アクマで妹!   作:あぐろむいしき

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長いです。もうひたすら長いです。途中で切ろうとも思ったんですけどね。無理でした。水着選び編は最後です。
そしてお気に入り400突破しました。ありがとうございます。


夏という季節は、色々と入り用なのですね④

 

 

 

 

「ふぅ……危ないところでしたね」

「ねぇ」

「間一髪といったところでしょうか。まったくあの子の神出鬼没ぶりには手を焼かされます」

「ちょっと」

「さて問題はこれからどうするかですね。なるべく早くどこかへ行ってくれればいいんですけど」

「……あのさ」

 

 

 さて非常にめんどうなことになった。本当……本っ当、これからどうしたものか……。

 

 開始早々デジャヴな気がしなくもないが、今は気にしている場合ではない。突如として起きた冗談なような緊急事態、今はそれに頭がいっぱいだった。

 ふたりの悪魔の登場。それは竜巻ように突発的だった。

 理不尽に発生して場を荒らして去っていくこのいたずら好きな双子悪魔だが、しかし2号の方はともかく1号の方が予想外すぎた。まさか来ていたとは。目の当たりにした瞬間を思い出すと今でもぶわぁっと身体が熱くなる。

 それを打破すべく自慢の危機回避能力を使って瞬時に知恵を巡らせ、策を弄した。

 おかげと言っていいかは微妙だが、最悪のケースだけは回避することが出来た。

 

 しかしこのとても作戦とも呼べぬ見切り発車は、早くも停まりつつあった。

 

 頓挫一瞬だった。いやもう2分くらい。まさに各駅停車。体感にして恵比寿渋谷間くらいだよこれ。

 額から汗をひつしずく垂らし、ふぅ……とこれから修羅場を乗り越える歴戦の勇士の如く呟く。俺は背後から迫る鬼気としたプレッシャーにも全力で無視を決め込み、色々なものから目を背けながら出来るだけいい笑顔を作り状況を分析する。

 

 ……いや、まじで狭いな。ここ。

 

 近い。普段よりも、明らかに。

 ゆえにこれまた普段よりも明らかに感じ取ることが出来る。温度も。息遣いも。……そして殺気も。

 

 

「……おい」

「……なんですか。さっきから。乱暴な言葉遣いはやめてくださいよ」

「乱暴とかあんたに言われたくないんだけど……!」

 

 

 ガン無視をしていた自分にさすがに堪忍袋の緒が切れたのか、背後の少女がどすっと俺の腰に拳を打ち付け抗議する。いやぁさすがに無理があっただろうか。

 

 

「いや、けど蘭には正直すごい申し訳ないと思ってるんだよ?」

「思ってるならやんないでよ!」

「仕方ないじゃない。お互いモカに見つかったらまずいだろうに」

「あんたは別にいいでしょ……あたしは試着室にいたんだし、紗夜さんと一緒に誤魔化せばよかったじゃん!」

「や、今日モカには『男友達と映画行ってくる』って言っちゃったから……」

「それ自業自得だし……!」

 

 

 そうは言うが仕方なかったのだ。最初はショッピングモールに行くとだけしか伝えなかったのだが、そうすると付いてこようとしたので嘘をつかざるをえなかった。

 それに椎咲も椎咲で見つかったらデカい声で『アタシが選んであげた昨日のコやつぅ、どうだった〜?』とか空気を読まずに言いやがるに違いない。すると今度は蘭にもぼこぼこにされそうなので、これも仕方なかったのである。

 

 

「そう。あくまでも仕方なかったのね。分かって?」

「い、意味わかんないし……うう……」

 

 

 もうこの際なので開き直ったように図々しく言うと、強気な蘭の言葉じりがどんどん弱くなっていく。真っ赤になっているのが容易に想像出来る。いやぁほんと申し訳ない……。

 こいつに言われるまでもなく自身の凶行については理解している。しかしながら、モカに嘘をついて他の女子と水着を買いに来たなんてことがバレようもんならそっちの方が命に関わる。

 

 ただそれでもデッドオアデッドな気はしないでもないが。今はふたつの意味で後ろを見れない。

 

 きっと親の仇を見る目で見られているんだろうな。これは後で何をされるか分かったものではない。

 いつもの調子で『絶対殺す……』なんて言われたらもう震え上がっちゃう。今日はおうちに帰れないかもしれない。

 

 

「じぇったいこりょす……」

 

 

 いや、割と帰れそうだぞこれは。やぁよかった。

 

 

「……よくありませんよ。あなた、いったい何を考えているんですか」

「あはは……ほんと何やってるんでしょうね」

 

 

 安心したのもつかの間今度はとなり……まあ殆ど距離はないけども、左どなりから声がかかる。

 一緒に巻き込んでしまった(巻き込まざるをえなかった)氷川紗夜だ。責めるような彼女の半眼ジト目が突き刺さる。

 

 

「まぁどうして挙動不審だったのかは分かりましたが」

「は? 今の蘭との会話で分かります? 状況」

「九郎くんは美竹さんに甘いというか、お優しいんですね」

「分かんのかよすげぇな。……あ、すごいですね」

「もういいですよそれ。さっきも呼び捨てにしたでしょう」

 

 

 それよりも今の状況です。紗夜はため息まじりに呟いた。

 まあそれはそうだ。間違いない。今は喋り方など毛先ほどもどうでもいい。

 

 もうここまでで既にお察しになられていると思われるが、俺を含めた3人はこの窮屈な試着室へと押し入っていた。

 

 蘭のため、そして自分自身のために此方へ着々と近づいてくるふたりを躱すために咄嗟に取った行動だった。蘭が着替え終わっているのを確認して、紗夜と共に飛び込んだ。

 唯一誤算だったのは『着替え終わっている』というのが『水着に着替え終わっている』といったところだろうか。これではただの変態だ。ひまりのときは社会的死をなんとか回避できたのに結局豚バコ行きである。

 

 

「美竹さんが可哀想です。あと普通に痴漢にセクハラです」

「だから確認したじゃないですか」

「水着に、ですけどね。まったく、私だったら即追い出してますよ」

「いや心配しなくても紗夜さんのとこには入りませんよ」

「…………」

「ぐはっ。い、痛ぇし。なんで?」

 

 

 紗夜は絶対キレるor通報されるって分かってるから入るんじゃなくて別の方法考えるって意味なのに……それを言うとなぜか怒られた。なんでや。

 

 

「……もういい。こいつがこういうヤツってことは普段から分かってるし」

 

 

 じゃあ蘭のところには入ってもいいのか、と言われればまあ絶対違うのだが。けど、わんちゃん許してくれそうではある。

 そんな邪な考えを察知したのか、再び蘭の責めるような声が聞こえてくる。

 

 

「え? 俺もしかして日頃から痴漢働くやつだと思われてる?」

「美竹さん。ですが……」

「いや紗夜さんですがじゃないですよ。否定してくださいよ」

「変態は黙っててください」

「……なんかちょっと辛辣じゃない?」

 

 

 いわれなき汚名を被せられている気がするので否定しようにもわすぐにぴしゃりと断じられる。なによ紗夜、ちょっと機嫌わるくない?

 いやダメだな。今は何を言おうと言い訳にしか聞こえない。さすがにここまですると偏見を持たれるのも仕方がないだろう。

 どんな事情があれさすがに此方が悪いので、大人しく言うことを聞いておいた方が懸命だろう。

 

 

「飛び込んで来た理由もムカつくし」

「いやだからまずいんだって。バレるのは」

 

 

 それは蘭もでしょうが。そう言うと彼女は途端に静かになる。背後から服の裾を握られる。

 

 

「? なによ?」

「……てっきり、あたしの……」

「あ?」

「……しかも紗夜さんと一緒だし」

「いやだって口封じする時間なかったし」

 

 

 相変わらず後ろの彼女の表情は見えないが、言葉の節々に刺がある。

 そのまま、あと1番ムカつくのは……と続け、気づいたときには感じる温度が近くなっていた。

 

 

「……なんかさ、ないの?」

「なんかとは?」

「……あんたが選んだ水着でしょ」

 

 

 そうは言われましてもまだ視界に入れてないんですがそれは。

 せめてもの配慮として試着室に入ってからずっと気をつけていたのに、まさか逆だったとは。

 

 

「……見た方がいいんですか?」

「そ、そういうわけじゃないけど……けどこうなった以上感想とかないとムカつくって言ってんの!」

「はぁ」

 

 

 そういうものだろうか。女心は複雑ですね。

 しかし先に言うことは聞いておいた方が懸命だと分かったので、従うことにする。

 

 

「ふむ」

「……っ!」

「いやその反応はおかしいでしょ……」

 

 

 意を決して……というわけではないが、少しだけ緊張して振り返る。すると蘭はぼんっと音が出るほどに顔を朱に染めて自身の身体を抱くように身を隠す。

 いや感想くれ言うたやんけ。だから振り向いたのに。なんなんだよ。

 それにその下手くそな隠し方のせいで胸がむぎゅうっ! と強調されてしまっている。いやすけべだなオイ。

 

 

「ちょっとなにその反応。こっちまで変な気持ちになるからやめてくれる?」

「へ、変な気持ち……?」

「ああ違う。変な雰囲気ってことね」

「ま、紛らわしい」

 

 

 おめーだよ。

 自覚しろバカタレがと言いたいけれど、今はこいつの裁量ひとつで俺は豚バコ行きなのでぐっと堪える。

 ここは、そうだ。月並みに感想でも言ってみればいいのではなかろうか。

 

 

「よく似合ってますね。可愛らしいですよ」

「うるさい」

「えぇ……」

 

 

 しかし秒速で断じられてしまった。どうすればいいんだろうか。

 

 

「あたしの水着よりも紗夜さんの水着の方が見たいとか言ってたくせに」

「めんどくせぇなぁもう」

「それに……そんなヘラついた敬語で褒められたって、嬉しくない」

「む……」

 

 

 彼女はそう言うといつも通りの不満げな表情をつくった。幼少期から今まで、些細なことでも嫌なことがあるとすぐに見せた幼さ残るむっつり顔。

 それはいつもみたく大した理由もないのかと思いきや、しかし今回は少々唸らせる内容だった。

 

 

「……確かに。それは悪かったな」

 

 

 短く逡巡し、ため息をひとつついて普段の言葉遣いに戻す。

 自分が目上の人間以外に使う敬語……これが口調が作っているということを、蘭は知っている。

 あるならばこいつの言うとおり他愛のない雑談はともかくこの場合は用いるべきではないのかもしれない。

 正直照れくさでほぼ無意識に出たものだったし、蘭とは気心知れた仲であるのは確かであるけれど、やはりそれではいけない。改めて口を開く。

 

 

「いや、そうだな……似合ってるってのは本当で、黒を基調とした水着はおまえのクールな雰囲気にもあってるんじゃないか?」

「そ、そう」

「髪の赤メッシュが差し色になって、おしゃれだな」

「……ありがとう」

 

 

 さてこうなると真剣かつ真摯に褒めていくしかないのだが。

 しかしやり慣れていないので、うまく出来るかどうか分からない。

 

 

「これはナンパされるぞ」

「う、嘘。それは嘘でしょ」

「嘘じゃない嘘じゃない。俺ならするかな。現地は草食系ばかりじゃないんだぞ」

「あんたはするんだ……そうなんだ……」

 

 

 ……割とてきとうなことを言ってる気もしなくはないが。

 だけどこいつも満更でもなさそうだ。いいぞその調子だ。どんどん押しまくれ。

 

 

「あとはそうね。意外と脚が綺麗かも。魅力的だな」

「脚?」

「全体的にスタイルのバランスいいし」

「そんなの気にしたことない……」

「もったいないなそれは」

「そうかな……」

「そうだぞ。有咲にも言ったけど風呂入る時は目を開けた方がいいぞ」

「あ、開けてるってば」

「それにあれだよな。やっぱりなんといっても脚だけって訳でもないのが驚きだぜ」

「そんなこと、ないし……」

「自分が男だということを再認識するな」

「あ、あたしのことそういうふうに見てるんだ」

「罪な女だ」

「へ、へぇ。ふーん? ……ほんとに?」

「もしかして疑ってる?」

「だっていつも口八丁にへらへら言ってるじゃん」

「いやぁ嘘じゃないんだよ」

「どうだが」

「かっこ可愛いぞ」

「……あっそ」

「後はまぁそうだなぁ……簡潔に言うと健康的で適度な肉付きの太腿もさることながら視線を上半身へと持ち上げるとウエストはキュッとくびれてるしならば全体的に痩せてるのかと思うとそういうわけでもなく仄かにかいた汗の雫が鎖骨のラインからスウっと編上げ水着のセクシーなトップスに包まれている意外と豊かな胸元へと流れていくのは見ていて色気があるし何よりそれが視線を胸の方へと誘導しているのは確定的に明ら

 

 

 ばちこーんッ!

 

 

「つあッ!」

 

 

 褒め言葉のマシンガンを振り上げていると、突如視覚外からかなり強烈な衝撃が頭に叩きつけられた。

 脳が揺れる。たまらず声にならない短い悲鳴が漏れでた。

 

 

「な、なな、なななななな!」

 

 

 突然の、背後からの攻撃。おいまたかよ。ただ先程も同じようなことがあったが威力は段違いだ。

 共通点と言えば現状の人数から犯人が分かっているということくらいである。

 

 

「……ってぇな! 何すんだ紗夜!」

「ななななななにすんだではないでしょう! 完全セクハラではないですか!」

 

 

 その犯人……蘭の方へと振り返ったことにより視覚外のポジションになっていた紗夜に、たまらず叫ぶ。

 当人の彼女は真っ赤になって此方に負けず劣らずの早口でまくし立ててきた。

 

 

「褒めろ言われたからガッツリ本心で褒めたんだけど。非難される謂れないんだが!?」

「限度があります! どこが簡潔なんですか! それに後半水着じゃなく……か、か、身体のことばかりではないですか!」

「水着褒めるってそういうことも込みだろうがよぉ!」

 

 

 さては水着褒めエアプか?

 

 

「そ、それは……! というか本心なんですか!?」

「ガッツリ本心だし、普段絶対こんなこと言わないけど普通にこいつレベル高いだろうが!」

 

 

 言わせるなバカモノ。気まずい気持ちを掻き消さんとばかりに咆哮する。

 すると紗夜も水着褒めなんて言葉がいちジャンルとして確立しているわけないでしょう! とガーッと毛を逆立てた猫のように対抗してきた。

 

 

「……すけべ。へんたい。えろ」

 

 

 そしてそんなふたりをおいて……。

 ふふ、くふふふふふ、ははっ、と。

 紗夜と同じく真っ赤くなりつつも、しかしなにやら勝ち誇ったような気味の悪い笑みを浮かべている蘭の姿がそこにあった。

 もう完全に乗ってるなぁ調子に。なんだよその顔ムカつくわ。

 

 

「ほら見ろ紗夜こいつのこのにやにやした顔。まるで鬼の首を取ったかのようじゃねえかどうしてくれんだ」

「私のせいですか? それ私のせいじゃないですよね? どのみち早くバレることです受け入れて下さい!」

「ばかっ、もう明日から『もうクロはあたしにめろめろなんだもんね〜』とか言われんぞ冗談じゃねぇよ」

「そ、そんなこと言わないし!」

「そうか? けどモカは言うぞ?」

 

 

 てか言われた。

 

 

「…………」

「いや検討すんなよ? ほんとやんなくていいからな?」

 

 

 冗談だから。たまに通じないよねキミ。常識信じろ疑うな。

 別にこれが普通ってわけじゃないからね。自分にもっと自信持てよ。

 

 

「ま、けど……ふーん、そっか。そっかそっか」

「なに蘭、急に語彙力失って。そんなんじゃいい歌詞書けないんじゃないのか?」

「クロの方こそ、せ、責め口にキレがないんじゃない?」

「どもってんじゃねぇかよ無理すんな」

「えっち。ばーか。……へんたぁい」

「むかつくなぁーこいつ」

 

 

 だりぃなぁオイ。やっぱ月並みなやつでよかったなこれは。こうなるだろうから言いたくなかったのに。

 しかし先も言った通り意外に豊満な双丘に見後なくびれ、そして太過ぎず細すぎないながらも肉感的な質感をもつ綺麗な太腿……ほんとにレベル高くて腹立つなぁ……。

 

 

「……!? しっ! ふたりとも、静かに」

「あ?」

「っ!」

 

 

 何となくヤラシイ口調になった挑発的な蘭を、どうしたものかと悩んでいると、紗夜の鋭く小さな制止の声が割って入った。

 その久しぶりに緊迫した声音に、無意識に口論を止める。

 

 

「……これ、モカと椎咲の声か?」

「椎咲さんという方は知りませんが、片方は青葉さんでしょうね」

「ち、近づいてきてるってこと?」

 

 

 だろうな。

 俺は再び身体を反転させて試着室の出口側を見やる。

 言い合いをしていた際に頭に昇っていた血がすーっと引き、森閑となった狭い空間の中で耳が研ぎ澄まされる。

 薄いカーテン越しとはいえかなり鮮明に彼女たちの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『それにしてもぉ、なんで妹ちゃんはここに来たの?』

『いやー実はお兄ちゃんがですね、今日は男友達と一緒に映画を見に行くなんて言うんですよー』

『ふむふむ。それで?』

『いや絶対そんなわけないじゃないですか〜』

 

 

 

 

「九郎くん、信用されてませんね」

「なんでだ……」

「日頃の行いでしょ」

 

 

 

 

『もおあたしに嘘ついてる時点でおしおきは確定なんですけど〜でも実際何やってるのかなって』

『なるほどね。まっ、それは青葉ちゃんが悪いよねぇ』

『ですね〜。……ふふっ』

 

 

 

 

「…………」

「クロ……」

「九郎くん……」

「いうな。何も言うんじゃない」

 

 

 帰宅後死ぬかもしれん。

 

 

「だいたいなんであいつ、ここのショッピングモールって分かったんだ……?」

「さ、さあ……それは」

 

 

 

『青葉ちゃんって思いやりないんだよねぇ。ほんとは昼まで寝たかったのに電話よこしてきたし』

『……へぇ。それ、何時ですか〜?』

『えっとぉ、確か11時半だったかな? それしてもよくわかったね。ここだって』

『ああそれはGPSが付いて──』

 

 

 

 

「GPS? なに、今GPSって言った? なんだそれどこ付いてんだよッ!」

「GPSというのはglobal positioning systemといって電波を受信した場所を地球規模で特定する──」

「いや知ってるから、GPS自体は知ってるから! ただそれが自分に仕掛けられてるってこと知らなかっただけで!」

「あーそういえばモカ、ひまりんちで勉強会した後になんかそんなこと言ってた気がする」

 

 

 あのときかぁ……確かにあのときもだいぶ不穏だったもんね。

 

 

『おしおきってなにするの?』

『そうですねー、事と次第によりますけど……ひとりで来てたりほんとに男友達と来てたんなら言葉責めだけで許してあげましょう』

『結構ガチじゃない? それでもだいぶえげつないわよ』

『耳元でぼそぼそやるんです。おもしろいですよ』

『へぇいいねぇ、今度授業中に寝てたらやってみよっかなぁ。おもしろそうだし』

 

 

 

 

「俺はあの女を殺す」

「九郎くん落ち着いてください。そのハンガーでは人は殺せませんよ」

「止めんな紗夜。あいつのせいで俺の三大欲求のひとつが阻害され続けてんだ、許せねぇよ」

「授業中に寝るあなたの方が悪いです」

 

 

 

 

『でもそう簡単じゃないですよぉ。あたしがいつもやってますからね〜』

『何事も挑戦だよ』

『……ふーん、そうですかぁ』

『そんなおもしろそうなこと、妹ちゃんだけが独り占めするのは良くないよ』

『……まぁいいや。その分口実にもなるし』

『ははは、青葉ちゃんも大変だなぁ。……それでさっきの続きだけど、もし女の子がいたらどうするの?』

『うーん、そうですね〜……それは』

『? それは?』

『セクシーナインスレイヤーですね』

『……? なにそれ?』

『まあ、俗に言う逆r』

 

 

 

 

「え、なに? 紗夜なに? 急に耳塞がないでびっくりするから。え、ちょっと、モカなんて言ってたの?」

「聞かなくていいです! 聞かない方が幸せです!」

「クロ……今夜うちに泊まる?」

「なんだよ! もうなんなんだよ! めっちゃ怖ぇじゃねぇか帰れねぇよ!」

 

 

 いや泊めてくれるんだったら泊まるけど! けどGPSあるからすぐバレちゃうんだよなぁ!?

 外のふたりの声は聞こえないが、紗夜と蘭の声はこもりつつもかすかに聞こえる。だけどその不穏当さ、ものすごく怖いんだけど?

 何が怖いってどうせ今聞かなくたって数時間後には否が応でも聞かされると言うことだろうか。

 処刑器と処刑執行人と受刑者が同じ屋根の下にいる。そしてなおかつ切断方法が分からないままの断頭台へ歩くことほどロクはことは無いのだ。

 

 

『……まあ、セクシーナインスレイヤー(色気ある九郎殺し)はともかく、青葉ちゃんのここにいるのは正解』

『ですよね。……で? なにしてたか知ってます?』

『うん。女の子の水着選んでた』

『はぁ?』

『しかもふたり』

『……ふ〜ん? そっか』

 

 

 

 

「やっぱあいつぶち殺しといたほうが得策じゃねぇかなぁ!?」

「待ってそれあたしのパーカー! なにするつもり!?」

「止めんな蘭、これなら首くらいは締めれんだろ! イクゾッ!」

「行くな!!!」

 

 

 

 

『アタシにも出勤要請してきてさ。なんかぁ、後輩の水着選ぶの手伝って欲しいかったんだって』

『へぇ〜なるほど〜、知らなかったっなぁ〜……クロぉ』

 

 

 

「ひ、ひぇぇ……」

「…………」

 

 

 くっそ怖いわよ。もうやめてぇ……。

 椎咲も洗いざらい全部暴露するし。おまえなんなんだよ。なんで言っちゃうんだよ。モカの今までの性格考えたら後どうなるって分かるだろが。え? なに? もしかしておまえ俺の事嫌い?

 

 

「…………」

 

 

 そして気のせいでは無いだろう(出来れば気のせいであって欲しいが)。

 カーテン越しのモカだけでなく、背後からも黒い殺気に紛うオーラがどんどんと膨張していくことにふと気づいた。

 ギギギ……と古びたロボットよろしく視線を後ろに向けようとしたが……あまりにの圧に途中で断念した。こっちも同じくらい怖い。

 

 

『ちなみに誰か分かります?』

『うーん顔は分かるんだけどぉ。名前は分かんないや』

『そうですか』

『えっとぉ……昨日会った子なんだけどなぁ』

 

 

 

 

「…………」

「いだだだだだだだ」

「…………」

「ら、蘭。いたいいたい。痛いよ?」

「…………」

「ちょ、ちょっと?」

「……嘘つき。クロが選んだんじゃないじゃん」

「う。いやぁそれは……」

 

 

 背後の圧にびくびくしていると。急に距離を詰め高と思うと、つねる&関節ギメという、不器用のくせにやたら複雑な攻撃方法を取ってきた。

 前門の虎、後門の狼だ。

 うう……いや、嘘をついたのは悪かったけど、

 しかしまさかそんなに怒るなんて。

 そんなに自分が選んだやつの方が良かったのだろうか。しかし何度もいうが俺の水着選びのセンスなどは大したものでは無い。椎咲には遠く及ばないだろう。

 無責任なことはしたくはなかったので、あえなく人の助力を仰いだんだけど……。

 助けを求め紗夜の方を見るとこれはいくらなんでも擁護できないといった様子でため息をついていた。

 

 

「分かってない、ほんと分かってない!」

「女子高生のくせに今どきの水着すらわかってないやつに言われたくないが!?」

「そういうことじゃなくて……!」

「い、いやほんと頼られたのは正直めんどくさくはあったけど、ちょっと嬉しかったんだよ? けど俺だってあんまよく知らないし!」

「…………」

「見栄を張ってわけじゃなくてね? その、えっと」

 

 

 普段の自分に見られると笑われてしまうかもしれない程、下手くそに言い訳する。

 昔は蘭と同じくらいに口下手だったのを数年かけて矯正した姿は今やどこにもなかった。

 数日前にひまりに『透かした態度でかっこつけてても、そういうところは変わってないね』と言われたが、まさしくその通りである。

 

 

「……分かってる」

「蘭?」

「元はあたしが嘘ついたのが悪いし」

 

 

 しかしそんな拙い言葉に、蘭は力を弛めた。

 

 

「それでクロがモカや紗夜さんに嘘ついたのも、あたしの為だし……それについてあたしが責めるのはお門違いでしょ」

「……蘭」

「……無理言って、ごめん」

 

 

 そして、トン……と。

 背中の上の方に何かが当たった。それと同時、腕あたりにも暖かな温度を感じる。

 蘭のか細い謝罪と言葉に、首を曲げて後ろの当人を見る。しかしその表情は見れなかった。角度的な問題もあるが、案の定というか予想通り、彼女は額を此方の背中に触れていた。

 

 

「でも……さっき言った感想も、嘘なの?」

「いやそれは……嘘じゃ、ないです……」

 

 

 額だけでなく、その身体も。隙間なく密着していた。露出の多い格好で、ダイレクトに熱が伝わる。

 そんな状況と、しおらしいこいつの態度にはたまた敬語が出てしまう。

 口に出たあとで気づき、それを嫌がる蘭がすぐそばにいる事実に、また文句を言われると目をつぶった。

 

 

「……照れてる」

「……うるさいですね」

「照れ隠ししてるときも敬語、出るんだね」

 

 

 しかし、今回はそういうわけでもなく。

 それは別に不快じゃないかも。と、蘭は顔を上げて柔和に笑った。

 

 

「この水着は買う。似合うらしいし」

「そっか……まぁ、気に入ったんなら良かった」

「……ほんとに気に入ってるのはクロなんじゃないの?」

「あながち間違いでもないのが腹立つな」

「なに? やっぱり何か不満?」

 

 

 いや不満なんて、ないですよ。

 俺はそう言うが、蘭は少しでも不満があるなら仕方ないと首を横に振った。

 

 

「なら、今度こそあんたが選んで」

「は? また選んでどうすんの?」

「それも買うから」

「……金持ちかよ」

「普段あんまり使わないだけ」

 

 

 淡々と言って、上目遣いを向けてくる。それでで、どうなの? とその瞳が問うていた。

 さすがは100年続き門下生を多数抱える美竹の家の一人娘と言ったところだろうか。彼女はああ言ってはいるが、水着と言っても安くはないはずなのに。

 この展開を予期していなかったわけじゃなかったけれど。しかしどうせ2枚目は買わないだろうと高を括っていたというのに。

 予想を裏切られた俺は、ため息と共に、そしてひねくれた笑みと共に言葉を発する。

 

 

「わかった。わかったから。またひとつ新しいの見繕うから」

「ふぅん。素直じゃん」

「おまえが素直じゃないだけな。こっちが折れてやったの。……後で文句言われんのもしょうもないし、一緒に来いよ」

「……うん。分かった」

 

 

 散々振り回さたお返しという訳ではないが。

 いつもの調子で、スタンスで……蘭に続け様に言葉を投げかける。

 少し強引かもしれないけれど、その言葉に蘭は小さくコクリとうなづいた。

 

 なんだろう。やっぱりこいつちょっとだけ、押しに弱いのではなかろうか。

 

 ずっとこいつは押されるより押すタイプで、強気で意固地で素直じゃなくて、すぐに感情の波に飲まれる女の子。それが美竹蘭だと思ってた。

 

 

「それにしても、マジで意外とデカいよなぁ」

「……へんたい」

「普通に知らなかった」

「……前にお風呂覗いたくせに」

「いやぁそれほどでも」

「褒めてないから」

 

 

 そういえばそういうこともあったなぁ。まあ普通に事故なんだけど。しかしあれは椎咲曰く、そういうときは完全に男が悪いらしい。

 思わず声に出た一言に、蘭は今日何度目か分からない罵倒と共にまた下手くそに胸を隠す。

 

 ほんと、今日は蹴られたりなじられたりトラブルが起こったりと、ロクな1日ではなかった。

 

 しかし……それでも、10年近くの付き合いでも知らなかった一面を改めて知ることが出来たのは、まあ収穫と言っていいだろう。

 今まで知っていたこいつの要素とこれから知る要素。

 それらのふたつを重ね合わせて、これからもこいつと付き合っていこうと思う。

 

 

 

 

 具体的には、次の水着選びには是非活用したいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く何を見せつけられているんでしょう。狭い個室でいちゃいちゃと」

「あれ? 紗夜さん、いたんですか?」

「ぶっ飛ばしますよ」

「ご、ごめんなさい……」

「べ、別にいちゃいちゃなんて……」

 

 

 しばらくの間蘭と見つめあっていると、横から咳払いが聞こえてきた。

 はて? と思って首を傾けると、そこには紗夜さんの姿が。その表情はものすごく不満げで何か言いたそうに眉を寄せている。

 ……まったく、せっかく綺麗に終わったと思ったのに、いったい何を言いたいのか。

 

 

「……この緊急時に。というかあなたたち、もうすっかり外のふたりを忘れてたでしょう」

「あ……!」

「そういえば……」

 

 

 そうだ。そういえば、そうだった。

 そもそも蘭といちゃいちゃ(別にそういった意図はないが、紗夜曰くいちゃいちゃらしい)してしまった原因も椎咲の裏切りのような暴露から始まったのだった。すっかり忘れていた。

 

 

「そうだ、そのふたりどうなったんです? ……って、あれ? 声、聞こえませんね」

「ほんとだ。モカの声、結構通るのに」

「実はあの後もうひとりの……椎咲さんでしたか? 彼女が──」

 

 

 

 

 

 

『まっ。全部冗談なんだけどねぇ』

『……冗談?』

『さっき言ったのは全部アタシの妄想。今青葉ちゃんが何してるかなんて、知らないもん』

『でもお兄ちゃんここにいるんですよね?』

『アタシに聞かなくても、分かるんじゃない?』

『…………』

『良ければ調べてみたら? お得意のGPSで』

『…………』

『出来ないでしょ。ほんとにGPSがあるならそもそもさっきからずっと妹ちゃんが青葉ちゃんを探してるのと矛盾してるもんね』

『それは……』

『ああでも、ここにいたのはほんとだよ。青葉ちゃんは嘘ついてないし。ここの映画館で友達と映画見てたからね。昨日は数学の補習のせいで見れなかったんだって』

『…………』

『けど今はどこにいるのかは知らないよ? もしかしたらもう帰ってるかもしれないね』

『そうですかねー?』

『さあ? いるかもしれないし。いないかもしれない。けど妹ちゃんはアタシが青葉ちゃんがどこにいるか知ってるって思ってたんでしょ』

『なんでそう思うんですか〜?』

『通話中にでもなってた?』

『…………!』

『あたしさっき11時半に青葉ちゃんから電話貰ったって言っちゃったもんね』

『…………』

『もし当たってるなら……自分が電話をかけた時間は青葉ちゃんは通話中で、それがさっきアタシだって分かったってことじゃない? だから彼の居場所を知ってると思ってたんでしょ』

『う……』

『そう出ないと一緒にいないでしょ。少なくとも“おしおき”の話の時点でアタシのこと不快に思ってる筈だし。……けどごめんねぇ。確かに通話してたけど、あれ、ただの業務連絡だから。期待させちゃったんなら謝るよ』

『……ほんとですか〜?』

『ほんとほんと。なんなら探しに行く? 今は昼時だし1階のフードコートにいるかもしれないね?』

『……そうですね。今は、そうしましょうか』

『……根が素直なところなところは似てるわね』

『むー、うるさいでーす』

『あと、可愛いところも』

 

 

 

 

 

 

 

「ということがあって、ふたりはここを離れましたよ」

「やるやんけアイツ」

 

 

 紗夜から驚きの事実を聞かされ、唖然と口を開く。

 あんなギャルギャルしているくせに。けど成績も俺よりいいんだよな。

 そこそこ失礼なことを言っているが、ただ結果として助かったわけなので本来言える資格などない。

 しかしひとつだけどうしても言いたいことがある。ならば元からあんなスレスレなこと言わないで欲しい。

 それにさてはこの試着室に俺らが入ってることも知ってたな? でないと自分の言葉を冗談だと訂正するはずがない。

 

 要はここに俺らがいるのを知り、本当のことを暴露してビビらせてからモカを遠ざけたということだ。

 

 いや性格悪すぎだろ。マジで。見直しかけたけどやっぱやめよ。

 

 

「いやまぁなんにせよ、解決したようで良かったな」

「ほんとにね……ならさっさと着替えたいから出てって欲しいんだけど?」

「もうその上に服きて帰ればいいんじゃないのか?」

「バカ。お会計してないでしょ。それにもうひとつの水着選ぶ約束」

「え? それって今日なの? モカうろうろしてるのに?」

「あっ……それもそうか」

 

 

 紗夜曰くヤツらは1階のフードコートへ行ったらしい。ならいつまた戻ってくるか分からない。

 今日は解散した方が無難だろう。

 

 

「とは言っても次の予定の入ってない休日って結構先に」

「待ってください。ひとつ言いたいことがあります」

「なる……言いたいこと?」

「……また美竹さんの水着を選ぶそうですね」

「? そうだけど?」

 

 

 いけないのだろうか。

 やはり鋼の風紀委員。すごい今更だとは思うが、不順異性交友などいけません! とでも言いたいのかもしれない。いやほんとすげぇ今更だが。

 

 

「み、美竹さんのものを選ぶ前に……」

「……前に?」

「その前に、わ、私のものを選んでからにしてください……!」

「……へ?」

「……は?」

 

 

 ぽかんと、呆気にとられて俺は目をぱちぱちと動かした。そして同時に隣からは不機嫌そうな声が聞こえてくる。

 まったくイメージ外の、予想外の言葉だった。鋼の風紀委員とは何だったのか。

 いや待てよ。そういえばまだ蘭のことが紗夜にバレていなかったとき、誤魔化す為に言った気がしないでもない気が……。

 

 

 

 

 

 

 

『こほん……そこまで言うのでしたら、少し見繕って行きましょうか……』

『いいと思いますよ。……なんなら俺が選んで上げましょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 あ。言ったわ。俺が選んであげるとも言ってるわ。

 

 

「でもさっきそれは恥ずかしいって」

「手馴れているようですから? おまかせしてはいけませんか?」

「い、いえ。大丈夫です……」

 

 

 恐る恐る聞くとキッと睨まれた。

 その鋭い眼圧に屈してしまう。

 

 

「……待ってください。事情は分かりましたけどそうはいきません」

 

 

 しかし屈しているのは俺だけで。隣の蘭は負けじと紗夜に反論した。

 彼女の紅い瞳と言葉には強い力が籠っている。

 まるでこれだけは退けないというような……理詰めが得意そうな紗夜にも一歩も引かないその姿勢。

 それは確固たる勝利へと自信と根拠を兼ね備えていた。

 

 

「く、クロは……あたしの幼なじみです」

 

 

 というわけでもなかった。いや根拠薄弱過ぎるだろ。よっわ。ザコ過ぎんよぉ。

 

 

「理由にしては弱すぎますね」

「そんなことないです。クロは気心知れたあたしとの方が行きたい筈です」

「それも九郎くんに聞いてみないとわかんないでしょう」

「うっ、それは……」

「そ、それにお言葉ですが九郎くんは先程美竹さんよりも私の水着の方が見たいとおっしゃっていましたし……」

「なっ!」

 

 

 いや言ったけども。

 手で口を隠しつつ、少し顔を逸らして呟いた。

 その仕草の可愛らしさとギャップには、さしもの蘭もおののいた様子を見せた。

 しかしそれもつかの間。蘭はスイッチを切り替えるように顔をぶんぶんとふり、また視線を交錯させる。

 

 

「こいつは嘘つきなんです」

「おい」

「それはそうかもしれませんが」

「ちょっと?」

 

 

 真剣な顔になったかと思えば。今度は此方に火の矢が飛んできた。

 いやおまえらそういうときだけ息ピッタリなのやめてよ。

 

 

「しかし何でもかんでもそうでとは思えませんが? 」

「……だって、こいつがあたしよりも紗夜さんの水着の方が見たいなんて」

「べ、別にそういうことがあってもいいでしょう……!」

 

 

 なんだコイツら。

 いけない。なんか知らんけど一悶着終わったのにまたなにか面倒事が始まる気配がする。なんで対抗してるんですか?

 

 

「……私の方が胸大きいです」

「……スタイルは胸の大きさだけで決まりません」

 

 

 そして今度は己が武器を主張しだした。

 いやまじでなんだ。

 雲行きが怪しいわね。

 

 

「こいつは胸が大きい女子が好きなんです」

「私は脚派と聞きました」

「……あたしにはスタイルいいって言ってくれました」

「……それは私も言われました」

 

 

 ちょっと? 個人の喧嘩に第三者引き合いに出すのやめてよ。出されてる本人訳わかんないんだけど?

 

 

「……は? あんたもしかして誰にでもそういうこと言ってんの……?」

 

 

 ひぃっ。

 

 

「いや待て。落ち着け。誰にでもは言わないし」

「だよね」

「俺は嘘極力つきたくないからな」

「……つまり?」

「……つまりまあ該当者だったら総じてそう言う可能性は……ある」

「最低」

 

 

 ぐはっ。

 

 

「ちょ……いやいや待ちなさいよあんたたち。さっきから聞いてればなんなんですか。胸が大きいの好きだの脚派だの、根も葉もないことばっかりいいやがって」

「根も葉もあるでしょ」

「茎も花もありますよ」

「立派に成長してんなぁオイ」

 

 

 なんなんだよ。

 

 

「大きい胸の何がそんなにいいんでしょう……」

「ちょっ、紗夜さんそんな親の仇みたいな目で見ないでください」

「み、見てません……ただ男の人はどうしてこの脂肪の塊に夢中になるんでしょうね」

「いやもうなんか理屈的なもんじゃなくて“そういうふう”になってるんじゃないの? 生物的に」

「そんな正論は聞きたくありません」

「えぇ」

 

 

 弁明をと思いそう言うと、紗夜はぷいっとそっぽを向いた。

 いやおまえ多分何言うてもそう言う気だっただろ。

 

 

「けど大きくてもいいことばかりじゃないだぞ」

「例えば?」

「死にかけたし」

「は?」

「いやごめん。忘れて」

「……クロ」

「なに?」

「……ちょっと膝立ちになって」

「やるなよ。……っていうかなんでお前知ってんだよ」

 

 

 ひまり口軽すぎじゃないの?

 あと死にかけた言うてるのにやろうとするってどういうことだよ。殺す気じゃねぇか。

 

 

「蘭おまえ、もう何がなんだが分かんなくなってないか?」

「そ、そんなことない。……けど」

「? けど?」

「……なんでもない」

「はぁ」

「……ひまりの胸は、やっぱり気持ちよかった?」

「おまえやっぱおかしいぞ」

 

 

 なんてタイミング聞いてくるんだ。紗夜がものすごい顔になってるんだが? 

 紗夜は何かを喋っている訳でもないが、その表情はいったい何があったのかと問うてきている。

 

 

「怒ってないから、言って」

 

 

 それ言うやつは怒るし、なんならもう怒ってるだろ。

 

 

「……私は本当に怒ってませんから。言ってください」

「本当に?」

「本当です」

「…………」

 

 

 怪しいけど。

 

 

「うぅん……けど死にかけたのは本当なんですよねぇ」

「…………」

「ただまぁ……それに至るまでは悪い気はしなか」

「ふんっ」

「がっ」

 

 

 正直に言うと、紗夜がその自慢の細い脚からローキックが飛んできた。なんでだ。

 

 

「え? は? いや、怒ってるじゃないですか!」

「何か?」

「いやだってさっき『怒ってません』って……」

「はい。いいましたね」

 

 

 異議あり。俺は紗夜にそう言うと、紗夜は冷淡な口調でそれを認める。

 そして一呼吸おいて、紗夜は冷えきった眼差しで此方を見ながら口を開いた。

 

 

「確かに怒ってはいません。先程までは」

「……先程?」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なので、これから怒ります」

 

 

 おまえそれはずるいだろ。

 

 

「嘘つきっ! 怒んないって言ったじゃん!」

「はい? そんなことは言った覚えはありませんよ」

 

 

 いや言ったよ。30秒前くらいに。

 

 

「いえ言ってません。『怒ってません』はあくまでその時点の範囲でしかありませんからね」

「はぁ?」

「ですのでそれ以降の未来のことは知りません」

「詐欺じゃねぇかやり口がよぉ!」

 

 

 それが日々校内風紀をを重んじる風紀委員長のやり方ですか? 

 当然の如く彼女に糾弾するが、それも所詮何処吹く風。スルーされた。

 

 

「いっそこのまま蹴り続けていれば邪念も消えるかもしれませんね」

「108回蹴る気? 俺は鐘じゃないんだが」

「まあクセになっても困……いえいいですね。蹴りましょう」

「おまえ……! ただ自分の胸に自信が無いからって俺に八つ当たりするとか常人の思考じゃねぇぞ!」

「もう1発ご所望のようですね」

「ご所望とあるわけねぇだろここ狭いんだよやめろ!」

「でもクロに邪念があるのは本当なんじゃないの? だから数学補習とかになるんだよ」

「数学補習? 初耳ですね」

「そうなんですよ。多分こいつ、あたしより数学出来ないです」

 

 

 いやそれはない……と言いたかったけど、どうだろう。数学というか理系科目はマジで無理なんだよなぁ……。

 

 こうしてふたり水着選びに、さらに勉強会が追加されてしまった。

 

 また勉強会か。正直に言うといい思い出がない。また面倒なことになるんじゃあないだろうね。

 今日はモカにバレなかったから良かったが、どうやらこの展開はまだまだ畳まれることはなく、終わることはないらしい。

 

 

「それよりも……早くここから出ないか?」

 

 

 ビシビシと走る痛みに耐えつつ、苦言を呈す。もはや消耗しきっていて声も小さい。

 根性が足りなかった。もうバテそうだ。

 

 

 この件で、夏という季節は本当にいろいろと入用であると、改めて再認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? も、モカちゃん?」

「おー有咲。何やってるの〜?」

「えっと、今日は水着買ってて……と、隣の人はお友達?」

「お兄ちゃんの友達かな」

「そうなのか。よ、よろしく……です」

「…………。……有咲?」

「へ?」

「キミ、有咲ちゃんって言うの?」

「え、ええ。まぁ」

「ま、まじ?」

「え?」

「うぅ……まじかー」

「あの?」

「あ、ああいや。なんでもないよ」

「……有咲、水着買ってたの?」

「あっ」

「お、おう。まあ、私が選んだんじゃねぇんだけどさ」

「あっ」

 

 

 

 

 

 

「……へぇ?」

「……あっちゃー」

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、えっと……モカちゃんのお兄さんと一緒に水着を買いに来たんだけど」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふぅん?」

「あはは……ゴメンね青葉ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。そしてお疲れ様です。めちゃくちゃ長くてほんと申し訳ないです。

コメディチックに書くのが好きなんですけどよね

  • これくらいでいい
  • いやもっとイチャコラさせろ
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