とある旅人とある村の縁起話。
少し思いついたので、短いですが書き上げました。楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
私は旅人。ただの旅人。いくあてもなく、ただ、粘土板を持って彷徨い続ける。
「あ〜旅人さんだあ!!」
ある村に来た。少し前から戦乱で騒がしいが、山間で戦乱の影響もあり、貧しい村。だが、幼子の心はいつだって綺麗だ。
「よく来てくれましたねえ。でも、ホントにすまないがウチは貧しいから、君に出す食べ物も水もないんだ。昔はこうではなかったんだがなあ……」幼子の祖父はため息をつくとやるせない表情を見せる。
旅人はこう言った。
「私は食べなくても飲まなくても平気です。それより、何か昔話を教えていただけませんか?ちゃんとお礼はするので」
なんとも不思議な旅人だなあ、と怪しがるも昔話を聞きたいことを知り、「なら、村一番の長老のとこに行くといいよ。昔は俺もあの爺様に昔話を聞かされたものだ……俺も一緒に行こう、君の事を紹介したらきっと長老も気に入ってくれる」
子供と老人と旅人の奇妙な一行で長老の家に歩いていった。
木のドアをトントンと叩き、「すいませーん、レザですけど、おられますかー」
大声で叫ぶとドアが開き、深いシワの刻まれた顔が出てくる。
「うるさいわい、聞こえとるわ!馬鹿もんが。耄碌しとらんわい」
「でも、あんた俺がガキの頃からジジイじゃないか、耳くらい遠くなると思うだろ普通」
「ああ、そうかい、それでそこの人は?誰じゃ?」
「旅人が来てね、昔話を集めてるらしくてね、アンタに話を聞きたいんだと。いつものやつ話してやればいいじゃないか」
「そうか、そうか。なら家に入るといい。茶くらいは出してやる」
「じゃあな、旅人さん。ジジイの話はなげえぞ?」
そう言って老人は家に帰った。
「アイツのことはほっといて、ほれ、茶だ。」
熱い茶を出してくれた。一口飲む。
これは……美味いな……
長老は悪戯が成功した子供のようににかにか笑い、「ワシはこれでも昔、茶だけで王宮に抱えられた事もあるのでな。腕は天下一品だぞ?」
なるほど、そういう訳だったか。道理でこんなに美味しいのか。
「それじゃあ、口も湿った事だし、話すかの……」
ゆっくりとした口調で話し始めた、
むかし、むかし、神々が天の上におられた時代のこと……未だに混沌とした地上をどうにかしてやらねば天にも被害が出てしまう。とある神が進言し、神々総出でどうにかすることとしたそうだ。
鍛治の神が一番素晴らしく、見えないくらい長い棒を作り、天界一の力自慢の神の夫婦が棒を持ち、かき混ぜて、他の神もうちわで仰いだり、色々なものを投げ込んだりしたり、応援したりと永い時間をかけることでようやく今の地上の形ができたんだと。
混沌が治った地上からは神々が天から投げ込んだものがかき混ぜられて大地となり、海となり、山となって、人や植物、動物も誕生していったそうだ。
ところが、皆が神々と同じように好き嫌いなどの感情を持ってしまったらしく、争うようになった。これはいけないと、一番偉い神様が、若い神様たちに「お前たちで地上を良くして行きなさい」と命令を出し、降りた神々によって時々争いは起きてもだんだんと平和になっていきました。
でも、ある時に悪魔が現れて徒党を組んで、神々を悪として追いやり、一人の神を残して天界に押し返して天と地の間の通路を置いてあった棒と大きな岩で塞いでしまいました。
悪魔は上にいる神々が嫌いで、自分を神にしてしまい、自分だけの天を創り上げてしまいました。
自分たちの僕と共に地上を"遊戯盤"と称して地上を乱してはそれを楽しんでいました。
古の神々も何とかしようとしますが、岩と棒がどうにもなりません。ただ、地上の者が、虐げられるのを眺めるだけです。
何度も何度も遊んでいる悪魔ですが、新しく誕生した義眼の悪魔の使徒が暴れて黒い厄災を用いて仲間と共に悪魔を殺してしまいました。
それからというもの、厄災はあちこちに渡り、それを皆が使って争いを始めてしまいました。人が人を憎み、厄災で殺し合う毎日。悪魔によって汚れきった人間には歯止めはきかず、争いの世が訪れました。しかし、それも長くは続かず、ある人が危険な力を使いすぎるのは良くないと、仲良くしようと提案しました。疲れ切っていた国は皆が賛成していき、平和が出来ましたとさ。
「ん"んっ、こんなものかね。ワシの爺様から聞いた昔話だが、爺さまもそのまた爺様が子供の時に当時の長老から『後世に伝えなさい』って言われたらしいからの……本当かは知らん。だが、ワシもかなり生きた。あの厄災は決して……決して使ってはならん。人や獣を簡単に非力な者でも殺せてしまう。まさしく悪魔の道具よ……」
旅人は粘土板を取り出して書き込み始めた。
「おお、なんと珍しい。粘土板で書き記すなんてな……」
覗き込む長老だが、書いてある文字はその長い生でも一度も見た事が無かった。
「おや、知らんな。旅人さんや、何処の文字かな?」
長老は気になって言うが、旅人は考えた後、少し悲しげに言った。
「……遠い、遠いところの文字ですよ。ずっとずっとあそこに帰りたくて、旅をしているんです。帰ったら、みんなにお土産として話の一つでも持って帰れたらなと思い、これを書き続けているんです」
「……そうか」
書き終えると、立ち上がりこう言う。
「お礼をしたいのですが……私にはこれだけしかないので。」
懐から布袋を取り出す。
「これは?」
「土に植えると少しの水で良く育ちます。ここは貧しい村と聞いたので、食料にしていただければ幸いです。食べる時の注意も書いておきましょう」そう言って、袋から取り出したまだ何も書かれていない粘土板に食べ方を書かれた。
旅人がそのまま去ろうとすると、家から慌てて長老が飛び出した。
「あ、アンタまさか……」
長老は何かに気づき、口をあんぐりと開けている。
「その特徴のある帽子に、この種、そして、あの……見たことの無い文字と粘土板……やはり」
「待って、それから先は言うべきではありません」
旅人は長老の口をそっと塞ぐ。
「私はやりたい事をしたくて、毎日歩いているだけです。粘土板に書くのは……趣味みたいなものですよ。」
旅人が村を出るとき、長老は大きな声で「ありがとう!!この恩は決して……決して忘れませぬ……」涙を流してお礼を言う。なんだなんだと村の住人が出てくるが、状況に皆困惑してしまう。
旅人はそのまま何処かへ行った。今も何処かを彷徨っているかもしれないし、遠い場所に帰れたのかもしれない。
ただ、それからというもの、その村で取れる作物は住人や村を豊かにし、「旅人の恵み」という別名で作物は世界に広まった。食べ方を記した粘土板は昔はあったものの、割れてしまった時に、さらさらと崩れて土に還ってしまったのだそうだ。
皆はこの昔話からそこらの山の近くの事を「恵みの村」と呼び、農業に関して、お参りをして、そこの土を土地に撒くと豊穣に効果があると言われるようになったんだとさ。
おしまい、おしまい。
「旅人の恵み」はジャガイモに似た作物をイメージしていただければ。