黒翼の魔王   作:リョウ77

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ちょっと気まずい

 真とエレンが2人で祝勝会をした翌朝。

 真はベッドの上でゆっくりと目覚めた。

 

「ん?・・・昨日は、たしか・・・」

 

 酒を飲んでいたこともあって一部の記憶があやふやになっている真は、寝ぼけた頭で昨夜のことを思い出そうとする。

 

「ぁん・・・」

 

 すると、なにやら色っぽい声が聞こえた。

 そこで、急速に真の意識が覚めていく。

 手元を見れば、真の手はエレンの制服の中に入っていた。

 幸か不幸か、胸を揉んでいるわけではないが、代わりに腹を揉むように撫でていた。

 真の手の平に、すべすべとした肌触りと女性らしく程度に脂肪がついた柔らかい感触が返ってくる。

 

(女の子の腹を揉むっていうのはいかがなものか・・・いや、胸とか尻を揉むよりはマシ、か?)

 

 頭の中でやめなければと考える一方で、心のどこかでエレンが寝ている間くらいはいいかもしれないと思ってしまっている真は、結局もう少しだけエレンのお腹の感触を楽しんだ後で、エレンが起きないようにこっそりと起き上がってベッドから抜け出した。

 台所を確認すると、食器類はすべて仕舞われていた。本当にエレンが1人でやったらしい。

 その後、風呂場に移動した真はシャワーを浴びながら昨夜のことを思い出し、

 

「あ”あ”あ”ぁぁぁぁ・・・・・・!」

 

 突然頭を抱えてうめきだした。

 思い出すのは、昨日エレンに言った言葉。

 

『・・・まぁ、少しくらいは受け入れてもいいかもな』

「あぁぁぁぁ何言ってんだ俺ぇぇぇぇ・・・」

 

 なんと意地っ張りで、なおかつちょっとカッコつけたような言い方なのか。

 よりによって、それをエレンに言ってしまうとは。

 さらに、酒の力もあったのだろうが、エレンにキスまでされた。

 昔別れたときにしたものよりも熱のこもったキスに、思わず真の顔が熱くなる。

 正直なことを言えば、あまりエレンと顔を合わせたくない。

 だが、露骨にそんな態度をとれば周りから不審に思われるのは明らかであり、もっと言えばエレンにからかわれるのはもっと明らかだ。

 となれば、真にできることはただ1つ。

 

「平常心だ、平常心。できるだけ平常心を保つんだ・・・」

 

 それでどこまで誤魔化せるかはわからないが、何もしないよりかはマシなはず。

 冷たいシャワーを浴びながら、一人真は気を引き締めた。

 

 

* * *

 

 

 真がシャワーを浴びながら決意を固めている頃、実は真がベッドを出た時にはすでに起きていたエレンは、毛布にくるまりながら顔を赤くしていた。

 

(キス・・・しちゃいました・・・)

 

 エレンが思い出すのは昨夜のキスのことだ。

 真らしい、素直になれないながらも言ってくれた本心についときめいてしまい、衝動的にキスをしたのだが、いろいろと多感なお年頃であるエレンはかなり恥ずかしがっていた。

 これが昔の子供のころであればまだ無邪気でいられたのかもしれないが、そういう知識を身に着けた今となれば話は別だ。

 ちなみに幸か不幸か、エレンは真が腹を撫でつつ揉みつつしていたことに気付いていない。

 真にとっては不幸中の幸いなのだろうが、それはさておき、

 

(・・・シンと、顔を合わせられるでしょうか・・・?)

 

 真が聞けば「今更!?」などと言いそうなことを考えていたエレンは、顔を洗うために立ち上がった。

 

 

* * *

 

 

 その後、特にハプニングもなく毎朝の鍛錬と朝食を済ませた2人は、できるだけ普段通りを装って登校した。

 そして教室に入ると、真はどことなく雰囲気が雰囲気が違うことに気付いた。

 真のことを遠巻きにしているのに変わりはないが、嫌悪や厄介者扱いするような視線はなく、逆に好意的な視線が多くなった。

 エレンも、真を取り巻く視線に薄々だが気づいた。

 

「・・・たった一試合で、ずいぶんと現金なことだ」

「ですが、別に悪いことではないですよね?」

「それはそうだが・・・」

 

 たしかに厄介者扱いされるよりはマシかもしれないが、基本的に他人の評価に興味がない真はだからといって特に嬉しいと思うこともなかった。

 逆にエレンは、真が他者から正当に評価されるようになったことが自分のことのように嬉しく思い、少し上機嫌になる。

 真はそれに気づかないふりをしつつ、自分の席に座って生徒手帳をいじる。

 確認するのは、昨日の選抜戦に関してだ。

掲示板を確認してみると、掲示板は昨日の真と一輝の選抜戦のことでもちきりだった。

 まだ2人のことをひがむような声もあるが、それでも以前と比べて2人のことを認めるような肯定的な書き込みが増えていた。

 それらを流し読みしていると、ふと気になるワードを見つけた。

 

『黒翼』『無冠の剣王(アナザーワン)

 

 これは、前者は真を、後者は一輝を示す新たな二つ名だ。

 この2つの異名が、多くはないが点々と書き込まれていた。

 どうやら昨日の一戦で、2人は新たな二つ名を引っ提げるようになるほど注目されるようになったようだ。

 

「何を見ているんですか?」

 

 そこに、エレンが唐突に後ろから真の学生証を覗き込んだ。

 真は不意打ち気味に鼻孔をくすぐる香りに一瞬ドキリとしつつ、鋼の精神で表に出さないようにしつつエレンに画面を見せる。

 

「いやなに、昨日の選抜戦の影響がどんなもんか調べてた」

「そうなんですか?・・・うわ、すごいですね。どこもシンとイッキのことでもちきりです」

「まだ部分的ではあるが、新しい二つ名も出てるしな」

「本当ですね。それに、ずいぶんとかっこいいです」

「一輝はともかく、俺もか?まぁ、シンプルなくらいがちょうどいいだろうが」

 

 まだ完全な固有霊装(デバイス)を見せたわけではないが、実に言い得て絶妙な二つ名である。

 まぁ、羽を見せれば翼を連想するのは当然と言えば当然なのだろうが。

 

「それで、どうするんですか?」

「どう、とは?」

「いえ、もしかしたらシンも人気者になるかもしれないじゃないですか?その時はどうするのかなと」

「べつに。どうともしない」

 

 人の評価に興味がないということは、好評も悪評も等しく興味がないということでもある。

 他人の態度が変わったからと言って、真まで態度を変えるつもりはあまりなかった。

 

「本当ですか?もしかしたら他の女の子から声をかけられるかもしれまんよ?」

「知らん」

「突然人気者になったシンに私がやきもきするというシチュエーションもありますよ?」

「いらん」

「釣れないですね。でしたら・・・」

「それ以上はいらんから」

 

 真としては、エレンの脳内にどれほどのシチュエーションの引き出しがあるのか少し気になるところだったが、これ以上言わせても碌なことにならない予感がして止めさせることにした。

 

「むぅ・・・ですが、注目は浴びてますよね」

「そりゃあ、昨日のことがあれば当然だろう」

 

 実際は、距離感がやたらと近い真とエレンにあれこれと想像を膨らませている者が多いのだが、幸か不幸か2人はそのことに気付かなかった。

 

 

* * *

 

 

 午前中の授業を終えた真とエレンは、食堂で一輝たちと待ち合わせて昼食をとっていた。

 一見、何の変哲もない光景に見えるが、

 

「・・・」

 

 なぜか一輝は、まじまじと真のことを眺めていた。

 

「・・・なんだ、一輝?」

 

 なんだか居心地が悪くなってきた真は、さっさと話を聞こうと思った真は、一輝に尋ねた。

 

「いや、なんだか真とエレンさんの距離が微妙に離れているような気がして」

 

 一輝が感じたのは、真のクラスメイトが感じたものとは真逆の感想だった。

 そして、それは他の面々・・・ステラ、珠雫、凪にとっても意外であった。

 

「そう?いつも通りに見えるけど?」

「そうですね。特に変わったところはないと思います」

「でも、一輝がそう言うってことは、何か理由があるの?」

「うん。なんとなくだけど、2人が意図的に顔を合わせないようにしている気がして」

 

 それは、特に人を見る目が優れており、なおかつ真と1年間ルームメイトであった一輝だからこその気づきだった。

 他の3人も、一輝の言葉に「言われてみれば」と納得した表情を見せる。

 たしかに物理的な距離はいつも通りだが、2人とも決してお互いの顔を見ようとしていなかった。

 まるで、顔を合わせてはまずいと思っているかのように。

 それに対して、一輝の鋭い指摘に2人はシラを切った。

 

「いや、気のせいじゃないか?」

「そうですね。特に変わったことはありませんよ」

 

 そっぽを向いたままだったが。

 ここで一輝たちも、昨夜に2人の間で何かがあったことを悟った。

 なにせ、元々やる予定だった祝勝会が一輝の負傷でお流れになってしまい、それぞれ2人ずつで思い思いに時間を過ごしていたのだ。

 その中で、2人だけのささやかな祝勝会を開いたという真とエレン。

 何もないと考える方が難しかった。

 特に、自身の近衛騎士の恋路が気になるステラと人の恋バナに敏感な凪は昨夜のことを聞き出す気満々であったが、鉄壁の姿勢を示す真の前で聞き出すのは難しいと判断。

 故に、

 

「それじゃあ、今日は昨日お流れになっちゃった祝勝会をしましょうか。買い出しは私たちがやっておくわ」

「そうね、そうしましょう」

 

 凪は自然な流れを装ってしれっと今日の予定を決め、ステラもそれに賛成した。唯一、珠雫は興味がなさそうな様子だったが、だからといって止めるつもりもないようで無言を貫いている。

 

「いや、買い出しなら俺たちも・・・」

「大丈夫よ。ステラちゃんも力持ちなんだから、ちょっとの荷物くらい問題ないわよ」

 

 普段なら「レディに荷物を持たせるの?」みたいなことを言うだろう凪は、このときだけ都合よくステラに荷物持ちを任せ、ステラもそうだと言わんばかりに頷いた。

 これに真は「あ、もう駄目だ」と匙を投げた。どうあがいても女子のお出かけを止めることはできない、と。

 この時、エレンは思わずどうにかしてほしいと懇願の瞳を向けていたのだが、

 

「・・・まぁ、そういうことなら、俺たちは部屋の方で準備するか。部屋はどこにする?俺の部屋なら食材にはあまり困らないが」

 

 それに気づかないふりをして今後の予定決めに同調した。

 エレンからすれば昨夜のキスの件は羞恥に悶える出来事なのだろうが、真としては寝ぼけていたとはいえ今朝のセクハラまがいの行動が明るみに出るわけではないと考えなおすことにした。

 結局、エレンの無言の抗議が受け入れられることはなく、祝勝会の買い出しという名目の尋問が行われることになった。

 

 

* * *

 

 

「それでそれで、何があったの?」

「当然、教えてくれるわよね?」

 

 昼食を食べ終わった後、エレンはステラと凪に連行され、買い物が終わった後で昨夜のことを問い詰められた。

 終始、珠雫は無関心を貫いているが、少し離れたところで3人の会話に集中を割いているあたり、やはり興味があるのだろう。

 

「えっと、本当に私とシンは何も・・・」

「嘘ね」「嘘でしょ」

「あ、、あまり長く話していると食材が・・・」

「別にすぐに傷むようなものは買ってないでしょ?」

「諦めてきりきりと吐きなさい」

「うぅ・・・」

 

 なんとか逃げようとするエレンだったが、結局ステラと凪の圧力に負けて話すことになった。

 2人ですき焼きを食べて小さな祝勝会をしたこと。そのためにすき焼きに合う日本酒を購入したこと。真が自分のために怒った(一輝やステラを含むことも説明した)のが嬉しかったこと、さらに真からエレンを受け入れるという発言を受けて、酒の勢いもあって軽くだがキスをしたこと。それから、真と顔を合わせるのが少し恥ずかしくなってしまったこと。

 すべて話した結果、

 

「なによ、今さら恥ずかしがってるの?」

「うっ」

 

 主からストレートに気にしていたことを指摘された。

 だが、真とエレンの子供の時のことを知らない凪は疑問符を浮かべる。

 

「今さらって、どういうことかしら?」

「エレンって実は、子供の時だけどとっくにシンにキスしてるのよ」

「あら!そうなの?」

「・・・・・・はい」

 

 改めて他者の口から言われると再び羞恥心が沸き上がり、エレンは顔を赤くして俯いた。

 とはいえ、凪もエレンの心境はなんとなく理解できるようで。

 

「まぁ、たしかに無邪気な子供の時といっしょくたに考えるのは違うとは思うけど・・・でも、すでにアピールっぽいアピールはしてなかったかしら?」

「う"っ」

 

 理解を示した上で、正論を突き付けた。

 たしかに、キスはしていなかったとはいえ、すでにアピールはしている。毎日の同衾がいい例だろう。

 改めてそれを指摘されて、エレンは自分の心境に思わずツッコミをいれた。

 

(今さら、シンと一緒のベッドで寝ておきながら、ここまで恥ずかしがるなんて、私は乙女ですか・・・いや、乙女ですけど。ちょっといろんな知識を持ってますけど)

 

 そのちょっとの知識のせいで乙女の微妙なバランスが大きく傾いているのだが、エレンはそれに気づいていない。

 凪も、そんなエレンが可愛く見えたのか、あるいは不憫に見えたのか、優しい表情と声音で背中を押すことにした。

 

「そうね、恥ずかしい云々はエレンちゃん自身で折り合いをつけるしかないと思うけど・・・でも、自分に少しわがままになってもいいんじゃないかしら?」

「わがまま、ですか?」

「その場にいなかったアタシには、真の受け入れるという言葉がどの程度なのかはわからないけど、それでも今まで通り、あるいはもう少し踏み込んでもいいんじゃないかしら?真だって、エレンちゃんのことを拒絶したことはないんでしょ?」

「それは・・・そうですね」

 

 たしかに、なんだかんだ言いながらも、真は今まで文句を言いながらも、エレンのことを突き放すようなことはしなかった。

 ならば、「少しくらいは受け入れてもいい」と言ったのだから、もう少し踏み込んだスキンシップをしても文句を言われる筋合いはないだろう。

 

「あたしも、エレンちゃんの恋路を応援してるから、頑張ってね♪」

「そうですね・・・はい!頑張ります!」

 

 凪の後押しを受けたエレンは、完全に元の調子を取り戻した。

 その後ろで、

 

「ねぇ、アリス」

「なに、ステラちゃん?」

「結局、焚きつけるだけ焚きつけただけじゃない?」

「あら?エレンちゃんみたいな可愛い子に好意を向けられるんだから、真も嬉しいんじゃないの?」

「正直、その姿があまり想像できないのだけど・・・」

 

 ステラの脳裏に思い浮かぶのは、今までよりさらに積極的にアピールをして困った顔を浮かべる真の姿だった。

 だが、

 

(まぁ、エレンに恋をさせたんだから、それくらいは受け入れてもらわないとね。それに、あたしだって・・・)

 

 これから待ち受けるだろう真の苦労と、自分もあまり人のことを言えない事実に、ステラも人知れずやる気をみなぎらせた。




モンハンライズの先行体験版をダウンロードしました。
地味にモンハンやるの、1年近くぶりなんですよね・・・。
なにせ、PS4を持ってないのでワールドとかはやれず仕舞いですし、XXはちょっとモンハンをこじらせたというか邪道進化させちゃった迷作なので結局やらなくなってしまい・・・。
最近はずっとFPS系をやってたので操作もおぼつかないところもありましたけど、3DSのやつは素人なりに全部やりこんだのでそれなりに動けました。
まぁ、ボタンが増えて慣れない部分もありましたけどね。
とはいえ、やっぱり正統進化のワールドを受け継ぎつつ新しいアクションも出て面白かったので、予約はしてませんが買うことになりそう。

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