「そういえば、シンはどうして留年したのかしら?エレンに勝ったのなら、ただの不良ってわけものないのよね?」
一輝の身の上話を聞いた後、当然の流れで真にも事情を尋ねられた。
「あ~、まぁ、言ってもいいか。エレンにも言ったし」
ステラだけ仲間外れにするわけにもいかないため、真の事情も話すことになった。
エレンに話した真の事情(能力や家のこと)と同じ内容をあらかた話し終えた後、ステラの瞳がまるで少年のように輝いていた。
「じゃあ、シンってNINZYAの末裔なのよね!?だったらアタシ、本物の忍術が見たい!」
「だから、んなもんないっての!てか、あんたも同じか!」
エレンに話した時とデジャヴを感じながらも、その辺りのことを丁寧に説明したら、やはりステラもしょぼんとなった。
「はぁ・・・外国人ってのは忍に何を期待してるんかね。別に螺〇丸も〇輪眼も使え・・・いや、似たようなやつは能力で再現できなくもないが、あんな漫画やアニメの世界の忍者はいないってのに」
「あはは・・・まぁ、僕もその辺りはちょっと勘違いしてたしね」
「イッキもですか?」
一輝も忍者について正しい認識を持っていなかったことに、エレンは少し意外感を覚える。一輝ほど武術に精通しているなら、その辺りのことも知っていると思っていたのだ。
「うん。僕も忍術について興味を持っていた時期があってね。それで図書館とかで調べたりしたんだけど、忍者関連の書物ってけっこう少なくて」
「元々、忍者ってのは表に出るような職業じゃないからな。そういう証拠になりうるような書物とか情報は残さなかったんだよ。だから、忍者に関する本なんて、ほとんど物語とか創作物しかないな」
「なるほど・・・でしたら、忍者について教えてもらってもいいですか?本物の忍者の末裔から、話を聞いてみたいです」
「あっ、アタシもそれ聞きたい!」
「そういえば、僕もその辺りのことは聞いた事なかったね」
「・・・まぁ、別にいいけど」
三者三様に期待のこもった視線を向けられては、真としても断りづらい。
結局、真による忍者講座が開かれることになった。
「まずは基本的なおさらいだが、俺たちのような能力者にはいろいろな名称がある。例えば、“連盟”では“
ちなみに、“連盟”とは“国際魔導騎士連盟”の略で、小国同士が手を取り合うことで政治・経済を発展させることを理念にした国際組織だ。また、名前の通りに伐刀者の管理に非常に力を入れており、魔導騎士制度もその一つだ。
そして、“同盟”とは“
閑話休題。
「そして、日本でも時代によって様々な呼び名がある。最も有名なのは明治頃まで使われていた“侍”だが、奈良時代や平安時代では“陰陽師”や“武士”と呼ばれたりもしていた。“侍”という名称がいつから定着したのかは諸説あるが、およそ戦国時代あたりが有力だと言われている。とはいえ、能力者と言っても様々な能力がある。能力者の全員が、ステラさんやエレンのような派手な異能を持っていたわけではなくて、中には隠密行動や工作活動に向いている能力や
つまり、本質的には“侍”と“忍者”は同じ能力者であり、あくまで役職の違いを指す言葉でしかない。
「世間一般で言われている忍術も、実際は今でいう
例えば、“忍び足”は音を操る能力者なら足音を消すことで可能だし、“水蜘蛛”も魔力放出で水底に底をつけることで可能になる。
「もちろん、体術の中にも忍術と言われるような技術はあるが、それは忍者しか使えないわけじゃない。そういうのはどちらかと言えば武術と言う方が正しい」
武術の中にも一般的に忍術と言われるような技術は存在するが、一般に認識される忍術の中ではかなり数が少ない。
「そんな忍者が、どうしてこういう誤解を受けるようになったのか、確実な理由はわからないが・・・創作物の影響がでかいと俺は考えている」
「どうしてですか?」
「まず、劇やショーなんかではほとんどが一般人の役者だ。基本的に演技で使うのはアクロバットの技術や舞台用の小道具で、魔力や能力を使った見世物はまずない。そして、アニメや漫画でも魔力を使うっていう設定や描写はほぼない。能力を使ったバトルなんて、KoKで間に合ってるからな。バトルシーンも、素手や刀なんかの武器がメインだし」
KoKとは“King of Knight”の略で、伐刀者同士のバトルによるスポーツ興行だ。連盟が主催しており、ここでの利益は連盟の運営資金にあてられている。
「そして、そもそも忍者は表に出たら逮捕されかねないようなことを生業にしているわけだから、表立って訂正することもない。そういうことが重なって、“忍者は能力者とは別物”っていう考えが定着したんじゃないかと考えている」
「なるほど・・・」
「言われてみれば、たしかにその通りね」
「授業をさぼっていたと聞いていましたが、博識なんですね」
エレンのちょっと失礼な評価に、真は思わず苦笑する。
「別に、授業に出ていないから頭が悪いってわけじゃない。教科書や参考書を読めばわかるようなことは修めている。というか、むしろ忍者云々に関してはゴシップに近いから、それこそ授業で習わない知識だ。俺の場合、うちの家系が忍者だったから考えることが多かったってだけで」
もっぱら授業をさぼっていた真だが、特段頭が悪いというわけではなく、むしろ他と比べても頭は良い方だ。そんな真だったからこそ、わざと欠席扱いされる授業に出る価値を見出さなかったというだけで、真面目に授業に出れば好成績を修めたはずだ。
むしろ、授業に出ていなかった分、情報誌を読む機会が多くなったほどでもある。
「そういうわけで、2人が授業でわからないところがあったら俺が教えることもできるから」
「そうね。歴史とかはお願いすることになると思うわ」
「私は同室ですから、ステラ様よりも聞く機会は多くなりそうですね」
そんなことを言いながら、エレンは真に近寄った。
肩と肩が触れそうな距離まで近づきながらも、真はそのことについて特に指摘したりしない。意識しないようにしている、と言った方が正しいだろうが。
当然、一輝とステラもそれに気づく。
「そういえば、真もエレンさんのこと、いつの間にか呼び捨てにしてるよね?」
「本当ね。いったい何があったのよ?」
「ふふっ。実はですね、私とシンは昔に会ったことがあるんです」
エレンの打ち明け話に一輝は驚きを隠せないが、ステラはピンときたものがあったようだ。
「もしかして、エレンが前から話してた、強盗から助けてくれたって人のことかしら?」
「はい。そうです」
「なに?真ってそんなことしてたの?」
「ぶっちゃけ、俺もエレンに言われるまで忘れていた」
真が父親と修行の旅をしていたころは、それこそ非伐刀者との戦闘なんて
そんな真にとって、あっさり終わらせてしまった戦闘はすぐに忘れてしまうようなものでしかない。そのため、それに付随していたエレンのことも忘れかけてしまっていた。
「名前も聞いてなかったが、エレンの方は俺の髪を見てすぐに気づいたようでな」
「あ~、真の髪って、本当に独特だからね」
「あれ?だったら、私みたいに決闘を申し込むこともなかったんじゃない?」
ステラの尤もな指摘に、エレンは少し恥ずかしそうにしながらも打ち明ける。
「実はですね、私の憧れの人が、まさか不良だったとは思わなくて・・・それで、ついカッとなってしまったんです」
「あ~・・・」
そう言われて、真もなんとなく理解できたような気がした。自分でも、子供の頃お姫様みたいだと思っていた女子のが久しぶりに会ってみたらぐれてヤンキーになっていたら、同じようなことになる気がする。
「まぁ、先ほど話を聞いて、必ずしも不良というわけではないと分かりましたけど」
「ぶっちゃけ、不良ってのはあながち間違ってないけどな」
どのような理由があれども、自分から授業をさぼったのだから、不良のレッテルを貼られようとも反論しようがない。だから、真も自分が不良だというのは特に否定する気はなかった。
そして、決闘云々で真はあることを思い出した。
「そういえば、一輝とステラさんはどうするんだ?」
「? どうするって?」
「何かあったかしら?」
「いや、決闘の前に言ってただろ。『負けた方は勝った方に一生服従。どんな命令でも絶対に従う』って。今回勝ったのは一輝だから、ステラさんは一輝の従僕ってことになるんじゃないのか?」
「「・・・・・・」」
真の言葉に、一輝とステラは一瞬固まり、それぞれ違う反応を示した。
一輝は「あぁ、そういえば・・・」と思い出した風になり、ステラは顔が真っ赤に沸騰したと思ったら、すぐにそれを通り越して蒼白になった。
「・・・その様子だと、本気で忘れてたみたいだな」
「むしろ、忘れたままの方がよかったのでは?」
エレンの言うことも尤もではあるが、そもそも決闘云々を先に言いだしたのはステラだ。初邂逅が最悪過ぎたとはいえ、一輝のことを散々罵っておきながら「決闘のことは忘れてたからなしで☆」なんて、真からすれば都合がよすぎる話だ。
完全に不意打ちのタイミングで言うあたり、決して真も人がいいとは言えないが。
「そういえばそうだったね。じゃあ、さっそく命令なんだけど・・・」
「ふ、ぁ、あああ、あれは、そのっ!言葉の綾というか、ちょ、ちょっと調子に乗り過ぎただけというか・・・」
「ん~、まずはどんな命令をしようかな~。なんでも言うことを聞いてくれるんだよね?」
「なっ、なななななな、なんでもっ!?い、いや、その、た、たしかになんでもとは言ったけど!なんでもはダメよっ!?ダメなんだからね!?」
「えー?じゃあステラさんは、自分で言ったことをひっくり返すわけ?」
「うっ」
「まぁ、ステラさんがどーしてもイヤって言うなら仕方ないけどなー。あーあ、ヴァーミリオンの皇族は自分から言った約束も守ってくれないのかー」
「あ、ぅ・・・」
「ちょっとがっかりだな~」
「一輝、その辺にしとけ。ステラさん、もう涙目になってるぞ。ありゃ、あとちょっとで爆発しかねないやつだ」
一輝の挑発にステラが破れかぶれになりそうになった直前に、真から制止の声が入った。
「とはいえ、だ。こういうことになりかねないから、ステラさんも安易に『決闘だ!』なんて言って自分自身を賭けない方がいい。今回は基本的に人畜無害な一輝だったからよかったが、仮に悪意が満載の相手だったら、それこそ大変な目にあいかねないからな」
「で、でも・・・」
「自分ならそうそう負けない、か?一輝に負けた時点で説得力がないぞ。それに、何事にも相性というのはある」
「相性ですか?ですが、ステラ様なら水使い相手にそうそう後れをとりませんが・・・」
「なにも、能力だけが相性を決めるわけではない。ステラさんの武器は灼熱の炎と魔力に物言わせたパワーだが、パワーに関しては相性が悪い能力があるだろう」
「あっ」
「俺から見た限り、今のステラが
そんな相手にむやみに突っ込んでしまえば、返り討ちにあいやすいだろう。
「別に、実戦経験を積むために、情報を集めずに相手と戦うのは悪いことと言わないが、できるだけ早い段階で相手の能力を推し量れるようにしておいた方がいいかもな。あんまり自信過剰になってたら、揚げ足をとられるとも限らないし」
「うぅ、わかったわよ・・・」
自分がAランクだからと高を括るのはいいが、それと相手を格下と見るということはイコールで繋がらない。
今回の一輝との戦いで多少は身に染みただろうが、念のために真はここでも釘を刺しておくことにした。
「そんじゃ、一輝。命令の続きをはよ」
「それは続けるの!?」
「当たり前だろ。自分で言ったことの責任は持つべきだ」
「ぐ、ぐぅ・・・そ、そういえばエレンは・・・」
「決闘の約束は無しにするって命令して終了」
「そうですね」
「う~、あ~、もう!わかったわよ!下僕にでも犬にでもなってやるわよ!なんでも言うこと聞かせればいいじゃない!エッチな命令聞かせればいいじゃない!イッキの変態!バカ!大っ嫌い!!」
「逆切れ!?」
「あれ?俺の気遣い、効果なし?」
一度止めたはずなのに、結局やけになって逆切れするのは変わらなかった。
とはいえ、真も一輝がそういう命令をするとは思っていない。
「じゃあ、命令なんだけど。ステラさん。僕のルームメイトになってよ」
「え?・・・・・そ、それだけ?」
一輝の簡単な命令に、身構えていたステラはきょとんとする。
「うん。戦ってみて思ったんだ。僕ら、けっこう上手くいくんじゃないかって。それに何より・・・ステラさんともっと仲良くなりたいって思ってさ。だから命令っていうか、お願いかな」
「ふぁ・・・ぅ・・・」
おそらく、ステラも同じことを考えていたのだろう。一気に顔が赤くなり、脳が茹った。
「うし、ちょうど鍋も食い終わったし、俺たちは部屋に戻るか。あぁ、鍋も俺たちで洗っとくから」
「では、これで失礼します」
ステラの内心を正確に読み取った真とエレンは、淀みない連携と口裏合わせで鍋を持ってさっさと出て行った。ここから先は、自分たちはお邪魔虫にしかならないと察したから。
「はぁ、にしても、ステラさんって、まじでチョロいんだな」
「私も、ちょっと驚きましたね。ですが、同年代の親しい異性との交流が少なかったのもそうですが、ステラ様は少女漫画を読むこともほとんどなかったので、思ったよりも耐性がないようですね」
「・・・その点、エレンは肝が据わり過ぎてると思うが」
「おや、イヤでしたか?」
「イヤというか、異性の扱い云々に関しては俺もあまり人のこと言えないから、どうすればいいのかわからないって感じだな」
そして、それは一輝も似たようなものだ。
つまり、この4人の中で情報が最も豊富なのはエレンだとも言える。情報の真偽は別になるが。
「そうですか。でしたら、私がエスコートしてあげましょうか?」
「遠慮しておく。俺の知らないうちに外堀と内堀を埋められそうだ」
真も男だ。そういうのは自分からエスコートしたいとは思っている。
ついでに言えば、エレンに対してそう考えている時点で、真がエレンのことをどう思っているのか、ほとんど答えが出ているようなものだが、真はそれに気づいていない。
「そうですか。なら、わかりました。私からはほどほどにしておきましょうか」
そして、その辺りに聡いエレンは真の想いを察しながらも、ここでは言及しなかった。
むしろ、格段にやりやすくなったというもの。攻めの攻略を心がければいい。
「それにしても・・・シンは意外とステラ様を気にしているのですね。あの場で戦いの時の注意をするなんて」
エレンの要望で、エレン1人で鍋を洗っている最中、そんなことを口にした。
覗きと痴漢行為で完全に一輝に非があったとはいえ、あそこまでぼろくそ言ったステラに対して親切に教えるのは、エレンからすれば少し意外だった。
その問いに、真は肩を竦めながら答えた。
「まぁな。ぶっちゃけた話、俺としてもあの2人がどこまでいくのか興味があってな。だったら、現時点で一輝に後れをとっているステラさんに肩入れしてもいいと思わないか?」
さらに、とシンは続ける。
「それに、ステラさんの本当におそろしいところは、バカげた魔力でも、灼熱の炎でもない。
心から楽しそうな声で告げる真に、エレンは軽くふくれっ面になる。
「・・・それではまるで、私がそれほどでもないような言い方ですね」
「別にそうとは言わない。だが、エレンだって自覚はあるだろ?自分が行き詰っていることに」
「それは・・・はい」
たしかに、エレンも優れた騎士だ。それは間違いない。
だが、伸びしろという点ではどうしてもステラに劣ってしまう。
すでにスランプに片足を突っ込んでいることからも、それがわかる。
「正直なところ、こればっかりはいかんともしがたい。普段なら、俺も近接で戦える体づくりを勧めるが、こればっかりは向き不向きがある。そして、エレンはステラさんに比べれば不向きな方だ。まぁ、どうしても魔術に特化するような能力はあるから、それを責めるつもりはないが。だが、近接戦闘・・・エレンの杖なら杖術か棍術が適しているんだろうが、身に付けたからと言って劇的に変わるわけでもないし。ていうか、近接も魔術で、しかもあのスピードで発動できるなら、言うこともないし」
もちろん、エレンにもちゃんとした伸びしろがあるが、今は停滞期のようなもので、成長が非常に緩やかになっている。
エレンとしては、どうしてもそのブレイクスルーが欲しいところだが、まだ糸口はつかめない。
「とはいえ、だ。こうしてルームメイトになったんだ。俺もできる限りフォローを入れる。一度スランプを抜ければ、あとは一気に伸びるはずだ」
「ありがとうございます、シン。でしたら、さっそく明日からでも?」
「構わない。というか、俺と一輝は毎朝体力づくりのためにランニングしてるから、それに参加するか?」
「はい。それでお願いします」
細かいところでフォローを入れる真にエレンは内心でさらに好感度を上げながら、ようやく長い1日が終わりを迎えた。
今後ステラがぶち当たる壁に言及してみました。
ステラがこの忠告を物にできるかどうかは、その時次第ということで。
それと、そろそろ更新停止していた作品の投稿を再開するので、さすがに2日おきの投稿はできなくなります。
たぶん、週に1,2回の更新になりそうですかね。