機動戦士ガンダム LostCentury   作:Gust/81

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ガンダム・ハンター

 放棄された軍事基地。役目も主も失い機能しなくなったその場所に、金属と硝煙の匂いが漂っていた。破壊され雑多に転がされた四機のMSがその原因であると誰の目でも理解できる状況だ。

 

 四つの亡骸の中心に佇む一機のMSがいた。そのMSの色は、返り血を隠す為か、はたまた全てが返り血なのかと言わんばかりの紅。

 

 

「……いつまで続く……?」

 

 

 操縦者が独り呟く。そこには怒りや悲哀の様な感情は存在しない、強いて表すならばただ゙飽きだ様な言い草であった。

 

 

「゙本物゙は……いつ現れる……?」

 

 

 宇宙が人類の手から再び離れかかっているこの時代には非常に珍しいパイロットスーツを着込んだ男。その顔色はバイザーの奥に見えない。

 

 残骸と化したMSは、四機全てが二つの目と二本のアンテナを持っていた。所謂ガンダムタイプのMS。

 

 彼の退屈を晴らしてくれる存在はこの中にはいなかった。

 

 紅いMSは、独りその場から飛び去っていく。振り向きもしない背中がもう興味は無いと独り言つ。

 

 破壊されたガンダムタイプの目に、紅いMSの描く軌跡が反射していく。

 

 彗星の様な一筋の光が、曇った空を駆けて往く。

 

 


 

 

 

 

「おし、着いたぜ」

 

 

 ランディとアリアの目先に、彼らのアジトが見えてきた。ノアルからそれ程遠くない山の一部がくり抜かれており、その中にMS六体分程のスペースがある。

 

 

「凄い……!これ、二人だけで作ったの?」

 

「いや、元々軍の基地だったらしくてな。使う奴がいないからありがたく使わせて頂いてるのさ」

 

 

 トレーラーが内部に駐車すると、後ろから追従していたオーガスガンダムも内部に収まり、抱えていたグフカスタムの胴体を静かに置いた。破損した手足や盾はトレーラーの荷台にある。

 

 ランディとアリアが降車すると同時に、イブサも昇降用のワイヤーで地面に降りた。

 

 

「お疲れさん」

 

「あぁ」

 

 

 何気ない会話を他所にアリアは目を輝かせてアジトを見回す。それを見てイブサは何回目かも忘れた溜息をつく。

 

 

「どうしてこんな事に……」

 

「まぁまぁ、俺もお前も別に人助けが嫌って訳じゃねぇんだからさ!」

 

 

 肩を無理矢理組みながらランディが返す。

 

 想定外の"荷物"に心労が絶えないこちらの気を果たしてコイツは知っているのか?

 

 

「あ、また今ウザイとか思ったな?五年も一緒なんだ、そろそろ慣れろって」

 

「あぁはいはい……」

 

 

 それは解るのか……。益々腹立たしい。

 

 そこで"五年゙という単語にアリアが反応した。

 

 

「五年って……?二人って兄弟とかじゃないの?」

 

「「違う」ぞ?」

 

 

 二人同時に返答する連携に、アリアの中で兄弟説に拍車がかかる。

 

 

「えー……、本当に?」

 

「そうだよ。大体苗字も顔も全然違う」

 

「あ、そうだった……」

 

 

 拍車は止まったようだが―――忘れてたのか。

 

 

 気を取り直して今やることを整理する。

 

 

「このMSの部品は明日売却に行こう。その金で推進剤と弾薬ぐらいは買える筈だ」

 

「具体的にはどうするんだ?盾と剣はオーガスに装備してやればいいんじゃねぇの?」

 

「そうだな。いつまでも丸腰のままは厳しい」

 

 

 案を呑みつつ、鎮座するオーガスを見上げた。

 

 イブサは先程の戦闘を思い出していた。と、言っても自身は殆ど戦っていない。

 

 自分が情けなく気絶していた筈の同じ時期、オーガスは確かに戦っていたとランディとアリアは証言していた。

 

 

 ―――勝手に動いた、のか?

 

 

 操縦者が戦闘不能になった時に代理で戦ってくれるシステムと考えるべきなのか。

 

 考え込んでいた所をランディに引き戻された。

 

 

「何ボーッとしてんだ?整備始めようぜ」

 

「……あぁ」

 

 

 相変わらず相手の気持ちを知ってか知らずか、ズケズケと話しかけてくる。だが今は過去を振り返っても仕方ないことも思い出させてくれた。今はできる作業をやろう。

 

 


 

 

 

 

 空が暗くなる頃、可能な限りの作業が完了した。グフが使用していたシールドを装備し、その裏面に同じくグフの実体剣をマウントしたオーガスガンダムがその成果として佇んでいる。

 

 白い縁に赤い装甲で構成されるその盾は、あたかも最初からオーガスの物であったかの様にマッチしていた。

 

 

「ここまでだな。今日はもう寝よう」

 

 

 売却の為にグフの部品を纏めて荷台に縛っていたランディと手伝っていたアリアに提案する。

 

 

「あぁ、こっちも丁度終わり、だ!」

 

 

 その一言と共に、最後の部品の括り付けが完了する。

 

 

「つ、つかれた〜……」

 

 

 アリアの方は慣れない作業だったのか既にヘトヘトだ。そこまで作業を手伝っていた事にイブサは少し関心していた。

 

 

(手際はともかく、よく働くな……)

 

 

 だからと仲間入りさせる理由にはしない。やる気はともかくいてもいなくても大して手際は変わらなかっただろう。

 

 明日こそは保護者を見つけて返還しなければ。親をしてくれる者がいるなら、その人の元にいる方が彼女も幸せな筈だ。

 

 決意を胸に、ドックの隅にあるドアへと向かった。ドアを開くと、短めの廊下が続いており、壁面にはまたドアが三枚存在している。突き当たりの先に更に廊下が続いている。

 

 元が小規模とは言え軍事基地だったこともあり、部屋の数は持て余す程に充実していた。大半はもう埃を被っているだろうが。

 

 

「この部屋を使っていい」

 

 

 三部屋の内一番奥の部屋へとアリアを案内した。簡素なベッドがぽつんと置かれた以外にはこれと言った特徴の無い部屋だった。

 

 

あ、ありがとう」

 

「別に。んじゃお休み」

 

 

 素っ気なく踵を返そうとして、呼び止められた。

 

 

「あ、待って!」

 

「……何?」

 

「何でここまで優しくしてくれるの?」

 

 

 純粋な疑問に対して、イブサは答えない。真顔のまま瞳だけをアリアから逸らす。

 

 

「……」

 

 

 長い沈黙を挟み、イブサは口を開く。

 

 

「保護者と会う前に死にました、は後味が悪いと思っただけだ。そんな思い出を引き摺りたくはない」

 

「そう……。優しいんだね」

 

 

 微笑みかけるアリアが見えて、顔ごと視界を逸らす。

 

 

 眩しくて見ていられない。俺には二度とできない、そんな顔は。

 

 

 一度呼吸を挟み、眩しい微笑みを向ける彼女に向き直ると、飲料水と乾パンの缶を投げ渡した。危うくキャッチするアリアを背に一言だけ。

 

 

「……お休み」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 部屋のドアを閉め、そのまま自室へと戻る。

 

 彼の部屋はドックに繋がるドアから一番手前にある。残りの一部屋でランディが一連の会話を聴いていたことは彼のみぞ知る。

 

 

「……ったく、変わらずお人好しだな……」

 

 

 


 

 

 

 

 

 翌朝、食事をとった一同はノアルへと向かった。

 

 トレーラーの荷台にはグフのパーツを括りつけているため、トレーラーとオーガスが並走して向かうことになった。

 

 到着すると、交易のためにジャックの元に向かう。稼働しているMSでの市街の通行は禁止のため、迂回して別のリフトから降りる形になった。ランディは相変わらず運転席で゙見張り゙係だ。

 

 

「ジャックさん、おはようございます!」

 

「おう、おはようアリアちゃん!イブサも!」

 

「お、おはようございます……」

 

 昨日まで初対面だった二人が昔馴染みの様に挨拶をする様子に、イブサは驚いた。

 

 

「いつの間に仲良くなった?」

 

「だっておじさん優しいし怖くないから、挨拶すればお返事くれる人だと思ったの!」

 

「おいおい、おじさんは止めろって……」

 

 

 苦笑いと満面の笑みという、違った種類の笑みで笑い合う二人。アリアの理屈が分からなかったイブサは完全に置いて行かれた気分だった。

 

 

「……それよりジャックさん。これ収穫」

 

「ん、おぉ!やっとガンダムを売る決心が着いたか!いやーどんな代物か気になって夜しか眠れ―――」

 

「―――違う、収穫はあっち」

 

 

呆れるイブサに対してジャックは豪快に笑い飛ばした。

 

 

「はっはっは!冗談だ!しっかり取引させてもらうぞ!」

 

 

 

 今回は破損が多いために値段設定に時間がかかると言われ、町へと買い出しに行こうと考えた。

 

 しかし、それをアリアが引き止める。

 

 

「……どうした?」

 

「あれ、前までいた?」

 

 

上へと指差す先は市街地の反対側、警備のMSが立っているだけの場所。その場に何やら自警団のものとは違ったMSが二体見える。

 

 イブサはあれがどういったMSなのかを知っていた。"あれ"が来ているということは――。

 

 

「あれは……」

 

「ねぇねぇ、行ってみようよ!」

 

 

 手を引っ張りながらアリアが急かす。完全に興味津々の様子だ。

 

 

「分かったから引っ張るなよ……」

 

 

 気怠い対応こそしたが、興味が無いのかと言われれば噓だった。順路を辿って目的地へと向かうことにする。

 

 


 

 

「クソッ、まさか寝坊しちまうなんて………!」

 

 

 荒野の中でバイクを走らせながら、少年は自らの失敗を悔いていた。ヘルメットを被っているため表情は見えないが、その声色から後悔の念が滲み出ている。

 

 

 ―――今回こそと思っていた矢先になんてザマだ。

 

 

 彼の失敗は今に始まったことではなかった。

 

 今までもある目的の為に奔走してきたが、成果も得られないまま途方に終わる。今回こそと腹を括った矢先に寝坊となれば、彼の焦りは至極当然と言えた。

 

 

「アイツも探さにゃならんが、それは後だ。今は奴の出処を探れるチャンスなんだ……!」

 

 

 焦りの原因はもう一つ存在した。

 

 彼としては失踪した同居人の捜索も行いたかったが、今彼が狙っている者は一度チャンスを逃せばしばらくお目に掛かれない。自分ではそのチャンスだけに集中しているつもりだったが、心の底では無意識に相手を心配していた。

 

 

 ―――迷うな、今の俺の目的は―――。

 

 

 自分に言い聞かせながら、バイクのスピードを上げた。

 

 荒野にエンジンの唸りだけが空しく響いていく。

 

 


 

 

 

 途中でバテたアリアとそれを引っ張ったイブサの二人は例のMSの足元付近までやって来た。既に集まった人々の視線の先には一台の車、その前に一人の男が立っていた。二機のMSはその男と車を囲む様に佇んでいる。

 

 男は整った灰色の制服らしきものを着用しており、町の住人でないことは一目瞭然だった。

 

 

「今日は以前から予告していた通り、我々からの委託任務の詳細を伝えに来た!」

 

 

 男は手を後ろに組み、姿勢を崩さずに語り出した。一歩引いた位置でそれを見ていたイブサを、アリアの質問が遮った。

 

 

「ねぇ、あの人誰?」

 

「知らないのか……?まぁ個人の名前はともかく、あの服で何処の人かは分かるだろ」

 

 

 アリアは小首を傾げて固まった。本当に知らない様子だ。

 

 

「……MI社だよ」

 

「えむ、あい、しゃ?」

 

「あぁ、マトリクスインダストリー社。今の世界を支えてる会社」

 

 

 ピンと来ていない様子のアリアがまだ持っていた飲料水のボトルを取り上げると、ラベルの片隅を指さした。

 

 洒落た字体で゙M・I゙の文字が刻まれている。MI社のロゴマークだ。

 

 

「あーっ、これ見た事ある!」

 

「食料に水、機械や電気だって皆マトリクスインダストリーが作って売り出してるんだ」

 

「何で全部作ってるの?」

 

「それは知らない。昔の戦争の原因が自分達にあるから、責任を取ってるって噂だけど……」

 

 MIの文字はその場に立ち尽くしているMSの右肩にも刻まれていた。

 

 MI社製MS、ワンアームという機体にだ。

 

 名前の通り通常の腕が一本しかなく、もう片腕は手としての機能が無い代わりに完全武装されている。現在車の護衛役として立っている二機は、左腕をビームライフルアームに換装したタイプだった。

 

 イブサがワンアームを観察している間に、社員による任務の説明が始まる。

 

 

 目標は軍が放棄したとされる資源基地。

 

 資源が残されている可能性がある以上、MI社としてはどうしても押さえておきたいのだと言う。

 しかし敷地内に侵入したMSは、謎のMSに確実に撃破されてしまうらしい。

 

 纏めると、謎のMSを撃退して資源基地を確保して欲しいとの事だった。

 

 

「過去に幾度となく行われてきたこの任務だが、未だに生きて帰ってきた者は居ない」

 

 

 聴いていて「我々では難しいので丸投げします」と言っているようだ。責任をとるという割に面倒ごとは嫌いなのだろうか。

 

 市民との協力とでも例えれば聞こえはいいが、"生きて帰って来なかった者"は全員ノアルの住民か通りすがりの物好きのみ、社員は無傷だと聞く。冷静に聞けば質が悪い。

 

 男は大袈裟な身振りと共に聴衆に言い放つ。

 

 

「もしこの任務を生きて達成できた者には、多額の報酬を約束しよう!」

 

 

 聴衆は歓声を上げた。

 

 語り手がボロ布でも被った一般人だったなら、ここまで盛り上がるどころかまず誰も耳を傾けまい。

 

 そこに立つのは世界を支える一大企業の手の者、一般人からすれば会社の人間の言葉は神の言葉にも等しく見える。

 

 例え"任務"と誇大表現して人々を面倒へ駆り立てるのだとしても、食欲と金銭を満たしてくれる者は神なのだと。

 

 しかし、神の言葉にはまだ続きがあった。

 

 

「事前に伝えた通りこの任務への挑戦権を持つのは、゙ガンダムタイプを駆る者のみ゙だ!それを忘れるな!」

 

 

 事前に知っていた者が闘志を見せる一方、今日初めて知ったであろう挑戦予定者達は肩を落として去って行く。その場に残ったのはイブサ達を除いて十人程度だった。

 

 

「では、社長からも一言激励の言葉を。社長、お願いします!」

 

 

 遮光ガラスに隔てられ中を確認出来なかった車の後部ドアが開き、メイド服を着た可憐な女性が現れた。黒い長髪を揺らすその女性は降車すると、更に後ろの座席から出てくる男性に頭を下げる。

 

 

「ありがとう」

 

 

 金髪で長身の男性がメイドに軽く礼をしつつ車を降り、現れた。

 

 銀色のスーツに赤いネクタイを着こなすその姿は、周囲の人々の貧相な服装も相まって、この世のものとは思えない高級感を醸し出していた。

 

 

「お集まり頂きありがとうございます。マトリクスインダストリー代表取締役社長の、アレス・レプレントです」

 

 

 アレスと名乗る男は、小さく微笑んだまま演説を始めた。

 

 

「最初に、弊社の食品や物品のご利用、その上この様な委託任務に協力して下さる皆様に感謝を申し上げます。誠にありがとうございます」

 

 

 トップ自ら危険を冒してまで聴衆の前に立つことが信用に繋がっているのだろうか。

 

 

「さて今回の委託任務について、ガンダムタイプを扱う方のみのを募ったのは、ガンダムという伝説の機体を扱う皆様はきっと実力者であろうという考えを私が捨てきれなかったためです」

 

 

 聴衆を見回しながら演説を続ける。

 

 

「ですが、実力者を募るということはそれだけ危険かつ難易度の高い任務であるということ。今まで挑戦した何機ものガンダムが地に伏すことになったか……。しかし、ここに集った皆様なら必ず達成できるだろうと信じております。ご健闘をお祈りします」

 

 

 微笑みを崩さないまま再び一礼するアレス。礼を終えると、 再び先程の男が前に出て口を開く。

 

 

「では、参加者は一時間後にここにMS持参で集合する事、以上!」

 

 

 社長の丁寧な敬語とは真逆の軍隊口調が耳障りだ。それに社長の方の演説は何処か他人事じみているように感じる。そんな感想を抱いている間に聴衆達は自身の愛機の準備の為に解散していった。

 

 

「……」

 

 

 イブサは参加するかを考える余りその場に突っ立っていた。

 

 

(実力者かはともかく参加資格は持っている……)

 

 

 ガンダムはある為に参加はできる上に見返りは大きいが、何より相手の強さが読めず、死ぬ可能性が高い。

 

 

 ―――どうしたものか。

 

 

 ふと隣を見ると、アリアの姿がない。微かに焦りを覚えながら正面を見るとアリアが居る。胸を撫で下ろす束の間、衝撃の行動を始めていた。

 

 

「あのっ、食べ物とか色々作ってくれてありがとうございますっ!」

 

 

 社長の目の前に立って身体を九十度曲げながら感謝の言葉を叫んでいたのだ。その光景にイブサは思わず声が漏れた。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 あの社長にあそこまで接近してお礼を言う者はここにいる全員が初めて見るものだった。無表情を貫いていたメイドもやや目を見開いている。

 

 アレスはその行動に、思わず笑みを零して言った。

 

 

「ふふっ、私が直接作った訳ではないがね。ありがとう」

 

 

 アリアの身長の高さまでしゃがみ込んでから続けた。

 

 

「社員の皆が聞いたらきっと喜ぶだろう」

 

 

 アリアが顔を輝かせた、直後、イブサの羽交い締めを食らう。

 

 

「何やってる……!失礼しました……!」

 

「いててて!いいじゃん別に〜!」

 

 

 その場を離れていく少年と少女を、アレスは微笑んだまま眺めていた。

 


 

 アリアを無理矢理トレーラーまで連れ帰ったイブサはそのドアを開け、中で眠り込んでいるランディに声をかける。

 

 

「大事な話だ。起きろ」

 

「ん……?おう、何だ?」

 

 

 起きてましたと言わんばかりにしっかり返事をしてきた。

 

 

「丁度MIの委託任務が始まりそうで――」

 

「おうそうか。頑張れよ」

 

 

 そう言うと再び就寝体勢に入ろうとする。まだ話は終わっていない。

 

 

「何で参加する前提なんだよ」

 

「しないってんなら今頃帰り支度してたさ。俺にわざわざ相談するってことは、"お前"は参加したいんだろ?」

 

「……」

 

「許可するしない以前に、今は金が貰えるなら俺だって欲しい。むしろ不参加じゃそっちのが疑問さ」

 

「……俺が死ぬかもしれない」

 

「お前ならできるさ」

 

 

 コイツの絶対的な信頼は何なのだろうか。俺が死なない保証はこの世の何処にも無いというのに。

 でも自信や覚悟がない時、最後に俺を動かすのはいつもコイツだ。

 

 

「……アリアの子守りを任せたい」

 

「了解ってね」

 

「俺が帰ってくるまでランディと居ろ」

 

「えー、ずっと寝てるなんてつまんないよー」

 

 

 アリアは口を尖らせて愚痴を零す。寝てるヤツというイメージが先行するのはよく分かる。

 

 

「何処に行きたいとかアイツは頼めば聞いてくれる。……多分」

 

 

 どうにかアリアを諭すと、ジャックの元へと急いだ。

 

 今までになかったこんな手間を省く為にも早くアリアの保護者を探し出したい。忘れかけていた欲求を思い出しつつ準備を急いだ。

 

 

 

 

 

 

集合時間、最終的に五体のMSが集結した。五体全てが二本のアンテナに二つ目を備えている。

 

 その内三体は、ガンダムであると言うよりはその頭を無理に取り付けた様な機体ばかりだった。殆どが首から下と上でデザインや塗装の釣り合いが取れていないのだ。

 

 所謂゙取って付げである。

 

 参加資格の捏造とも言える行為だが、どうやら依頼主はガンダム顔なら何でも構わないらしく、全機の参加が承認された。

 

 五機の中で特に正統な見た目をしていたオーガスガンダムの右手には、先程までは存在していなかった銃が握られている。操縦席で最後のセッティングをしていたイブサは、銃についての数十分前を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「ビームライフル?」

 

 

 クレーンに吊るされたそれを見ながら呟くイブサにジャックが胸を張って答える。

 

 

「あぁ、俺が持ってる中では最高の威力がある一級品だ」

 

「でもこれ、売り物じゃないんですか?」

 

 

 向き直ったジャックが苦笑した。

 

 

「この世にビームの補給手段がほぼ無い以上、滅多に売れないもんさ。それに、常連客に死なれちゃそれこそ商売上がったりだ」

 

 

 そう言うジャックの表情は笑んでいたが、真っ直ぐな眼からは真剣な意思が伝わってくる。口では遠回しに放った言葉が、そこからは直接向けられていた。

 

 

「……生きて帰ります」

 

 

 イブサははっきりと返事をした。自信がある訳では無かったが、だからと言って弱気でもいられない。

 

 自分の中の弱気を押し込める為の返事だった。

 

 

 

 全ての準備が整った。各部の出力も自分の動かしやすい様に調整してある。

 

 ビームライフルの設定は本来ならかなり面倒な設定が必要と聞いていたが、何故かそれが簡単に済んだために先程の会話を思い出す余裕が生まれていた。

 

 その時、外からカンと金属同士の軽い接触音が聞こえた。

 

 確認すると、左側にいたMS―――グスタフカールのガンダムヘッド装備型―――がこちらにワイヤーを接続していた。

 

 

「君、聞こえるかい?」

 

「―――はい……?」

 

 

 その機体に乗る男性が接触回線でこちらに呼び掛けてきた。

 

 

「君のガンダム、随分強そうじゃないか」

 

「……何の用ですか?」

 

 

 温厚な声に対して語気を強めて尋ねた。この機体が狙いか――。

 

 

「いや、ごめんな。頼りになりそうって思っただけさ。僕の友達もこの任務に挑んで死んでしまったから、必ず仇を取りたいんだ」

 

「……」

 

「一緒に頑張ろうぜ!」

 

「……よろしくお願いします」

 

 

 一旦害は無さそうなので、無難に返事をした。

 

 仇の話が嘘か誠かは定かでないが、今は同じ目標を持つ協力者である以上、悪印象を植え付ける訳にはいかなかった。戦闘中に背中を刺されるのは恐ろしい。

 

 その時、別の方向から通信が入った。

 

 

「全機、出撃準備は宜しいでしょうか?」

 

 

 モニターに映ったのは先程のメイド服を着た女性だった。大人の女性の声に、これから死地に繰り出す男達は奮い立った。

 

 

「完璧さ!」

 

「問題無いぜ!」

 

 

 下心に引っ張られた男達が口々に叫ぶ中、イブサは冷静だった。

 

 

「大丈夫です」

 

 

 女性は顔色一つ変えずに話を続けた。彼女もまた冷静な女性だった。

 

 

「了解しました。オペレーターは私、エルザ・リー・テイラーが努めさせて頂きます。よろしくお願い致します」

 

 

 エルザと名乗った女性が号令する。

 

 

「では全機、出発してください」

 

 

 その号令の直後、二機のワンアームが歩き出した。その二機は先導係だ。

 

 五体のガンダム―――偽装したグスタフカールとドートレスとノブッシ、陸戦型ガンダム、そしてオーガスガンダム―――は導かれるままに歩を進めた。

 

 その背中を見つめながらアレスは呟く。

 

 

「さぁ、今回ば当たり゙かな……?」

 

 

 不穏な笑みに見送られていることに、任務へ向かう一同は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

「おいおいアリア、本気かよ?」

 

「本気だよ!イブサ、昨日負けそうだったんでしょ?誰かが見ててあげなきゃ!」

 

 

 イブサに着いていこうという提案に、流石のランディも参っていた。

 

 

「危ねぇぞ?俺らだって死ぬかも―――」

 

「それは嫌、だけど!だからってイブサに死なれたら困るもん!」

 

 

 どうやらアリアの意思は折れそうにない。ランディはため息をついて言った。

 

 

「しゃあない、トレーラーの整備してから行くか」

 

「……! うん!」

 

 

 元気な返事が帰ってくる。ここまで来たら俺では折れないと悟った。

 

 何より自身も、イブサの安否が少々心配だった。あんなことは言ったが、今回は少々事情が違う。

 

 勝手に動く――疑惑ありの――ガンダムに、盾突く相手全てをしっかり葬ってきたという今回の敵。それに多人数での行動。

 

 異物(イレギュラー)の多い状況だが、生きるために金が欲しいという欲求は変わらない。自然に彼の背中を押せたのは、きっと十割も信頼があったからではなくて、最低でも三割はその欲求を満たして欲しいという欲求からだと思っている。

 

 アイツの為にだってなると、自分に言い訳できてしまったから。

 

 信頼しているのは噓じゃない。ここまで来て俺に出来ることと言えば見届けるだけだ。

 

 ――止まるな、ランディ。俺はいつだって走って来たんだ

 

 

「よし、買い忘れの確認頼むぜ!」

 

 

 自ら頬を打って気を持ち直し、アリアを運転席に残しタイヤの点検から始めることにした。

 

 

「後輪はパンクの心配無し、っと」

 

 

 前輪の確認をしに立ち上がろうとしたその時、何やらやや遠くから叫び声が聞こえてきた。その方を見上げると、リフトのレールに沿って斜面を滑り落ちるバイクの姿が映った。

 

 ……斜面を滑り?

 

 

「おあああああああ!止まれ、止まっでああああああ!?」

 

 

 叫び声の正体は男の絶叫だった。通行を想定していない岩肌が男の滑舌に絶えず干渉する。

 

 普段見られない状況に硬直した此方に対してバイクに乗る男がまくし立てる。

 

 

「だああああ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!止まんな退けえええ!!」

 

「あっヤベ」

 

 

 正直自分の命とトレーラーの車体を同等に危惧していた。それが足枷になり機敏な回避行動が取れずにいた。

 

 そうしている間に少年のバイクは大きめの出っ張りによって軽く中を舞う。前輪が顔面に直撃する未来を察したランディは本能が身体を伏せさせることで無事を獲得。

 

 バイクはリフトへの着陸と同時にサイドブレーキし喧しく停車。騒動が噓の様な静かな間が流れる。先に沈黙を破ったのはバイク少年だった。

 

 

「……セーフ」

 

 

 こっちの台詞だと言う言葉は今この時の為のものだろう。しかし少年の行動はその機会を奪っていった。

 

 

「すまん悪かった……。ってそれよりアンタ!」

 

「それよりだぁ?」

 

「ガンダム顔の集団ってまだここにいるかい?」

 

 

 先程委託任務に出発した者たちのことだろうか。

 

 

「それならちょい前に出発したぜ?」

 

「マジかっ!?」

 

 

 そう言うと同時にバイクのエンジンを吹かし、町に向き直ってはすぐにそれを止めた。人でごった返した市場はとてもバイク向きの道ではない。

 

 

「あぁクソ!とんだ遠回りになっちまった!」

 

 

 ぶつくさ言いつつ仕方なさそうにバイクを引いたまま、少年は人混みへと反対側のリフト目指して歩き出す。

 

 

「何だ、アイツ?」

 

 

 トレーラーが破損していた可能性に対して謝罪でもすれば自分らのついでにリフトに乗せてもいいと考えていたランディは、面食らったまま人混みに消える少年を眺めた。

 

 そっとトレーラーのドアが開き、アリアが顔を覗かせる。

 

 

「……何だったの?怖い人かと思って隠れてたんだけど」

 

「偉いぞ、それ正解だ」

 

 


 

 

 目標へと向かうMSらの中では雑談が始まっていた。到着まで少々長い為に全員が暇を持て余していたのだった。

 

 イブサは参加する気もなくただ正面を眺めていた。

 

 そんな時、先程イブサに話しかけた男が一つの話題を切り出す。

 

 

「なぁ、皆は何の為にこの仕事を受けたんだ?」

 

 

 今まで会話を聞き流していたイブサが目を見開く。

 

 

 他の操縦者たちはこれまでの雑談で緩み切った口から各々の理由を語り出した。

 

 家族に飯を食べさせてやる為。

 

 借金を返す為。

 

 愛機を強化する為。

 

 質問した男も先程の様に、友人の仇を討つ為という旨の話をしていた。

 

 

 ―――何の為?

 

 飯の為?金の為?力の為?

 

 

 金欠から脱出し、充分な糧食と機体を万全にする為の備品や消耗品を調達する。全て該当している筈なのにどうもしっくり来ない。

 

 友の為?家族の為?

 

 自分ではない誰か。居ない訳ではないが、呼び方に引っ掛かりを感じる。

 

 腐れ縁と返すべき相手がいる迷子、友?家族?違う。

 

 

(俺、は……何、の……為に?)

 

 

 そんな事は、久しく考えていなかった。口を紡ぐイブサの気も知らない男は同じ質問を投げかける。

 

 

「君は?どうなんだい?」

 

 

「俺、は……」

 

 

 優し気な声を相手に言葉が出ない。幾ら考えても思い浮かばなかった。

 

 と言うよりも、思い出せなかった。

 

 

 沈黙を破り、エルザからの通信が入る。

 

 

「皆様、我々の案内はここまでです。この先を直進しますと目標地点となります」

 

 

 先導係のワンアームが前を開けた。

 

 

「戦闘中は敵の通信妨害が入る為、我々からの作戦指揮は不可能となります。申し訳ございません」

 

 

 謝罪こそしているが、変わらず声色は冷たい。

 

 ノブッシの操縦者が声を上げる。

 

 

「大丈夫さ!必ず謎の機体って奴の首を貴女に届けて御覧に入れるぜ!」

 

「首では無く資源の確保が優先です。それでは失礼致します」

 

 

 呆気なく通信が切られる。色恋には一切興味が無いようだ。

 

 

「ちぇっ、つまらん女だ」

 

「ボヤくなよ。早く行こう」

 

 

 グスタフカールの操縦者に急かされ、一同は先へと進んだ。しばらく進むと丘の上に辿り着く。

 

 丘に囲まれた中に中規模程の基地の廃墟が確かに存在している。何処か物々しい空気に息を吞んだ一同は注意深く侵入した。

 

 格納庫等の施設内に敵が潜んでいないか等を確認しながら基地の中心まで歩く。ここまでで五人全員が同じ違和感を感じていた。

 

 

 ―――静かすぎる。

 

 

「おいおい、通信妨害も敵もねぇぞ。どういう事だよ?」

 

「気を抜くな。相手は不―打ちを狙――い―かも―――」

 

 

 急遽、通信をノイズが遮り始めた。

 

 

「これは……!?」

 

 

 イブサは周囲の警戒を始めた。声は聞こえないが、応じる様に他の四人もそれぞれの武器を構える。

 

 

「何処だ、何処から来る……」

 

 

 自然と背中合わせの円陣が組まれ、各々が三百六十度を警戒する。手に汗が浮き出し、操縦桿へと滲む。

 

 

 長いようで短い静寂は突如終わりを告げた。

 

 丘の裏から赤い影が飛び出したかと思うと、一瞬で加速しドートレスを横切る。当のドートレスは、既に胸部から腹部を縦一文字に切り裂かれていた。

 

 生命線を裂かれたドートレスは崩れ落ち、倒れる。

 

 

「!?」

 

 

 一瞬の出来事に驚愕している間に、赤い機影は次の行動に移る。

 

 空中で反転して丘の斜面に足を向けると、接地の勢いで跳躍、今度は陸戦型ガンダムへと飛びかかる。

 

 対する陸戦型ガンダムもマシンガンと胸部バルカンを掃射するが、赤いMSは易々と躱し接近。

 

 そのままタックルを掛けると、他の三機を蹴散らしつつ格納庫の残骸へと陸戦型ガンダムを衝突させた。

 

 そこから赤いMSが一度飛び去ると、そこには既に胸部に刀痕のできた陸戦型ガンダムがめり込んでいた。恐らく今までコックピットだった場所だ。

 

 

「何だ……あの速さは……?」

 

 

 単純な速度だけの話ではない。

 

 高速を乗りこなし、無駄の無い手際で標的を叩く。操縦者は余程の異常者だと残った三人全員が痛感した。

 

 

 一度丘の上に着陸してくれたことで、赤いMS正体をようやく確認できた。

 

 

「赤い……グレイズ?」

 

 

 イブサは相手の原型機を知っていた。

 

 グレイズという量産型MSはザクやGM等と同様によく発掘される機体で、イブサ以外でも名前を知っている者は多い。

 

 原型機と目前に佇む赤いそれとの違いと言えば、まず目を引くのは両肩部に装着されている大型バインダーだ。それがあの機体のスピードの源だろう。

 

 細部の形状も異なっており、後頭部から生える一本のアンテナは特に際立っている。

 

 そしてそれらの特徴ごと本体を包む赤色は、全身が返り血で塗れているかのようだった。その左手に握るアックスから滴るオイル液に構わず、グレイズが右手に握ったライフルを残る三機に向けて発砲した。

 

 三機は散開、ノブッシはマシンガンで即座に反撃を開始。しかしグレイズは軽く躱しながら加速、猛スピードでノブッシに接近する。

 

 

「クソッ、クソッ、当たれよぉ!」

 

 

 操縦者は恐怖から涙を垂れ流しながら懇願する。

 

 

「馬鹿!もっと動け!」

 

 

 グスタフカールの操縦者が思わず叫ぶが、相手にはノイズにしか聞こえない。それどころかノイズを聞く余裕すら無いだろう。

 

 

 接近するグレイズの放ったライフルがノブッシの右膝を撃ち抜き破壊する。操縦者の懇願が声にならない叫びに変わって間もなくグレイズは眼前まで接近。

 

 男の意識は機体の装甲ごと断ち切られる。

 

 

「そんな……でも今の内に……!」

 

 

 ノブッシの胸部に刺さった斧を抜き取る隙を狙い、グスタフカールがマシンガンを発砲する。しかしグレイズはすぐさま飛び去り空中を旋回する。

 

 先程の一撃離脱戦法から一転、グレイズは空中で弾丸の回避に専念し始めた。

 

 

「遊んでいるのかよ……!?」

 

 

 ロックオンカーソルから逃げ惑う赤い機体へと殺意が湧き出す。

 

 その一方で、この戦況をチャンスだと考えた者が一人いた。

 

 

「……!」

 

 

 一機のガンダムが新品同然のビームライフルを構える。その中で照準を合わせるイブサその人だ。

 

 

 グレイズの装甲は対ビーム効果のある特殊塗料が施されたものだ。

 

 しかしその塗料を入手するのは困難であり、あれだけ派手な塗装をしたということは対ビーム装甲としての効果を失っている可能性がある。

 

 その可能性に賭けて、グスタフカールを囮としてでもあの赤い悪魔を撃ち落とそうという考えだった。

 

 ロックオンカーソルとグレイズが眼前で踊り合う。その二つが重なる瞬間を、ひたすらに待ち続けた。

 

 長い五秒間が過ぎ、その時が来た。

 

 操縦桿のトリガーを引くと、ガンダムが連動してライフルのトリガーを引く。桃色の閃光が銃口から放たれ、赤いグレイズへと直進する。

 

 光とグレイズが重なった―――。

 

 

 ―――しかし、光はグレイズを中心に拡散した。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 閃光が止んだ中から無傷で現れたグレイズ。今度はオーガスガンダムに目を付け、ライフルを放ちながら急接近してきた。

 

 

(ビーム耐性があるのか!?)

 

 

 考える暇も無くイブサは応戦を開始する。

 

 銃弾を回避しつつ、もう一発ビームライフルを発射。しかし今度は掠りもしない。

 

 オーガスの真横を飛び去り背後を取ろうとするグレイズが容赦なく発砲する。その動きに間一髪対応はできるものの、回避が間に合わない。

 

 数発は盾で受けるが、僅かに本体へと直撃する。

 

 

(コイツの装甲じゃなかったらもう駄目だったな……)

 

 

 百二十ミリの砲弾を弾くこの機体の性能に助けられている。

 

 イブサはそう痛感していた。

 

 

 そんな心境も知らぬグレイズは丘を利用した戦法で巧みにオーガスを追い詰めていく。

 

 旋回、接近、通過からの反転、また旋回。

 

 目の回る様な機動戦闘に、完全に防戦一方になってしまう。本体の損傷は軽微だが、何度も斧を叩き付けられた上に銃弾を浴びたシールドの損壊は増していく。

 

 いつの間に完全に背後を取られていた。

 

 オーガスの背中へとアックスが振り下ろされる―――。

 

 


 

 

 

 ランディの操るトレーラーが丘の上へと登り詰めた。

 

 

「おし、やっと着いた―――!?」

 

 

 目の前に飛び込んだのは凄惨な戦況だった。

 

 操縦席があったであろう部分を尽く切り裂かれたガンダム達が転がっている。

 

 

「こいつぁひでぇな……」

 

「見て、あれ!」

 

 

 しかしアリアにはそれよりも先の光景しか目に入っていなかった。

 

 

「……!あれは………!?」

 

 

視線の先には三機のMSが並び立っていた。

 

 

 

 

 

 一機はイブサのオーガスガンダム。

 

 

 もう一機はそこに斧を突き立てる赤いグレイズ。

 

 

 そして、その間に割って入りその斧を身一つで受け止めているグスタフカール。

 

 

「……!?」

 

 

 イブサは驚愕していた。

 

 疑いの目を向けていた相手が、目の前で自分を助けている。どう見ても致命傷だ。

 

 

「君が―こに来―理由――けなか―――れど、君―もきっと―――」

 

 

 ノイズの中に彼の声が混じる。

 

 しかし、言葉の途中で彼の機体の胸部装甲は切り裂かれてしまう。

 

 それでもグスタフカールは赤い機体へとマシンガンを向けようとする。装甲の厚さのお陰で首の皮一枚繋がったらしいが、ぎこちなく肘を曲げる動作は虫の息であることをアピールするばかり。

 

 グレイズは無慈悲に切創に銃口を宛がうと、銃弾を三発撃ち込む。

 

 握っていたマシンガンが地面に落ち、間を置いてグスタフカールが目の前で爆散した。

 

 即座に離脱するグレイズに対して、オーガスはもろに爆発に巻き込まれてしまう。

 

 

 ―――次は自分がこうなる番なのだろうか。

 

 

 爆発の光が、自身を包む死への恐怖の様に感じられる。

 

 その恐怖を感じ取ったかの様に、オーガスに異変が起こった。コンソールパネルが赤く輝き出し、機体状況を確認しようとそれに触れる。しかしそんな操作も一切受け付けない。

 

 

「何だ……これ……ッ!?」

 

 

 操縦桿もフットペダルもただ音を立てるばかりの玩具と化していた。

 

 パニックになりながらも、昨日のことを思い出す。

 

 

「ランディとアリアが言っていたのは、これか……!?」

 

 

 爆炎が風になびく。

 

 炎と粉塵に包まれながら立ち上がる白い巨人。その二つの目が、血のように赤く染まった。




ワン・アーム N/01型
MI社で運用されている量産型MS。
片腕がマニュピレータとしての機能を排除する代わりに武装されており、操縦者の好みで右腕と左腕のどちらにも換装可能。
Nは一般機、01はビームライフルアーム装備型と言う意味であり、この英数字の違いで武装や仕様を表す。


グレイズ・コメット
損失していた両腕と胸部装甲を他のグレイズのパーツで補った上で、大型のブースターバインダーを両肩に装備したグレイズ改弐。
圧倒的な機動力でガンダムタイプのMSを狩り続けているが、その目標は不明。

【挿絵表示】


任務に参加したMS
(グスタフカール、ドートレス、ノブッシ、陸戦型ガンダム)
陸戦型ガンダム以外はジャンク品で構成されたガンダムタイプの頭部を取り付けていた。


アレス・レプレント
マトリクス・インダストリー代表取締役社長。
先代社長の息子であり、若い身でありながら歴代で最も優秀な社長として社内でも評判だという。

エルザ・リー・テイラー
アレスの社長秘書兼メイド隊隊長。
感情の起伏は少ないが、秘書としての仕事を完璧にこなし、部下のメイド達を取り纏めている。
アレスとはお互いに信頼関係にあるが、それ以上の関係ではないかとも噂されている。
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