黒乃からの緊急連絡を受けて、3人は愛華の能力でテロリストが襲ったというショッピングモールに急行した。なんの偶然か、そのショッピングモールは一輝たちが遊びに行っていたところだ。
ちなみに、なぜ真たちが一緒に、ショッピングモールの近くに出かけていたのを知っていたのかというと、仁から聞いていたらしい。
元々、真が仁にメールで予定を連絡したのだが、そこに今回の事件が発生したところで仁がその情報を黒乃に伝達、事態の収拾のために連絡したのだという。
ショッピングモールの前で、真は万が一のためにいつも持ち歩いている持ち運び用のヘッドセットを装着して、黒乃と情報を共有する。
「賊の正体や規模はわかりますか?」
『犯人は
「なるほど、いつもの資金調達ですか」
『あぁ。襲撃時に慌てて逃げようとした数名が転倒して軽傷者が何人かいるが、重傷者や死者は0だ。監視映像をモニターしている警備会社からの情報によれば、数十人の買い物客を人質としてフードコートに集めているとのことだ』
「わかりました。それと、中に一輝とステラ、一輝の妹さんとその友人がいるはずですが・・・」
『なに?・・・いや、待て、今連絡がきた。黒鉄からだ』
どうやら、全員が身動きが取れないというわけではないようだった。
さらに、黒乃が知らなかったということは、おそらく向こうはステラの存在をまだ知らない。いると分かっていたら、すでに騒ぎになっているはずだ。
「では、俺たちは今から中に突入します。できれば、モールの地図も送信してください」
『あぁ・・・あくまで一般人の安全が最優先だ。無茶はするなよ』
「了解です」
そう言って通話を切ると、すぐにモールの詳細な地図が送られてきた。
「なるほど、フードコートの部分は吹き抜けになっているのか・・・まずは2階の吹き抜け近くに移動しよう。愛華、任せた」
「はいはーい・・・駆けるよ、“天神”」
言霊と共に、愛華の右手に黒塗りの苦無が握られる。
「それじゃあ、一気に
そう言うと、愛華は苦無を口に加え、真とエレンの手を掴んだ。
2人も愛華の手を握り返すのを確認してから、愛華は能力を行使した。
次の瞬間、目の前の光景が電気が落ちて暗くなった建物の中に変化した。
そして、
「っ!?なんだて」
武装した黒づくめの集団と鉢合わせ、武装集団のうちの1人が声を挙げようとする前に真は音を立てずに即座に踏み込み、魔力を刃として放出して首を切った。残りは真の追撃と愛華が幻想形態にした“天神”を次々に賊の首に直接転移させて刺すことで意識を奪い、ものの数秒で武装集団は制圧された。
「・・・隊を分けて巡回してたのか」
「ご、ごめんね?」
「気にすんな。非伐刀者相手なら、魔力で探知することもできないしな」
小声で話す真と愛華だが、足元に転がっている武装集団に血の跡はない。
念のために幻想形態で攻撃したからだ。
テロリスト相手であれば生死は問わないのだろうが、事情聴取のために生かしておく必要もあるだろうと判断してのことである。
「とりあえず、こいつらは縛ってここに放置だ。まずは人質の様子を確認するぞ」
そう言って、真はロープを取り出して手際よく手足を縛り、口にも猿ぐつわ代わりにロープを縛りつけた。
「・・・質問なんですが、どうしてそんなものを持ち歩いているんですか?」
「どうしてって言われても・・・習慣?」
「お兄ってば、修行旅の影響で、こういうのを持ち歩いていないと落ち着けない体になっちゃって」
真の曖昧な返答に、愛華が捕捉を加えたことでエレンも納得した。
たしかに、長い間戦場を渡り歩いていたのなら、職業病のようなものがあっても不思議ではないかもしれない。
まぁ、買い物にヘッドセットや縄を持ち歩くなど、一歩間違えたら不審者呼ばわりされる可能性もあるわけだが。
「まぁ、結果的に備えが功を奏したってことでいいだろ。それよりも、吹き抜けはすぐそこだよな?」
「うん、そうだよ。東に少し進んだところ」
愛華の先導によって30mほど進み、吹き抜けになっている部分に近い柱の陰に隠れて様子をうかがうと、一か所に集められた人質たちの姿があった。
人質たちは中央に集められており、その周囲を取り囲むように10人ほどの男たちが円を描いている。
「エレン、あそこ」
「えぇ、ステラ様ですね。それと、珠雫の姿も見えます」
そして、その中には珠雫と帽子を深めに被って顔を隠しているステラの姿があった。
だが、そこに一輝の姿はない。
「一輝は・・・あそこか。隣にいるのは珠雫のルームメイトか?」
かすかな気配を感じて視線を上に向けると、そこには同じように柱の陰から様子をうかがっている一輝と珠雫のルームメイトらしき男の姿があった。
一輝たちの方も真たちに気付いたようで、僅かに視線を向けてから再び人質たちに戻した。
「それで、どうする?」
「・・・今はまだ様子見だ。まだ他に見回りをしている分隊があるかもしれないし、何より人質と距離が近すぎる。下手に俺たちだけで刺激したら人質に死人がでかねない。だが、あの分隊と連絡がとれないことを不審に思って行動を移すはずだ」
「では、そこを狙うと?」
エレンの問い掛けに、真は無言でうなずき返して下のフードコートに意識を向ける。
第一封印を外した今なら、取れる手もそれなりに多いし、その気になれば
(あるいは、10倍くらい加速して強襲するのも・・・いや、警戒している状態だと難しいか)
そんなことを考えながらプランを練っていると、そこで予想外のことが起きた。
「お母さんをいじめるなぁーーー!!」
「えっ」
「うそッ」
「なっ」
突如、人質の1人だった小学生の男の子が銃を持った
だが、できたことは手に持っていたアイスを投げつけるだけ。
ダメージなど与えられるはずもなく、ズボンを白く汚すにとどめる。
だが、相手を激昂させるには十分だった。
「こんのガキがぁあああああ!!」
アイスクリームを投げつけられた兵士の男は激怒し、容赦なく男の子を蹴りつけた。
そこに、お腹を多きくした、妊婦らしき母親が咄嗟に男の子と兵士の間に割り込んで守ろうとする。
兵士の方は怒りが収まらず、仲間の制止を無視して発砲しようとする。
「早くしないと・・・!」
「待て」
一刻も早く助け出そうと愛華は動こうとするが、その動きを真が止めた。
「どうしてっ」
「ステラが動く」
真がそう言った次の瞬間、兵士がアサルトライフルを発砲したと同時に、ステラが射線に割り込んで銃弾を瞬時に融解させた。
ステラが能力を使って銃弾を防いだのを目の当たりにした
「すっご・・・」
「さすがステラと言うべきだが、ちょっとまずいな・・・」
そう呟く視線の先には、発砲音によって恐慌状態に陥った人質たちだ。
使われているアサルトライフルは取り回しを重視して精度を落としたものであるため、このままだとけが人が出てしまう。
そう思っていたが、
「落ち着きなさいッ!!」
アサルトライフルの爆音すら押し潰すほど大きく、何より皇族としての威厳をもった声で一喝し、人質たちはもちろん、兵士たちすらも全員が叱られた子供のように体を震わせて動きを止めた。
「・・・さすがだな」
「当然です」
この結果に、エレンが得意げな表情で小さく胸を張る。
「とりあえず、いったんは落ち着いたか・・・」
「それで、どうする?」
「・・・まだ待つ。仕掛けるなら、“使徒”が来てからだ」
構成員の大半を占める非伐刀者の“信奉者”、それをまとめる伐刀者の“使徒”だ。当然、人数は圧倒的に“信奉者”が多く、“使徒”はほんの一部しかいない。
「2,30人の部隊なら、おそらく“使徒”は1人。そいつが出てきたら・・・」
「おやおやおやぁ~?これはこれはとんでもないお方が紛れ込んでたもんだぁ」
言葉を続けようとすると、どこか粘ついた声が割り込んできた。
その声の主は、黒地に金の詩集が入った外套を身に纏っている、顔に入れ墨を入れた男だ。
「・・・あいつだな」
「そうなの?」
「えぇ。あの外套は使徒が着用する法衣です」
使徒と初めて遭遇した愛華に、エレンが使徒の特徴を伝える。
その男はビショウと名乗り、最初は仲間に対して攻撃的な空気を醸し出していたが、事情を聞くと思案顔になって黙り込み、何かを思いついたような笑みを浮かべ、懐から取り出した拳銃を子供に向けた。
それを見たステラは、ためらわずに
(まずいっ)
それを見た真は、焦燥の表情を浮かべる。
なぜなら、ビショウは一瞬、ステラに下卑た視線を向けており、ステラの名前を知っていたうえで余裕の態度を崩していない。
それはつまり、
(あのビショウってやつにはステラに対抗できる能力を持っている。それでステラがダメージを負おうものなら・・・!)
十中八九、碌なことにならない。
だが、止めに動くには遅すぎた。
そのまま、ステラは大剣を振り下ろし・・・
* * *
ステラが
それは、真との模擬戦のときだ。
エレンを負かした真の実力を知りたいということで、ステラと真は“幻想形態”で戦ったのだが、
『げほっ、ゲホッ。ちょ、ちょっと、あんた、模擬戦でなにやってんのよ・・・』
『・・・正直、すまんとは思っている』
結果として、ステラは腹を抑えて思い切りえづいてしまっていた。
“幻想形態”故に直接的な怪我はないが、痛みはそのまま感じるため思わず膝をついている。
『ステラ様っ、大丈夫ですか!?』
『ちょっと、真。本当に大丈夫なの?』
『いやまぁ、“幻想形態”だからいいやと思っていたんだが、まさかここまで効くとは思わなくてな・・・』
そう言う真に、痛みが和らいできたステラが尋ねた。
『それで、シン。何をやったの?アタシの
『だいたいの予想はつくだろ?能力でカウンターを決めただけだ』
『でも、それらしい
『それはこれだ』
そう言って真が服をまくると、そこには一輝やエレンに見覚えのない腹巻を身に着けていた。腹巻と言っても、タイツのように体にぴったりはまるようなものだったが。
『こいつの効果は、この上から受けた攻撃を相手に跳ね返すってものだ。一回限りの奇襲にしか使えないが、刺さる相手には刺さる。ステラみたいなパワーファイターは特に』
『・・・そう言えば、ステラが
『それで油断してたところを、私の全力で思い切りやり返されたってわけね・・・』
からくりがわかったステラは悔しそうな表情を浮かべる。
『だがまぁ、収穫がないわけじゃないだろう。少なくとも、ステラはステラの全力に耐えられないのはわかった。これで耐えられるのならともかく、それが無理なら同じような能力を持った相手と戦うときは気を付けた方がいいだろう』
『それはそうでしょうけど、どうやって見抜けって言うのよ』
『簡単な話だ。わざとステラの攻撃を受けようとする相手がいる時は、そういう能力を持っていると見てもいい。そして、そう言うやつに限って
その刹那、ステラの視線がビショウの持つ拳銃ではなく、中指にはめられている指輪に向いた。
一見、ただのアクセサリーにも見えるが、禍々しい光を放っており、
「こ、のっ!!」
「なっ!?」
「ギャアアアアアア!!俺の右腕がぁあああ!!」
右手を焼かれ、斬られたビショウは、あまりの激痛にのたうちまわる。思わず傷口を抑えたくなる衝動に駆られるが、未だに燃えている右手に触れてはまだ無事な左腕も火傷してしまうのは目に見えている。
「くそがっ、どうじでぇ・・・!」
「あいにくと、似たような手に引っかかったことがあるのよ。アタシだって、同じ過ちを二度も繰り返すほど馬鹿じゃないわ」
「ぢぐじょぉっ、お前らぁ!全員ぶちころ・・・」
こうなったら、人質もろともハチの巣にしてやる。
そう思って指示を出そうとしたビショウだが、気づけば全員が床に倒れ伏していた。
周囲を見渡してみれば、フードコートに立っているのはビショウだけだった。
「おう。とりあえずは及第点ってところだな」
声が聞こえた方に視線を向けると、真が人質の集団からスーツの女を1人片手に近づいているところだった。
「ちょっと、その人は・・・」
「あぁ、そいつらの仲間だ。おそらく、何かあった時のために潜ませていたんだろうな。丁寧に拳銃も持ってたし」
「よく気づいたわね」
「まぁな。それにしても、ギリギリ相手の能力に気付けたのはいいが、右手を切り飛ばしたの、あれ偶然だろ?」
「・・・まぁね」
そういうステラの表情は、微妙に晴れない。
真が言ったことが事実だったからだ。
あの時、ステラがビショウの右手を切り飛ばしたのはまったくの偶然であり、狙ってやったものではない。
これがもう少し気づくのが早ければ余裕を持てたかもしれないが、ギリギリになってしまったために逸らすのが精いっぱいだったのだ。
「ステラ!真!」
そこに、一輝が“陰鉄”を消しながら走ってやってきた。
「おう、一輝。そっちもご苦労さん」
「うん。真もね。それにしてもさすがステラだね」
「シンにやられたからこそなのだけどね・・・」
「それでも、それを糧に成長したのはたしかですよ」
「わっ、すごい!本物のステラ殿下だ!」
少し遅れて、エレンと愛華も真たちのもとにやってきた。
特に愛華は初めて生で見るステラにテンションが爆上がりになっている。
「すみません!後でサインいいですか!?」
「え、えぇ、後でね・・・ねぇ、この女の子は?」
「俺の双子の妹で、愛華だ」
「どうも、初めまして!如月愛華です!」
「・・・騒がしい人ですね」
「まあまあ、いいじゃないの」
最後に、珠雫とそのルームメイトが合流してきた。
「えっと、黒鉄妹と、そっちは・・・」
「どうも、珠雫のルームメイトで
凪の自己紹介に、真とエレン、愛華は一瞬動きを止める。
なにせ、凪は見た目は明らかに男なのに、しゃべり方は完全に女口調だからだ。
3人とも、
だが、真は踏んできた場数の量と質ですぐに気持ちを立て直した。
「あー、うん、こちらこそよろしく頼む」
こうして、図らずも全員の顔合わせが済むことになった。
ちょっと中途半端な気がしなくもありませんが、これくらいで許して・・・。