黒翼の魔王   作:リョウ77

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波乱のお出かけ

 愛華が襲来した翌日、約束(?)通り、真とエレンは寮の部屋で外出着に着替えて愛華を待っていた。

 ちなみに、真はジーパンと半そでの上からシャツを羽織る無難な服装で、エレンはデニムにへそ出しと少し派手な格好だ。

 

「なぁ、マジでその格好で出かけるのか?」

「? そうですが、何か変ですか?」

「自分からナンパしてもらおうとしてる格好に見えなくもない」

「むっ、おかしいですね。シンはこのような格好は好きではありませんか?」

「俺のドピン狙いだったか」

 

 言われて気づいた真は、少し真面目に考えて答えた。

 

「嫌いとまでは言わんが、『俺だけじゃなくて他に見られるってことも考えろよ』とは思う」

「なるほど、そうきましたか」

 

 真がエレンに対して独占欲を持っているとも取れる言葉に、エレンは頬が緩みそうになるのをこらえる。

 ここまで来たら、後はもう一押しするだけだと、エレンは真へのこれからのアプローチを考える。

 その時、

 

「・・・来るか」

 

 真が一言呟いて立ち上がった。

 次の瞬間、

 

「おっ邪魔しまーす!」

 

 元気な声が聞こえたと思ったときには、愛華が部屋の中にいた。

 

「ちっ、マーキングは兄貴が外したはずなんだがな・・・」

「ふっふっふ、一度転移しちゃえば、あとは感覚でなんとかなる!」

「ここはなんとかしなくてもよかったんだよ」

 

 真の言った通り、愛華が付けたであろうマーキングは昨日の時点で仁が部屋に赴き、それらしきものはすべて除去したはずだった。

 だが、愛華は一回転移した感覚を頼りに、マーカーもなしに直接、真の部屋に転移してのけた。

 この高い技量と才能の無駄遣いに、エレンもため息を隠せない。

 

「はぁ・・・」

「あれ?なんでエレンさんがお兄の部屋に?」

「私のことを知っていたんですか?」

「そりゃあ、ニュースでステラ殿下と一緒に映ってましたから。エレンさんもれっきとした有名人ですよ、有名人」

 

 エレンとステラは特徴的な容姿をしているから、基本的には一目で誰かわかってしまう。一輝とステラの場合がたいがい特殊だっただけだ。

 

「早い話、シンのルームメイトだからですよ」

「なんと!お兄、本当?」

「あぁ、マジだ」

「うはぁ~、まさしく漫画みたいな展開だ~」

 

 武曲学園の近くにあるマンションで下宿している愛華には一生縁がないような展開に、愛華はキラキラと瞳を輝かせる。

 だが、愛華の驚きはこれで終わらなかった。

 

「それとな、実はエレンがあの指輪の女の子だった」

「え?えっ!?本当!?本当なの、お兄!?」

「マジもマジだ。俺だってびっくりしたよ」

「すごいよ!すごいロマンチックでドラマティックだよ!まさにラノベ主人公だよ!はっ!まさか、すでにあんなことやこんなことを・・・」

「妄想もたいがいにしろ、バカ」

「あいたっ!?」

 

 愛華の思考がイケない方向にトリップしそうになる直前に、真が拳骨を落として我を取り戻させた。

 

「う~、痛いよ、お兄」

「てめぇが変な妄想をしたからだろうが」

「ちなみにちなみに、どこまでヤッたの?」

「てめっ・・・」

「一緒のベッドで寝たくらいですね」

「エレン!?」

 

 予想外の方向からカミングアウトされた。

 

「なんと!すでに同衾を経験していらっしゃると!」

「何回もですね」

「何回も!?もうっ、お兄ってばエッチ!」

「一回黙れ!」

「むぎゅう!?」

 

 再びハッスルしそうになった愛華を、真は渾身の力を込めてアイアンクローする。

 

「百歩譲ってそういう会話をするのはまだいいが、せめて俺のいないところでやれ!」

「わかったよ!だったら、お兄は出て行って!」

「ここ、俺の部屋なんだが!?」

「だって、お兄のいないところだったらいいんでしょ?だったら、お兄が出て行った方が早いじゃん。それに女の子にはいろいろと準備があるの!」

「くっ・・・!」

 

 愛華の言葉が思いの外正論だったこともあって、真は渋々部屋から出て行った。

 それを確認してから、愛華は気を取り直してエレンに質問を始めた。

 

「ふぅ・・・それでそれで、エレンさんとお兄はどういう関係なんですか?まさか、もう付き合ってたり?」

「いえ、まだ付き合っていませんよ」

「あれ?でも、エレンさんは多分ですけど、お兄のことが好きなんですよね?」

「えぇ。なので、あの手この手で好きになってもらおうとしてるところなんです」

「あ~、なるほど。お兄ってば、恋愛ごとに関しては本当に鈍感なんで、頑張ってください。私も応援してます」

「あら、いいんですか?実は、『お兄ちゃんを取らないで!』みたいな修羅場を覚悟していたんですが」

「むしろ、お兄から小言を言われなくなりそうなので、ぜひ持って行ってください」

 

 愛華の応援する動機が不純すぎるが、少なくともエレンと真が付き合うことに関しては反対する気はなさそうだと、エレンは内心で一安心した。

 

「それにしても、お兄ってば本当に留年してたんですね~。私でさえ進級できたというのに」

「授業に参加してないのもそうですが、参加してても前の理事長がどうしていたかはわからなかったですけどね」

「本当にそれですね。破軍の前の理事長って、本っ当に見る目がなかったんですねぇ~」

「・・・そういえば、アイカはシンの本気を知っているんですか?」

 

 女子トークに花を咲かせながらも、エレンはふと気になることを尋ねた。

 

「お兄の本気ですか?」

「はい。具体的に言えば、シンがすべての封印を外した時の力です」

「なるほど、そこまで聞いていたんですか・・・そうですね・・・」

 

 真がエレンにどこまで話したのか、だいたいを察した愛華は、顎に手を当てて考えてから口を開いた。

 

「正直、私にもわかりません」

「そうなんですか?」

「はい。お兄が能力を制御できずに、辺り一帯を消し飛ばしたときのことと、祖父がお兄に封印を施したことは私も知っています。その場にいましたからね。その上で言いますが、あれは明らかに次元が違います。お兄にかけられた封印も、強大すぎる力を封印したというよりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という方が正しいかもしれません。つまり、本当の底は私たち家族はもちろん、本人ですらわからない、ということです」

「そう、ですか・・・」

 

 愛華の真剣な言葉に、エレンも息をのむ。

 模擬戦の際、封印を1つ外した時ですら、ステラに匹敵するほどの魔力を感じたが、それすらも凌駕する力とは、いったいどれほどのものなのか。

 それを想像しようとして、だが背筋に冷たい感覚を覚えてやめた。

 それほどの力など、もはや()()()()()()()()

 微妙な空気になりそうになったところで、そんな雰囲気を紛らわすように、愛華は明るい声音で話しかけた。

 

「まぁ、お兄が封印を全部外す日はそうそう来ないと思いますけどね。封印を2つ外した状態でも、Aランクでもトップクラスの力がありますから。今は封印を1つ外しているみたいなので、BランクとAランクの間くらいになるんですかね」

「・・・それもそうですね」

 

 正直、気休めにしかならないフォローだったが、幾分気持ちは楽になった。

 それに、

 

(私がシンのことを好きだと言うのなら、その力を受け入れるくらいの度量と実力を身につけなければいけませんね)

 

 いつか、自分がその力を解き放たせてみせよう。

 新たな決意を胸に、エレンと愛華はお出かけのためのおめかしを始めた。

 

 

* * *

 

 

 おめかしと言っても、2人は客観的に見ても美少女の類であるため、化粧にそこまで時間をかけることもなく、肌の手入れくらいで済ませて。

 男である真からすれば、その時間すらも長いと感じたくらいだが。

 

「それで、今日はどこに行くんですか?」

「商店街に行こうと思う。近くにショッピングモールができて客足が少なくなったとはいえ、それなりに繁盛するくらいにはいろいろとあるからな。あと、ショッピングモールだと一輝たちと鉢合わせそうだし」

 

 だからなんだという話だが、なんとなく気まずくなるだろう。

 それに、せっかくなのだから当人たちだけで楽しませるのも悪くないはずだ。

 そのことから、様々な店が並ぶ商店街に行くことにした。

 商店街に向かうと、そこには他の学生や親子連れの姿がちらほらとあった。

 

「ふぅむ、今日は少ないな」

「そうなんですか?」

「多いときは、ちょっとした人だかりができることもあるんだが・・・まぁ、特にイベントとかもないしな」

 

 たまにはそういうこともあるだろう。

 

「んじゃ、まずはコロッケを食べるぞ」

「いきなりですね」

「なに?お兄にも行きつけのお店とかあるの?」

「あるぞ。ていうか、俺はランニングでよく通ってる」

 

 真が商店街に行こうと言った理由は、他にも行き慣れているということがある。

 別にショッピングモールに行かないというわけではないが、真は良くも悪くも有名で、破軍の学生と顔を合わせやすいショッピングモールはあまり行かないようにしていた。

 そんなショッピングモールに比べれば、商店街は破軍の学生は少ない。少なくとも、真は今まで商店街で破軍の学生と鉢合わせになったことはない。

 そして、一輝と知り合った頃から通い続けているため、それなりに顔なじみはいるのだ。

 今、3人が向かっている店も、その顔なじみの1つである。

 

「着いたぞ」

 

 真が立ち止まったのは、『衣屋』という看板が建てられた、古めかしい店だ。

 

「衣屋って、服屋みたいな名前だね」

「まぁ、揚げ衣って意味じゃあ、あながち間違ってないけどな。お~い、おっちゃ~ん」

「はいよ~」

 

 真が声をかけると、店の奥から店主らしき中年の男性が出てきた。

 だが、若干脂肪が多いながらも太い腕に大きい図体を前にして、初対面の愛華とエレンは思わず身構えてしまった。

 

「おっ、なんだ、如月の坊主じゃねぇか。久々に来てくれたのか、って・・・女連れか?しかも2人も?」

 

 真の後ろにいる2人に気付いた店主は、意外そうな目を向ける。

 

「こっちは俺の双子の妹で、もう1人は俺のルームメイトだよ」

「はぁ!?異性がルームメイトって、なんじゃそりゃ!?」

「ほら、新しい理事長の方針が『実力主義』だろ?それで、部屋割りも性別とか関係なしに実力の近い者同士で組まれることになったんだよ」

「なるほどなぁ・・・って、よく見たら、あのエレン・アンリネット嬢じゃねぇか!どうなってんだ!?」

 

 遅れて、店主はエレンの正体に気付いたようで、目をむき出しにして驚愕をあらわにする。

 そして、どうしてかと問われても、曖昧に誤魔化すしかない。

 

「まぁ、いろいろあったんだよ。それよりも、コロッケを3つ」

「ちっ、いろいろと納得はいかねぇが・・・ほらよ」

 

 舌打ちしながらも、そこはやはり商売人である店主は客である真のオーダーに応えてコロッケを3つ取り出して渡した。

 

「ありがとな。ほい、代金」

 

 真は、懐から財布を出して代金を渡し、エレンと愛華にコロッケを渡した。

 

「それでは、いただきます」

「いただきまーす」

 

 一言いれてからコロッケにかぶりつくと、2人は思わず目を見開いた。

 

「これ、すごくおいしいです!」

「具も衣も、すごいおいしいよ、お兄!」

「はっはっは!そりゃあ当然だろ!うちがここで何年店を構えていると思っているんだ!」

「ここ、いわゆる老舗なんだよ。たしか、60か70年くらいだったっけ?」

「おう!そうだぜ!」

 

 エレンと愛華の賞賛の声に、店主はすっかり機嫌をよくする。

 なんとも単純だと真は内心で呆れながらも、しれっと店主を褒める。

 

「この商店街って、こういう古き良き店ってのがけっこうあるんだよ。新しい店とかも悪くはないけど、俺はこういう方が好きだな」

「はっは!坊主がそう言ってくれると、俺らとしても商売のし甲斐があるってもんだ」

「そんじゃ、俺たちは他のところに行ってくるから」

「おう!また来てくれよ!」

 

 『衣屋』を後にした3人は真の案内で様々な店に立ち寄った。甘味処や木製アクセサリー、古本屋など、様々な店を見て回った。

 そして、

 

「おう、坊主じゃねぇか!今日は女の子を2人も連れてんのかい!ほらよ、饅頭を1個おまけしてやる!」

「真ちゃん!これ、新作なんだけど、どうかね?」

「真の兄ちゃ~ん!これ、俺が作ったんだ!」

 

 店をまわるごとに、様々な人から声をかけられる。

 学園での腫物みたいな扱いが嘘のようだ。

 

「なんというか、人気者だね、お兄」

「破軍での評価が嘘のようですね」

「そりゃあ、その辺りのことなんて話してないし」

 

 とはいえ、仮に本当のことを知ったところで、態度に大きな変化は現れないだろうと真は考えている。

 年季の入った商店街なだけあって、ここにいる人は年配の割合が大きい。今さら不良だからと態度を変えるような軟な精神の人間は少ないのだ。

 だからこそ、真はこの場所を気に入っている。

 

「それより、次はどこに行きたい?」

「そうですね、小物の店を見たいです」

「私も私も!可愛い置物が欲しい!」

「小物の店な。だったら・・・」

 

 2人の要望に応えるために、どの店に行こうか思案する真だったが、唐突に鳴った生徒手帳によって中断された。

 連絡先を確認すると、理事長からの緊急通信だった。

 ただ事ではないと、真はすぐに電話に出た。

 

「如月です。どうしましたか、理事長?」

『近くのショッピングモールにテロリストが現れた。如月真、如月愛華、エレン・アンリネットの3名の能力の敷地外使用を許可するから、直ちに救援に向かってくれ』




ちょっと軽い内容になってしまいましたが、次の繋ぎくらいにはちょうどいいかなって。
あと、真面目に投稿頻度をもう少し上げたいですね。
できれば1週間以内に投稿できればいいんですが。
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