ロリ艦隊と異世界転生司令官   作:Red_stone

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第11話 十二神将襲来

 

 

 いつものごとく、夜は6人で集まっている。

 もっとも、変なことはしていない。指揮官としても何しても嫌がられることはないだろうと思っているが、そこまではっちゃける気にもなれないからだ。

 倫理観よりも、人間だったころの小市民的な臆病さが尾を引いている。艦船としての戦闘本能が前面に出る命の取り合いとは違うから、うまく行かない。

 なお、頭を下げて綾波には一夜のことは秘密にしてもらっている。おかげで平穏な日々を過ごせている。

 

 今日は木に背中を預けてまるで悪の組織のような雰囲気で話している。

 この雰囲気は6人も楽しんでいる。欲を言えば、屋内ならより良い感じになるだろうが。まあ、今は野ざらしでもしょうがない。

 

 --議題はもちろん、避難民の今後をどうするか、だ。

 

 脱出してからすでに3日が過ぎた。

 食事を与え、有り余る腕力によって拙い寝場所を整えた。幸いにして雨は降らなかったから、雨風すら防げなくても問題はない。

 艦船に至っては、雨くらいで参るほど人間ではない。

 けれど。結局、救助した者たちは動こうという気概さえ見えないという有様だ。

 彼女たちは現状に甘えて、ずるずると結論を先延ばしにしている。

 

 動かないと助かるものも助からない、などと正論を吐く輩は居るのだろうが……実際、では”動けば助かる”かというと、そんな甘い話があるわけがない。

 もちろん、人間の身体は自然環境に放り出してそのまま生きていけるようにはできていないから、死にはするのだがその言葉に間違いは一つもない。

 いつの世も正論なんてものは、正しいだけで誰かを救いも助けもしないものだ。

 氷竜に故郷が滅ぼされたからといって同情する人間は居ても、では支援をなどということをやったりはしないのは残念ながら普通の現実だ。

 正しいの正しくないのはおいて、現実では大体”そう”なる。

 

 それこそ、ここから別の街までたどり着いたとしても、また別の試練が襲い掛かってくるだけだ。

 助かる保証は何もない。むしろ、襲い来る苦難を超え続けなければ生き残ることすらできはしない。

 生きていられるだけで幸せだ、なんて悟りを開ければいいが、やはり住も食も満喫してこそ人間は幸せを感じられるというものだろう。

 茨の道を進むくらいならば、いっそここで朽ちるなどと言い始める人間は必ずいるはずだで、それは責められないと言うお優しい人間は決して異端ではないはずだ。

 

「ーーまあ、予想できたことだな。しかし、選ぶのは彼女たちだろう」

 

 指揮官はそう漏らす。

 全ては自己責任、その道を選んだのならその最期は受け入れるべきだろう。

 とはいえ艦船としての立場で言えば、ここで釘付けにされるのは悪手だった。指揮官はこの空間はセイレーンが関わっていると根拠もなく信じている。

 そいつらの思惑通りに動かなければ存在ごと消されるから、向こうの期待を凌駕するくらいでなければ……彼女たちと一緒にはいられない。

 ここで足踏みなどしていられない。生きていれば次から次へと試練が襲い掛かってくるのは指揮官にとっても同じこと――と信じ切っている。

 次の十二神将を殺さなければ、明日も生きていることを信じられないから。

 

「奴らの時間間隔など知らんしな。……だが、避難民達は3日も動けないなら、もう動くこともできないだろう。明日で決めてもらうか? 進むか、留まるか」

 

 他の6人はただ頷いた。

 指揮官には避難民の明日にも、現地人の未来にも興味がない。そして、艦船たちは指揮官の決定に異を唱えるつもりがない。

 実際、この子たちが異論を唱えてしまえば指揮官かはあっさりと方針を変えてしまうだろう。

 そして艦船たちにしても、殺せと言われたらどうするかなんて、絶対に下されない命令については考えない。けれど逆に、見捨てるも同然のことを言われても涼しい顔をしている。

 子供の姿でも、子供ではない。戦略的な視点を持っているということは、人の命を数で考えるやり方を知っているということでもあるのだから。

 

「ーー各自、好きにすればいい」

 

 そんなことを言いつつも、指揮官はこの6人に対してはは想いを捻じ曲げようが一緒に居てもらう腹積もりだ。

 そのためならどんな労苦も惜しまない。

 

「……む?」

 

 けれど、そんな考えも全ては無為。

 避難民がどうしたいか? ここに留まって穏やかな死を選ぶか、苦難に満ちた脱出(エクソダス)を選び無限の試練の道を進むか。

 彼らは消極的に楽な前者の道を選んでしまったとも言えるが。

 つまり、この場合は強制的に後者を押し付けられることもある。

 

「……ふふ。皆さん、お揃いで。随分と仲が良くてうらやましいことですわね?」

 

 次の試練がーー美しく、幼い少女の姿をもって現出する。

 

「ええ……そんな生ぬるい関係をどうして続けていられるのか。とても不思議です」

 

 ぽーん、ぽーん、と器用に片手で3つの玉をお手玉している。

 地面に着きそうな長いスカートにはたっぷりとフリルがあしらわれて、腕にも手が隠れるほどのフリルの塊。そして日傘ーーそう、夜なのに日傘を差している。

 全てが赤く、朱く、紅い……深紅(スカーレット)の幼女。

 見慣れたということもあって艦船かとも思うが、禍々しい気配がそれは違うと物語っている。

 

「なるほど。試練を乗り越えた先にあるものは試練以外何もなく、降りれば朽ち果てるのみ……か。まったく物語を演じるのも苦労する。心休まるときもない。世界に監視者(オブザーバー)なんて者が居たとしたら、君が代わりに文句を言っておいてくれないか?」

 

「あらあら。あなたはお(ぬる)いのがお好きで? あの時のお顔を見るに、血と暴力にしか興味のない方かと思いましたわ。けれど、十分休めたでしょう……次の戦争を、次の殺戮を行使するのに十分すぎるほどの時は与えましたわ。泣き言は耳に入りませんの」

 

 指揮官は、こいつらはセイレーンの「オブザーバー」を知らないと看破する。

 話に乗って来たが、そいつには言及しなかった。代わりに何らかの手段で監視しているのもほのめかされた。

 知らされていないのか、それともーーこいつらもまた、観察対象であるのか。指揮官は目を細める。

 ……どちらにせよ、殺すだけだ。

 

「……で、それは何をしている?」

 

「ふふ。見てわからない? ……お手玉よ。ちょうど手ごろなのがありまして、ちょっとお借りしましたの」

 

 彼女が放る3個のお手玉、それは見張りに出ていたはずの冒険者の首だった。

 彼らの後ろから殺気が膨れ上がる。

 強烈な踏み込みが地面を揺らす。……二つ。

 

「貴様ーーよくも、俺の仲間を!」

 

「くたばれ! 化け物ォ!」

 

 見張りでないから生き残った冒険者が、地を蹴った。

 憎しみを力に変えて一直線に。だが、悲しいかな。……その程度では決して届かない。

 人間ごときではどれほどの研鑽を積もうと決して敵わない。ましてや、力を合わせるべき仲間はすでに彼女の手にかかっているのだから。

 

「やめろ」

 

「やめるのです」

 

 指揮官、そして綾波が蹴りの一発で後方に飛ばした。

 

「おやおや、助けるのですか?」

 

 彼女はからからと嗤う。

 上位者の笑み。人間を虫けらとしか思っていない。

 

「そういうお前は攻撃してこなかったな? 紳士のつもりか」

 

「まさか。そもそも私は淑女ですわ。それにお聞きしたいこともございましたのよ? まあ、そもそも隙を狙うなんて姑息なことはいたしませんわ。……なぜなら、そんなものは弱者のやることですもの」

 

「……帰ってくれるのなら、質問とやらに答えてやってもいいぞ」

 

 憮然としているが、指揮官の雰囲気は変わらない。

 獲物を食い殺す狂犬が、牙を剥き出しにして爪を研いでいる。言葉とは裏腹に、ことを穏便に済ませるつもりがない。

 

「くふ、あはは! 随分と冗談がお上手ですのね? あなたの殺気はそう言ってはおりませんわ。殺すのがお好き? それとも、強者に挑むのが流行かしらね? でも、これを殺したからなどという稚拙な冗談はおやめくださいな」

 

 そして、その殺気を受ける少女は風のごとく受け流す。

 それどころか、ケージの中の仔犬を見るような余裕に満ちた笑みを浮かべている。

 

「殺す」

 

「あら、もういいのですの? ゴミのような人間でも、あなた方にとっては保護対象だったのでしょうに、まだ離れ切っておりませんわよ」

 

 視線すら向けないが、口調は雄弁にキャンプ地を捨てて逃げ出した避難民たちを指していた。

 冒険者たちも、ちょうど蹴り飛ばしたときにそっちに飛ばした。

 ともに逃げていることは音でわかる。

 そして、彼らはまだ戦闘圏内から脱出できていない。

 そんなことは敵も分かっているからこそのこの言葉。

 

「ーー」

 

 ぎり、と歯ぎしりする。

 そいつは常に隙だらけだ。余裕か自分の能力に自信を持っているのかも分からないが、外見同様の幼女のような立ち居振る舞いだ。

 瞬きの間に心臓を抉ることもできるだろう。

 けれど、それをすれば戦端が開かれる。哀れな避難民も、傷心の冒険者も、ゴミのように吹き飛ばされることだろう。

 

「では、お聞きしますわ。……あなたたちはなぜ我らが十二神将が一、死氷降世(ニヴルヘイム)を退けることができたのか。我々はそれを知りたいのです」

 

 苦味走った指揮官の顔を見て、ころころと笑い声をあげる。

 そして、質問は答えなければあれらを殺すという脅しだ。いや、脅しという気すらもないかもしれない。

 彼女にとっては人間(虫けら)など、いつでも踏みつぶせるものでしかないのだから。

 

「……」

 

「彼は人間の言語など解する気もないでしょうから、知らないのも無理はございません。けれど、誰のことを言っているのかはお判りでしょう。そして、私は名乗りますわ。畏怖とともに我が名を刻みなさい」

 

 声を張り上げる。

 

「私こそは人の世を滅ぼす十二神将が一人、冥府門番(ヘカトンケイル)。ーー冥界に届く怨嗟の呼び声を聞くがいい……!」

 

 戦端を開く鬨の声。美しく、鈴のような音色が殺戮の幕を開演する。

 

「「……ッ!」」

 

 飛び出した影が二つ。

 指揮官、そして綾波がアイコンタクト一つで同時に強襲する。

 

「ふふ。冥府の門を前に、全ての攻撃は意味を亡くす……!」

 

 雰囲気が変わった。

 圧倒的なプレッシャーがほとばしる。……一つの戦争が始まる。

 

「その首、もらい受けるのです」

 

「貴様の能力、試させてもらう」

 

 敵を知り、己を知れば百戦危うからずは事前の情報収集だけではない。

 艦船の高速思考能力があれば戦闘中の観察で相手の弱点を丸裸にできる。集中しなければ自分の身体を自在に操ることすらおぼつかない人類では到底不可能な業。

 

(瞳は動いていない、つまりはこちらの動きを捉えられないということ。だが、逆に言えばそれであの氷竜と同クラスの存在というのだから、当然別の防御手段は持っている……!)

 

 そのまま最高速で敵の心臓を掌低の要領で叩く。 

 外見が幼女だから手加減したのではないし、ましてや胸を触りに行ったのでもない。衝撃で心臓を壊す鎧通しの殺し技。生物としてまっとうであるならば生きられるはずもない。

 けれど、敵が強大であると目するからこそ、たった一つの必殺では足りない。

 

「殺ったのです!」

 

 ゆえに物理破壊は綾波が担当する。

 高速で振るわれる剣が、敵のそっ首を刈る死神の鎌として機能する。 

 見ることすらできないのだ、防御できる謂れはない。

 ……だがーー

 

「……は! その程度ではヘカトンケイルを超えることは(あた)わない! 我が鉄壁は崩せない!」

 

 指揮官は心臓に衝撃を感じ、綾波は首への斬撃によって横に吹き飛ばされていく。

 刀も拳も、電波に音波のレーダーですら何も映さなかった。この摩訶不思議な現象は物理法則では説明不可能だ。

 そして、ゆえにこそKOの一発としては申し分ない。威力は必殺に申し分なく、意識の間隙を突かれた二人の意識はブラックアウトする。

 

「お兄ちゃん! よくも!」

 

 ユニコーンが艦載機を発進させる。

 6機編成の全力攻撃。それらは敵を狙ってまっすぐに飛翔し、そして無数の機銃がそいつを襲う。

 

「薄いわね。弾幕というのならば、せめて視界くらいは埋めなさいな」

 

 くるんと日傘を前に掲げーー全て跳ね返された。

 完全に慮外の反撃に、なすすべもなく艦載機達が撃墜されていく。

 

「……幼い魂。それでは目を開くこともできないでしょう?」

 

 彼女が視線をそらした一瞬を狙い、エレバスが砲撃を刊行する。

 反応できるはずのない攻撃だ。

 音よりも早く飛ぶそれを冥府門番(ヘカトンケイル)は知覚できない。

 

「いいえ。必要ないだけよ?」

 

 だが、やはり反射される。

 認識の有無は関係ない。この絶対防御の力は全てを反射する。

 隙が隙として機能しない。意識の間隙を突いたところで何の意味もなかった。

 

「ならば、純粋な力押しはどうであろうな?」

 

 長門、スキル発動。

 視界を埋め尽くす程の砲弾を一極集中、氷竜を退けた後も何もしていなかったわけではない。

 むしろ倒すための修練は欠かしていないのだ。

 

「それも、無駄ーー」

 

 そのまま反射された。

 

「っち!」

 

「っわああ!」

 

 足の遅い戦艦と軽空母は大慌てだ。

 けれど。

 

「ちょっとかすった」

 

「長門、重い」

 

 ラフィーがエレバスとユニコーンを、エルドリッジが長門を救助した。

 反射されるのは分かっているのだから、リカバリーくらいは用意している。

 そして。

 

「完全な防御、しかし代わりに攻撃手段を持たない、ね。十二神将……盾と矛を揃えられると厄介だな。ならば組まれる前にここで倒す。一人で死ね、冥府門番」

 

 指揮官が戻ってきた。

 基本的に艦船の防御能力は高く、そして敵の能力を警戒すれば必然的に踏み込みは浅くなる。

 ゆえに威力は8割に届かず、気絶からの立ち直りも早かった。

 

 ちなみに、殺された冒険者については論外だ。攻撃手段を持たず、身体能力もない同然でも、それでも素手で冒険者の10人や20人は素手で殺せるのが十二神将だ。

 

「鬼神モード発動……」

 

 そして、綾波。

 剣は捨て、砲身を構えている。超至近距離での射撃を刊行する。

 

「それでどうにかなるとでも?」

 

 跳ね返される。綾波は射撃地点からすぐに退避しているがあまりにも近すぎる。跳ね返された攻撃に裂傷を負った。

 

「思っているが?」

 

 指揮官がそいつの頭をつかむ。

 頭蓋が割られそうな力が指揮官の頭にかかる。全て、反射されていた。

 

「これで動きは封じたのです」

 

 そして、綾波が背後から羽交い絞めをかける。

 このまま何時間でも拘束し続けば、あとはきっちり嵌めるだけだ。

 交代すれば何日でも拷問は続く。無敵の防御能力も、攻撃できなければ意味をなさない。捕まえておけばいいだけだ。

 

「……そんな簡単な話があるわけないでしょう?」

 

 ぶん、と二人を振り回しーー木に叩きつけた。

 

 ーー拘束する力すらも反射すれば、捕えることなどできはしない。

 これが人でなく鉄ならという仮定も意味をなさない。作用反作用の法則だ。なぜなら押し返す力も反射すれば地面か、鉄かのどちらかが耐えきれずに壊れる。

 無敵の防御が、固定されている物ならば何でも壊せる攻撃能力に反転する。

 拘束できない、進軍を止めることすらできない完全なる要塞、それこそが冥府門番の恐るべき能力だった。

 

 

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