とあるオタク女の嶮難。   作:SUN'S

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第5話

∠月↑日

 

今朝、漸く覗き魔を捕まえたかと思えばツヴァイウィングの片割れだった。私のお店なんか覗いたりしても凄いものなんてないと思うんだが…。

 

あんまり深く考えるのはやめておこう。今は目の前の問題を解決することに専念するべきだな。先ずは覗き見していた理由を聞かせてくれないか?

 

そんなことを言えば「アンタ、アタシ達を助けてくれた鎧のヤツだな?」等と言われた。

 

私はコスプレ以外で鎧なんて着た覚えはないことを伝えると「うそだ!!アンタじゃなきゃ誰がアタシを助けてくれたんだよ!?」と更に大きな声で叫ばれた。

 

だいたい、ツヴァイウィングのコンサートとか行ったことすら無いんだけど。

 

それに、付け加えるようにコンサートの日は別の仕事で他県に行っていた伝えるとギリギリと爪を二の腕に食い込ませてきた。ねえ、アイドルなのに暴行事件を起こすのはマスコミを喜ばせるだけだよ?

 

そう伝えると「アンタなんだ、ぜったいに…」なんてハイライトの仕事してない焦点の合っていない虚ろな瞳が見上げるように見てくる。

 

うん、マジで怖いんですけど。

 

∠月∞日

 

私は天羽奏の異常な執着心がコンサートホールで命を救ってくれた人へ対するモノなのは理解したけど、天羽さんを助けたのは私じゃない。

 

その日は別の仕事と言いながら雪音さんと一緒に隣町の駄菓子屋で半日ほど過ごしていたし、コンサートの会場に行けたとしても次の日になってる。

 

情緒不安定になると思考する感覚が麻痺するって本当なのだろうか?なんて考えながら櫻井さんに昨日の出来事を話すと「それは大変だったわね」と労って貰えた。

 

しかし、天羽さんを助けたっていう鎧の人って性別すら分かってないのに私だって決め付けるのは何故なのだろうか?等と思いながら藤尭くんにスーツを渡し、暇なので作ってみた割引券も手渡す。

 

そういえば藤尭くんと櫻井さんが並んで歩いてるところを見たんだけど。二人って付き合ってたりする訳なの?と聞いたら「ちょっと冗談でもキレるわよ?」と櫻井さんが低めの声で言ってきた。

 

まあ、ドンマイとしか言えない。

 

藤尭くんにも素敵な出会いがあると思うから頑張っていこうよ。とりあえず、その気だるそうな目付きを改善するところから始めてみようか。

 

そんなことを話しているとサングラスを掛けていない天羽さんが入店してくるなり、昨日と同じように「アンタが助けてくれたんだな?」と聞いてきた。

 

もう、そろそろ分かってくれない?天羽さんの探してる人と私は別人なのは櫻井さんや藤尭くんが証明してくれてるんだよ?

 

∠月〓日

 

早朝、私は昨日の出来事を思い出す。

 

いきなり、天羽さんが掴み掛かってきたかと思えば「あれはアンタなんだ、そうとしか考えられないんだよ!!」と錯乱したように言い続けていた。

 

その鎧の人は私より高い背丈だって櫻井さんが言ってたと思うんだけど、ずっと固執するように私だって主張するのは何故なのだろうか?

 

そんなことを考えながら雪音さんに抜拳術を教えていると櫻井さんが「奏ちゃん、私が貴女と会ってるから助けてくれた人と勘違いしてるのかもしれないわ」と溜め息を吐きながら教えてくれた。

 

確かに櫻井さんが頻繁に会いに来てると勘違いしてしまうのは当然の結果なのかもしれないけど、あの命の恩人への異常な執着を説明するのは無理だと思うんだが…。

 

顔を見合わせながら溜め息を吐いていると雪音さんが「なあ、アイツって絶唱しようとしてたヤツで良いんだよな?」等と聞かれたが、歌手なんだから絶唱するのは当たり前なんじゃないのか?

 

ふむ、どういうことなのだろうか?

 

 


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