使用は厳禁だって!」

「大丈夫だよ!模擬戦の最中だから許可は出てる!」

「だからって敷地外に出るバカがどこにいる!」

「ここ?」

「ふんっ!」

「ごふぅ!?」

 

 茶目っ気を見せた少女に、真が問答無用で顔面を地面にたたきつけ、そのまま抑え込む。

 

「ちっ。おい、誰か兄貴を・・・」

「もう来ている」

 

 真が周囲に声をかけようとしたところで、人垣を割って仁が現れた。

 

 

「おう、兄貴。早かったな」

「学園の方から連絡が来たからな。お前のところに行ってみたら案の定だった、というわけだ」

「なるほどな。にしても、やっぱり来やがったよ、このバカ」

「まったく、どうしてこうなったのか・・・」

「なんか、模擬戦で申告出してからここに来たって」

「くっ、その手があったか。だが・・・」

「えっと、すみません。少しいいですか?」

 

 完全に置いてきぼりになっていたエレンが、遠慮がちに真と仁に尋ねる。

 

「話を聞いていた限り、この子が妹のアイカですか?」

「あぁ、そうだ。如月愛華、俺の双子の妹だ。顔はともかく、髪色は似てるだろ?」

 

 言われてみれば、色こそ正反対なものの、数本のメッシュがかかっている髪色は真にそっくりだ。

 意外なタイミングだったが、エレンには1つ気になることがあった。

 

「ですが、アイカは武曲学園に通っているんですよね?どうして、学校のある平日の、それも昼休みにここにいるんですか?」

「簡単に言えば、愛華の能力だ。愛華は転移能力者(テレポーター)なんだ」

 

 転移能力者(テレポーター)とは、言葉通り座標から座標へ瞬時に移動することができる能力者だ。

 直接的な攻撃力は乏しいものの、長距離を一瞬で移動することができるため、有事の際には物資や人員の輸送を請け負うことが多い。

 とはいえ、大阪から東京まで一瞬で移動できるほどの能力者は、世界にも片手ほどしかいない。

 

「愛華は、転移能力者(テレポーター)としては超一流なんだが、いかんせん性格が自由過ぎてな。しょっちゅう学園の敷地内から学外に脱走してるんだよ。なんなら、停学をくらったこともある」

「そ、そうだったんですか・・・」

「でもなぁ、さすがに大阪から東京まで、正確に一発で転移しようと思ったら、固有霊装(デバイス)の目印が必要になるんだよ。兄貴、なんか心当たりはねぇの?」

「いや、俺に心当たりはないが・・・」

「アイカの固有霊装(デバイス)って?」

「苦無で、“天神(てんじん)”って言うんだが・・・」

「ふ、ふっふっふ、この愛華ちゃんを甘く見ないでほしいね」

 

 そこでようやく、地面にめり込んでいる愛華が話し始めた。

 

「なんだって?」

「人間は日々成長する生き物なんだよ。今の私は、半永続的なマーキングを可能にしたのだ!」

「なにっ!?だが、いつの間に・・・まさか、郵便物に紛れ込ませたのか!?」

「ご名答!後は、お兄が寝てる間にマーキングを付けなおしたから、好きな時に安全にお兄のところに遊びに行けるようになったんだよ!」

「兄貴、後で消しといてくれ。そういうの得意だろ」

「わかった。今日の授業が終わったら部屋に行こう」

「いや~!やめて~!お兄のところに行けなくなっちゃう~!」

 

 真と仁の至極真っ当な宣言に、愛華は悲鳴をあげる。

 だが、真と仁も妹の非行を止めるべく、心を鬼にする。

 

「そもそも、能力を使わずとも公共の乗り物を使えばいいだけの話だろうが」

「お金と時間がかかるからヤダ!!」

「そうか。なら、俺がもう一度、直々に学生騎士としてのモラルを叩き込んでやる。こっちに来い」

「それもヤダ!絶対痛いことになるんだもん!私に何する気よ!」

「それだけ文句を言えるなら、より厳しくしても問題ないな」

「まさかの藪蛇だった!?いや~!やめろ~!離せぇ~!って、仁兄も能力使ってるじゃん!転移できないんだけど!」

「俺はすでに魔導騎士免許を持っているから問題ない。それに、愛華を逃がさないようにするのも当然のことだろう」

「わかった!反省します!だから離して!」

「だが断る」

「いやぁ~~~!!やめろぉ~~~~~~!!!」

 

 そんなこんなで、悲鳴と絶叫を上げながら、愛華は仁に首根っこを掴まれて連れ去られていった。

 そして、後には静かになった真たちが残された。

 

「なんというか・・・嵐のような人でしたね」

「本っ当にな・・・俺が言うことじゃないが、何をどうすれば、あんな性格になるんだか・・・」

 

 確かに真が言うことではないが、エレンは真や仁が原因でなくても親戚に1人くらいは影響を与えそうな人間がいそうだと失礼なことを考えていた。

 

* * *

 

 嵐のような時間が過ぎ、真とエレンが昼食を食べ終えた頃、再び仁と会った。

 

「おう、兄貴。どうなった?」

「とりあえず、がっつり叱って帰らせた。だが、本当に反省しているかはわからん・・・」

「あ~、まぁ、兄貴のガチ説教なんて、愛華からすれば珍しくもないからな~」

 

 真の言葉に、エレンは「上には上がいる」という言葉の意味を改めて思い知った。

 

「つーかさ、愛華のやつ、なんで今来たんだ?」

「それなんだがな。どうやら、明日の休みに真と買い物に行きたいと言っていてな。それを伝えるために来たんだそうだが・・・」

「いや、なんで直で会いに来たんだよ。連絡先は教えてあるから、電話なりメールなりで知らせればいいものを・・・ていうか、まさかまた無断で能力を使って来るつもりか?」

「おそらくな・・・」

「「はぁ~・・・」」

 

 どうやら、愛華の自由すぎる性格は不治の病らしい。

 

「あの~、能力の無断使用って、学生騎士なら御法度なはずじゃ・・・」

「それはそうなんだが・・・幸か不幸か、愛華は移動のツールとして能力を無断で使うことはあっても、転移した先で問題を起こすことはまったくないし、転移能力者(テレポーター)としては本当に優秀だから、処罰も厳重注意がほとんどで、停学も1日2日とか軽いんだよな・・・あれでも、授業にはちゃんと出てるらしいし・・・」

「それに、こう言ってはなんだが、多少素行に問題があっても、よっぽどの悪事をはたらかないかぎり、学生騎士に重い処罰が下ることは滅多にない。優秀ならなおさらな」

 

 連盟の方針として、基本的にすべての伐刀者が魔導騎士の道を歩むようにしている。

 日本では人権などの問題ですべての伐刀者に魔導騎士になるよう強制しているわけではないが、他の国ではすべての伐刀者が魔導騎士になるように法整備をしているところもある。

 そのため、真や一輝のような例外を除けば、3年で学園を卒業して魔導騎士騎士免許を取得することがほとんどだ。

 

「だから、俺とか兄貴は本気で叱ってるけど、他だと上辺だけってことも多いし、本気であの性格を直そうとしてるわけでもない」

「そうなんですか・・・」

 

 真の解説に、エレンもやるせない気持ちになるが、言っていることは事実であるためそれ以上は言及しなかった。

 だが、それとは別にあることを提案する。

 

「それなら、そのお出かけに私も同席していいですか?」

「ん?別に俺はいいが、なんでだ?」

「実はですね、明日はステラ様もイッキと他のご学友と買い物に行くそうで、私にも暇が出されたんです。それに、シンの妹なら、一度話し合ってみたいので」

「なるほどな」

 

 真も、一輝がステラや珠雫と買い物に出かける旨は聞いていた。それでエレンが手持ち無沙汰になるとは思っていなかったが、理由としては納得した。

 

「わかった。なら、あとで愛華にも連絡しておくか」

「えぇ、お願いします」

 

 真としては不安な気持ちもなくはないが、少しは愛華にいい影響が出ればいいと願いながら午後の授業を受けるために教室に向かった。




はい、ある意味真を超える超問題児の誕生です。
でも、蔵人だってしょっちゅう暴力沙汰起こして厳重注意ですから、こっちもちょっとの停学と厳重注意で大丈夫・・・なはず。
ちなみに、声は9シリーズの新海天をイメージしました。
あーいう妹キャラって、傍から見れば萌えても当事者からすればストレス以外の何物でもないでしょうね。
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