アクマで妹!   作:あぐろむいしき

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繋ぎ話その2

オリモブがふたりほど出てきます。

そしてお気に入りが300件を突破致しました。感謝感激です。ありがとうございます。


夏という季節は、色々と入り用なのですね①

 

 

「……げっ」

「……青葉くん、授業中はマナーモードにしときなさいって言ったでしょ」

 

 

 静謐な空間に短い電子音が鳴り響いた。その後教師の叱責と共にクラス中の生徒の視線が此方に集中する。

 太陽が西へ傾き始めた時間帯の、昼休み後1発目の授業中。その音は決して大きなものではなかったが、現在は時計と筆記具類の小さな音だけが聞こえる問題演習の最中だ。

 であれば、その着信音なる電子音は教室内の殆どの人間の耳に届いたのでないだろうか。

 1番後ろの自分の席から最前の“霧島先生”まではざっと10m弱はある。その彼女が気づいたと言うのだから、恐らくそうなのだろう。

 

 

「すいません。気をつけます」

「まったく……いつも寝てるから静かなくせに、スマホを方がうるさいってどういうことよ」

 

 

 霧島先生の一言にクラスに微かな笑いが広がる。彼女こめかみに手を当て、隠すことなくため息を着く。

 数学教師“霧島冬雪”は今年当校に赴任したばかりの20代中頃の非常勤講師だ。

 肩口まで伸びる綺麗な茶髪と目鼻整った少し童顔の端麗な容姿が男女問わず人気の女性で、科目は数学を担当している。

 今年の4月にうちの数学を担任すると分かって当時男連中が色めきたっていたが、少々口うるさい上に生活指導教員のひとりでさらに苦手科目の担任との事なので皆ほどテンションは上がらなかった。

 

 

「ちなみにこの後やる小テストで規定点取らないと放課後補習なの、キミ知ってるんでしょうね」

 

 

 性格だけでは言えば他校の生徒までに口を出す何処ぞの風紀委員長と似ている。ああなるほど。だから説教くさいのかこの人。

 説教されるとしても美人になら苦にならないとクラスの誰が言っていたが、そんなことはないと思う。シンプルにちくちく刺してくるタイプは長時間はキツい。

 彼女はどちらかと言うとそのタイプ。はっきり言って関わるのは避けたい。……ところで今日補習の件は初耳なんですけど? まじなんすか?

 

 

「まああれだけ爆睡してるんだし余裕よね?  もし下回ってたら、怖いわよ?」

「ははは、楽勝っすよ」

「あら、頼もしいわね」

 

 

 恐らく件の小テストだと思われる数十枚のプリントを整えながら此方に半眼を送る霧島教諭。その視線に俺は笑顔で返した。

 なにがどうあれ補習はともかく小テストは避けられない。やるしかない。

 皆が筆記具以外のものをしまうと、小テストが裏側で配られ始めた。用紙は1枚のみで、薄いコピー用紙の性質上裏がある程度透けて見える。

 それらを伺うに問題は10問程度の計算問題のみ。決して厳しくはない量だと言える。

 

 うん。これは早く帰れるな。明日は土曜日な上に放課後は暇だし、以前見逃した新しい映画を見に行くのもいいかもしれない。

 

 もしかすると自分のことを知っている人間ならば今頃合掌でもしているのかもしれないが、甘いわアホ共め。今日の俺は誰よりも早く教室から出ていってやるからな。

 

 俺は内心でにやりと笑い、開始の合図とともにテスト用紙を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「……横暴だ……なんで俺だけ課題多いんだよ」

 

 

 時刻は既に午後5時を回った放課後。太陽はすっかり西に落ち、茜色の残照が淡く校舎を照らしている。

 とっくの前に放課となった校舎の外は部活動に勤しむ生徒たちの声で活気づいており、それをBGMにしながらとぼとぼ校門目指して歩く。足元には低い空から照らされた影が無駄に長く伸び、それがなんとも哀愁を誘っていた。

 

 結果は見ての通りダメで、補習を免れることは出来なかった。

 

 正直出オチ感がすごいが、毎度の事なのでもう気にしたりはしない。というか自分の補習が多いのではなく小テストが多すぎるのだ。

 霧島先生は授業中にかなり頻繁に小テストを行う。しかしそれは10点満点中6点を取れば合格となる、本当に規模の小さいものだ。

 しかも6点未満、つまりは不合格点を取ってしまってもその1回だけでは補習にはならず、補習となるには3回連続で不合格点を取る必要がある。

 

 

「あれは絶対何かしらの個人的な恨み買っちゃってるだろ」

 

 

 さらに小テストといっても内容は当日の授業の確認のようなものなので、真面目にやっていれば1回の不合格すらもなかなか出ないらしい。

 だからこのような小テストで不合格点を取りまくる自分のような人間はかなり珍しいとのこと。余程自分の数学が出来の悪いのが分かる。

 それはまあ授業中毎度毎度寝てしまうのは悪いと思うが。しかしそれは霧島先生の授業がつまらないのではなく数学自体がつまらないので、もうどうしようもないのだ。

 しかしそんな言い訳が聞き入れて貰える訳もなく。むしろ『じゃあ好きになっちゃおっか?』と、暗い笑顔で出された課題は他の連中よりも2割増しくらいで多かった。

 

 

「いや特に俺が成績悪いから当たり前のことなのかもしれないんだけど……」

 

 

 笑いながら人ビビらすって、うちの妹様ですかねあなたは。『好きになっちゃおっか?』なんて甘いセリフ、出来ればもっと別のシーンで聞きたかった。

 しかしどこまでいっても自身の自業自得なので霧島先生に文句は言えないんだけど。

 

 

「この際誰か頭いい人に教えて貰おう。藤吉(ふじよし)にでも……ん?」

 

 

 こうなったらちょっとは真面目に勉強してみようか。さすがに申し訳ないし。

 となると誰かにコーチを頼まなくてはならない。

 脳内名簿で成績のいい人間を探していると、ふと、目の前の光景に足が止まった。

 

 

「……なにあれ」

 

 

 いつの間にか校門付近にまで歩いて来ていると、そこに普段なら滅多としてない人だかりか出来ていた。そこには数少ない友人の姿も見える。

 人だかりと言っても10人そこらで、複数の集団となりなにやらひそひそと小声話をしている。

 

 

「椎咲?」

「あれ青葉ちゃん。補習お疲れ〜」

 

 

 さすがにスルー出来ず、気になったので野次馬の中にいたクラスメイトで席が隣の“椎咲 愛樹(しいさき あいじゅ)”に近づき、事情を聞く。

 

 

「はいお疲れ様でした。それで?」

「なんかねぇ、この辺の女子校の制服着た子が校門前にいるんだってさ」

「……女子校?」

 

 

 すると思いもよやぬ単語が彼女の口から出てきた。はて、女子高とな。

 

 

「なんでも羽丘らしくて」

「羽丘」

「多分人でも待ってるんじゃないかって。この野次馬はその待ち人が誰なのかを待ってるっぽい」

「待ち人」

 

 

 椎咲の至極丁寧な説明に手を口に当てて考える。いかん心当たりがあるな。

 

 

「待ち人ねぇ……」

 

 

 というのも昔、テスト期間での早めの放課となった際に、妹のモカがここまで迎えに来た事がある。

 なんでも暇だから来たとの事。正直どんな思考回路をしたらその結論に至ったのか小1時間くらい問い詰めたい。いや問い詰めたが。

 しかもその時に大人しくしていればいいものをモカは名前呼びで、しかも手を大きくブンブン振ってきたもんだから校内中の噂になり、恥ずかしくて一時学校に行きたくなかった経験がある。

 

 

「……あの、それモカじゃないですよね」

「妹さんじゃなかったよ? 黒髪だったし」

 

 

 まさか今回もその類いじゃないだろうね……そう思って危機感知レーダーがけたたましい轟音をあげているが、どうやら違うらしい。

 それはなるほどよかった。一安心だ。

 

 

「そう? ならいいんですけど──」

「うん。1本赤いメッシュが入ったショートカットの女の子だからね」

 

 

 レーダー再始動じゃバカモン。

 いかん心当たりがあり過ぎるな。

 

 

「……まじか」

「なに青葉ちゃん、またあんたなの?」

「またとか言わないでくださいよ」

「いや言わしてもらうけど。あんたいったいどれだけ他校の女の子を口説いたら気が済むのよ」

「あれは口説いた覚えはない」

 

 

 まじかよ。よりによって3番目に面倒なやつじゃないか。

 というかあれが校門前で人待ってるとか怖すぎないか? もしかするとヤンキーとかに間違われるんじゃないのかしら。

 

 

「あれはって。それはどうなのよぉ」

 

 

 はれんち〜と極端に短いスカートをふりふり揺らしながら軽蔑の視線を送ってくる椎咲を無視し、俺は顎に手を当てて考える。

 

 待ち人……本当に自分なのだろうか。

 

 噂の羽丘赤メッシュヤンキー被れはどうやらうちの生徒を待っているらしい。

 もしヤンキー被れが自分の想定する通りの人間ならば、そいつが待っている待ち人は自分という可能性が高い。

 

 高い? いやそうとも限らなくないか。だってあいつら、ライブハウスでバンド活動をしてるんだろ。

 

 そうなると自分の自意識過剰説も有り得る。確かに彼女と顔見知りの関係だがそれは他の人間にも当てはまるかもしれない。

 ライブハウス等でバンド活動もしているとなると普通よりは人脈は広くなるはずだし、うちの学校にも自分以外で知り合いがいてもおかしくは無い。

 

 

「……しゃあないな」

 

 

 どの道ぐずぐずしていてもここを越えないと帰宅は出来ない。となれば、その可能性にかけてみるしかない。

 それにもしかしたら赤メッシュを入れてるだけの無関係の羽丘生の可能性も捨てきれないしな。

 

 

「あっ」

「……あっ」

 

 

 一抹の可能性を信じて何気ない素振りで校門を出る。

 すると直後、件の赤メッシュの少女と目が合った。

 

 ……………………あ、これ蘭だわ。

 

 しかし目が合った刹那の時間、一瞬でその結論に辿り着いた。羽丘で赤メッシュ爆流行りしている世界線を心から願ったが、無駄だったらしい。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 確かに羽丘生だし、ギターケース背負ってるし、この赤い眼とメッシュは間違いなく蘭だ。どうしようか。めっちゃこっち見てらっしゃるじゃねぇか。

 此方がこうも早く気づいたのならば蘭も気づいている可能性が高い。俺は何か言われる前に神速で目を背け、歩を進める。

 こうなってしまえば後は自分ではない誰かを待っている説にかけるしかない。あくまで俺は校門を抜け帰宅するだけだ。

 

 

「ちょっと」

 

 

 しかし……ずがんっ──と、そんな音をたてて、目の前の彼女は行く手を遮った。

 俺が顔を確認した後にスルーするのを察したのか、脚で校門の石段を蹴って、というか脚を地面から数十センチ程上げて石段につけた。

 

 つまり脚で進行方向を遮り、とうせんぼをかけてきたのだ。

 

 しかもそれがポケットに手を突っ込んでやるもんだからマジでヤンキーと勘違いしそうになる。しかもむすっとして機嫌も悪そうだし。

 椎咲ほどではないが、短いスカートの中身が見えない程度に太ももを晒しながら威圧的な眼で訴えかけてくる。

 

 

「なんで無視すんの?」

「……やっぱり自分待ちなのね」

「はあ? なにそれ。チャット送ったよね?」

「チャット?」

 

 

 それには心当たりがないぞ。チャットとな。

 ポケットからスマホ出してロックを解除する。見てみると確かに蘭からのチャット通知と着信をかなりの数受信していた。

 

 ……ああ、授業中のあれは蘭だったのか。

 

 となれば、道理でなと納得は行く。この通知の量やこいつがやたら不機嫌な理由も理解した。

 数学の授業中に霧島先生に注意されてマナーモードに切りかえたせいで、今の今まで気づかなかったようだ。それに関しては申し訳ない。

 それにしても4時間程度でこの数は少し多すぎる気もしないではないが。不在着信だけでその他の人からの通知よりも多くなってしまっている。

 

 

「数学の補習してまして。見れなかったんですよ。悪いね」

「補習? あんた大丈夫なの?」

「そっちは心配しないでいいから……それより不在着信6件にメッセージ20通はいくらなんでも多いんじゃないんですかね」

「だって……あんたが無視してるんじゃないかと思って」

 

 

 そう言いながら、蘭は不機嫌そうな表情のまま脚を下ろして近づいてくる。

 

 

「やですねぇ俺がおまえを無視するわけないじゃないですか」

「いや今現在進行形で無視しようとしたよね」

「そんなことはありません」

「……知ってるからね。あたしたち5人に敬語出るときはなにか後ろめたいこと隠してるって」

「…………」

 

 

 肉薄した彼女にぎろりと睨まれブレザーのネクタイを引っ張っられた。そのあまりの圧力に思わず苦笑いをして目を背けてしまう。

 相変わらずぶっきらぼうで恐ろしい。あと自分はそこまで身長が高くないのでその攻撃はかなり効く。やめてほしい。

 

 

「……それで? なんの用?」

「……聞きたいことがあるんだけど、これから時間いい?」

 

 

 言ってもやっぱり図星なので、これ以上蘭の機嫌を損ねないように話題を移す。

 彼女は何か言いたそうな様子だったがそれをため息と共に消し去り、単刀直入に切り出してきた。

 

 

「聞きたいことねぇ……」

 

 

 蘭は内容は言わず、ただ話したいことがあるということだけを伝える。

 しかしこいつがわざわざ他校に来てまで言いたいことがあると言うのならば、割とすぐに見当はつく。

 

 ま……、恐らくひまりのことだろう。

 

 簡単な用ならメッセージで済ませるか日を改めればいい。そうでなくともここまで足を運ぶのは不自然だ。

 しかし昔から素直ではない癖に情に厚く友人思いの彼女の事だ。友達の為ならば放課後でも他校に赴いても不思議ではない。

 

 

「あーなら話は帰りながらでも──」

「ダメ」

「は?」

 

 

 こうなった蘭を説得し、避けるのは難しい。仕方ないが観ようと思った映画はまたの機会にすることにしよう。

 そう思い蘭に着いてくることを促し、駅へ向かって歩く。

 

 

「時間あるんでしょ? ……ちょっと付き合って」

 

 

 歩く……歩こうとしたが……。

 誰かがいきなり手と腕を後ろから引っ張ってきた。

 振り向くとそこには蘭が。まあ当たり前だが。

 

 

「……だから、歩きながらでもいいでしょ」

「そ、それでもいいけど……違う」

「違う?」

「あっち」

「あっち?」

 

 

 と言って、蘭はおずおずと指さした。しかしそれは駅とは逆の方向で。

 ……おかしい。これはおかしいぞ。蘭も俺も、帰宅するには駅で電車に乗る必要があるというのに。

 なのにも関わらず蘭が指したのは逆の方角。そっち方面に歩いて行くと大きなショッピングモールがあると思うんだけど?

 

 なんだろう。無性にイヤな予感がするわねぇ。

 

 待てよ、そういえばこいつ、さっき時間あるかどうか聞いてきたよな。

 

 

「なんで、あっちなの」

「…………」

「あっちにはショッピングモールくらいしかないんだけど」

「…………」

「ねぇ、なんでそんなに力いっぱい握りしめるの? 痛いよ?」

「…………」

「ねぇちょっと。なんか言って? ねぇ。怖いんだけど」

「…………」

「おい聞いてんのか。なんか言えっつってんだよ。おい」

「……要件言ったら絶対逃げるじゃん」

「おまえは聞いたら絶対逃げるようなこと頼もうとしてんのか」

 

 

 やばい。もしかしてやっちゃったか? 手遅れか?

 得体の知れない何かを察知し逃げようと画策するも、事前に手を両手で握られるためふりきることが出来ない。

 

 

「おまえずるいぞ。先に逃げるのを封じるの汚いじゃん」

「クロってさ、ちっちゃい頃からあたしの事だけ避けてたよね」

「別に避けてたわけじゃ。それにそれはお互い様だと思うよ……!」

 

 

 そんな会話をしている間にも、蘭の魔の手(物理)から抜け出さんと踏ん張るが、彼女も全体重をかけて抵抗する。

 普段ギターを振り回しているからだろうか、なかなかに力が強い。そこそこ鍛えられているのが分かる。……何故ここまで必死なのかは分からんけども。

 

 

「避けてたよ。あたしが近づいても巴の陰に隠れてたし」

「それはだいぶ昔の話じゃないの? 幼少期でしょ。なんで今更気にしてんだよ」

「今も微妙に引いてるじゃん」

「そりゃこんなことしてたらね」

「別にあんたのことなんてどうでもいいけど、避けられるのはなんかムカつく」

「めんどくせぇなぁオイ」

 

 

 ちょっと可愛いらしいけども。けど何考えてんのかわかんないんだもんおまえ。

 

 

「だから今日は買い物に付き合って貰おうと思って」

「買い物に付き合って欲しいのならばモカたちと行けばいいし、なんならそれを隠す必要もないと思うんだけど」

「そ、それは……その」

「それは?」

「う、うるさいなぁ! も、もうクロはあたしの言うこと聞くしかないんだって! わかる!?」

「さては倒錯してんなこいつ」

 

 

 逆ギレしやがった。

 蘭は更に力をかけ、じわじわと自分の方へ引き込む。このままでは非常によくない。

 手のひらだけならともかく既に片方の前腕まで捕まっているのであちらはだいぶ力が入れやすいはずだ。全身持久力が低い自分は早く何とかしなければほんとに逃げられなくなるかもしれない。

 

 

「青葉ちゃん……さっきからなにしてんの?」

 

 

 しかしそんな危機的状況の中、校門前でごちゃごちゃしている俺らに見兼ねたのか我がクラスが誇るガチガチのギャル、椎咲 愛樹が近づいてきた。

 

 というか、そう言えば野次馬10人近くいたんだっけ。忘れてた。

 

 蘭との抗争に躍起になって失念してたけど。そうなると週明けはまた変な噂でもちきりになってしまうのだろうか。また学校に行きたくなくなってしまうかもしれない……。

 しかし今はそんな未来のことを気にする暇などない。

 椎咲は普段は俺の安眠(授業中)を妨害してくるプリティクソ野郎だが、今は四の五の言ってはいられない。

 

 

「あっ椎咲、ちょうどよかった。お願いがあるんだけど暇ならちょっと命助けてくんない?」

「暇な時にやることじゃないね。……命がかかってるようには見えないけど?」

「いやかかってるんだって。なんせ俺の命は花京院の魂くらい軽率にかけられているからね。何回殺されかけたか分かんないもん」

「はぁ」

「前なんて風呂場で遭遇しただけで首持ってかれるとこだったんだぞ」

「それは青葉ちゃんが悪いでしょ」

「ちゃんと清掃中の札つけてたのに?」

「あーだめだめ青葉ちゃん。そういうのは古来から男の方が謝るのが鉄則なの。ハンムラなんとか法典にも書いてあるんだから」

 

 

 嘘つけやメソポタミアなめてんじゃねぇぞ。書いてるわけないやろがい。

 呆れながらため息をつく椎咲。くっそムカつくなこいつ。

 あとハンムラまでいったんならビまで言えよ。

 

 

「あれ? ハンザワ法典だったかな?」

「それはもはや“目には目を”ではないよね。倍返ししちゃってるよね」

 

 

 両目ともイッちゃってんじゃねぇか。ハンしか合ってねぇし。今しか伝わらない流行りギャグやめろ。

 

 

「というかお風呂って、もしかして彼女さん?」

「断じて違うぞ」

「そうなの? アタシはてっきり──」

「ちょっと誰その女!」

「……あらあらまあまあ」

「蘭やめて? 誤解招くこと言わないで?」

 

 

 おまえもにやにやしてんじゃねぇぞプリティクソ野郎ぅ。

 

 

「女子に助けて貰おうなんて相変わらず男らしさがないんじゃないの……!」

「ほら聞いたか椎咲。今の状況はおまえが思ってるようなもんじゃないのよ」

 

 

 あとそれを言うなら蘭はもっと女らしい繊細さを身につけたらどうなんですかね。

 

 

「うーんアタシにはお似合いに見えるけどなぁ」

「目ぇ腐ってんのか」

 

 

 視力破壊されてんだろさては。アイボン買ってこい。

 どこをどう見たら後ろから全力で引っ張る女と引っ張られてる男をお似合いだと言うのか。欠片もこいつのセンスは分からない。

 

 その後、何故か椎咲まで悪ノリして協力したせいで悪戦苦闘は続いたが、最後は生活指導も兼ねている霧島先生が出てくる事態になり、一応はカタがついた。

 

 しかし無理やり連れていかれるということはなかったものの、蘭共々かなり怒られた。

 前のことと言い、他校の生徒を連れ込むのはやめろと。別に俺が連れ込んだ訳じゃないのに……理不尽だ……。

 それに『キミはほんっとうに私の仕事を増やすわね』と、半分私怨のようなモノまで説教に入っていたのもいただけない。どうやら次の補習は何としても回避しなければいけないようだ。

 

 

「……そういえば結局なんでショッピングモール連れてこうとしたの」

「それは、その……」

 

 

 約1時間に渡る説教の末、結局折れた蘭と共に電車で帰宅する。

 すっかりと憔悴しきって、人の少ない車中で彼女に尋ねる。

 

 

「──……ってことで……」

「あーなるほど?」

 

 

 すると蘭はもにょもにょと小さな声で言い訳をする子供ように理由を話す。

 その訳を聞いて……恥ずかしそうに言った蘭に思わず苦笑が漏れた。相変わらず見栄っ張りというか恥ずかしがり屋というか、なんというか。

 そういう事情があるならそうと言ってくれればいいのに。訳を言ってくれれば、まず逃げたりはしない。まあ付き合うかは別だけども。

 

 

「……なんでよ。いいじゃん、付き合ってよ」

「分かった分かった。明日の朝ね」

「……ふん」

 

 

 からから笑う自分とは対照的に蘭はいつも通り……いやもっと顕著な彼女らしい色を表に出す。その顔は熱を帯びたように朱色に染まっていた。

 それは今の夕日のせいか、それともじきに訪れる暑い夏の前触れか。

 彼女の悩みを聞くと、その夏が待ち遠しくなってしまう。わざわざ暑いなかこいつのために働くのだ。それくらいの役得は期待しても良いだろう。

 

 その時は是非、それを含めてお目にかかるとしよう。

 

 全ては、夏本番までのお楽しみだ。

 

 

 

 

 

 





美竹 蘭

羽丘学園高等部1年生。
ライブ後、しょっちゅうよくAfterglowのリーダーさんですよね? と間違われる。その度に後ろでひまりが拗ねるまでがワンセット。


青葉 九郎

数学教師が軒並み美人な都内普通科高校2年生。
Afterglowのライブに行くと、かなりの確率で巴のファンの女の子から襲撃されるため、最近は行かなくなった。その度にステージ上でモカが拗ねるまでがワンセット。




読了感謝です。
タイトルにナンバリングがあるので察せられてる方が多いと思いますが、次回に続きます。

コメディチックに書くのが好きなんですけどよね

  • これくらいでいい
  • いやもっとイチャコラさせろ
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