機動戦士ガンダム LostCentury   作:Gust/81

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どうも、Gust/81です。
ようやく前々から妄想していたオリガンの話を書き始めました。

語彙力も文章力も無いに等しいですが、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。

失踪はしない"予定"です。
なるべく完走したいと思っています。できたらいいな…。

おかしい部分などはご指摘頂けると幸いです。

Twitterの方で読んだ感想等頂けると泣いて喜びます。

どれだけ時間がかかるか分かりませんがどうぞよろしくお願いします。




それでは本編スタートです。


失われた時代

「……。」

 

 何もない荒野。世界中を覆いつくす様な曇り空。その中に1人立ち尽くす少年がいた。

 

 直前までの記憶は無く、何故こんな場所に立って呆然としているのか覚えていない。思い出すこともできず、更に言えばいつからこんな場所に立っていたのかすら不明瞭だった。

 状況確認のために周囲を見回す。

 

 

「……っ!?」

 

 

 真後ろを振り返ると、仰向けに倒れるMS(モビルスーツ)の姿が見えた。

 

 105ダガー、少年にとっては決して忘れてはいけないMSだった。人型兵器であるはずのぞれは左腕を捥がれている他、注視せずとも傷だらけと分かる無残な姿を晒している。

 

 先程までの疑問を放って、少年はMSの元へと駆け出した。噴き出す汗に顔を覆われても、構わず走った。

 

 

 巨人の爪先をよじ登り、脚の上を駆け抜け、切り裂かれた胴体へと向かう。カラフルな装甲が、鉄灰色の傷に上書きされていた。赤熱化や放電はしていない、受けてから時間が経った傷だ。

 

 その深淵を躊躇いなく覗き込んで、愕然とした。

 

 中年の男が、力なくコックピットにもたれかかっている。装甲やモニターなどの機体の一部であったであろう破片が、男の服や肌に血を滲ませていた。背後のシートも既に赤く染まっていた。

 助かる、とは思えなかった。

 

 それでも少年――トウドウ・イブサは、男に呼びかけた。

 

 

「父……さん!」

 

 

 声に気付き、男はゆっくりと目を開いた。瞼ですら、重荷であるかのように震えている。

 

 

「………イブ、サ……。」

 

「父さん!!」

 

 

 まだ生きている。そう思えた。

 縋る様に男へ手を伸ばした。

 

 

 どういう訳か、すぐそこなのに手が届かない。

 

 

 男も震える手をどうにか持ち上げて、イブサへ伸ばしていた。その手のひらに破片が貫通している。そんな手で触れあえば確実にどちらかが痛い目を見るだろうが、お互いそんなことに構っていられなかった。

 

 生きてさえいれば、その破片を取り除いて、手を治療すれば。握手でも何でもいい、お互いの生存を確かめ合える。

 

 届け。

 

 届かない。それどころか、段々とイブサと男との距離は開いていく。

 

 

「父さん!父さん…!」

 

 

 声の限り、声の限り叫んで、それでも意識が薄れていく。確かにそこに在るものが、いる人が、ぼやけて遠のいていく。

 

 自分の声すら例外ではなく、何を叫んでいるのかすら分からなくなっていく。

 

 

「イブサ……イブサ……」

 

 

 聞こえていた声も、違う人物の声にすり替わっていく。

 

 もう、届かない―――?

 

 

 

 

 

「おいイブサ!」

 

「っ……!?」

 

 

 目が覚め、瞬間的に身体がビクついた。

 いつの間にか息を切らして、自然と酸素を求めて呼吸を繰り返す。そのまま眼だけを動かして周囲を確かめた。

 

 MS運搬用の大型トレーラー、その座席に座ったまま眠っていたようだ。運転席に座る高身長の少年が続けて話しかける。

 

 

「まーた"あの夢"か?」

 

「あぁ…。」

 

「嫌ならもっと違う夢見る努力でもしな。」

 

「それができるならもうやってる。」

 

「ははっ、違いない。悪かったよ。」

 

 

 茶髪を逆立て、デニムジャケットとジーンズで身を包んだ少年の金色の瞳は、安全運転の心掛けから正面を動こうとしない。

 

 その首に巻いた橙色のラインの入った白いマフラーが膝に垂れている。

 

 思えばいつものことだった。専属運転手のランディ・ハインに運転を任せた二人きりのトレーラー内で、早々に話題が無くなれば黙って外の景色を見つめ、気付けば眠っている。夢の内容もさして変わることもなく。

 

 どうも夢には没入してしまうタイプのようで、毎度毎度と本気になっては目覚めに困惑して、そして安堵する。

 

 いつも通りだ。

 

 

「目的地にならもう着くからな。とっとと漁りに行こうぜ。」

 

「あぁ。」

 

 

 停車したトレーラーのドアを開け、道路に降り立つ。

 

 紫がかったやや長めの黒髪に、タンクトップとカーゴパンツを纏った少年、イブサの銀色の瞳が目的地を捉える。

 

 ここはとある荒野の真ん中に佇む街だったものの廃墟。恐らくは無人だ。

 

 ビル等の建造物は全てボロボロだが、今まで見てきた限りで言うと割と形が残っているのは珍しい方だ。

 

 誰が話していたか、今の地球の陸地は60%以上が荒野と化しているらしい。出鱈目だという声も多かったが。

 

 そんな中でこうして"街"として認識されているだけ、ここはまだマシなのだろうか。

 

 

 そんなことを考えながら、黒いコートに袖を通し、街の奥へと踏み込んでいく。

 

 

「あればいいんだがなぁ、MS。」

 

「そうだな。」

 

 

ランディの呟きに短く相槌を打つ。

 

 

「まだ落ち込んでんのか?確かにあれはヘマだったかもしれねぇけどよ。仕方ねぇって。」

 

「別に落ち込んでない。」

 

「へいへい、分かりやすい奴め。」

 

 

(口の減らない奴…。)

 

 加えていつもヘラヘラしているのだから腹立たしい。そう思いながら顔を逸らした。

 

 

 今日ここに来た理由は、新しい戦力になるMSを探しに来たからだ。

 

 先日敵に襲撃を受けた時、相手と相打ちになってイブサのMSが撃墜されてしまった。自身は間一髪脱出に成功したが、このままではまた襲撃を受けた際に為す術がない。

 

 護身の為にも、この世界で最高の戦力であるMSが必要なのだ。

 

 

「…無さそう、だなぁ…。」

 

「あぁ…。」

 

 

 大通りを進みながら辺りを見渡すが、MSらしきものは見当たらない。ビルに戦車やヘリコプターらしきものが時折めり込んでおり、ランディはそれらに目を奪われては一目で無用の長物と分かる様相に肩を落としていた。

 

 

 この世界は過去の大戦の名残なのか、MSはその辺りにゴロゴロ転がっている。MS以外の兵器も同様に、その場で動かせるものから、ズタズタに破損したものまで。

 

 戦前に存在したあらゆるシステムが機能していないこの世界で、人々は争いの道を辿り続けている。争いに加わる気が無い者だろうと、財産があればそれを狙われる。

 

 その身を守る為には武器がいる。先人達が遺したMSという武器が。

 

 

 

 

 成果もないまま進んだ二人の目の前には広大な十字路が広がっていた。

 

 

「どうするよ。手分けかい?」

 

「いや、どうせ俺達以外ここに人はいない。まず右から―」

 

「おい貴様ら!」

 

 

 最中、突然の怒号が会話を遮った。

 

 

「…!?」

 

 

 向こう側から大柄な男二人が姿を現した。汚らしい格好に機関銃を携えている。

 

 

「ここは俺達の根城だ!ホイホイ入ってくんな!」

 

「さてはさっきのガキの仲間か!」

 

 

 五十メートル近い距離からでも響く大声で叫んでいる。

 

 "さっきのガキ"に関しては身に覚えがないが、どう見ても敵対心剝き出しだ。

 

 

「あのガキならどっかに消えたぜ。てめぇらもとっとと立ち去れ!でないと撃つぞ!」

 

 

 大型の機関銃がこちらへ向けられた。銃口が鈍く光を反射する。こちらの武器は拳銃一丁、はっきり言って勝ち目はない。

 

 ニヤニヤ顔こそ崩していないが、流石にランディも冷や汗をかいていた。

 

 

「調査不足だったみてぇだな…。どうするよ…。」

 

「多分、どの道撃たれるだろ。」

 

 

 こういう奴らは大体何をしてもこちらを撃ってくる。こちらの食料なり武器なりを自らの物にしたいと思っているはずだ。つくづく野蛮極まっている。

 

 状況を再確認する。相手は機関銃を携えた暴漢が二人。対してこちらは僅かな武器しか持たない自身ともう一人(ランディ)

 

 

「だとしても答えは一つ、歯向かうだけだ…!」

 

「……OK!」

 

 

 一拍置いてランディが応えた。

 

 

「俺が引きつける。お前はトレーラーをここまで運んで来てくれ。」

 

「背中は任せろってか?頼んだぜ。」

 

 

 専属運転手と呼ぶのは皮肉でもなんでもない。相応しい腕前を持っているからだ。

 乗り物を駆る時のアイツにはずっと世話になった。

 

 手短に作戦を伝えると、手近な足元の廃材を拾い上げた。恐らくその辺りのビルのコンクリート片だ。

 

 そして声を張って言い返した。

 

 

「あぁ悪かった、すぐ立ち去る。コイツはそのお詫びだ!」

 

 

 拾い上げた廃材を放り投げた。

 

 "お詫び"という表現もあってか、間の抜けた男達の注意はそれに向いている。結果、男達には直撃はせず、その真後ろに落下した。

 

 当たらなくても隙さえできれば―――。

 

 

「今だランディ!」

 

 

 イブサの指示とほぼ同時にランディは来た道へと駆け出した。

 

 

「ただの石じゃねえか!」

 

「野郎ふざけやがって!」

 

 

 男達がこちらへ銃を向ける前にイブサが拳銃を取り出し発砲した。四発放って、それで今のカートリッジは空洞になる。

 

 男達が怯みながらも回避している間に、十字路の右側へ走り出す。

 

 

 止まったらやられる。

 

 

 すると、目の前のビルの壁に大穴が空いているのを見つけた。

 

 僥倖だ、あそこなら少しは凌げるか。穴へと滑り込み、ビルの内側に隠れた。

 

 

 座り込み、弾切れした拳銃をリロードする。残弾は六発と正直心許ない上、それで持っている弾は最後だ。この六発を無駄にすれば蜂の巣にされるのは此方側だ。

 

 それにしても相手からの発砲が一切確認できない。まだ撃ってこないということは、ランディがどうにか逃げ切った上で自身も上手く隠れられたということ、でいいのだろうか。

 

 兎にも角にも状況が見えない。壁から慎重に顔を出すと、男の目と機銃の銃口と目が合ってしまい即座に顔を引っ込めた。

 

 先程まで顔があった場所を銃弾が一発通過していく。

 

 見つかっているからには奴らはここに向かってくるはず。

 

 しかし、男らは壁周辺に機銃掃射を始めた。何発かは建物の奥へ吸い込まれては音を立て、他は地面や壁から着弾音を響かせる。

 

 このままじゃ動けない……。

 

 そう思っていた刹那、それは聞こえた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「!?」

 

 

 女の声だった。

 

 イブサより若干背の低い少女が、穴を挟んで反対側に同様に隠れていた。

 

 白いワンピースをごと丸まって、頭を抱えて震えている。

 

 

 何故こんなところに?

 

 

 一時的に銃声が止む。

 

 恐らく弾を撃ちきってリロードしているのだろう。

 

 脱出には絶好のチャンスだったに違いないのだが、イブサは完全に少女に気を取られていた。

 

 

「……収まった――って、わあぁ!!?」

 

「なっ……!?」

 

 

 ベージュ色のミディアムヘアが吃驚に揺れ、翠色の瞳が見開いた。

 俺に気付いてなかった?

 

 

「ふぇっ、だ、誰?」

 

「君こそ誰だ!こんな所で何をしてる?」

 

「私は、そのー、色々あって…!後で話すから助けて!」

 

 

 幼い少女は手を合わせて頼み込んできた。

 

 何を言っているのか?突拍子の無さに思わず心中がそのまま声として出力された。

 

 

「はぁ?何を言って―」

 

「その声、さっきのガキかぁ!!」

 

「仲良く地獄へ落ちな!!」

 

 

 機銃掃射が再開される。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 少女がさっきと全く同じ悲鳴を上げた。

 発射地点であろう距離から微かに笑い声が響いている。暴漢どもは思った以上に悪趣味なようだ。

 

 脱出のチャンスを逃してしまった今、奴らがここに直接出向かず、このままもう一度弾切れを起こすことを祈るしかない。

 

 そしてもう一つの問題はこの少女だ。

 

 彼女を保護すれば、恐らく食料を媚びるなり掏るなりが目的と見た方がいい。

 

 何よりイブサは他人との接触を避けたかった。物盗りである可能性を捨てきれないからであるが、何よりも――。

 

 

(人を助ける事は、俺には―――)

 

 

 

 

 

 

「っ……た、助けて……!」

 

「―ッ!」

 

 

 

 ―――しかし、このまま彼女を放って行っても後味が悪い。

 

 結局そう考えてしまうのがイブサであった。

 

 

 これで彼女を助けられなかったら、俺は―――

 

 

 勿体無いが、虎の子を使うしかなさそうだ。

 

 

 自身の性分に半ば呆れつつ、残り一発の手榴弾を取り出し、ピンを抜く。

 

 

「こいつで…!」

 

 

 敵の射撃が止むのを見計らい、手榴弾を敵の方へ放った。

 

 

 男二人はすぐそこまで転がって来た手榴弾を見るなり、慌ててその場から退避した。爆発が起こり、爆音と衝撃が飛散する。

 

 爆炎の止まぬ内にイブサは少女へ手を差し出し、声を掛ける。

 

 

「死にたくなかったら着いてこい!」

 

「え……?――っ!」

 

 

 一瞬こそ戸惑いもしたが、頷く少女は縋るようにその手を取った。汗ばんだ少女の手を引いてビルの外に駆け出した。

 

 

「ゲホッ…あいつらァ…!」

 

 

 男達が煙を突っ切って姿を現す。背中を向ける刹那、視界の端に此方を睨む銃口が映ったその時――。

 

 

「やらせるかよ…!」

 

「なにぃ…!!?」

 

 

 ランディの操る大型トレーラーが突っ込んできた。ドリフト走行で薙ぎ払わんとするトレーラーから男達は大慌てで逃げ出した。

 

 急ブレーキを掛けたトレーラーのドアが開き、そこからランディが叫ぶ。

 

 

「イブサ、乗れ!」

 

「ランディ!」

 

 

 少女の手を引いたままトレーラーへと走る。

 

 

「…なんだ、その子?」

 

「成り行きだ。早く乗せろ!」

 

 

 少女を先に押し込んだ後、自身も乗り込む。

 

 二人を乗せるとランディは改めて運転席に座りハンドルを握った。

 

 

「行くぜ、掴まってろよ!」

 

 

 ペダルを踏み込みトレーラーを急発進させた。MSを軽々運べる馬力を持っているので、見た目に反してスピードは出る。

 

 道路を突き進み、早々に都市から砂漠へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 一方、男達も黙ってはいなかった。

 

 

「クソ、奴らめ!」

 

 

 食料の不足を危惧していた彼らにとってはイブサ達の出現は打って付けだったのだ。出所は兎も角、少し前まで多少はいい飯を貰えていただけに、彼らの人としての本能である食欲が飢えていた。イブサ達も食料が底を尽きかけていたのだが、男らには知る由もない。

 

 

「おい、ザクを出すぞ!奴らまだ遠くには行っていない筈だ!」

 

「おう!」

 

 

 男達は更なる"武器"の下へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く後ろを警戒していたが、段々と小さくてなる廃墟に動きが見えないことを確認したイブサは、正面へと座り直しては息をどっと吐いた。

 

 

「危なかったな…。助かった。」

 

「お前の油断でこうなったんだからな、感謝しろよ?」

 

 

 ランディが嫌味で返した。

 

 普段は慣れているので何とも思わないが、今回はその通りだから少々申し訳なく思う。少々と付け加えるのは彼の口調への苛立ちが隠し切れないためだが。

 

 

「―――んで、そいつは誰なんだ?」

 

 

 ランディが話題を変えた。

 

 少し怯えている様に見える少女を横目に、出会った経緯を説明する。聞いてきた割には余り興味を示してないようにも見えたが、運転に集中している時の彼は大概そんな調子だ。

 

 

「ふーん…、ってか名前だよ、名前。」

 

「名前?あー…、えっと、名前…。」

 

 

 そういえば訊いていなかった。

 

 少女の方を向くと、少女は微笑んで答えた。

 

 

 

「私はアリア、アリア・グレース。貴方は?」

 

「俺はトウドウ・イブサだけど。」

 

「俺はランディ、ランディ・ハインだ。よろしく!」

 

 

 三人はそれぞれ名前を交わし、記憶する。いや、記憶してどうする?別にお友達になりたい訳でもあるまいし。呼びやすくなったのはともかく、何処か適当な所で降ろさないと。頭の片隅でそう考えつつ、イブサはアリアに質問した。

 

 

「それで、君は何故あそこにいた?奴らの仲間でもないらしいけど…。」

 

「あー…、えっとね、…迷子、かな?」

 

 

 冷や汗を垂らしながらそう答えた少女に、イブサは心底呆れてしまった。こんなご時勢にあんな場所まで一人で流れ着く子供にも、そこまで見失う親にも。

 

 

「君位の歳の子が、あんな所で一人で行くもんじゃない。」

 

「何よそれ、同じ位の歳っぽいトウドウだって、二人だけであそこに来たんでしょ!」

 

「イブサでいいよ…。俺達は戦い方を知ってる。君と違う。」

 

 

 返す言葉も無いのか、アリアは頬を膨らませて睨み付けてきた。俺達が戦えなかったら今頃自分も助かっていなかっただろうに。また溜息をついた。

 

 

「…君は親の所に返す。親の場所は分かるか?」

 

「親…と言うか、保護者?…ならいるよ。」

 

 

 何故言い淀んだのだろう、どちらも同じでは?

 

 

「何でもいい。その保護者の場所を―――」

 

 

 "保護者"の行方を尋ねようとしたその瞬間、ランディが声を掛けた。

 

 

「あー、お喋り中に悪いんだがね、奴ら追ってきてる。」

 

「―!?何だって!?」

 

 

 イブサは驚き、ミラーで後方を確認したが何もいない。―――いや、見えはしないが、微かに聞こえる。人間の歩行と似た間隔で重低音と振動が揃って近づいている。MSの足音だ。

 

 

「何故奴らだって?」

 

「こんななんもない砂漠に、喧嘩売った奴の始末以外で来る奴はいねぇって…!」

 

「どうするんだ!」

 

 

 引っ込みつつあった汗が再び滲んでくる。生身に対してMSなど出されたらどんな小細工も真っ向勝負も通用しない。座して死を待った方がマシだ。だが、当然人間としての生存本能も負けてはいない。どうにかしなければと思考がフル稼働する。

 そこにアリアが割り込んできた。

 

 

「ねぇ!あそこに隠れたら?」

 

 

 そう言いながら指差した先は、数キロ先の小山の麓に佇む廃墟だった。

 

 少々心許ない気もするが、MS対武器のないトレーラーという不利な状況では隠れる他ない。見つかる可能性は正直言ってそこまで低下しないだろうが、あの建物に地下でもなんでも上手く隠れられる場所があればと縋らずにはいられなかった。

 

 

「よし、そうしよう。車はここで乗り捨てるぞ!」

 

「生き残るためだ、しゃあないか…!」

 

 

 まだ距離がある内にトレーラーを降り、最後の望みを賭けて走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!あの車だ!」

 

 

 男達がそれぞれ乗り込むザク二機が、停車したトレーラーを発見した。

 

 片方はF2型にMMP-80 90mmマシンガンとヒートソードを装備、もう一機はC型にバズーカと肩部シールドにミサイルポッドを備えている。

 

 視界を拡大したモニター越しにトレーラーを確認する。

 

 

「クソっ、もぬけの殻だ!」

 

「おい、もしかするとあいつら、あの建物に逃げたんじゃねぇのか?」

 

 

 C型がマニュピレータで数キロ先の廃墟を指差した。どう見ても隠れるならアレ以外にない。F2型に乗る男は歯を剥き出し不敵に笑った。

 

 

「なるほどな、見た感じ逃げ場はあれしかない。今度こそとっ捕まえる!」

 

「おう!」

 

 

 ゆっくりと、しかし人間よりも幅の広い一歩一歩で、二機のザクは廃墟へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い施設内に懐中電灯の光が通る。その懐中電灯を握ったイブサが先に、後ろからランディ、アリアと付いて行く。

 

 天井は抜けておらず、電気が通っていない上、戦争の影響によって晴れなくなった空といった環境が合わさり、施設内は真っ暗闇だった。エントランスの様な場所から、奥の廊下へと進む。

 

 進む間にも、MSの歩行による地響きが遠くから近づいてくる。アリアは既に怯えていた。

 

 

「きゃっ…!」

 

「ビビり過ぎだって。まぁ聞こえてはいないだろうけど、隠れた気でいたいなら静かにした方がいいぜ。」

 

 

 そんなアリアをランディがなだめた。

 

 続いてイブサが私見を口にした。

 

 

「俺達がこの建物にいる事は向こうも察しているだろうな。」

 

「ええっ!?じゃあどうするの!?このままじゃ私達…!」

 

「あぁ。せめてここに地下でもあれば…。」

 

 

 そう言っている間に廊下の行き止まりまで着いた。そこは壁ではなく、エレベーターのドアだった。

 

 壁にある文字を、被っていた埃を払って読み解く。

 

 

「地下専用…と書いてある。」

 

「えっ、イブサこれ読めるの?」

 

「ん、あぁ。少しは。」

 

 

 ちゃんとした学を受けられる環境が限られていることは分かっていた為、他人が字が読めなかろうと気にした事は無い。素っ気なく返しながらエレベーターを操作してみる。

 

 錆びている影響で動きはぎこちないが、どうにか動いてくれた。

 

 

「よし、乗るぞ。」

 

 

 乗り込み、軋む様な音と共に下降するエレベーターに無言で揺られる。まだ安心とは言えない。抜けない緊張感が言葉の放出を制限させた。

 

 最下層に到着したエレベーターは招き入れるかの様にドアをスライドさせる。錆によって耳障りな音を立てて動くドアは三人の不安感を煽る。

 

 再び続く廊下の奥へと三人は歩き出した。緊張の糸が解けたランディが余裕そうな声で言った。

 

 

「まぁまぁ下まで来たな。これならやり過ごせるかもな。」

 

 

 あぁ、と素っ気なく返した。

 

 

「あの人達、諦めてくれるかな…。」

 

 

 まだ不安を拭いきれなさそうなアリア。確かに、もしかするとこのまま出待ちされるかもしれない。そうなれば外に出た途端に殺されてしまう。そうで無くとも、奴らのMSによって建物ごと吹き飛ばされても可笑しくはない。

 

それだけの力がMSにはあり、今のイブサにはその力が無い。

 

かと言って去ってくれるまで待とうにも、いつ退いてくれるのかもこんな地下では知れたものではない。確認に外へ出て鉢合わせ、とでもなったら最悪だ。

 食糧だって不足している。手持ちは僅か、この施設の食糧ももう漁られているかもしれない。探すにも光の届かない地下には懐中電灯が必須で、その電池残量も恐らくは半分程度。

 余りにもできる事は限られていた。

 

 イブサは自分の無力さに苛立ち、奥歯を噛み締めた。こんな誰にも知られない暗闇の底で飢え死になんて認められない。

 

 無力な自分でいたくない。

 

 まだ死にたくない。

 

 今、自分にできる事を探さなければ――。

 

 

「……っ!」

 

 

 気付けば無言のまま廊下の奥へと足早に進んでいた。

 

 

「ちょっとイブサ?待ってよ!」

 

 

 アリアがすぐに追いかけ、ランディはやれやれと言った物言いで付いて行った。

 

 

 

 

 突き当りの錆びついたドアをこじ開け、慎重に内部へ侵入する。ドアの開放音と足音にエコーが掛かる。随分広い部屋らしい。

 

 

 懐中電灯で辺りをひたすら見回した。

 だだっ広いだけのもぬけの殻は御免だ。何か、何かないのか……。

 

 

「――ん…?」

 

 

 一度通過した場所をもう一度照らし直した。暗闇に覆われた施設の中に、鮮明な赤色が映った。壁の灰色とは質感が異なっている。

 

 その周辺を照らしてみると、赤色の中に金属製の物体が埋め込まれているのが見えた。小型のスラスターノズルだ。

 

 

「MS…の、足裏?」

 

 

 イブサは詳しく調べようと、下から上へと灯りを動かす。

 

 

 赤い爪先。純白の脚部。黄色い腰パーツ。細い腕部。ここまで見て、そのMSが長座の姿勢になっていることが分かる。

 大型の肩部。青い胴体に黄色いダクト。

 

 そして、翠色の鋭いツインアイと二本のアンテナを備えた特徴的な頭部―――。

 

 

 イブサは目を見開いた。このMSを知っている。父に読まされた本に、確かに載っていた白い巨人。何と無く気に入って、その数日間何度か読み返しては、目に焼き付けていた、そんな記憶を蘇らせるのに十分な十八メートルの巨体。

 

 

 見る者によって救世主とも、悪魔とも呼ばれたとされるそれは―――。

 

 

「―――ガンダム!」

 

 

 驚嘆する他なかった。

 

 様々な文明が失われたこの時代にすら語り継がれた伝説が、ここまで原形を留めてこんな所に安置されていたのだから。

 

 決してガンダムタイプの機体を見たことがない訳ではない。だが、今目の前に佇むそれは、彼が本で見た"ガンダム"に、色も形も一番近かったのだ。

 

 

 完全に呆けてしまったイブサだったが、近づくMSの足音に意識を引き戻される。

 

 今はこうしている場合ではない。目の前にあるからには、このガンダムを使うしかない。そんな決意が一瞬で頭の中に組み上がる。

 

 アリアと一緒に追いついてきたランディが言った。

 

 

「おい、奴らもうすぐそこじゃないのか?どうすんだ!」

 

「…コイツを使う。」

 

「コイツ?どいつの事だ?暗くて見えねぇぞ?」

 

「話は後だ、ここで待ってろ!」

 

 

 走り出した背後から少女の声が響く。

 

 

「ちょっと、イブサ!」

 

 

 足首をよじ登り、脚の上を駆けていき、まずは胴体の眼前まで向かう。

 

 

「コックピットは…何処だ…!」

 

 

 ふとガンダムの首元を見上げると、胸部の装甲が不自然に前に出っ張っていた。

 

 

「あれか…!」

 

 

 胴体が起き上がっている為、これを登らなければならない。何故長座なのかと言う当てのない文句を心に留めつつ、排熱用のダクトをよじ登り、胸部まで登り詰める。

 

 胸板が前にスライドしていて、その下にコックピットが存在していた。予想は的中だ。ここまで来て腹部装甲がコックピットハッチですなどと言われたら一度装甲を殴りつけていたかもしれない。

 

 

「ランディ!アリア!下がってろ!」

 

 

 懐中電灯をランディへと投げつけながら叫んだ。ランディが懐中電灯をキャッチしながら叫び返す。

 

 

「あ?あぁ、分かった!お前に任せる!」

 

 

 二人がエレベーターへの廊下へと戻るのを確認してから、コックピットへと飛び乗った。少々乗り方が悪かったのか背中や臀部に軽く痛みが走るが、構っていられない。

 

 座席に人間が収まったことを認識したかの様に一つのスイッチが点灯した。唾を飲み込み、慎重にスイッチを押す。

 

 その瞬間、息を吹き返す様に電子音が鳴り響き、中央のコンソールパネルが光った。

 

 

「よし、動くぞ…!」

 

 

 パネルに様々な情報が表示された後、型式番号と機体名称らしき単語が表示された。

 

 

 KRX-82-1

 

 AUGUS GUNDAM

 

「…オーガス、ガンダム…。」

 

 

 イブサは反射的にその名前を復唱していた。

 その瞬間に名称の表示は途切れ、各操作の説明等が表示される。随分と親切な仕様だ。

 

 イブサは表示を観ながら周囲のスイッチやレバーを入れる。

 

 機体から稼働音が鳴り響き始める。メインの動力の始動のサインだ。

 

 

「モニター表示……こいつか。」

 

 

 正面と左右のモニターが起動し、連動してカメラアイがグリーンに輝く。

 

 完全に灯が入った。

 

 

 これで戦える。ここで出会ったのも何かの縁だ、力になって貰おう。

 

 

「行くぞ、オーガスガンダム…!」

 

 

 操縦桿を強く握り、前へと傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 二機のザクが廃墟のすぐ傍にたどり着いた。

 

 F2型に乗る男は思わず舌なめずりをしていた。

 

 

「へっ、こんな所に隠れようがバレバレなんだよ…!」

 

「注意しろ、奴らまだ抵抗するかもしれん。一応ボスに報告を―――」

 

 

 その後方で様子を伺うC型ザクに乗る男はそう提案したが―――。

 

 

「必要ない!俺らだけで始末して手土産を持ち帰れれば、飯や金の分け前が増える!ボスだってそうやって勝って今のボスに上り詰めたんだろ!」

 

「見つけただけでも手柄だろ!ここで待ち伏せしとけば……っ!?」

 

 

 反論している途中で、相方が異音に気付いた。口論を中断し、機体の集音器が届ける音に耳を澄ませる。地割れの様な音だ。

 

 MSの集音器の性能は高く、目の前の施設の下からであることは同時に理解できた。。

 

 

「おい、一旦下がれ!」

 

「あぁ……」

 

 

 目の前の廃墟の一部が轟音と共に下から突き上げられ、瓦礫が宙を舞い、煙が巻き上がる。

 

 

「うおぉ!!?」

 

 

 驚愕し、衝動的にF2型を後退させた。

 

 なんだと言うんだ?注視してみると、煙の中から地面から生えたMSの腕が現れていた。

 

 動揺する他ない男達の目の前で、もう一本の腕が"生えてくる"。二箇所に大穴を受けた施設は次々に瓦解していく。

 

 再び瓦礫が散る中、その両腕は地面を掌で叩きつけた。

 

 二本の腕の中央に空洞が現れ、緑色に光る二つの目が浮かび上がる。やがてそれは影を振り切り、両腕を支えに大地へと這い上がろうとしている。

 

 

「モビル、スーツ……!?どうしてこんな……!」

 

 

 怯える男達の前に出現する白い悪魔。地を割って這い上がるその姿は、屍が墓から蘇るかの様だった。

 

 

「ありゃあ、ガンダムじゃねぇか…!?」

 

 

 

 

 

 

 目前の二名の恐慌など知りもしないイブサは、機体の制御に四苦八苦していた。反応速度が今までに乗ってきたMSの倍以上あるように感じる。

 派手に天井から建物までを右腕でブチ抜いたのかと聞かれれば、パンチの加減を間違えてブレーキを掛けた頃には地上に右腕だけを晒す形になってしまっていたからだ。

 結局順に左腕からの胴体と悠長な出撃を披露する羽目になったが、何やら敵の動きも止まっていたのは不幸中の幸いだった。

 

 

「頼む…立ってくれ…!」

 

 

 フットペダルを強く踏み込むとバックパックのバーニアが青い火を吐き、白い巨体を押し上げる。支えにしていた両腕を誤って浮かせてしまう位に。これの威力も肌で桁違いだと理解できる。

 

 

 高く上げた右足が地面を踏みしめたが、バランスを崩し膝をついた。

 

 

「立てよ…!」

 

 

 両腕と右足で機体を支えながら左足を持ち上げ、地を踏みしめる。リカバリーを重ねに重ねて、片膝立ちという結果にはなったが、どうにか地上に出ることができた。

 

 

 改めて機体を立ち上がらせる。

 

 

 長い眠りから覚めたガンダムが大地に立った。

 

 

 

 

 C型に乗る男は完全に想定外の光景に怯えていた。

 

 

「おい、どうすんだよ…!なんでガンダムが…。」

 

「奴ら、これを狙ってここに誘い込んだのか…!」

 

 

 深読みの推理をするF2型の搭乗者は、それでもなお欲を選ぼうと判断していた。

 

 

「だが、俺達でガンダムを倒せりゃ、ボスだろうが何だろうが…!お前も手伝え!」

 

「嘘だろ…。し、仕方ない…やってやる!」

 

 

 相方がそう応えると、後方支援のために機体を後退させた。

 その隙をカバーするべくF2型がC型とガンダムの間に割り込み、マシンガンの銃口をガンダムへと向けた。

 

 

「っ…!武器はどれだ…!」

 

 

 一方のイブサは撃たれる前にマシンガンの破壊を試みようとしていた。しかし武器の検索も間に合わず、マシンガンから銃弾が吐き出された。

 

 装甲が何十発もの銃弾を浴び、金属音が響き渡る。しかし機体はびくともせず、装甲には傷一つ無かった。

 

 

「凌いだ…?」

 

 

驚嘆こそしたが手を止める暇は無い。コンソールを叩き武装の情報を探す。

 

 

「頭部・胸部バルカン…ビームサーベル…これだけか!」

 

 

 眼前のザクにロックオンカーソルを重ねて操縦桿のトリガーを引くと、頭部バルカンが発射される。

 

 敵に傷一つ付かなかった上に突然の反撃が重なり、怯んだF2型ザクはバルカン砲の掃射を浴びる。

 

 数発はマシンガンに直撃し、誘爆を起こした。

 

 予想と正反対の結果に男が叫ぶ。

 

 

「何なんだ、こいつ!?」

 

 

 狼狽えながら爆発に乗じてF2型ザクが後退する。

 

 このまま逃す気は無い。オーガスを走らせ、爆煙を突っ切った。黒い世界を抜ければ、その先に標的が見える――。

 

 しかし煙を抜けた結果は違っていた。先程のザクとの距離は想定以上に開いており、別のザクが放ったロケット弾が此方目掛けて迫って来ていた。

 

 

「っ…!!?」

 

 

 バーニアを吹かしつつ脚部でステップを踏み、右へと回避する。

 

 

「さっき下がってた奴か…!」

 

 

 片膝と右手を地面に擦ってブレーキを掛けつつ敵の配置を見る。後方に位置したC型ザクのバズーカだったようだ。

 

 

 此方の決め手は接近戦。あのバズーカなら接近する最中に爆撃で妨害できる。右肩に備えられた六基のミサイルでも叩き込まれればこの機体の装甲でもどうなるか分からない。

 まずはあれを仕留めなければ厄介だ。

 

 

 バーニアを全開に吹かし、C型ザクへとオーガスを突っ込ませる。今の距離間はもう一発バズーカを放つには十分な距離だった。

 

 真っ直ぐに突っ込んで行く此方へとバズーカが発射される。しかしもう一発が放たれる事は予測済みだ。

 

 

「ブレーキ!間に合え!」

 

 そう言えば機体が実行する訳ではなく、当然人の手足が操らなければならない。操縦は欠かさず、それでも本能的に叫んでいた。

 バーニアを停止し、脚部を接地させて急停止、足が擦れて砂塵を巻き起こす。再びバーニアを起動しつつ再び右へと跳躍、回避行動を取った。

 

 

「そんな、直撃コースだったのに…!」

 

 

 射撃の腕前に自身のあった男は動揺を隠し切れない。

 

 オーガスはバーニアを停止して着地する。

 

 

「ビームサーベル…これか!」

 

 

 バックパックから伸びる円筒の二本の内の一本を左手で引き抜く。

 

 

「こいつで…!」

 

 

 円筒の先端から桃色の粒子が展開される。機体の全長の半分程度まで伸びた辺りでその延伸を止めた粒子の塊は、白い巨人の剣となる。

 剣を構え、眼前のC型ザクを捉え、再び突っ込む。

 体感してきた中でも最も強い加速が、イブサの身体をシートに押し付ける。

 

 

「く、来るなああああ!!?」

 

 

 パニックになった男は右肩部シールドのミサイルポッドの六発を全弾発射した。

 まともな照準設定を与えられなかったミサイルの内二基は見当違いの方向へと。残る四発の一基目を回避、二基目をサーベルで切り捨て、三基目はそのまま横を通過、四基目も回避。

 爆炎が背中を照らし、逆光がツインアイの眼光を強調する。

 

 ミサイルを全て捌き切り、再び正面にザクを捉える。

 

 

「ひっ、あ、あああ…!!」

 

 

 その瞬間、男は悪魔にでも睨まれたかのような感覚に陥る。恐怖で操縦桿を握る事も忘れた手が本能的に頭を守る。

 

 悪魔の接近を許してしまった末路は―――。

 

 

 そのまますれ違いざまに、ザクは右肩から斜めに切り裂かれた。着地するオーガスの背後でザクが爆発四散する。

 

 

 味方が瞬殺される光景に、F2型ザクと共に残された男は唖然としていた。

 

 

「これが…ガンダムってやつの、威力なのか…!?」

 

 

 しかし、男は怖気づいたままではいられなかった。このままでは次は自分が殺されてしまう。

 

 ガンダムを奪うことは不可能でも、最悪逃げる隙を作らなければいけない。

 

 

 

 加速に体力を持って行かれていたイブサは、残る敵の存在を思い出す。そうだ、まだ戦いは終わっていない。

 オーガスを2機目のザクの方を向け、サーベルを構え直す。

 

 応じる様に、ザクが腰に掛けていたヒートソードを構え、赤熱化させた。

 剣豪同士の勝負の様に、両者が共に睨み合う。

 

 MS戦の中でも、特に格闘戦は最も油断の許されない戦い。敵の動きを見極めなければ、一瞬にして命を刈り取られてしまう。

 

 集中力を切らせれば、死ぬ。

 

 

 先手を切ったのはザクだった。オーガスへと真っ直ぐに突進し、ヒートソードを振り下ろす。

 

 

「来る…!」

 

 

 イブサは慌てず、機体を逸らして回避した。正面には剣を振り下ろした姿勢のままのザク。反撃のチャンスと呼んでまず間違いない。

 

 すかさず頭部目掛けてサーベルを振り下ろすが、ザクは空いた左手で腕を掴み受け止めた。

 

 

「捕まえたぞ!」

 

「くっ…!」

 

 

 オーガスの左腕を掴んだザクは、その関節を狙ってソードを振り上げた。

 

 

「させるか!」

 

 

 叫びと共にトリガーを引き、頭部バルカン砲が発射される。ザクの右手は60mmの弾丸の雨に晒され、数発が指に直撃。

 

 関節に異常をきたしたザクの右手は、力なく剣を地に落とした。ザクは焦った様に手を放し後退する。

 

 

「逃がすか!」

 

 

 オーガスをすかさず加速させ、ザクに接近する。

 

 

 焦燥しきった男は通信機を開きある人物へのメッセージを叫んでいた。

 

 

「ボス!ヤツが…!」

 

 

 距離が詰められる。

 

 

「ガンダムが…!」

 

 

 白い悪魔が迫る。

 

 

「ガンダムはバケモノだああああ!!」

 

 

 死を前にした脳髄の回路は正常な思考を見失い、自分の感想だけを喉へと出力させた。

 

 

 

 背中を向ける直前のザクのコックピットを、オーガスのビームサーベルが貫く。火花が散り、機械に混じって命が溶けていく。

 

 モノアイが点滅し、やがて眠る様に消灯した。

 

 サーベルを停止した直後、主を消失したザクは地に倒れた。

 

 

 

 オーガスの起動直前に施設から脱出していたランディとアリアは、一連の戦闘を目撃していた。

 

 

「あれがガンダムってやつか…。」

 

「がん、だむ…?あれにイブサが乗ってるの?」

 

「ああ、だろうな。」

 

 

 オーガスの頭部が此方へと向く。

 

 

「ランディ、ザクの残骸を回収してとっとと帰ろう。追手が来るかもしれない。」

 

 

 拡声器越しにイブサの声が響いた。その声に口角を上げたランディは大声で返した。

 

 

「あぁ、分かった!」

 

 

 オーガスがザクの残骸回収へと向かうのを横目に、気になっていたことをアリアに問いかける。

 

 

「―――んで、お前はどうすんだい?」

 

「え!?…あぁー……。」

 

「保護者さんの所に帰りたいかい?」

 

「その保護者の場所が分からないし、二人について行くよ。…あ、でも…。」

 

「でも?」

 

 

 アリアが不安気な顔になった。

 

 

「その、イブサはどうなのかなって…。なんかちょっと、嫌そうだったし…。」

 

「アイツが?」

 

 

 確かに、と思いつつ突然大声で笑い出してみせた。

 

 

「ははは!アイツ何だかんだ言ってお人好しなんだ、気にしなさんな。」

 

「そ、そうなの…?」

 

 

 アリアにはイブサがそういう人物とはあまり思えなかった。しかし今は他にどうしようもない為、ついて行く以外の選択肢は無かった。

 

 何より、イブサとランディのおかげで自分は助かった。

 

 そのお礼もせずにのうのうと帰るなどアリアには考えられなかった。

 

 

 ランディが続けて言った。

 

 

「アイツなら、ちゃんと保護者ってやつの所に返してくれるさ。」

 

 

 アリアは、その一言に二人の信頼関係の良さを悟った。深く通じ合っているのだろう。

 少しでも、信じてみようと思った

 

 

「分かった。じゃあ、少しの間だけよろしくね!」

 

「おう、よろしくな。」

 

 

 イブサ不在の間に、一つの契約が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、凄まじいな、ガンダムってのは。」

 

 

 一連の戦闘を双眼鏡で眺めている男がいた。

 

 

「この情報を売れば、相当金になるに違いないな。」

 

 

 画策しながら、ザクを引き上げるガンダムをカメラに収める。

 

 彼は情報を売って金を稼ぐ情報屋。彼は高性能なガンダムの存在を餌に金を儲けようと考えていた。

 

 

 釣られた者が次々に挑む。そして高性能なガンダムの前に敗れる。勝てば勝つほど、あのガンダムの価値は上がる。

 

 それを繰り返してくれれば永遠に儲けられるという寸法だ。

 

 

 男は不敵に笑うと、背後に停めていたバイクに跨りその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガスでザクの残骸を運び、トレーラーの後部に載せる。

 

 

「よし、これで全部だな。」

 

 

 これらを売却すれば少しは食料に困らなくなるだろう。

 それとは別に、イブサには疑問が残っていた。

 

 

「…何故こんな高性能な機体が、あんな場所に安置されていたんだろう…。」

 

 

 MSは基本的に捨てられた様に転がっている事が多い。しかしこの機体は封印された様に地下に放置されていた。

 

 誰かが捨てていったのだろうか。しかしこんな世の中にこんな高性能な機体を譲るかのような真似をする意味は到底理解できない。

 

 

「考えても仕方が無い、か…。」

 

 

 前の操縦者が誰とも知れないのにそんな事情まで分かる訳がない。一旦思考を放棄することにした。

 コックピットハッチを解放し、外へと身を乗り出す。

 

 分厚い雲に覆われた空を見上げ、そして真後ろにあるオーガスの頭部を見やる。翠色のツインアイがぼんやりと輝いていた。

 その目を見ながら、小さくて呟いた。

 

「…よろしく、ガンダム。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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解説

トウドウ・イブサ
MSでの戦闘を得意とする15歳の少年。
両親は既に他界しており、ランディと二人で暮らしている。
ある事をトラウマに、他人と関わる事をなるべく避けているが、
困っている人を放っておけない性格。

ランディ・ハイン
車両等のMS以外の乗り物の操縦が得意な17歳。
常にニヤニヤしており陽気な性格。
イブサを事あるごとにからかっているが、彼との信頼関係は厚い。

アリア・グレース
14歳の少女。
探求心が強く、気になったことは知らずにはいられない。
捨て子だったところを"保護者"に保護されたらしい。


オーガスガンダム
謎の施設の地下に放置されていたMS。
特化した能力は持たないが高い性能を誇る。
武装
・頭部60mmバルカン砲
・胸部70mmバルカン砲
・ビームサーベル

【挿絵表示】


ザクⅡF2型(機動戦士ガンダム 0083スターダストメモリー)
ジオン公国の量産型MSザクⅡF型の後期生産タイプ。
盗賊が使用していた本機には専用武器としてグフのヒートソードが装備されていた。

ザクⅡC型(機動戦士ガンダムジオリジン)
ジオン公国の量産型MSザクⅡの初期生産型。
盗賊が使用していた本機は陸戦用に改造され、シールドにミサイルポッドを装備していた。

105ダガー(機動戦士ガンダムSEED MSV)
ストライクの正式量産型。
ストライカーパックの換装が可能で、あらゆる戦況に対応できる。
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