ロリ艦隊と異世界転生司令官   作:Red_stone

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第42話 知恵持つ獣

 

 

 ユニコーンが飛ばされたのは木々の生い茂る森林だった。

 20mを超える巨木が次々と立ち並んでいる。このような状況では艦載機はうまく飛ばせない。

 スピードを稼ぐ前に木々にぶつかってしまうのだ。

 強制転移によるアドバンテージをうまく使っている。そして前情報も。ユニコーンの戦い方をよく研究している。

 

「……うう。怖いよ、お兄ちゃん。ユニコーン一人なんて」

 

 ぬいぐるみがあやすようにユニコーンの頭をぽんぽんと叩く。

 ユニコーンは臆病だから、こういう状況は苦手だ。一人ではないものの、孤立してしまった状況は辛い。

 もっとも……そこを考えていない指揮官ではない。対策くらいある。

 

「あ。えへへ、ユーちゃんも一緒だったね」

 

 とりあえず、笑みは見えた。

 ユーちゃんといっしょなら大丈夫と、そういうふうに教えられた。詭弁でも、重要なのは気の持ち様。

 詐欺師だとか拝み屋だとかのやり方を、指揮官は知っていた。子供を騙すくらいは訳はない。

 

「……お兄ちゃん? うん、分かったよ。ユニコーン、戦う」

 

 おかしなことを言い出した……ように見えるが単に通信が入っただけだ。

 一番精神面で不安なのはユニコーンが鉄版だろう。それは分かっているから、声をかけた。

 これで、調整は完成。対策があるから、今更慌てたりはしない。

 

「だいじょうぶだよ」

 

 一通りコント、というより精神調整を終えた後で前を向く。

 要はスポーツ選手がやる試合前の儀式だ。しかし目的は別、彼らは勝つためにそれをするが、彼女は殺すためにそれをする。

 

「――ヒトの身で、大丈夫なことなどあるものかよ」

 

 尊大な声が響く。

 ビリビリと心を震わせるような恐ろしげな声。ただ言葉だけで人の心を砕く。そいつは自らの強大さを分かっている。

 だからこうして、ただの一言で心を砕く。獣の力と、知恵を併せ持った恐ろしい敵。

 

「あなたはライオンさん? お兄ちゃんと、他の皆をどこにやったの?」

 

 もっとも、艦船たるユニコーンには効果がない。

 それは矮小なヒトを喰らう脅威だ。空飛ぶ鋼に効果はない。臆病で、いつもビクビクしていても……それでも艦船だ。

 更に言えば、その上で指揮官が調整しているから隙は無い。

 

「……は。自分の立場を分かっていないようだな。この場所で、そしてこの俺を前に、他の人間どもを気に掛けるとはな」

 

「ユニコーンも、お兄ちゃんも人間じゃないよ?」

 

「変わりはあるまい。――この森で死に絶えることには変わらぬ! この炎雷巨獣(ヴァジュラ)の牙にかかり、骸を晒すがいい弱者ども!」

 

 放つは雷。……否。

 それは空中で捻じ曲がり、空間を埋め尽くし。そして全てを焼き尽くす。炎のごとき雷は防御不可能、人間ごときは逃げ場もなく、さりとて防げもせずにただ死に絶えるのみ。

 

「これ、触れちゃダメだよね? ユーちゃん」

 

 飛びのいた。指揮官と同様の動き……その程度はできるとも、練習はした。

 運動が苦手だから、一番頑張ったのが彼女だから。

 まあ、その後のご褒美が目的だったのは違いなかろうが。

 

「下らぬ! 大いなる力を前に無様に散り果てよ!」

 

 爆破。雷が収縮し、反転し黒くなった。

 その瞬間、大爆発を引き起こした。それは更なる破壊をまき散らし、絶殺空間を形成する。

 

「……っあう!」

 

 ユニコーンは吹き飛ばされ、転がる。

 涙目になって……それでも前を向いてふんばる。そうすると、分かる。雷の爆発があっても、木は倒れない。

 何らかの特別製だ。更に言えば、炎雷が四方八方に走るから盾にもできない。回り込んでくる。

 いい情報が何もないが、それでも知ることが反撃の機会となる。

 

「ユーちゃん!」

 

 その攻撃の本質は、ばらまいて面制圧を行うことにこそある。

 ならば、対処法としては空に上がってしまえば密度が減る。攻撃を避けることはできずとも、ダメージは軽減できる。

 

「それを許すと思うか! ここは貴様にとっての死のフィールド! そんなもの、対策済みなのだよ」

 

「……あっ!」

 

 網のように覆いかぶさってくる”それ”。雷の網、そして脈動する漆黒の稲妻。

 それは絨毯爆撃だ、まんまと罠に誘い込まれてしまった。

 

「うう……お願い!」

 

 艦載機を出した。

 盾、だ。けれど。

 

「……いたいよ。お外、怖いなあ。帰りたいなあ……でも!」

 

 それでは間に合わない。

 厳重に張り巡らされた罠。破れかぶれで突破できるほど甘くはなかった。

 ボロボロになって、涙をこぼして。

 

「ユニコーンはがんばってるよ。役に立てるよ。だから、帰ったら愛してね? お兄ちゃん」

 

 立ち上がる。

 そのまま立ち上がれなかったかもしれない、指揮官がいなければ……だが。彼に愛されることが全てだから、痛みなんかに挫けることはない。

 

「……は。馬鹿め、諦めてしまえば楽になるものを」

 

 森を支配する獣の声が響く。

 圧倒的な絶望、その中で。

 

「あなたは、弱いね」

 

 ユニコーンは挑発としか思えない言葉を吐く。

 

「……なんだと」

 

 バチバチと雷電がこだまする。明らかに怒っている。

 けれど、状況的には明らかに挑発だろう。ゆえに乗りはしない。知恵を持つ獣は不用意に罠に踏み込まない。

 

「そういうところだよ。氷のドラゴンさんなら様子を伺わない、全て壊した。炎の人なら、罠ごと踏み潰したよ。あなたは、とても慎重……臆病だね」

 

「……ほう。勝てないと知って狂ったか? 死ねよや!」

 

 炎雷が破裂する。森中を焼き尽くす。

 威力が劣るのは短所足りえない。雷に触れれば動きが止まる。むしろ拷問じみた最期を迎えることとなるだろう。……反撃の機会すら得られないまま。

 

「あなたは絶対に指揮官には勝てないよ。人間の知恵持つ獣、でもそれっておかしいよね? ユニコーンは艦船のような艦船だよ。氷の竜さんも、化け物みたいな化け物だった。あなたは違うね。人間のような、獣さん?」

 

 ユニコーンが殴った。

 子供のような細腕がうなりを上げて、臓腑を抉る。やったことは簡単だ、跳んで思いきり殴っただけ。

 

「……がは! ぐ――馬鹿な、人間ごときにィ!」

 

 そして、ユニコーンのパワーは甘くない。

 軽空母は小さな前線基地、それだけの馬力があるのだ。

 

「指揮官と同じ戦い方だよ? ユニコーンはできないと思った? こうやってフィールドを作って、罠を張って……そんな小癪な手が通用するような次元じゃないでしょう、艦船と十二神将の戦争は」

 

 走って、殴る。ただそれだけであらゆるものを曳き潰す戦略兵器だ。

 武道の何たるかなど関係ない。彼女は武道家としては見習いレベル。しかし、強力なステータスを活かすためには体の動かし方を知ることと、あとは思い切りさえあればいい。

 

「ふざけ……ふざけるな! ここは神代治世(アースガルド)の作った森だぞ! 神代の、何者にも砕けぬ神聖な森。貴様を閉じ込め無力化する牢獄なのだぞ!」

 

 ユニコーンは軽空母。ここでは空母としての能力は活かせない。だが、それで十分だと敵を舐める輩に勝利はない。

 絶対の1を用意したならば、駄目押しの100を用意するべきだろう。

 実際に指揮官はそうしている。ユニコーンの優位は艦載機にあるのに、格闘戦を教えたのは遠距離を封じられたときの対策じゃない。それは駄目押しの100の方だった。

 

「ほら。そうやってすぐにサボるんだから」

 

 風切り音。すでに艦載機は発進している。

 そう、状況が変わったのなら呑気に周囲を観察する暇などあるわけがない。全力で周囲を攻撃するべきだった。

 

「戦闘機さんを出したよ。それに、ユニコーンも殴るよ。……あなたの策に、こうなった場合の対策はある?」

 

 爆破。破壊――ユニコーンに森を破壊しないようになどと言う気づかいはあり得ない。

 むしろ諸共に砕けろとばかりに爆薬と火炎を注ぐ。 

 そこは既に地獄。炎上する木々の中、ユニコーンは跳ね回って拳を叩き込む。

 

「小癪な! おのれ! おのれェ!」

 

 もはや獅子に勝機はない。

 ただ蹂躙され消えゆくのみ。

 

 

 

 そして、別の場所。高笑いを上げる竜。

 

「フハハハハ!」

 

 艦船を相手にする以上、手加減などできないし、全力を出して良いと許可が与えられた。

 そう、指揮官が推測した通り、十二神将は人類相手に全力を出して滅ぼすことなど許されていなかった。

 十全に力を発揮したのなら、一人でも人類は絶滅できていたのだから。

 ゆえに、わずらわしい制限のない今の機嫌は絶頂状態。これ以上はないとばかりに喜色の狂笑を響かせる。

 

「煩わしい声。冥府の底より響くのなら郷愁も湧くのでしょうけど。……この有様では台無しというものね」

 

 ゆらりと伸びた影。

 幽霊のような彼女の名はエレバス。外套をたなびかせ、はるか上の竜を眺める。

 

「……少女よ。この竜に挑むか? 雷こそは古より伝えられし神の裁き。貴様が挑むは神の試練と知るがいい」

 

「私の役割は死をもたらさない。幽世(かくりよ)の案内人にして、しかして私は冥府への道を示さない。それと、悪いけれど私みたいな幽霊に試練は似合わないわ」

 

 ふわりとほほ笑んだ。

 それは蟻を見下ろす視線。脅威でもないものを見下す傲慢な瞳。

 

「……ならば、裁きも何も関係なくゴミの様に死んでゆけ! 役割なきものには耐えられまいて!」

 

「――いいえ。それは違う」

 

 天から地に降り注ぐ稲妻。それはまさに神の裁きと呼ぶにふさわしい威力だ。例え魔族の超未来技術が使われた城であっても、あっけなく残骸と化すだろう。

 ……が、エレバスは幽鬼のように当たらない。

 当たらなければ必殺もガキが振り回す腕も変わらず、ダメージなどありえない。

 

「ハハハハハハ! 良いものだな、我が全能の力を十全に振るえると言うのは!」

 

「……馬鹿馬鹿しい。見るに堪えない。戦場を知らないなら、さっさと眠ることね。おねむの時間よ?」

 

 消える。

 注意が逸れたところで敵の視界から姿を消し、更に視界の範囲外へ出ているだけだ。言うは易しの最たるものだが、相手はまともに戦っている気すらないのだ。

 力を振るえるのが嬉しくて、滅茶苦茶をやっている。そんな、隙だらけでは。

 

「光あるところに闇あり。闇から目を背けるもの、あなたの魂は私が刈り取る」

 

 空気を蹴り、背後を取った。

 スキル発動、首を吹き飛ばした。

 

「果てなき暗黒から、あなたたちの死神が姿を現した。……待っていなさい、十二神将。指揮官、あなたのエレバスが今行くわ」

 

 

 

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