黒翼の魔王   作:リョウ77

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“不良騎士”vs“鏡の騎士”

『さぁ!これより本日の第三試合が行われるわけですが、ご覧ください!すごい人だかりです!それほど、第4訓練場で同時刻に行われる試合と同じように、この試合の注目度が高いということでしょう!なお、実況は引き続き、私、放送部の吾妻が、解説は如月仁先生が担当します!

 さあ、それでは注目の選手の登場です!現在、破軍学園でも数少ないBランク騎士にして、昨年七星剣武祭にも出場し、今年の七星剣武祭代表最有力候補の1人!“鏡の騎士”の異名を持つ、3年・栗生誠也選手!』

 

 実況の紹介に、栗生はその顔に不敵な笑みを浮かべる。

 その視線の先には、この試合の対戦相手が立っている。

 

『そして、この“鏡の騎士”に相対するのはDランク騎士、しかし授業や実習に参加したことはほとんどなく、だというのに、あのAランク騎士である“精霊の魔術師”エレン・アンリネットを相手に模擬戦で勝利を収めました!あの映像は本物なのか、今まで謎に包まれていた力がこの試合でも炸裂するのか!“不良騎士(バッダス・ワン)”、如月真選手です!』

 

 このように紹介された真は、思わず苦笑を浮かべていた。

 

(んな気を遣わなくても、授業も実習もさぼって能力がわからないって言えばいいんだがな)

 

 だが、学内の試合とはいえ、そのようなおざなりな紹介は実況としてのプライドが許さないのだろう。

 嫌われ者を自覚している真は、「面倒なことだ」と他人事のように内心で呟く。

 とはいえ、

 

(それを言えば、目の前のこいつも十分に嫌われ者だが)

 

 事実、栗生を応援するような声援はほとんどなく、むしろ真を応援する声すら存在するほどだった。当然、エレンもその1人だが。

 とはいえ、栗生はまったく気にする様子がなく、むしろ真を応援する生徒に対して見下すような視線すら送る。

 

「ふっ、自分が勝てないから相手を応援するとは、弱者らしい、みっともない行動ですね」

「なんだ、てめぇも応援されたいのか?」

「まさか。弱者から声援を送られたところで雑音でしかありません。弱者は弱者らしく、黙って大人しくしてればいいんです」

「・・・歪んでんなぁ」

 

 別に真は連盟が掲げている騎士道に則っているわけではないが、力を持つ者としての責務は果たすくらいの精神はある。

 だが、栗生からすれば弱者は見下す対象でしかなく、むしろ弱者をいたぶって愉悦感に浸るような、ある種の外道だ。

 ちらっと実況席に座っている仁を見れば、仁も栗生に対して嫌悪感をにじませていた。

 それは、家族である真にしかわからないほどの表情だが、それでも仁からの『徹底的に叩き潰せ』というメッセージを受け取っていた。

 「曲がりなりにも教師じゃないのか」と思わなくもないが、この性格を矯正する分には構わないのだろうと解釈した真は、さらに苦笑を深くする。

 

『さぁ、今回の試合、如月先生の弟さんが出場していますが、そのことについてのコメントは何かありますか?』

『ようやく真面目に学園で活動してくれる気になったか、くらいにしか思わないな』

「いや、もっと他に気の利いたことを言ってくれてもいいだろ」

 

 自分の兄の簡潔と言うには少々雑過ぎるコメントに、真は思わずツッコミを入れたが、これ以上何か言うつもりはないことを察し、諦めて開始線についた。

 

「おや、本当にやるのですか?」

「いいから、さっさとかかってこい。これ以上は時間の無駄だ。悦に浸りたいだけなら、さっさと帰ってくれ」

「・・・へぇ」

 

 真の挑発に、栗生はスッと目を細め、剣呑な空気を放ちながら開始線につき、それぞれの固有霊装(デバイス)を顕現した。

 

「やるぞ、“夜羽”」

「哀れな敵を映しましょう、“水月”」

 

 真が黒い羽と共に漆黒のコートを纏い、栗生は右手に鏡のような輝きを放つ銀の細剣(レイピア)を持った。

 

『それでは、本日第三試合、開始です!』

 

 それを確認した実況が試合開始を宣言し、それと同時に栗生が動き出した。

 

「“鏡の世界(ミラー・ワールド)”」

 

 言霊と共に、栗生の周囲に六角形の鏡が多数出現し、リングを縦横無尽に飛翔し始めた。

 

『出たー!!“鏡の騎士”の所以である栗生選手の伐刀絶技(ノウブルアーツ)、“鏡の世界(ミラー・ワールド)”だ!』

『栗生選手はこれがないと始まらないが、逆に言えばこの状況が整えば盤石になる。しかも、展開が早いから封殺するのも難しい』

 

 栗生の能力は“鏡”。彼の“鏡の騎士”という呼び名は、ミラービットとでも呼ぶべき鏡の飛翔体を自在に操り、その鏡を介して様々な攻撃を加えるその戦闘スタイルから名づけられた。

 

「さて、あなたには私を馬鹿にした報いを受けてもらいます。ここに立ったこと、後悔しないでください」

「するかバーカ」

 

 どこまでもバカにしたような口調と言葉に、栗生はもはや殺気すら放ち、“水月”を地面に突き立てた。

 正確には、いつの間にか置かれていた、地面にある鏡に。

 

「っと」

 

 瞬間、真が横に飛ぶと、真の背後から細剣(レイピア)の刃が鏡から飛び出てきた。

 

『おっと!如月選手、振り向かずに栗生選手の攻撃を避けた!完全に不意打ちだったはずですが・・・』

『単純に、栗生選手の攻撃に合わせて動いただけだろう。栗生は3年である分、それなりに手の内は明かされている』

 

 今の攻撃も、栗生がよく使う攻撃の1つだった。

 栗生は飛翔している鏡をつなげることができ、今のように1つの鏡から他の鏡に飛ばすことができる。

 

「ふん、勘はいいようですね。ですが、それもいつまで続きますかね!」

 

 気に入らないと言わんばかりに鼻を鳴らした栗生は、今度は手数に物を言わせて、連続で鏡に向かって細剣(レイピア)を突きだす。

 飛翔している鏡はすべてが繋がっているため、対戦者はすべての鏡を警戒する必要がある。

 普通は頭上も含めた全方位を警戒し続けるなど不可能であるため、この攻撃の前になすすべなくやられた者も多い。

 だが、

 

『すっ、すごいぞ如月選手!栗生選手の息もつかせぬ怒涛の連続攻撃を前に、まるですべて見えているかのように捌き、自らの固有霊装(デバイス)で防いでいるー!!』

 

 そのすべてに対し、真は最低限の動き、最適な対処で避けるか、“夜羽”で軌道を逸らす。

 その動きは、まるで舞を踊っているかのようにも見えた。

 

『し、しかし、あれだけの攻撃をどうやって見切っているのでしょうか』

『おそらく、栗生選手の癖をある程度見切っているのだろう』

『癖、ですか?』

『あぁ。過去の試合映像を見ればわかると思うが、あの攻撃は基本的に相手の死角をついている。鏡を通して攻撃している分、目の前からの攻撃は通用しづらいからな。ならば、ある程度攻撃場所を絞れれば、突きの点攻撃であれば、多少粗があっても避けきれる』

 

 さらに言えば、たとえ目で追えていなくても、鏡が飛翔する風切り音である程度の位置はわかるため、()()()()()()()()()()()()()()()位置さえ把握できれば、真にとって避けることは容易い。

 そして、

 

『こうなると、栗生選手は難しい。元々、栗生選手は手数や汎用性に優れているが、一撃あたりの攻撃力は高くない。すべての攻撃に対処される以上、決定打を与えることは難しいだろうな』

 

 栗生の攻撃手段は、鏡と細剣(レイピア)の特性上、攻撃力は決して高くない。

 回避が非常に困難なため、大抵の相手であれば削り殺すことができるが、一撃必殺の決め手がほとんどないため、この包囲攻撃に対応できる相手とは非常に相性が悪い。

 そのため、栗生も苛立たし気な表情を浮かべているのだが、

 

(だが、まだ幾分か余裕は残している)

 

 栗生は苛立ってはいるものの、焦ってはいなかった。

 それは、まだ自分の優位を確信しているからだろう。

 

2倍加速(ダブルアクセル)

 

 ここで真は加速の能力を使って鏡の包囲網を強引に突破し、一気に栗生に近づいて拳を振り上げる。

 だが、

 

「無駄ですよ」

「ちっ」

 

 拳を放つ寸前、真はその動きを止めて後ろに下がった。

 絶好の好機だったはずなのに、なぜ攻撃せずに下がったのか。

 その秘密は、栗生の周囲を飛んでいる数枚の鏡にあった。

 

『おっと、ここで如月選手、かろうじて踏みとどまって栗生選手の“鏡の盾(アイギス)”を躱した~!!』

『反射の特性を持った、浮遊する鏡の盾。これがあるから、栗生選手はなかなか崩れない。近距離では特に厳しいだろうな』

 

 鏡の「反射する」という特性を活かした、物理・魔術を問わず攻撃をそのまま相手に跳ね返す無敵の盾“鏡の盾《アイギス》”。この守りを正面から突破することは不可能に近く、栗生の不意をつくことしか対策ができない。

 魔術を使える伐刀者(ブレイザー)であればまだ難しくないのだが、今の真や一輝のような近距離の攻撃手段しか持たない者にとってはまさに鉄壁となる。

 だからこそ、観客席にいるエレンはもどかしく思っていた。

 

(いったいどうしたんですか。シンであれば、遠距離の攻撃手段なんていくらでも持っているはずなのに・・・)

 

 真であれば、弓矢や銃といった遠距離武器を生み出すことも、ステラやエレンのような圧倒的な魔術を使うこともできるはず。それなのに、使っているのは自分との模擬戦で使用した黒いコートのみ。

 あの時、徹底的に叩き潰すと言ったのはうそだったのか。

 人知れずヤキモキしているエレンだが、実況席にいる仁は真の狙いを読んでいた。

 

(まったく・・・ここにきて、シチュエーションなんてものを気にするとはな)

 

 そう、真はどのようにして自身の能力を明かすか、そのタイミングを謀っていた。

 真にとって、この試合は勝って当然のいわば出来レース。であれば、ただ勝つだけでは足りない。できるだけ自身の能力を知らしめるように、できるだけ()()()()()()()()()()()()

 そんなベストのタイミングを待っているのだ。

 

(決していい癖とは言えないが・・・それもまた、圧倒的強者の特権、というやつか)

 

 真にとって戦いとは、余程の相手でない限り勝って当たり前のもの。そのため、無意識のうちにできる限り戦いを楽しめる環境を作ろうとする癖がある。

 普通であれば致命的な隙を生みかねない悪癖になるが、真が持つ強大な能力と、遊びたい盛りな子供の時間を犠牲にして積み上げた技術と経験、そしてそれらを余すことなく使いこなすことができる圧倒的な戦闘センスの前には、この癖すらも真を高みへと押し上げるきっかけを生み出す糧となる。

 だからこそ、仁もこの癖についていちいち文句を言うつもりはまったくなかった。

 一方、リングの上では、余裕の態度を崩さない栗生が口を開いた。

 

「ふっ、逃げるのは上手なようですね」

「知ってるか?それ、負け惜しみの台詞なんだが」

「事実でしょう?実際、あなた逃げるばかりで、攻撃は私に届いていない。やはり、あなたがアンリネットさんに勝ったのはイカサマのようですね。あぁ、買収という方が正しいんでしたか」

「それ、おかしいところしかないってわからないのか?」

「何もおかしいところはないでしょう。誰もがこの事実を認識しているのですから」

 

 実際は事実ではなく、ネットの掲示板で書かれた誰かの妄想なのだろうが、栗生は大多数が正しいと思っていることが事実だと信じて疑っていなかった。

 これが国内で自分より格上の学生騎士なら大人しくしていただろう。だが、衆目の前ということで直接口に出してこそいないが、他の連盟所属の国であれば、たとえAランクであっても格下として見る。

 だんだん不機嫌になっていく真を見て何も言い返せないと判断したのか、栗生はどんどん饒舌になっていく。

 

「それに、昨日『徹底的に叩きつぶす』と言っていましたが、あれは口だけなのですか?女の前だからといってカッコつけようとするというのは、みっともないことこの上ないですね。見栄は張らない方が身のためですよ?あなたのような不良風情は、いくらがんばったところで何もできないんですから」

 

 だんだん過激なことを言い始めてきた栗生に、観客席にいるエレンの怒りが爆発しそうになる中、とうとう栗生が一線を越える言葉を放った。

 

 

「まぁ、金に目がくらんで八百長を受け入れたヴァーミリオン皇国も、そうまでして勝とうとした不良と落第生も、その指示通りに動いたあの2人も、けっきょくその程度の大したことがない人間だということでしょう」

 

 

ドパンッ!!

 

 一輝とステラ、エレンを貶める発言をした直後、リング内に銃声が響き渡った。

 突然のことに観客席は静まり返り、栗生がジンジンと痛む右頬にそっと手を這わせると、その手には血がついていた。

 そして、真の右手には、銀色の重厚な拳銃が握られており、栗生に向けられた銃口からは白煙が昇っていた。

 

「・・・てめぇが俺を馬鹿にするのは構わんし、くだらない書き込みに踊らされるのも、まだいい。だが、()()()()()()3()()()()鹿()()()()んなら話は別だ」

 

 真の殺気すら漏らしている口調と、ステラに迫るほどの魔力の圧力に、栗生は思い出したようにハッとして真を糾弾した。

 

「ッ、堕ちるところまで堕ちましたか、如月真!まさか、そのような凶器を隠し持っていたなんて・・・」

「んなわけないだろうが。これも立派な固有霊装(デバイス)だ。そもそも、ただの拳銃で伐刀者(ブレイザー)を傷つけることができるはずないだろうが」

「ですがッ、あなたの固有霊装(デバイス)はそのコートで、たかだか速くなることしかできない能力では・・・!」

「今まで、そういう使い方しかしてこなかっただけだ。俺の能力は・・・」

 

 そう言って、真は自分の周囲に黒い羽をまき散らし、次々と剣や槍、斧に変えてリングに突き刺す。

 そして、リングに突き刺したすべての武器に、炎や雷、水、風などを纏わせた。

 

「見ての通り、あらゆる武器や能力を扱う能力だ」

『ななな、なんとおおお!!ここにきて如月選手が、今までまったく使ったことがない能力を使用したーー!!しっ、しかもっ、あらゆる武器や能力を扱える能力なんて、聞いたことがありません!』

『まったく、ようやく使う気になったか、愚弟め』

『き、如月先生っ、どうして、如月選手は今までこの能力を使わなかったのでしょうか!?』

『理由は主に2つある。1つ目は、能力の扱いにてこずっていたことだ。真の能力、俺や家族は“世界全録(アカシックレコード)”と呼んでいるが、選択肢が多すぎるあまりまともに発動させることすら難しく、魔力もバカみたいにあるから余計に自身の力を持て余していた。今まで能力を使わなかったのは、扱うに足る魔力制御を身に着けるために封印していたからだ。だが、この問題は半年ほど前の時点である程度解決している。理由として大きいのはもう1つの方だ』

『そのもう1つの理由というのは?』

『簡単に言って、あいつ自身が目立つのを嫌ったからだ。あれほどの能力と魔力、“紅蓮の皇女”や“精霊の魔術師”に負けず劣らず注目を浴びるだろう。だが、あいつは誰かの注目を浴びるようなことは嫌っていたから、そのまま怠惰に能力を使わずに授業もさぼっていたということだ』

『な、なるほど・・・ですが、それなのにここで能力を使ったということは・・・』

『あぁ。とうとうあいつも、目立つ覚悟を決めたということだろう。理由は察しが付くが・・・ここで言うことでもないな』

「バカな・・・あり得ない、あり得ないッ!貴様如きの不良が、そんな大それた能力を持っているなんてッ!!あぁ、そうだ、イカサマだ、これもイカサマに違いない!!なら、早く失格処分に・・・」

「黙れ」

 

 仁の解説を聞いて、なおも事実を受け入れようとしない栗生を、真がたった一言で一刀両断にした。

 栗生は、そのたった一言で思わず口を閉ざし、真のいいなりになってしまった事実に羞恥と憤怒で顔を赤くした。

 それには目もくれず、真は試合を終わらせる算段をつける。

 

「てめぇは、自分が優れていると()()()しているみたいだが・・・その程度の実力なら、世界には掃いて捨てるほどいる。少なくとも、俺からすれば他の有象無象と大して差はない」

「ッ、貴様・・・!」

「どうした、さっきから優等生ぶっていた仮面がはがれてるぞ。人のことはフルネームで呼んでなかったか?」

 

 挑発を続ける真に、栗生の頭の中でブチンッと何かが切れる音がしたが、それに構わず真は銃口を向けた。

 

「まぁいい。さっさと終わらせるぞ」

 

 そう言って、真は再び引き金を引いた。

 再び発砲音が鳴り響き、銃弾は真っすぐに栗生に飛んでいく。

 当然、栗生はこれを防ごうとするが、

 

「ッ、バカですねっ、これくらい防いで、ぃ、イギャー!?」

 

 防いだと思った正面からの弾丸は、次の瞬間栗生の右足を撃ちぬいた。

 なぜ、どうして。そう思った栗生は、ふと足下に鏡があるのを発見した。

 そして、展開した鏡をどかせば、そこには自分が展開した覚えのない鏡が。

 

「まさか・・・」

「そう、お前の鏡の能力だ」

 

 呆然と口を開く栗生に、真は淡々と事実を述べた。

 栗生が“鏡の盾(アイギス)”を展開すると同時に、栗生の死角に真の能力で鏡を生成、銃弾を反射させてまったく別の角度から銃弾を通したのだ。

 

「さて、これ以上は時間の無駄だ。さっさと終わらせるぞ」

 

 そう言うと、真は自身の目の前に鏡を生成し、同時に栗生の周囲に100を優に超える鏡を出現させた。

 それを目にした栗生は、絶望の表情を浮かべ、

 

「まっ・・・」

「終わりだ」

 

 栗生の制止の言葉には耳を貸さず、真が引き金を引くと、放たれた銃弾は()()()()()()()()()()()()()現れ、栗生をハチの巣にした。

 

「栗生誠也、戦闘不能!勝者、如月真!!」

 

 同時にレフェリーから勝者が宣言され、会場は熱狂的な歓声に包まれた。

 

『試合終了ォォォ!勝ったのは、圧倒的な力をここで初めて見せつけた、如月選手の勝利だぁー!!』

 

 実況も圧倒的な能力を目にした興奮で頬を紅潮させる中、真はこれ以上この場にいる理由はないとリングを後にした。

 そんな中、

 

(・・・いくらなんでもやり過ぎだ)

 

 いくら視線でサインを送ったとはいえ、いくらなんでもボコボコにし過ぎだと、仁は内心で頭を抱えていた。

 試合終了間際に栗生が浮かべた絶望の表情。これから、いったいどのような影響が出るのか。

 

(これは、後で説教か)

 

 人知れず、後で真がガチ説教をくらうことが決まったのだが、少なくとも、観客席と隣にいる実況にはわかるはずもなかった。

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