ロリ艦隊と異世界転生司令官   作:Red_stone

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第41話 滅びの詩

 

 

 滅びの光景。手を下す必要すらなく、そこは死に沈んでいる。そこは白い砂漠。渇き果て、そこには墓標が残るのみ。

 口を開けばじゃりじゃりとする塩味が広がる。まぎれもなく塩だ。塩湖が干上がった先に残った場所だ。塩分濃度が高いうえに水がないために誰も生き残れない。

 

「ーーなるほど。情緒的な光景なのです」

 

 綾波は口を閉じてキッと彼女を見る。

 人魚のような彼女。あらゆる男を虜にする色香、こぼれんばかりの乳房が水着のように小さな水着からたゆんと揺れた。

 もっとも、綾波にはどうでもいいことだ。

 そもそも女性で、そして嫉妬を抱くわけもない。指揮官に似合うのは大人とか色香以前に艦船であることが必須だ。犬は人に恋しない。

 

「ええ。あなたの死体がよく似合うことでしょうね。ここなら死体は腐らない。……まあ、あなたのそれが腐るかは怪しいところですが」

 

「当たり前なのです。艦船を形作るのは鋼、腐るわけがないでしょう? そして、ここはキライです。……錆びるので」

 

「ーーふふ。冗談がお上手ね? キレイなまま残してあげる。やっぱり、ミイラよりも剥製よね」

 

「お断りなのですよ。綾波は生きて指揮官の隣に居るのです。あなたの死体は生き返らないよう念入りに爆破してあげるのです」

 

 それはじゃれあいだ。

 殺気と殺意を交わす親愛表現。そして、最後に残るのは一人の勝者と一つの死体。

 

「我が名は堕天竪琴(オルフェウス)。天すら堕とす竪琴の音色に酔い痴れるがいい……!」

 

「私は綾波なのです。……鬼神の力、見るがいい!」

 

 放った砲弾は物理的な威力を持つ音に圧壊させられた。

 もっとも、それはただの余技。弱い駆逐艦の砲弾ではそれすら突破できなかっただけの話。

 本当の威力は他にある。

 

「堕天竪琴の音色は生命を許しはしない」

 

「ーーなに? うぐっ!」

 

 ぐらり、と頭がかしいだ。

 それは精神を破壊する音色。艦船といえど、低レベルならそれだけで心が砕け散る精神攻撃だ。

 肉と違って心は鍛えられないなんてことはない。攻撃に対する耐性は軒並み上がる。

 こらえ、しかし地を蹴り遠ざかった。

 

「頭が揺れる。視界がおかしくなる。まるでぶん殴られたみたいなのですね。……でも、音なら離れれば」

 

「私の音色を侮らないでほしいわね。……栄えある十二神将が、距離をとられただけで何もできなくなるわけがないでしょう? 常識を考えてものを言いなさい」

 

 竪琴を弾く。

 彼女は冥府門番(ヘカトンケイル)と同じタイプだ。むしろ自らの異能に使われているといってもいいほどに依存している。

 そして、それはそれで正しいやり方だ。

 紅炎絶翔(プロミネンス)のように地力を鍛えず、全てのリソースを異能に注ぎ込む。選択肢が無駄に増やすよりも一に全てをかける。

 

「なにが……っち!」

 

 綾波は横に飛ぶ。

 純粋な勘だ。まあ、相手の表情を見れば狙いには気付ける。逆に言えば、視界はもちろん、電波も、圧力も、磁力すらも反応はなかった。

 音は来た時には届いているから感知したところで無意味。恐ろしい攻撃だった。

 だが、動きを見れば予測はできる。戦える。

 

「……魚雷さえ当てれば!」

 

 魚雷をつかみ、投げた。

 だが、こともなげに撃墜される。絶望的に威力が足りない。

 これが戦艦であれば無理に突破もできたろうが……

 

「それは見たわ。あなたに一番相性がいいのが私。そして、ここで”それ”の本領は発揮できない。ここがあなたの死に場所。この純白の砂漠があなたの終焉には相応しい。ええ、奇麗ね……いつまでも眺めていたい」

 

 攻撃の手は緩めない。

 言うなれば一目ぼれだ。戦う彼女の姿を見て美しいと思った。手に入れたいと思った。宝石よりも美しく、大火よりも激しい。

 ゆえに殺す。十二神将と艦船は相いれない。なによりも、彼女のそれ(所有欲)は猛獣にでも抱く類の感情だ。間違っても、同族ではない。

 人魚と艦船は違う生き物だ。

 

「はた迷惑な! あなたなんて、そこで乾いて飢えているがいいのです!」

 

 撃つ撃つ撃つ。

 何も効果がない。焦れて突撃しようにも、広範囲の攻撃に充てられて突撃の勢いは殺される。

 かろうじて致命傷は喰らってはいないがジリ貧だった。

 

「さあ、人魚の歌で溶かしてしまいましょう。堕天の竪琴は脳髄を甘く溶かすわ。何もかもゆだねれば苦痛のない死が約束されている」

 

 飛んで、跳ねて。無謀な突撃を繰り返す綾波はボロボロになっていた。

 今やスラムのガキにも劣ろうかというほどの擦り切れ具合。それでもなお子供ながら怪しく美しい魅力を放っているというのだから。

 ――そう、こぼれ落ちそうになる胸に目が奪われたとして、責められる理由はないだろう。

 

「下らないのです」

 

 その隙を、綾波は存分に利用する。

 ただの一歩で、懐まで踏み込んだ。

 大剣を振り上げ、心臓狙いに振り下ろす。

 

「苦しくても、痛くても。綾波は平気なのです。綾波は鬼神、戦うことが得意な艦船なのです。綾波は結局、戦うこと以外はできないのですから」

 

 堕天竪琴はかわさない。

 全てを異能にかけるがゆえ、今更己の身体能力に賭けたりなどしない。それをすれば返す刃で斬られるのみ。

 狙いもつけず、最大威力でぶっぱなした。

 

「……っぐ」

 

「……っが」

 

 相打ち。否、ダブルノックアウトだ。

 人間でないがゆえ、それは決着ではありえない。すぐに再起動、相手も起きたと認識し仕切り直しを図る。

 

 竪琴は何もない空間を揺るがし、綾波はすでに引いている。

 

 綾波は立って居られずに獣の様に四肢を地に付ける。

 彼女は抉られた腕を身に纏った天女の衣を引き裂き、巻きつけ、血を止める。

 

「結局、諦める気はないの? ここで諦めたほうが苦しくないわよ」

 

「諦めないのです。指揮官は戦うことしかできな綾波でも、他のことをやっていいと言ってくれました。だから、苦しい義務は早めに終わらせて指揮官といちゃつくのです」

 

「……ふふ。結局はあの男なのね。恋があなたたちの原動力なのかしら? もしそうなら、最初から私たちに勝ち目がなかったということね」

 

「ええ。愛は偉大なのです。それに、とても気持ちがいいのですよ」

 

 綾波は砲塔を捨てた。

 大剣を構える。

 

「そして、勝つのは綾波です。もう慣れたのです、その攻撃」

 

 突貫する。獣の様に、地を這って。

 早く、そして速い。つまりはステータスと技術だ。強力な身体能力を十全に使った上で、さらに練習を本番に活かせばこんなもの。

 一言で言えば人間大のバッタだ。

 

「下なら攻撃できないなんて、勘違いも甚だしい。我が堕天の音色は甘くない……!」

 

 砲撃ならば、地を這えば狙いを逸らせる。

 角度を付けて撃たねばいけないから、少しずれれば地面に当たる。飛び散る破片にさえ耐えることができたなら脅威度が下がる。

 しかし、それは砲撃の話。音色はくまなく撃滅する。

 

「ならば耐えればいい。鬼神を甘く見るな、人魚」

 

 音色は効いている。

 ダメージを与えているのだ、痛みは間違いなく全身を苛んでいる。頭もぐらぐらして艦船の平衡感覚であろうと立ってはいられない。

 だったら、立たずに戦うだけの話だった。

 

「……そんな! そんな根性論で、私の竪琴が!」

 

「終わるのです。吟遊詩人、あなたの歌など私は興味がない」

 

 大剣が堕天竪琴の心臓を貫いた。

 

「……でも、あなたも限界でしょう? あなたの心は砕け散る寸前。脳髄なんて、もう溶け崩れているのよ」

 

「……」

 

 無言。 

 もう立てない。根性論で無理やり倒しても、敵を倒してもダメージが回復したりはしないのだから。

 言うことはない。けれど、それ以上に今は舌さえ回らない。

 

「あなたと、この白い終わりの地で永久に共にいるのも悪くは……ない……」

 

「そんなの、ごめん……です……」

 

 仲良く寄り添って地に沈む。 

 それは光景だけの話だが、綾波にはもうその死体を跳ねのけるだけの力も残されてはいなかった。

 

 

 

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