『星』、『塔』、『戦車』。人類の守り手は多大なる犠牲を払いながらも魔物の脅威を跳ねのけた。
彼らには傷を癒す時間が必要だろうが、それでもこの経験は彼らの力になるだろう。
「はい。ところで、最期まで『愚者』は何もしてなかったけど彼らの力は何だったの?」
ラフィーが律儀に手を挙げて、魔王に問うた。
「奴らは自爆兵じゃな。薬物強化と心理操作によって生きる爆弾に変えられておる。元は凡百の兵だが、あれらを相手にするのは少し厳しい。特に何かを守る場合にあってはな」
吐き捨てるように言葉を返した。
いつの時代も負傷兵の取扱いと、神風を好む上層部の気質は変わらない。四肢のどこかを失った兵など、ただのごく潰しだ。
ならば、爆弾に代えて最期の奉公をさせてやろうという気遣いだ。帰っても世間の目は厳しいだろから。
「攻城兵器の一種か。人の命を糧に、とは豪勢なこと。回天よろしく特攻思想はどこにでもあるものだ。ただ、今回は使われなかったようだけど」
「最終手段であろうよ。実のところ、あれはコスパがそう良くない。使わずに済むのならそうしたいところだが、維持するにも限界がある。データでは2週間から3週間で薬物の後遺症によって死に至っている」
さらりと言ったが、内容は血なまぐさい。
そもそも、そんなデータは国家機密だ。調べようとしただけで毛で血が流れる。
「なるほど、興味深いデータだな。ただ、あまり人体実験はよしてくれ。と、人道的なコメントを残さざるを得ないね。アズールレーンの一般的な士官としては」
「貴様自身の口から自分は一般的な士官ではないと聞いた気もするがな。まあ、よい。少し、感想を伺いたいところではあるがな」
言外に指揮官の感想については予想がつくと言っている。
彼らは最初から最期まで人類の奮戦を大上段から観察していた。それも、何も手助けをせずに。で、あれば互いの感想など予想がつくと言うものだ。
どころか。
「だいじょうぶ? メアちゃん」
「うん、ありがとう。ユニコーンちゃん、ちょっと血が出ただけだから大丈夫だよ、傷も治ってるから」
左目の上あたり、血が流れた箇所をぺたぺたと触っている。
指揮官はゴブリンキングとの戦いの最中、呪法『
魔王と施設管理者は一瞬、マズイとはっきり顔に浮かべたものの、何も言わない艦船たちに胸を撫でおろしていた。
「……ふむ。戦争行為として見るならば、メアの行為に特に口出しするようなことはない。十二神将という共通の敵を前に団結しろ、などと第三者の勝手な意見に過ぎん」
「まあ、それは軍人的な見解ね長門。指揮官もそうだろうけど、私は感情的な意見が聞きたいの」
「さて、元とは言え重桜の代弁者であった余は、それを口にするのは苦手でな。であれば、代わりに答えてくれぬか? のう、綾波」
「おや、私に回ってきましたか。まあ、助けてあげたいと思いはしましたよ」
「ほう? それは魔族と人類の戦争の根絶と言うことか。……それとも」
魔族の殲滅と言う意味でか、とは口にしない。
疑いは持つべきだ。そして、それ以上に口に出すべきではない。
「いいえ。それを考えるのは軍人の仕事ではないと割り切るようになりました。ただ、魔物に人が襲われるのは悲しいと思うのです」
「さて、指揮官?」
「あー。それは、胸襟を開いて言うと……だな。ものすごく微妙だな」
言いにくそうにする。人道的であろうとする心は指揮官にもある。好きな子の前では格好をつけたいものだ。
だが、これは災害救助でなく戦争への介入。大国が小国の紛争へ介入した結果、戦火が拡大した事例もある。
「それが十二神将の目的であった場合江、エスカレートを招くことになるかも」
ラフィーが後を引き継いで言う。
純粋な戦術的観点で言えばこの子が一番詳しい。
「バーンとやっけちゃ、ダメ?」
逆にエルドリッジは少々足りない感じだ。
なにも考えないなら、それが一番早い。それこそチンピラの思考でしかないだろうが。
「十二神将が魔物を発生させている場合、方々に振り回して疲れさせる目的、能力を推し量る目的の二つがありそうだな」
もっとも、魔物の発生がそいつらの所業だという証拠もないのだが。
ただ、それを考えないのは戦略上は手落ちだろう。もっとも警戒すべきことを考えないのはありえない。
「こちらの戦力で対処できるなら、そうさせたいと? まあ、人類側も今のところは対処可能であるようだしの」
ゆえに、魔族も人類も自分でケツを拭いてほしい。
意味がないと分かれば十二神将はやめるだろう。このまま発生し続けて全てが滅ぶのもありえるのが何とも言えないところ。
「しかし、こちらに借りは作りたくないのだろう? 魔王」
「そこが悩みどころじゃ」
ずず、と茶を啜った。
「ま、いいさ」
指揮官は席を立つ。
「友好国とはいえ一つの国の王様が、一指揮官とあまり仲良くするものじゃない。貴重な情報提供は感謝しよう。……帰らせてもらう」
振り返らずに出て行った。
魔王はポツリとこぼす。
「最初から気付いておったくせに、白々しい」
その気ならば救世主にでもなったかもしれない指揮官はこんなものだった。
そして、ユニコーンの戦闘機に乗って帰ってきた。
「悪いね、エレバス。夕飯も頼める」
「いいわよ。どうせ、私以外に作れる人もいないし」
何の意味があるのか、ふわりと髪をかき上げた。
「エレバスちゃん。ユニコーンも、お手伝いするよ」
「あら、助かるわね」
「さすがユニコーン。あざとい……」
「そう言うラフィーはお手伝いしないの?」
「ラフィーには得た情報を整理する必要があるから……」
うとうととして、頭は前後にゆれている。
「お昼寝じゃなくて?」
「そうとも言う」
「……すー。すー」
そして、エルドリッジはすでに寝ていた。
そんなこんなで遅くなってしまった昼食も食べて、一つの机に勢ぞろいする。
「さて、と。どうしたい?」
指揮官が言う。
「「――」」
皆、押し黙ってしまう。若干一名、寝ているが。
そうとも、これは答えの出ない問だ。
ただの災害なら一も二もなく助けに行く。
だが、これは十二神将の攻撃かもしれなくて。その場合、最悪こちらが全滅する。
他人の命より自分の命だ。
それは当然のこと。この場合、自分とはあくまで一人でなく周囲も差す。十二神将の戦略である場合、指揮官の命が失われる危険がある。
指揮官にとっては艦船の、となるが。つまり恋人の命と秤にかけてどうするかということだ。
「……では、様子を見るとしよう。軍人なら死んでもいいと言うわけでもないが、最期の壁すらなくなった国の末路は悲惨だからな。軍事介入を行う必要があるだろう」
そういうことになった。
言ってしまえば結論の先延ばしだが、しかしこの場合はそれしかないだろう。相手はしっかりと”考えて”いる。
何も考えずに適当に人を救いなどすれば、つけこまれて屍を晒すのみ。
何を置いても必要なのは、殺すこと。
十二神将抹殺によって憂いを断つ。もし魔物発生が十二神将が起こした原因でなくとも、その時は後顧の憂いなく助けに行けるのだから。