黒翼の魔王   作:リョウ77

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“落第騎士”vs“紅蓮の皇女”

 魔導騎士が国家の戦力としての側面を持つ以上、当然戦闘技能が求められる。

 そのため、すべての騎士学園には模擬戦などを行うための闘技場が存在しており、申請を出せばだれでも利用できるようになっている。また、闘技場にはすり鉢状に観客席が設けられているため、他人の模擬戦の様子を見ることができるようにもなっている。

 現在、第3訓練場のリングの中心には一輝とステラが立っており、2人の間に挟まるようにレフェリーの黒乃がいる。

 そして、観客席にはもともとトレーニングに来ていた学生やどこからか噂を聞きつけて見学に来た学生が20人強ほどいた。春休みにいきなり決まった模擬戦にしては多い数だ。

 おそらく、その目的は噂の新人2人であるステラとエレンだろう。

 事実、喧騒から聞こえる会話の内容はほとんどステラとエレンのことで、一輝や真については「なんであの2人が模擬戦やるんだ?」「留年生がAランクに勝てるわけないだろ」といったものがほとんどだ。

 そんな会話を、真は観客席の最前列で座りながら聞き流していた。近くにはエレンも座っている。

 

「・・・聞けば聞くほど、どうして騎士学園にいるのか不思議にすら思いますね。単にさぼったあなたはともかく、イッキは実戦を受ける能力基準にすら届いていないと聞こえてきますよ」

「まぁ、そればっかりはな~」

 

 実際、魔力関連についてはその通りだと言わざるを得ないと真は言う。

 ランクには総合ランクを決めるための6つの項目がある。攻撃力・防御力・魔力値・魔力制御・身体能力・運だ。

 一輝はそのうち4つがFランクで、魔力制御はなんとかEランクというありさまだ。さらに言えば、魔力値もFランクの中でも下の下と言える。

 唯一、身体能力の項目はAだが、この項目は半ばお遊びのようなものだ。なにせ、いくら生身の人間の身体能力が優れていたところで、例えばステラの炎の前にはどうすることもできない。一瞬で塵にされて終わりだ。

 だから、ほとんどの伐刀者は体を鍛えたり武術を学んだりということはないし、騎士学園も異能を鍛えることを薦めているため、体を鍛えるカリキュラムが存在しない。

 武術を習う、ないし極めるのは、自身の強さに飽くなき渇望を持つごく一部の()()()()()くらいだ。

 

「言ってしまえば、ステラさんが10年に1人の天才と称されるなら、一輝は1()0()()()1()()()()()()と評されることになるな」

「ずいぶんと辛辣ですね」

「これは本人も自覚してることだ。だからこそ、あいつなりに努力してきたわけだがな」

「努力、ですか・・・」

 

 努力という言葉に、エレンは微妙な表情になる。

 それを見た真は、エレンが何を思っているのか、なんとなく理解していた。同時に、リングの上にいるステラが、模擬戦の経緯とは別のことにイライラしているように見えることも。

 だが、口には出さない。

 今言ったところで、意味は何もないから。

 

「っと、そろそろ始まるみたいだな」

 

 微妙な空気になりかける前に、真は話題をちょうど始まろうとしている一輝とステラの模擬戦に変えた。

 リングでは、黒乃が今回の模擬戦の説明をしているところだ。

 

「それではこれより、模擬戦を始める。双方、固有霊装(デバイス)を“幻想形態”で展開しろ」

「来てくれ、“陰鉄”」

「傅きなさい、“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”!」

 

 2人は、それぞれの固有霊装を人間に対してのみ物理的なダメージを与えずに体力を直接削り取る幻想形態で展開した。

 この幻想形態のおかげで、学生同士でも安全に模擬戦をすることができる。とはいえ、負傷の痛みは普通に現実と同じように感じるため、積極的にする要因にはなりにくいが。

 

「よし・・・では、LET's GO AHEAD!」

 

 黒乃の合図によって、“落第騎士”黒鉄一輝と“紅蓮の皇女”ステラ・ヴァーミリオンの模擬戦が始まった。

 

 

* * *

 

 

「ハアアアア!」

 

 開幕と同時に仕掛けたのはステラだった。一気に距離を縮め、大剣に炎を纏わせて大振りに振り下ろす。

 あくまで大振りな一撃だから、見切るのは容易いと一輝は受け止めようとし、受け止める直前にその行動を中止してバックステップで後ろへ逃げた。

 次の瞬間、“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”が床にたたきつけられ、()3()()()()()()()()()()()()()

 

「おいおい、どんだけバカげた膂力なんだよ・・・理事長室じゃ、マジで1ミリたりとも本気じゃなかったんだな」

「当然でしょう。そもそも、ステラ様の力は訓練場の類ではない限り、決して屋内で振るっていいものではないんですから」

 

 あれほどのパワーを、例えば先ほどの理事長室で使ったときには、容易く床を突き抜けることになるだろう。下手をすれば、校舎そのものを壊しかねない。

 そして、さらに恐ろしいことに、それだけのパワーを持っていながら日本刀の武装である一輝のスピードに軽々と追いすがっている。

 魔力とは、魔術だけでなく身体能力の強化にも利用できる。これは、伐刀者であれば誰でもできる当たり前の技術だ。

 それが、世界最大の魔力保有量を持っているステラともなれば、強化の幅の桁が違う。

 しかも、これだけの動きをステラは長時間維持し続けることができる。模擬戦程度の時間であれば、最初から最後まで全力で動いてもなお余るだろう。

 逃げ切れないことを悟った一輝は、振り下ろされる“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”に対して自らの“陰鉄”で応じ、剣戟が始まる。

 

「「「おおお・・・!!」」」

 

 剣戟の音が鳴りひびく中、周囲の観客から歓声が上がる。

 彼らが見つめるのは、ステラによって描かれる焔の軌跡だ。

 その軌跡に、真は見覚えがあった。

 

「剣術か・・・たしか、“皇室剣技(インペリアルアーツ)”だったか?」

「知っているんですか?」

「言葉だけはな」

 

 それはヴァーミリオンの皇族に伝わる剣術であり、ステラもその剣術でヴァーミリオン皇国の剣術大会で優勝したこともある。真は、ネットの記事でそのことを知っていた。

 同時に、ステラの意図も察する。

 

「自分が、()()()()()()()()()()()って言いたいんかね」

 

 それこそが、エレンの微妙な表情とステラのイライラの理由。

 周囲からまるで、自分が才能だけで勝っているような人間だと思われていることだ。

 だが、その辺りの事情に少しでも通じている人間は、それが事実と真逆であることを知っている。

 なにせ、ステラは最初は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 たしかに、類まれなる才能を持っているステラだが、最初からその力を使いこなせたわけではない。

 むしろ、自らの炎によって重度の火傷を負うことさえあった。

 そんなステラに、周囲は魔導騎士になるのは無茶だと誰もが反対した。

 それでも、ステラはその反対を押し切り、絶え間なく努力を続けて、ついにその炎を自在に操ることができるようになった。

 エレンにも、それと同じようなことが言える。

 だからこそ、「努力すれば天才にも勝てる」と豪語する凡人が「努力したけど天才には敵わなかった」と言うのが許せないのだ。

 そして、そのような安い言い訳を許さないからこそ、あえて魔術ではなく剣術によって一輝に勝負を挑んでいる。

 それは、

 

 

 

 

 

「無謀だな。相手が悪すぎる」

 

「え?」

 

 いったいどういうことなのか。

 真の言葉の意味を計りかねたエレンは、改めて一輝とステラの剣戟を見る。

 だが、見る限りは明らかにステラが優勢だ。

 なにせ、ステラの猛攻に一輝は押されっぱなしで、ろくに反撃もできない・・・

 

「っ、まさか!?」

 

 そこで、エレンも気づいた。

 そう、剣戟でステラを相手にする場合、()()()()()()()はありえないのだ。彼女の剣は、受け止めることすら許さずに()()()()のだから。

 たしかに傍から見れば、一輝は防戦一方で捕まるのは時間の問題のように見える。

 だが、事実は違う。

 

()()()()()()()()()()()()()・・・!?」

 

 一輝はステラの剣を受けながら、決して受けきらずに衝撃を後ろに流すことでステラの間合いから逃れている。

 パワーを封殺する柔らかい防御。柔を以て剛を制す。

 言葉で言うのは簡単だが、実現は至難の技だ。

 わずかにでも必要以上に力を込めれば体は破壊され、弱くても問答無用で斬り伏せられる。

 それを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対して行っている。

 これだけでも、一輝の技巧が神がかっていることがわかる。

 だが、それで終わりというわけではなかった。

 

「さて、そろそろかな」

 

 真の呟きに、エレンはその意味を察して「それこそまさか・・・」と思った。

 いや、思いそうになった。

 一輝が攻めに転じたのだ。

 普通なら、それは自殺行為に等しい。

 どうしても攻撃のために力を込める以上、パワー比べならステラには遠く及ばないのだから。

 だが、

 

「くぅ!」

 

 あろうことか、ステラは後ろに下がった。

 パワーではステラが圧倒的に勝っているのに、なぜ。

 その答えを、エレンはすぐに理解した。

 

「あの剣筋、まさか、“皇室剣技(インペリアルアーツ)”ですか!?」

 

 一輝の振るう剣が、まさにステラの皇室剣技そのものだからだ。

 だが、それだけでステラが押されるはずがない。

 それもそうだ。

 厳密に言えば、皇室剣技とは似て非なるものなのだから。

 真は、それをよく理解していた。

 

「たしかに大本は“皇室剣技(インペリアルアーツ)”で間違いないが、今一輝が使っているのは少し違う。あれは、今までの剣戟で“皇室剣技(インペリアルアーツ)”を盗んだ上で、さらに改良したものだ」

「なっ、この短時間の打ち合いで剣術を盗むだけでなく、それを上回るなんて、そんなことが・・・」

「できるのがあいつだ」

 

 真も最初は驚いたものだが、一輝はこう話していた。

 自分は嫌われ者だったから、誰からも何も教えてくれなかった。だから、他人の剣を見て盗むしかなかった。それを繰り返しているうちに、いつからか大抵の剣術なら1分も打ち合えば理解できるようになった、と。

 それは、単に技を見て真似たというだけではない。それこそ、一輝はまだ見ていない相手の技ですらわかるのだという。

 太刀筋から心得を、型から歴史を、呼吸から理念を読み取り、それらの『枝葉』を辿って『理』に至る。

 『理』がわかってしまえば、敵の剣術の欠点を克服し、なおかつすべてをもう一段階上回る剣術を作ることは難しくない。

 

「“模倣剣技(ブレイドスティール)”。これができるあいつの剣に型はない。なにせ、必要ないからな」

 

 少なくとも、剣技であれば相手に絶対の優位をとることができる。

 そして、それはこの試合だけの話ではない。一輝の頭の中には、今まで盗んできたあらゆる流派の剣術・武術が詰め込まれている。

 その引き出しの多さは、並の伐刀者とは比較にならない。

 

「これを、能力に頼らずにやってるんだからな。マジで化け物だ」

 

 これを聞いたエレンに、もはや疑いの余地はなかった。

 剣術の腕において、一輝はステラよりも数段は上。ステラでは相手にならない、と。

 それは、リングの上で一輝と対峙しているステラも理解したはず。

 だが、それで大人しくなるほどステラも甘くない。

 今度は、ステラが“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”を振り下ろし、一輝がその迎撃のために“陰鉄”を振り上げるタイミングで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さすが、上手いです!」

 

 今まで見せなかった()()()という行為に、一輝は読みを外して振り上げが空ぶってしまい、胸元ががら空きになる。

 その隙を見逃さず、ステラはわき腹めがけて“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”を振るうが、

 

「甘いな」

 

 真の呟きと同時に、ステラの攻撃は防がれた。

 

「なっ・・・」

 

 攻め手もリズムも変えて、裏もかいた。なのに、なぜ防がれたのか。

 

「柄で防ぐなんて・・・」

 

 そう、一輝は、“陰鉄”を握る柄の右手と左手のわずかな隙間を使って攻撃を凌いだのだ。

 だが、一輝がステラの攻撃を防げたのはそれだけではない。

 

「あんな寝ぼけた太刀筋なら、誰にだって受け止められるに決まっているだろうに」

 

 ステラの剣は、あくまで()()()()()()()()()剣だ。逃げながら斬る剣ではない。

 軽々に勝ちに走るような温い剣では、一輝程度でも受け止められてしまう。

 その結果生まれたのは、致命的な隙だ。

 

「ハァアアアア!!」

 

 一輝は受け止めた“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”を大きく弾き飛ばし、無防備になったステラの体に“陰鉄”を振り下ろした。

 

 

* * *

 

 

 一輝の打ち下ろしは、見事にステラに決まった。

 ギャラリーは、予想外の結果に動揺を隠せない。

 だが・・・レフェリーの黒乃は、試合の終了を告げない。

 なぜなら、一輝の全力の一撃はステラの右肩に止まったままだからだ。

 

「・・・やっぱ、こうなるか」

 

 だが、それを見ても真に動揺はない。それは、一輝やステラ、エレンも同じだ。

 魔力は、魔術や身体強化の他にも、バリアとしての役割を持つ。

 それは、Eランク程度の魔力でも、拳銃で撃たれても打撲ですむくらいの強度を持つ。

 だが、一輝の魔力は少ない、いや、少なすぎる。それこそ、全力の一撃でも、ステラにかすり傷1つつけられないほどに。

 “総魔力量”。伐刀者としての異能を用いるための精神エネルギー総量は、努力云々で伸ばせるものではなく、生まれつきによって決まる。これは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われている。

 大成する人間は、大成すべくして大成する。

 つまり、生まれ持った才能の差が、絶対的な壁として一輝を阻んだのだ。

 これを見たエレンは、ポツリポツリと言葉をこぼす。

 

「・・・私には、イッキがどのような半生を送ってきたのかはわかりません。ですが、あの男の言う努力とは、決して上辺のものではなく、それこそ、あるいは私やステラ様よりも重いものだったのですね。・・・認めざるを得ませんね。間違いなく、この試合でステラ様が勝てたのは、ステラ様の才能のおかげであったと」

 

 もし、一輝に人並み程度の、いや、それより少し劣る程度でも才能があれば、あるいは、ステラの才能が劣っていれば、今の一撃で勝負は決していた。

 だが、一輝にはその程度の才能すらなく、ステラはそれほどの才能を持っていた。

 たとえ、この試合で一輝が「才能に負けた」と口にしても、2人はそれを責めないだろう。

 一輝には、その権利がある。

 だからだろう。

 ステラは、その理不尽なまでの才能を持って勝負を決することに決めた。

 そのために、ステラは一輝からできるだけ距離をとった。そして、リングと観客席を隔てる壁まで後退したステラは、“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”を天に掲げる。

 

「蒼天を穿て、煉獄の焔」

 

 ステラの詠唱と共に、“妃竜の罪剣(レーヴァテイン)”に炎を収束、出力をどんどん引き上げ、ついには光の柱となってドームの天井を溶かした。

 

「あ~あ~、派手に訓練場をぶち壊しちゃってまぁ・・・ていうか、幻想形態とはいえ、人1人に向けるようなもんじゃないだろ」

「それこそ、ステラ様なりの敬意ということでしょう・・・あれほどの人物であれば、魔導騎士以外の道であれば間違いなく大成するでしょうから」

 

 今、放とうとしているのは、規格外の天才であるステラが誇る最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。

 剣技において一輝と勝負にならないと判断したステラは、戦場を()()()()()()()ことに決めた。

 そして、絶対的な敗北を与えんがために、破壊の一撃を振り下ろす・・・!

 

「“天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)”!!」

 

 あまりの威力に、観客の生徒は一斉に逃げ惑い、訓練場が破壊されているのを目の当たりにしている黒乃も苦い表情を浮かべている。

 だが、絶望的といえるような敗北を目前にして・・・それでもなお、一輝は薄く笑っていた。

 そして、それは真も同じだ。

 

「・・・まぁ、これで終わりというわけじゃないがな」

「え?」

「ステラさんの“天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)”のように、一輝にも絶対的不利を覆せる切り札を持っている。それこそが、最弱である一輝が最強に勝つために出した答えだ」

 

 真がそう言った次の瞬間、一輝の全身と“陰鉄”から蒼白い焔のように揺らめく輝きが生じた。

 それが、可視化できるほどに高まった魔力の光であるとエレンは悟った。

 だが、明らかに先ほどまで感じた魔力よりも強い。

 

「そんな、あり得ません・・・魔力が増幅しているだなんて・・・!」

 

 魔力は何があっても増えない。これは絶対だ。魔力を増やす能力というのもない。

 その答えは、真からもたらされた。

 

「あれは、魔力そのものが増えているわけじゃない。言ってしまえば、全力で使っているだけだ」

「な・・・」

 

 エレンの疑問の言葉は、声にならなかった。

 一輝が、目に留まらぬ速度でステラの一撃を避けたからだ。

 ステラもなんとかして攻撃を当てようとする。

 ステラの“天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)”は光の柱であり、質量は持たない。そのため、リーチからはあり得ないほどのスイングスピードを持っているが、それでも一輝には当たらず、ステラはもちろん、観客席にいるエレンでさえも姿を見失いつつあった。

 

「彼の、イッキの能力は何なんですか!?」

「あいつの能力は、身体能力の倍化だ」

 

 それは、あらゆる能力の中でも最低と呼ばれるものだ。

 なにせ、そのような能力が無くても、Eランク程度の伐刀者であればただの魔力放出で3倍でも4倍でも強化できる。

 だから、Fランクである一輝には妥当な能力だと言えるが・・・

 

「嘘ですっ!この出力、2倍程度ではないでしょう!?それに、身体強化の能力で魔力が増幅するなんて聞いた事がありません!」

 

 このエレンの声を荒げながらの質問に、真は先ほどの回答を続ける。

 

「あぁ。だから、さっき言ったみたいに、一輝は自身の能力を全力で使っている」

「そんな、たかが心構えだけで・・・」

「いや、心構えの話じゃない。あいつの全力は、()()()()()()()()

「え?」

「たしかに、伐刀者に限らず、スポーツなんかでもよく『全力を出す』なんて言ったりするが、本当に全部というわけではない。あくまで、本能が自身の体が壊れない程度にセーブをかける」

 

 これは、生物である以上絶対であり、いわば生物としてのメカニズムだ。

 いわゆる生存本能(リミッター)が、生物としての機能を保つための力と通常時に使う力を分けている。

 ゆえに、人間は体力や筋力、魔力をスペックの半分程度も使いこなせない。

 それが普通だ。

 このリミッターが外されるのは、いわゆる火事場の馬鹿力と言われるような、生命の危機に瀕した時だけ。

 だが、黒鉄一輝はその常識を覆す。

 

「あいつは、あらゆる武術を使いこなすにあたって、自分の体を完全に支配下に置くことができる。そして、それほどの集中力を以てすれば・・・自分の意思で生存本能(リミッター)を破壊することができる」

 

 それこそが、一輝の出した答え。

 ただ努力しただけでは、天才との差は埋まらない。天才も努力しているのだから当然だ。

 一輝と真も、それはわきまえている。

 だから、天才との差が詰まるなんてことはありはしない。

 であれば、どうすべきか・・・。

 もはや、()()()()()しかない。

 たった1分。

 戦うにしてはあまりに短すぎる時間。

 その泡沫の間に、己の全ての力を出し切り、すべて使いつくすことで能力の強化倍率を2倍から数十倍に引き上げる伐刀絶技(ノウブルアーツ)・・・

 

 

 

「“一刀修羅”。これが、あいつの最弱(さいきょう)だ」

 

 その瞬間、視線が追い付かないほどの速度で動いていた一輝は、一気にステラの懐に潜り込んで斬り伏せた。

 この一撃を受けたステラは、幻想形態の作用によって意識がブラックアウトし、その場に倒れ込んだ。

 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝!」

 

 この瞬間、黒鉄一輝の勝利が決まった。




今回は、まぁ、だいたい原作通りな感じになっちゃいました。
あくまで、視点は真とエレンに寄せてありますが。
次からは、ちゃんとオリジナル展開が続きますので。
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