(*゚∀゚)o彡゚ミミミン!ミミミン!ウーサミン!!

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あべななさんじゅうななさい

 それは、何でもない日の夜のことだった。

 

「あれ、ナナちゃん?」

 

「へっ?」

 

 仕事からの帰り道。聞こえてきたその声にはどこか聞き覚えがあった。

 

「あ、やっぱりナナちゃんだ~。テレビ見てるよ~」

 

「えっ……あっ!」

 

 少し記憶を漁れば、すぐに思い出せた。ナナの同級生だ。

 

「凄いなぁ、会えると思ってなかったなぁ。何年ぶりかなー、高校の卒業式以来だから――」

 

「わー! わー!! ストップ、ストップです!!」

 

 ちらりと後ろを見る。今日現場が一緒だった事務所の皆がこちらを見ている。

 彼とこのまま話していたら余分なことを聞かれてしまう。

 

「ちょ、ちょっとこの人と話すことがあるので! 皆さんお疲れ様でした!」

 

 ちょっと無理矢理かもしれない。明日、色々言われるかもしれない。

 だけどいい方法も思いつかなくて、彼を引っ張ってその場を離れる。

 

「他のアイドルの人たちはいいの?」

 

「良くないけどいいんです! 緊急事態なので……」

 

 それからちょっとだけ歩いて……どうしようと頭を抱える。

 勢いで引っ張ってきてしまったけど、ここからどうするかなんて考えてない。

 少しだけ話して、はいさよなら? ……それはちょっと、薄情が過ぎる気がする。

 久々なのだし、ちゃんと話してみるのもいいかもしれない。

 

「わー、ナナちゃんとご飯食べれるのー? 嬉しいなぁ」

 

 ほんわかと笑う彼を見て、変わらないなと思う。

 彼とは特別仲がいいわけじゃないけど、それでも男子の中では喋ることが多い相手だった。

 彼を連れて居酒屋へと入る。ここはアイドルの皆でよく使う居酒屋で、個室を用意してくれるから使い勝手がいいお店だった。

 

「――ご注文の方、お決まりになりましたらお呼びください」

 

「あ、すみません、とりあえず生を二つ――」

 

「あー、生は一つでー、レモンサワー一つお願いしま~す」

 

「え゛」

 

 思わず声が漏れる。最初は生で乾杯するものじゃ……?

 

「ボクー、ビール苦手なんだよねぇ。美味しくない……」

 

「へ、へぇ……」

 

 ビール、いいと思うのだけれど。こう、のどごしがですね……。

 

「でもナナちゃんはすごいねー、ビール飲めるんだー」

 

「ま、まぁ……」

 

「17歳なのに大人って感じー」

 

「え……?」

 

「あれから十年くらい経つのにアイドルになって」

 

「あ、ちょっとその話は」

 

「ボクなんかもう腰が痛くなることもあるのに、ナナちゃんはテレビで踊りを披露しててー」

 

「やめて」

 

「ナナちゃんはずっと17歳なんだもんねぇ。ボクはもうにじゅ――」

 

「ノウッ!!」

 

 まさか彼は、ナナが本当に永遠の17歳だと信じている……?

 ……いえいえ、確かにナナは17歳なんです。それは無論事実です。

 

「……本当にナナちゃんはすごいねぇ」

 

「えっと……?」

 

 一瞬憂いを帯びた彼に声をかけようとする。

 けれどちょうどそのタイミングで店員さんがお酒を持ってきて、話が途切れてしまう。

 

「それじゃあかんぱーい」

 

「……乾杯」

 

 踏み込もうかと迷って、結局彼が話題を振ってきたからそのまま会話が進む。

 彼の近況報告を聞いたり、ナナのことをテレビで見ていたという話を聞いたり。

 実はライブに来てくれていたというのには少し照れた。

 

「……ボクさ、会社で上手くいってないんだよねー」

 

 アルコールが回ってきた頃。彼はぽつりとそう漏らす。

 

「ほら、ボク昔からとろいーとかよく言われるでしょ?」

 

 彼は苦笑しながら言う。

 

「だからテレビでアイドルやってるナナちゃん見ると、すごいなーって思うんだ」

 

 そんな彼を見て、気付けばナナは口を開いていた。

 

「……確かにあなたはちょっと、人よりゆっくりしたところがあるかもしれません」

 

 覚えている限りだと、彼が言うようにおっとりとしたところはあったように思う。

 

「でもそれはちゃんと周りの皆のことを考えてるからだって、ナナは知ってます」

 

 ナナが仲良くなったのも、そういうところがあると知っていたからだ。

 

「きっと会社にも、ナナみたいにあなたのいいところに気づいてくれる人はいますよ」

 

 ……ナナの言葉は彼の助けになっただろうか。

 彼の様子を伺っていると、彼は覚えのある笑みを浮かべた。仲良くなってからよく見るようになった笑みだ。

 

「……やっぱりナナちゃんはすごいなぁ」

 

 彼の空気がどこか変わる。ナナの言葉は届いたのだろうか。

 

「ボクね、実はナナちゃんのこと好きだったんだー」

 

「へー……えっ、へっ!?」

 

 頬が熱くなるのを自覚する。好きって……多分、そういう意味ですよね?

 

「高校の時、今みたいにナナちゃんが勇気をくれたんだよ。覚えてる?」

 

「今みたいなの……? 何かありましたっけ……?」

 

 首を傾げたナナに彼は苦笑する。

 

「だと思ったー。……うん、だからナナちゃんはすごいんだ」

 

 納得したように頷く彼は、やっぱり覚えのある笑みを浮かべていた。

 

「ナナちゃんは、昔から勇気をくれるすごいアイドルだったよ」

 

 その言葉に、嬉しさからナナはちょっとだけ涙を浮かべてしまった。

 ……最近涙腺が緩くていけない。

 ちなみに原因は別に歳をとったからとかではなく、そういう体質なだけなんです。



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