一輝とステラの勝敗が決まった直後、真は即座に観客席から飛び降りて一輝の下に向かった。
「お疲れさん。調子は・・・最悪っぽいな」
「真・・・さすがに、ちょっとキツイかな。本当は、真の模擬戦も見たかったけど・・・」
「やめとけやめとけ。途中でぶっ倒れるのがオチだ。さっさと休んで来い」
「うん。それじゃ、真も頑張って」
「おう」
軽く真と会話した一輝は、ふらふらとした足取りでリングを後にした。おそらく、このまま寮に戻るのだろう。
真としては、一輝を部屋まで送っていきたい気持ちもあるのだが、この後の模擬戦をすっぽかすわけにもいかないと改めた。
そこで、ふと黒乃に聞いておきたいことを尋ねた。
「そういえば、ステラさんはどうするんですか?」
「あぁ、ヴァーミリオンは自室に運ばせる。幻想形態による極度の疲労で倒れているだけだから、医者もiPS
iPS
これのおかげで、公式の伐刀者の試合なんかも比較的安全に行えるため、現代には必要不可欠なものになっている。
もちろん、使おうと思ったら多額の保険金がかかるが、学内での学生同士による正式な戦闘による負傷に限ればタダで使うこともできる。
だが、今回の場合は幻想形態による戦闘のため、外傷は発生しない。この後に控えている真とエレンの模擬戦でも出番はないだろう。
そんなことを話しているうちに、教職員が担架を持ってリングに現れ、ステラを乗せてそのまま去っていった。この調子なら、一輝が到着するよりも早くステラを寮の自室に運んで退散するだろう。おそらく、一輝とステラが同室なことについてあーだこうだ言われる可能性も低い。
そのことに軽く安堵の息をつきながら、真は視線をエレンに向けた。
「それじゃ、俺たちも始めようか。さっさと降りてこい」
「・・・わかりました」
エレンとしては観客席から飛び降りるなど無作法もいいところだったが、たしかに観客席からリングの入場口まで移動するのは面倒だし、なにより時間の無駄だ。
マナーは悪いのにイヤに合理的なものだと、複雑な気分になりながらエレンも観客席から飛び降り、ふわりと軽い足取りで着地した。
「なるほど、器用なもんだ」
「これくらいは当然です」
今のは魔力放出によって着地の瞬間の衝撃をなくしたのだが、その際いっさいの余分な魔力が存在しなかった。
必要最低限の魔力放出を、必要なタイミングで瞬時に行う魔力制御。それに、さりげなく制服のスカートが捲れないためにも最低限の魔力放出を行っていた。
これだけでも、エレンが相当な実力者であることがわかる。
「2人とも、やる気に満ちているのはいいが、少し待ってくれ。訓練場を修復する必要があるからな」
そう言いながら、黒乃は瓦礫に手をかざす。
そうすると、崩れ落ちた天井がまるで映像の巻き戻しのように宙に浮かんで元に戻っていった。
「さすがは
「私の能力を便利呼ばわりするお前もなかなか変人だな」
さりげなく真を貶す黒乃だが、あながち間違いでもない。
なにせ、伐刀者の戦闘興行である
現在は妊娠を機に引退しているが、その実力にはわずかな衰えもない。
それを“簡単に修復ができる便利な能力”と言った真の感性はなかなかにぶっ飛んでいる。
とはいえ、業者に頼むよりもはるかに早く金もかからないため、真の意見もまったくの見当違いというわけではでない。
「・・・本当に、常識にとらわれないというか、良くも悪くも自由な考えをお持ちのようですね」
その後ろから、一輝に負けず劣らずぶっ飛んだ行動や言動をとる真にエレンが何とも言えない微妙な表情で話しかける。
「それはそうと・・・あなたに言うのは筋違いですが、イッキ・クロガネをFランクだと侮辱したことを、ここでお詫びいたします。たしかに、彼はステラ様に匹敵する強者でした。
・・・ですが、私にも新たに負けられない理由ができました。
理事長室や先ほどの様子を見る限り、あなたはイッキと親しい仲であるようですね。
ですから、ここで私があなたを倒すことで、ステラ様の雪辱を晴らさせていただきます」
正直、真としてはとばっちりもいいところなのだが・・・エレンの言葉を否定するつもりはさらさらなかった。
真としては、主の仇を家臣が討つという展開は割と好物であり、自分が仇を討たれる側になるというのも悪くないと思い始めてきた。
だから、
「・・・あぁ、できるものならやってみろよ」
非常にあくどい笑みを浮かべて、人差し指をちょいちょいと立てながら挑発した。
対するエレンも、ムッとしながらもその瞳の奥で戦意を燃やす。
ちょうどその時、黒乃が訓練場の修復を終わらせた。
「これでよし、と。さて、お前らもやる気になっているようだし、このまま始めてしまうか。それでは両者、開始線につけ」
黒乃の指示に従い、真とエレンは開始線の前に立った。
「それではこれより、模擬戦を始める。双方、
「やるぞ、“
「始めましょう、
それぞれ、真は黒い羽と共に漆黒のコートを羽織り、エレンは銀色に輝く杖を手に持った。
「よし・・・では、LET's GO AHEAD!」
* * *
黒乃が試合開始の合図を出した瞬間、真は全力でその場から飛びのいた。
次の瞬間、真が立っていた場所がいきなり爆発した。
「殺意高いなぁ・・・」
「当然でしょう。ステラ様とイッキの試合を見た後ですから。・・・ですので、私は最初から
そういうエレンの周りには、等身大の炎、氷塊、風の球、岩の塊が浮いている。
「“精霊の魔術師”、エレン・アンリネット。火・水・風・土を同時に操ることができる、“四元素”の能力の持ち主。そして、4つの属性を同時に操る
これこそが、“精霊の魔術師”と呼ばれるエレン・アンリネットの持つ規格外の能力。
通常、伐刀者は1人に1つしか能力を持てない。例外的に相手の能力をコピーできる“
だが、エレンは“四元素”という、1つの異能に4つの能力が含まれている規格外だ。
つまりエレンは、1人で4人分のはたらきをすることができるということになる。
そして何より、これほどの複雑な能力を持っていながら発動が非常に早い。
4つの属性の同時展開による圧倒的な手数に、卓越した魔力制御による高速展開。
これはたしかに、魔術の腕はステラよりも優れていると評されるだけのことはあると真は納得した。
(できれば近づきたいんだけどな~)
魔術特化であるということは、ステラと違って近接戦闘はこなせない可能性が高い。
そもそも、真の距離が
「
エレンは素早く詠唱をして、炎の弾幕を放ちつつ自分を中心とした直径1mの範囲より外の床を凍らせ、さらにリング内に暴風を吹かせて真の動きを妨げつつ足下にいつでも障壁を展開できるように準備をする。
「
立ち止まっている暇なんてないと、真は全域が凍る前に能力で加速しながら駆け出し、足元が凍ってからは勢いのままに滑ってさらに高速移動、火炎弾を躱す。
「・・・なるほど。それがあなたの能力ですか。イッキのような身体強化のようにも見えますが、あなたの全ての動きが速くなっていることから、“自己加速”の類ですね」
「丁寧な解説どーも!」
答え合わせをしている余裕なんてないとアピールしながらも、真は立ち止まらずに、時にはアクロバティックな動きをしながら炎の弾幕を躱す。
真の動きは能力によって3倍ほど加速されており、氷による滑走も合わせて目で追うのは難しい。
にもかかわらず、エレンは視線を向けずとも正確に真の位置を把握し、的確に炎弾を放つ。
目で追えていないはずなのに、なぜなのか。
真はある程度からくりは見えていた。
(この風で、俺の位置を特定しているな)
エレンがリングに風を吹かせているのは真の妨害だけでなく、高速で動く真の索敵の役割もあったというわけだ。
想像以上に、魔術の使い方が上手い。
火力こそ同系統のAランク騎士には敵わないだろうが、それを補って余りある器用さを持っている。
とはいえ、真もこのまま黙りっぱなしというわけでもない。
「加速解除。すぅ、
真は一度加速を解除してから、先ほどよりもさらに速い倍率で加速し、魔力放出も加えて普通の10倍近い速度で駆け抜ける。
人間は急な動きに弱い。初速が速ければ速いほど対象を捉えることが難しくなる。
エレンもその例に漏れず、先ほどと比べて炎弾の精度が落ちてきた。
それを確認した真は、今度はリングと観客席を隔てる壁を思い切り蹴り、縦横無尽にリングを動き回って攪乱する。直線的な動きであることに変わりはないが、時折準備している障壁のギリギリ範囲外を移動することでエレンの神経をすり減らす。
それに加えてさらに拳圧で風を押し出すことで、少しでもエレンを撹乱する。
(こういうの、一輝からは小言をもらいそうだけど)
一輝と真では、手札の使い方が違う。
一輝は相手に有効な一打を切り札として残し、最大限効果を発揮するタイミングで切り札を切る戦い方をする。
それに対し、真は使える手は片っ端から使い、相手の処理能力を飽和させて強引に隙を作る戦い方を好む。
もちろん、それぞれに長所と短所があるが、真は一輝から「切り札は用意しておいた方がいい」とよく小言をもらっている。
だが、今回は真の作戦が有効だった。
(相手の手数が多いなら、もっと増やして処理落ちさせるのも1つの手だよな、うん)
魔術はただでさえそれなりの集中力を必要とする。4種類の魔術を併行して発動しているエレンならなおさらだ。
そして、いよいよ真も攻撃に移る。
だが、できるだけ1撃で仕留めたい。この手は二度は通じないし、手札を多く使う分長引くと不利になる。
ならば、どこから攻めるか。
(活路は、正面!)
今、エレンは自分の視覚外からの攻撃に備えて意識を割いている。そして、エレンの知覚速度は一輝やステラに比べれば遅い。
エレンが知覚するよりも速く攻撃を当てれば、それでケリがつく。
「
真はダメ押しでさらに加速し、エレンの知覚を振り切りにかかる。
「っ、
このままでは真を捕捉できないと判断したエレンは、氷のフィールドを解除して氷の弾丸の全方位射撃に切り替える。
だが、エレンの意識が真から完全に逸れた瞬間を、真は見逃さない。
(ここ!)
氷のフィールドが解除された瞬間に、真は思い切りリングを蹴って側面からエレンに近づく。
エレンはこれに対応、すぐさま地面から土壁を生やしてこれを防ごうとする。土壁と言っても、素材はリングに使われる強化コンクリートだから、真でも破壊できない。
だが、その時にはすでに真は直前でリングを蹴ってをエレンの正面に回った。
これにエレンがわずかに硬直し、その隙を突いて真はさらにエレンに接近する。
そこはすでに真の間合いだ。
(もらった!)
勝利を確信した真は、大きく拳を振りかぶり、
その直後、リングの全体が爆発に飲み込まれた。
* * *
エレンが絶体絶命のピンチかと思っていた矢先の突然の爆発に、観客席はどよめきだした。
なぜなら、爆発を起こした張本人であるエレンが中央で無傷のまま立っているのが見えたからだ。
あの一瞬、エレンは全身を魔力放出によるバリアで防御して自身を爆発から守ったのだ。
「すげぇ、あれだけの自分の近くで爆発させたのに、エレンさんは傷1つないぞ」
「すごい魔力制御ね。あの一瞬で、あそこまで強力な魔術を使うなんて」
「これはもう、あの不良も終わりだろ」
明らかに爆発に突っ込んだ真に、観客席は終了ムードになる。
だが、黒乃は試合終了の合図を出さず、エレンも微塵も油断していない。
そして、爆煙がすべて晴れると、リングには同じく無傷の真がエレンから距離をおいて立っていた。
「あっぶね・・・少しでも油断してたらやばかったな、ありゃ」
当の真は、言葉と裏腹にまるで大した事がなかったかのようにふるまう。
なぜあの爆発を防げたのか、エレンもわかっていた。
「器用なものですね。まさか、自分の
伐刀者の魂の具現である固有霊装は超高密度の魔力結晶体でできており、滅多なことでは破損しない。それは、一輝の刀やステラの大剣、エレンの杖はもちろん、真のコート、“夜羽”も同じだ。
真は爆発の瞬間に自身を“夜羽”で覆い、爆発をやり過ごしたのだ。
だが、それだけでは爆発の衝撃までは防ぎきれないはず。自分からあの勢いで突っ込んだのならなおさらだ。
その答えは、エレンの足下にあった。
ちらりと見下ろしたエレンの視線の先には、何かが刺さっていたかのような穴があった。
(まさかこれは、魔力放出ですか・・・)
あの時、真は足裏から杭状に魔力を放出し、その杭をリングに突き刺すことで無理やり動きを動きを止めていた。その後、自分から後ろに跳躍することで爆発の衝撃を和らげたのだ。
だが、これは普通ならあり得ないことだ。
リングに使用されているのは耐久性が極めて高い強化コンクリート。ステラの訓練場そのものを揺るがすほどの一撃を受けてもひび1つ入らなかったことからも、その耐久性の高さがわかる。
しかも、魔力放出は固有霊装と違い明確な形を持っていないため、鎧として機能させることはできても刃物のような武器として機能させることはAランクでも簡単にできることではない。
それを、真はあの一瞬でやってのけた。しかも、
能力や感じる魔力量で言えば、真はDランクがいいところ。
なのに、これはいったどういうことか・・・。
エレンが思考を回していると、どこか雰囲気が変わった真が話しかけてきた。
「さて・・・ちょっと、謝らないといけないな」
「・・・どういうことですか?」
「正直な話、俺は目立つのが好きじゃないもんでな。だから、
真の言葉の意味を、エレンは理解しきれない。
能力を封印?ただ隠しているわけではないのか。
それに、加速が真の能力ではないのか。
詳しいことがわからないエレンは、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
「エレンさんも、ステラさんも、一輝も、自分の目的のために、自分の騎士道のために、自身の力を尽くして戦う決意を持っている。それなのに、俺だけ手の内を隠して中途半端に生活していくわけにもいかないからな。だから、ここから先は本気でいかせてもらう。
次の瞬間、真からステラに引けを取らないほどの魔力があふれ出た。
「っ!?
明らかにまずいと判断したエレンは、強化コンクリート製障壁を囲うように氷の障壁と暴風の障壁を展開、さらに魔力をつぎ込んで強化した。
次の瞬間、すさまじい撃音がリングに響き渡った。
一瞬で距離を詰めた真が障壁に拳をたたきつけた音だ。
そして、今の一撃だけで暴風と氷の障壁を突破し、強化コンクリートの障壁にひびがはいった。
「なっ、なんですか、そのバカげた威力は!」
「言っただろ。本気でやるって、な!」
続けて真が拳を叩きつければ、強化コンクリートの障壁を粉々に砕いた。
「っ、
エレンは今の真相手に防御に回るのは悪手だと判断し、すべての属性にできる限りの魔力をつぎ込んで真に攻撃を与える。
火球や氷塊、かまいたち、強化コンクリートの塊が襲い掛かるが、対する真は拳を引き絞り、
「はあっ!!」
気合一拍、魔力放出とともに拳を突き出す。
その一撃で、エレンの攻撃の尽くを吹き飛ばした。
「めちゃくちゃな・・・!」
これには、エレンも苦い表情を浮かべる。
だが、まだ勝負が決まったわけではない。
先ほどは自身を中心に爆発を起こしたが、今度は真のコートの内側に狙いをつけて爆発を起こす。
そうすれば、“夜羽”による防御はできない。
そのために、エレンは真に意識を集中し、
「えっ」
あっさりと、その姿を見失った。
次の瞬間、エレンの体に突然力が入らなくなった。
最後の力を振り絞って後ろを振り返れば、そこには両手を拳ではなく手刀の状態で降ろしていた真の姿があり、そこで初めて
強化コンクリートに穴をあけるほどの魔力を杭ではなく刃のように薄く放出することで、素手でエレンの首を斬り落とすように振るったのだと。
それを最後にエレンの意識は闇に包まれた。
「そこまで!勝者、如月真!」
同時に、黒乃が真の名前を呼んで試合終了の合図を出した。
ステラ・ヴァーミリオンとエレン・アンリネット、2人のAランク騎士が“落第騎士”と“不良騎士”に敗れたという情報は瞬く間に広がり、様々な波紋を呼び起こすことになった。
手札の使い方説明をしてるときに、なんとなくシャドバっぽいなぁって思いました。
一輝はコントロール型で、真はアグロ型かな?