エルドリッジが飛ばされたのは荒野。
まあ、電撃は使いづらいところだろうが……そもそも見せてもいない以上は対策などできない。
と、するならこれは向こうの趣味だ。単にカッコつけているだけで、何も意味がない。
「――我は最強の剣士にして、全てを司る王……
姿を表したのは黄金の剣士。
見れば分かる、強力に過ぎる装備。艦船たちの持つそれは言うに及ばず、十二神将の中でも異彩を放つ。
つまりはそれこそが彼の持つ特異性。装備が異能と言うと違和感があるが、これが彼のギフト。
「……? 称える? なにそれ、おいしいの」
しかし、エルドリッジはエルドリッジだ。
例えばこれが赤城とか他の艦船だったらブチ切れていたかもしれない。けれど、指揮官が選んだのはマイペースな子ばかりだ。元々が指揮官の好みで作ったシナジーも何もない集団だ、性能より性格が似るのは仕方ない。
ゆえ、指揮官は人間ごときに何を言われても気にしないように、この子たちもまたこんなことを言われたところで気にしない。
というか、エルドリッジは何を言われているのかさえ分かっていない。理解する気すらないのだから救えない。
「はっはっは! 面白い! 豪胆なことだ。気に入ったぞ、貴様を我の嫁にしてくれよう。喜べ、天上天下に存在しえぬ名誉を貴様にくれてやると言うのだ」
「エルドリッジはあなたの嫁じゃない。指揮官のもの。……あなたは、ただの敵」
「指揮官、ね。……一目見たが、あれは物狂いの類だろう。殺戮にしか興味がないのではなかろうか? アレに使われるなど、哀れに過ぎる。見るに堪えん。この我が救ってやろう、どうだ?」
「……? どうでもいいけど」
エルドリッジは首をかしげる。
暖簾に力押しも良いところだ。なにせ、理解しようともしていない。
「……くは。はーっはっはっは! 本当に、お前のようなタイプは初めてだ。……これを見るがいい」
ギャラルホルンが笑う。どこまでも豪胆な彼は他人のことを玩具か何かとして思っていない。
掲げたのは宝石が散りばめられた剣。
成金趣味の金だけかけた豪華な換金品であればまだ良かっただろうが、それは一言でいうなら催眠の魔眼だ。
あらゆる魔剣、宝剣、神剣の類を扱うことこそが彼の能力。応用以前に使える能力が多岐にわたる。
最強主人公によくある、能力が追加されすぎて本人にも分からないと言うアレだ。だから、催眠くらいは持っていて当然だ。
「――は?」
だが、精神に作用する能力が同格に通用するわけがない。格上を嵌めて大逆転なんか通じない、それが通じるのは弱者の争いだ。
大地でさえ砕ける領域に至ってしまえば、策など意味を亡くす。
「なるほどな。これでもその顔をするか。どうやら、その男によほど執心らしいな。……では、その絆から断ち切ればどうかな」
「……ッ!」
今度ばかりは即座に反応した。
彼の視線、狙っているのはエルドリッジの薬指にはめられた指輪。それを狙われたらどんなに呑気でも反応せざるを得ない。
「まず、それから砕いてやろう」
瞬間、現れるは無数の剣。
射出する……剣士だとか名乗ったのに腰の剣は抜きもしない。
「させない……!」
抜き打ち。そして、エルドリッジが装備するのは装填速度の早い砲塔。ターゲティングに狂いはない。
全て撃ち落とした。……が。
「……だめ!」
剣が再生する。何事もなかったように指輪を狙う。
エルドリッジは指輪をかばって胸に抱いた。
「いたい……」
刺さる。血が流れる。かすり傷……とはいえ涙目になってしまう。
再生能力に特化した剣だ、威力は低い。それでも、だから大丈夫ということではない。
「……ゆるさない!」
スキル発動。
特殊砲弾が嵐のように全てを叩き潰す。盾に展開した剣もろともに叩き潰した。エルドリッジの弾丸は魔力そのもの、現存する物質に耐えられる道理はない。
「だが、徒労よな」
ギャラルホルンは空間を切り裂く剣を出す。空間の裏側に隠れてしまえば砲弾は当たらない。
そして、次に姿を現したのはエルドリッジの後方。彼女も振り向くが、遅い。
「では、次はコレだ。いつまで守り切れるかな?」
超巨大な剣……ビルにも匹敵する大きさのそれが振ってきた。
いくら艦船の出力でも支えきれない。飛びのいてかわす。……けれど。
「我の財宝は尽きることはない。そら、そこも危ういぞ?」
「……ッ!?」
鎖だ。空間を渡る鎖がエルドリッジを縛り上げる。
腕力で引きちぎろうとするが、壊せない。力では破壊できない類の宝具だ。完全に隙ができてしまった。
それ以上に、これでは指輪をかばえない。
「やめて!」
エルドリッジが叫ぶ。
「……泣き喚け。貴様は俺のものにすると言った。その悲嘆も、法悦も、全ては我の手中と心得よ」
剣が飛ぶ。
指輪に当たる。
エルドリッジは涙を溜めた目でそれを見守り……
「おや、それでは足りんか。では、次を」
指が折れた、けど指輪は壊れなかった。
そもそも破壊可能に設定されたアイテムではないことに加え、重要なアイテムだ。手加減を加えてなお破壊できるようなものではない。
けれど、壊されかけたというのは事実で。
「……ゆるさない」
地獄の底から響く怨嗟のような声。
普段のエルドリッジを知る者なら連想すらできないだろう。いつもぽわぽわした彼女が、ここまで激情を発露している姿など。
ここまでの殺意など、指揮官ですら持ち合わせていない。
「む、怒ったか。愉快愉快、様々な表情を見せ我の無聊を慰めるが良い。それが貴様の生まれた意味であるのだから。くは……はーっはっは!」
殺塵亡剣は喝々と大笑する。
この世の全てが自分を楽しませるためにあると信じて疑わない。究極なまでの傲慢、それが彼の特性だ。
「ころしてやる」
魚雷をそのまま落とす。
地上では特殊な使い方をしなければまともに当てられないし、無理やり出しても下に落ちるだけだ。
そして、破裂する。
「しね」
それは馬鹿げた自爆だった。けれど動きを縛る鎖は破壊した。
傷を代償に自由を得た。
ならば、後は殺意のままに殺すだけ。
「……はは。速いが、あいにくとそれも駄目だ」
大量の剣が宙に浮かぶ。
いくら速くとも、剣の壁で近寄れないし攻撃も通らない。壊せはするが、すぐに補充される。
「そして、スピードを得手とする剣なら我も持っている」
4つの剣が高速で飛ぶ。
エルドリッジを上回るスピードで自在に宙を舞うそれは彼女に傷を与える。
「しね」
けれど、関係ない。強引に突破する、スキルでもろともに砕いた。
高範囲攻撃ならエルドリッジも持っている。タイミングを測ってぶっ放せばいい話。
そもそもにして、彼の攻撃は多彩であるがゆえに絶対の一ではない。
「しね」
砲火を重ねて強引に突破した。
あらゆる局面に対処可能であるならば、力押しには弱い。まあ、結論は一つだろう。
……調子に乗って触れてはいけないところに触れてしまった。
「……は! それで我を倒したつもりになどなってくれるなよ、痴れ者が!」
空間を切り裂く剣。
至近距離でなければ当たらないほど鈍いが、しかし今は近距離。カウンターとしては絶好のタイミング。
だが、最大の好機を掴んだことが敗因。考えると言うのは、時を消費することなのだから。咄嗟に最大のチャンスを掴んだと思ったら、すでにその瞬間は過ぎていた。
「しね」
関係なく砲弾をぶち込んだ。
何かを考えることもなく、ひたすらに憎い敵に向かって砲火を重ねる。
「……がは! きさ……」
彼に攻撃を喰らいながらも踏み込むような胆力すらもなく、絶好だったはずのカウンターは所在なさげに宙に佇む。
絶対の鎧は彼女の攻撃によるダメージの殆どをカットする。ここから反撃のはず……が。
「しね」
撃つ撃つ撃つ。
そもそも反撃をどうのなど思考の外だ。完全にキレているエルドリッジはひたすらに攻撃を叩き込む。
「……ま……待て……」
命乞いか、それとも無様にやられている現実を認識できないのか。ギャラルホルンの瞳は焦点を結ばず、無数の剣は動かない。
なにをやりたいのかも分からずに手を伸ばす。
「指輪は指揮官からもらった、エルドリッジの一番大切なもの。きずつけるなんて、ゆるさない」
彼が最期に見たものは塔のように巨大な鋼だった。
エルドリッジが自分自身をハンマー代わりに叩きつけた。全長93mのその巨体は過たず
「……指揮官。いま、いくよ」
駆逐艦を消して歩き出す。