ぼっちが仮想世界にログインしてみた(尚ログアウトはできない模様) 作:クズの小説
キリトと談笑しながらも歩みを進め、クエストを受注し、目的の森へ向かう。
「ふう...。」
「...どうした?」
「え?なにが?」
「緊張してるような感じがしたんだ。違うならすまん。」
「あー、そうかな。うん、多分そうなんだと思う。」
「...装備のメンテは万全だし、アイテムの補充も完璧。体調だって悪いわけじゃないんだから、しっかり周りをみて行動すれば死ぬ可能性はかなり低くなる。あまり緊張しすぎると、とんでもないミスを犯すぞ。」
「...ありがと。わかってるんだけどね。やっぱりちょっとだけ怖いんだ。」
「まぁ、死ぬかもっていう恐怖に勝てるやつなんていないだろ。俺も怖い、できることならフレンジーボアをずっと倒し続けていたい。」
「本当?全然そうは見えないよ?」
「お前が緊張しすぎなだけだろ。死ぬかも、なんて思うより生きて帰るんだ、って思うほうが楽だぞ。」
「...ごめん。わたし、ケイみたいにはなれないよ。そんな強くなんて、なれない。」
「...緊張で目まで曇り始めたのか?俺よりキリトのほうが断然強いだろ。」
「...ケイは、こういったゲームは初心者で、初めて知ることばっかなはずなのに、そんなことを言えちゃう。わたしはβテストに参加して、いろんな知識を持ってるはずなのに、こんなに怖がってる。こんなわたしが強いはずないよ。」
「...勘違いしてるみたいだから言っとくが、俺は自分ひとりだったら今もはじまりの街で引きこもってたよ。キリトを見つけられて、同行を許可してくれてなかったらって思うとゾッとする。」
「...?」
「...要は、俺がこうやって強がりを続けられてるのも、全部お前のおかげなんだ。そんなお前がこうして恐怖に震えているのをみたら、なおさら、俺は冷静でいなくちゃって思う。」
「ケイ...。」
「...こういった言葉を言うのはこれから先、絶対ないだろうが.......、お互い一人じゃないんだ。なにかトラブルがあったとしても俺かお前のどっちかがきっとなんとかするんだから、適度に全力で行こうぜ。」
「あぁ、そっか、ひとりじゃ、ないんだ...。ふふっ、きっとなんとかする、なんて、無責任だなぁ。しかも、俺が、じゃなくて俺かお前が、って微妙にかっこついてないし。」
「俺はできないことは言わないんだよ...、で、どうだ、ちょっとは緊張もほぐれたか?」
「うん、もう大丈夫。行こっか。」
「...ほぐれすぎじゃないか?いや、いいんだが。」
「ねぇ、ケイ?」
「ん?なんだよ。」
「頑張って、生きようね。」
「...当たり前だろ。」
はぁ、緊張した。女子に励ましの言葉をかける日が来るなんて思ってもみなかったし。ちゃんと伝わったか不安だが、キリトの様子を見る限り、恐らく大丈夫だと思う。
それにしても、まさかキリトが不安を抱えていたとは。こう言っちゃなんだが、割と本気でキリトは将来英雄確定ルートの主人公だと思ってたのでかなり意外だった。
不安も緊張も主人公補正で力に変えていくタイプの主人公。なぜか、そんな風に思い込んでしまっていた。不安も緊張も何もかもを自分ひとりで解決できる人間なんて物語の中にしかいない。
それは当然のことで、俺はきっと普通よりもそれを理解していたはずなのに。
...後悔や反省は後にしろ。これから戦闘が始まるのに余計なことを考えてる暇はない。
「...ケイ、こっち来て。」
「なんだ?ってあれは...。」
キリトに呼ばれてそちらに視線を向ければ、そこにいたのは...口から植物の根が生えたような気持ち悪いモンスター。
「もしかしなくても、あれがリトルペネントか。」
「そう。それで頭のてっぺんをみて?」
言われるがまま頭と思わしき場所をみると、葉っぱがぴょこんと生えていた。
「あれは普通のリトルペネント、わたしたちの目的はあそこに花が生えてるやつ、そして一番気をつけなきゃいけないのが...。」
「実付き...、あたまに実がついてるやつだな?」
「...それで、言い忘れてたんだけど、花付きのポップ率を上げる方法があって、それがあの普通のリトルペネントを倒すことなの。だから...。」
「それ、先に言ってくれよな...。」
「ご、ごめんね?さっきまで別のこと考えてたから...、その...。」
「あぁ、わかってる。責めたわけじゃない。それより、さっさとやろうぜ。このままだと日が暮れるぞ。」
「そうだね、じゃあお互いから離れないようにしてね。...いくよ!」
そう言うとキリトは目の前にいたリトルペネントに突進し斬撃を食らわせる。俺もキリトの邪魔にならない程度の距離にいるリトルペネントを切りつける。
リトルペネントの触手による攻撃を横に体を傾けよけてから前進し、がら空きになってる胴体に剣を振るう。そうするとリトルペネントはその気色悪い図体をポリゴンに変えた。
「(これで倒せるなら、囲まれでもしないかぎり大丈夫そうだな。)」
剣を握り直して、次のリトルペネントに突撃する。そうして順調に五体目のリトルペネントを倒していると、少し先に森の中では見慣れない赤色が視界に入った気がしてそっちの方向に近づいてみると、
そこには頭に赤い花を咲かしたリトルペネントがいた。
「(あれが花付きか...。さっそく倒したいところではあるが、花付きのまわりにもリトルペネントがいるな。...これはキリトを呼んできて一緒に戦ってもらったほうがいいな。)」
そう思いキリトが戦っていた方向に駆け出す。
「(キリトの方も花付きを見つけていたらこれで終わりでいいんだが...。ポップ率は低いみたいなことを言ってた気がするし、こんなに早く見つけれたのは運がよかったな。)」
キリトと俺の距離は剣を振るう音が聞こえるぐらいの距離を保っていたのでそう時間もかからずキリトを視界に入れることができた。
「おい、キリト...」
声をかけようとした瞬間、耳に入ってきたのは、何かが破裂するような音と、キリトの驚いたような声と、聞き覚えのない男の声だった。
≪キリトside≫
森に入り、リトルペネントを狩り続ける。さっきまであれほど感じていた死の恐怖は今はどこにもない。
その代わりにわたしの心にあるのは、嬉しさと、安心。
さっきまで持っていた感情とは正反対のもの。まさか、誰かの言葉でこんなにも心が満たされるとは思わなかった。初めて感じる高揚感の名前はまだわからないけど、きっとこれから先もケイといっしょにいればわかるのだろうと、確信めいた予感がある。
「...これで、12体目!」
周りにいたリトルペネントを一通り狩りつくして、一息つく。
「(連続で戦ったのに、まだまだ動けそう...!)」
普通、負けたら死んでしまう戦いを12回も連続して行ったのだから、精神、身体共にかなりの疲労を感じててもおかしくないはずなのに。疲れるどころか心も体もわたしの背中を押すような、そんな感覚。
「(よし!はやく次のリトルペネントを探そう)」
そう思い、なんとなしに左上にある自分の名前の下の『Kei』の文字を見る。その文字の隣のHPがしっかり八割以上を保ってるのを確認してから、思考を切り替え、足を踏み出そうとしたとき...。
「あの、すいません。少しいいですか?」
いきなり後ろから声をかけられ、肩がビクリとはねる。
「...はい、どうかしましたか?」
「いきなりすみません。『森の秘薬』クエをやってるんですよね?できたら僕もいっしょにやらせてもらってもいいですか?」
「え、えーっと...。」
どうしよう。ケイも近くにいると思うし、伝えておくべきかな。でも、人数が増えれば効率も良くなるし、別にいいかな。なるべく早めに終わらせたいし、このデスゲームじゃ協力してかないとだもんね。
「いいですよ。じゃあ、実付きにだけ気をつけて...、」
「あ、それでちょっと伝えたいことがありまして...、さっきあっちで花付きのやつがいるのを見たんですよ。」
「ほんとですか!?」
「はい。でも、取り巻きもいて、それを倒すのを手伝って欲しいんです。もちろん、ドロップした胚珠などは差し上げます。」
「わかりました!それじゃあ、はやく行きましょう!...っとそういえば名前知りませんでした。わたしはキリトです。あなたは?」
「僕は『コぺル』です。よろしくお願いします。キリトさん。」
そのままコぺルについていくとさっきまでいた場所から数分程度の近場に花付きのリトルペネントがいるのが見えた。しかも二体!だけど、確かに取り巻きもいて、その中には実付きのリトルペネントもいる。
実付きは危険だけど、こんなチャンスめったにない。二人がかりなら実を割らずに全滅させることもできるだろう。
「キリトさん、僕が実付きを倒すので、花付きをお願いできますか。」
「わかりました。」
その場から一気に駆け出し、花付きに攻撃を加える。花付き以外にも普通のリトルペネントがわたしに攻撃してくるけど、飛んできた触手を全部切り落としてまず花付きを仕留める。
その後、近くに残った普通のリトルペネントも倒す。
「(コペルの方は大丈夫かな?)」
ちらりとコペルの方を見ると、実付きのリトルペネントと対峙しているコペル。コペルは目の前から放たれた触手をギリギリでかわすと、剣を振りかぶり...
実にめがけて、振り下ろした。
「...え?」
「悪いね、キリトさん。」
そう言い残しコペルは少し離れた木陰に身を隠した。どうやら隠蔽スキルをつかったらしい。
目の前では頭部の実から気体を勢いよく噴出させてるリトルペネント。索敵スキルを使用せずともわかる数のリトルペネントが押し寄せてきている。隠蔽スキルを使用していたコペルだけど、リトルペネントに隠蔽スキルは通用しない。
コペルが消えた木陰から断末魔と、その数秒後出てきたポリゴンをみて、わたしはようやく、