ロリ艦隊と異世界転生司令官   作:Red_stone

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第38話 停戦協定

 

 そして、3ヵ月が経った。

 指揮官にまともな良識と言うものがあったのなら、艦船全員が青息吐息で装備も劣悪な状況になっていただろう。

 魔物が大発生し、徒党を組み各地で襲撃を繰り返したのだ。相手がどれだけ弱かろうと、昼夜を問わない出撃は精神と肉体を削るはずだった。

 今、彼女たちに目の隈もないどころか、きらきらと輝いて見えるほどに万全なのはなんのことはない……出撃などしていないだけの話だった。

 

 見捨てられた、という思いは人間側にはあるだろう。

 彼らは自分の力でゴブリン帝国を皮きりに、オーク軍団、スライム城下町、狂植物の氾濫、味方も敵もゾンビに変えて襲い来るヴァンパイア連合……etcetc、しかも何度も発生してさえ切り抜けて見せた。

 それだけでない、魔族もだ。己の力でドラゴン王国、ゴーレム城、無数のガーゴイルを率いる悪魔等々を倒して見せた。

 ――本当に、指揮官は手伝わなかった。

 

 人類と魔族の努力の甲斐あってか、それとも十二神将が作戦を諦めたのかは、神ならぬ指揮官には分からないが、とにかくも侵攻が停止したのは分かる。

 これまで三日とかからず大発生してきた魔物が、もう2週間も姿を見せない。自然発生の魔物は居るが、数も質も比べることすらおこがましい。

 

 ああ、彼らは己の誇りをよりどころに土地と人民を守り切ってみせたのだ。素晴らしいことだし、実際に国中で賛美されている。

 快挙だろう。歴史に残る偉業だ。

 

 ――ゆえに、もはや戦力など残っていない。

 それこそ他国との戦争の準備をすることが国の命運を断ち切りかねないところまで行っていた。

 それもそうだろう、戦争をしたければ物流の確保、そして運ぶ物資の確保をする必要がある。そんな出費には耐えられない。

 

 

 

 そこに指揮官は付けこみ、人類の三大国、並びに魔族の停戦協定を結ばせることに成功した。

 もっとも、穴だらけな上に罰則もない。見る人間が見れば失笑してしまう出来だが、指揮官にとってはどうでもいいことだ。

 

 戦争を終わらせたいだなんて、指揮官はつゆとも思っちゃいない。ただ、愛しい艦船の前でカッコいいことをしたかっただけだ。

 戦争が無くなれば、艦船たちも喜ぶ。まあ、束の間と思うか、純粋に喜ぶかは個人の性格によるところだろうが、一層尊敬の念を深めることは間違いない。

 

 そして、各国の重鎮を迎えるのは綾波、それとラフィーの仕事になった。地上はともかく

海は魔境だ。そこだけは手配する必要があったから、順番に通している。

 

「……お迎えに上がりました。こちらへどうぞ」

 

 今回のはゴブリン帝国と戦っていたエレイシア民主国の人間だ。それも『塔』が守りについている。

 彼が守るのは『大赦』、まあつまりは神とか天皇とかの同類だ。顔を見るのも畏れ多いというように、顔はベールで覆われている。

 政治を回しているのは別の人間だが、象徴として国家としての誓約を担いにここに来た。

 余談ではあるが、その時いっしょに戦っていた『星』と『戦車』は戦死した。

 

「……ッ!」

 

 『塔』が二股の大剣を掲げる。

 味方でない艦船を敵視しない理由がない、が……それ以上にそこは不気味すぎた。

 それは母港、人っ子一人いない、しかし人の生活のカタチを残す鋳型。例えて言うなら巨人が作った模型だ。屋台はある、開店準備らしきものも見える。なんなら品物を売っていそうな気配もある。

 けれど、誰もいない。人の香りと言うものを感じない。

 酷い違和感が精神をやすりで削り、空虚な空気が警戒を解くことを許さない。

 

「これはお気にせず。どうせあなたたちには理解できないことなのです」

 

 彼女は背中を向けて歩き出す。

 一国の最重要人物を迎えに来たとは思えない態度だが、そもそもそんなもの綾波は知らない。それこそ、パレードの時は敬礼をして微動だにせず立っていればいいくらいの礼儀作法しか知らないのだから期待するものでもない。

 指揮官にも、礼儀なんて気にしないでいいと言われている。

 

「貴様……何か言うことはないのか!?」

 

 『塔』が問い詰める。

 立場が、そして何よりも失ってきた仲間と部下がその言葉に血と死体の重みを加える。傷だらけの顔は憎しみに歪んでいる。

 艦船は魔物ではない、だけど……何かできるのに何もしなかった奴らだ。しかも、上空から見ていたとあれば、憎む理由には事欠かない。

 まあ、指揮官は2、3戦目から監視はやめていたが。

 

「……? あまり汚さないでくださいね」

 

 けれど、綾波は涼しい顔。ひび割れ、朽ちそうな『塔』の武器と鎧をふい、と見て終わり。

 だが、艦船にとっては性能の悪い武器でも、彼らにとっては最高峰、二度と作れぬ究極武装だ。こんな姿を晒していても、数打ちよりこっちの方が強い。

 

 艦船にとってはアズールレーンはアズールレーンで、この世界の国はこの世界の国だ。友好国でもなければ助けてはいけないのが軍人だ。そこの線引きはしっかりとしている。

 感情のままに誰かをぶん殴っても許される民間人とは違うから、八つ当たりにも似た『塔』の感傷は理解できない。

 ああ、またか。と思うだけだ。なぜ皆いつも怒っているのでしょう? と首をかしげる。

 

「貴様! その見下した目をやめろと言っている!」

 

 『塔』が武器を振るう。

 その只人では影すらもつかめない鋭い斬撃を、綾波はただの(のろ)い軌道と目の端に捉え冷めた目で見る。

 

「砕けろ、化け者ども!」

 

 当たる。轟音が響く。そして、そこから鐘の音。

 全てを崩壊させる破壊の音だ。幾多の経験を経て、それこそただの一撃で鋼の城塞さえ砕く一撃とまで成長した。

 

「……綾波は艦船ですよ? 人間ではありませんが、化け物と呼ぶのはやめてほしいのです」

 

 傷一つない。更に言うなら、そこらの屋台に置いてある諸々でさえ微動だにしていない。

 まるで出来の悪いホラーだった。

 肌が泡立つのが止まらない。カサリとでも音が立てば全力でその方向を全力で警戒する勢いなのに、耳が痛くなるくらいの静寂が満ちている。

 

「あと、騒がないでください。埃が立つので」

 

 そんなことを言っても、埃なんてどこにもない。

 ゴーストタウンじみたその場所は完全な秩序を保っている。

 

「……『大赦』。ご注意を、ここは魔境です」

 

 呼び捨て、ということではない。

 そもそもが大赦と言う概念自体が最上級、様などという程度の低い敬語など付けてはいけないのだ。

 

「――」

 

 鷹揚に頷く。

 服もごてごてして男か女かも分からない。替え玉だったとしても、類推すら不可能だ。

 艦船なら目以外で判別もできるというのは、本人を知っていればの話。体重はg単位で分かるし、骨格から男ということも分かるがそれだけだ。

 そもそも指揮官が気にしないから、偽物でもいいのだろうと思っている。

 

 

 

 畳の上、そこはアニメで長門が座っていた豪奢な空間だ。

 そこに三大国の支配者、魔王、指揮官が揃う。

 

 魔王は子供の外見ながら、優雅に正座している。後ろの供も同様だ。

 逆に人類側は誰一人正座などしていない。小さな椅子を持ち込み、立膝で座っている。それはそれで、戦略なのだ。

 こんな場所で行動が一泊遅れる正座などできるわけがないという意識もあるのだろうがそれは置いておいて。

 郷に入っては郷に従え、などは旅人の言い分だ。国として、相手の礼儀作法に従うかはそこからして国家としての姿勢を示している。

 つまり、ここで正座すると顔が立たない。

 

 そして、それを言うなら一段高いところに長門を侍らせている指揮官こそが最上段だ。

 姿を隠す覆いは今は上げてあるが、”ある”という事実がそういうことだ。

 

「……私は軍人なのでな。政治のことは分からぬゆえ、立会人に務めさせていただく」

 

 指揮官が口火を切った。

 彼も正座しているが、魔王とは真逆に一瞬で立ち上がり襲い掛かってきそうな気配しかない。

 自身でも言っているが、場違いだ。

 

「議事は余が担当しよう」

 

 そして、続くのは長門。

 

「順に調印願う」

 

 すすす、と裏から出てきたのは饅頭だ。

 文書を持ってくる。中身は原初的な割印だ。ずらして5枚重ねにしたところにハンコを押せば5枚分がそろう。

 ――もちろん、偽造もねつ造もすっとぼけもできるだろう。

 表面だけ整えばそれで良いのだ、指揮官としては。

 

「――」

 

 始めに調印したのは魔王だ。

 

「――」

 

 そして、人類の代表者。何事もなく、拍子抜けするほどあっさりと終わってしまった。

 ただの予定調和だが、当たり前だ。

 これで戦争が終わる。一つの時代が変わる。

 

「確認した。ここに、戦争の終結を宣言しよう」

 

 長門が言うと同時に、人類側の三人が立ち上がる。

 一瞬たりとも長居したくないと言った態度だが、それも仕方ない。

 さっさと出ていく。

 

 

「――これで」

 

 指揮官はそちらを見もしない。

 なぜなら、これはただのええかっこしいなどではない。

 目的がある。

 

「うむ、これで十二神将はこの母港を知った」

 

「これがあれば、長期戦などと言う愚は侵さない。そもそもが馬鹿げた能力で力任せに襲い掛かってくるだけだからな。……能力を解析して一人一人潰すだけだ」

 

「けれど、短期決戦はこちらも望むところじゃな。見せ札を用意したのは無駄ではない。指揮官が母港を出すのには条件がある……が、別にあんな厳めしい儀式など要らんからな」

 

 指揮官も艦船も、己の本性たる船を出せる。それも一瞬で。

 長門なら戦艦を、綾波なら駆逐艦を、そして指揮官は母港を。だが、今回は必要もなく1時間もかけて出した。

 

「そのまま船を出しても意表を突くのは難しい。所詮は鉄の塊だ、ビビらすにも役不足……ではあるが、封じたと思えば隙もできる」

 

「そして、それを頼りにするのでもなく、これもいくつもある仕込みの一つでしかない。……よく思いつくものじゃな」

 

「俺の意地は悪いんでね。他人の嫌がることを思いつくのは得意なんだ」

 

「まったく。じゃが、頼もしいな」

 

 そっと身体を重ねる。

 甘い雰囲気を感じたのか、いつの間にか魔王は消えている。

 去って行った者たちへの見送りもせずに、他の子も揃ってくる。

 

 

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