アクマで妹! 作:あぐろむいしき
前回の続きです。なんと言おうと、前回の続きなんです。
「セミってすげーよなぁ」
「セミ?」
すっかり青くなった桜並木の陰でベンチに座り缶コーヒー傾けていると、同席していた市ヶ谷有咲が唐突に声をかけてきた。
6月に入りまだ梅雨は明けていないが今日は見事な天候で、薄い霞がかった雲が空を覆う。
そんな優れた外出日和で現在地は少し広めの運動公園。まだ昼前の時間帯で人も少ない。
俺は眠たい目を擦りながら寝ぼけた頭をカフェインで無理やり起こす。
「セミって、あのセミですか。夏にミンミン鳴く」
「そーそれ。あれすげーと思わねー?」
「なにがです?」
有咲がぼそっと呟いた。今まで静かにオレンジジュースを飲んでいただけだったのに、不意に何を言ったかと思えばまさか虫の話とは。
そんな彼女に訝しげな視線をぶつける。確かこいつ、虫がかなり苦手だったと思うが。それに何故にセミなのか。
初夏といえどまだ入ったばかりなのでまだセミの鳴き声は聞こえない。もっと自然のある方へ赴けば根性ある張り切ったセミがいてもおかしくはなさそうだけど。
「だってさ、あれって外に出るまでは7年くらい土に篭ってるんだろ?」
「らしいですね」
「抜け殻着てさ」
「そうですね」
「やべーよな」
果たしてなにがやべーのか。あと抜け殻着るってなんか矛盾してないですかね。
彼女がセミに対してどんな感情を抱いているのかは知らないが、しかしなにが悲しくてこのクソ暑い中セミの熱弁を聞かなくてはいけないのか。
暑い中の熱弁とか、もうめっちゃあついじゃん。やめてほしい。
「ってことはセミって7年間も引きこもりやってたのに、急に服脱いで外でウェイ系やり出すってことだろ? やべーよな」
「まあ字面だけ見るとそうでしょうけど……」
「しかもあれって子孫残す為につがいを呼んでるらしいじゃん」
「らしいね。……なんなんです? ほんと」
「ってことは長年引きこもってたやつが急に外出て全裸で求愛行動やってんだぜ」
「もしかしてなにか病んでるんですか?」
「やべーよな」
うんやばいと思う。主に有咲が。
なんなのその感じ。目も死んでるし。人を朝から呼び出しておいていったい何がしたいのか。
「今日はもう帰った方がいいですよ。頭と体調が悪いっぽいし」
「そりゃあそんな目的で外出たら早く死ぬのも分かるよ。私だったら恥ずかしくて1日持たないもん」
「ははは、なるほど恥ずか死ってやつですか。おもしろくねーぞ」
「それが7日ももつってすげーよな」
「知らねぇよ……」
「私には無理だな」
「有咲にはというかまず人間には無理だと思う……」
公然わいせつで社会的に死ぬぞ。一瞬で。寿命7日とか言ってられねぇからな。
「……結局なんなんですかね」
埒が明かない。俺はもう一度缶を傾けて横目で有咲をじろりと見る。
いつまでもセミの話を聞いているのも面白そうであるけれど、これ以上彼女をこのままにしておくと各方面から苦情がきかねない。
それに流石にこれからずっとセミトークをされるといい加減話が進まないというのもある。ただでさえ最近マンネリとしてるのに。なのでさっさとここに呼んだ説明に入ってもらうことにする。
「いや実はさ、夏に香澄たちとプールとか海行くことになって」
「プール? あーなるほど?」
有咲は赤くしどろもどろになりながらも何とか本題を切り出した。
その小さな声に耳を澄ませ、単語のひとつひとつ聞き取って、ようやく意味を把握した。
そして同時に納得もいった。確かに時期が時期だしあと1ヶ月もすれば夏本番。いろいろと必要になるものもあるだろう。
それに有咲の性格を考えると、確かに悩むのも分からなくはない。
「それこそ戸山さんたちと一緒に行けばいいんじゃないんですかね」
「それが出来たら青葉なんかに協力仰いでねーよ」
「帰んぞ」
「待って、悪かった。私が悪かったから」
「……で?」
「だってさ、今流行りの水着とか自分に似合う水着とか分からねーし」
「……つまり友達の前で変なチョイスをして微妙な空気になるのを避けたと」
「そ、そう! いやぁ察しがよくて助かるぜっ」
そりゃあまあ。似たようなことというか、全く同じ事態に遭遇されて泣きつかれたことがつい最近ありますし。
聞いておいてなんだが、正直まあそんなことだろうなとは思った。
ここに来て半刻の時が経ってようやく有咲が悩みを打ち明けてくれた。遅い。しかしどうにも予想通り過ぎておもしろくない。
……とりあえずこいつも見栄を張ってしまったということだ。どこかの誰かさんと同じように。
「青葉ってほら、詳しそうじゃんそういうの。伊達にうちの女子ナンパしてないだろ?」
「酷い言われようだけど、否定はしません」
事実だからね。
「まあ手伝うのはやぶさかじゃないんですけど」
「ほ、ほんとか?」
「ただひとつ条件があります」
「条件?」
「ひとり同伴させたいんですよ。その水着選び」
「え……それは、その……」
「心配しなくても男友達じゃないですからね」
「あ、そうなの?」
「そうそう」
「でも私人見知りだし……」
「大丈夫でしょ。そいつもかなり人付き合い苦手だから。似たもの同士だしね」
「そ、それなら……まぁいいけど」
「決まりですね。それでは早速お店に行きましょうか。合流させます」
有咲が承諾したのを確認するとベンチから立ち上がり、口の悪い幼なじみにチャットを飛ばす。
善は急げ。男は早いよりも遅い方が良いとされるが、それ以外は早い方がいいと、古来から決まっている。
それに有咲はああ言っていたが水着の善し悪しなんて俺も詳しくは知らない。有咲の知識とも大した差はない。
なので有咲たちがああ言おうとも、よく分からないなりに女子同士でなんとかしてもらおう。
「じゃあ行ましょうか」
「お、おう……」
「ということでね、水着売り場に来たわけですけども」
「ちょっと待て」
「……どういうこと?」
公園から直行で歩いて15分。俺たちは自身が通う学校近くにある、昨日蘭が引きずってまで連れて来させようとしていた大きなショッピングモールを訪れていた。
広大な土地に立てられた全4階層からなる立体駐車場と巨大ショッピング施設。うちの学校の近くの1番の遊び場だ。
そこの3階にある水着売り場に着くと、俺は店を後ろに背負い、ふたりの少女の前に立つ。
「はい? なんですかふたりして」
「な、なんですかって……」
「なんで有咲がいるの……」
各々好きな水着を買うように、では解散──となる流れだったのに、何故かふたりから苦言を呈された。
いったい何なんだろうか。あと蘭のその言葉は誤解を招くと思う。言葉に気をつけるように。
見てみると有咲は此方をじっと凝視しているふりをして、ちらちらと隣のむすっとした表情の少女を見ている。
「……クロ、これどういうこと?」
そしてもうひとりのその少女、美竹蘭は腕を組みながらジト目でそんなことを言ってくる。いやどういうこともこういうこともないが?
「あれ、昨日言いませんでしたっけ。明日の朝買いに行くよって」
「言ったけど! でも他に人がいるなんて聞いてないんだけど!?」
それはその、効率化というか。
別に良いではないか。目的は一緒なのだから。
「そもそも蘭があいつらと一緒に水着買おうって誘いを断らなきゃこんなことになってないんだよ」
「だ、だって……絶対恥ずかしい水着勧められそうだし……」
「可愛いやつ選んでもらえばいいじゃないか」
ひまりはそういうセンスはあるぞ。多分。……いや、もしかするとだからなのかもしれないけども。
蘭もそれは理解しているんだろうが。それ故か見慣れた表情で聞き慣れた憎まれ口を叩きながら、おもしろくなさそうに頬を膨らませる。
先日の唐突な襲撃の際、蘭が頑なに目的を言わず俺を連行しようとした目的はまさにこれであった。
彼女も有咲と同じく、夏に友人と共にプールや海へと遊びに行くとのこと。ならばこれも有咲と同じく水着が必要になる筈なのに、蘭は幼なじみ達からの水着購入の誘いを断ったらしい。
曰く『あたしはもう買っちゃったから。ごめん』とのこと。
代わりとして泣きつかれた側から言わせれば、何をしょうもない嘘ついてんだと思わずにいられない。が、しかし生憎こいつの気持ちも分からなくはない。
ひまりやモカならば蘭を着せ替え人形にしてしまう想像に難くない。いやもしかすると過去にそういったご経験があるのかもしれない。
そして有咲と同じく、センスのいいふたりにかっこ悪い所を見せたくはないんだろう。
蘭は見ての通り堅物な性格なうえに恥ずかしがり屋で見栄っ張りの一面もあるので、それらをいろいろと察してしまい、昨日の今に至る。
「ちなみに有咲がいるのはおまえと似たような理由で、なんやかんや友人と水着を選ぶのはハードルが高いんだと」
「ああ……なるほどね」
「べ、別にハードルが高ぇって訳じゃ……」
「もうなんでもいいよ。じゃあ有咲と蘭で水着買ってきなよ」
「……え? あ、青葉?」
「ふたりなら大丈夫でしょ?」
「……は? ちょっ……」
俺は外で待ってるわ。じゃあな。その辺ぶらぶらしてるから、終わったら連絡ちょうだいね。
そう言い残して踵を返す。
このふたりならば極度に派手なモノや躊躇う様なきわどいモノを選ぶようなこともあるまい。流行に至っても蘭なら多少は詳しい筈だ。
これでふたりの懸念を同時に解決することが出来た。よって俺は今日は自由に過ごすことが出来る。
てことなんで、後は女の子同士で楽しくショッピングして欲しい……そんな願いと共に店を後にする。
「ちょ、ちょま、ちょっと待てって」
「さ、流石にそれは無責任だと思う」
しかし翻した瞬間、腕を背後から掴まれる。しかも両方。……この時点で誰に? という問は消滅する。
というか昨日もこんなことあった気がする。もしかするとプロレス技同じくこれも流行っているのだろうか。だとしたら女子高生とは何とも不思議な生き物である。
右手は殆ど力の入ってないことから有咲。それに比べえ左手はめちゃくちゃがっしり掴まれている。蘭だろう。
いつもは素っ気ない癖に……。
有咲辺りはもしかして来るかもしれないとは思っていたけれど。
しかしまさか両方とは。いつもはつっけんどんしてる癖にこんな時にだけあてにしないで欲しい。
確かに昨日蘭は俺に対して頼んできたのであって、それをたまたま状況が一致した有咲に投げるのは無責任と言われればそうかもしれないが。
「…………」
「な、なによ」
けどこいつ絶対そんなこと思ってない。単にほぼ初対面の相手に何話したらいいのかわかんないだけだ。
お互いがお互い人見知りでコミュ障気味なのが災いし、まためんどくさいことになりそうな気がする。
「まさか水着選ぶのを見てろと?」
「元々そういう約束でしょ」
「いや違うと思う」
「いいからっ。……選ぶの手伝ってよ」
「えぇ……有咲は?」
「わ、私はさっきも言ったけど今流行りのやつとかわかんねーんだって」
「別に流行りのじゃなくてもいいんじゃないの? それに蘭もいるし」
「あたしだってそんなに詳しくないし」
「知識なら俺も変わんないと思うけど」
「なら男目線の意見ってことで! な!?」
「……有咲は男に見せる為に水着買うんだっけ?」
確か友人と遊びに行くためでは?
全くこの歳になって子守りが必要なのかこいつらは。
「確かにふたりに任せてるとお互い地味な黒いやつ選んできそうな気もするし」
「うっ……否定できねぇ」
「そうなるとなに蘭に地味な水着着せてんのってモカにも怒られるかもしれんし」
「……クロってモカに怒られる云々で行動するの多いよね」
「ちょっと誤解招く言い方じゃないそれ。まるで妹にビビってるみたいじゃんか」
「そうでしょ」
「違う」
「え、そうなのか?」
「……違うし」
悲しいかな。強く反論出来なかった。
「俺のことはいいんです。……もう別にいいけど、あくまでふたりが中心になって決めるんだよ。いいね?」
「わ、分かってるって。任せろっ」
「それより途中で逃げないでよね」
そしてどうやらそれは何事も同じなようで。
今もあまりにもずいずい押してくるふたりの圧力に首を縦に振らざるを得ない状況となっていた。
白旗代わりに両手を軽く上げて降参の意味を示すと、ふたりはほっとしたように安堵の息を吐いた。
こうなったら仕方ないので最後まで面倒を見るしかない。店に入るだけでも緊張しているようなやつらだが……本当にこの先大丈夫なんだろうか。
「不安だ……」
額を手で覆いながらふたりの後に続く。
今後に対する一抹の不安と、変質者扱いだけはされませんようにというささやかな願いが胸中に渦巻く。
外はあんなにも晴れて、店内もこんなに明るいというのに……。
それでも少々暗澹な未来を懸念せずにはいられない。
俺はなにやら嫌な予感や灰色な不安を胸に抱き、恐る恐る、色とりどりに彩られた店内へと踏み込んだ。
市ヶ谷有咲
花咲川女子学園1年生。
インドア系女子の代表みたいなやつ。勉強は得意だが運動はもっぱら苦手。やっべー、出たくねー、とボヤいていた中学のドッジボール大会で終始コートの隅にいた結果、何故か最後の一人まで残ってしまい地獄を見た経歴を持つ。
青葉 九郎
体育会系の生徒の口が悪いで有名な都内普通科高校2年生。
家にいると妹に襲われるという理由でどちらかと言うとアウトドア系。
種目がドッジボールになった球技大会の際、体育会系と揉め、『文句があるならまとめてかかってこい、ウジ虫ども』と喧嘩を売った結果フルボッコにされるとみせかけて全て避けきった経歴を持つ。
次回に続きます。前回のオリモブも出てくるかもです。
コメディチックに書くのが好きなんですけどよね
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これくらいでいい
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いやもっとイチャコラさせろ