「ふ~ん、そういうことがあったんだ」
「ずいぶんと軽いな」
エレンたちが買い出しがてらガールズトークをしている頃、真もまた一輝に昨夜何があったのかを話していた。
その上での一輝の感想は、かなりあっさりとしたものだった。
「いや、そこまで言ったんだったら、もうすでに答えは出ているようなものなんじゃないかなって」
「そういうもんかね・・・っていうか、もう少しアドバイスをしてくれてもいいんじゃないのか?」
「僕だって、そんなに恋愛に詳しいわけじゃないよ?」
「だろうな」
最初からあまり期待していなかっただけに、真も思った通りだったと小さくため息をついた。青春を犠牲にして鍛錬をしていたのは一輝も同じなのだ。
だが、自分だけこのような話をするのはなんとなく気に喰わなかった真は、少し踏み込んで一輝に尋ねかけた。
「というか、そんな他人事でいいのか?お前だって俺のことは言えないだろう」
「ど、どういうこと?」
「とぼけるな。お前だって、ステラと付き合い始めたんだろう?」
「え!?なんで知ってるの!?」
「その反応、やっぱりか・・・」
「あっ!もしかして、カマをかけたの!?」
「いや、聞いていた状況で半分以上は予想していた。あんなことがあって2人きりになったんだから、何かあると思うのは当然だろう。で?どうなんだ?」
おそらく凪と珠雫も気づいているだろうということは伏せておきつつ、親友の恋愛事情に首を突っ込んでいく。
対する一輝は、親友のあまり見ない姿勢に狼狽しながらも話す。
「ど、どうって、なにが?」
「一輝は俺とエレンの様子がおかしいって言っていたが、お前だってあまり人のことは言えないぞ。ステラ共々、微妙にソワソワしてたし。まぁ、他に気付いている奴がいるかは知らんが」
「べ、別に、何もないよ?そもそも、昨夜僕からも告白して付き合い始めたばかりだよ?」
「まぁ、言われてみればそうか」
最初の模擬戦の後から真に好意を示しているエレンと違い、一輝とステラは正真正銘、想いを伝えあってから1日も経っていないのだ。なにかを期待するには、まだ早すぎると言える。
むしろ、翌日からベッドに忍び込んだエレンが大胆すぎるのだ。
「あー、でも、看病してくれたこと以外だと、ステラから頬にキスはされたかな」
「・・・それだけか?」
「うん」
「・・・いや、まぁ、そんなもんか」
一瞬、少し大人しすぎるような気がした真だったが、ステラも奥手なのかもしれないと考え直すことにした。
「そう言う真はどうなの?アピール自体は前からあったよね?」
「そう、だな。アピールと言うか、構われているというか・・・昨夜キスされたのもそうだが、ほぼ毎晩同衾状態だし」
「ど、同衾!?」
「寝てるだけだ。やましいことはない」
「そ、それでも、毎晩なんだ・・・」
「俺も最初はせめて多くても3日に1回くらいにしてくれって言ったが、結局説得は諦めた」
「へ、へぇ~・・・」
自分と比べてあまりに先へと進んでいる親友を前に、一輝は戦慄を隠しきれない。
だが、そこでふとあることが気になった。
「あれ?でも、真とエレンさんって付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「そうだな」
「でも、一緒に寝たりするんだよね?」
「・・・そうだな」
「・・・どういう関係?」
「知らん」
一輝の素朴な疑問を、真はバッサリと切り捨てた。
「し、知らんって・・・」
「あ~、言い方が悪かったな。ぶっちゃけ、俺もよくわからん。そりゃあ、エレンのことを嫌っているわけじゃないが、好きかどうかと言われても・・・」
「でも、少しくらいは受け入れてもいい、って言ったんだよね?」
「その言葉は俺に刺さるからやめてくれ・・・まぁ、それはそうなんだが・・・なんと言うか、俺がエレンに押されっぱなしになってるだけなんじゃないかって思っている自分もいるというか、そんな感じだ」
「なるほどね」
真の言葉に、一輝もなんとなくながら理解を示した。
たしかに、相手に押されっぱなしで主導権を握られていると言えば、たしかに同じような状況だろう。
それでも、一輝は完全に納得したわけではなかった。
(真って、そんな簡単に流されるような性格じゃないと思うんだけど・・・)
たしかに恋愛ごとに関しては経験がほとんどないが、それでも真には決してぶれない芯があることを一輝は知っている。
だからこそ、たとえ経験がない事柄だったとしても、真が簡単に雰囲気に流されるとか相手のペースに押されっぱなしになるというのは意外だった。
そこでふと、あることを思い出した。
(そう言えば、子供の時に指輪をあげたって言ってたよね。子供の時にエレンさんが好きだったとしたら、もしかして、今の真はエレンさんを意識していることを意識しないようにしている・・・?)
ありえるかもしれない可能性をあれこれと考える一輝だったが、それでも結局それ詮索は止めることにした。
(あれこれ詮索するのも悪いし、僕だってあまり人のことばかり気にしていられないからね・・・)
一輝もまた、初めての恋人を得て手探りの状態なのだ。真のことばかり考えてるわけにもいかない。
「そういえば、何か僕たちで用意しなきゃいけないものってあったっけ?」
「ないとは思うが、軽食くらいは作っておこう。あぁ、一輝はゆっくりしてていいぞ。お前は今回祝われる側だしな」
「それを言ったら真もじゃない?」
「俺は昨夜祝われたからいいんだよ」
そんなことを話しながら、真は冷蔵庫の中を物色する。
「軽くつまむのにちょうどいいものは・・・野菜があるし、即席漬けでも作るか」
勝手知ったると言わんばかりに冷蔵庫の中をあさる真は、中から適当な野菜と調味料を取り出して慣れた手つきで即席漬けの用意をする。
ちょうどそのとき、扉がガチャリと開いた。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「おっ、来たか」
ちょうど作り始めたタイミングで、エレンたちが買い出しから戻ってきた。
そこに、凪が台所で即席漬けを作っている真を発見する。
「あら、それは何かしら?」
「即席漬け。何かつまんで待っていようと思ってな」
「なるほど、あれですか」
「エレンは食べたことがあるの?」
「はい、何度か」
「あっ、皆おかえり。僕も何か運ぼうか?」
「大丈夫ですよ。お兄様は主役なんですから、重いものはそこのゴリラに持たせればいいんですよ」
「誰がゴリラよ!!」
「ちょっ、こんなところで喧嘩はダメだって!」
珠雫の挑発にステラがのっかって軽く喧嘩を始めたが、慌てて仲裁する一輝と当事者を除いた3人はやれやれと言いたげに苦笑しながら、仲裁を一輝に任せてそれぞれ祝勝会の準備を始めるのであった。
今回は次回への繋ぎ的な感じでけっこう軽めに。
1ヵ月以上空いてしまったので、感覚を取り戻す意味合いも兼ねてね。