アクマで妹! 作:あぐろむいしき
初投稿の1話目です。
1万文字くらいあるので、いきなり長いかもしれません。途中で切ろうかとも考えたんですけどちょうどいいところがなくて断念しました。
世界感は大きな変更はありませんが、香澄たちが1年、友希那たちが2年の頃だと思ってください。
あと、一応ですけど微キャラ崩壊注意です。
『あたしね おおきくなったら “そうりだいじん“ になるんだ──』
「……
微睡みから覚めると、少し上擦ったような高い声が聞こえてきた。
声につられて体勢を起こすといの1番に浅葱色の長い髪が目に入ってくる。
寝起きの目を擦りながらよく見ると、それは此方に向かって歩いてきていた女性のものだった。背中にまで伸びるその髪は歩く度に揺れているが、決して乱れてはおらず、絹ような流麗な印象を纏わせている。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………」
再び声をかけられたので、未だ覚醒しきってはいない脳みそで声の主を視覚しようとする。
ぼーっとする。おまけに身体が怠くて、若干痛い。どうやら椅子に座り込んでテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。
その上何かとんでもなく危険な様相を孕んでいる夢を見ていた気がする。具体的な内容は覚えてないけれど、思い出した方が不幸になる気がする、そんな夢を。
……なるほど、道理で寝起きが最悪なわけだ。
声をかけて来た少女は此方の寝惚け具合を認識したのかテーブルに近づいて自分の目前でひらひらと手を振る。
髪と同じ色の控えめで垂れめがちな瞳は少量の困惑と憂心の色を含んでいた。
「えっと……」
未だに微睡みは覚めていないけれど、しかし少なからず心配してくれる彼女を放置するのも礼儀に反する。
それで挨拶をしようと、寝起きの脳を無理やり動かした。
「……紗夜さん、でしたっけ?」
「何故呼び出した人の顔を忘れるんですか……」
結果、もっと失礼な事になってしまったけれど。
「全くお店で寝るなんて……非常識ですよ」
「いいんですよ。ここ顔馴染みの店なんで」
そういう問題ではないでしょう……と、テーブルの傍らに立つ少女“氷川紗夜”は額を手で覆いながらため息をついた。
確かに彼女の言う通り喫茶店とはいえ商店で、しかも飲食物を扱う店で惰眠を貪るのは非常識であるかもしれない。
勿論それが分からない程に常識を持ち合わせていないわけでもないし、一見の店ではやるつもりも度胸もない。
しかしとは言っても、ことここの喫茶店に至っては話が別だ。
先も述べた通りここはそこそこ気の知れた知人の喫茶店で、しかも今あたりの時刻は必ずと言っていいほど閑古鳥が鳴いている。
早朝を過ぎてサラリーマンや学生などがいなくなる頃合の時刻。しかも今日は休日ならば尚更だ。
だから別段気にするような事でもない……
と、そんな聞く人が聞くと呆れ返るような言い訳をして、未だに立ちすくしたままの彼女を座らせるよう促した。
「それに、私には敬語もさん付けもいりませんよ」
「クセなので。それは容赦してください」
「…………」
「……クセなのは本当ですよ?」
「……相変わらず胡散臭いですね」
紗夜は『本当はそんな喋り方じゃないくせに……』と続けてごちり、渋々といった具合で対面に座った。
胡散臭いとは、来て早々なかなかに棘のあることを言ってくる。
まあそんな対応を取られてしまうのは自分の日頃の行いが悪いからだと言われてしまえばそれまでなのだが。それと真面目で頑固は彼女と自分のような男では相性が悪いというのもあるのかもしれない。
「それで、今日はなんの用なんですか? 此方としても時間はあまり取れないので手短にしてくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
「…………」
「? なんです?」
「いえ……」
しかし無論自分としてそんなことは知ったことでないので性格を改善する気などはさらさらない。紗夜には少し慣れないかもしれないが、ここは我慢してもらうしかない。
ただ今これからの状況としては此方の方が
彼女の言葉に軽薄な愛想笑いしか浮かべられないのも若干悲しいけれど、なんとか話を聞いてもらえそうになったので気にせず本題を進める。
「実は妹の事なんですよね」
「……妹?」
そう切り出した瞬間、彼女の片方の眉がぴくりと跳ねた。
「……妹について、聞きたいんですか?」
「……? ええまあ」
そんなところです……と続けようとして、ふと彼女に違和感を覚える。態度の変わりようが妙だ。特に癇に障るようなことは言ってないはずなのに紗夜の表情がみるみるうちに曇っていく。
紗夜はウェイトレスが給仕してくれた冷水を一口だけ含み、柔らかく飲み込みながら自分にジトリとした視線を向けてきた。
髪と同じ浅葱色の宝石のような瞳が一心に此方を捉えている。その眼はまるで此方の意図を探っているかような、疑心と納得のいかないような不満で満ちていた。
「なんです? どうかしましたか?」
「……どうして日菜のことなんて聞くんですか?」
「はい?」
一体何が気に入らないのかと須臾の間に彼女の思考を解いていたが、唐突に予期せぬ名前が登場した。
「…………。……はい?」
はて、日菜?
「まさか
「日菜さん? ……ああなるほど」
思わず呆気に取られたが、彼女の様子を見て合点がいった。
まただとかちょっかいだとかはよく分からないが、日菜という名前が出てきたことは恐らく、“妹について聞きたいことがある”という言葉を何か面白いように勘違いしてしまったのだろう。
正直その子のことはよく知らないんだけど……。
しかし此方としては妹に対する取り扱い説明的なのを期待していただけなので、特に氷川日菜個人には興味はない。
「確かにあの子は活発で可愛くてそれに女の子らしいと思います」
「あのですね、僕はあなたの妹さんのことを言っているのでなくてですね」
「男の子にも人気があるでしょう」
「……話聞いてもらえる?」
「私のような堅いのよりもよっぽど人懐っこいと思います」
「あの……今は日菜さんのこととかどうでもいいんですよ」
「それになんと言ってもアイドルですからね」
「ちょっと」
「あなたが気になる気持ちも分かります」
「いや分かってねぇだろ」
話聞かんかい。
思わず口調が荒くなり、素に戻る。この人さてはただ妹自慢したいだけとかじゃないよね?
「忙しい中わざわざ呼びつけて。しかもよりによって日菜について聞いてくるなんて」
「どういう思考回路してたら妹ワードひとつでそこまで飛躍できるんですかね」
「もはや喧嘩売ってますよね」
どっちがだよ。
もう妹で遭難しちゃってるわよこの人。
「こっちは今日締切の提出書類をおいて来てあげたというのに」
「え、そうなの? まじで?」
そんなに忙しいのに今日来てくれてたの?
それは正直すまんと思うけども。
「まあ冗談ですが。既に終わらせてあります」
「なんなんですかもう……」
いや本気で焦った。びっくりさせないで欲しい。
流石に此方の別段大したことの無い都合で優等生の成績を落とすのは気が引ける。
「その……言ってるのは日菜さんのことじゃなくてですね」
それと可能ならばさっきの妹ドヤ顔アピも冗談だと言って欲しかったけれど……まあそれは言うまい。
「妹は妹でも、俺の妹の方ですよ」
「……え?」
さて改めて安堵できたところで話を元に戻す。
すると先のトゲトゲしていたジト目から一転。彼女は数度ぱちぱちと瞬きをすると、何か悟ったようにため息をついた。
「な、なんだ。あなたの方でしたか」
そして
「話はちゃんと聞いてくれないと困ります」
「す、すいません……」
「……まあつまりは紗夜さんって妹がいるじゃないですか。だから相談をと思いまして」
「相談ですか?」
「そろそろうちも妹の手綱の握り時かなと」
「手綱」
「ええ、何かありませんか?」
少し神妙な面持ちとなって、質問をなげかける。
「そんな方法があるなら私がまず1番に聞きたいところなんですが……そもそも九郎くんが妹さんで何か困っていることがあったなんて驚きです」
「そうですか?」
「はい。特別仲が悪いという噂も聞きませんし」
妹さんとの仲に至っては、ですが……と続かせて、紗夜は不思議そうにこちらを見つめる。
まあそれはそうかもしれない。こちらも必死に誤魔化してきたのだから。
「でも最近アレちょっとおかしいんですよ」
「アレって……妹さんでしょう。そんな呼び方では可哀想です」
「いいんですよそこは。こっちの問題ですし」
「そう言われると弱いですが……で、なにがおかしいんです?」
「言動とかが」
「例えばどういった?」
「最近というか2年くらい前からなんですけどね。『他の女の子に近づかないで』とか言うんですよ」
「はあ」
「変ですよね」
「それは単にあなたの手癖の悪さを嘆いているんじゃないんですか?」
「そういう雰囲気ならまだマシなんですけどねぇ……」
それならこっちも助かるというか……いや助かりはしないけども、けどまだ助かる余地があるというか……。
そんな意味合いも込めてため息をひとつ落とすと、彼女も首を捻る。恐らく此方の様子から考えていた線を消して、ならばどういうことなのだろうかと思考でも巡らせているのだろう。
しばらく考え込んでいると紗夜はハッ……と何かに気づいたかのように顔を上げ此方の凝視してきた。
「あ、あなた……まさか……」
「……一応聞きますけど……なんですか?」
その瞳が何やらわなわなと揺れている。……さっきのこともあるが正直こういう時の氷川紗夜はかなりアテにならないので、あまり良い予感はしない。
紗夜はしばし逡巡して恐る恐る口を開く。
「妹さんにまで手を出しているんじゃ……!」
「……なわけないでしょう」
たっぷり数秒後おいたが……案の定、というものだろうか。
彼女のあまりにもな勘ぐりに辟易してしまう。思わず項垂れてしまうくらいに。俺はうんざりしたような色を表に出すことを厭わずにまた深いため息をついた。
「す、すいません……そうですよね、それはないですよね」
「そりゃあアレは変わった感性を持ってるなとは思いますけど……関係性に至ってはごく普通ですからね」
少なくとも俺からは。というか良くは思われてないのは知ってたけど、まさかそこまでの
あれは
別に嫌悪しているわけでも仲が悪い訳でもない。しかしそれは既に定形化され、尚且つ現代に客観的に構築されたごく普通の人間関係の一部に過ぎないものだ。
精神的にも科学的にも形づけられた概念は他の伴侶や友人などの、言ってしまえば後天的な関係とは異なるモノで。
そこに決して例外などはなく、もっとも単純で尚且つ希少、一生涯纒わり付く人間関係。
「ただちょっとおかしいのは事実なんですよ……兄妹的に」
「まあ確かにあの子は少し独特な雰囲気というか、掴みどころのない子だとは思いますね」
「あれ、関わりありましたっけ」
「ええまあ。チームは違えど同じパートですし」
「……ああ。なるほど」
所謂“家族”であり、血縁という確かなくくりで証明されている人間関係である。
だからこそその間柄との人間には、それ相応の“ライン”というものが存在すると、俺は思っている。
「たまにお話すると、いつもあなたの事を話してくれるんですよ?」
「そ、そうなんですか?」
「はいとても。仲がよろしいんですね」
「……まあ悪くは絶対にないですね。ええ」
彼女の言葉を聞いて何故か背中が冷える。店の冷房が効きすぎているだとか、錯覚と思いたいけれど、生憎冷や汗は間違いなくかいているだろう
頬がヒクヒクと痙攣を始める。先程の引き笑いとはレベルが違う。表情コントロールには多少自信があったのだけどこれではなんの説得力もない。
「もしかして妹さんのこと、苦手なんです?」
「いや決してそういうわけではないんですけどね?」
仲はいいと思う。もちろん。それも他と兄妹とも比べても結構良好なものだと自負もしている。
しかし先も述べた通り家族、兄妹にはラインなるものが引かれている。
一線は……引いているはずなのである。俺は。そう、俺はね。俺は引いてるから。
引いてる引いてる。ダブルの意味で。もうドン引きである。
しかし人間関係とは非常に難儀なもので、片方だけが気にかけていてもままならないというのは相当厄介だ。
この歳になってくると世間体とか気にするし。
もしかすると俺も妹に遭難させられてるのかもしれない。やだもうマジ泣きたくなってきた。
けど今はとんでもない量のハチャメチャが押し寄せて来ているので、泣いてる場合じゃないんだなこれが。
「ほんとドラゴンボールでもあればなぁ……」
「何を現実逃避しているのかは知りませんが、私からすればあなたも十分おかしいですからね」
「……なんでですか」
どこか自棄的な感傷に浸っているとふたたび紗夜の眼がジトリとした半眼になって、そんなことを言ってきた。
おかしい……? 俺が?
「……そんなことなくないですか?」
少なくともアレに比べれば。
「自覚なしですか……」
ため息合戦かという具合。もしくは先程の此方のお返しと言わんばかりの大きなため息をつく彼女。
「ナンパです」
「……ナンパ?」
「はい」
そしてその後の開口一発。一気に俗っぽい単語が出てきた。
「…………」
「な、なんですか。人の顔をじろじろ見て」
「いや……どうしてうちの氷川紗夜はこんなにポンコツっぽいのかなと……」
「ひ、非常に失礼なことを言われている気がします!」
いや……だって、ねぇ……?
もう2度も勘違い起こしちゃってるじゃないの。まだプロローグなのに。
もっとクールで思慮深い人だと思ってたのに。これはちょっと世間は許してはくれませんよ。
「紗夜さん……ナンパなんてロクなことにならないですし、悪いこと言わないんでやめておいた方がいいですよ」
「なんで私がやってるという
「……つまり私はナンパされるくらい可愛いですよって」
「違います! 逆ってそうじゃないですから!」
あれれおかしいぞ、結構丁寧に注意した筈なのに。めちゃくちゃ怒ってらっしゃるじゃねぇか。
「ナンパねぇ……」
「ナンパです」
「ナンパ」
「はい」
「誰が」
「あなたがです」
「あなたが?」
「だから私じゃありません! ……九郎くんがです」
「……俺が?」
「……本気でこころあたりがない顔をしているのが腹が立ちますね」
いや正直に言ってしまえば勿論こころあたりはある。しかし同時に、それに待ったかけたいくらい気になることもあるのだ。
「あれはナンパではないと思う」
「……ほう?」
「……いや、怖ぇし」
なにそれ急に。震えるんだけど。
「前にあなたが言っていた
「ははは、ヤですねぇ紗夜さん。面白いとか言う割に、全然眼が笑ってないじゃないですか」
「はい? では笑った方がいいですか?」
「い、いえ、すいません……」
怖すぎんだろ……下手なこと言うとガチ殺されんじゃなかろうか。
戯言とかいてセリフとか読んじゃってるあたり、どれだけキレてるのが分かってしまう。
「もう1度言ってみてくださいよ、アレ」
「……なんでしたっけ」
「会って初めてこのお店に来たときの、アレですよ」
「ああ『顔がいい男になって、一生誰かしらを勘違いさせて生きてきたい』ってヤツですか」
「顔は良くても発言がブスなので無理だと思います」
「……なんでそんなひどいことばっか言うんです?」
野望を改めてカミングアウトすると、思ったよりも辛辣な一言が飛んできた。絶対零度の視線と共に。
そっちが言えっていったのに……。
「ひどいのはあなたの日頃の行いです」
「そんなことはなくないですかね」
「言っていることはだいぶ最低だと思います」
「それに関してはちょっと思う」
「本当……改めて聞くと何様なんですか? それ」
そんな答えに困る質問はしないで欲しい。いやばりばり身から出た錆なんだけどね。
それにしてもこの人、どうして自分にだけこんなにも当たりが強いのか。他の人には言わないじゃんそんなん。ねぇ。ブスとか、あなたの口から初めて聞きましたよ。
しかも断定的に無理とか。もしかしたら出来るかもしれねーじゃん。
「確かにあなたはそこそこの紅顔ではあります」
「え? そうですか? ありがとうございます」
「女顔ですけどね」
「いちいち一言多いですね」
「しかしそれも相まってか、あなたの被害者が周りに何人かいます」
「? 被害者?」
「あろうことか花咲川にコアなファンが数名……」
くっ……と、よくある女剣士のようにに悔しがり、苦虫を噛み潰したように話す紗夜さん。
俺はそれを聞いて2、3度まばたきを繰り返した。
「……え? じゃあ成功してるじゃないですか」
勘違いさせ作戦。
「それが腹ただしいんです!」
「わっ」
真顔でケロッと言うと、紗夜はバン! とテーブルを叩きながら立ち上がった。その勢いは半身をこちら側にまで詰め寄らせてくる程だ。あまりの勢いに条件反射的に手が前に出てしまう。
他にも手のひらをかなり強く打ち付けたので、かなり大きい音が鳴った。数少ない周りの客の目が自分たちのテーブルに集まってくる。
「あ……」
「はは……」
愛想笑いを浮かべて彼らに軽く会釈する。
すると彼女も己の行為の派手さに気づいたのかスっと何事も無かったかのように座り直す。
「と、とにかくこれ以上うちの生徒たちにちょっかいをかけないで下さい」
紗夜は昂った体温を落とす為か、また冷水を一口飲んだ。
気にしてない体裁をとっている彼女だが、その顔は耳まで赤い。
「いいですね?」
「ちょっかいなんてかけてないけど」
イジるといい反応をしてくれそうではあるけれど、しかしそれをすると此方の顔まで物理的に赤くされてしまいそうなので、今回は見送ることにする。
キッと睨めつけながらの言葉を此方は平然と受け流す。
「今日も何回も私に恥をかかせるような真似をしたではないですか」
「お言葉ですがそれはあなたが勝手にかいただけなのでは」
「いいですね……!?」
「……謂れのない過失の責任を取らされることほど厄介なものは無いよねぇ」
再度紗夜の言葉を受け流す……とは思ったけれど、今度は受け流せなかった。いやね、発せられる重圧がすげぇんだこれが。あとなんか脚の方もぐりぐり痛てぇし。
妹の友人にも結構怒りっぽいやつはいるが、正直ここまでではない。レベちだ。やっぱり紗夜さんってすげーんだな最後まで殺意たっぷりだもん。
「次に何か妙なことをしたらわかってますよね?」
「え、どうなるんです?」
「コブラツイス──」
「…………」
「いえ、オシオキですからね」
「聞いてしまったぞぉ」
ほんとにもう、ヒシヒシと伝わってくるね。殺意の波動。
あまりにもサラりと宣うので聞き流してしまいそうになるがこの風紀委員長とんでもないことを言いやがる。そのサラサラ具合とくればもう俺じゃなきゃ聞き逃しちゃうねって感じ。冷静になったら冷静になったで恐ろしい人だ。
しかしどうして女子校の風紀委員長の口からナチュラルにプロレス技の名前が出てくるのか。おたくの校訓が気になるところである。
「うちは文武両道です」
「嘘つくんじゃねぇよ明らかに両道ではないだろうが」
発言かえりみろや。武が殆どだろうが。ゴリラ80%だろうがよ。
というか流行ってるのだろうか。女子高生の間で。つい先日も羽丘学園の妹の友達からツームストンパイルドライバーをくらったばかりなんだけども。
もしその流行りが事実ならば妹の『他の女の子に近づかないで発言』は割と的を射ている。主に危険度的な意味で。
「まあそれは冗談ですが」
あんたが言うととても冗談に聞こえないので不思議だ。
「少しはご自身の態度を改めてくださいね」
そしてそれも割とこっちのセリフである。
「まあ他校の、しかも女子校の生徒を無闇に口説くのは褒められた事じゃないかもしれませんね」
「口説くって……ほんっとあなたはブレませんね」
「悪気がある訳ではありません」
「勧めるわけではないですがあなたの学校は共学でしょう。女性を……く、口説きたいのであれば同じ学舎の生徒ではダメなのですか?」
「それは考えたんですけどもう既に性格が知れ渡っているので難しいですね」
「さいですか……」
「それに人のモノやダメだとわかっているモノにこそ強く惹かれるんですよ」
「はあ?」
「背徳な行為だと分かっていてもこれだけはやめられません」
意識的に目を細め、ストローの袋ゴミを弄りながら言う。すると彼女の宝石のようなと比喩した眼がどんどん濁っていった。
「…………」
それはまるで家畜を見るような。
いや冗談なんだけど……やめて欲しいそのガチ反応。ちょっと言い過ぎたかしら。
「……そんなことばかり言っているようだと周りから白い目で見られますよ」
それ、いま、なう。
「分かりますけどどうしてそんな『可哀想だけど明日の朝イチで精肉店に並ぶのね……』みたいな目で見られなきゃいけないんですか」
「そこまでは言ってませんが……」
「もしかして自分が構って貰えないからって拗ねてるんですか?」
「違いますよ馬鹿なんですか」
「雑なツッコミやめてください」
何気なく言ったつもりではあったのだが。予想に反して大きな反応をされ、ついでにテーブルの下で脚で脚を小突かれる。
「相変わらず、安定のクズで逆に安心しました」
「紗夜さんなんか口悪くなってない?」
「だとしたらあなたのせいですね」
「口調が移ったとでも?」
「そうですね、そうともいえます」
いやいわんだろ。
内心で彼女にツッコミを入れる。
「本来ならここで私の口を悪くした責任を取れと言いたいところですが」
「それに関してはもう自己責任じゃないの?」
子供じゃあないんだから。自身が使う言葉遣いの選択くらい責任を持って欲しい。あとそれなら敬語で喋ることに文句も言わないで欲しい。
「しかし……これは他の生徒ではなく私に悪影響が集中してきている兆候と言えますね」
「? と言うと?」
「他の花咲川の生徒にそんなへそ曲がりで軽薄な態度を移すわけにはいきません」
「……つまり俺から他の生徒の身代わりになっていると」
「はい」
いやはい、じゃないが。それにそれだとさっきまでの話と食い違わないですかね。
「風紀委員長としても見過ごせませんし」
「別に風紀委員は他校の生徒の風紀まで管理する必要はないんですけどね」
「ですからうちの生徒があなたの毒牙にかかるのを防いでいるんです」
「毒牙て」
「どうしてもというのなら1度私を通してください」
「いやそれ絶対許可貰えないヤツじゃん」
審査厳しすぎんじゃんそれさぁ。App〇eかよ。
それに毒牙説が本当ならば身代わりとして全て食らう紗夜は大変なことになるのではないだろうか。
「そ、それも仕方ありません。あなたを更生させて面倒をみれるのは私くらいなものでしょうから」
「いやうちにもいますけど。風紀委員くらい」
「よく訓練された風紀委員でなければ」
「風紀委員に訓練とかねぇから」
一体何が誇らしいのかふふん、と薄い胸を張る紗夜。
それとは対照的に此方は白けた眼になってしまう。
「……なにニヤけてるんですか」
「に、ニヤけてなんていません」
いやニヤケているが。もう口元ダルンダルンだと思う。
「とにかく! いいですね? ダメなんですからね?」
「……こう聞くとさっきのはやっぱり拗ねてたんですかね」
「……拗ねてません」
拗ねてません、拗ねてませんから……紗夜はぶつぶつひとり呟きながら軽く窓の外へ視線を外し、そのまましばらく視線を固定した。
外の通りを歩く人間でも数えているのだろうか。あまり必要のある行為だとは思えないけれど、触れておかないことにする。あとが怖いのだ。
違うとか馬鹿とか、口ではそう言ってはいたけれど、右の方へそっぽを向くのは彼女が後ろめたいことがあるときの証拠である。
「まあ妹も怖いし、善処はしてみる」
「……やめるとは言わないんですね」
「俺が素直にそう言った方が気持ち悪くないですかね」
「それはそうですが……」
「でしょう」
「けど理由が少し気に入りません」
「理由?」
「私に感化されたのではなく、妹さんのためなんですね」
「いや別に怖いだけで妹の方な為なんてミリも思ってないんですけど……」
「そういう雰囲気だったでしょう。……実はあなた、女の子の扱いなんて上手くないんじゃないですか?」
「あなたに雰囲気とかを諭されたらおしまいですね」
「ど、どういう意味ですか!」
いやどういう意味もこういう意味もない。それもまた、日頃の行いというものではないだろうか。
そう言うと、また紗夜は拗ねたような表情で顔を右に背ける。紗夜自身の言う通り堅くて生真面目な性格の彼女がこのクセを見せるのはかなり珍しいのだが……。
「そういうところは可愛らしいと思いますよ」
「……ほんとに馬鹿ですね……もういいです」
珍しいその拗ねた表情を正面から見えないのは少々惜しいけれど……これはまぁ、これで。
「そういえば凄く話が逸れてますけど妹さんの相談はいいんですか?」
「そうですよめっちゃ忘れてましたわ」
?? 九郎
都内にある普通科高校の2年生。あだ名はクロ。ドッジボールでは最後まで残っているタイプ。
とある事情の為彼女を作ろうと日々奔走している。本人はナンパではないと主張。しかし軽薄さと胡散臭さが祟ってなかなか成果が出ない。
好きな食べ物は甘いもので嫌いな食べ物は辛いもの。特技は危機回避。『アイアンクローだね、わかるとも!』と言いながら日夜紗夜からの折檻を回避している。
氷川 紗夜
花咲川女子学園2年生。ドッジボールでは最初に自ら外野にいくタイプ。
風紀委員に所属しており、真面目で几帳面な性格。なので九郎とは相性が良くない。ナンパしがちな九郎から生徒を守ることを口実に彼を更生させようと躍起になっているが、未だに芽は出ていない。
好きな食べ物はポテトで嫌いな食べ物はにんじん。得技は九郎に対するシャイニングウィザード。最近避けられる。ほんと憎たらしいことこの上ないですねっ。
読了感謝です。
妹って誰なんでしょうか。よければ予想してみてくださいね。
気が向いたら感想とかも気軽に書いて言ってください。いただけるとても嬉しいです。
次は明日の同時刻に投稿します。こちらもよければ見てくださいね。
コメディチックに書くのが好きなんですけどよね
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これくらいでいい
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いやもっとイチャコラさせろ