俺と彼女は友達と呼んで良いのか。
ずいぶんと曖昧な関係なのは理解してほしい。彼女との出会いなんて自転車の撒き散らす泥水をスーツに浴びて落ち込んでいる時に助けて貰ったことが切っ掛けだ。
了子さんと違って二課に所属する前から知ってるような間柄じゃないし、あんまり言葉を交わし合った記憶も無かったりする。
それなのに奏ちゃんは「藤尭は良いよなぁ…あんなに仲良く話せて…」なんて光のない目で見詰めてくる。かわいい女の子だから余計に恐怖を感じて足が震えて立っているのも大変だ。
最近は落ち着いてると安心すれば了子さんと仲良く食事会を開いてる話を聞いて発狂寸残だったり、翼ちゃんが必死に止めても彼女のクリーニング店へ突撃しようとしたり、いろいろと問題を起こすことが増えた。
まあ、殆んど実害はないんだけど。
ほんの少しだけ彼女と戦闘データの数値化について話していると歯軋りする。俺は同性愛を否定するつもりはないけど、彼女は温厚な人とはいえキレると性別問わずにボコるって了子さんも言っていた。
「藤尭くん、今日も宜しくね」
そして、俺の運転する車の助手席に座ろうとする彼女を無表情で見詰める奏ちゃんは怖い。いつも明るくて活発な女の子って感じなのに、彼女が絡めば執拗以上に固執して追い掛けるストーカー気質だ。
「ああ、そうだ。了子さんが『完成したから自分で持ってなさい』って言ってたヤツが後ろのせ…き…」
なんで奏ちゃんが後部座席に座ってるんだ?等と思いながら気付いていないフリを続行しよう。このまま彼女にバレなければ問題ない。
「そういえば漫画を読むって聞いたんだけど。藤尭くんはどんなジャンルが好きなの?」
「おれ?俺はデスノートとかだけど…」
チラチラとバックミラーを見ながら奏ちゃんの様子を確かめていると少しずつ彼女の後ろに近付いている。この子ってヤンデレだったっけ?
なんてバカみたいなことを考えながら二人の接触を悉く遮るように話を盛り上げ、ツヴァイウィングの話題へと切り換える。ほんのちょっとだけでも奏ちゃんの精神を安定させることが出来ればなんとかなるはずだ。
「藤尭くんは何でも出来てすごいね」
「俺は君や奏ちゃん達みたいに戦える訳じゃない。たとえ出来たとして役に立つとは思えないよ…」
情報処理やハッキングは得意分野だけど、みんなと俺は違って前線に出て戦える人種じゃない。どれだけ努力しても体力だって女子高生より劣っている。
ただ、それでも人々を守るために頑張ってる女の子を手助けすることは出来る。どうしようもない大人の意地ってヤツだよ。
そんなことを話しているとクリーニング店の前に到着してしまった。
さあ、彼女を降ろせば奏ちゃんと二人っきりの地獄のハネムーンだ。どんな制裁を受けることになるのか、どうな生き地獄を味わうことになるのか。