少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「んー……やはり彼は中々頭が回るようだね。こちらの誘導に乗せられることなく、安静中のベル・クラネルを盾にして情報交換を断るとは……」
リヴァンが去った後、フィンはそう呟く。
遠回しにベル達を救った恩を理由に詳細な情報を聞き出そうとしたが、尤もな理由で拒否したリヴァンの手腕に少し関心する程だった。
尤も、後で目覚めたベル本人から情報を聞けばそれまでだった。だからフィンは特に気にせず、向こうの条件を受け入れる事にした。もしかしたらリヴァンはそれを分かっていながらも敢えて、あんな回りくどい事をしたのかもしれないと予測する。
「だとしても本当に良かったのか、フィン? こちらの物資は、他所の冒険者を受け入れるほどの余裕は余り無いと言うのに……」
二人のやり取りに口を出さなかったガレスがフィンに尋ねる。
「まぁ、四人くらいなら大丈夫だよ。知っての通り、リヴァン・ウィリディスはレフィーヤの身内だから、無下に断る訳にもいかない。ただでさえ宴の時で【
知っての通り、【ロキ・ファミリア】は
前回の遠征後の宴では、リヴァンが酒場にいる客達の前で失態を暴露した。それを払拭する為にリヴァンの従姉――レフィーヤが咄嗟に謝罪して何とか事無きを得て今に至る。
今度はダンジョンで再会し、物資を理由にリヴァン達を追い出せば本格的に不味い。万が一にそれが地上に知れ渡れば、【ロキ・ファミリア】を敵視しているところから恰好の的となるだろう。
都市最高派閥の代表として背負っているフィンとしても、それは何としても避けたかった。仮にリヴァンが泥を塗るような行為を侵そうとすれば、荒事ではないが相応の手段で対処する事になっている。
他にも理由があった。今回救出した仲間の内には
「まぁそうじゃのう。それにしても、あのリヴァン・ウィリディスと言う小僧、本当にレフィーヤの従弟なのかと疑う程に肝が据わっておったわい」
「全くだ。
ガレスの言い分にリヴェリアが頷きながら、レフィーヤに対して苦言を呈する。
弟子としては申し分ないのだが、いざ本番と言う時に躓いているのが今まで何度もあった。
リヴァンについては二回会っただけなので詳しくは知らない。しかし、宴の時では自分達にハッキリと言い切り、つい先程まで
加えて、
「惜しいな。もしリヴァンが【ロキ・ファミリア】に入団してくれたら、私としても非常に助かるのだが」
「お主がそこまで自身の同胞を気に入るとはのう。アイナが知れば驚きそうじゃ」
「君を敬っている他のエルフ達が知れば、面倒な事になるのは確実だね」
しかし、それとは別に気になる事があった。
「リヴェリア。話は変わるが、確かリヴァン・ウィリディスは『Lv.1』だったよね?」
「ああ。レフィーヤから聞いた話では、約
「……それでも中層へ進出して18階層へ到達した、か。妙だね」
「何が妙なのじゃ?」
考え込む仕草をするフィンに、ガレスが訝りながら問う。
「彼だけ一番違和感があり過ぎるんだよ。ベル・クラネル達はボロボロの姿になって此処まで来たと言うのに、リヴァン・ウィリディスだけは殆ど無傷だった。中層に初めて来たにしても、『Lv.1』である筈の彼があんな状態で此処へ来ること自体おかしいんだ」
「「!」」
言われてみればとハッとするリヴェリアとガレス。
本当なら今すぐリヴァンを問い詰めたいフィンだったが、客人に対してそんな無礼な事は出来ない。故に今は見送る事にした。
今までは宴の件があって様子見だったが、地上に戻ったら改めて調べてみようとフィンは密かに考え始める。
☆
急遽【ロキ・ファミリア】の野営地にいて、俺――リヴァンはベル達が安静にしている天幕にいた。
団長のフィン・ディムナからは客人としてもてなすと言われたが、流石に彼等の野営地内を歩き回る訳にはいかない。それ故に余程の事が起きない限り、天幕で過ごす事にしている。
因みにベル達の傷は既に【ロキ・ファミリア】のリヴェリアや
本当なら俺がレスタを使って回復させたかったが、既に向こうが治療したからその必要はない。あとは三人が目覚めるのを待つだけだった。
治療が済んでも目覚める気配が一向に無かったから、疲れ気味になっている俺も少し一眠りしようと思っていたんだが――
「あのぅ、【剣姫】さん。幹部の貴女が此処に居て良いんですか?」
「…気にしないで。あと、私の事はアイズでいい」
「そうですか」
何故か【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン(以降はアイズ)がずっといるので、とても寝るに寝れなかった。因みに俺も自己紹介を済ませたので、向こうも俺の事をリヴァンと呼ぶ事となった。
お互いの自己紹介後には、ミノタウロスの件について改めて謝罪してきた。宴の時とは違い、彼女は当事者の一人であったから是非とも謝りたかったと。因みにベルにはもう既に済ませているそうだ。
他にも何か聞きたそうな顔をしていたが、俺がさり気なく此処から出るよう遠回しに促すも、アイズには此方の意思が伝わらずにずっと居続けている。分かりやすく言ったつもりなんだが、どうやら通じないようだ。
それに加えて、彼女はずっとベルの近くに座って看病している。どうしてそこまでベルが気になるのかは分からないが、何かしらの経緯で知り合ったんだろう。
アイズが梃子でも動かないと分かった俺は寝るのを諦めて、急遽腹ごしらえをする事にした。
電子アイテムボックスに収めているタッパーとボトルを出現させた事に、アイズはベルを看病しながらもジッと俺を見ている。
彼女の視線に気にせず、ソレの蓋を開けた俺は携帯食――ジャガ丸くんを取り出す。ベル達を捜索中に小休止の時に何度か食べていたが、今はもう残り数個しかなかった。
「! それ、ジャガ丸くん……」
「ん?」
俺がジャガ丸くんソース味を食べていると、何故かアイズは目を見開いていた。しかもジャガ丸くんを凝視している。
見事に言い当てたな。もしかして彼女、コレが好きなんだろうか。
「よく分かりましたね。貴女もジャガ丸くんを食べるんですか?」
俺からの問いに彼女はコクコクと首を縦に振った。
口には出さなくても、凄く大好きだと言うのがよく分かる。
「リヴァンが食べているソレは何味?」
「ソース味です」
「……小豆クリーム味は食べないの?」
「アレは個人的に美味しくなかったので食べません」
試しに食べてみたが、先にソースや塩で慣れてしまった為に美味しく感じなかった。やはるジャガ丸くんはお菓子感覚で食べるモノじゃなく、総菜として食べるのが良いと改めて分かった。
だが、この直後に俺は後悔する。彼女の前で美味しくないと言ってしまった事を。
「そんな事はない。小豆クリーム味は美味しい……!」
「え?」
すると、少し距離があった筈なのに、いつの間にかアイズが俺の近くにいた。しかも顔を物凄く近づけて。
「リヴァン、君には小豆クリーム味を深く理解する必要がある。小豆とクリームが合わさる事で、ジャガ丸くんの美味しさを更に引き立てて――」
…………ええ~? アイズってこんなに饒舌な女性だったの?
俺の知る限りだと、寡黙で冷静沈着な女性剣士と言う評判の筈なのに……。目の前の彼女はそんな雰囲気を微塵も見せないどころか、ジャガ丸くんについてクドクドと語り始めようとしている。
自身の好みを否定されたから語ろうとしているんだろうが、何もそこまで熱くなる事じゃないと思うんだが。
あと、お願いだから顔を近づけたまま語るのは止めて欲しいんですけど。こんな所をレフィ姉さんに見られでもしたら――
「リヴァン、朝ご飯を持ってきたから食べ――え?」
「あ……」
「レフィーヤ?」
何と最悪な事に、レフィ姉さんが朝食を用意して天幕に入って来た。
俺とアイズが顔を近づけ合ってる事に、あの人の動きが止まっている。そして――
「な、な、な……! ア、アイズさんと何をしてるのリヴァ~~~~~~~ンッッ!!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶのであった。
「ちょ、レフィ姉さん、落ち着いて……!」
ベル達が眠ってるのに、そんな大声で叫んだらダメだって!
「またお前か、レフィーヤ!! 静かにしろと言った筈だぞ!!」
「す、すいませんっ!?」
叫びを聞きつけたリヴェリアが速攻で雷を落としていた。
と言うか、『また』って……。もしやレフィ姉さん、俺が野営地に入る前に聞こえたあの叫びで一度注意されたんじゃ……?
俺の疑問を余所に、天幕に入ろうとしていたあの人は、リヴェリアに強制連行されてしまった。
「う、うう……」
「!」
すると、先程まで安らかに寝息を立てていたベルが突然苦しそうな声を出した。それを聞きとったアイズは即座に俺から離れて、再びベルの近くに座って看病を始めようとする。ジャガ丸くんについて語ろうとする彼女でも優先順位はあるようだ。
内心助かったと思った俺は、ジャガ丸くんを早く食べた後、もう彼女の事は気にせず眠る事にした。勿論、上着や靴を脱いでいる。
「すいませんが仮眠を取るので、それまでの間はベルを頼みます」
「…うん、分かった。お休みなさい」
タッパーとボトルを電子アイテムボックスに収め、既に用意されている簡素な寝床で横になろうとする俺は彼女に背を向けた。
俺に気を遣ってか、アイズは無言となっている。内心感謝しつつも、いきなり眠気が襲ってきた事でそのまま目を閉じる。
☆
久々に長時間の捜索や戦闘続きの事もあって、自分の身体が思っていた以上に疲弊していたみたいで、何と数時間以上の仮眠を取る事となった。
目覚めた際、リリルカとヴェルフは相変わらず眠っているままだが、安静中だった筈のベルがいなかった。少し時間が経って知ったのだが、どうやら俺が仮眠中の時に目覚め、看病していたアイズによってフィン・ディムナの元へ連れて行ったそうだ。俺が拒んだ情報交換をさせる為に。
天幕へ戻ったベルから物凄い勢いで詰問されたのは言うまでもない。『ちょっとリヴァン、いつの間に僕がパーティのリーダーになっていたの!?』ってな。寝ているリリルカとヴェルフに申し訳がなかったので、一先ず場所を変えようと天幕から出る事にした。
野営地の隅っこに移動した際、ゴライアスとの戦闘前に別れた後の事を説明した。ゴライアスを倒した件を話すと面倒な事になりそうなので、敢えて切り抜けたと誤魔化し、18階層で【ロキ・ファミリア】の野営地に訪れた時の内容を説明。俺が独断で咄嗟にベルをパーティのリーダーにした事は少し納得いかない表情をしていたが。
アイズがずっと看病をしていた事も教えると、その直後にベルの顔が面白いくらいに顔を真っ赤にしていた。『俺がいない間に随分と仲良くなったじゃないか』と揶揄うと、ベルは必死に言い訳をしようともするが、しどろもどろとなる始末。笑いを堪えるのが大変だった。
それと、ベル経由で【ロキ・ファミリア】側の情報を知る事が出来た。どうやら向こうは、『遠征』の帰りにトラブルが発生したようだ。帰路の途中で、モンスターの群れに強襲されて、下位の団員の多くが『毒』に侵されたらしい。しかも自分一人では、動く事も困難な程であると。
回復アイテムの
そして悪質な『毒』を治療する専用アイテムが地上にあるようで、それを調達しに行っている人を戻って来るのを待っている状態であると。
毒で動けない、か。【ロキ・ファミリア】のリヴェリアや
「ところで話は変わるんだがベル、近くで話してるとやっぱり臭うな」
「そりゃまぁ、ずっとダンジョンにいたから」
向こうがベル達を治療している際に一通りの消臭をしてくれているみたいだが、完全に消えていないみたいだ。ダンジョンの中では全く気にしなかったが、自然に溢れた18階層にいると鼻が反応してしまう。
因みに俺はこの野営地に来る前にアンティを使って消臭済みだ。ベルがいない間、リリルカとヴェルフにも密かに済ませている。それと余り言いたくないが、この野営地にいる【ロキ・ファミリア】の方々もそれなりに臭う。男性だけでなく女性もだ。
ここは【ロキ・ファミリア】の野営地なので、多くの団員達の前でアンティを使う訳にはいかない。だから後ほど天幕へ戻った際にやるとしよう。勿論、ベルにもそう言ってある。
あ、レフィ姉さんが涙目になってトコトコと歩いているな。恐らくだけど、リヴェリアにキツイ説教でもされたってところか。
天幕内で騒いだのは問題だったから自業自得だけど、ここは従弟として慰めにいこう。
しかし、その行動をした事に俺は後悔した。何故なら――
「リヴァン、本当にアイズさんと何もなかったのよね?」
「だから何度も言ってるでしょう。ジャガ丸くんの話題でああなったって」
いきなり俺とアイズの関係について問い詰められたので。
感想お待ちしています。