アクマで妹! 作:あぐろむいしき
また1万字超えちゃってるじゃないのよ。ほんと長くてごめんなさいね。
『どうして “そうりだいじん” になりたいの?』
『ほうりつをかえたいの』
『? どうして?』
『……だって』
『だって?』
『だって いまのままだと──』
「あ……クロ、起きた?」
「…………」
果たして今日何度目だろうか。寝起きに女子高生の顔を見るのは。
今朝は妹、朝に紗夜、そして現在の上原ひまり。
字面だけ見ているととんでもない不貞行為をしているようではあるが、決してそういうわけではない。……いや、最後のは少し怪しいけれど。しかし誓って下心はないと言っておく。
じわりと昇ってきた意識を覚醒させると、枕元の近くに腰を下ろしていたひまりが声をかけてきた。
「……どれくらい寝てた?」
彼女は俺と目が合うと少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。こころなしか頬が赤い。
それを見て色々と察してしまったけれど、とりあえず今は置いておく。
まず身体を起こそうと思ったが、どしりとした重石が頭についているかのように起き上がることのに抵抗を覚える。夜更かしをした時の起き抜けように形容しがたいものが脳内に絡みついている感じだった。
これもアルコール入りのチョコレートの原因だろうか。もしかすると俺もそれなりに弱いのかもしれない。菓子だからといって、あなどれないな。
仕方ないのでこのまま横になったままで話を続ける。
「30分くらいだよ。私もさっき起きたし」
「両親とみのりさんは?」
「お姉ちゃんはさっき遅くなるってチャットが来たよ。お父さんたちはわかんない」
「そっか……」
どうやら最悪の事態だけは免れたらしい。ブタ箱で寝る必要はなさそうだ。
「…………」
「…………」
しかし非常に気まずいが。どうすんだこれ。
無理もない。自分はともかくひまりはあれだけ泥酔のような症状が出ていたのだ。記憶が朧気で混乱していても仕方がない。いやどちらかと言うと覚えてない方が彼女の為だと思う。
まあ先程の反応から完全にそうだという線は正直薄そうなんだけど。
ただ万一覚えてないとなると記憶のない状況から目が覚めると男と共に同衾していたということになるが。下手するとトラウマものなのではないだろうか。
「ね、ねぇクロ?」
「え? あ、はい、なんでしょう」
「ご、ごめんね? その……」
「……ああ」
しばらくの間の部屋を支配していた沈黙は、彼女をによって破られる。
しかしすぐに言葉は尻すぼみになっていき……同時に彼女の顔がみるみるうちに染まっていく。
「もしかして」
「ちょっと覚えてる……うう、恥ずかしい……」
「あー……うん」
そんなことだろうとは思ったが。やっぱりある程度は覚えているらしい。
しかしなんと言葉をかけるべきなのか。ことが事なだけに、あと状況が稀有すぎて適切な言葉が見つからない。
「目が覚めたらクロを抱きしめて寝てた……」
「それあんまり言語化しないで欲しいわぁ」
「普段は絶対に出来ないのに……お酒の力ってすごい」
「まあ、アルコールは大脳辺縁系を活発にするって言うし」
「? だいのーへんえんけー?」
「簡単に言うと本能や感情を司る部分らしいよ」
「へー。そこが活発になるんだ……え、てことは私の本能って……」
「やめとこう。な? 難しいこと考えちゃだめだめ」
「……ねぇ、もう1回抱きしめていい?」
「なんでだよ。落ちつけよ」
難しいことは考えるなといったけど、思考全部飛ばせとは言ってないでしょうが。
さてはまだ回ってんなこいつ。眼が怪しい。
瞳の中をぐるぐるに回しながら、じり……と迫ってくる。
「だって、もう……その、いいかなって」
「いや雑か。諦めんなよ。羞恥心そう簡単に捨てんな」
「むっ、だって私の気持ちなんてもうバレてるし」
「さっき恥ずかしいとか言ってたくせに……」
それとあまりそういうことを言わないで欲しい。反応に困る。
「今日も巴から話を聞いて色々準備してたのに」
「やっぱりなにか結託して企んでたのか……」
「別に企んでなんかないもん。ちょっとアドバイス貰っただけだし」
「アドバイス?」
「“押してダメなら押し倒せ“って」
「脳筋が過ぎる……」
それは果たしてどうなんだろうか。まあ非常に巴らしいが。
そしてひまりにならそれで押し切られそうなので普通におっかない。
「…………」
しかし、なんだろうか。改めていざその事を考えてしまうと、やっぱり思うところがある。
「あーなんというか……。……」
巴は……以前、アタシは色恋なんてわからん! と豪語していたと思うが。
好きな漫画は少年漫画で、少女漫画と呼ばれる恋愛モノは一切読まない。そして長らく彼女を見てきたけれど、女の子からの人気は凄いが彼女自身の色恋沙汰はあまり聞いた事はない。
1度自分も相談を持ち込んだ事はあるが、なんやかんやではぐらかされてしまった。やっぱり、得意ではないのだろう。
しかし不得手なりにも友人の為を思っていろいろ考えているようだ。ひまりもそんな巴に信頼を置いているようで、普段の様子を見ればよく分かる。
「……まあ、相手が俺じゃなきゃればもっとよかったかもね」
「──……!」
だからこそ、非常に惜しい。
自虐の意味を込めてそう言った。いや言った、といのは少し違ってて。
意識的に口にするつもりはなかった。口から漏れたというのが正しいか。
巴の判断ははっきり言うと優しいようで、しかしこの子の為にはならないんじゃないか──とも思う。
「…………」
紗夜も言っていたが正直自分はロクな人間ではない。であれば特段男として優れているのかと問われても断じて違うと言い切れる。大した特技も魅力もない、探せばどこにでも居そうな男なのだ。
それでも彼女が懇意にしてくれていることは何となく分かっていたし、今日も巴がひまりの名前を出したときから何かしらのお節介を焼こうとしてるのも薄々感じ取れた。
だからこそ、それは少し後ろめたかった。
「……なにそれ。贅沢」
「……うん?」
内心で形容しがたい心境に駆られていると、少しの間沈黙していたひまりがぼそりと小さく呟いた。
思わず気になって聞き返す。別に小さな声だったから聴き逃したという訳はない。意味が取れなかっというのはそうであるけれど、しかしそれ以上に……。
「贅沢じゃなくても……やめてよ、そんな言い方」
「? ひまり?」
「なんで……そんなこと言うの?」
いつもの溌剌とした元気な明るい声でなく、落ち着いた、落ち着ききった冷たい声音。
先程までとは打って変わった態度だった。
「彼女募集中とか言っておいて、いざ女の子が迫ってきたらそんな口実で逃げるんだ」
「別に逃げてはなくない?」
「逃げてるよ。へたれなだけじゃん」
「へたれ……?」
「それとも……やっぱり遠回しにフってる?」
「ちょっと、急にどうし……うぐっ」
彼女はその声でそういうや否やおもむろに立ち上がり、ベッドに膝をつかせる。そして再び跨るように覆いかぶさってきた。
腹の上に乗り、体重をかけてくる。ベッドがギシリと音を立てた。
「……もしかして、まだ酔ってたりする?」
「どうせ私じゃあモカを遠ざける口実にならないからとか思ってるんでしょ」
「な……っ」
茶化したように言うと、ぴしゃりと断じる。その内容に、作った似非ら笑いが一瞬で崩壊した。
いや……それは……。その後に言葉を続けることは出来なかった。それを考えなかったと言えば嘘になるからだ。
ひまりの豹変ぶりに驚きを隠せない。冷たい声音はさらに強くなり、鋭い言葉が飛んでくる。
その間にも彼女は少しずつ身体を前に倒し、顔を近づけてきた。
「まだ好きになった子がいないってだけで──」
「下心こみで近づくなんてさいてーだよ」
両手のひらを此方の両頬に添えた。近距離で交錯した眼には怒気が含まれているのが明瞭にわかる。
ひまりの行動に呆気にとられながらも反論したが、間髪入れずに返される。
「ごもっとも……」
「……でも、そんなさいてーな人、他の人に近づけちゃだめだよね」
「……え?」
「野放しに出来ないよ」
もしかすると平手でも飛んでくるかもしれない。鬼気迫る彼女の表情にそんな覚悟して瞳を閉じた。
しかしいつまで待っても鈍い衝撃が来ることは無く、かわりに耳を疑うような一言がある種の衝撃となって耳朶に届く。
今度の意味は、汲み取れた。今までの自分を糾弾する流れから急激に変わったけれど、それでも今の言葉の意味合いは理解することは容易だった。
「だから……私が責任をもって付き合ってあげる」
「なんでそこまで……」
しかし、理解出来たうえで尚疑問が残った。どうしてそこまで拘るのかが分からなかった。
瞳の中に迸っていた怒気の炎はいつの間にか薄れ、代わりに悲愴的な色が浮かんでいる。
「それ本気で言ってるの? ほんとに分かんない?」
「あ……」
ひまりはか細い声音を息とともに吐き出した。小さな嗚咽を押し留め、愁傷の念を何とか抑え込んでいるようだった。
エメラルド色の瞳が濡れたように僅かに揺れている。それを見てやってしまったと後悔してしまう。
「あはは……男の子に、泣かされちゃった……」
「ご、ごめん。えっと……」
「……透かした態度でかっこつけてても、そういうところは変わってないね」
ちっちゃい頃も喧嘩して、誰が泣いちゃったら、クロが悪くなくても謝ってた……。
目を擦りながら、大昔のことをひまりは懐古して話し出す。思い出し笑いをするように、けれどどこか無理をしているように。
壊れそうな、濡れた笑みで、ぽろぽろと言葉を紡ぐ。
「好きだから」
「───!」
「ずっと、前から、好きだったから」
「…………」
「……ごめん。いきなり困るよね。でもこうしないと、負けちゃいそうだから」
両頬に添えられていた手がゆっくりと開放される。それと同時にひまりは体勢を起こした。
腕を自分の両隣につき、尚も顔が近い体勢。拭ったはずの雫がまたひまりの眼に溢れ、落ちる。
それが此方の頬に落ち、つーっと皮膚をつたい、枕に滲む。
「クロが、別の人に取られちゃいそうだから……」
絞り出した、小さい声音。自分たち以外では空調の音だけが聞こえてくる静謐な部屋の中で、その声はとてもよく耳に残った。
彼女の濡れた瞳が決壊し、どんどん涙が落ちてくる。
「……1個だけ訂正しとかないといけないことがある」
「……え?」
「今言うべきかどうかは、違う気がするけど……」
それが見えた瞬間、無意識に口が動いていた。
「確かに下心こみなのは本当。否定しない」
「…………」
「だけど下心のみってわけじゃ、絶対ない」
1度逸らした眼を今度はしっかりとひまりにぶつける。再び交錯した視線の元の彼女の瞳は初めのものと違い、弱々しく、いつ壊れてもおかしくないくらいに脆かった。
それが誰のせいかは朗然だった。だから言い訳がましくなってしまうかもしれないけど、ここまで言ってくれたのなら言わなくちゃいけないし、誤解して欲しくないと思った。
だから慎重に。単純に。適切な言葉を選びながらゆっくりと、なんとか言葉を探す。
「これは中学の時に付き合ってた人の話なんだけど──」
「…………」
「い、いたたたた。首締めないで……」
「今の状況で他の女の子の話出すとか……!」
「すいませんほんとごもっともなんですけどとりあえず話を聞いてください」
い、いきなり逆鱗に触れてしまったぞぉ。違うんだってそうじゃないの。導入でキレるのやめて。
マウントポジションを取られての首絞めは女子でも、しかもばりばり運動部のひまりのものは結構つらい。流石に同じ相手に2回も窒息させられそうなのはいただけない。
悪手を打った此方が悪いのだが。なんとか声を絞り出しながら弁解すると、ひまりはむすっとした顔で力を緩める。非常に表情が豊かだ。
「3年の時に同じ学校の後輩と付き合っててね」
「……それで?」
「けどお互い恋慕はしてなかったんだ」
「え……好きじゃないのに、付き合ったの?」
「結果だけで言えばそうなるね」
その頃は若すぎたのか、まだ何が異性として好きなのか曖昧だった。
少しの間瞑目し、淡々と続ける。
「それで最初は良かったんだけどさ、あとの方になるとやっぱりなんか違うって思っちゃって」
「…………」
「男女交際っていう名前に縛られて、らしいことやってるだけの惰性のままで付き合ってたらさ」
さらに、続ける。
「結局、空中分解みたいに別れちゃった」
「……なにが言いたいの?」
「……あまり恥ずかしくて話したくはないんだけど」
瞼を開いて、数十秒ぶりの光と共に、ひまりの瞳を捉えた。
「……ちゃんとした恋愛ってのが、したいんだ」
メルヘンチックで、とてもつもなく女々しい。
高校生や男としての恥を忍んで、ひとおもいにぶちまけた。
「だからあくまで、
だから誤解しないで欲しい……は、あまりにも虫が良すぎるだろうか。
泣かせてしまった贖罪になどなりはしないことは絶対に分かっている。
それでも……今は全ては言えないけれど、それは伝えておきたいことだった。
『クロさん、やっぱり女の人にだらしないのはいけないと思います』
『あこちゃんまで……だからだらしないとかじゃなくてちゃんとした理由が』
『でもそれだけじゃあないよな?』
『……まあそれだけって訳でもないけど』
『よーし歯を食いしばれ』
『ちょっ、ストップストップ』
ここに来る前に宇田川姉妹に言われたことを思いだす。
彼女たちに女子にだらしないんじゃないかと聞かれて、ちゃんと理由があるからと窘めた時の事だ。
この時は“女の子と絡むのは妹を兄離れさせるため”といった理由なんだと説明し、巴に他の理由もあるだろと追求されたのを思い出す。
けれど、
巴は兄離れの助長だけでなく単に色んな女の子ともイチャつきたいからだろと言いたそうだったけれど、それは少し違う。
女の子とイチャつきたいのはそうだけど、それならばたったひとりの女の子とだけでいい。
妹の兄離れなど早急にしたいのは本当だけど、理由のひとつにしか過ぎない。
年頃の高校生らしく、ちゃんとした恋愛がしてみたい。
蘭あたりに聞かれると全然普段のクロのキャラじゃないとかいわれそうだけど。
けれど、付き合う女の子は本気で好きになった人がいい。それだけは間違いない。だからひまりが俺を贅沢だと糾弾するのも間違ってない。
だけどそれには色んな問題と障害が自分には付き纏っている。
『……相変わらず胡散臭いですね』
紗夜は言った。胡散臭いと。いやはやまったく。まさにその通りである。
経験の少ない自分はロクな恋愛技術なんて持ち合わせていない。1年前、あのときの彼女は俺の事を伴侶だとは見ていなかった。
だから、俺に出来ることは嘘を真実として塗り固めることしかなかった。
流行りのファッションを調べて、ウケのいい服で着飾って。
言葉遣いを改めて、精一杯の綺麗な自分を作り上げて。
顔はどうにも出来ないから、せめてスキンケアと髪を手入れだけは念を入れて。
そうしないと、まず見てすらも貰えないから。
それから先は、自分で何とかするしかないが。
こんなことを母なんかに聞かせると女々しいだの昔の失恋をどれだけ引き摺れば気が済むんだの言われそうだ。けれど自分は本当にもうそれしか知らなかった。
だから、誰かを好きになってしまったら、最悪
ひまりは俺のことを器用だというがとんでもない。過去にビビってひとつのやり方しか出来ないとんでもなく不器用な人間だ。
けどひとつのことを深堀りするのは得意だから、もしかしたら上手くいくかもしれない。そんな希望的観測で俺は今の自分を作っている。
「……クロ?」
まあ今朝紗夜に
すると急に黙り込んだの此方に不安に駆られたのか、ひまりがまた小さく声をかけてくる。
そのか細い声は心配でもしてくれているのだろうか。さっきまで俺を糾弾していたのに、この子はなんというか。お人好しというか。
そんなひまりに手を伸ばし、柔らかい髪をゆっくり撫でる。
「あ……」
「嫌だった?」
「う、ううん! 全然!」
その後で目尻付近の雫を人差し指の先でそっと拭き取る。
するとひまりは驚いたようにぱちくりとまばたきをした。
「でもびっくりした。今までクロが自分から触ってくることなんてなかったから……」
「そりゃ触ったらセクハラだろうに」
「じゃあなんで今は触ったの?」
「んー……」
なんでだろうね。ちょっとした慈しみか、罪悪感かもしれないね。
無論セクハラでは無い。が、内容は伏せておきたいから、言わないことにする。
「いや、ちょっと思うところがあって」
「思うところ?」
「あー……なぁ、ひまり」
「なに?」
「自分で言うのもおかしな話だけど……大変だと思う、よ?」
「何が?」
「だからその、えっと……」
「もしかして俺に惚れると火傷するぞってこと?」
「……まあ、ニュアンスはそれであってるかな」
ちょっとマヌケっぽいけど……うん、大意はあってるので今は言うまい。
何度も言うが大した魅力もない男だ。それに比べてひまりほどの女なら男なんて選び放題。
だと言うのに俺を選ぶというのなら、それは男冥利に尽きる。
そしてもしも、俺もひまりを選んだのならば……それはこちらも覚悟を決めなくてはならない。
「いろいろと幻滅もさせてしまうかもしれないし」
「うーん、まだ何が言いたいのかはよく分からないけど……」
言いたいことは全て言った。ならば後は、ひまりからの反応でこれからのことは決まるだろう。
かれこれ10年近くの付き合いも、もしかすると一瞬うちに瓦解するかもしれない。そんな不安が脳裏を渦巻く。
「でも、大丈夫だよっ」
「……なんで?」
しかし彼女は安心しきったように、もとの元気な様子でにっこりと笑った。
「だって好きなんだもん」
「!」
「だから、大丈夫以外、ないんだもんっ」
莞爾と微笑みながらひまりは声を上げた。
その言葉を振り絞るに、脈を打ったかのように彼女の心臓が跳ねるのを無意識に感じた。
最後の雫が、またもや俺の頬にこぼれ落ちる。
小さな水滴が大きな想いを纏い、伝播した。
「ようはクロは今度こそお互いが両思いの恋をしたいんでしょ?」
「そうです、ね……」
しどろもどろに口を開く。
改めて口に出されるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
「だったらあとはクロの方だけじゃん!」
「俺の方だけとは?」
「あとはクロが私のこと、好きになってくれるだけだよね」
なるほど……そうきたか……。
好きだから、大丈夫以外、ない……か。
このさっぱり具合も巴のアドバイスの賜物だろうか。いや、これは元からひまりが持っていた良さだろうか。
しかしどちらにしろ、選んだのは彼女だ。本当にすごい子だと思った。
「それにこーんな偏屈な人、やっぱり私以外じゃだめだって」
「……偏屈なのは人のこと言えないと思う」
「なら似た者どうしだね!」
にししっと、笑う。もうその表情に、涙はない。
恥ずかしい思いを吐露したかいがあっただろうか。ただ此方の落ち度でひまりを泣かせてしまったので、自分がやらなくてはいけなかったことなのだろう。
「私以外じゃだめって……紗夜も同じようなこと言ってたな」
「あ! あーもー! またそんなこと言って!」
特に根本的な問題が解決したのかと問われればそうでも無い気がするが、とりあえずは一件落着として置こう。
そうなると肩の荷が取れたのか、油断してまたしても不用意な発言がででしまった。
「こんな状況で他の女の子の名前をまだ出すなんて……! ていうか紗夜さん!? かなり強力なライバルが……っ!」
「あの人はそういうんじゃないと思うぞ」
「クロのそういうのはアテになんないのっ」
「そうなの……?」
女の見る目がないとストレートに言われて、若干傷ついた。
「とにかく、私含めてまだ誰にも惚れてないんでしょ?」
「そうなるね」
「そっか……ならもう手段は選んでられないね」
「はぁ……え?」
「だって他の子がクロを欲しがったら困るもん」
「こんなんを自分から欲しがる物好きなんていないと思う」
「そんなことないと思うけど? あ、なんなら首輪でもつけてあげよっか」
「なんならで提案するには重すぎる内容だぞそれは」
「だってぽっと出の手癖の悪い泥棒猫がいたら困るしねー」
ていうかぽっと出の泥棒猫て。ちょっと発言が怖いが。
つぅーと、やたらといやらしい指使いで首元に触れる。
「だから、ご要望とあらば♪」
「ご要望とあるわけないだろ」
「そう? 残念」
「悪かったね。なら残念ついでに、そろそろ離れて欲しいんだけど」
「え、なんで?」
「だっておも」
「ん?」
「……いや、暑いので」
「ふふっ、我慢しよっか」
「えぇ……」
ひまりはそう言ってリモコンに手を伸ばし、冷房の温度を下げた。おい、地球環境は? ちょっと前まで熱弁してたよね?
涼しくなった6畳の部屋の中で、これならば大丈夫だろと。んふふとニヤつきながら頬ずりを繰り出してくる。
「ちょっと。おまえ自分の身体のポテンシャルを甘く見すぎだろ」
「……えっちな気分になっちゃう?」
「こんなことで攻略して満足なのか?」
「手段は選ばないって言ったでしょ? それにこれも私の魅力のひとつだし」
「自分で言うのかそれを……なにかモカの悪いところが移っている気がする」
「…………」
「いたっ。なんだよっ」
「また他の女の子の名前だしたー……」
「いや……妹はセーフじゃないの?」
そんなに私の嫉妬心煽りたいのかなぁ? ん? と恐ろしい笑顔で頬を引っ張られたので、もうこれ以上何も言わないこととする。もうこの子、ほんと色んな意味で凄い。
さっきまでのことといい、胆力と度胸は化け物クラスに並外れていると思う。
「いたい、いたいって。噛まないでよ……」
「これ、首輪代わりね」
かぷり。かぷかぷ。多分、
あの……ちょっと前から思ってたけど、この子相当重たいのではなかろうか「…………」いや違う、違うって。精神的な意味でね? 物理的になんて言ってないでしょ? 言ってないじゃん。……だからこれ以上噛まないでお願──。
「ふふふ。ふふふふ。ふふふふふ」
結局、その後もなんやかんや好き放題されてしまった。
このマイペースさは……流石あの悪魔のような我が妹と付き合っているだけのことだけはあるということか。
意外と恥ずかしがり屋で酒に弱く、酔うと暴走して大胆になり……なにより心が強くてポジティブで、そしてかなり嫉妬深い。
とてつもなく表情豊かで感情的で女の子らしい。
いろいろあったが今日は様々な意味で、上原ひまりと言う少女を見直すことになったのだった。
「ね、目ぇ瞑ってよ」
「今日はほんとすいませんでした俺が悪かったです反省してますもう2度このようなことは」
数十分後、俺はぐったりとして、もはや謝罪の言を喋るだけのマシーンになってしまってしまっていた。
いろいろあった。いやもう本当にいろいろあった。全て語れないので割愛するが、とりあえず俺の腹筋は触るためにつけたんじゃあないのでそこだけは覚えて帰って欲しい。今日教えた英単語とか忘れていいから。ね?
「ふ〜ん?」
いや、てかここひまりの家じゃん。帰るとかなかったわ。そして同時に俺が逃げれるという可能性もなかったわ
「……だからこのくらいで勘弁してください」
「私涙脆いのは自覚してるけど、男の子に泣かされたのは高校になって初め」
「好きにしろ。していいです。してください」
くそぅずるい! 女の子なんてきらいだ!
「そ、そう? じゃあ、その……」
「ねぇ、ひーちゃん」
「いただきま──……へ?」
そうか……ひまりに限らず、女の子とはこんなに恐ろしい生き物なのか……。
それともうひとつ恐ろしいのが、要求してきたひまりが何もしてこないことだ。
いや、されていわけじゃないけど、瞑目させておいて放置はさすがに怖いからやめて欲しいが?
「……ひまりちょっと。何してるの? 怖いんだけど、ねぇ」
「お兄ちゃんも、何してるの?」
「…………。……なんでここに?」
「朝から出かけて、なかなか帰ってこないから」
そうじゃない。いやそうかもしれんけど、まずどうやってこの家に入ったの?
その存在に背筋が凍った。目を瞑った状態放置なんてちゃちなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしい女の子の片鱗を感知したのだ。
やだ! 開けたくないわぁ! 目ぇ開けたくないわぁ!
だってもう終わりだったじゃない? これでひまりの気も済んでおしまいだったじゃない? 空気読んでよ。もうユーザーの気も知らないで一生復刻しないペル○ナコラボくらい空気読めてないじゃないのよ。
しかし現実は非常なもので、迎えに来たよ〜と、相変わらず間延びした声が鼓膜を震わせる。
「んふふ〜、来ちゃったぁ」
ついでに俺自身も震わせる。もうガクガクである。
恐る恐る目を開け、頭を横にずらすと、そこには毎日毎日顔を合わせるツラがそこにあった。
紗夜よりも、ひまりよりも、誰よりも早く今日1番に俺の枕元で俺を起こしてくれた人物が。
「で? それで? ひーちゃんとクロは何をやってたのかなー? ……教えてくれる?」
「「…………」」
悪魔、降臨。世界、終ワル。
こいつはあくまでも妹だが、悪魔のような妹でもあった。
その表情はなんとも筆舌に尽くし難く、凄絶なもので。
その悪魔はにっこりと、目元に陰を落とした自虐的な笑みで、ベッドで重なる言い訳しづらい状況の俺とひまりを見下ろしていた。
上原 ひまり
羽丘学園高等部1年生。
恥ずかしがり屋だけど、もう吹っ切れちゃって今までのようにはいかない様子。いずれ封印していた例の服で九郎の部屋に押しかけたいと画策している。
しかし青葉モカという難攻不落のお兄ちゃん包囲網を掻い潜る手立ては今は無いとのこと。
青葉 モカ
羽丘学園高等部1年生。
ついに出たタイトルのやつ。九郎の呼び方はお兄ちゃん、もしくはクロ。特に決まってはいない。もう察せられているかもしれないが、極度のブラコン。
好きな男のタイプ クロ
好きな人 クロ
好きな食べ物 クロ
好きな抱き枕 クロ
好きなお姉ちゃん クロお姉ちゃん
好きな(以下略
青葉 九郎
行事を大事にするタイプの都内普通科高校2年生。
青葉家長男。産まれる前の名前は本当に“クロ”だったが、もっと男らしくということで九郎となった。まあ女顔ですけどね。
彼女の出来ない原因の6割はモカが後ろで根回ししているとの噂を何処と無く聞き、その夜は眠れなかったという。
『主人公からするとあくまで妹で、悪魔的な存在。故に“アクマで妹!“』というタイトルの意味をようやく出せましたね。これからはモカの小悪魔っぷりと妹っぷりを書けたらなと思います。
では次回もよければお願い致します。
コメディチックに書くのが好きなんですけどよね
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これくらいでいい
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いやもっとイチャコラさせろ