ネフシュタンの鎧をパージし、イチイバルをその身に纏ったクリス。両の手に持つクロスボウ型のアームドギアからそれぞれ五本、計十本の矢を響とリクに向けて放つ。自らを盾として自分を護ってくれただけでなく、既に疲労困憊といった様子のリクを護るべく響は単身、矢を弾き落としていく。
本心ではこれ以上クリスと戦いたくない。そう思っているのだが、当の本人は自分を目の敵のように睨みながら攻撃の手を緩める事無くアームドギアから矢を放ち続けている。
「クリスちゃん、お願いッ! 私はもう、クリスちゃんと戦いたくないの……ッ!」
自分の想いを吐き出し、クリスの放つ矢を捌きながらリクを護り続ける響。だが、クロスボウの引き金を一度引いたクリスの方は止まる事を知らない。
「んな甘っちょろい考えであたしに勝てると思うんじゃねぇッ! 見せてやる……これがイチイバルの力だッ!」
吐き捨てるようにそう言うと、クリスは全てを破壊し尽くすといった確固たる意思を感じさせる歌を紡ぎながら、手にしたクロスボウ型のアームドギアをガトリング砲に変形、そこから無数の弾を撃ち出す技『BILLION MAIDEN』を放つ。
響はリクを護りながらクリスの攻撃を防ぐが、防戦一方であるこの状況が続けばいずれは此方がやられてしまう。このままでは自分だけではなく、リクまでも危機に陥ってしまうのは明白だった。
(このままじゃ、私もリク君も……私は、私は一体どうしたらいいの……?)
響がそんな事を考えていると、響の強い想いが奇跡を起こす。響の目の前に周りを赤く縁取られ、青い身体を持つ巨人の横顔と見た事もない文字が描かれた小さな硬貨のようなものが音もなく現れる。
「……えっ? 何、コレ…?」
突如現れた硬貨のようなものに気を取られ、呆気に取られる響。それは響に力を与えると言わんばかりに優しい光を放ちながら響の胸にある傷の中にするりと入り込む。その途端、響の纏うギアにある変化が起き始めた。響を中心として周囲を優しい光が照らし始める。光に視界を奪われないようにリクは即座に腕で目を隠し、クリスは一旦攻撃を中断して目を隠す。
やがて、周囲を照らしていた光が収まると、響のギアは大きく変わっていた。四肢に装着された白いパワージャッキと両耳に装着されているヘッドホンは銀に、ギアインナーの黄色は青と銀の二色に。胸の中心にウルトラマン達と同じカラータイマーが輝く、慈愛の勇者と呼ばれる青き巨人、ウルトラマンコスモスと酷使した新たなギアとなり、文字通り生まれ変わった。
響の前に姿を現し、響のギアを変化させた硬貨のようなもの。それは、ウルトラマンの力が宿るウルトラメダルと呼ばれるもの。以前、未来と一体化する前のゼットが
「響……? その姿は、一体…?」
(……なんだよ一体。一体…彼奴に何が起きたッ!?)
響のギアが変化した事に驚きを見せるクリス。それはリクも同様だった。ウルトラメダルに宿るウルトラマンの力によるギアの変化はメダルの開発者であるウルトラマンヒカリは勿論、誰もが予想していない事であり、当の本人である響も困惑を隠せていない。
アームドギアを形成しないどころか、ウルトラマンの力をその身に纏うギアに宿した響を見たクリスは小さく化け物が、と呟いた後に攻撃の手を緩めず、更に強くする。ギアの変化に戸惑う響だが……
「な、何コレ……? 一体、何が起きたの…?」
「響ッ! それなら、その姿なら! さっきの要領で力を使える筈だッ!」
「─────えっ、あ、分かったッ! やってみる!」
後ろから聞こえるリクの一言に振り向いて頷き、アームドギアを形成しようと頑張っていた時と同じように全身にコスモスの力を行き渡らせる。そして、力を解放して一気に加速。物凄いスピードで疾走し、クリスの攻撃を紙一重で躱していく。コスモスが得意とする戦法である素早い動きと高速移動だ。
先程とは別次元と言っていい程の比べ物にならないスピードを以て自分の攻撃を躱していく響に翻弄されるクリスだが、それがどうしたと言わんばかりに腰部アーマーを展開。そこから小型のミサイルが顔を出した。
「チィ…ッ! ちょこまかと鬱陶しいんだよッ!」
追尾式の小型ミサイルを撃ち出す技『CUT IN CUT OUT』を響に向けて放つクリス。そのミサイルは追尾式というのもあり、コスモスの力で高速移動し、攻撃を躱していた響にも命中してしまい、突然襲い来る衝撃に響は足を止めてしまう。
更に衝撃の余波により、奇しくも満身創痍のリクの所まで下がってしまう響。そこを狙ったかのように、小型ミサイルが一斉に襲い掛かってきた。クリスの腰部アーマーから小型ミサイルを発射する技『MEGA DETH PARTY』である。それに気付いたリクが再びギャラクシーバーストを放とうとした瞬間……。
「─────そこまでだッ!!」
突如上空から落ちてきた巨大な物体がリクと響を護る盾となり、間一髪で響とリクはそれを避ける。巨大な物体はよく見れば剣であり、柄に当たる部位の上には翼が仁王立ちしている。
リクと響の前に降り立ち、巨大な剣を元の大きさに戻した翼は巨大な剣を見て「盾か?」と呟いたクリスに向けて「剣だッ!」と返した後、斬りかかっていく。
「リク、響、無事なのかッ!?」
「「奏さんッ!」」
翼とクリスが刃を交える中、自分達を呼ぶ声に振り向けば、奏が此方に向かって走ってきていた。ウルトラメダルによって大きな変化を遂げた響のギアを見た奏はゼロと共に驚いていたが。
それはさておき、駆けつけた二人が響達の元に到着した事によって、状況は二課側の有利に傾きつつあった。クリスとの鍔迫り合いを制した翼の元に響達が駆け寄る。翼も奏と同じように響のギアを見て驚いた表情を浮かべたが、すぐに防人としての翼に切り替わる。
「……立花、朝倉。私達が来るまでの間、よく持ちこたえてくれた」
翼の言葉に笑顔を浮かべた響は一旦リクを連れて下がり、もはや何度目か分からないツヴァイウィングとクリスの対面となる。クリスはまたお前たちか、といった表情を浮かべた後にアームドギアを構え直す。対する奏と翼もまた、その手に持ったアームドギアを構え直した。
「丁度いい……! お前らを見るのも正直飽きてきたところだ…二人纏めてここでぶっ潰すッ!」
「やれるもんなら……やってみなッ! 行くぞ翼ッ!」
クリスが撃ち出した弾丸を二人は掻い潜るように躱し、一気に肉薄して反撃の一手をおみまいする。クリスはそれを躱しながら後退し、何度も弾丸を撃ち出すが、二人には当たらなかった。
「なんで……なんで当たらねぇんだよッ!」
「知れた事ッ! 震える指で撃とうとも私達を捉える事能わずッ!」
その後もクリスは二人の動きを予測した上での弾丸を放つが、二人はその全てを防いだり弾いたりする。自分の攻撃が通用しない、と焦りを見せたクリスは弾幕を厚くするが、それすらも二人には通用しなかった。
そうして、動揺と焦りによって攻撃を続けるクリスに出来た一瞬の隙を逃さず、奏は自らのアームドギアに翼を乗せて前方へ撃ち出す。多大なる推進力を得た翼はクリスとの距離を一気に詰め、上段から剣を振り上げた。それを躱そうとしたクリスだが、動揺も相まって無茶な体勢から躱したせいでバランスを崩す。
「しまっ─────ッ!?」
「……チェックメイトだ」
「く……ッ!」
尻もちをつき、体制を立て直そうとしたクリスの首元に翼の剣先が向けられる。後から奏と、リクを緒川の元に送り届けた響が翼とクリスの元にやってきた。立とうにも首元に剣先を向けられているせいで立てない。王手である。
「立花。後は……任せていいだろうか。今の貴女の力なら、任せられる気がするから」
「は、はいッ!」
クリスに剣先を向けたまま、翼は響の方を向いて後を任せる事を伝える。それに頷いた響はある技の体制に入った。
(え、と……多分…こう、かな? こんなの初めてやるけど……なんとなく、そんな気がする)
両手を上空に向けて優しい光を集め、右手に溜めた後に前方にゆっくりと撃ち出す技。コスモスが得意とする光線技、フルムーンレクトである。
コスモスの代名詞とも言えるフルムーンレクトは、ウルトラマン達が得意とする光線技の中でも珍しい殺傷能力が無い光線。殺傷能力と引き換えに受けた相手の感情を静めて大人しくさせる、興奮を抑制する力を秘めた光線技なのだ。
(なんだ……? 融合症例が放ったあの光線を受けたら、さっきまで募っていた怒りが収まっていきやがる……一体、あいつはあたしに何を……?)
コスモスの力を宿した響が放つフルムーンレクトを受けたクリスは、自身が先程まで抱いていた強い怒りや憎しみなどが薄れ、収まっていく事に困惑を隠せないでいる。光線を放ち終えた響は元のギアの姿に戻り、落ち着きを取り戻したクリスに語りかける。
「何度も言ったかもしれないけど、私達は戦うべきじゃないって事、分かってくれたかな……? クリスちゃんには色々聞きたい事があるんだ。私達と一緒に、来てくれる?」
そう言い、笑顔を浮かべた響はクリスに手を差し伸べる。何がなんだか分からなくなったクリスはおもむろに響の手を取ろうとしたのか、自らも差し伸べる。
しかし、クリスの手が響の手に触れようとしたその時。突如として現れたノイズが皆を取り囲むように現れ、それに気付いた奏と翼、響の三人は各々身構える。
「こ、此奴ら……ッ!? さっきまで一匹も居なかったのにッ!」
「─────命じた事すら出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させれば気が済むのかしら?」
ノイズが現れただけでなく、上空から聞き慣れない、それでいて誰のものでもない女性らしき声が聞こえてくる。この場に居る全員が上を向くと、そこには金髪が目立つ一人の女性が宙に浮いていた。しかも、その女性の手にはノイズを使役出来る完全聖遺物、ソロモンの杖がしっかりと握られている。
「フィーネ……ッ!? い、一体どういう事だよこれは…ッ!」
(フィーネ? フィーネ、か。もしかして此奴が、俺が感じ取ったとてつもなく嫌な予感の正体なのか…?)
クリスにフィーネと呼ばれた金髪の女性は奏や翼、響には目もくれず、失望の眼差しをクリスに向けている。一方、奏と共にフィーネと呼ばれた女性を見ていたゼロは、自分が感じ取った嫌な予感の正体なのかを考えていた。
「あの男を連れてこいって命じた事も失敗、そこの小娘を連れてこいって命じた事も失敗どころか潰そうと試みて、挙句には其方側に丸め込まれようとしているじゃない。失望しない方が無理よ」
「なんで……なんで彼奴やこいつにばっかり拘るんだよッ!? フィーネのいうそいつらが居なくたって戦争の火種くらいあたし一人でも消せるッ!! そうすれば、あんたの言う通りに人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろッ!?」
(ん? 呪い? この世界に生きる人達には何かの呪いでもかけられてんのか…?)
クリスはフィーネに向けて、どこか哀しさと嫉妬を感じられる声で声の限り叫ぶ。
一方で呪いという単語が気になった響がクリスに問いかけようとした時、フィーネは大きくため息をつき、クリスにとっては絶望とも言える一言を告げる。
「それに、丁度いい機会ね? クリス、もう貴女には用は無いわ。何処へなりとも行きなさい」
「な、なんだよ、それ……ッ!? お、おい! 何処行くんだよフィーネッ! フィーネェェェェェッ!!」
自らの名を叫ぶクリスを無視し、フィーネはソロモンの杖を握っていない方の手を上げる。すると、クリスがイチイバルを纏う為に脱ぎ捨てたネフシュタンの鎧が光の粒子となってフィーネの手に集まっていき、やがて消えてしまう。
コレで目的は果たした、と言わんばかりにフィーネはソロモンの杖でノイズを呼び出し、奏達の周りを更に取り囲む。そうして、今度こそフィーネは奏達の前から姿を消した。クリスはフィーネが自分を見限った事が信じられず、精神が乱れ、身に纏っていたシンフォギアが解除されて私服姿に戻ってしまう。
「クリスちゃん……ッ!」
「響ッ! その子を連れて緒川さんの元に! この場はアタシと翼がなんとかするッ!」
「わ、分かりましたッ!」
その場に倒れ伏してしまったクリスを連れてこの場から離れる響。残された奏と翼は息を合わせて共に歌い、ノイズが蔓延る戦場と化した森林を駆ける。
◇◇◇
───それから少し経ち、フィーネの持つソロモンの杖によって呼び出されたノイズを倒し終えた奏と翼はシンフォギアを解除し、足早に緒川の元に戻ってきた。変身によって体力を消耗していたリクは少し休んだお陰でなんとか立てるようにまで体力を回復していた。
二人が無事に戻って来た事に安堵する緒川。今回の件で色々と考える事が出来てしまったのだが、取り敢えず今は奏と翼を午後の仕事に連れていく事が先決という事となり、響とリクの二人は弦十郎が迎えに来るとの事。
一方でクリスはというと、弦十郎が到着する前に気が付き、響が引き止めるもそれを振り切り、姿を眩ませてしまった。その事に酷く落ち込む響だったが、リクに「クリスとは、また会える筈だよ」と言われてそうだよね、と元気を取り戻す。
(また、会えるよね? クリスちゃん……)
その想いを胸に、クリスとの再会を願う響だった。それから更に時間は経ち、弦十郎が運転する車に揺られ、やっとの事で二課に戻って来た響とリク。二人を出迎えたのは藤尭と友里、未来の三人だ。
それから少し遅れて二課にやって来た了子も二人が無事に帰って来た事に安堵を覚えるも、響に起きた変化について詳しく検査をする事になり、響は有無を言わさずにメディカルルームへと引き摺られていく。
「だ、大丈夫かな響……」
「響なら大丈夫ですよ。お疲れ様でした、リクさん」
「……あっ、えーと、ありがとう未来ちゃん。後で響にも言ってあげてね」
「ふふっ、勿論ですよ」
響が了子に引き摺られていく形でメディカルルームへと姿を消した後、一人二課で待機していた未来はリクに労いの言葉をかける。
後に仕事を終えた奏と翼、緒川の三人も二課に戻って来た。これで全員揃った事となる。弦十郎は皆が揃った事を確認した後、今回現れたイチイバルの装者とその装者に『フィーネ』と呼ばれた人物について会議を開く事とにした。
今回出した響のウルトラギア(仮名)、名前どうしよう…?勿論、響以外にも出す予定ではいますが( 'ω' =͟͟͞͞
それでは、お読み下さりありがとうございました(・ω・)ノシ