ロリ艦隊と異世界転生司令官   作:Red_stone

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第9話 エクソダス

 

 街から歩いて3時間。

 疲れ果てた要救助者たちの歩みは遅く、未だ氷獄と化した街が眼下にある。

 それでも、異常に温度が低下したフィールドからは脱出できた。

 これで、どうにか一息付ける。

 

「さて、どうすべきか話そうか」

 

 冒険者のリーダー、そして聖職者の少女と三人で少し離れた場所に陣取った。

 指揮官は木にもたれかかって腕を組む。少女は座り込んでしまい、冒険者はそんな少女を気遣ったか近くで顔を覗き込む。

 

「まあ、このまま休んでてもしゃあねえしな」

 

 よく知らんけど、と続けた。

 冒険者の彼としてはとりあえず、彼女は死にそうな顔色をしているが、別に死にそうではないことに安心した。

 

「俺には分からないが……正直に話してくれ。ここにいて魔物と遭遇する危険はどれくらいある? グレゴリー」

 

 指揮官はきちんと彼らのリーダーの名前は憶えていた。リーダーの名前だけは。

 

「いや、俺たちが居れば問題ないからその辺は大丈夫だろ。……まあ、とんでもないのを二つも見た後だと、その常識も今はどれだけ通用するかはわからんが」

 

 彼の指揮官を見る表情には怪訝なものが混ざっている。

 世界を滅ぼすようなゴブリンの軍勢、そしてそれさえ豆粒に見える恐ろしく強大な氷竜。対抗できるのはぽっと出の彼らだけなどと、できすぎたものを感じるのは仕方ない。

 関係があるかもしれないと疑っても、できることはないのだが。

 

「なるほど。だが、あの氷竜に関して考えても仕方ないだろう。ここで野営して最低限の体力を回復させてから別の街へ向かうと言うのが妥当だと思うが」

 

「だが、そこでも同じことが起きてたから……」

 

「また救助をして別の町に向かうだけだな。そもそも、集落を切り開こうにも不可能だろう。大人の男が1名もいないのではな」

 

 逆に女は5人いて、後は子供だ。

 指揮官はこの世界の暦など知らないが、敵とてわざわざ祝日を狙う義理もないのは道理だろう。

 そして、女子供だけでは開墾などできはしない。

 

「お、おう……」

 

 冒険者は厳しい自然と闘い、そして魔物と戦うからには自然と現実主義になっていく。

 それでも、指揮官のこれは度が過ぎるのではないかと思った。

 情とか言うものをまるで無視して現実的な選択肢を一つ一つ並べて、どうするかを問うだけだ。

 考えてはいるのだろうが、他人事だ。

 

「それでだ……」

 

「……で」

 

 指揮官が詰まった。

 今にも舌打ちしそうな表情だ。

 

「どうした?」

 

「悪いが、名前を聞いていなかったな」

 

 自分のミスに厳しいタイプは、実際目の前にいて機嫌が悪そうにしていたらたまったものではない。

 が、前に立った少女は視線を宙にさまよわせて憂鬱そうにしていた。

 指揮官の凶相を気に留めるだけの心の余裕すらもなくしている。

 

「……」

 

 話を聞いていない。

 

「おーい。……おーい?」

 

 グレゴリーが目の前で手をぶんぶん振っても気づかない。

 

「どけ」

 

「ちょ……ま……」

 

 指揮官は手を振り上げて目の前でパンと手を合わせた。

 

「……わ! ……え?? あ」

 

 少女はびっくりして呆然としている。

 年若さ相応のようでいて、子供のようなアンバランスな表情は魅力的だ。

 

「で、名前は?」

 

「エカテリーナ・クリュシナと申します。……助けていただいて、感謝します」

 

「ああ」

 

 指揮官に対して、それ以外になんかないのかよ、と思うグレゴリー。

 

「あの、あそこから連れ出していただいたばかりか、食べ物まで」

 

「まあ、あったからな」

 

 休憩中に水とカレーを振舞った。

 が、指揮官自身はそれを利用しているだけで自分のものなどとは思えなかった。

 しかも、勝手に補充されていくのだから元手はタダだ。

 

「……?」

 

「気にするな。で、どこに行くか希望はあるか?」

 

「え……この状況で、どこかなんて」

 

「まあ、それもそうか」

 

 どうやら、彼女には他の街に身寄りがないらしい。

 いろいろと背景を想像できるが、そこは言及しない。話したければ話せばいい。

 けれど、話してつらいことを無理に聞き出す趣味もない。

 

「なら、最寄りの街に行くしかないな。だが、ある程度の規模がないとどうしようもないが……グレゴリー?」

 

「それだと、あそこだな」

 

「良し。では、そこに行こう」

 

「即決だな! もっと考えた方がいいんじゃねえか」

 

「いや、俺は街の事情など知らんからな。まあ、他にいいところがあれば後で教えてくれ。……どうせ、この様子では1日2日では動けまい」

 

 災害直後の強行軍は冷気から逃れるためだ。

 ここでなら、移動の前に体を休めることもできるだろう。着の身着のままで、どれだけ休めるかは分かったものではないが。

 

「まあ、それもそうだが……ああ! 分かったよ! そこんところは俺が考えてやるよ!」

 

「そうしてくれ。で、エステカリーナ……何かあるか?」

 

「はい?」

 

「いや、我々が保護している子供たちや女たちについて一番詳しいのはお前だからな。何か必要なものがあったら言え。なんとかできるものならするし、できないならどうしようもない」

 

 手厚い保護か、それとも無責任なのかよくわからない指揮官の言葉だった。

 

「……ええと。あの、そんなこと私に言われても。それに、子どもたちのことなら神父様のほうが。……あ」

 

 その神父とやらも街で凍っているのだろう。

 思い出したように途中で言葉を止めてしまった。

 

「別に今でなくても思いついたら言ってくれればいい」

 

 指揮官はそれだけ言い捨てて去った。

 

「……あの人、なんなんですか?」

 

 少女の言葉にはまったく悪意と言ったものもなければ、好意的なものもない。

 完全にーー意味が分からなかった。

 

「いや、まあ……ああいう奴なんだろ。ガキどもにゃけっこう甘い顔してるぜ。いや、あの女の子たちには……かな……」

 

 微妙な顔。

 数日一緒に旅をしていてれば、よく話をせずとも指輪には気付く。

 そして、その女の子たちも過剰なスキンシップを取ろうとする。

 

「なんで……あの子たち」

 

 かすかな不快感。特に長門あたりは世話をしている子供たちと変わらない年頃に見える。

 そんな彼女たちに指輪を与えるなどと、笑い話として流せない。

 冗談だったら一生モノのトラウマだし、本気だったらそれはそれで大問題だろう。

 

「やめとけ」

 

「なんで……ッ!」

 

「気付いてなかったか? あいつら、指揮官とあんたが会うのにいい顔してねえんだよ。指揮官の方はよくわからんが、向こうは完全にその気になってるんだろうな。それに……いや、なんでもねえ」

 

 引き離そうとすれば当の本人、年端もいかないように見える少女たち自身に殺されてしまう可能性もある。

 それだけのものを感じていたし、実際に自分たちを引き裂けるくらいの腕力があるのは知っている。

 一度だけ、冗談で別行動しないのかを聞いたことがある。……少女たちには殺気を向けられた。生きた心地がしなかった。

 

「……」

 

「ま、あんたはあんたのガキどものことだけ考えとけよ。他人の事情に首を突っ込んでもいいことはねえぜ」

 

「……それは、悲しい話ですね」

 

 少女は目を伏せる。

 

 

 そして、指揮官は囲まれていた。

 

「さて、どうであったかの……? あの女とのお話は」

 

 長門はどこからともなく扇子を取り出して口元に当てている。

 それは正月衣装の一部だったはずなのだが。

 

「どちらかというと冒険者の男との話し合いになったがな。まあ、まだ呆然としていたよ。あの様子では、これからどうするかを決めることもできないだろう」

 

 とはいえ、いつものことだ。

 逃がさない、との気迫はあるが指揮官自身に疚しいことがないから気後れしない。

 あの女とは正銘、何もないのだから。

 

「これから……? 指揮官はあやつをどうするおつもりか?」

 

「適当な街に任せればいいだろう。女と子供だけでは少し不安だが、そこまで面倒を見切れない。自己責任で頑張ってもらうしかないな」

 

「……お兄ちゃん、あの人たち大丈夫かな?」

 

「さて、ね。そこは努力次第だろうさ……当面は俺たちで保護するがね。ああ……それとも、ユニコーンはあいつらと一緒に居たくなったか?」

 

「ううん、そんなことない。ちゃんと、ちーちゃんとくーちゃんともさよならできるよ」

 

 ニコニコ笑顔で言った。

 ユニコーンは子供たちと一緒になって遊んでいた。名前を出したのは特に仲良くなった子だろう。

 もちろん、さよならとは街でのお別れであり、永遠の別れなんて意味は一切含まれていない。

 

 ちなみに、艤装を解かない長門は警戒されて遠巻きにされて、それで涙目になっていた。

 

「……ゲームしたい」

 

「右に同じく、です」

 

 このラフィーと綾波は、子供たちに興味すら示さなかった。

 仕事としてはきっちりと果していたが……そこは指揮官も同じだった。

 二人にゲーム機を投げ与えつつ。(なぜか母港に在庫があった)

 

「エレバスはどう思う」

 

 仕事はしつつも皆から離れて見守るような形をとっていた彼女は何を考えているのかわからない。

 普段から分かりづらい話し方をしているだけに、余計に。

 

「ウィッチとの契約とは、望みを叶える代わりに、そのヒトの魂を永遠に離れないようそばに縛り付けること……指揮官、あなたの望み…教えて?」

 

 ふわりとほほ笑んで手を差し出す。

 彼女らしい分かりづらい言葉だが、それはきっとこういうことなのだろう。

 

「それなら、一緒に居てほしいな。……ずっと、ね」

 

 彼女の手の甲に口づけた。

 そのあと、ずるいずるいと言いながらもみくちゃにされてしまった。

 

 

 

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