少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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珍しく長めに書きました。


少年エルフ、ダンジョンで神と遭遇する

 問い詰められたレフィ姉さんと一通りの話を終えた後、俺は再び天幕へ戻った。

 

 約束通り、ベルにアンティを使って消臭後、未だに眠っているリリルカとヴェルフの看病をしている。俺がヴェルフで、ベルはリリルカを。

 

 天井の水晶の光が薄れて『夜』の時間帯となった際、二人は漸く目覚めた。

 

 ベルが一通りの状況を説明すると、足手纏いになっていたと謝罪するリリルカとヴェルフ。しかし、ベルが即座に否定した事で二人は苦笑する。

 

 話題を変えようと、俺が二人の怪我の痛みがないかを確認するも、揃って問題無いと返答してきた。改めてレスタで回復させる必要がなさそうだ。

 

 リリルカは中層で俺がレスタを使ったのを思い出したのか、それについて質問してきたが、急遽アイズが現れて食事の知らせをしてきた。

 

 アイズが来た事で、リリルカとヴェルフは驚きの表情を露わにして固まっていた。いきなり【剣姫】の名で知られた第一級冒険者が現れたら、そうなるのは無理もない。

 

 一先ずはパーティ内での会話はここまでとなり、俺達は天幕を出て彼女の後に付いて行き、すぐに野営地の中心へと到着する。

 

 ヴェルフが着いた途端に何やら嫌そうな顔をしていた。俺がさり気なく聞いてみると、どうやら【ロキ・ファミリア】だけでなく【ヘファイストス・ファミリア】もいるらしい。ヴェルフ曰く除け者扱いされているから、呻き声の一つも出したくなるだろう。

 

 アイズから人気のない場所を勧められたので、俺達はそれぞれ腰を下ろそうとする。

 

 ベルは右隣りにアイズが、左隣にはリリルカと女性二人に挟まれている。ヴェルフはリリルカの右隣りで、その更に隣に俺……と言う座り順だ。

 

 看病していた時から気になっていたが、本当にアイズはベルの事が気になるんだな。ベルが腰を下ろしたのを見て、直ぐ隣に座っているのが何よりの証拠だ。まぁそれによって、レフィ姉さんがベルを目の敵みたく睨んでいる。

 

 すると、団長のフィン・ディムナが立ち上がって俺達を紹介しようとする。

 

「彼等は仲間(おたがい)のために身命をなげうち、この18階層まで辿り着いた勇気ある冒険者だ。仲良くしろとまで言うつもりはないが、同じ冒険者として、敬意をもって接してくれ」

 

 上手いものだ。ああやって冒険者の自尊心に訴えるような言い方をすれば、向こうの団員は俺達との揉め事は避けるだろう。カスラも似たような事をしているのを何度も見た事がある。

 

 それより、ここの食事が果物(フルーツ)がメインのようだ。どれも糖分が高くて物凄く甘い。特に綿を蜂蜜に侵したかのような雲菓子(ハニークラウド)は、一口食べた途端に濃厚な甘い果汁が口に広がっている。俺は甘い物は食べれるから大丈夫だが、問題はベルだ。前に甘い物が苦手だと言ってたから、こんな激甘な雲菓子(ハニークラウド)を食べれば……思った通り、吐きそうな顔をしていた。

 

 ベルと違って【ロキ・ファミリア】の女性団員達は、雲菓子(ハニークラウド)を齧ってはとろけるような顔で頬に手を当てていた。女性は甘い物が好きだと言われているが、限度があると俺は思う。こんな甘過ぎる果物ばかり食べていたら、体重が増えてお腹に贅肉も――

 

『!』

 

 ――やばっ。何故か分からないが、果物を食べてる女性団員達が一斉に俺を睨んできてる。一先ずこれ以上余計な事を考えるのは止めておこう。

 

 素知らぬ顔をしながら果物を食べると、向こうは何事も無かったかのように食事を再開する。

 

 俺のやり取りとは別に、隣は色々と騒いでいた。いつのまにかベルの周囲にはアイズとリリルカだけでなく、アマゾネスと思われる褐色の女性二人も混ざっていた。見た感じ姉妹で、まるで尋問するように話しかけている。胸が薄い方の女性がベルの事を『アルゴノゥトくん』と呼んでいる理由は分からないが。端から見ればベルが女性にモテモテの光景だ。

 

「ベ、ベル、リヴァン! どっちでもいいから助けてくれ!」

 

「何じゃヴェル吉、せっかく心配して来てやったと言うのに」

 

 更に隣のヴェルフは、【ヘファイストス・ファミリア】の()()()らしき女性に絡まれていた。凄く嫌そうな顔をしているヴェルフとは対照的に、酒が入っている()()()の女性は愉快そうな笑みで肩を組んでいる。

 

 ベルは女性四人に絡まれて無理だ。なので動けるのは俺だが……放置しておくことにした。騒がしいので場所を移動しようと俺は、飲み物が入っているコップだけを持って立ち上がる。

 

 ヴェルフから『この薄情エルフ~!』と言われたが、今の俺には何にも聞こえなかった。

 

 俺が移動して着いた所は………レフィ姉さんの隣だ。彼女は気付いていないのか、ジッとベルを見ている、と言うより睨み続けている。

 

「随分とお怒りのようですね、レフィ姉さん」

 

「! リ、リヴァン……」

 

 レフィ姉さんは声を掛けるとまるで今気付いたように反応して振り向いた途端、気まずそうな表情となっている。

 

 許可を求めないまま隣に座るも、彼女は特に気にすることなく受け入れている様子だった。俺が従弟だからと言う事であって、これが見知らぬ男だったら対応は全く違っているだろう。

 

「もしかして、ベルと何か遭ったのですか?」

 

「べ、別にそんなんじゃ……」

 

「ならば、何故ベルを目の敵にしているのです? そうするのには理由があるはず」

 

「そ、それは……」

 

 何でもないと言おうとするレフィ姉さんだが、何かしらの理由でベルを嫌っている節を見抜いてた俺は再度問う。

 

 普段の彼女であれば、種族構わずどんな相手でも友好的に接している。にもかかわらず、何故かベルに対して矢鱈と刺々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 俺が考えられる理由としては、ベルの近くにアイズがいるかもしれない。レフィ姉さんのアイズに対して、尊敬を通り越して崇拝している。以前には惚気みたいな長話を聞かされたから、どれだけ好きなのかを胸焼けするほど分かっていた。現にベルがアイズと至近距離で話しかけられている事で、目がどんどん鋭くなってきている。

 

「先に言っておきますが、ベルは俺の仲間で友達です。いくらレフィ姉さんだからと言っても、彼に害する行動を取れば黙ってはいませんので」

 

「ううっ……」

 

 何故ベルを嫌っているのかは知らないが、こうやって釘を刺しておけば大丈夫だろう。

 

 すると、レフィ姉さんはベルを見るのを止めて俺に視線を移して問おうとする。

 

「ね、ねぇリヴァン。さっきティオナさんとティオネさん……あそこにいるアマゾネスの二人から聞いたんだけど、あのベル・クラネル……さんが、一人で『ミノタウロス』と戦ったのは本当なの?」

 

「勿論と言いたいところですが、生憎俺はギルドの情報やベルの口から聞いただけに過ぎません。ですが、それでベルが『Lv.2』にランクアップして、この中層に来れたのが何よりの証だと思いますが?」

 

「それは、そうだけど……」

 

 従弟の俺が実際に見てない事でレフィ姉さんは完全に納得出来ない様子だ。もしベルがミノタウロスと戦うところを見ていれば考えは改まるかもしれないが。

 

 しかし、それとは別に気になる事がある。

 

「寧ろ、上層でまたしてもミノタウロスが出現した事が気になりますね。俺はてっきり、以前に【ロキ・ファミリア(そちら)】が中層で討ち漏らしたミノタウロスの生き残りかと思いましたよ」

 

「! そ、そんな訳――」

 

「それについては私の方から弁明させてもらおうか」

 

 すると、こちらの会話に【ロキ・ファミリア】副団長のリヴェリアが割って入るように言ってきた。

 

 彼女がそのまま俺の隣に座る事に、レフィ姉さんや他の団員の同胞(エルフ)達も驚いた顔をして見ている。

 

「もう一月以上経ったが、【ロキ・ファミリア(わたしたち)】が責任を持って既に対処している。ギルドにも報告済みだ。お前の事だから、それもちゃんと確認したと私は思うが?」

 

「……失礼しました。レフィ姉さんが俺の友達を疑うように問われたので、つい……」

 

 リヴェリアの言う通り、俺はもう既にギルドで確認していた。だからベルが戦ったミノタウロスは【ロキ・ファミリア】の討ち漏らしでない事はもう分かっている。

 

「意地の悪い奴だ。我々の不手際で無い事を分かっていて言うとは。あとレフィーヤ、ベル・クラネルが一人でミノタウロスを倒したのは間違いない。そこは目撃者である私が証言する。フィンもその一人だ。そうでなければ彼はここにいないし、逆にアイズは助けようとしたら拒まれていたぞ」

 

「ほ、本当に一人で……」

 

 リヴェリアやフィン・ディムナが目撃者と言ったことで、レフィ姉さんは漸く疑惑の念が晴れたようだ。と言っても、未だベルに対する刺々しい雰囲気は無くならないが。

 

 まぁそれより、何でこの人は俺の隣に座ったんだろうか。お陰で未だに他の同胞(エルフ)達に凝視されているんだけど。

 

「あのぅ、証言したのでしたら元の席に戻ってはどうでしょうか?」

 

「何だ? 私が隣にいると嫌なのか?」

 

「いえいえ。いくら同じ冒険者とは言え、王族(ハイエルフ)の貴女が、下賤なエルフの身である俺と一緒にいるのは、色々と体裁が悪いと思いまして」

 

「そんな気遣いは一切不要だ。前にも言っただろう? 私を王族(ハイエルフ)として敬う必要は一切ないとな」

 

「………はぁっ、分かりました。ここは貴女に従いましょう、リヴェリア(・・・・・)

 

『んなっ……!?』

 

 俺がリヴェリアを呼び捨てで言った瞬間、この場にいるエルフ達が一斉に驚きの声を発し、あんぐりと口を大きく開けた。勿論、それはレフィ姉さんも含まれている。

 

「そうだ。良かったら後で、ベルがミノタウロスと戦った内容を聞かせてくれませんか? ベル本人に聞いても、必死に戦ってたから細かく憶えていないと言われてしまって……」

 

「……ふっ。良いだろう。だが、私が見たのは途中からなので、冒頭の部分は分からないぞ。それでも構わないか?」

 

 俺のお願いにリヴェリアは一瞬呆けた顔をするも、すぐに笑顔で了承してくれた。

 

「ええ、構いません。見た内容を教えてくれるだけで――」

 

「ちょちょ、ちょっと待ちなさいリヴァン!!」

 

 すると、さっきまで固まっていたレフィ姉さんが急に俺の両肩を掴んで詰め寄って来た。

 

 この光景に他の団員達だけでなく、ベル達も一斉にこちらを凝視している。

 

「どうしました、レフィ姉さん? そんな慌てた顔をして」

 

「ああ貴方、なな、何でそんな馴れ馴れしい態度を取ってるの!? そ、それに今、リヴェリア様を、よ、呼び捨てにするだけでなく、お願いをするなんて厚かましい事を……!」

 

 どうやら俺のリヴェリアに対する態度がお気に召さなかったようだ。他の同胞(エルフ)達からも非難に満ちた目で睨んでいる。

 

「いや、御本人から『自分を一人の冒険者として接するように』と言われたので、俺はそれに合わせようと……」

 

「その通りだ、レフィーヤ。私が許可したのだから、リヴァンに一切の非は無いぞ」

 

 俺の発言にリヴェリアが擁護するも、レフィ姉さんは未だに焦った顔をしている。

 

「だ、だとしてもリヴァン、いくら許可されたからと言っても、そこは丁重にお断りするのが普通で……!」

 

「そんな事をしたらリヴェリアの気を悪くするだけじゃないですか」

 

「また呼び捨て!?」

 

 俺が再び呼び捨てで言った事にレフィ姉さんは再び仰天した。

 

「……はぁっ、全く」

 

 大袈裟に驚いているレフィ姉さんに呆れているのか、リヴェリアは瞑目しながら手を頭に当てて嘆息した。因みにフィン・ディムナは苦笑し、ガレス・ランドロックは我関せず状態だ。

 

 それとは別に、彼女だけでなく他の同胞(エルフ)達(主に女性)も聞き捨てならないように立ち上がって一斉に詰め寄ろうとするも――

 

 

「こぉらぁベル君! ボクが心配で捜しに来たと言うのに、なに他の女の子とイチャコラしているんだぁ!?」

 

「ええ!? か、神様!?」

 

 

 突然、どこかで聞き覚えのある声が叫んだ。しかも名指しで。呼ばれたベルは驚きの声をあげている。

 

 それを聞いた俺が振り向くと、その先にはベルの主神――ヘスティア様がいた。他にも男神や眼鏡をかけた女性冒険者、見覚えのある女性エルフ。そして……残り三人の冒険者もいた。最後の方は、13階層で俺達に怪物進呈(パス・パレード)を仕掛けた冒険者達だ。まさか此処で再会する事になるとはな。

 

 ベルがヘスティアに問い詰められて戸惑っている中、リリルカとヴェルフは三人を見た途端に剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

 この状況に食事が中断となったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 結論から言わせてもらうと、俺達に怪物進呈(パス・パレード)を仕掛けた冒険者達――【タケミカヅチ・ファミリア】には貸し一つと言う事で済ませた。

 

 勿論、最初はそんな雰囲気で終わらなかった。

 

 土下座をする少女――(ミコト)と、立ったままでも深く頭を下げるもう一人の少女――千草(チグサ)はまだ良い。問題は冒険者の巨漢――桜花(オウカ)の態度だった。

 

 彼は自分一人で泥を被ろうと、『自分が出した指示であり、今でも間違っていたと思っていない』と言い切った。

 

 それを聞いたヴェルフが怒気を発しながら桜花を睨み、一触即発の雰囲気となるのは当然の流れだ。

 

 しかし、そこを運良く神ヘルメスとアスフィと言う女性ヒューマンが割って入って来た事で一変した。神ヘルメスが仲介者のように丸く収めたから。

 

 リリルカには【タケミカヅチ・ファミリア】に憎しみや怒りをぶつけず、ここは大きな借りにしておこうと提案した事で承諾。桜花達が自らの意思へ助けに来たという風に言った事で、ヴェルフは納得せずとも割り切る事となった。

 

 ベルは二人と違って怒る事はせず、事情が事情と言う事もあって許していた。優しいのは良い事なんだが、端から見れば甘い考えと言われるだろう。因みにヘスティア様は敢えて何も口出しせず、ただ俺達を見守っているだけだ。

 

 そして俺はリリルカとヴェルフほど怒ってはいないが、ベルみたく簡単に許容する事は出来ない。敢えてこう言わせてもらった。

 

「中層に挑戦するのはそちらの勝手ですが、もう少し上層で腕を磨くべきでしたね」

 

『!』

 

 笑顔で言い放った俺の言葉がかなり効いたのか、三人は何も言い返さないでいる。

 

「おいおいリヴァン君。せっかく俺が平和的に終わらせようとしているのに、それはないじゃないかい?」

 

「事実を言ったまでです」

 

 神ヘルメスが苦言を呈するも、俺は何の悪びれも無く言い返した。

 

 俺が吐いた毒はまだまだ優しい部類に入る。

 

 もしカスラだったら、ああだこうだと反論出来ない程の指摘をしてネチネチと相手を責めるだろう。

 

 それと六芒均衡のマリアさんであれば……もっと凄い事になっていると思う。あの人の台詞で言うとするなら――

 

『半端な覚悟で己の身の丈に合わない事をするんじゃないよ、アホンダラ共。無様な姿を晒して逃げる未熟者は、一度基礎からやり直すんだね』

 

 と、容赦のない毒を吐いていたと思う。あくまで俺の勝手な想像だが。

 

 神ヘルメスはこの空気を変えたかったのか、別の話題に変えようとする。

 

「ああ、そうそう。ちょっと確認したい事がある。階層主(ゴライアス)を倒したのはベル君達かい?」

 

「「「?」」」

 

「っ……」

 

 突然の質問にベルは勿論、リリルカとヴェルフは不可解な表情をした。『一体何の話だ?』みたいな感じで。

 

 それを倒した俺だけは違う反応をするも、一先ず敢えて何も言わないでいる。

 

「えっと、ヘルメス様、僕達はゴライアスを倒してはいませんが」

 

「リリは気絶してベル様に運ばれていましたし……」

 

「俺もリリスケと同様です」

 

「本当かい? 俺達が17階層にある『嘆きの大璧』を通ろうとした時、階層主(ゴライアス)と戦闘したと思わしき痕跡と、大量の灰があったんだけどね」

 

 俺を除くベル達の返答に首を傾げる神ヘルメスに、ヘスティア様が呆れたように言い放つ。 

 

「だから言っただろう、ヘルメス。ベル君達じゃないって。やっぱりロキの眷族(こども)達が倒したんじゃないか」

 

「………ああ、ゴメンゴメン。やっぱり俺の勘違いだったよ」

 

 アハハハと笑って流す神ヘルメス。

 

「さて、俺の確認は終わったから、次は今後の予定について話し合おう!」

 

 まるで杞憂だったみたいに神ヘルメスが笑いかける。だけど、さり気なく俺に視線を向けていた。

 

 その後にアスフィが前に出て今後の話を始めようとする。

 

 階層主(ゴライアス)が倒されているとは言え、ベル達の傷は完全に癒えていない状態だから、【ロキ・ファミリア】が移動を再開するのに合わせて二日後に出発する事となった。

 

 その際に神ヘルメスが一日は暇があると言って、明日一杯は18階層を観光しようと提案。特に反対する理由もない俺達は何事も無く受け入れる。この安全階層(セーフティポイント)にある『街』――『リヴィラの街』へ行く事となった。

 

「リヴァン君、ちょっと俺に付き合ってもらえるかな?」

 

 天幕を出て皆と別れた際、まるで狙っていたかのように神ヘルメスが俺に声を掛けてきた。

 

 

 

 

 

「それで、俺に何か御用ですか?」

 

「そう警戒しないでくれ。別に取って食おうって訳じゃないんだからさ」

 

 天幕から少し離れた場所に、俺と神ヘルメスしかいない。

 

 一応、野営地の周辺を見張っている【ロキ・ファミリア】の団員が数名いる。だが向こうは此方の事に気にはしていない。神に関わると碌な事がないと思ってるのか、我関せず状態だ。

 

「まぁ、こんな時間だから単刀直入に聞こう。リヴァン君、階層主(ゴライアス)を倒したのは君だろう?」

 

 本当に単刀直入に聞いてきたな。こうまでして何の疑いもない様子で訊いてくるって事は、もう殆ど確信の域に入っているんだろう。

 

「………何故改めて俺にまたそんな事を聞くんです? 先程ベル達が言っていたじゃありませんか。ゴライアスは倒していないって。貴方は神なんですから、下界にいる人間の嘘を見抜ける筈でしょう?」

 

「そうだね、確かにベル君や他の二人は一切嘘を吐いていなかった。そこは断言しよう。だけど、君の返答はまだ聞いていないんだよね」

 

 ベル達の返答を聞けば納得するかと誰もが納得するかと思っていたが、実はそうでもなかったようだ。どうやらこの神はそう簡単に行かないと見ていいだろう。

 

「【ロキ・ファミリア】の誰かが倒したとヘスティア様が仰って、貴方もそれで納得したんじゃないんですか?」

 

「ああ、アレね。あの場は敢えて流したけど、【ロキ・ファミリア】は倒していないってキチンと確認済みだよ。向こうも向こうで、今頃誰が階層主(ゴライアス)を倒したのかを密かに調べているだろうね」

 

 ………やっぱり確認済みだったか。誠実なミアハ様と違って、このヘルメスと言う神は本当に食えない相手だ。

 

 もう誤魔化す手段はないので、ここは白状するしかない。が、もう少し粘ってみるとしよう。

 

「向こうが関与してないからと言って、何故そこで俺に結び付くんですか? それに俺は『Lv.1』です。普通に考えて、下級冒険者が階層主(ゴライアス)を倒すのは絶対無理だと誰だって考えるでしょうに」

 

「へぇ、君は思った以上に中々頭が回るようだ。敢えて冒険者としての常識を踏まえさせ、そこで暗に自分はやっていないように持って行こうとするとは見事だ。確かにそうすれば嘘をすり抜ける事が出来るね」

 

 だけど、と言って神ヘルメスは言葉を続ける。

 

「悪いが俺にそんな子供騙しは通用しない。まだしらばっくれるなら、この場で言い逃れ出来ない状況に追いやっても良いんだよ?」

 

「………ではせめて、理由を教えてもらえませんか? いきなり確信を突いたように問われても、こちらとしては返答に困りますので」

 

「勿論だとも」

 

 もう殆ど諦め状態だったが、最後の悪足掻きとして理由を尋ねる事にした。俺が階層主(ゴライアス)を倒したと理由を。

 

 それを聞いた神ヘルメスは笑みを浮かべながらも、俺に説明しようとする。

 

 どうやらフィン・ディムナから、気を失っているリリルカとヴェルフを抱えたベルを逃がす為に、俺が階層主(ゴライアス)を惹きつける為に殿を務めた事を聞いたそうだ。向こうはベルと情報交換した際に聞いた内容を、そのまま話したんだろう。

 

 向こうは階層主(ゴライアス)を倒していない上に、ベル達が階層主(ゴライアス)から逃げたと知った神ヘルメスは疑問を抱いた。主に階層主(ゴライアス)を惹きつけた俺に対して。そこで確認をしようとベル達に尋ねるも、肝心の俺から返答が無かった事に疑惑が更に深まり、此処で俺を問い詰める事にしたそうだ。

 

 どうやら神ヘルメスに疑われた時点で、俺は詰んでいたようだ。と言うか、そんな僅かな手掛かりだけで、俺が階層主(ゴライアス)を倒したと言う結論に至るとは普通に考えられないんだがな。

 

 本当なら証拠を出せと言いたいが、生憎と神の前では嘘を吐けない。もし嘘を吐いた瞬間、俺がやったと簡単にバレてしまうので。

 

 完全に言い逃れが出来ない事を悟った俺は、不承不承ながら喋る事にした。それを聞いた神ヘルメスは驚愕な表情となる。

 

「こいつは驚いた。まさか本当に君一人で階層主(ゴライアス)を倒すとは。『Lv.1』なのに凄いね。因みにどうやって倒したんだい?」

 

「そこまで答える気はありません」

 

「え~? 良いじゃないか、もうここまで言ったんだからさ。全部教えてくれよ、ね?」

 

 俺が白状した事に、神ヘルメスは根掘り葉掘り聞き出そうとする姿勢となった。

 

 ミアハ様から下界に降臨した神は娯楽を求める余り、大変傍迷惑化していると聞いた。悪く言えばキチガイとも言える。この神は間違いなくその迷惑な部類に入るだろう。

 

 ここで教えないと頑なに拒んでも、この神の事だから絶対に諦めないだろう。なので俺は、一つの手段を使う事にした。

 

「ところで、神ヘルメス。俺の記憶が正しければ、神がダンジョンに潜るのは禁止事項だった筈では?」

 

「! な、何の事かな~?」

 

 俺の問いを聞いた途端に神ヘルメスが白を切った。急に立場が逆転した感じだ。

 

 神がダンジョンに潜るのは禁止されている事は、ギルドの講習で学んだ。もし実行すれば対象となる【ファミリア】は相当手痛い事になる。例えば都市最高派閥の【ロキ・ファミリア】であれば、多くの資産を失う事になるだろう。

 

「これがギルドに知られたら、罰則(ペナルティ)を下されるんでしょう? 俺は【ヘルメス・ファミリア(そちら)】について詳しく知りませんが、派閥の規模が大きいほど罰則(ペナルティ)は重いそうですね。後ほど、俺がギルドに報告すればどんな罰則(ペナルティ)になるのかが明らかに――」

 

「分かった分かった。もうこれ以上は聞かない事にするよ」

 

 余程都合が悪いのか、神ヘルメスは両手を上げて降参のポーズを取った。

 

 さっきまで人に根掘り葉掘り聞き出そうとしていたと言うのに、自分や【ファミリア】の身に危険に晒されると分かった途端に身を引くか。呆れてものが言えないな。

 

 翌日の朝に、神ヘルメスの眷族であるアスフィと言う女性に今回のやり取りの事を教えた。勿論、禁止事項の事についても触れている。そして弱みを握られてしまったと分かった彼女は、自身の主神に思いっきり不満をぶちまけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~時間は少し遡る~

 

 

「フィン、神ヘルメスの話を聞いてどう思う?」

 

「んー……今のところは何とも言えないね。三人が戻って来るまでは」

 

 ベル・クラネル一行の捜索隊が18階層に訪れた後、その代表であるヘルメスがアスフィを連れて天幕で一通りの話をしていた。

 

 その終わり際に、突然ヘルメスが奇妙な事を言いだした。『そちらが階層主(ゴライアス)を倒してくれたお陰で、17階層を簡単に通る事が出来たから感謝する』と。

 

 当然、【ロキ・ファミリア】は倒していないどころか、誰にもそんな指示を出していない。階層主(ゴライアス)が出現済みである事は、リヴァンを除いたベル一行を運んだアイズから聞いている。だが、その後に倒すように指示などしていないから、ヘルメスから聞くまでは寝耳に水だった。

 

 ヘルメス達が去った後、フィンは密かにガレスとティオネとラウルの他、この場にいない複数の団員達も連れて行くよう命じた。17階層の『嘆きの大璧』に向かって確認するようにと。万が一に階層主(ゴライアス)と遭遇しても、問題無く撃退出来るメンバーなので。

 

 因みに天幕にいるのはフィン、リヴェリア、ティオナ、そしてアイズの四人である。

 

「でもさぁ、フィン。ヘルメス様の言ってる事は確かなんでしょ? ゴライアスが倒されていたって。もしかしたらリヴィラの冒険者達が倒したんじゃないの?」

 

「それはないね。もしそうであったら、ボールス達が野営地(ここ)を通るのを誰かが目撃する筈だ」

 

「あ、そっか」

 

 ティオナの予想に、フィンは首を横に振りながら否定した。それを聞いた彼女もすぐに納得する。

 

 【ロキ・ファミリア】の野営地は、17階層の連絡口から近い所に設置されている。その為、もしも『リヴィラの街』にいる冒険者達が階層主(ゴライアス)を討伐するのなら、間違いなく【ロキ・ファミリア】の誰かと遭遇している。

 

 それに加えて、『リヴィラの街』の頭領(トップ)であるボールスが【ロキ・ファミリア】を無視するとは思えなかった。強欲な男ではあるが、危険(リスク)を考慮して必ず【ロキ・ファミリア(じぶんたち)】にも声を掛けるだろう。『どうせ地上に戻るなら倒すのを手伝え』か、『そっちでさっさと倒してくれ』と言ってくる筈だ。

 

 だからフィンは階層主(ゴライアス)を倒したのはリヴィラ側ではないと判断する。

 

「となれば、別の誰かが倒した事になるが……」

 

「……ベル達の誰かが倒したのかな? もしかしてリヴァン、とか」

 

「それはないだろう」

 

 アイズが恐る恐る言うも、今度はリヴェリアが否定した。

 

 リヴェリアの頭の中では、ベル・クラネル一行の四人を即座に除外済みだ。理由も当然ある。

 

 ランクアップしたとは言えベルは『Lv.2』であり、残りのメンバー三人は全員『Lv.1』。『Lv.4』クラスの階層主(ゴライアス)を相手に戦って倒すのは絶対無理だった。常識的に考えても。

 

 他にもベルから情報交換した時に、階層主(ゴライアス)から逃げたと本人の口から聞いた。あの素直そうな少年が嘘を言うとは到底思えないとリヴェリアは確信している。

 

 だが――

 

「いや、アイズの言う通りかもしれないね」

 

 フィンだけはソレに頷いていた。

 

「何を言っているんだ、フィン。お前も一緒にベル・クラネルから話を聞いたではないか」

 

「うん、確かに聞いたよ。だけど、リヴァン・ウィリディスについての情報は殆ど何もなかった。ベル・クラネルたち三人を逃がす為に殿を務めていた、だけとしか」

 

「……その後にリヴァンが運良く逃げ切れて、野営地(ここ)へ訪れたのではないのか?」

 

「だとしても、『Lv.1』の彼が階層主(ゴライアス)相手に殆ど無傷で逃げ切れるとは到底思えないね。何かしらの怪我をしておかしくない筈なんだが……とは言え、リヴェリアの推測も捨てきれない」

 

 情報が余りにも少な過ぎる為、フィンはリヴァンがやったと断定出来なかった。

 

 普通に考えて『Lv.1』の冒険者が一人で、階層主相手に挑むのは自殺行為も同然だ。そんな事をするのは大変馬鹿げており、愚かとしか言いようがない。第一級冒険者ならまだしも、下級冒険者では絶対に無理だと。

 

 リヴァン本人に聞けば分かるかもしれないのだが、以前の宴で後ろめたい事をした件がある為に出来なかった。もし好奇心目当てで聞いてしまえば、リヴァンの【ロキ・ファミリア】に対する印象を更に悪くなってしまうだろう。彼はレフィーヤの身内であるから猶更に不味いので。

 

 いっそレフィーヤに頼んでみようかとフィンが考えていると、アイズが途端に声を掛ける。

 

「あの、フィン。リヴァンについて、一つ気になる事が……」

 

「何かあるのかい?」

 

「実は――」

 

 アイズは以前にあったイベント――怪物祭(モンスター・フィリア)について話そうとする。脱走したモンスターを討伐中に見た内容を。

 

 屋根の上からだったが、リヴァンがティオナの大双刃(ウルガ)と似たような武器を使って、20階層に生息するトロールを苦も無く倒したのをアイズは見ていた。あの時は非常に気になって彼に会おうと考えていたが、別件で色々遭った為に後回しとなってしまって聞けず仕舞いとなったが。

 

「アイズ、彼が倒したモンスターはトロールで間違いないかい?」

 

「…うん」

 

「んー……トロールと階層主(ゴライアス)ではレベル差があると言え、少なくとも『Lv.1』で倒せるモンスターじゃないのは確かだね」

 

「リヴァンがトロールを……俄かに信じられないな」

 

 アイズの目撃した内容が真実とは言っても、フィンとリヴェリアからすれば驚愕するものだった。

 

 トロールはダンジョン下層に生息するモンスターなので、『Lv.1』が倒すのには無理だ。しかし、リヴァンが簡単に倒したとなれば、階層主(ゴライアス)を倒したと言う線が浮上する。

 

 だが、フィンの言った通り、トロールとゴライアスでは差があり過ぎる。トロールを倒したからと言っても、それで階層主(ゴライアス)を倒す確証には至らない。

 

「っていうか、あのリヴァンって子がアタシと似た武器を使ったって本当なの!? それらしい武器持ってなかったよ!?」

 

「見間違いじゃないと思うんだけど……」

 

 ティオナとしては、自身の武器が似ている事が一番気になるようだ。

 

 遠目でも、しっかりと武器も見ていたアイズは大双刃(ウルガ)と似た形状の武器だったと言い返す。

 

 予想外の情報を聞いた事にフィンは戸惑うも、一先ずは保留にする事となった。

 

 その後に17階層から戻ってきたガレスがフィン達に報告した。戦闘の痕跡だけでなく、階層主(ゴライアス)の死骸と思わしき大量の灰もあったと。

 

 報告を聞いたフィンは情報を集めようと、明日に『リヴィラの街』へ行く予定となっているアイズ達にとある指令を命じるのであった。




ついでにこれを書いておこうと内容を付け足した結果、一万文字以上となりました。

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