機動戦士ガンダム LostCentury   作:Gust/81

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再起のオーガス

 荒野を駆ける大型トレーラー。後部にはザクの残骸を抱えたオーガスガンダムが鎮座している。

 

 そのコックピット内で、イブサは頭を抱えていた。原因はトレーラーの運転手のとある提案だった。

 

 何故そんな話をできたのか、何故此方が許すと言うとでも思ったのか、非常に理解に苦しむ。

 いや、聞き間違いだったり幻聴だったりするのかもしれない。

 

 そんな蓋然というよりも願望、可能性というよりも希望を抱えたまま、相手に同じ発言を促そうと考えた。

 頼む、何かの間違いであってくれ。

 

 

「……どういう意味だ?」

 

「だから、アリアを俺らで保護しようってさ――」

 

「何でそうなる!」

 

 

 間違いであって欲しかった。突拍子のないランディの意見を即座に跳ね除ける。

 

 ランディ曰く、最初はアリアの保護者を探す予定だったが、本人の話によるとその保護者は車両だかを移動拠点として利用しているらしく、闇雲に探すのは骨が折れるとのことだった。

 

 一通りの弁解を受けて、大きく溜息を吐いた。

 

 

「何でこうなる……」

 

「あ、そうだ!さっきの街の近くに探しに来てるかも……」

 

「ダメだ。さっきの奴らの巣ならまだ仲間がいるかもしれない」

 

「えぇ、そんなー……」

 

 

 アリアの提案も跳ね除ける。

 あの廃墟は彼らの根城として完全に独占されている訳で、またノコノコと顔を出すのは間抜けにも程がある。

 そもそも先住民が声高々にそう叫んでいた筈なのだが、この娘はそれも聞いてなかったのか?

 

 

「とにかく、何としてもその保護者を探し出す」

 

「了解、っと。……そうだ、ノアルで聞き込みでもしたらどうだ?」

 

「のある?って何?」

 

 

 初耳の単語に首を傾げるアリア。

 

 

「これから行く街のことだ。ジャンクと引き換えた資金で物資を買うだけのはずだったのに……」

 

「そう言いなさんな。俺以外の人間と会話するいい機会だぜ?」

 

「……喧しい」

 

 

 アリアがはしゃぎ出すのに反比例して自身の気分が滝のように下落していくのが頭で理解できる。

 少女の興奮と相方の嫌味が重なって煩わしさが心中を蝕んだ。喧しい、本当に。

 

 

「街!?さっきみたいなボロボロのじゃなくて?」

 

「ああ、ちゃんと人がいる街さ。そんなに大きくないがな」

 

「私そういう街って初めて!ノアルかー、楽しみだな〜……」

 

 

 ランディとアリアは向こうでノアルの話題で盛り上がっている。

 

 その喧騒の一切をシャットアウトした少年は独り言ちる。

 

 

「俺がどう生きようが、俺の勝手じゃないか……」

 

 

 イブサの鼓膜以外に、その呟きは拾えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えてきたぜ、あそこだ」

 

 

 ランディが顎で差す先にノアルが見えてきた。

 

 廃材やコンテナを組み合わせた様な住居が道路を挟んで乱立し、周囲ではMSが警備をしている。

 

 トレーラーは居住区前の警備MSの傍に停車した。警備MSのジェガンがトレーラーを見下し、搭乗者が声を掛ける。

 

 

「よう、お前らか。お宝は見つかったようだな?」

 

「おう、そりゃもうとびっきりのな!」

 

 

 お互いにすっかり顔馴染みのため、顔パスで通された。

 道路を暫く進んだ先には居住区とは違った光景が広がり、アリアは思わず目を丸くした。

 

 

「わあ……」

 

 

 思わず声まで出ていた。

 

 深さ六十メートル、直径一キロ程のクレーター、その斜面には工廠や店が埋め込まれ、底部の中央にも屋台の店が並んでいる。そこでは食糧から電子部品までの売買が行われ、MSの一部や武装のジャンク品は大々的に宣伝され客を集めている。

 

 人々の喧騒と、隅々から聞こえる溶接の音や機械音が一つの音になり、街を形成していた。

 

 車両で底部まで降りるのに必要なのは、眼前のリフトに乗ること。その上にトレーラーを停車させたランディが窓から顔を出し、リフトの操縦席に声を掛ける。

 

 

「おっちゃん、頼むわー!」

 

 

 応、と二つ返事で了解されると、操縦席の男性の操作でリフトが斜面に沿って下降を始める。それに揺られながら、アリアは街の様子を観察した。目と首の動きのせわしなさは観察と言うにはやや大雑把だったが。

 それでも彼女には一つ発見があったので、隣に座るランディに声を掛ける。

 

 

「ねぇねぇ」

 

「ん、どした?」

 

「あの向こうの方、さっき通った所みたいな家?が無い!」

 

 

 指差された先には確かに居住区が見当たらない。代わりにイブサのガンダムとも暴漢の一つ目とも違う、けれどもサイズ感は似通っている巨人が複数体立っている。

 

 改めてノアルの構造を説明しよう。

 この街はクレーターを中心に形作られている。先程の居住区は確かに存在しているが、それは途中までの話。

 つまり上空から見るとクレーターを円で囲う様に居住区がある訳だが、半円程度の場所で途切れているという状態なのだ。

 理由は二つ、建材の不足と、それ以前の問題として完全にクレーターを囲う程に居住区を拡張する必要性が無いこと。要は住民がそこまで多くないのだ。

 

 以上の事柄をアリアに分かり易い様に説明するのにランディが随分骨を折る羽目になったが、丁度リフトが到着するまでの暇潰しにはなったのであった。

 

 

「おっと着いたか。ほれ降りな」

 

「…あれ、ランディは降りないの?」

 

「あぁ、俺は――車の見張りだ」

 

 

 トレーラーのことをコイツと呼びつつ指差す予定だったが、アリアに伝わる可能性の低さを危惧し言い換える。ここまでで言語能力の壁を学習したランディであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 機体を降り暗黒色のコートを気直したイブサの前で丁度アリアも降車する。

 

 

「ランディは?」

 

「なんか、見張りだって」

 

「……そう」

 

「?」

 

 

 尋ねてみたが、やはりと言うか。

 その見張り役が既に運転席で昼寝の体勢に入ってるのも、そうする理由もイブサにはとって知れた事なので気にしない。

 

 

「よお、イブサ!」

 

「あ、ジャックさん」

 

 

 乗り場の下から響く声の先を覗き込むと見知った中年男性の青い瞳が此方を見上げていた。逆立った茶色の短髪は相変わらず鋭く、汚れ具合から愛用振りが嫌でも理解できるツナギはガタイの良い肉体を形どっている。

 

 

「この人、誰?」

 

「ジャックさん。MSの部品の売買で世話になってる。」

 

 

 イブサの雑な紹介を余所に、階段を上り同じ足場に立ったジャックは元気に挨拶した。

 

 

「おう、よろしくな!」

 

「は、はい、アリア・グレースです!」

 

 

 アリアがやけに怯えている様にも感じたがお互い自己紹介も済んだので、イブサは本題に入ろうとしたが――。

 

 

「……今日もアイツは……」

 

「はい、出てくる気はないみたいです」

 

「そっか……」

 

 

 遠目にトレーラーの運転席を覗き込んでいたジャックの笑顔が微かに薄れた。居る筈の運転手は寝転がっている為に窓ガラスの画角には映らない。

 

 

「それよりジャックさん、今日の収穫」

 

 

 イブサは早急に話題を変えてトレーラーの後部を指差した。

 

 

「んん……? ……うおおお!!こりゃあ、ガンダムじゃねぇか!!!」

 

「あぁ……、違う、売り物はアレ」

 

 

 一転して目玉が飛び出るばかりのジャックの驚嘆振りは火を吹かんばかり。氷の如く冷めたままのイブサはザクの残骸を再度指差す。

 

 アリアにはその温度差が面白くて、顔から笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 数分掛けてテンションを落ち着かせたジャックは、気持ちを切り替えて仕事に入った。

 

 

「ザクタイプ二機で一つはコックピット以外欠損無し、一つは頭と両腕に右脚のみ、っと」

 

 

 物品を確認すると、それらを吊り下げたクレーンの操縦士に合図を送った。MSを積載する程のトレーラーが動けるスペースはリフトより外には無いに等しい為、こういったMSでの公益に重宝されているクレーンだ。

 

 

「よーし、エリン頼む!」

 

「オッケー!」

 

 

 エリンと呼ばれる女性がサムズアップで応えると、ザクの残骸が近場の工廠まで運ばれていく。斜面をくり抜いた中に設けられている、ジャックとエリンの二人が仕切る施設だ。工廠前に待機していた従業員が残骸の設置を確認しレバーを降ろすと、リフトに載ったグリーンの残骸は工廠奥へと消えて行った。

 

 

 それを見送ったイブサは暇潰しに徒歩でクレーターを登り始めた。当然ながら歩道は整備されているので、余程の体力無しでない限り苦にはならない。ただの散歩だ。

 

 無言で歩んでいた為に数泊遅れて追いついたアリアが質問する。

 

 

「ねぇ、ガンダムあのままで大丈夫なの?もし誰かが盗んだりしたら……」

 

「心配ないよ。街は自警団が見張ってるから」

 

「じけーだん?」

 

 

 歩は止めないままクレーターの縁を見回すと、肩に白と黒のストライプ柄のマークが貼り付けられたMSが複数立っているのが見えた。先程のジェガンもその一員だ。

 

 クレーンの傍や街の至る所にも武装した警備員が立っている。

 

 

「あの白黒のマークを貼ってる奴ら。街で犯罪や戦闘行為は禁止されてて、破った奴は自警団に捕まる」

 

「さっきのってそうなんだ……、なんか怖いね……」

 

 

 法律も機能していない中で何とかやっていく為の原則でありマナーである。怖いからと否定していいものではないのだが。

 居住区の方を見やる。

 

 まだ距離的には遠く様子は窺えないが、耳に届く喧騒や子供のはしゃぎ声を聞けば、この狭い範囲に平和が機能していることは確かに分かる。

 

 反対方向から走ってきた子供がイブサとアリアを掠めた。

 自分よりも小さな子供たちの無邪気な様子にアリアは癒され、微笑んだ。

 

 一方でその光景を目にしたイブサは何とも言えない想いを抱きつつ言葉を続ける。

 

 

「ああいう人達を守りたいって思った人達が、自警団」

 

「そっか、かっこいい人達だね……!」

 

 

 感心したアリアだったが、彼女にはすぐに次の疑問が浮かんだ。

 

 

「でもさ、なんかバラバラだよね?」

 

「え?」

 

「いや、何て言うかこう……、見た目が」

 

 

 改めて街の各部に立っているMSを見回してみる。

 

 

 ジム改、ドートレス、ハイザック、カットシー、ダガーL。

 

 

 確かに機種がかなり多種多様で、イブサもどれがどう言った機種かまでは把握していない。

 

「自警団もこの辺で見つけたMSを使ってるらしい。そのせいだろうな」

 

「へー……」

 

「特にあの機体のお陰でこの街は比較的平和らしい」

 

 

 居住区の両端に一機ずつ立っている灰色のMSを指す。アリアにはそのMSの顔が初見の様に思えなかった。

 

 

「あれって……ガンダム!?ねぇねぇイブサ!ガンダムだよ!」

 

 

 やや鋭角な面持ちのそれはZプラスと呼ばれる機体。

 興奮気味の少女に肩を揺さぶられても特に気に留めずイブサが応えた。

 

 

「あぁ、まれにガンダムが見つかることもあるらしい。俺は"アイツ"が初めてだったけど」

 

 

 トレーラーの後部に座り込むオーガスガンダムを見下ろす。

 

 

「ガンダムは、この世界がこうなる前の戦争でも活躍したって言われてるから、今でもその力を欲しがる人と恐れる人がいる」

 

 

 再び片方のZプラスを視界に入れる。

 

 

 この街はガンダム2機が守っているという事実、それだけでかなりの抑止力になってるらしい。

 本当は街を壁で囲う予定だったらしいが、拾ったMSで周りが寄り付きにくくなるなら安上がりだということでこうなったらしい。

 

 ―――といった旨の説明をイブサはしていたが、途中で既にアリアの興味は別方向に向いていた。

 

 

「街、行ってみたいなー……」

 

「……売却が終わってからならいいよ……」

 

 

 溜息混じりに返した。数分前の相方の苦労を嫌と言うほど痛感できそうだと、既に頭の痛む想いだった。

 

 

 

 

 

 

 一方の居住区では、一角の空き地にシートを敷いた上にあぐらをかく男がいた。男の前には印刷された写真が無造作に並べられている。

 

 男は前を行き交う人々にひたすら声をかけていた。

 

 

「とっておきの情報が沢山あるぞぉ!金さえ払えばここだけの情報を教えてやる!誰か買わんかぁ!!」

 

 

 売り文句に刺々しさと胡散臭さを感じ取った住民は誰も寄り付こうとしない。業を煮やした男は一枚の写真を掲げて更に大声を上げた。

 

 

「これなんかオススメだ!撮れたての新情報!」

 

 

 白を主体に、青い胴体や赤い額、ツノの様なアンテナに二つ目を備えた巨人の写真を叩きつけた。ここが見せ場とばかりに男は更に声を張り上げる。

 

 

「地下から現れ!ザク2機を倒したガンダム!ガンダムだ!今ならこのガンダムの情報が安いぞ!!」

 

「詳しく聴かせて貰おうか」

 

 

 すると、目の前まで来た屈強な男が食いついてきた。ハットを目深に被っており、目の表情は読めない。

 

 

「お、おお!やっと話の分かる客が来たか!」

 

 

 普段からあまり情報が売れていなかった男は大いに喜ぶ。そんな感情を振り払う様に屈強な男は突然情報屋の胸ぐらを掴んで言った。

 

 

「いいからとっとと寄越せ。俺をイラつかせるな」

 

 

 ハットの下から鋭い眼光が光る。情報屋は顔を真っ青にしたままガンダムの特徴等を提供した。接客として褒められた様相ではなかったが、客引き時の態度の時点で既に客を離していたことにこの情報屋は気付いていなかった。

 

 

「そうかそうか、ありがとうよ」

 

 

 ハット男の機嫌が幾分かマシになった様に見える。ここは最後まで機嫌取りに舵を切れば怪我は避けられるやもしれない。

 

 

「あぁっと、そんで、いくら値切れば良い?半額でも四分の一でも、なんならタダで――」

 

「いや」

 

 

 顔面蒼白のままの情報屋の話を遮り、頭をわし掴んでくる。

 

 

「値切りはいいよ、坊主。原価でいい」

 

「へ……?」

 

「だってよ、ガンダムさえ手に入れちまえば元は取れるだろう?」

 

 

 情報屋は狼狽えた返事しかできなかった。

 

 

 どんな力も使い方次第。

 ガンダムを高額で売りつけても、それを使って略奪を繰り返しても部下二人分の元は取れる。ハット男としては後者の方が面白いと考えていた。

 

 正当な方法で利益を得るよりも弱い者を踏み潰して搾取する方が得だと考えていたのだ。この男の得というのは心理的欲求を満たせることである。

 

 

 交渉は成立し、情報屋に金を支払った。ハットを被り直すと、男は呟く。

 

 

「待っていろよ、ガンダム…!」

 

 

 

 

 

 

 

 ザクの売却を終えて資金を調達したイブサたちは、数十分程で買い物を終えた。

 クレーターの中央を彩る市場から購入した食品や衣服といった生活必需品が黒いリュックサックの中に詰まっている。

 

 

「こんなもんかな」

 

「ねぇイブサ?」

 

「ん?」

 

「お野菜とかも売ってるけど……いらないの?」

 

 

 アリアの指差す先には色とりどりの野菜、対してリュックの中身は缶詰やエナジーバーに飲料ゼリー、瓶の飲料水。色彩だけなら劣ってはいないが、無機質さは拭えない。

 

 

「野菜は高いし、いつ何処で敵に襲われるか分からないから、さっさと食えた方がいいだろ」

 

「えぇ…?でもこれって身体に悪いんじゃ……」

 

「栄養はある。書いてあるだろ」

 

 

 丁度パッケージ裏を覗かせている飲料ゼリーを指差す。しかしアリアはその直線と曲線の塊のようなものの羅列を前に戸惑うばかりだった。

 自分の発言が軽率だったことにハッとする。

 

 イブサは俯きながら謝罪した。

 

 

「……ごめん」

 

「あ、いいの。読めない私も私だし……」

 

「……君の保護者って人は、毎日野菜を食べさせてくれたのか?」

 

「え?う、うん。ちゃんと料理して出してくれたよ?」

 

「……そうか」

 

 

―――良かったな。

 

 

「え?」

 

 

 初めて此方から受けた謝罪と突然且つ脈絡の無い質問、それに伝わらない声量の一言。眼前の少女が困惑を絵に描いたような顔を浮かべるのも無理はないと、自分でも思えた。

 

 余りにも自然に口から流れ出てた質問と、その回答は胸を締め付けた。こんな質問をして何だという自己嫌悪と、少女に対する羨望。

 きっと自分よりも彼女の方が幸せに生きていると感じざるを得ない。自分が惨めに思えて、少女を直視できなくなる。

 

 背を向けた。視線の先に丁度用事のある店が見えて、思わず足早に歩き出してしまう。

 

 

「何処に行くの?」

 

「武器を買う。誰かさんを助ける為に余計に使ったからな」

 

 

 背後からアリアが怒鳴り返す。

 

 

「何それ、私が悪いって言うの?」

 

「保護者から離れなければ、あんな所で死にそうになることは無かった」

 

 

 萎縮した唸り声だけが聞こえた。返す言葉も無いようだ。

 

 そんな彼女を無視してイブサは武器調達へと向かう。

 

 

「ちょっと、待ってよ!」

 

「この辺で待ってろ。面白い買い物じゃない」

 

 

 そう言って即座に、逃げるように目標の店に入店した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガスガンダムが荷台に座り込むトレーラー、その傍に不審な男達が立っていた。

 

 

「おい、ボスが言っていたガンダムって……コイツか?」

 

「間違いねぇよ。写真だってあったろ?」

 

「そうだな。案外近くに居て助かったぜ」

 

 

 男は三人共、情報屋からガンダムの情報を買った男の部下だ。

 彼の命令でまずはノアルの敷地内に居ないか捜索した所、ものの数分で見つかったという訳だ。

 

 本来なら自警団の警備員に声を掛けられた場面だろうが、もう数名の仲間が市場でわざと喧嘩騒ぎを起こしたことでそちらに出払ってくれた。こうなってしまえばザルも同然。

 

 男の一人が大きく溜息をつきながら話す。

 

 

「一時はどんな無茶振りだと思ったが……」

 

 

 車体に手を着いて寄り掛かる。

 

 

「これで手柄も俺らのものって訳だな」

 

「つってもよぉ、どうせ大した金は貰えねぇだろ」

 

「大金入っても半分以上はボスのもんだからな。まぁ貰えるだけマシだろ」

 

「おい、あっちがいつ片付くか分からんぞ。とっととコイツを頂いて……ッ!?」

 

 

 車体に寄りかかっていた男の動きが止まった。

 

 

「「あん?……なっ!?」」

 

 

 釣られて振り向いた二人も思わず声が上がる。視線の先には―――

 

 

「コイツを頂いて……何だって?」

 

 

 同じ様に車体に手を着けたランディが立っていた。男は焦りながら言い放つ。

 

 

「てめぇ、いつからそこに!?」

 

「何、俺の愛車が『汚れたから洗車してくれ』って言ってた気がしたんでね。そりゃ昼寝してる場合じゃなくなるさ」

 

 

 余裕の態度とニヤつきは崩さず、金色の瞳は不審者を視界から離さない。その態度が癇に障った男達は懐から銃を取り出し、一斉にランディに向けた。

 

 

「おっと。今日はよく銃を向けられるなぁ」

 

 

 両手を上げて降伏のポーズをとりはするが、おどけた態度と口調には殆ど変化が無い。男達は腹を立てながらも発砲を堪えた。自警団は拳喧嘩よりも銃声騒ぎを優先するだろう。

 

 

「抵抗しなけりゃ今は見逃してやる!」

 

「このガンダムって奴を寄越しな!」

 

 

 口々に脅しを立てる男達。

 

 しかし次に少年の口から飛び出したのは意外な言葉だった。

 

 

「あー……。まぁ……、くれてやってもいいんだがな」

 

 

「!?」

 

 

「あー、ただな?やっぱりガンダムって特別なMSだって話だろ?」

 

 

 ランディは両手で大袈裟なジェスチャーを繰り広げながら語り出した。

 

 

「確かー……、指紋だか何だかを登録しないと動かせないらしくてな?動かせる奴も今この場にいねぇのさ」

 

「じゃあソイツにとっとと頼め!」

 

「いやー、通信手段が無いもんでさぁ、でも指紋だかの解除もソイツにしかできなくてなぁ。いやー困った困った」

 

「それはこちらの台詞だ!貴様撃ち殺されたいか!?」

 

 

 その脅迫を聴いた途端、ランディの目付きが変わる。先程の態度からは想像もできない鋭い目。

 

 男達は唐突なギャップに僅かながら怯んでしまった。

 

 

「いいぜ?それでも。ただそうなると最期に損をするのはアンタらだろうな」

 

「な、何……?」

 

「アイツは強い。例えガンダムが無くても、アンタら三人の息の根を止めて俺の仇を打ってくれるさ」

 

「へ、下手な脅しを………!」

 

 

 男達は強がっているが、内心は理性と血の気に支配されて雁字搦めの様だ。仮にガンダムがすぐに動かせないなら、ランディを射殺しても自警団を呼び込んでしまうだけ。だが目の前の少年に対して憤りが収まらない。きっと撃たねば気が済まない。

 だが目先のストレス解消を優先した所で待っているのは身の破滅。自警団に捕縛されるか、ボスからの処罰か。はたまた彼の言う"アイツ"に殺られるか。

 

 

「下手はお互い様だ」

 

 

 引き攣る男達と対照的にランディの口角は上がる。

 

 

「な、何だと?」

 

「タイムオーバーだよ」

 

 

 勝利宣言と共に、男の一人の背筋にゴリッと硬い何かが当てられる。

 

 

「……」

 

 

 戻っていたイブサが銃を携え、男達に冷たい視線を送っていた。

 

 

「ッ……貴様が――」

 

 

 次の瞬間、男の右脚に激痛が走る。イブサの蹴りが入っていた。

 

 バランスを崩した男の頭が丁度いい高さに降りた所で、銃床で頭を殴り倒す。二人はその刹那に気を取られてしまうことで、ランディの接近を許してしまう。

 

 

「しまっ―――」

 

 

 男の一人はランディに腹を蹴り上げられ、もう一人はランディを撃とうとした瞬間、イブサに銃を蹴り飛ばされる。銃を失った男の腹に蹴りが入ることで、三人全員が打たれた部位を押さえて地に伏す。

 

 イブサが溜息をつきながら言った。

 

 

「相変わらず舌が回るな」

 

「そうでも無いさ。結構ギリギリだったぜ?」

 

 

 既にランディはニヤニヤと何時もの態度に戻っていた。

 

 

(本当、よく分からない奴だ)

 

 

 そう思いながら、イブサは倒れた男達を一瞥する。

 

 

「コイツら、さっきのザク持ちの仲間か」

 

「かもな。俺ら指名手配されてんじゃねぇの?」

 

 

 そうかもな、と返しながらトレーラーのドアを開くと、既にアリアが乗車済みだった。

 

 

 戦っている間に遠回りして乗っておく様にイブサに指示されていたのだ。

 

「お、終わったの?」

 

 

 不安げに状況を確認してきた。

 

 

「あぁ。でも仲間がまだいるかもしれない以上、今日はもう町にはいられない」

 

「後をつけられる前におさらばって訳だ」

 

 

 そう付け加えながらランディはシートベルトを付け、エンジンを掛けつつリフトの操縦士に声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 町から遠ざかって行くトレーラーをボヤけた視界に捉えると地に伏せたまま無線機を取り出し、連絡を取る。

 

 

「ぼ、ボス……。ガンダム、が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運転を始めて五分、ランディがボヤき出した。

 

 

「助かる為とは言え厄介なもん拾っちまったな」

 

「仕方ないだろ。今まで通り目立たずとは行かなさそうだけど……」

 

 

 オーガスのコックピットから無線で答えるイブサ。

 

 他人からの仕事は受けず、機体の残骸を漁ってはジャックに売り払うスカベンジャー同然の生活をしていたイブサらは実力者でありながらあまり注目されることは無かった。

 

 依頼で有名になれば、噂が広まって賞金等を賭けられる場合がある。

 

 

「こうなったらいっそデカい仕事でもやってみるか?」

 

 

 ランディの提案も悪くは無い。

 

 恐らく二機のザクと戦っていた所を誰かに目撃され、それがザクの操縦者の仲間に伝わったという流れだろう。

 

 完全に雲隠れする以外に目立たない方法は無いが、それだと町への補給や買い出しもままならない。

 

 

「そうだな……」

 

 

 答えを出そうとしたイブサだったが、その瞬間機体がアラートを鳴らした。

 

 

「ッ……!?」

 

 

 吃驚しつつもメインモニターを起動、連動してガンダムの目が発光する。直後、人型の影が飛び出し、目の前に着地した。

 

 

 特別仕様のグフカスタム。

 左腕がザクのもので補われており、その腕に六角形のシールドを装備している。塗装は施されておらず、本体の水色、左腕の緑色、紅白色の盾と実にカラフルだ。

 

 

 逃げられそうにない事を悟り、ランディはトレーラーを停車させる。

 

 荷台から立ち上がるオーガスガンダムを前に、グフの操縦者が拡声器越しに語り出した。

 

 

「お前だな?俺のザクを二体もぶっ壊した奴ってのは」

 

 

 イブサもスピーカーのスイッチを入れて応じる。

 

 

「俺らが先に攻撃された」

 

「攻撃される様な事をしたのはお前らだ!」

 

 

 ハットを被った男は語気を強めながら続けた。

 

 

「ザクを二機も失ったんだ、てめぇのガンダムでも貰えねぇ限り元が取れねぇんだよ!」

 

「誰か乗っていたんじゃないのか?」

 

「使えねぇ部下共か?居ても居なくても変わらんよ!」

 

 

 台詞の終わりと同時にグフがマシンガンを構え、発砲する。まだ後ろにはランディとアリアの乗るトレーラーがある。損害を最小限に抑える為にオーガスは両腕で防御した。

 

 

「奴の狙いはガンダムだ、二人とも逃げろ!」

 

「あぁ、すまねぇ!」

 

 

 オーガスに守られながらトレーラーは全速力で町の方へ引き返す。

 

 グフが発砲を止めると、マシンガンを放棄した後、盾の裏から実体剣を取り出し構える。対するオーガスはビームサーベルを構えようとはしなかった。

 

 

(ビーム兵器を下手に使う訳には……!)

 

 

 今の世界に個人でビーム兵器を補充する方法はほぼ無い。その為、貴重なビーム兵器は手に入っても最終手段として保持する者がほとんどだった。

 

 

 MS用の武装を購入できる程の資金は無かった故に、今のオーガスは丸腰同然であった。それ鑑みてグフが手加減をする理由は無い。

 

 

「肉弾戦か、いい度胸だ!」

 

 

 グフがダッシュで接近、剣を振り下ろす。それを回避しつつ、イブサは反撃のチャンスを伺った。

 

 数回程似たような攻撃を回避した途端、

 

 

「えぇい、ちょこまかと!」

 

 

 痺れを切らした男のグフが大振りに剣を振り下ろし、オーガスがそれを回避。剣が突き刺さった衝撃で砂塵が舞い散る。

 

 

「そこ!」

 

 

 この隙を逃してはいけない。操縦桿を倒すイブサに応え、オーガスがグフに拳を振りかざした。

 

 左右交互に振りかざす連撃が、グフの各部に命中。

 頭部への最後の一撃でグフは剣を手放し、頬を通るパイプが派手に引きちぎれた。

 

 

「ぬうっ!?やるな……!」

 

 

 しかし、それでも相手の闘志は尽きない。

 グフが左腕部に装着された機関砲を発射、オーガスは素早く後退し躱すが、それにより互いの距離が開く。

 

 

「格闘センスは悪くない!機動力も上々!しかし、コイツには耐えられるか!」

 

 

 グフが右手をオーガスへと掲げると、即座に右上腕からワイヤーが射出される。

 強力な攻撃を想定していたイブサはオーガスを防御姿勢にしていた為、肘部にワイヤーが接触することを許してしまう。

 

 

「……?何のつもりだ?」

 

 

 ワイヤーは装甲に傷一つ付けることもない。イブサは呆気に取られて防御姿勢を思わず解いてしまう。

 

 次の瞬間、ワイヤーを伝って強力な電流がオーガスへと放たれた。

 

 

「ぐああああああああ!?」

 

 

 悲鳴を上げているのはイブサだけではない。過電流により負荷が掛かったオーガスの各回路も同様だった。

 

 五秒近く――もっと長かっただろうか――流れていた電流が止まる。

 

 各回路に異常が発生していることをアラートがけたたましく伝えるが、イブサにそれを気にする余裕はもう無かった。

 

 丸めていた背を正し、俯いていた顔を上げた途端、モニター一杯まで接近したグフに睨まれていた。

 

 途端に激しい衝撃がイブサを襲う。オーガスの腹部を殴られた為だ。

 

 一発だけでなく、先程グフに仕掛けた攻撃の倍近くの殴打を全て胴体に受けていた。

 

 

「よくも!手こずらせて!くれたな!」

 

 

 打撃と同時に男が言い放つが、もうそれを聞く余裕も無くなっていた。

 

 

「中身だけ殺して!ガンダムは!俺の物だァ!」

 

 

 叫びと共に膝蹴りが繰り出され、オーガスが力無く仰け反る。激しい振動がイブサの意識を揺さぶった。

 

 

―――死ぬ?

 

 

 衝撃に負けた手が操縦桿を放り出す。

 

 

―――死ぬのか?ここで?

 

 

 オーガスが膝を着く。

 

 

―――嫌だ、死にたくは―――

 

 

 オーガスの目から、光が消える。モニターの消灯と同時に、イブサの意識は途切れてしまった―――。

 

 

 

 

 膝を着き、抜け殻の様になった白いMS。グフのモノアイ越しにその光景を観た男は、一人コックピットで高笑いを上げていた。

 

 

「ガンダムが俺の物に!最高だぁははははは!」

 

 

 男は完全に思考放棄状態であった。これからこのガンダムに命を吹き込む者はこの自分であると決めつけていた。

 

 そんな今の彼の頭では思考すら不可能だった。他に微かに考えていたとするならば、ガンダムを使って町を蹂躙して略奪する事。

 

 本来の目的すら頭の隅に追いやられる程に、彼の脳内は狂喜に満ちていた。既に存在さえ忘却されかけているグフを動かすことも知らない。

 

 

 

 ガンダムの中で異変が始まっているとも知らずに、高笑いは続く。

 

 

 

 

 

 

 光を失ったコックピット。機体の生命線でる操縦者、イブサは気絶している。

 

 今、この機体を動かせる者は誰も居ない。

 

 

 そんな中、誰も気付けない異変が始まっていた。

 

 突如モニターが赤い光を放つ。正確には、モニターを赤い文字列が埋めつくしているのだ。

 

 大量の0と1が一度画面を支配した刹那、様々な英数字へと置き換わっていく。

 

 

 

―――ファイアウォール突破

 

―――不明なプログラムによるアクセス拒否確認

 

―――異なるアクセス方法の捜索―――完了

 

―――アクセス完了―――起動条件クリア

 

―――補助回路接続―――。

 

 

 

 硬直していたグフの顎に突如拳が掠め、その身が大きく仰け反る。

 

 

「何!?」

 

 

 グフの操縦者が驚愕して間も無く、機体の腹に蹴りを入れられ吹き飛ばされた。

 

 二十メートル程距離が開き、グフの操縦者は混乱したままガンダムを視界に入れ直す。

 

 そこには姿も寸分違わず、自身の手で一度倒した筈のガンダムが、違和感を纏いながら立ち上がっていた。

 

 違和感の原因は真紅に染まった二つ目であろうが、それだけでは無い様に男は思った。

 

 

「し、死んだ振りとは幼稚な!振りで済まなくしてくれるわ!」

 

 

 自身の叫びで己が身を奮い立たせながら、グフがヒートロッドを再び射出する。相手は棒立ち、直撃は確実―――。

 

 

―――その直前、ガンダムはワイヤーを左手で掴んでいた。放電が始まる前に、ガンダムはワイヤーを思い切り引っ張り込む。

 

 

「ぬおおっ!?」

 

 

 グフは一気にガンダムの元へと強制的に加速し、突然の加速に男が声を上げる。そのままガンダムを通過し、地面に叩きつけられた。振動に合わせて体内がシェイクされ、気が吹き飛びそうになる。

 

 振動が止んですぐに男が目を開くと、右腕を損失したとの報告がコンソールに表示されていた。

 

 

「な、いつの間に!?」

 

 

 振り向くと、ワイヤーから垂れた愛機の片腕を左手に、既に振り切られたビームサーベルを右手に握るガンダムの背中が見えた。

 

 あの一瞬の接触でグフの右腕を切り落としていたのだ。男はワイヤーを頑丈に強化していたのだが、それが仇となるとは夢にも思っていなかった。

 

 

 ガンダムが振り向き、赤い目でグフを見据えたまま歩を進め接近していく。

 

 

「クソッ……化け物め!」

 

 

 仰向けになり起き上がろうとするが、間に合わないと悟り地に伏したまま左腕の機関砲を放つ。

 

 

「このっ……、化け物!化け物、化け物化け物がぁ!」

 

 

 直撃弾を装甲で全て弾きながら、歩みを止めず徐々に接近してくる。

 

 その赤い目は憎悪に満ちた復讐者のものに見えた。

 

 ガンダムはサーベルの届く距離まで接近すると、機関砲を撃ち続ける左腕を真正面から突き刺した。

 

 左腕が内部から爆散した直後、右膝が関節から踏み潰された。その直後には左脚が焼き切られていた。

 

 

「……っ!」

 

 

 男はバーニア噴射で離脱を試みようと考えたが、行動を読んだかのように即座に腹部のパイプが引き切千切られ、バックパックは機能不全に陥った。

 

 

男は完全に絶望の淵に叩き落された。

 

 愛機は完全に使い物にならず、このまま生身で脱出してもどうなるか分かったものではない。

 

 

 唯一機能しているモノアイを通してガンダムと目が合った。

 

 

「あ、悪魔め……!」

 

 

 吐き捨てるように放つが、聞こえない声に相手が物怖じしてくれる訳はない。

 悪魔がサーベルを薙いだかと思った途端、モニターが砂嵐で覆われた。恐らくモノアイも頭部ごと潰されたのだろう。

 

 男はどうすればいいのか分からなくなり、ただ震えていた。取り敢えず視界を確保したいという一心で使ったこともない補助カメラを起動しようと滅茶苦茶に操作をする。

 

 

「クソッ、どれだ!どれだってんだよ!?」

 

 

 男が補助カメラの起動に辿り着く前に、コックピットは光に焼かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘の音が聞こえなくなり、イブサの安否を心配したアリアの意見に従って来た道を引き返していたランディ達は、数分かけて先程戦闘が始まった場所まで戻って来た。

 

 そこには五体不満足のグフを至近距離で睨むオーガスガンダムの姿があった。

 逆手に握られたサーベルは相手の腹部に深く突き刺されている。恐らくコックピットが存在していた場所だ。

 

 

「良かった……イブサ、無事だったんだ」

 

 

 胸を撫で下ろすアリアと正反対にランディは心中穏やかではいられなかった。

 

 

「違う……」

 

「え?」

 

「イブサの戦い方じゃねぇ……あれは、"誰"だ?」

 

 

 アリアにはまだ彼の言葉の意味が理解できない一方で、ランディはオーガスから確かに違和感を感じ取っていた。あれはイブサの戦い方ではない。

 

 

 出力が止まり、光の剣が粒子となり消える。そして手に残った円筒を背中のラックに接続した。

 

 次の瞬間、赤いカメラアイが点滅を何度か繰り返した後にゆったりと消灯、膝から崩れ落ちて機能を停止した。

 

 

「イブサ……?」

 

 

 何かがおかしい。戦法も。あの赤い目も。

 

 そう思ったランディは鎮座して動かない白い巨人の元へと走った。

 

 

 胸部の装甲が下がり、コックピットがせり上がり現れる。中に座っていたイブサは手をダラりと下げ、屍の様な状態だった。

 

 とても先程まで戦闘を行っていたとは思えない。

 

 

「おいイブサ!イブサ!」

 

 

 肩を揺すりながらランディは何度も呼びかけた。据わっていない首が連動して揺れた瞬間、最悪の状態が頭を過り、思わず息が詰まる。その直後、イブサの目がゆっくりと開いた。

 

 

「……ラン、ディ……」

 

 

 呻きながら名前を呼ぶ様を見て、安堵から息が漏れる。

 

 

「無事か。何があった?」

 

「何、が……?それは、アイツが……アイツ……」

 

 

 まだ意識が朦朧としていたイブサが、ハッとして即座に顔色を変えた。

 

 

「アイツを倒さなきゃ!何でお前は逃げてない!?」

 

 

 お互いがそれぞれ違う理由で困惑していた。相方が必死に此方へと放つ疑問とこの形相は今現在の状況と一欠片も嚙み合っていない。

 

 

「あー……、イブサ?さっきのならお前が倒したんだぜ?」

 

 

 指差した先には、五体不満足に加えて操縦席を焼失した無残な姿のグフの姿。

 

 

「……は?」

 

 

 有り得ないものでも目にしたような、嚙み合っていない反応。

 

 

「お前が戦って勝った……んだよな?」

 

 

 不気味な空気に、自慢の笑顔も僅かに引きつった感覚がする。呆然としたまま、相方は何も答えずに背後を見上げる。

 釣られて同じ場所へと視線を向けた。

 

 オーガスガンダムの頭部。消灯して動かない筈のカメラアイを通じて、この機体にかつてない畏怖を抱いていた。

 自分だけでなく、多分イブサも。

 

 

「゙お前゙が……゙殺っだのか……?」

 

 

 状況を飲み込めない様子のイブサには、その一言を漏らすのが精一杯だったらしい。

 

 そこからの沈黙は随分と長かったように思う。




解説
グフカスタム(改造型)
賊のリーダーの男によって改造されたグフカスタム。
左腕をザクⅡの物で補い、ザクマシンガンと実体剣に連邦系のシールドを装備している。
ヒートロッドのワイヤーを頑丈に改修しており、一筋縄では振り払えない剛性を持つ。

ノアル自警団のMS達
機体の一部に白と黒のストライプ柄のマークを施してある。
様々な機種のMSの中でも、ガンダムタイプの頭部を持つゼータプラスは特に大きな抑止力となっている。
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