∠月∩日
風鳴さんの作り出した剣を受け取り、ネフィリムの丸太のような腕を往なし、剣の切っ先を腕に突き立てながらゴムのように伸縮する腕を捻り斬る。
ゆっくりと切っ先を突き付けるように剣を構え直し、風鳴さんに私の動きを真似るように指示を送る。こんなぶっつけ本番で教えることになるとは思わなかったけど、彼女なら完全に追い付けると信じるしかない。
私の呼吸と重なり、私の歩法と合わせ、私の剣の振るう速さに追い付く風鳴さんの天賦の才に驚きしか感じないけど、彼女なら出来ると確信していた。
それにしても飛天御剣流"九頭龍閃"をぶっつけ本番で振るえるのは凄いな。まあ、私の放ったのは正確に言えばクズ龍閃だけどさ。
もう、ハッキリと分かるわね。
私と風鳴さんの放った剣技は似て非なるものだ。真っ直ぐと綺麗な太刀筋の風鳴さんと違い、私の確実に急所を狙って剣技を叩き込んだ。
ネフィリムを切り刻んだとはいえ変態の残したノイズを倒さないと終わりって訳じゃなさそうだが、オバサンの年齢だと体力の衰えを感じるよ…。
∠月≪日
まさかネフィリムの進化した姿がスピリット・オブ・ファイアだったとは予想外の事態だ。あんな化け物と戦えるのか?なんて考えていると立花さん達が覚悟を決めたように手を握り合っている。
私だけ手を握っていないのは疎外感を覚えるが、子供の仲良く手を繋ぐ姿を見るのは嬉しい。普段は天羽さんと雪音さんが互いの額を叩き付けながら睨み合う姿しか見ないからだろうか。
溜め息を吐きながらワイシャツの両袖を千切り、拳に巻き付けてバンテージの代わりにする。あんな高熱を帯びたヤツを殴ったら火傷じゃ済まないんだろうけど、危ないことを子供に任せるのは大人としてダメなことだ。
まあ、大人が命を賭けるのは未来を紡ぐ子供のためって相場は決まってるわよね。なんて考えながら飛び立った立花さん達を追うために風鳴くんに放り投げるように頼み、両の手で斜め十字を描いて頭を守るように大気圏を突貫する。
やっぱり、普通なら呼吸すら出来ない筈の宇宙空間で立花さん達を追い掛ける私は人外のカテゴリーに分類されるのだろうか?
そんなことを思いながらネフィリムを杖で開いた異空間に押し込もうとする雪音さんの隣に行き、彼女の右肩に触れながら「あのネフィリムを異空間に蹴り込めば丸く収まるってことよね?」と告げる。
雪音さんのおかげで限界まで広がった異空間へと繋がる裂け目にネフィリムの背中を殴り潰す勢いで押し込め、そのまま異空間に突入する。
∠月∋日
スピリット・オブ・ファイアと化したネフィリムを殴りながら異空間に入ろうとしてきた雪音さん達を怒鳴り付けて地球に帰るように指示する。こういう化け物と心中するのは同じ化け物で十分なのよ。
まあ、結婚したかったし、彼氏も欲しかったけど。そういうのは来世の自分に任せるしかない。あんまり悲しくなることを考えるのはやめるか。うん、雪音さんと天羽さんが死に物狂いで追い掛けてくるのが見えた。
やめて、折角、カッコいい最後を決めようとしてるのに吐血しながら追いかけてくのは怖いんだけど?なんて考えていると天羽さんと雪音さんに押し潰されながら抱き着かれた。
私の耳元で「置いていったら死ぬ!」と呪詛にも似た言葉を吐き出す二人の後頭部を撫でながら此方に手を伸ばすネフィリムの右手を蹴りあげ、砂浜の見える出口に向かってノイズを踏み台にして向かう。
私は子供は好きだけど、同性愛に目覚めるつもりは毛頭ないからね?等と二人にしか聞こえない大きさの声で言えば「それは無理だと思う」と無表情で言葉を返された。
うん、やっぱり、私は異空間でネフィリムと死ぬまで戦ってるから二人だけ戻りなさい。ちょっと、そんな強引に引っ張られるとシャツが破けちゃう。
そんなことを言いながら砂浜に顔面から落ちたかと思えば立花さんの友達が杖を異空間に目掛けて全力で投げ飛ばすのが見えた。成る程、あの子は槍投げの選手だったわけだね。
ただ、まあ、私の胸に顔を押し付けるのはやめてもらえるかな?風鳴くん達が困ったように顔を反らしてるからさ、そろそろ私から離れてくれないかな?