衝撃的な事実をカミングアウトされた4人は、先ほどまでの言い合いもそっちのけに黒乃に詰め寄った。
「どっ、どういうことですか、理事長先生!アタシが、こ、この変態とルームメイトって!」
「そのままの意味だぞ、ステラ・ヴァーミリオン。なにか問題が?」
「大有りです!!」
「私も同じです」
「僕もです。たしかに破軍学園の寮は2人1部屋だけど、男と女が一緒なんて聞いた事ない」
「この辺り、ちゃんとした事情があるんですよね?」
「あぁ、当然だ。黒鉄が言ったことも、私が理事長として就任する前だった去年までの話だ。黒鉄、如月。お前たちにはすでに話しただろう。私の方針を」
「・・・完全な実力主義」
「あと、徹底した実戦主義、でしたね」
「そう、それが私の方針だ」
もともと、黒乃が理事長として就任するようになったのは、近年レベルが低くなってきている破軍学園を立て直すためだ。というのも、年に一度開かれる、7校の騎士学園合同で行われる、日本で1番強い学生騎士を決める武の祭典『七星剣武祭』でもあまりいい成績を残せていない。
そのうちの方針の1つが、今回の部屋割りだという。
今年からは、部屋割りは性別や出席番号も関係なく、
これを「どうだ、すごいだろう」とでも言わんばかりに説明する黒乃だったが、黒鉄や如月からすればなおさらおかしな話だった。
「だったら、なおのこと変じゃないですか。ステラさんはぶっちぎりのナンバーワンなんでしょう?それがなんで、学年最下位で留年した僕と同じ部屋なんですか?」
「りゅ、留年!?あんた、留年生なの!?」
「お恥ずかしながら・・・総合ランクもFだよ」
「F・・・Fランクとアタシが、実力が近い者同士って・・・」
「あぁ、ついでに言えば、そこにいる如月も留年生だぞ。こっちは、単に授業やら実習やらをさぼって単位が足りなかっただけだがな」
「なっ、さぼりで留年だなんて、本当なんですか!?」
「まぁ、事実っちゃあ事実だな。・・・それもどうしてですか?」
「くく。まぁ、なんだ・・・君たちは特例でな。ぶっちゃけた話、ヴァーミリオンやアンリネットほど優れた者も、黒鉄や如月ほど劣った者も他にいないんだ。つまり、
「納得できるわけないでしょう!!」
黒乃の説明を聞いたステラは、バンッ!!と理事長の執務机も手のひらで叩きつけて抗議する。
真としても、こんな修学旅行の班決めであぶれた中学生みたいな扱いをされたことに対していろいろと思うところがあった。それで男女が同室だというのも特に。
だが、「ステラさんとエレンさんが同室でいいのでは?」とは言わない。
そんなことをすれば、外野から「実力主義なのに外国の皇女と近衛は特別待遇するのか」と言われることは目に見えている。
他の3人もそのことを口にしないあたり、薄々そのことを勘づいているのだろう。言ったところで無駄だ、と。
だからといって、異性が同室なのを見逃すというわけではないが。
「だっ、だいたい、アタシたちみたいな年代の男女が一緒の部屋で生活するなんて、ひ、非常識だわ!間違いが起こったらどうするんですか!」
「おやおや。ヴァーミリオンは年頃の男女が一緒にいるとどんな間違いが起こっていると思っているのかな?ぜひ聞かせてほしいな~」
「そ、それは・・・その・・・ぅぅ・・・」
「なに泥酔したおっさんみたいな絡み方してるんですか」
恥辱のあまりに涙目になったステラに同情して、一輝が黒乃を諫める。
真もセクハラ一歩手前の絡みに辟易するが、ふとエレンが特に反論していないことに気付いた。
「そういえば、エレンさんはその辺りどうなんだ?」
「私としては、ステラ様のことは非常に心配ですが・・・私の方は、少なくともあなたはその辺りを弁えているようなので、ギリギリセーフかなと」
「・・・そりゃどうも」
どうやら、エレンの気配を察知してドアの前で踏みとどまったことを評価しているようだ。
真としては、自分が男女同室になることが半ば確定したようなものなので、素直には頷けなかったが。
とはいえ、それは理由としては半分ほどだろう。もう半分は、隠そうともしない諦念の表情で察せる。
黒乃もステラに「冗談だ」と薄く笑うだけで、先ほどの発言を撤回するつもりはないようだった。
「ともかく、これは決定事項だ。君たち以外にも男女でペアになってもらう者はいる。その全員に便宜を図っていては本末転倒もいいところだ。だから、ヴァーミリオン。君が皇女だからといって特別待遇はなしだ。気に入らないというのなら、退学してくれて結構だぞ?」
黒乃の「退学」という言葉に、ステラが見るからにたじろぐ。
一輝と真には知りようがないが、わざわざ海を越えて留学してきたのだから、それなりの理由があるはずだ。であれば、ここで退学というのも不本意だろう。
「・・・・・・・・・わかりました」
最終的に、ステラも黒乃の前に折れることになった。
「いいのかい?」
「し、仕方ないでしょう。それがこの学園の方針なんだったら」
一生徒である以上、理事会で決められたことに1人反対意見を言っても仕方がない。
郷に入っては郷に従えではないが、こうなったらステラでもどうしようもないのは事実だ。
だから、不満の矛先が一輝に向けられることになった。
「ただし、一緒の部屋で生活するにあたって、アンタに3つだけ条件があるわ」
「高学歴、高収入、高身長みたいなめちゃくちゃなことじゃない限り、努力するよ」
本来は一輝もこのような条件を呑む必要はないのだが、先ほどの覗き云々の負い目もあるし、なにより、一輝も年上の男だ。できる限り協力してあげたいという気持ちもあった。
「そんなこと求めないわよ。アンタにも簡単にできることよ」
次が3つの条件だった。
「話しかけないこと、目を開けないこと、息をしないこと」
「その一輝君、たぶん死んでるよね」
「この3つができるなら部屋の前で暮らしていいわ!」
「条件を守ったうえで追い出されるのか・・・」
これ以上の理不尽はあるのだろうか?真の知る限りはない。
「なによ、できないの?」
「できないよ、そんな無茶苦茶な要求!最低限息はさせてよ!」
「いやよっ!どうせ息をするふりしてアタシの匂いを嗅ぐつもりなんでしょ変態!」
「なら口呼吸するから!これなら匂いはわからないし!」
「だめよっ!どうせ舌でアタシの吐いた息を味わうつもりなんでしょ変態!」
「その発想はなかった!お姫様の発想パナい!?」
「・・・あんたのところのお姫様、将来大丈夫なのか?そこらへんの男よか、よっぽど変態の素質があるんだが」
「・・・正直、不安に思うところがないわけではありません」
そりゃあそうだろう。自分の国のお姫様が変態だとは思いたくないだろうが、この発想が出てくるあたり、ないとは言い切れない。
「いやなら退学しなさいよ!そうすればアタシは1人部屋になれるわ!」
「そんなめちゃくちゃな・・・」
あくまで自分の要求を曲げるつもりはないステラに、一輝もそろそろげんなりしてきた。
真としてもいい加減、自己中と言えなくもないステラの要求に辟易してきたため、仲裁案を出すことにした。
「だーもう、めんどくせぇ。だったら、2人で模擬戦をやって、勝った方が部屋のルールを決めるってことでいいだろ。それなら後腐れがないんじゃないか?」
「ふむ、そうだな。己の運命を剣で切り拓くのが騎士道なれば、これに異論を唱えるものはいないだろう」
黒乃も真の提案を支持した。
2人で正々堂々と試合をして、勝った方が意を通す。騎士同士の揉め事を解決する常套手段だ。
「ああ。それは公平でいいですね。そうしようよ、ステラさん」
真からもたらされ黒乃も支持した仲裁案に、一輝はすぐに賛成してステラにも同意を求めた。
「は、はぁ!?」
だが、ステラからは理解できないと言わんばかりに目を向いて声を裏返らせた。
「え?そんなにいやなの?」
「い、いえ、イヤとかイヤじゃないとかどうでもいいというか・・・あ、アンタ・・・自分が何言ってるか、わかってるの?」
「・・・何か変なこと言ったっけ?」
「Fランクの!進級もできないような“落第騎士”が!Aランク騎士のアタシに勝てるわけないでしょっ!?」
言われてようやく、一輝もステラの驚きに納得した。
たしかに、普通に考えて
それは、提案を承諾した一輝だけでなく、その仲裁案を提案した真にも同じことが言える。
これに対し、一輝はあいまいな笑みを浮かべて、真は何でもないような様子で続けた。
「でも、ほら。勝負はやってみないとわからないから」
「別に、一輝が負けるとも限らんだろ」
この問題は話し合いで解決できるようなものではないし、お互いに退学できない理由がある。だったら、実力で決めた方がいいだろう、と。
その言葉に、ステラはキレた。
「んぅもおおお!!アッタマにきた!!!!この平民!皇女のアタシに対して覗きや露出の変態行為では飽き足らず、“落第騎士”の分際で私に勝つですって!?こんな・・・こんな屈辱は生まれて初めてだわ!なんて最低の国なのかしらここはっ!!」
真は「別に一輝が日本の基準ってわけじゃないし、覗きに関しては事故ってことで納得してなかったっけ?」と心の中で思いはしたが口にはださない。何を言ったところでステラの熱は収まらないだろう。むしろ、火に油を注ぐようなことになりかねない。
そんなことなんてつゆ知らず、ステラはもはや殺気すら宿した瞳で一輝を見据えて宣言した。
「いいわ。わかった。わかりました。やってやるわよその試合。でも、アタシをこれだけバカにしたんだから、もう賭けるのは部屋のルールなんて小さなものじゃすまないわよ!
「え、ええええ!?それはやりすぎなんじゃ・・・」
「今さら怖気づいてもダメよ。アタシをここまで本気にさせた自分の軽率さを呪いなさい。これはもう模擬戦じゃなくて、決闘なんだから!」
「話はまとまったようだな。ならば・・・」
「少しいいでしょうか?」
一輝の意見は無視して訓練場の準備をしようとする黒乃を、エレンが横から止めた。
「なんだ、アンリネット?」
「私はイッキもそうですが、今の会話で
「え?」
ただ仲裁案を提案しただけなのに、突然飛び火した真は素っ頓狂な声をあげる。
「なんでその流れになったんだ?」
「あなたは先ほど、『ステラ様はFランク程度にも勝てない』と、そう言いましたよね?」
「べつに、そこまでは・・・」
そこまで極端なことは言ってない。
そう反論しようとしたが、エレンはそれを聞き入れない。
「同じようなものでしょう。そもそも、そこの痴漢魔が勝てるという考えがなければ、このような提案もするはずがありません。これは、ステラ様に対する明らかな侮辱です」
「いや、それは言い過ぎ・・・」
「ですから、私も
「は!?なんでそういうことになるんだよ!?」
「私はステラ様の騎士です。ステラ様を侮辱する輩を叩きのめすのは当然のことでしょう。理事長、よろしいですか?」
「ああ。わかった。だったら第3訓練場を使え。許可は私が出す」
「ちょっ、なに勝手に決めてるんですか!?」
真の抗議もむなしく、ステラとエレンは「覚悟しなさいよね!!フンッ!!」「では、失礼しました」と言ってさっさと出て行ってしまった。
「・・・どうしてこうなった」
「なんだか、大変なことになっちゃったなぁ。困りますよ、理事長。こんなの・・・」
「くくっ。さすがに下僕はイヤか?」
「イヤですよ。勝っても負けてもどっちもいやだ・・・」
「まったくだ」
「勝っても、か・・・。面白い男だ。特に黒鉄はな。さっきのあの子の強さは見ただろう。あれほどの能力を持っていることはもちろん、なおかつそれを使いこなせる者はそうはいない。前評判に偽りなしだ。それでも、お前はあの子に勝つという」
「いずれは勝たなければならない相手ですからね。それは理事長が一番知ってるでしょう。なにしろ、『七星剣武祭で優勝すれば、能力値が悪くても卒業させてやる』と言ってきたのは貴女なんだから」
それは、真も知っていることだった。だからこそ、実力主義・実戦主義に基づいた制度を導入したのだ、とも。
「それに比べて、如月はちゃんと授業に出れば進級も卒業も問題ないのだから、今年からはきちんとしろよ?」
「俺には労いの一言もないんですかそうですか」
「お前には必要ないだろう。むしろお前は、
「ずいぶんな言い様ですね」
黒乃の言葉は、ともすれば「エレン・アンリネットの負けは決まっている」と言っているようなものだ。
「真が力を扱うことができれば」という前提付きではあるが。
一輝も、それを知っているから何も言わない。
「まぁ、それを言ったら一輝だって同じようなもんだろ」
「いや、そんなことを言われても困るんだけど・・・あのステラさんが相手だよ?」
「むしろお前の得意分野だろう。
真も、一輝がランク通りの強さではないことをよく知っている。
だから、この模擬戦の提案をしたのだから。
それでも、自分まで巻き込まれることになるとは思っていなかったが。
「そういうわけだ。さっさと勝って下僕云々の話を無しにしよう。じゃないと、せっかくの新学期は肩身の狭い思いをすることになりそうだ」
「はは、それもそうだね」
そんなことを話しながら、2人もまた理事長室を後にして決闘の舞台に向かった。
ぶっちゃけ、七星剣武祭で破軍学園がいい成績を残せていないって言ってますけど、少なくとも昨年度は廉貞とか文曲に比べれば1人だけでもベスト4に食い込んでいるだけマシですよね。
まぁ、それ以前のことは知りませんが。