「はぁ?それって本当なの?」
「残念ながら、マジもマジだ」
真による魔力制御のレクチャーが一段落し、夕食を食べ終えてからステラとの約束通り魔力放出による巨大粘土城の製作を始めたのだが、その時に明日の選抜戦の相手が桐原になったことを伝えたところ、ステラから呆れの声が出てきた。
口には出していないものの、他の面々も反応は似たようなものだ。
「なんというか、一輝とやった直後の試合が真になるって、運命みたいね?」
「そんな運命なんてどぶに投げ捨てればいいだろ」
さしもの凪も反応に困り気味で、少し茶化してみたものの真のしかめっ面はそのままだった。
「ったくよ~、何が悲しくてウザイ奴と連続で戦わなきゃいけねぇんだよ。ほんっと嫌になる・・・」
「あぁ、シンが正真正銘の不良みたいに・・・」
「でも作業の手は緩めないのね」
吐き出す言葉は不良そのものだが、それでも作業はいっさい妥協せず、内装の製作に取り掛かった。
「ちなみにだけど、シンってキリハラとは相性はいいの?」
「そもそも、能力的に俺に相性の悪い相手なんていないんだが」
「それもそうね」
真の能力は言ってしまえば『何にでもなれる能力』。その場で相手にとって相性が最悪な能力になることくらい容易い。
そのため、真には天敵はほとんどいない。
それでも、皆無というわけではないが。
「しいて言うなら、むしろ一輝みたいなゴリゴリの武術タイプが苦手だ」
「そうなの?」
「俺だって武術の心得はあるが、さすがに極めてはいない。能力抜きの純粋な体術とか剣術勝負になると、どうしても一輝には後れを取る」
逆に言えば、武術を極めていない能力メインの
そして、それほど武術を極めている人間など、真の頭の中には一輝を含めた3人ほどしかいない。
「まぁ、結論から言えば桐原は俺の敵になり得ない。むしろ、問題は他にある」
「それって?」
「俺がボコす前に桐原が棄権する可能性があることだ」
「「「「「あ~」」」」」
真の言葉に、その場にいる全員が納得の声をあげた。
桐原の異名である“狩人”の由来なのだが、主に2つある。
1つは、彼の武装と能力。
彼の能力は完全ステルス迷彩で、武装は弓矢という超距離武装。この2つによって、桐原は相手を一方的になぶることができる。
そしてもう1つは、彼は自分より強い相手、相性が悪い相手とは決して戦わないことである。
完全ステルス迷彩を確実に破る方法は、広範囲攻撃でリングごと薙ぎ払うこと。
桐原は、これができる相手とは一切戦おうとせず、試合をせずに棄権するのだ。
“狩人”という異名は、この騎士らしからぬ戦い方からついたものなのだ。
「俺の能力は、栗生との試合ですでに明らかになっている。俺の能力を知っていれば、広範囲攻撃ができることくらい、すぐに予想できるだろう。一応、出力は抑えめにしてあるから、できないと高を括ってくれる可能性も0ではないが」
「さすがに、それはないですかね?」
「桐原はクソだがバカじゃない。一輝に負けてメンタルはボロボロだろうが、そういうのには敏感だろうからなぁ」
少なくとも、仮にステラやエレンと戦うことになった場合、桐原は迷わず棄権するだろう。
真であれば可能性は0ではないが、それでも確率は限りなく低い。
「最悪、脅してでも試合に引きずり出すっていう手もなくはないんだが、それやると確実に罰則を喰らうからなぁ。マジで運頼みだ。しかも分が悪いやつ」
「真って、運頼みは嫌いな方なの?」
「運に任せるくらいなら、自分でなんとかするほうが建設的だろ」
真とて運を否定するつもりはないが、最初から運頼みというのはあまりいい気分ではない。
少なくとも、真は神頼みというものをしたことはなかった。
「まぁ、そのことは流れに任せるとして・・・ほら、これでいいか?」
話している間に作業が終わったらしく、真の前には人の背丈と同じくらいの城が出来上がっていた。
窓を覗いてみれば、ちゃんと部屋や家具も作られている。
「わぁ!本当にすごいわね!!」
「これは、さすがに私でも真似できそうにありません」
「それより、これって形を保ってるの?粘土だったら、わりと崩れやすいと思うのだけど」
「要所を魔力放出でカバーしてる。だから、けっこうキツイ」
たしかに真の魔力制御は超一流だが、だからといってそれがいつまでも続くと言うわけではない。
このレベルの魔力放出を維持するとなると、今の真では10秒前後が限界だ。
「だから、写真を撮りたいなら早くしてくれよ」
「ちょっと待って!すぐに撮るから!」
そう言うと、ステラは目に留まらぬほどの速さで生徒手帳を取り出し、カメラ機能で全方位からパシャパシャと粘土城を撮影し始めた。
だが、
「っと、そこまでだな」
「あぁ?!」
10秒ほど経ったところで真が魔力放出を解除し、粘土城は崩れてしまった。
そして、それからすぐに真は魔力放出で粘土の塊を1m四方の立方体に整形した。
「ふぅ~・・・さすがに疲れたな」
「お疲れ様です、シン」
大きく息を吐いて座り込む真に、エレンが後ろから冷えた麦茶を差し出した。
「ありがとな、エレン」
「いえ、気にしないでください」
「ちょっとシン!もう1回!もう1回だけお願い!」
エレンから渡された麦茶を飲んで一息ついた真に、ステラがこれでもかと言わんばかりに食い下がった。
対する真は、心底嫌そうな表情になる。
「ヤだよ。つーか、明日選抜戦がある人間にさらに労働を強いるのか?それは人の上に立つ者としてどうなんだ、皇女サマ?」
「報酬は払うから!」
「そういう問題じゃねぇよ。明日に備えて休ませろって言ってんの。ていうか、別の日にやるって選択肢はないのか?どのみちやらねぇけど」
「そこをなんとか!」
「だ~、めんどくせ~」
意地でも引き下がらないステラに真が辟易してきたところで、エレンが横から口を挟んだ。
「ステラ様、そこまでです。元々、今回シンが城を作ってくれたのはステラ様がどうしてもと仰ったからですよ。これ以上わがままを重ねてはダメです」
「うぅ~・・・わかったわよ・・・」
従者として来ているエレンに諭されたことで、ステラは渋々ながらもこれ以上の要求をやめた。
「まったく、子どもっぽい人ですね。まぁ、かくいう私も真さんの技をもっと見たかったですが」
「そうは言っても、魔力放出に限定した魔力制御なら行きつく先は誰でも同じだ。できることは、反復練習と応用。こればっかりは、俺も教えれることは少ないからな~」
「あら、そう言うわりにはクラスメイトの子に指導してたわよね?」
「俺が教えたのは、魔力制御のコツじゃなくて上達するための心構えと練習方法だけだ。それがたまたまうまくハマっただけだよ」
そう言う真だが、真の指導によってクラスメイトの魔力制御の基盤はさらに盤石なものになるため、結果的にクラスメイト達のためになっていることに変わりはない。
エレンも笑みを浮かべて真の横顔を眺める。
「それはそうと、そろそろ部屋に戻った方がいいんじゃないか?」
「あら、もうこんな時間なのね」
時計を見れば、すでに9時に近い時間になっている。
寮の門限が9時になっているため、すでに学内にいるとはいえ戻った方がいいのはたしかだろう。
「それじゃあ、また明日ね。明日のシンの選抜戦は、みんなで見に行くわ」
「幸い、時間は誰もかぶってないしね」
「そりゃどうも。んじゃ、また明日。あ、ステラは粘土持ってけよ」
「うっ、わかったわよ・・・」
さりげなく粘土を放置して帰ろうとしたステラだが、さすがに自分が買ったものを人の部屋に置いておくのは罪悪感があるのか、主に一輝に対して申し訳そうにしながらも粘土を以て自室へと戻っていった。
それからは特に何事もなく、風呂も入ってあとは寝るだけとなった。
だが、
「・・・結局、こうなるのな」
「えへへ」
まるでこうするのが当然だというように、エレンは真のベッドにもぐりこんでいた。
真としては、選抜戦の前くらいはゆっくり寝たいため別々がいいのだが、すでに諦めた表情でエレンに背を向けて横になっていた。
なのだが、今夜は少しいつもと違った。
もぞもぞとエレンが真に近づくと、真の首に腕を回して後ろから抱きついたのだ。
「・・・なんだ?今夜はいつにも増して積極的だな」
「いえ、特に理由はありませんよ。なんとなく、ですかね」
「なんとなく、か」
「えぇ。なんとなく、です」
それから沈黙が続いたが、どことなく抱きつく力が強く感じた真は、もしやと尋ねた。
「もしかして、明日の選抜戦に思うところがあるのか?」
「・・・ないわけではありません」
やっぱり、と真は思ったが、その考えはすぐに否定された。
「ですが、こうしているのとは違います」
「違うのか?」
「はい・・・今日の実習で、シンが私よりもずっと遠いところにいた気がしたんです」
「・・・そう、か?」
たしかに、実力差という意味なら、真はエレンよりもはるか先にいる。
だが、それは学園で初めて会った日の模擬戦ですでに明らかになっていることだ。
それが、今さらになって不安材料になるものなのか。
真としてはそれが疑問だったが、エレンにとっては違ったようだ。
「はい。なんて言えばいいんでしょうか・・・そうですね。違いがはっきりしてしまったから、ですかね」
「違い?」
「えぇ。あの戦った日は、魔力量とか能力とか、言ってしまえば才能で負けている感じがしました。ですが、今日は才能ではない、純粋な技術でもはっきりと違いを見せつけられました。当然、魔力制御にもセンスはあるのでしょうが、それでも真の魔力制御は鍛錬によって積み上げられた、センスだけでは片付けられないものです。それを見て、この人は私とは違う世界にいるんだって見せつけられてしまって・・・」
「それで、俺が遠くにいる気がしたのか?」
「はい。ついでに言えば、ちょっと不安にもなりました。私は、本当にこの人についていけるのか、って・・・」
その言葉を聞いて、真はハッとした。
一輝とステラ、真とエレンでは、関係は似て異なるものなのだ。
一輝とステラは、互いに高め合うために、互いに強くなるために、そして、来たる七星剣武祭で頂点を争うために。2人はその誇りと志によって繋がっているのだ。
だが、エレンは違う。
もちろん、エレンにも似たような気持ちはあるのだろうが、エレンが求めるのはあくまで真の隣だ。
ステラと違い、いつまでも後ろを追いかけているという事実に、どうしても不安を感じてしまうのだ。
その言葉を聞いて、真は考え込み・・・不意に、エレンの方に向き直った。
そして、エレンの頭を優しく撫で始める。
「シン・・・?」
「悪いけど、俺は不器用だからな。足並みをそろえるってのはどうしても苦手なんだ。
けど、それでも俺はエレンが同じ場所に来るまで待つし、必要なら手だって貸す。
だから、そう不安にならないでくれ。少なくとも、今俺はここにいるから」
「・・・はい。ありがとうございます」
真の言葉に、エレンはふにゃりと表情を崩し、そのまま真の胸を顔を押し付けて寝息を立て始めた。
(少し、クサすぎると思ったが・・・安心してくれたようで何よりだ)
真も、エレンに対してまったく好意を抱いていないというわけではない。
むしろ、他と比べれば好意を抱いていると言ってもいい。
それでも、そのことを表に出さないのは、自分が異質だと理解しているからだ。
下手に自分に近づきすぎると不幸になってしまうと弁えているから、その気持ちを心の中に押し込める。
だが、だからこそ、
(もし、エレンが俺と同じ場所にたどり着いたら、その時は・・・)
果たして、それはいつになるのか。
いつ来るかわからない未来に思いを馳せつつ、真もまた明日に備えるために瞼を閉じた。
こんな恋愛、してみたいとは思います。
思いますが、決して望みません。
現実にこんな理想を求めるとか、自殺行為に等しいんです。
だから、こうして思う存分に二次創作の中で書きまくっているわけですが。
意外とちょうどいい欲求発散になるんですよね、これ。