アクマで妹!   作:あぐろむいしき

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お久しぶりです。今回も続き物です。
内容は、タイトルで察して下さいね。

あの、キャラ崩壊注意でぇす。


俺の名は。①

 

 

 事態は奇妙かつ、緊急性を要するものだった。

 

 

「…………。おまえさぁ……」

 

 

 まるで鏡を見せられているようだった。しかも立体的に写る。ホログラムのような。

 しかしその鏡は自分の写し身だというわけでもなかった。いや多分目の前の自分がしているような表情を今の俺もしているのだろうが。

 そんな形容しがたい例えをせざるをえないほどに今の状況は理解が及ばなかった。普段は何があろうとマイペースに事を進めがちな自分でも、少し理解が及ばない。

 

 

「……私の顔でおまえなんて言わないでください」

 

 

 目の前の写し身が……俺の姿をしたモノが此方に話しかけてきた。うわぁ……。

 一人称といいゆっくりとした喋り方といい、何か果てしない違和感を感じる。気持ちが悪い。

 

 

「じゃあそっちもその顔で私とか言うな。気持ち悪くて仕方ない」

「す、すみません……」

 

 

 いやその謝り方もだよ。俺は敬語は使うけどそんな焦ってるようには喋らない。

 そんな不自然な自分の姿をしたナニかを見て俺はため息をつくと、改めて状況を整理するために思考を回す。

 

 

「紗夜……どうすんのこれ」

「九郎くん……どうしましょう」

 

 

 端的に言うのなら、()()()()()()()()()()()

 

 俺と、氷川紗夜の。

 氷川紗夜の身体を青葉九郎が動かし、青葉九郎の身体を氷川紗夜が動かしている。

 俺の意思の下で声を出すと妙に高い声が出るし、腕を上げると華奢で細い腕が上がるのだ。

 

 

「いや、元のあなたも十分華奢でしょう」

「黙ってろ」

 

 

 今説明してんの。見てる人に。わかりやすく。

 邪魔しないでいただきたい。

 なので先程から写し身だとのなんだの言っていたのは実際に俺の身体であるわけで、それを氷川紗夜の視点になった俺から見ていたというわけだ。

 どうしてそんな非現実的なことになったかは分からないが、少なくとも心当たりはある。

 

 先日の水着選びの1件の際に俺の数学嫌いが露呈してしまった結果、強制的に勉強が決まってしまい。

 それで氷川宅で数学の勉強を見てもらう羽目になったわけなのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……いやだ』

『往生際が悪いわよ。大人しくしてなさい』

『やめてくれ。もうこれ以上数字とか英字見てたら頭がどうにかなりそうなんだ。勘弁してくれ』

『眼が死んだブルーギルみたいになってますよ』

『おまえ実際に死んだブルーギル見た事あんのかよ。テキトウなこと言ってんじゃねぇぞ』

『そんな雑な話題の逸らし方をしても数学は得意になりませんよ。いいからページをめくってください』

『ぐぎぎぎ……』

 

 

 そう見てわかる通り(?)、俺たちは数学の勉強をしていたわけだが。

 しかしその途中に事は起こった。

 

 

『あの九郎くんがここまで弱っているのも見るのも珍しいですね』

『悪趣味なヤツめ』

『仕返しし放題ですね』

『教えるのに私怨が入るのはよくないぞ』

『ふふ……観念して下さいね』

『どうして俺の周りの数学を教えるヤツはききとして俺をいじめてくるのか』

『日頃の行いですね』

『否定できない……』

 

 

 ……いや勉強教えて貰ってるというか、単に普段の仕返しをされてるだけだこれ。

 俺は科目の復習をして、紗夜は俺に復讐する。うまい。まさにウィン・ウィンの関係というわけかなるほどな。アホか。

 

 

『では少し休憩をして次はマクローリン展開をやりますよ』

『マクローリン展開ぃ?』

『はい。これは大学で……いえ何でもありません」

『……待て貴様』

『なんですか』

『もしかしなくても必要以上に数学いじめをしようとしてるだろ』

『気の所為です』

『こっち見ろ』

『では麦茶でも持ってきますね』

『おいこら聞いてんのか』

『聞こえないですね』

『ポテトこの野郎』

『誰がポテトですかっ!』

『聞こえてんじゃねぇか!』

 

 

 そして、野郎ではありませんっ! と、紗夜はそう言いながら此方へうがーっと掴みかかろうとして──

 

 

『あっ』

『あっ』

 

 

 振り返った矢先、床にあったプリントを踏んだ。

 

 

『ちょっ』

『むむっ』

 

 

 そんな彼女を受け止めようとして……多分、頭をぶつけ、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするんですか……これ」

「どうするって言われてもな……」

 

 

 そして目が覚め、今に至るわけだが。

 

 

「まさかあんな漫画みたいな方法で本当に入れ替わることがあるなんて……」

「ギャグ漫画時空は基本なにやってもいいからね。仕方ないな」

「はい?」

「なんでもない」

 

 

 そして、このとおり身体が入れ替わっていた。もう何でもありか。

 コメディが強すぎるのも考えものだ。

 

 

「しかし本当に入れ替わってるもんなぁ」

「ちょっと、じろじろと人の身体を見ないで下さいっ」

「見てねぇよ失礼なやつだな。誰が堅苦しいおまえの姿なんか見るんだよ」

「失礼なのはあなたの方では……!」

 

 

 前のひまりくらいの部屋着なら分からんかったけども。

 

 

「で、実際色んな問題が立ち塞がってるけど。トイレとか」

「うう、そうですよね……そうですが……」

「今のこと俺は大丈夫だけど。でも元に戻る方法の検討なんてつかないしな。困ったな」

「もう一度頭同士をぶつけてみるとか?」

「……出来んの?」

「た、多分無意識に加減して無理ですね……」

「だよね」

 

 

 頭をぶつけて入れ替わたのなら、再びそれをすれば元に戻る……ありがちな考え方であるがそれが1番に思いつく方法だと言える。

 しかしやはり故意にするのは難しい。ううむ、どうするべきか……。

 

 

「あの……私これから学校へ行かなくては行けないのですが……」

「は? マジで? 外出る気かこの状況で」

「仕方ないでしょう。明後日の学年集会で使う書類なんですから」

「そう言われると弱いけど……」

 

 

 いっそ一晩寝たら元に戻っていることを願うか、そんな放棄的な思考に至っていると、紗夜(俺の身体の中に入っている)が言いづらそうに呟いた。

 学校にある資料を取りに行く? 今から?

 本日は土曜日。月曜日に使うであろう資料を取るのなら確かに今日あたりが潮時だろう。

 潮時なのは分かるが……どうしてもっと早く取りに行かなかったのか。金曜日とかに。

 

 

「まあおまえも忙しそうだしな……てぇ、ちょっと待て。ということは……」

「はい。あなたに取りに行ってもらうしか」

「マジで言ってんの? 俺書類の場所とか分かんないよ?」

 

 

 しかし、それをするのは今の紗夜ではなく。

 紗夜の身体に入った俺がやらなくてはならない。まじかよ。

 

 

「どうすんのそれ」

「共に行くしか……」

「休日とはいえ風紀委員長が女子校に男を連れ込む絵面はどうかと思うけど?」

「むむむ……」

 

 

 土曜日と言っても、部活等で校内にいる生徒はいるだろう。

 見られると今後の学校生活に支障をきたすのでは?

 

 

「それにこの前言ってましたけど、俺花咲側でちょっと有名らしいじゃないの?」

「ほんと忌々しいですね……うちの生徒をナンパするのはやめろと言ったでしょう……!」

「言ってたね」

「ナンパするのは私だけにしろと……!」

「言ってないね」

 

 

 それは言ってないね。言ってたっけ? まあいいや。

 

 

「まあ取り敢えずそれはカメラ通話でもで何とかするしかないな」

「カメラ通話、ですか?」

「要は俺が場所さえ分かれば言い訳だから」

「はぁ」

「カメラ通話を起動させたままのスマホをレンズが露出するように胸ポケットに入れて、そのスマホをBluetoothイヤホンか何かに接続して紗夜の指示を聞きながら書類を取ってくる……どうよ?」

「……なるほど」

「俺が見てる視点という訳にはいかないけど。これなら俺が今校内の何処を歩いているかを確認しながら指示を出せるでしょ」

「そうですね……」

 

 

 俺が相変わらず違和感のある高い声でそう提案すると、俺の姿をした彼女は顎に手を当て逡巡する。

 

 

「……それしかありませんね」

 

 

 そして、やむを得ないといった表情でコクリとうなづいた。

 

 

「決まりだな。なら善は急げというし、早速……」

「行きますか」

「いやダメだろ」

「え?」

「その前にやる事あるでしょ。なんか目隠しある?」

「目隠し? 何に使うんです」

「だって学校行くなら制服着替えんとダメでしょ」

「ああ。それはそうですね」

「でも俺がこの身体で着替えるわけにもいかんでしょうよ」

「……! ま、まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これさぁ、傍からみたら目隠しさせた女子の服を脱がせている男の絵面になんないか?」

「や、やめてください」

「良かったね。妹さんいなくて」

「ほんとです……あと、絶対目隠し取らないでくださいね!? 絶対ですよ!?」

「分かってるよ……」

 

 

 前途多難である。

 ……ほんとに大丈夫かこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

 

 まあ面倒なことになった。ああ、行きたくねぇなぁ……。

 花咲側女子学園の校舎を見ながら、重苦しいため息をついた。

 何故休日に学校なんぞに来なければならんのか。しかも自分の通うところではない学校に。意味がわからん。

 

 

「まぁ文句言っててもしゃあないしな。行くか」

『九郎くん? くれぐれも普段の私の口調でお願いしますよ?』

 

 

 マイク付きイヤホンからややハスキーな男の声が聞こえた。いつまで経っても慣れないが、俺の声らしい。

 

 

「分かってますよ」

『分かればよろしい』

「……敬語が嫌だって言うから外したのに」

『緊急事態ですから。了承して下さい』

 

 

 男の声の紗夜という、不思議な……若干気持ちの悪い感覚を覚えながら校舎へと入る。ちなみに紗夜はここから少し離れた公園で待機している。

 花咲側学園はまだ比較的新しいのか、それとも最近工事でもしたのか。綺麗な廊下が広がっていた。

 金管楽器の音が響くように上の階から聞こえてくる。しかしそれも微かなもので、1階には誰もいないのか、静まり返っていた。

 

 人がいないのは好都合だが、少し後ろめたさを感じざるを得ない。なんだか泥棒のような気分だ。

 

 まあ紗夜の姿ならはその心配は要らないけれど、やはり少し違和感がある。他校の校舎というのは何だか慣れない。

 

 

『職員室に竹本先生という方がいらっしゃる筈なのでその先生から貰ってください。明日の学年集会用の資料を取りに来ましたと言えば伝わるはずです』

「分かりました」

 

 

 紗夜の指示を受けて職員室へと足を運ぶ。花咲側の職員室はどうやら2階にあるらしい。

 職員室の前に着くと、ドアの前のデスク表で竹本先生な人物のデスクを探す。

 

 

「えっと、竹本先生は……?」

「あっ、紗夜ちゃん」

「ん?」

「おはよう。紗夜ちゃんも来てたんだね」

「…………」

 

 

 探していると、ふと職員室から出てきた薄い青色の髪をした女子に話しかけられた。誰だ? 

 知らない顔だった。少なくとも俺は声のかけたことがない子だった。

 

 

『松原花音さんです。恐らく部活かと思いますが』

「(友人か)」

『はい。私と同じ2年生です』

 

 

 対面の女子に聞こえない音量で、マイク付きイヤホン越しに確認する。

 どうやら同級生の松原花音なる女子だという。

 

 

「おはようございます。花音さん」

「……花音さん?」

「へ?」

 

 

 声をかけられて黙る訳にもいかないので、いつもの紗夜の感じで挨拶をする。少しぎこちなさが出てしまった。

 まあ問題はない、紗夜もいつもこんなんだろと高を括っていたところ、しかし松原花音からは素っ頓狂な声が返ってきた。

 

 

「え、えっと……なにかおかしなことでも?」

「だって紗夜ちゃん、私のこといつも松原さんって呼ぶから……びっくりしちゃった」

「な……!」

 

 

 戦慄。アンドドン引き。

 

 

「(おま……友達とか言ったくせに苗字呼びなのかよ)」

「(し、仕方ないではないですか、癖のようなものですっ)」

 

 

 嘘つけよ俺は下の名前で呼んでるじゃねぇか。

 相手方は紗夜のことを紗夜ちゃんと呼んでいたので、てっきり紗夜もそうだと思ったのだけど……どうやらそうでも無いらしい。

 バカタレが、もっとコミュニケーションとれ。もうちょっと友人との仲を育みなさいよ。

 

 

「す、すいません間違えました」

「ううん、大丈夫だよ。というよりも普段からも下の名前でって呼んでくれてもいいんだよ……?」

「は、はぁ……」

 

 

 おいめっちゃいい子じゃねぇかよ。

 滅多にいないよこんな子。呼んでやれよ下の名前で。

 

 

「(こんな彼女欲しいな……)」

『ちょっと、今は私の身体なんですからね。ナンパなんてしないでくださいよ?』

「(……正直胡散臭さが無い分紗夜の見た目の方が成功するのでは?)」

『やめてくださいっ』

 

 

 冗談だよ冗談。さすがにやらないよ。

 コホンと咳払いをひとつ打って、松原花音に向き直る。

 

 

「今日の紗夜ちゃん、なんだか不思議だね」

「そ、そうですか? 例えば?」

「うーんと。なんか……」

「なんか?」

「なんだか……ちょっとチャラいような」

 

 

 吹き出しかけた。

 

 

「なななな、なにを言っているんですか松原さんっ、私はいつもこんなんですよよよ」

 

 

 いかん。呂律が回らん。

 というかなんでチャラいとか分かんの?

 

 

「あ。もしかしてあれかな?」

「アレ?」

「最近噂の()()()。紗夜ちゃん仲良かったよね?」

「…………」

 

 

 この女子エスパーなんじゃないの?  なんでそんなことまでわかんの? そんなにいつもと違う?

 気をつけてる筈なのに。それとなんだか嫌な予感がするなぁ……。

 それにどうして女子校で男子のことが噂になるんですかねぇ。

 

 

「(……噂の男の子というのは?)」

『……あなたのことですかね』

「(……まじかよ)」

 

 

 そして嫌な予感は的中する。この子マジか。

 どうして『紗夜がチャラい→青葉九郎の影響』という解に秒速で至れるのか。どんな勘してるんだよ。

 紗夜に釘を刺されて以来は抑えてたのに。噂とかになってたのは予想外すぎる。

 

 

「もしかしたら、ちょっと影響受けてるのかもしれないね」

 

 

 影響というか、今の紗夜はモロ俺なんですがそれは。

 

 

「た、確かにあの人とは幾許か話す機会はありますが……噂、というのはどういうものがあるんですか?」

 

 

 紗夜はここの学校の生徒なので、その噂を知らないのは不自然極まりないが……しかし女子校で流れているという自分の噂が気になりすぎる。

 しんなりとした冷や汗を感じながら。

 ぞくぞくとした怖いもの見たさのような、言葉にしづらい感覚を覚えつつ、彼女に恐る恐る聞いてみる。

 

 

「うーん……あんまり悪い噂は聞かないなぁ。やっぱり女子校だから、男の子は新鮮なのかも」

「ほう」

「声かけられた子達はかっこいいねって言ってるし」

「ほうほう」

「傍から見てた人も優しそうって言ってたかな」

「ほうほうほう」

 

 

 へ、へぇ? なかなかいい感じじゃないの? そういえば紗夜もコアなファンがいるとか言ってたな。

 思ったよりも高い評価に面食らう。てっきりウザイとかあの男軽いチャラいとかだと思ってたけど……ふむ。悪い気はしない。

 

 

『…………』

「(ん。紗夜? どした?)」

『別に、なんでもありませんが?』

「(は? いやなんかキレてんじゃねぇか)」

『はぁ? キレてませんけど?』

 

 

 なにそれ長州○力? 今流行ってないよそれ。

 いやキレてるじゃん。なんですぐ分かる嘘つくの。

 

 

「そうですか……ふふ、なかなかいいことを聞きましたね」

 

 

 まあいいやそんなことは。

 見知らぬ人達も含んでいるとはいえ、褒められるのは悪い気はしない。自然と笑みがこぼれる。

 

 

「あはは、紗夜ちゃんもあの人のこと、褒めてたもんね」

「……ほう?」

『ちょっ! 松原さん!?』

 

 

 そして、また興味深いことを言ってくれる松原さん。

 俺としてはこの機会を逃す手はない。

 

 

「あれ、そうでしたか? 私、なんと言っていましたっけ?」

『あなたさてはふざけてますね!? ちょっと! 聞いているんですか!?』

「えっとね……」

『松原さんも答えなくていいですから!!』

 

 

 気にするな松原花音、彼女の事は気にするな。といってもあいつの制止の声は聞こえてないだろうが。

 それに目の前にいるのは紛うことなき氷川紗夜だからな。暴露しでも何も問題はないぞ。

 

 

「一見軽そうに見えるけど、実は真摯なところもあるんですよ……って」

『ああああああああっ!!!』

「……へ〜ぇ?」

『くっ……!』

 

 

 イヤホン奥から響く耳を劈く悲鳴と、紗夜のくっ殺発言。滅多に聞けないモノを頂いた。

 いやまあ声は俺なんですけどね。うへぇ。

 しかしそれにしても、なるほどな。ははは、こやつめ。

 普段はあんなに軽薄だのなんだの言っておきながら。素直じゃないヤツですわ。

 

 

「そういえばそんなことも言いましたかねぇ」

「紗夜ちゃん、なんだか顔がにやけてるよ?」

「あ……す、すいません」

「ふふ、紗夜ちゃって、あの人のこと話してるといつもその顔だよねっ」

「……へぇ〜?」

『……もう殺してください』

 

 

 

 だめだめ。悪いけど今お前を殺すと俺の身体まで死んじゃうから。しばらくは我慢しててね。

 紗夜のやつ今絶対顔を真っ赤にして両手で覆ってるな。見なくても分かる。

 まあ少々名残惜しいが紗夜への羞恥プレイはこれくらいにしておくとして。言うて十分楽しんだだろう。遅くなったが本題へ移ろう。

 

 

「……今日は明後日使う資料を取りに来たんです。竹本先生は今日いらっしゃいますかね?」

「竹本先生?」

 

 

 先程職員室から出てきた彼女に聞く。デスク表や紗夜の案内があると言っても俺はまだ職員室の構造を熟知していない。なので先生の特徴を聞いておいた方がより確実だろう。

 ただ同じ学校といえど絡む機会のない先生は顔も知らないということがたまにあるので、松原さんが知っているか少し不安だったが……彼女は知っているようだった。

 

 

「さっきはいなかったけど……」

「……え?」

 

 

 しかし、事態は思ってもない方向へと転じる。

 松原さんは既に閉められた職員室のドアの方へ振り返りながらそう言った。

 いないって……おい紗夜どういうことだ。話が違うぞ。

 

 

「今日は来てないのでしょうか」

「でも車はあったよ?」

「ということは今は校舎内のどこかに出ているんですかね……」

「そうかも。ほら、竹本先生は生徒会顧問でもあるし。もしかしたら生徒会室にいるんじゃないかな?」

「生徒会……」

「だから、書類が欲しいなら生徒会室に行く方が早いかもしれないね」

 

 

 困っている態度が顕著に出ていたのか。詳しく教えてくれる松原さん。いやマジめちゃくちゃ優しいじゃねぇかよ。天使か。

 にしても今度は生徒会室か。ほんとに忙しいというかなんというか。紗夜の頼みで人を訪ねるとその人は不在で、さらに違う別の場所にいると。

 なんか出来の悪いRPGみたいになってきたんだが? 気の所為か?

 

 

「なるほど……分かりました」

 

 

 まあひとつ遠回りになってしまったけれど。そこまで大した手間ではない。さっさと書類を入手して紗夜の元へ帰参するとしよう。

 帰ったらぶん殴られそうだけど。ちょっとからかい過ぎたかもしれん。

 

 いや……まぁ何とかなるだろ。自身の身体だし、手荒なことはしないよ。きっと。

 

 そんな希望的観測を行いつつ。再び冷や汗をかきながらぶんぶんと顔を横に振った。

 取り敢えずここまでしてくれた松原さんにお礼を言って、早速生徒会室とやらに向かうとしよう。

 

 

「ありがとうございます松原さん。教えて下さって、感謝します」

「ううん気にしないで……あ、でもそうだ」

「はい?」

「でもあんまりあの男の子と仲良くしてると、ちょっと危ないかも……」

「はぇ?」

「ほ、ほどほどにね?」

「……はぁ、分かりました」

「ふふ、じゃあね」

 

 

 そんな彼女は、なにやら意味深な言葉を残して。

 松原花音さんは手を振りながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくあの人は……!」

 

 

 わなわなと。砕かんばかりにスマホを握りしめた。

 頭に血が上ってしまって、松原さんと九郎くんの話の後半を全く聞いていなかった。それほどまでに恥ずかしい。

 例の話。別に松原さんが悪いわけではないけれど、しかし九郎くんには絶対に知られたくなかった。

 今からでも彼の表情が目に浮かぶ。次顔を合わせた時には絶対に鬼の首を取ったかのようなツラを張りつけて来るに決まってる。

 

 まあ、来るのは私の顔なんですけど…… 。

 

 まさか自分のドヤ顔を見ることになろうとは。なんか嫌ですね……。

 まあ彼を評価していたのは確かであるが。しかしニヤケてなどはいない。絶対だ。そうでないと自分の沽券に関わる。

 自分の性格というのもあるが。普段ツンケンした態度を取っているのに、裏ではちゃんと好ましい評価をしているだなんて。

 

 

「そんなのまるで私が……つ、ツンデレみたいではないですか」

 

 

 先日宇田川さんから教えてもらった言葉。普段ツンツンしているくせに、ときたま甘く優しくなるいう若者のことを言うらしい。

 ……いやなんですか? その非生産的な性格は。アホらしい。

 それを聞いた時には、そんな人間は創作の中だけだと、そう思っていたけれど。しかし客観的に見て今の自分はそのツンデレというやつではないか? 

 

 ……いえ、認めません。断じて認めませんよ私は。

 

 でないと今までの私の行動がなんだかすごくやるせないというか。ちょっとモヤモヤするというか。

 そして何よりめちゃくちゃチョロそうではないか。ツンデレというのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

「どした蘭。風邪か?」

「いや。なんか急に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「認める訳には……いきません」

「……お兄ちゃん?」

「いかないんです……!」

「…………」

 

 

 だいたいツンデレのデレというのはデレデレするのデレでしょう? ありえませんね。どうして私があんな軽薄で数学嫌いで女顔な男にデレなくてはいけないのですか。……あ、いや別に嫌いというわけでもないですが……。

 

 

「ねぇ。お兄ちゃん?」

「……! きゃあ!?」

「……きゃあ?」

 

 

 ぐるぐるぐるぐる。泥沼化する思考の波を渦巻かせていると、ふと背後から肩を叩かれた。

 ずっと考え込んでいたので、不意の接近に気づかなかった。

 情けない声を出して急いで振り向くと、そこには九郎くんの妹、青葉モカさんが不審そうに眉をひそめていた。

 

 

「あ、青葉さん」

「……青葉さんて。お兄ちゃんも青葉さんじゃーん」

「そ、そうでし……いや、そうだったな。あはは」

「変なの〜」

 

 

 あまりに咄嗟のことで、普段と同じような口調で話してしまった。いけない。今の私は青葉九郎、そしてこの人のお兄さんなのだった。

 それに青葉さんはかなりお兄さんである九郎くんのことを慕っているようで。ぼろを出すと瞬時に違和感を悟られるかもしれない。気をつけなくては。

 

 

「も、モカ……どうしたの、こんな所で」

「あたしはちょっとそこのコンビニ買い出し。今みんなで勉強会してるんだー」

「そう、なのか」

「お兄ちゃんも紗夜さんと勉強会なんじゃなかったの?」

「お、終わったんだよ。さっきね」

「……へぇ〜?」

 

 

 上目遣いでじろーりと見られている。見透かされている心地だ。さ、さすがに苦しいかしら……。

 確かに勉強会が午前中に終わるのも変な話だ。もう少しマシな言い訳を考えた方が良かったかもしれない。

 

 

「それじゃあさ、こっちの勉強会に参加してよ」

「え?」

「ちょうど文系の先生が欲しかったんだよね」

「……え?」

 

 

 にこにこと笑みを浮かべる青葉さんに連れられる。こ、これはよくないのでは?

 勉強会に参加してしまってはスマホの画面をしきりに確認出来ない。そうなると九郎くんの案内が……!

 なにか良い言い訳はないでしょうか。けどもう青葉さんノリノリですし……。

 そうこう思案してしてる間にもぐいぐい手を引っ張られる。

 

 

「はーいおひとり様ごあんなーい」

「ちょ、ちょっと青葉さ……モカ!?」

 

 

 こういうときに九郎くんのよく回る舌が羨ましくなってくる。

 それに自分の性格かそれともこの身体に刻みつけられた習性なのか、なんだか青葉さんには逆らえない。

 

 仕方ありません……こうなった以上、青葉さんたちの前で九郎くんを演じるしかありませんね。

 

 彼女の言うみんなとは恐らく幼なじみであるAfterglowのメンバーだろう。彼女たちは幼少期から九郎くんと共にいる。生半可な演技では容易に違和感を持たれることも不思議ではない。

 

 

「ところで勉強会とはどこでやってるのかな?」

「蘭の家」

「え、ならなんでここのコンビニに?」

「お兄ちゃんの気配がしたから」

「…………」

 

 

 これは確かに、九郎くんが妹さんを恐れているのも頷けるような……。

 

 まあ、私も頑張るので、九郎くんも何とか自力で書類まで辿り着いて下さい……。

 

 そう心の内で彼にエールを飛ばしつつ。

 それ以上にまずい自身の未来に怯えながら、青葉さんと共に美竹亭へと歩みを進めた。

 

 





読了感謝です。いや我ながら酷いですね。徹夜で書いたのでまた誤字脱字が多いかもしれません泣
なんだかうちの紗夜は毎度こんな役な気がしますね。まあその分いっぱい出てるから。許して欲しいです()


不思議なお戯れボタン

↑お戯れのコーナー。


少しだけですが、嘘次回予告です。


「お兄ちゃん今日は素直だねー」
「ちょっ、く、くすぐったいよモカ……」
「うふふふふふふふ」
『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!』


では次回の『青葉九郎(貞操的に)、死す』でお会いしましょう(嘘)

コメディチックに書くのが好きなんですけどよね

  • これくらいでいい
  • いやもっとイチャコラさせろ
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