「ーーッ!」
6人そろって指揮官に夢中になっておしゃべりしていたその時に、いきなりユニコーンが顔を跳ね上げた。
厳しい顔をしている。
問題の発生、いや……ロリを相手に触れ合いながらおしゃべりなんて呑気なことをしていたのだから、当たり前というべきか。
とにもかくにも、何もしていないのだ。
「ユニコーン? いや……」
彼女の顔の、その意味が分かる。
考えるのでもなく、聞くでもなく。
ーー増設された第六感とでも呼ぶべきもの。別作品では第六感に特別な意味を乗せてるものもあるが、これは単純に人間が生物として持っている五感の他に”もう一つ”あるだけのこと。
艦船としての能力、レーダーを先天的に備えた第六感として知覚できている。この少女たちも、そして今や自分も艦船〈KAN-SEN〉だ。
どう使うのかと問われても答えられない。
これは生物として備える機能の一つに他ならない。呼吸をするのに説明を受ける必要がないのと同じように使いこなせる。
転生だか何だか知らないが、俺はいつの間にかアズレンで所持していた女の子と、どこともしれない世界に放り出された。
そして、分かっているのはそれだけだ。
とにもかくにも状況を把握すべきだったのに、それを置き去りにしていたから状況のほうが動いてしまった。
レーダーに反応がある。
「人間……か? そして、なんだこれは」
誰も答えられはしない。
熱源探知、そしてアクティブレーダーによる動態感知。つまりは人の形をした動くものが、3mを超える人型のナニカに追われていることしか分からない。
レーダーの能力は艦船ごとに異なる。ユニコーンは軽空母という特質上パッシブレーダー、つまり敵の捜索・照準よりも敵の接近に敏感だ。
そして、レーダーでは相手の考えなどわからない。
馬鹿げた可能性を言うなら追いかけっこで遊んでいるだけとも、ただ走っている方向が同じだけとも言える。
「どうしよう、お兄ちゃん」
判断を仰いでくる。
きっと、この子たちは何を言おうとも聞いてくれるだろうとの確信がある。
話していて分かったが、この子たちは俺に狂信と愛情に近い感情を抱いている。
ゲーム的に考えれば納得だ。プレイヤーに逆らうキャラなどいないし、好感度はシステム上最高値にしている。
例えば、人間ごと撃ち殺せと言ってもなんの疑問も持たずに従ってくれるに違いない。
彼女たちがそれをどう思うのか、それをきちんと探っていく必要がある。
「……まずは偵察かな。ユニコーン、お願いできる?」
とはいえ、そういうのはもう少し状況を知ってからにすべきだろう。
実際、こんなわけのわからない状況でおしくらまんじゅうしながらおしゃべりなどしている状況ではなかった。
「そちらへ二機を。そして、さらに5機……全方位に向かって飛ばせるかな?」
「もちろんだよ、お兄ちゃん。でも、なんで?」
「状況を知りたいだけ。その場その場で、場当たり的に対処すると横を突かれると痛いからね。本当は、おしゃべりよりも先にしなくちゃいけなかったんだけど」
「なるほど。すごいね、お兄ちゃん。ユニコーン、そんなこと思いつきもしなかったよ」
「それに気にする必要もないであろう。余たちが居る限り、指揮官に手など出させぬからな」
「状況把握は必要だよ、俺が気にしなくちゃいけないことだから皆はいけどね。さ、準備をしようか。戦闘準備だ」
--視点変更・冒険者サイドーー
「ーーくそが! なんだ、これは……ッ!」
彼、グリゴリー・スキルダは無駄と分かっていても叫ぶ。
その行為は体力を無駄に消耗し、敵を利するだけと分かっていても天に向かって吠えざるをえない。
今、彼らは逃げていた。それは冒険者をやっていればよくあることではなくとも、それしかなければ迷わず選ぶ選択肢。
だが、この状況は。
このーー最悪としか言えない状況は。
「うっさい、黙って走れよリーダー! こんなの、無理だって!」
横にいる仲間が怒鳴り返した。
今は、全速力で逃げている。
魔物という脅威を振り切るために全身全霊をかけて走っている。
「くっそ。たかがゴブリン狩りのはずが、キングが居るなんて聞いてねえよ!」
わめいた。
彼らは5人パーティで、今も5人固まって逃げている。
初心者であればバラバラに逃げて各個撃破されていたかもしれないが、実力として中級クラスはあるのだから、そこで判断は誤らない。
判断は正しくても、だからできるとは限らない。
何かに失敗して努力不足と呼ばれることはよくあることだけど、しかしそれが怠けていたとか馬鹿なことをしたからなんて誰が言えようか。
そういう失敗の多くは、状況が悪いということが多い。
誰が悪かったというより、運が悪かった。そして、彼らの状況を言うならばまさにそうだった。
一流の剣士でありリーダーを務めるグリゴリー・スキルダを筆頭に、ハンマー使いのアースラン・スミルノフ、そして魔法使いのピーターとロベルトのイグナティフ兄弟、そして影使いのワレリー・アブラーモフ。
かなりバランスの取れた、中堅の中でも堅実でシンプルに強いパーティと呼べるだろう。
だからこそ、戦略的に不利であればそれが覆しがたい差となって現れて来る。
手堅い、とは逆に言えば不利を覆す奇策を使いづらいということなのだから。
「ゴブリンライダーだ、右から来るぞ!」
真っ先に影使いが気づいた。
魔法使いと違ってできることが少ない分、そういう嗅覚は鋭い。
そして、役割分担を皆がわかっているから、即座に対応できる。
「ピーター!」
「おうよ! 燃え尽きろ、『フレイムブラスト』!」
爆音、そして衝撃。まるで戦車砲の一撃と見間違うかのような威力が狼に乗るゴブリンを蹂躙する。
ただの一撃で地面がめくれあがり、3匹のゴブリンと狼が躯をさらす。
まるで爆撃だった。
物語によくある、かませ犬にしかなれないような、現実の熊一匹も素手で倒せないような弱弱しい冒険者などとは違うのだ。
例えば、ただ石を削って木の棒に括りつけた粗末な槍を大人が力一杯脳天に叩きつければ死亡する。ただの雑魚とはいえ、それでもそのレベルならば緊張感などないだろう。
ただの害獣で、それを脅威と呼ぶならばそれこそゴキブリ並みの繁殖力が必要だろう。
そして、このゴブリンどもはゴキブリ並みの繁殖力を持っていた。
雑魚の中の雑魚であるノーマルなゴブリンは、後ろに数えきれない大群で迫ってきている。
そして、中でも遠距離攻撃を可能とするゴブリン。
「ゲゲゲゲ!」
仲間が死ぬ光景を笑いながら見るゴブリンども。
そして、何も気にせず弓を射かけてくる。
彼らは今、馬よりも速く走っている。だから当たらない? そんなわけがあるものか。そこまで弱かったら逃げてなどいない。
大体、弓を持っている奴は100匹はくだらない。
鉄をも貫く一撃だ。耐えられなわけでなくとも食らいたくはない。
「ロベルトォ!」
「分かっている。『ウィンドウォール』」
風の障壁が矢をそらした。
どすどすとそれた矢が地面に突き立つ。そして、溶けたような音が聞こえてくる。……毒が塗ってあった。
彼らはきちんと考えている。
ただの矢しか使わないなんて横着はあり得ない。敵を確実に葬り去る手段の一つや二つは考案する。
だって、彼らも生きている。考えているのだから、そこに手間は惜しまない。
「ワレリー、退路を頼む。アースラン、頼んだぜ!」
「応とも! 行くぜェ」
反転、敵へと向かう。
相対するのは3mを越す巨大なゴブリン、否ーーそこまで行けばもはやオークだ。
彼らのパーティよりも早く走り、追いかけてきたそいつらを倒さなければ逃げることすらおぼつかない。
ゆえに、一瞬で倒す。
時間をかければ、援軍がいくらでも到着してしまうのだから。
「おおらあああああ!」
ゴブリンは頭があまりよくない。こいつらのような脳筋の格闘家タイプであればなおさら。
逃げる獲物を追いかけていたから、逆に攻撃してくるなど思いつきもせず。
ゆえに……まるで山かと見間違うほどの巨大な戦槌。ハンマーの一撃をまともに受けた。
「ッギィィ!」
苦痛で叫ぶ。
鉄すら砕くその一撃で命まで奪えなかったのは、単純に種族として強いからだ。
戦槌の一撃は見掛け倒しでは決してない。数十キロの物体が時速100キロを超えて、しかも魔力ブーストを載せて放たれた一撃だ。
それでも、そいつは倒せない。
「シィ!」
だからこそ、次の一手を。
グリゴリーが流れるような連携で心臓を貫いた。
残るグラップラータイプは2体。
「ッグガア!」
意表を突かれた怒りか、叫んで拳を振り下ろす。
それを受ければひとたまりもないだろう。
彼は防御力に秀でているタイプではないから。
しかも、それを馬鹿正直に地面に振り下ろさせるわけにもいかない。その拳は地面を爆砕し、殺傷力を持った破片として襲い掛かるだろう。
「力だけのウスノロが。人間を舐めるな!」
攻防一体の見切り。武器である左腕そのものを破壊して攻撃を無効化した。
筋肉を断ち切れば、ただの肉の塊だ。恐れることなど何もない。
だが、敵の腕は二本ある。右の攻撃が来る。
グレゴリーにはそれを回避できる瞬発力はない。だが。
「俺を忘れんな」
アースランの一撃がそいつの頭蓋を砕いた。
虚実入れ替え、役割スイッチ。熟練の技と、信頼を預け合う仲間の絆が無限の力を発揮する。
やっていることは簡単だ。
大きな戦槌で注意を引き、防御を崩して剣士が一匹目を殺る。そして、必然1匹目を殺した剣士に注目が集まるわけだから、今度は剣士が防御を崩して戦槌で一撃。
言葉にすれば簡単だが、簡単にできることではない。
そして。
「ーーッ!」
ただ一匹となったグラップラーに勝ち目など存在しない。
左右からの攻撃、斬られるか潰されるかの二択を選択することもできずに固まって。
「終わりだ」
「ボケが」
あっけなく命を刈り取られた。
当然だ、戦場で足を止めたら死ぬのみ。で、あるからこそーー
「……これで」
逃げるぞ、と言葉を続けようとして止まる。
聞こえるのは轍の音。
速度というのは戦場にとっては重要な要素だ。なにより、速さと攻撃力のトレードオフはよくあることだろう。魔法使いは足が遅いなんてテンプレはどこにだって転がっているのだから。
「なんだ、ありゃ」
「戦車……?」
遠目に見えたのは、現代人で言えば馬車と言った方がわかりやすいか。
つまりはチャリオットだ。それが計6台分。
馬の代わりにゴブリンが引く、壁も天井もない荷車に、ローブのような変な恰好をしたゴブリンが乗っている。
その利用方法は彼ら冒険者にとっては明らかで。
「逃げろ!」
無駄と分かっていても、そう叫んだ。
「「「マジックアロー」」」
魔法の声が唱和した。
そして放たれる魔法の矢。
もちろん、魔法だ。そして、魔法というからには城壁の一つも削れない魔法に何の意味があろうか。それなら石を投げたほうがずっと手ごろで”マシ”だと言うものだろう。
ゆえに、それの一発一発は直撃すれば人間が死ぬとか、ほんのちょっと誘導性があるとか、その程度で済むはずがない。
それこそ、喰らえば魔法の鎧を装備していようが一発でボロ雑巾に、二発目では、もうーー亡骸を”かき集める”必要があるだろう。
「ざっけんな! 『ウィンドウォール』」
数発程度は防いだが、なんの救いにもなっていない。
風が乱気流を起こすそれは鉄よりも硬く、しかも気流が攻撃をそらすという自然現象から隔絶した魔法であっても、だから防げるわけではない。
「まだだ!『フレアウォール』」
そして、こちらも同様に結界を貼るが、やはり問題にすらならない。
ーー着弾する。
敵を強く見せるための踏み台冒険者でした。
素手だと熊にすら勝てなさそうな冒険者はごまんと見ますが、そんな世界で無双して何が楽しいのでしょうね?
サブマシンガン持っていれば小難しい理屈など必要なく同じことができると思います。