少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「終わりだっ!」
「キュ………っ……」
逃げようとする一匹のアルミラージに止めを刺す為の斬撃を振ると、ソレの身体が縦に真っ二つとなって絶命した。
地面にはモンスターの死骸や魔石だらけで転がっている。ベル達の追撃をさせないよう殿を務めた俺が、アルミラージとヘルハウンドの大群を全て片付けたからだ。
さっさと終わらせる為に本気を出そうとメインウェポンである
っと、今はそんな事はどうでもいい。モンスターを倒したから、直ぐにベル達と合流しなければ。本当なら魔石を全て回収したいところだが、そんな暇は無いので死骸以外の魔石を大急ぎで収納していると――
『キィァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!』
俺が守っていた奥の道から、モンスターと思われる甲高い叫び声が聞こえた。その直後、岩が崩落するような音も含めて。
「ベルッ!!」
嫌な予感がした俺は魔石回収を中断し、即座にベル達の元へと全速力で向かった。
しかし、ダンジョンは俺の焦りを見逃さなかったのか、突如進んでいる地面に罅が入り始めて崩落しようとする。
「――ッッ!?」
いきなりの事に目を見開く俺だが、それでも回避する為に跳躍して何とか事無きを得る。
だが、着地した瞬間に再び地面に罅が入って――
「う、嘘だろぉぉぉぉーーーーーーッッ!?」
結局そのまま下部階層へと繋がる縦穴へ――ぶっちゃけ落とし穴――に嵌ってしまって落下していくのであった。
☆
場所は【ミアハ・ファミリア】の
ポーション等の回復アイテムを販売している店員であり、団長のナァーザはいつになく不機嫌な表情となっている。
「ミアハ様、やっぱり何かあったんじゃ……」
「うむ」
声を掛ける彼女にミアハは頷く。いつもなら薬の調合をしているのだが、今回は違う。深刻な表情となりながらも、誰かが帰って来るように待っている。
それもその筈。ダンジョン探索しているリヴァンが帰って来ないから。しかも昨日から未だに。
これまで、彼がいつも余裕な顔をしながら帰還するのが【ミアハ・ファミリア】の日常となっていた。例え何かトラブルが起きたとしても、無事に戻ってきて申し訳なさそうに理由を話している。
しかし、一日経っても未だに戻って来ないのは余りにもおかしい。『Lv.1』でありながらも、他の冒険者達とは桁外れな強さを持っているあのリヴァンが。
思い当たる節があるとすれば、昨日のダンジョン探索はリヴァン一人でなく、ベルや他の【ファミリア】の眷族二名と一緒に向かった。所謂、パーティ探索だ。
普通に考えるなら、ダンジョン探索をする際にパーティを組んで挑戦するのが当たり前である。しかし、リヴァンは違う。他の下級冒険者と違って、一人でも充分にやれるし多く稼いでいるから、ナァーザはリヴァンに
しかし、今回のパーティ一行は中層へ挑戦している。上層と違ってモンスターの強さや出現頻度は格段に違うが、それでもリヴァンが梃子摺る事はないと思っていた。
以前、セオロの密林で『卵』を採取した際に大型モンスター――ブラッドザウルスの群れに臆する事無く、一人で全て片付けていた。と言っても、採取している『卵』はブラッドザウルスが産んだ物なので、ある程度の数は残していたが。
一人で大型モンスターの群れを簡単に倒すリヴァンの実力を考えれば、中層のモンスターに後れを取る事はないと踏んでいた。例えトラブルが起きても、モンスターの群れを簡単に殲滅するだろうと。
にも拘らず、どんなトラブルが起きても対処する筈のリヴァンが未だに戻ってこない。そう考えると、ベルや他の仲間達の身に何か遭ったから戻れないんじゃないかと、ミアハとナァーザは推測する。
「一度、ヘスティアの
ミアハの提案にナァーザは反対する事無くコクリと頷いた。
リヴァンが戻ってこないとなれば、一緒に探索しているヘスティアの眷族――ベル・クラネルも帰還していない事になる。そう考えれば、ヘスティアも今頃は自分達と同じく不安に思っている筈だ。
二人が出掛ける為に支度を始めようとする瞬間、店の出入り口にある扉が開いた。
突然の事にミアハとナァーザが振り返ると、息を切らしているヘスティアが佇んでいる。
「ミアハ、リヴァン君は戻っているかい!?」
二人の予想が見事に的中したのか、リヴァン達の身に何かが起きたと確信した。
そして戻ってこない理由が判明する。【タケミカヅチ・ファミリア】が『
その後、リヴァン達の捜索を思案している最中、とある胡散臭い主神が突然参上して手助けする事となった。外部の助っ人も連れて。
☆
「………くそっ、ベル達が全然見付からない……!」
縦穴に落下して下部階層に招待される事になったが、何とか立て直そうとベル達がいる13階層へと戻る事が出来た。所持しているアークス用の小型携帯端末を使わなければ、完全に迷っていたところだ。
しかし、ベル達がいたと思われる場所に戻っても、そこには誰もいなかった。ベル達の持ち物だと思われる空の容器や破損したアイテムが転がっていただけだ。そして縦穴に落下したと思われる痕跡もあった。
状況から考えて、モンスターの群れから退却している際に落とし穴に嵌ってしまったと思われる。初めて中層へ来たばかりのベル達が、周囲を気にしながら逃げる余裕なんて無いだろう。もしもソレに嵌らず退却しているなら、どうにか合流出来ている筈だ。
念の為に周囲を探してみたが、ベル達の痕跡は一切見当たらなかった。あったのは縦穴付近だけの痕跡しかない。
やはり俺と同じく穴に落ちたと思った俺は、後を追いかけようと決意する。本当なら自分だけでも一度地上に帰還し、この事をミアハ様やベルの主神――ヘスティア様に報告すべきだろう。しかし、今の俺にそんな事を考える余裕なんてなかった。この世界で初めて出来た
自ら穴に飛び込み、さっきと違って落下時間を経て着地し、ベル達が進んだと思われる足跡を頼りに進み始めた。途中でモンスターと遭遇した事で、痕跡は途切れてしまう事になったが。
広大なダンジョンを小型端末機にルートを記録しながら捜索するが、一向に見付からなかった。もうかれこれ二十時間以上経っている。
惑星探索での長期遠征に慣れている俺は大丈夫だとしても、未知の中層に留まり続けているベル達には相当キツいだろう。精神的にもかなり参っている筈だ。
捜索中に再びベル達の痕跡と思われるモノを運良く見つけた。またしても、縦穴に降りたと思われる痕跡が。今度はリリルカが使っているボウガンの矢と、それに刺さっている布らしき
その文を読んだ俺は何故上に戻らず態々下へ降りているのかと疑問を抱いたが、その後に分かった。もしかしたらベル達は18階層へ向かおうとしているんじゃないかと。
ギルドで講習を受けた際、ダンジョン18階層はモンスターが産まれない
ベルやヴェルフだったら考えたりしないだろう。恐らくサポーターのリリルカだと俺は推測する。彼女は俺たちパーティの頭脳的存在であるから、生き延びる方法として18階層へ避難すると言う考えに至ったかもしれない。
本当に18階層へ向かったと言う確証は一切無い。だが、唯一の手掛かりがこれだけしかないので、今の俺は疑う事無く更に下へ降りる事にした。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
移動中、ミノタウロスの群れが俺を見た途端に威嚇らしき咆哮をしてきたが――
「喧しい!」
『!』
即座に黙らせようと、流れるフォトン帯を纏って連撃を放つ
薙ぎ払う仕草をした直後、衝撃波となった光の渦が飛んでミノタウロスの群れに向かっていく。それに当たった瞬間、モンスター達はあっと言う間に吹っ飛んで絶命する。
「ったく、会う度に鬱陶しい……!」
ベル達を捜索している最中、ミノタウロスとは何度も遭遇した。アイツ等、敵を見て早々に必ず叫ぶんだよな。喧しい事この上ない。
因みに他のモンスターにも襲われたが、言うまでもなく全て撃退している。それによって大量の魔石やドロップアイテムが電子アイテムボックスに収まっている。捜索中に不謹慎だが、ギルドで換金すれば相当な額になるだろう。
ミノタウロスの魔石を回収後、再び縦穴を見付けた。18階層へ行くには正規ルートで行くべきだが、生憎と地理を把握してない俺はコレを利用するしかなかった。もしかすれば同じく縦穴を使っているベル達と運良く会えるかもしれないと淡い考えを抱きながら。
そして穴に飛び込み、今度も上手く着地に成功して更に下の階層へと到着する。
今度はさっきと違って、モンスターが現れる気配が無かった。出て来ないなら越した事はないが、それでも不気味に思う。
「ここは……」
急にモンスターが出現しなくなった事に疑問を抱きながら先へ進んでいると、長大な大広間に辿り着いた。
今までは形状が出鱈目だった中層の
大広間にある壁は誰かが磨き抜かれたのかと思う程、表面は凹凸一つない。まるで一種の芸術と思わせるほどの壁面とも言える。
これを見て、俺は分かってしまった。ここは17階層で、あの場所であると。
「此処は『嘆きの大璧』、か……」
この場所についてはギルドの講習で知った。
生きて帰って来た冒険者達が名付けた17階層最後の
未だに出現しない所を見ると、まだ時期じゃないのだろう。そう考えた俺は奥の道へ進む。
「リ……リ、ヴァン……? リヴァン……!」
突如、後ろから聞き覚えのある声がした。俺がすぐに振り向くと――
「ベル!」
二十時間以上前に逸れたベルを漸く見つけた事に俺は歓喜した。
だが、余り喜ばしくない状況だった。ベルは疲弊してボロボロだ。更にリリルカとヴェルフは気を失っているのか、ベルによって抱えられている。
あんな状態で良くここまで来れたものだと内心驚きながらも、俺はすぐに駆け付ける。
「大丈夫か!? リリルカとヴェルフは!?」
「だ、大丈夫……。気を失ってるだけ、だから……」
俺と合流した事にベルは安堵したのか、気を失いそうになるも俺に状況を簡単に話した。
「リ、リヴァン、早く二人に、治癒魔法を……」
「安心しろ。お前にもちゃんと――」
三人にレスタをかけようと、俺はすぐにハクセンジョウVer2を展開しようとする。
だが、俺達を嘲笑うかのように、どこからかバキリッと音がした。
「「―――」」
音がした方へ俺とベルは振り向いた。
その先には、巨大な亀裂が、大壁の上から下にかけて雷のように走っていた。
「……!」
「今すぐ走れ!」
武器を展開するのを急遽止めて叫んでヴェルフを担ぎ、リリルカを抱えているベルと一緒に走り出した。
俺とベルが必死になって走っている間、壁が罅割れる音は続いている。バキッ、バキッ、と響きが大きくなり、次第にそれは声音へと変わって、大広間全体を震わした。
やはり向こうが出てくるのが早いようだ。………仕方ない、やるしかないか。
「ベル、悪いが彼を頼む。お前は先に行け」
「え?」
気絶しているヴェルフを渡そうとするも、ベルは走りながらも表情を歪ませる。
察したんだろう。自分達を逃がす為に、俺がアレを引き付ける事を。
「い、嫌だよ。また、リヴァンを置いて行くなんて、僕には……!」
「いいから行くんだ! 大丈夫、すぐに後を追うから!」
そう言いながら俺はベルに無理矢理渡した。
直後、亀裂が入った壁が爆発して、岩の塊が崩れ落ちていく。
そして背後からはズンッと、巨大な何かが大地に降り立った着地音がした。
アレが噂に聞いた17階層の階層主で
灰褐色の体皮で、太い首、太い肩、太い腕、太い脚、そしてごわごわした黒い髪。さながら巨人みたいなモンスターだ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
巨人の叫びに大広間全体が響いた。ミノタウロスとは比べ物にならない咆哮が。
「行け! 今度もちゃんと合流するから!」
「ッ! う、うう、ううううあああああああああああああああああああああっ!!」
ゴライアスに対する恐怖が勝ったのか、ベルはヴェルフを抱えて奥の洞窟へと駆け出す。
………………よし、行ったか。
ベルが18階層へ続く洞窟へ飛び込んだのを確認した俺は安堵し、脚を止めて振り返る。
振り向いた先には、此方に狙いを定めていたゴライアスの巨大な手が目前に――。
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