部下の後ろに隠れて震えるのが最悪の指揮官と言うのなら、彼はあくまで上等だった。
指揮官、そして艦船たちをなめてはいるのでは決してない、ただ退けない事情があるから強大な敵にでも立ち向かう。
勝てる可能性がないと頭では分かっていても、”勝たなければいけない”のだから選択肢は勝つ以外にないだろう。……たとえ、それがはたから見て馬鹿がヤケを起こしただけだとしても。
彼は、きちんと考えてその結末を選び取った。
「我ら第17騎士団、星の輝きにこそ主の導きあれ! 星の瞬きこそ我らが生き様、我らが信仰! いざ、ご覧あれ!
装飾の施されたきらびやかな剣を抜き放つ。
魔法の武器だ。隊長格が与えられる魔法の武器は甘くない。油断すれば強力すぎる神剣の力が術者を焼く。強力だが、それに応じたリスクがあるのだ。
そして、”それ”は余禄に過ぎない。
ただの踏み込みが地面を揺らす。ただの人間が音の壁を突破して疾走する。
「……ふむ。少し、試すか……が、傷付けても折っても面倒になるか。それも面倒だ」
指揮官もまた足を踏み出す。
向こうの指揮官との一騎打ちのような形になってしまった。
好都合とはいえ、別に指揮官の指金ではない。
艦船に艤装解除を命じたのは、数十人分の肉片を見たら艦船がショックを受けるだろうと言う、指揮官の勝手な気遣いだったのだが……他の騎士たちは丸腰になってしまった少女に槍を突き付けるのが気が引けるようだ。
だから、結論はここで決まる。
昔ながらの男同士の一騎打ち。ああ、なんとも上等な話ではなかろうか。
「行くぞ、人の誇りを見せてやる」
彼はあくまでまっすぐにただ前だけを見据えて進む。
人としての誇りを掲げるように。
「来るがいい、人間。大言を吐くならば、まずは力を示せ」
指揮官は構えも取らずに人間を迎え撃つ。
それはまるで魔王の風格だ。
「「ーー」」
――激突。
「おおおおおお!」
舞い散るは星の輝き。そして、”それ”は物理的な衝撃さえ伴い敵を切り裂く。
超高速の連撃は星の輝きとともに二重、三重に轍を刻む。つまりは斬撃の重奏で、一振りで最低3回の攻撃が”連続して”襲ってくる。
1秒で10を超える攻撃が、避けようのない斬撃の結界が敵を喰らう。
「……で?」
しかし、防御を上回れないのであれば多重攻撃など全く無意味だ。
視界を埋め尽くす目隠し程度の効果しかなく……そして、艦船は目よりもレーダーを使う。
鋼すら喰らう星の輝きすらも意に介さず、ただ拳を振るった。
「……ッチィ!」
敵もさるもの、避けおおせた。
身体強化は伊達ではない。しかも、腕を振った瞬間に肘関節に10連撃を入れた。
星による追加攻撃を含めれば一瞬にして50は入った。の、だが、しかし……
「それだけか?」
かわしにくい胴体を狙って、もう一発撃ち込む。
”指揮官には一切が通用しない”。敵の速度に焦って下手を踏めばまだやりようもあるが、重戦車のごとく愚直に踏みつぶそうとする体躯は切り崩せない。
「っく! おおおお!」
敵は無理やり身体をひねってかわしたと思いきや、さらにそこからバネを使って飛ぶ。
人間技でない上に緩急までつけている。
よほどの達人でさえ見逃す超絶技巧が生み出すのは、瞬間移動じみた高速かつ敵の死角を突くステップだ。だが……
「意味がないな」
艦船には意味がない。一瞬で視界から消えても、レーダーからは逃れられない。
あくまで、それは”見る”相手へのアクションだ。360度の視界を持つ
指揮官はそちらも見ずに無造作に拳をふるった。拳と剣が衝突する。
「――貴様、やはり人間ではないな!?」
「いやいや、あれだよ。風の音を聞くとか、殺気を読むとか言うやつだ。なあ、目にばかり頼るのはよくないな?」
剣が砕けそうなほどの衝撃を受け流し、彼は距離を取る。
武器でさえそんな有様なのに、指揮官の拳ときたら手甲も付けてないくせに傷一つさえ見当たらない。
星剣など、探せばヒビの一つや二つは入っていそうなものなのに。
「繰り言を!」
「さて、まあ――否定はできないな」
先と同じ一幕が開始する。
星剣は強力な魔法の武器だが、しかし指揮官と比べてしまえば兵器としての完成度が違いすぎる。土台として”レベルが違う”のだ。
それは輝く星そのものを飛ばして遠距離も行けるオールマイティな武器だが、防御を抜けなけばやはり意味がない。
けれど、それでも諦めない。信仰にかけて、負けられない。事情がある。相手が化け物なので負けましたは通用しないのだから。
「これで倒せないのなら……更に加速するまで!」
星剣には、これ以上の機能はない。
ゆえに、頼るのは気合いと根性、これ以外にない。けれど、ただのそれだけで限界を超える無茶を発揮する。
古来から言うだろう、男の武器は気合と根性、あとはやせ我慢だと。
つまりーー奇跡とは、意志力の発露であればこそ。
「おおおおお!」
斬る。斬る斬る斬る斬る――
「……」
けれど、効きはしない。無茶で通じるのは精々が120%かいくらかだ、ゆえに圧倒的な格上に対しては気合いによる覚醒など意味をなさない。
そんなもので勝てるのは相手が弱いからだ。
そして、そんなものを見せられる相手としてはただうっとうしいだけだ。
「――終わらせるか」
ぼそりと呟く。
つまりは、”面倒になった”これ以外にない。
よい落としどころを見つけて流そうかとも思っていたが、こうも必死になる相手を見ているとヒく。
どうでもいいことに夢中になっている相手を見ているとどうでもいいような気分になってくるあれだ。
「ッ! おおお!」
さらにスピードを上げる……無意味に。
本人としては信仰による限界の突破で、実際に効果さえ出ているのだが。
「――」
剣を砕いてしまおうかと思う。この程度、ゴブリンキングには通じても十二神将には通じはしない。であれば――残しておいたところでしょうがないだろう。
いや、アレに効くなら使い道もあるが、指揮官はあいにく気の長い性質ではない。
「まあ、いい。砕け散れ」
星剣の軌道に拳を合わせた。
この正面衝突は本来なら拳の方がバターのように切り裂かれるはずだが、レベル差が理不尽を強要する。
鋼にナマクラを振り下ろすようなものだ、当然剣の方が折れる。
「……っここだ!」
砕く、その直前。剣が曲がった。
否、曲がったように見せたのは剣技だ。武術の全てが通じないわけではない。
視線を奪っても目に頼っていないから無意味と言うだけで、緩急や剣筋の変化ならば研鑽は裏切らない。
更に言えば、この剣技は隠していた。チャンスが来る一瞬を信じて、ひたすらに高速剣を打ち込んだ――そして、そのチャンスは訪れた。
指揮官が飽きて、適当な一撃で刀を破壊を狙う一瞬こそが逆襲の機会。
「ぬ――」
そして人体の急所、そして防御を纏えぬ箇所となれば一点しかない。
――そこは瞳だ。
「くたばれ、異教の徒よ!」
全力を振り絞った至高の一撃。
人生を通してもこれ以上はないだろうと言う一撃。完璧な太刀筋だったし、狙いも完璧……完全な軌跡を描いた。
……けれど。
「やはり、無駄だな」
弾かれた。人間の力などこんなものだ。
どこまで行っても、化け物には敵いはしない。人である限り、限界はある。否……艦船にもそれはある。
「寝ておけ」
なでるように触るだけで鎧がひしゃげ、数十mは吹き飛んで目を回す。元の世界では中身は潰れたトマトになっているはずだが、彼は魔法の鎧を纏っている。
慌てるだけの兵たちを見て、指揮官はため息をつく。
……やはり、戦力に数えられそうもない。
「……まあ、綾波でいいか。空に向けて空砲」
空砲で脅せば槍を取り落としてしまう。
「さて、話を聞こう」
まあ、なんにせよ――利用されてやる謂れはない。こちらはこちらでやるだけだから、向こうの事情を汲む気はない。
土台、配慮などは強い相手にするものだから。
格付けは済んだ。
ゆえに、アズールレーン第一艦隊は”中立”だ。
俺tueee描写のその2です。
指揮官たちは現地戦力とは隔絶した実力差があります。ただし星剣を使う彼は教国内に限定しても10本指には決して入れない程度の力量ですが。