アクマで妹!   作:あぐろむいしき

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いやぁ1ヶ月以上お待たせしてしまい申し訳ないです。8月は休暇もネタもあって書けたんですけど、最近は忙しくてどうにも時間が取れませんでした。
さて今回も前回、前々回からの続き物ですが、やはり長いです。12000文字くらいあります。地の文が多いからですかね……。どうでしょう過多でしょうか……? くどいようなら書き方を考えてみよう思います。

もう内容忘れちゃったよって人は是非①から見てみて下さいね。



夏という季節は、色々と入り用なのですね③

 

 

 さて非常にめんどうなことになった。本当、これからどうしたものか。

 

 なにが、というのは勿論自分の目前でぎこちなく水着選びに励むふたりの女子のことで、しかも半刻程の時間が経った今なおこれといった目星をつけられていない。あたふたあたふた右往左往と練り歩いている割に事態はまったくと言っていいほど進展してはいなかった。

 別にこうなることを想定していなかったわけではなかったけれど……しかし考える限り最も避けたかった事態である。いったい何を見せられているんだろうか。

 目の前の光景を見て顔を手で覆い、ため息だということがバレるのも厭わずに大きく息を吐く。

 正直な話一応女子がふたりいるのだから、それぞれの意見を交換しあって、俺の出番はないんだろうなって思ってた。思いたかった。

 

 

「クロ……これなんてどうかな」

「なー青葉、これなんてどうよ」

 

 

 しかしそんなふうなことになってくれるわけでもなく。

 こいつら、全部此方へ丸投げしてきやがるのだ。

 

 

「……それは有咲には小さいと思うし、それは蘭には大きいと思う」

「だ、誰もサイズの話なんてしてないっ! デザインの話!」

「ああデザイン? うん、やめといた方がいいと思うよ」

「さっきからそればっかじゃねーか……」

 

 

 女性物の水着売場ということもあって周囲の奇異な視線に晒されながら、どんよりとした心地で答えると、有咲も似たような表情で何度目か分からない苦言を呈してきた。

 彼女のそう言ってしまう気持ちは分からなくもないがしかししょうがないではないか。それで11着目だぞ。さっきから似たような地味なもんばっか持ってきやがって。

 

 

「…………」

「ん? なにか?」

「クロさぁ、なんで水着見ただけあたしらにとって大きいか小さいかなんて分かるの?」

「才能かな」

「へ、変態……っ」

「特殊能力なのかもしれない」

「へ、へんたいだ……」

 

 

 しかもアドバイスしてやっているというのにこの扱いである。おかしい。

 

 

「あ、これつぐみが選んでたのとまったく同じやつだ」

「蘭、それは流石に小さいからやめた方がいいぞ」

 

 

 しかし此方も“してやってるという”上から目線な態度はいただけないかもしれない。

 彼女たちは不慣れであることは見てわかる通りの事なので、時間だけが経ってしまっている事実に苛立つのも少々大人げないのではなかろうか。

 

 

「水着に限らず、人にはそれぞれ相応なサイズというものがあるのデスよ」

「……つぐみがいなくて良かったね」

「蘭ちゃん、青葉っていつもこんな感じなのか?」

「そ。彼女欲しいとか言ってるくせに、女子が気にしてることをなにひとつ分かってない」

「うわっ、致命的じゃねぇか……」

 

 

 事情はどうあれ頼られて頼まれてることなので、ここは協力的に的確な意見を述べなくてはならないだろう。

 おや、気づくと蘭と有咲がひそひそと密談のようなものをしている。もしかするとやっと自分たちで意見交換をしようと試みているのだろうか。だとするならばいい傾向だ。感心感心。

 しかしあのふたりの濁り曇りきった目はなんなんだろうか。いったいどんな意見交換をしているのか、非常に気になるところである。

 

 

「……ていうか、さっきからだめだめって。だったらクロが選んできてよ」

「そーだそーだ。文句ばっか言いやがって」

 

 

 しばらく彼女たちの密談を眺めていたら、突然そんなことを言い出し、団結して抗議してきた。

 なんだよ。先の密談はこの為だったのか。だとしたら全く成長していらっしゃらないじゃねぇか。安西先生もがっかりだ。

 

 

「……なるほど、言いたいことはわかりました。まかせて下さい」

 

 

 正直いちゃもんもいいとこだが……俺は態度を一変させて二つ返事で了承する。

 それが心底以外だったのか、ふたりは目を丸くした。

 

 

「……え? まじ? ほんとに?」

「なんで急にヤル気出してんの」

「おまえらに任せてたら日が暮れるどころか令和が終わっちゃうんだよ」

 

 

 再びため息混じりにそう言って、ふたりが持っている水着を一瞥する。

 

 

「だいたい何なんですか? その水着。有咲もしかして目ぇ瞑って選んでる?」

「私に失礼だなおまえ。……そんなにないか?」

「ない。絶対ない。仮に外でそれ着て泳ごうもんならなぜか山が汚れる、そんなレベルのクソ水着だぞ」

「それは私にもメーカーさんにも失礼だよな?」

 

 

 あとなんで山なんだよ……という有咲のツッコミをスルーして。彼女が持つ水着を一瞥する。

 まあ山が汚れるなんてのはなんの根拠もない過剰な表現ではあるが。要はその水着はありえないということを言いたかっただけで。

 別にデザインはそこまで悪くはないと思う。しかしこいつは自分のスタイルをよくわかっていないのか何故かワンピースタイプのものを選んできた。

 ワンピースタイプは胸の大きい人間が着ると胸が潰れたり余計に強調されたりするので、あまりおすすめ出来ない。しかもウエスト部分も細く見えなくなるので身体のメリハリが効かなくなって、寸胴なイメージを持たせてしまう。

 内向的な有咲は肌を隠したいという目論見もあるのかもしれないけれど、しかし有咲はご自身のスタイルをご存知でないのだろうか。もしかして自分の身体を見たことがない?

 

 

「え? 有咲もしかして目ぇ瞑って風呂入ってる?」

「なんだよ。なんなんだよさっきから。私はおまえにどう思われてるんだよ。めっちゃ私生活で目ぇ閉じてるやつみたいじゃん」

「蘭は……シンプルになんでそんな地味なやつばっか選んでくんの」

「だって……」

 

 

 そして、蘭は有咲程ではないが出ているところは出ていているしそれに引っ込むところもちゃんと引っ込んでいるのでどんなタイプの水着でも着こなせそうであるんだけど……。

 しかしどういう訳か持ってくる水着はことごとく女子高生が選ぶようなものとは掛け離れている。はっきり言って、センスがない。世辞も尽きるというものだ。

 

 

「というか私服とかのセンスは悪くないくせになんで水着になるとそうなるのか理解出来ん」

「あんまり露出激しいのは恥ずかしいし……」

「いや、水着ってそんなもんじゃないの?」

 

 

 いやその歳でそれ着てる方が恥ずかしいと思うが? 

 だいたいお前らがライブで使ってる衣装なんてふとももと肩が丸出しのヤツまであるではないか。羞恥心どうなってんだよ。

 

 

「とにかくこのままじゃ埒が明かないわけ。ちょっといくつか見繕ってくるからそこら辺で待っててよ」

「けどおまえそれ大丈夫なのか?」

「任せて任せて。デザインもサイズもぴったりのやつを選んでくるから」

「相変わらずなんでサイズまで当てられるのか死ぬほど問い詰めたいけど……」

 

 

 蘭と有咲は腕を組むようにして自身の胸を隠す。やめて欲しいその反応。

 

 

「まあセンスはふたりよりはマシだと思うよ」

「いやそうじゃなくてさ、男ひとりで女モノの水着あさるのはキツイんじゃないのかって話」

「ああそゆこと? ……まあ、それについても心配しないでいいから」

「「……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで椎咲、おまえの出番なわけよっ」

「せっかく昼まで寝てたかったのに……青葉ちゃーん……」

 

 

 蘭たちにはああ言ったものの、やはりひとりだとハードルが高すぎるので予め呼び出しておいたクラスメイトの椎咲 愛樹と落ち合い、合流した。

 

 

「んもぅ……眠い……」

 

 

 彼女は開口一番、眠たそうな目を擦りながら独自の間延びした口調で文句を垂れてきた。ダウナー系ギャルの恨めしそうなジト目が突き刺さる。

 

 

「もしかして寝てましたか。だとしたら申し訳ないです」

「ほんと。急いで来てあげたんだから、感謝してよね」

 

 

 家が近くて良かったわ。日頃入念に手入れがされているであろう白みがかった銀髪を弄りながら椎咲は呟いた。

 2度寝でもしていたのだろうか。連絡ををしたのが1時間ほど前なので、そうだとしたら叩き起こしてしまったことになる。ただそれでも普段の彼女らしい気合いの入った格好をしているが。

 比較的メイクは薄めだがハイウエストのノースリーブワンピースにサッシュベルトのような大きめのレザーベルトを合わせている。その上から薄いアウターを羽織り、夏が近づく今の季節にもぴったりな清涼感と上品さを纏っている。

 

 

「で、結局なんの用……なに?」

「いや? 別に」

 

 

 纏ってる……と、思うんだけど。普通は。しかしなんだろう。こいつに限っては素直にそうだと首を縦に振ることは出来ない。

 白のワンピースは清楚な雰囲気を持たせる筈なのだが、こいつが着るとどうにもそうは思えない。おそらくハイウエストゆえに胸のやや下の腹辺りで締めているからだろうけれど。それにさらにベルトも加味し、それらせいで(おかげで?)ただでさえ巨大な彼女の豊かな双丘がより強調されている形となっている。

 そんなスケベな身体でそんな格好をして、抵抗とかないのかと以前さりげなく聞いた事があるが、曰く『ファッションだから。むしろ見せるために着てるんだから問題はない。けど、触ったら殺す』とのこと。

 

 

「実はかくかくしかじかでして」

「なるほど。まるまるうまうまってワケねぇ」

 

 

 まあこいつの矜恃だのや抜群のスタイルだのは一旦置いておくとして。呼んだわけを軽く説明すると、椎咲は納得半分呆れ半分に頷いた。

 

 

「事情は分かったけどぉ……なんでアタシなの? 青葉ちゃんなら他にもいるでしょ、女の子」

 

 

 その表情にはどうしてアタシが? の意が浮かんでいた。

 

 

「え? なんか含みあるくない? その言い方」

「気のせい気のせい。で?」

 

 

 いや結構誘ったんですよ? 何人か。そうボヤきながら前日までのやりとりを思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

『実はかくかくしかじかでさ、水着選びを

 手伝ってくれませんか?』

『あーごめん青葉くん、明日は予定が……』

 

『明日、どうですか?』

『部活があってねー。すまんね』

 

『暇とかないですかね』

『暇だけどやだ』

 

『暇でしょ先生』

『青葉くん? あなた先生をなんだと思ってるの?』

 

『あ、あの九郎くん? 明日はお忙しいですか? よ、よかったら明日一緒に新発売のポテ』

『ああすみません紗夜さん、明日は忙しいんですよ』

 

 

 

 

 

 

 

「──ってことで、みんな予定が合わなかったんですよね」

「いや明らかに何人かおかしい人いたよね」

「知らないですね」

「バリバリ暇な人いたよね。先生いたよね。むしろ誘ってた人もいたよね」

 

 

 知らないですね。

 

 

「やっぱり土曜日の午前中はみんな部活で忙しいんですかね」

「ひとり明らかに嫌われてたのと、ひとり明らかに誘っちゃいけない立場の人と、ひとり明らかに暇な人いたよね」

 

 

 知らないですね。

 

 

「青葉ちゃんなんも知らないじゃん。無知すぎ」

「そういう椎咲はムチムチですね。まさに水着選びにはベストチョイス」

「……帰るよ?」

「まあまあ。椎咲はセンスが良さげじゃないですか」

「褒められてるのは嬉しいけど、なんか妥協されてる感じがムカつく」

「サイズに関してはひとりは昨日会った女の子でもうひとりはおまえと同じくらいですよ」

「もう一緒に選ぶ前提で話を進めるな」

 

 

 まあもう来ちゃったから付き合うけどぉ。って、ブツブツ言いながらも付き合ってくれる椎咲ちゃん好き。

 

 

「ところで、件のふたりはどこにいるの?」

「ふたりなら今ごろお昼ご飯食べてますよ」

「は? なんで?」

「まああのふたりに選ばせているといつまで経っても終わらないので。こっちでバッチリ選んで来るから30分くらい外ぶらぶらしててって言ってあります」

「……そういうことしてるからいつまでたっても彼女は出来ないし、余計な女の子の怒りを買うんじゃないの?」

「え……? そ、そうなんですかね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 有咲は?」

 

 

 予定通り30分ほどでふたりが帰ってきたので、俺は椎咲と共に選んだ水着をふたりに渡して一旦お手洗いへ行く為に1度売り場を離れた。

 その際に彼女らの反応を確認して一応椎咲に報告。すると彼女も満足そうに頷いて、今度ご飯を奢れという言葉を残し去っていった。

 まあ休日にいきなり呼び出してしまったのでそれくらいならやぶさかではない。今度ミネラルウォーターでもご馳走してやろうと思う。きっと泣いて喜ぶだろう。

 して、そんなこんなで水着チョイスタイムは終わり、あとは試着だけなので自分の出番はないだろうとのんびり用を足して帰ってきたわけだが……どういう訳か有咲がいない。

 

 

「有咲ならここ譲ってくれて別の試着室に行った。ここの試着室あたしが最後だったから」

「あー、なるほどねぇ」

 

 

 ふと疑問を漏らすとカーテンを捲りながら試着室に入る直前の蘭が答える。

 それを聞き周りを見ると確かに他の5つある試着室は全て埋まっているようだった。

 

 

「だったら仕方ないか。というか、結構仲良くなったんだね」

「うん。盆栽の話とかしたりした」

「盆栽……?」

 

 

 蘭の口から出てきた単語に思わず顔を顰める。

 有咲は……なんというか相変わらず現代の女子高生とは思えない。平成どころか昭和にすら取り残されているんじゃないだろうかとか、そもそも盆栽趣味は年齢の問題だから時代関係なかったわとか、色々な考えが脳内でぐるぐると渦を巻く。

 

 

「そ、そう。まあ今はいいや。とにかく早く着替えなよ」

「…………」

「ん? なに、どうかしたの」

「い、いや。その……」

 

 

 有咲の盆栽の話、割と気になるけど……しかし今はそんな場合ではない。

 今更だが同伴とはいえあまり女性物の水着売り場に長居もしたくはない。できるだけ早くここをあとにしたいのだ。

 そこで蘭に着替えを促したが、しかし彼女は未だ試着室に入ることなくぐずぐずと躊躇っていた。

 

 

「え、もしかして着方が分からんとか言わないよね」

「ち、違うっ」

「それともこの期に及んでまだ恥ずかしいとかいうんじゃ」

「だから違う! いや、だから、その……」

「?」

 

 

 今更……と思いつつ半眼で問いつめる。

 日頃の彼女の言動から察したが、しかしどうやら外れてしまったらしい。心外だと言わんばかりにガバッと食ってかかる勢いで詰め寄られる。

 しかしそれもつかの間、はっと俺の顔を見てすぐさま俯き、再びしどろもどろな様子に戻ってしまう。

 

 なんだろう。自分、また何かしただろうか。

 

 もうこうなってしまってはあとは此方に要因があるのではとも思ってしまう。まさか気づかぬうちに何かしら不貞行為でもしてしまったのだろうか。あいにくと心当たりは今のところないけれど、しかし失念しているだけなら必死に過去の記憶を遡る。

 

 

「……今日は手間かけさせて、ごめん。……ありがとう」

「……へ?」

 

 

 心当たりを順々に懸命に追っていると……彼女がボソリと呟いた。

 俯いたそのそれはかなり小さな声音だったが、距離が近いおかげで聞き逃すことも無くはっきりと耳朶に届いた。

 

 

「へぇ?」

 

 

 その珍しい蘭の態度と言葉に思わず目を丸くした。ぱちぱちと瞬きを繰り返す。そして数秒かけてようやく彼女の言葉の意味を理解し、思わず莞爾と微笑んだ。

 

 

「ほんとな。まったく、ひとりじゃ水着も選べないおまえさまの為に俺たちが」

「? たち?」

「……俺が、選んできてやったぞ。感謝してくれ」

 

 

 そんな彼女が珍しくて……つい調子に乗って口が軽くなってしまう。

 こほんと、ひとつ咳払いをして、すぐに訂正する。

 すると蘭は、有咲はあたしとご飯食べてたんだから一緒じゃなかったでしょ……と可笑しそうに笑いながら持っている水着に視線を移した。

 

 ……危ない。思わずぽろっと椎咲の存在を漏らしてしまうところだった。

 

 正直結構ドキリとした。微かに身体の内側が熱くなる。バレなくて良かった。

 別に後ろめたい事実というわけではない筈だけど。しかしこれが露見すると何故か蘭の怒りを激しく買ってしまうのではないかという、ある種の危機回避能力が発動してしまった。

 別にそれも何か根拠があるというわけでもないけれど。強いて言うなら過去に似たような状況でロクなことになった覚えがないといったところだろうか。

 

 

「……これ、クロが選んだの?」

「ん? あー。ん、まあね」

 

 

 そんなに見ると穴が空きますよと言うほどにまじまじと見つめる。しかし、実はその水着は厳密に言うと俺が選んだものではない。

 

 正直俺がメインで選んだのは有咲のものの方なのだが。

 

 いくら椎咲でも昨日は蘭としか会ってないので、流石に有咲の水着は選べなかった。

 なので蘭のものは椎咲に任せ、俺は有咲の方を選んだんだけど……まぁ、言うて誤差だろう。

 

 

「ふーん。そっか」

「不満?」

「ううん。ちょっと恥ずかしいけど……まぁ、いいと思う」

 

 

 黒の編み上げの入ったビキニスタイルの水着。流石は椎咲が選んだもの。なかなかにセクシーな一品である。こいつには少し敷居が高かっただろうか。

 蘭はあんまり派手なのは嫌みたいとしか伝えなかった俺の落ち度であるけど。しかし当の彼女は頬をほんのり赤く染めながらもまんざらでもなさそうに水着を見つめている。

 

 

「クロは……あたしにこれ着て欲しかったの?」

 

 

 そしてほんの少し、此方にちらりと目配せして、問うてくる。

 

 

「え? 着て欲しかったのって。いや、だってそっちが選べって言ったんだよね?」

「そ、それはそうだけどさ。どうなの?」

「まあ、似合うとは思うよ」

「なにそれ。ありきたりすぎ」

「おまえ俺になにを期待してんだよ」

「クロって自分のことあんまり喋らないよね」

 

 

 だからもしかしたらこんなのが好きなのかなーって……と、また蘭が珍しい表情を見せている。今度はにやにやしている。

 

 

「き、着終わったら、見せてあげようか?」

「恥ずかしくてテメェの水着すら選べないようなやつのセリフじゃないな」

 

 

 あと、あからさまに無理しているのがばればれだ。

 

 

「……でた。クロの悪いクセ」

「クセ?」

「いつも自分の都合の悪いことになると人の欠点を突いて話を逸らすよね」

「昨日も思ったけど、よく見てるね」

「あとあたし相手だとちょっと口悪いよね」

「それはお互い様だろ」

「ほんとは見たいんじゃないの? こんなの選んできたくらいだし」

 

 

 いや別に。しっしっと。そっぽを向いてさっさと試着しろよと言い張る。だってほんとは俺が選んだんじゃないし。

 正直新鮮なので興味がない訳では無いが、このまま蘭の水着姿を見たいと言ってしまうのは何か負けた気分になってしまう。

 

 

「……ふん。あっそ。じゃあいい、見せてあげない」

 

 

 素っ気なく言うと蘭も意固地になったのか、ムッとした顔でぴしゃっとカーテンを閉めて試着室へと入っていった。ぷりぷりと怒って、いつもの彼女に戻った感じだ。

 それにしてもあのまま押し切ったら本当に見せてくれたのではなかろうか。以外にも押しに弱いのか。だったら俺も椎咲に任せないで自分主導で選んだら良かったかもしれない。

 

 

「しかし冷静になって考えるとあれが俺の性癖だって思われるのなんかやだな……」

「九郎くん?」

 

 

 もちろんああいうのも嫌いではないが。しかしやっぱり蘭がまさかあんなことを言うとは思わなかった。

 ならば自分の好みのものを持ってくればよかったなと若干後悔していると、後ろから凛とした自分の名前を呼ぶ声が耳に届いた。

 

 

「……げ。紗夜さん。どうしてここに……」

「それは此方のセリフです。ここは女性ものの水着売り場ですよ。あと、げってなんですか」

 

 

 声の元を辿り振り向くと、そこには浅葱色の風紀委員、氷川紗夜がスマートフォンを手に持ちながら訝しげな表情で立っていた。

 お堅い彼女も夏を意識してか涼しげな服装を纏っている。髪の色も含めて爽やかなその出で立ちは見ているだけで、そこに存在しているだけで清らかな涼風がやって来るようで──

 

 

「しかも性癖がどうだのって……まさか……」

 

 

 やって、来ましたか? いや来ませんね。

 相変わらず家畜を見る目ですよこの人(1話参照)。だから俺はあさイチで精肉場には並ばねぇっつってんだろ。なんですかその目は。なんですかその手のスマホは。やめてくださいよ。

 

 

「いや違いますよ。単純に友人と一緒に来ただけです。ていうか紗夜さんはなんで。新味のポテトを食べに行ったはずでは?」

「なななな何のことか分かりかねますね」

 

 

 な、多いなオイ。動揺しすぎだろ。

 蔑むような目から一転。あたふたと目を泳がせまくっていた。ああ全然爽やかじゃなかったわ。そういえばここの氷川紗夜さんはポンコツなんだった。

 しかし動揺しているのは彼女だけでなく自分もまたそうであった。これはちょっとまずいかもしれない。

 紗夜があたふたした際にちらりとスマホ画面が見えてしまった。無料通話サービスを含むアプリのチャット画面で、問題なのはその相手の名前。

 

 羽沢つぐみ。

 

 ただ連絡しているだけならまだいい。しかし紗夜は新発売のポテトを食べるためだけに人を誘ってくるようなやつだ。恥ずかしいのかポテト好きなのがバレるのが嫌なのかは知らないが、多分ひとりで行くのには抵抗があるんだろう。まあ後者ならばもう殆どバレてるから意味は無いが。

 新発売のポテトが売られているのがこのショッピングモール内だということも初耳だが、もっと懸念しているのが紗夜の誘いを秒で断った自分の代打としてつぐみをここに呼んでいることだ。彼女に後ろの蘭の存在をバレるわけにはいかない。

 こいつはつぐみを含む幼なじみたちから水着を買うのを形では『もう買ってあるから』とか言う理由で断りやがったので、ここにいるのがバレるのは非常にまずいのだ。

 

 

「紗夜さんは、おひとりですか?」

「いえ今日はつぐみさんとファーストフ……食事に来たのですが」

「はぁ」

「しかしあなたの姿を見かけたので。しかもここで。何をやってるのかと思いまして」

「だから友達と来たって言ってるじゃないですか。しかしなるほど、やっぱりつぐみも近くにいるんですね」

「やっぱり? 知ってたんですか?」

「いえ気にしないでください」

「今ここに呼ぼうとしたんですけど」

「やめときましょう」

「え、でも」

「やめときましょう」

「そ、そうですか」

 

 

 笑顔のまま圧をかけ、スマホをしまわせることに成功する。あぶねぇ。

 別段つぐみをハブりたいわけで決してないが、今はここに来られるとまずいのだ。すまんね。

 そして出来れば紗夜にも知られるのも避けたい。遅かれ早かれ後々につぐみに露見するだろうし。

 

 

「それにしても……あなたのお友達も見当たらないようですが?」

「えっと……」

 

 

 しかしほっとしたのもつかの間、先の続きか今度は紗夜がじろりと圧を詰めてきた。やばいどうしよう。椎咲帰っちゃったしなぁ……。

 

 

「時間を勘違いしていたらしく、早く来てしまいまして」

「……なるほど?」

 

 

 まずい。これ以上ないくらいに疑われている。相変わらず胡散臭いですねと目が語りかけてくる。

 

 

「……ところで紗夜さんは今年の水着は用意しているんですか?」

「……はい?」

 

 

 しかしこうなってしまってはもはや紗夜をこの場所から離す以外には解決しない。セクハラギリギリの手段を用いてでも退いてもらなくては。

 

 

「いえまだですが……なんです? 急に」

「夏になるといろいろと入り用ですよ。今から用意しておかなくては」

「べ、別に必要ありません」

「そんなこと言って、欲しいものが売り切れてたからでは遅いですよ。せっかくですし色々と見てきたらどうですか?」

「ほ、ほんとになんなんですか。怪しいですね……」

 

 

 必死に誘導するが、さすがに警戒心が強い。

 芳しくない展開に額に冷や汗が伝う。

 

 

「ま、まさか──」

 

 

 そしてしばらくすると弾かれたようにはっと顔を上げた。ちらっと一瞬俺の後ろへと視線を移す。

 

 え……まさかバレた? うそでしょ……?

 

 たったそれだけで? と戦慄する。まさか水着購入を促しただけで背後の蘭の存在まで勘づかれるとは。

 

 

「…………っ」

 

 

 瞳孔が開き冷や汗が加速する。紗夜は確信めいた表情で何か言いたげに口をぱくぱくと動かした。

 それを見て、此方も悪い予感が当たってしまったと確信してしまう。終わった……と。

 

 蘭、ごめんな。おまえのメンツ、守れなかっかったよ……。

 

 そして紗夜の口が動くのと同時、もうダメだと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の水着姿が……み、見たいんですか!?」

 

 

 っぶねぇ!!! おっけぃ!!! セーフ!!!

 

 

「そ! そそそそそそそうですね、紗夜さんはスタイルもいいですし、男ならみんな見たいんじゃないんですかね!?」

 

 

 この男、そ、多くね? 先程紗夜に『な、多いなオイ』とか言っていたヤツのセリフとは思えない。

 しかし絶体絶命かと思われたこの状況、まさかまさかの紗夜の勘違いで九死に一生をゲットだぜ。

 

 よかった、やっぱりうちの紗夜はポンコツだぁ! ありがとうギャップ萌え!

 

 まさか安易に考えた『案外抜けている』という初期の構想がこんな形で主人公を救うとは。これには冷静沈着に定評ある青葉九郎も思わずガッツポーズ。

 いやまあ完全にセーフというわけでもないが。蘭の事はバレなかったけどなんかもっとめんどくせぇことなってんじゃねぇか?

 

 

「そ、そうですか。……私のみ、水着姿……見たい……ですか……」

 

 

 紗夜がぼっと、みるみるうちに真っ赤になった。やべぇ罪悪感が。

 

 

「いたっ!」

「ど、どうしたんですか!?」

「い、いえ……」

 

 

 苦笑いをしながら口元ヒクつかせていると、ふと後頭部に衝撃が走った。唐突な背後からの一撃に思わず声が大きな声が出る。

 ただ後ろには試着室しかないのだけど。すぐさま後ろを向くとカーテンの隙間からスっと手が引っ込むのが見えた。蘭だ。

 

 おまえ……! 俺がいったい誰の為にこんなことやってると思ってんのよ……!

 

 元凶からの一撃だった。そもそもこんなに余計な気を揉まなければいけない発端はおまえなんだが?

 

 

「そ、それにしても意外です。男の子がそういう事に興味があるのは分かりますけど……まさかあなたもとは」

「まあ、俺も男ですからね」

「で、でも私なんて……」

「いえいえ、そう自分を卑下することなんてありませんよ。少なくとも俺は興味あります。強いて言うのなら素直じゃない幼なじみの水着なんかよりはよっぽど見たいですねぇ!」

「や、やけにピンポイントですね?」

 

 

 俺が何かを言う度に紗夜がどんどん赤くなる。これまた新鮮で可愛らしい。

 そして言う度にガスガスっと背後からケツを蹴られているが、気にしないでいいだろう。ざまぁみろ。

 

 

「こほん……そこまで言うのでしたら、少し見繕って行きましょうか……」

「いいと思いますよ。……なんなら俺が選んで上げましょうか?」

「そ、それは恥ずかしいです!」

 

 

 だよね。普通は恥ずかしいよね。異性に水着選んでもらうの。

 これが正しいあり方だと思うと、あいつらの羞恥心バグってんのか? 露出多い水着は恥ずかしがる癖に。よく分からん。

 

 

「ふふ、初心(うぶ)なのは微笑ましいですね」

「なんなんですか。バカにして」

「いやバカになんて。ただやっぱり可愛らしいと思っただけで」

「それがバカにしてるんです」

「そうですか? おかしいですねぇ前に喫茶店で話した時は紗夜さんが俺に馬鹿と言っていた気がしますが」

「……意地が悪いです」

 

 

 よし、上手く紗夜を不信感から逸らすことが出来たぞ。あとは紗夜を向こうの売り場へと誘導すればいい。

 

 

「じゃあ紗夜さんあっちの方に──……」

 

 

 誘導すれば、いい……そう、その通り。あとは簡単だ。なんなら水着選ぶ方が余程難しい。

 しかし俺はすぐにそれを実行することが出来なかった。ふと顔を上げた先、俺の視界はふたりの女子の姿を捉えた。

 特徴的な髪の色。ふたりとも、白みがかった銀髪だった。

 ひとりは……清楚な服装で隠しきれないギャル感を放っている。クラスメイトで先に協力してくれた椎咲 愛樹だ。どうやらまだ帰ってなかったらしい。いやまぁそれはいい。問題は隣のやつだ。

 

 

「いやーまさかここで青葉ちゃんの妹に会えるとは思わなかったなぁ」

「いえいえ〜、あたしも愛樹さんに会えるなんて思わなかったですよー」

 

 

 もうひとりの銀髪。

 続柄的には我が妹。

 人の姿をした悪魔。

 青葉モカであった。

 

 

「……は!? ちょっ、なんで……!」

「? 九郎くん?」

 

 

 アイエエエエ!? ナンデ!? 妹ナンデ!? 分かりやすく語気を荒げで動揺してしまったせいか、紗夜がきょとんとしている。

 しかしそんなことを気にしている場合ではない。大問題である。まだ少し距離はあるが、ふたりは確実に此方へと歩を進ませてきている。

 なぜアレがここに、しかもよりによってどうして椎咲と一緒にいるのか。あのふたりに面識なんてないと思ってたのに……!

 

 

 

 

 

 

 

『……あの、それモカじゃないですよね』

『妹さんじゃなかったよ? 黒髪だったし』

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の椎咲との会話を思い出す。そういえば椎咲はうちの妹の容姿を知っていた。

 あれはただうちの妹が学校突撃の件で有名になったからってだけじゃなくて、ちゃんと顔見知りだったのか。

 そういえば長さは違うが髪色は似ているし喋り方も人を食ったような態度もそっくりだ。会えば意気投合して仲良くなってもおかしくは無い。

 

 

「ち──」

 

 

 刹那の逡巡。何が1番リスクが少ないかを判断し、痛烈に舌打ちしながら苦渋の決断を下す。

 出来れば紗夜には知られたくはなかったけど……!

 

 

「くぅ、やむを得ない……蘭!」

え……? ちょっと、いきなりなに?

 

 

 すぐさま試着室へと駆け寄り、それぞれの試着室にある外柱をノックして蘭に呼びかける。

 恐らく中から俺と紗夜さんの話を聞いていたであろう蘭はモカたちが近くにいる以外の状況は把握しているはず。

 故に、小声で心底驚いたように反応した。

 

 

ちょっと! バレるじゃん。紗夜さんってつぐみと来てるんでしょ?

「? 蘭って……美竹さん?」

「いやそんなこと言ってる場合じゃないから! それよりおまえもう着替え終わってんのか!」

はぁ? まぁ、水着には……もう終わってるけど

「なるほど終わってるんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! 紗夜!」

「は、はい!?」

「突入ぅ!」

「……はい?」

……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





椎咲 愛樹(しいさき あいじゅ)

身長161cm。体重 不明。白みがかった銀髪で、形の良い豊かな巨乳をぶら下げているダウナー系のギャル感強めの女の子。
九郎のクラスメイト。席も隣。いつも九郎の睡眠を邪魔している。気だるげな態度と間延びした口調、そして髪の色もあって九郎からは悪魔2号と陰で呼ばれている。こう見えて成績が良いのでいつも九郎にふふ〜んとマウントを取っている。
好きな食べ物は激辛料理。嫌いな食べ物は漬物。好きな異性のタイプは頼りになる男と言っているが本当は世話を焼かせてくれる男。


霧島 冬雪(きりしま ふゆ)

身長164cm。体重不明。茶髪のミディアムヘア。胸は普通。生真面目な性格だが割と冗談も言ったりする。
椎咲と九郎の通う高校の非常勤数学教師。生活指導兼。童顔で優しい雰囲気なので生徒たちに人気があるが、補習のときは性格が変わるらしい。
九郎曰く『あれは笑顔で嬉嬉として男を虐めるタイプ。絶対ドS。婚期逃せ』とのこと。しかしそう言ってるのもバレているので後で折檻されるまでがワンセット。
目下の悩みはとある生徒の数学の成績が全く上がらないことと、よく名前を『ふゆき』と誤読されること。


青葉 九郎

美女がのきなみ性格に難があるのではないかと錯覚してしまいそうになることで有名な都内普通科高校2年生。
最近郊外でナンパまがいの行為をしているとの噂が学年で流れてるので校内の相手をしてくれる女子が1年生と3年生と椎咲しかいない。
好きな異性のタイプは巨乳だという噂も流れているが実は脚が綺麗な女子。いや嫌いってわけじゃないけど。そっちも好きだけども。
目下の悩みは数学教師と妹がいじめてくること。




オリキャラの詳細が知りたいとのご意見を頂いたのであとがきに書いてみました。なんか毎度あとがきでふざけた紹介しかしてないので真面目に書いたのは珍しいですね笑。
さて前書きに言った通り今回はかなり長くなってしまいました。くどいと思った方がいらっしゃったなら申し訳ございません。一応水着選び編は次回で最後を予定しております。今回はなにやら不穏なラストですが、次回はどうなるのでしょうか、楽しみですね(他人事)。

それと自分めちゃくちゃ誤字脱字が多いようで……誤字報告をしてくれた方には感謝しかないです。本当にありがとうございます……!

では次回に続きます。できるだけ早く書き上げたいと思っているので良ければ次も見てみてくださいね。お気に入り登録や評価等も良ければお願い致します。

コメディチックに書くのが好きなんですけどよね

  • これくらいでいい
  • いやもっとイチャコラさせろ
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