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それは、己の魂を武装、“
伐刀者は最低でも人を超えた身体能力を発揮することができ、最高クラスでは時間や運命すら操ることができる。
当然、その力は世界中で重宝されており、警察や軍隊はもちろん、戦争すらも伐刀者によって成り立っている。
そして、これもまた当然のことであるが、それほどの大きな力を持つ者には相応の責任が伴う。
その1つが“魔導騎士制度”であり、国際機関の認可を受けた伐刀者の専門学校を卒業した者にのみ免許と魔導騎士という立場を与え、能力の使用を認めるというものだ。
真と一輝が在学している破軍学園も、日本に7校ある騎士学園のうちの1つだ。
その破軍学園の理事長室に、真と一輝の姿があった。
「なるほど。下着を見てしまった事故を、自分も脱ぐことで相殺しようとしたと」
寮の警備員に痴漢として現行犯で連行された一輝の経緯を、額にシップを張り付けた真と、スーツを着た妙齢の女性、破軍学園理事長・
「「アホだろお前」」
呆れた表情も見事にシンクロさせて言い放った。
いや、この場合、それ以外の反応は起こらないだろうが。
「フィフティフィフティで紳士的なアイデアだと思ったんですけどね」
「自ら女性の前で服を脱ぐやつのどこが紳士なんだよ」
「ある意味、紳士的ではあるがな」
「いや、変態紳士というわけではなく・・・まぁ、今思えば、僕も突然のことで混乱していたんだなぁ、と」
「ふむ。つまり、彼女の魅力的な裸体を見て我を失い、思わず服を脱いでしまったと」
「・・・確かにそうなんだけど、その言い回しはやめてくれません?なんか僕がすんごい危ない人みたいじゃないですか」
「バカ言え、客観的に考えてみろ。女性が1人で、人気のない寮室で着替えをしていたら、突然見知らぬ男の人が入ってきて、おもむろに衣服をキャストオフ。さぁ、お前にはどう見える?」
「すんごい危ない人だった・・・」
言われて一輝も戦慄の表情を浮かべるが、むしろどうして言われるまで気づかなかったのか。真は深い、それはもう深いため息をついた。
「そのとばっちりで、俺は顔面とわき腹を強打して寮の廊下で転がる羽目になったわけだ、と」
「いや、本当にごめん・・・はぁ、ステラさんには留学初日に悪いことをしちゃったなぁ。このことで、日本を嫌いにならないでくれればいいんだけど」
「え?ステラって、まさかステラ・ヴァーミリオンか?」
「なんだ。2人はヴァーミリオンのことを知っていたのか」
「俺は直に会ってはいませんが、朝のニュースはそのことで持ち切りでしたからねぇ」
「僕も、最初は気が動転して忘れていましたけど、ついさっき思い出しました」
ステラ・ヴァーミリオン。
ヨーロッパに存在する小国・ヴァーミリオン皇国の第ニ皇女であり、今年の入学試験で歴代最高成績で入学した、“紅蓮の皇女”の異名を持つ10年に1人と言われるほどの逸材。
であれば、姿はわからなくても真を吹き飛ばした人物が誰なのか、推測するのは容易い。
「ってことは、俺を吹き飛ばしたのはエレン・アンリネットさんですか?」
「あぁ、そういうことだ」
エレン・アンリネット。
あくまで近衛騎士という裏方の立場であるため、知名度で言えばステラよりも劣るが、ステラに匹敵するほどの才能の持ち主と言われている。実際、伐刀者としての実力を示すランクはステラと同じ最高位であるAランクであり、“精霊の魔術師”という異名を持っている。
「本物のお姫様と近衛騎士で、しかも主席と次席で入学なんて、すごいですよねぇ」
「それも、ぶっちぎりのナンバー1とナンバー2だぞ。ステラ・ヴァーミリオンはすべての能力が大幅に平均値を上回り、伐刀者にとって一番大切な能力である“
「ほっといてください」
「まぁ、その通りなんですけどね」
黒乃の言葉を、2人は否定しない。
なにせ、一輝の総魔力量は平均の10分の1程度しかない
「しかし、困ったことになったな。留学にはいろいろな手続きがあるから、入学式よりも早く来日してもらったのだが、初日からこんなハプニングが起こるとはな。まあ、ともかく、この一件、下手をすれば外交問題になりかねん。だから、黒鉄に非はないが・・・責任をとってもらう。理不尽に感じるだろうが、男の度量を見せろ」
「・・・男って、なんでこういう都合のいいときだけ利用されるんでしょうね」
「覗きはともかく、お前まで服を脱いだのは言い訳できないからな?ていうか、下手しなくても外交問題だっての」
自分の境遇に一輝はため息をつくが、真が正論を返す。
一輝もそれくらいはわかっているだろうが、男の度量云々については文句くらい言わせて欲しいのだろう。
「・・・・・・失礼します」
「失礼します」
その時、ノックとともに扉が開かれ、件の少女であるステラ・ヴァーミリオンとエレン・アンリネットが入ってきた。当然、今は破軍学園の制服を着ている。
ステラを始めて生で見た真は、ほんの僅かだが一輝の気持ちがわからないでもないような気がした。
なにせ、パッと見ただけでもわかるほどの美人で、くびれた腰などスタイルも抜群。特に胸元は制服越しでもわかるほど大きく、制服のリボンを押し上げているほどだ。
スタイルで言えば、すぐ後ろにいるエレンも決して貧相というわけではない。胸元もあくまで平均的なサイズはあり、スタイルもステラにも負けていないのだが、エレンが1歩下がっているのもあって、ステラの方がより強い存在感を放っている。
だが、よくよく見れば、ステラの目元は散々泣きはらしたのか真っ赤になっており、エレンが一輝に向けるまなざしはゴミに向けるものと大差ない。
だが、エレンの視線が真に向けられると、申し訳なさそうに目元を伏せる。
緊急事態だったとはいえ、思い切り吹き飛ばしておきながら放置してしまったことを気にしているのだろう。
「ごめん」
一輝の方も、ステラの目元を見て自然と謝罪の言葉が出た。
いくら(覗きに関しては)一輝に非がなかったとはいえ、彼がステラを泣かせてしまったのには変わりないのだから。
「あれは不幸な事故で、僕も別にステラさんの着替えを覗こうと思ったわけじゃない。ただ、見てしまったものは見てしまったわけだから、男としてケジメはつける。ステラさんの気が済むまで煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「・・・潔いのね。これがサムライの心意気なのかしら」
「口下手なだけだって」
苦笑交じりの一輝の言葉に、ステラも多少は気を許したようで、こわばった表情を緩ませて薄くほほ笑んだ。
「ふふ・・・」
「ステラ様、よろしいのですか?」
「えぇ。正直なところ、来日していきなり痴漢にあったのだから、なんて最低な国なのかしらと心底この国が嫌いになりかけたし、国際問題にしてやろうとも思ったけど、あなたのおかげで少し気が変わったわ。あなたがそれほどの心意気を見せたからには、アタシも皇族として寛大な精神で応じなければならないわね」
どうやら、外交問題にはならずに済んだようだ。そのことに、真は軽くホッと息を吐いた。ステラも部屋に入ってきたときの敵意はどこにもないし、エレンもステラが言ったことにある程度納得して引き下がった。
「そういうわけで、後のことはこいつと2人で話しておくから、あなたも隣の彼と話をつけておきなさい。さっきからちらちらと見てたでしょ。先に済ませておきなさい」
「・・・わかりました」
ステラからそう言われたエレンは、ちらりと視線を部屋の隅に向けた。おそらく、話すならそこで、ということだろう。
その意図を察した真は、苦笑しながらもそれに従って移動した。
一輝とステラから少し離れたところで立ち止まると、エレンは真に深々と頭を下げた。
「シンさん、でしたね?先ほどは、あなたのことを吹き飛ばしておきながら最後まで放置してしまい、誠に申し訳ございません」
「いや、気にしなくてもいい。別に軽傷だったし、そもそもの原因はあのバカの奇行だからな。自分の主を優先したエレンさんに非はない」
「そう言っていただけるのであれば、私としても幸いです・・・」
根っこが生真面目なのだろう。真から許しを得てもなお、エレンは申し訳なさそうにしていた。
そんなに気負わなくてもいい。そう言おうとした真だが、その言葉は出てこなかった。
「向こうも終わったようね。それじゃあ、イッキ。あなたの潔さに免じて、この一件、ハラキリで許してあげるわ」
情状酌量の余地があると思っていたステラが、一輝に死刑宣告をしたからだ。
「あれ?寛大な精神はどこに行った?」
「姫であるステラ様にあれだけの粗相を働いたのです。これくらいは当然でしょう。むしろ、名誉死にさせてもらえるだけマシというものです」
「いつの時代だよ、それ」
「私の方は冗談ですけどね」
「逆に言えば、ステラさんは本気ってことだよな」
切腹の制度なんて、廃止されてからは数百年は経っている。
いったい、どこから日本の常識を学んだのか。それを考えると、真の頭が痛くなってきた。
一輝も、結局自分の命がかかることになったから必死に弁明をする。
とはいえ、呆れながらも口論をする一輝とステラから視線を逸らした。
今回の責任はあくまで一輝にあるのだから、自分が関わる必要はないだろう、と。
ちょいちょい黒乃が茶化しているようだったが、それも見ないふりをすることにした。
「にしても・・・まさかと思うが、ステラ殿下は、実は箱入り娘だったりするのか?」
「そうですね・・・ステラ様のお父上である陛下がステラ様のことを溺愛なされているので、男の人と関わることは少なかったですね。今回の留学も、皇后陛下が陛下を地下牢に幽閉することで成り立ったようなものですから」
「いや、国王を幽閉って・・・」
いったい、ヴァーミリオン皇国の国王の権力はどうなっているのか。尻に敷かれているにしても限度と言うものがある。
いろいろと衝撃的な事実に一向に頭痛が治まらない真だったが、それを知ってか知らずか、話題を変えるようにエレンが真に話しかけた。
「それでですね、私の方も聞きたいことが・・・」
次の瞬間、
「傅きなさい!“
ステラの叫びと共に、理事長室が熱を伴った極光で照らされた。
バッとステラと一輝の方を向けば、そこには燐光をまき散らしながら炎を纏う大剣を手に持つステラの姿が。
今ステラが手に持っている大剣こそが、伐刀者の魂を具現化した固有霊装だ。
形は人によって千差万別だが、“紅蓮の皇女”のそれは黄金の大剣。扱う能力は、全てを焼き尽くす灼熱の炎だ。
一輝とステラの言い合いなどそっちのけで話していた2人に詳しい経緯はわかりようがないが、ステラの表情から彼女の逆鱗に触れたということがわかる。
そして、一輝の顔の引きつりもいよいよ限界に近い。
「し、真!お願いだから手を・・・」
「安心しろ。骨は残ってたら拾ってやる」
「僕が死ぬことが前提になってる!?ていうか、エレンさんも早く止めてよ!」
「男としての度量を見せてくださるのでしょう?頑張ってください」
もはや、2人にこの諍いを止めるという選択肢は欠片も残っていなかった。
こうなると、一輝が頑張って何とかするしかない。
「来てくれ!“陰鉄”!!」
対抗する一輝も、自身の固有霊装である烏のように黒い日本刀を顕現して、ステラの打ち下ろしを防ぐ。
だが、一輝がただの日本刀なのに対し、ステラは炎を纏う大剣。刃を防御しても炎でまともに近づくことすらできない。
「なるほど。あれが“紅蓮の皇女”の炎か。理事長室で見るようなものじゃないが、これだけでも十分バカげているな」
10年に1人の天才と言わしめる力を直に見る真は、感嘆の声を挙げる。炎使い自体はいくらでもいるが、数m離れた真たちにも余裕で熱波を届かせるほどの熱量を持つ伐刀者は世界に3人といないだろう。それでも理事長室が無事なのは、ステラの理性がギリギリ残っているからか。
さすがにこれは、一輝も万事休すか。そう思った真とエレンだったが、
「待って待って!ちょっと落ち着こうよ!汚したってそんな人聞きの悪い・・・!別に何もしてないじゃん!」
「うそ!アタシの裸を、い、いいい、いやらしい目でじーっと見てたくせに!」
「たしかに見たけど!で、でも、あれは、その・・・スケベなことを考えていたわけじゃなくて!ただ、その、なんというか、
「ふぇっ!?」
一輝の言葉に、ステラは怒りに燃えた顔が一気に真っ赤になった。
一輝は「また怒らせたか!?」と身構えていたが、そんなことはなく、ステラは顔を赤くしてもじもじし始めた。
「な、ななな、なにをい、言ってるのよバカ!み、未婚の女性に軽々しく、き、綺麗だなんて・・・!これだからデリカシーのない庶民は・・・!」
「ちょろ」
「ちょろいですね」
一輝の褒め言葉ともとれる言葉に激しく照れ始めたステラに、真とエレンは2人に聞こえない程度の小声で貶した。
それはともかく、ひとまずは落ち着いたようだと判断した真は、先ほどからニヤニヤしっぱなしの黒乃に視線を向けて話しかけた。
「さて、理事長先生。いい加減、本当のことを話してくれるんですよね?」
「ほう?どういうことだ?」
「どうして、俺の部屋にエレンさんが、一輝の部屋にステラさんがいたのか、ということです」
「あっ」
「え?」
「なに?どういうことよ?」
真の問い掛けに、一輝は思わず声を挙げ、ステラとエレンもいまいち事情を呑み込めないような表情になった。
「そもそも、日課のランニングに行く前、俺も一輝も部屋に鍵をかけていました。これは間違いありません。なのに、入りようがないはずの俺たちの部屋に、2人はそれぞれ入っていた。ならば、この状況で考えうる中で最も可能性が高いのは、
ここまできて、他の3人もまさかと顔を見合わせた。
これに対し、黒乃は堪えかねたかのようにくつくつと笑い、種明かしをした。
「そこまでバレてしまったのなら、これ以上は隠せないか。いや、すまない。なにやら面白いことになっていたので、つい意地悪をしてしまった。
あぁ、如月が考えている通りだ。黒鉄も、破軍学園の学生寮が2人1室なのは知っているだろう。つまり、黒鉄もヴァーミリオンも、如月もアンリネットも、どちらも部屋を間違えてなどいない。
簡単な話・・・君たちはルームメイトなんだよ」
そんなとんでもないことを暴露され、
「「「え、ええええええええええ!!!」」」
当然のように、理事長室に絶叫が響き渡った。
ただ1人、薄々勘づいていた真も、今までで最も深いため息をついていた。
原作の挿絵を見ていつも思うのが、「いったい制服はどういう仕組みになっているんだ」ってこと。
サランラップみたいに胸を強調しおってからに・・・採寸とかどうしてるんでしょうね。
今回、真の異名として使った「バッダス(badass)」ですが、知らない人向けに説明すると、実際は悪い意味で使われる方が少ないらしいです。
ネイティブでは、意味合いで言えば「ブラボー」に近いそうな。
それでもこれを選んだのは、皮肉交じりという意味合いも込めてみたのと、もともとはやはり不良に近い意味だったので使ってみました。
念のため、指摘される前に説明しました。