少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
暴走気味のレフィ姉さんに自身の上着を着せた後、俺はすぐ治療に取り掛かった。
座らせるベルの容態を見て、打撲や裂傷の他、まるで火傷したように皮膚が焼け爛れているのを確認する。
先ずは火傷状態から治そうと、
「アンティ」
「ええ!?」
「この光は……!?」
治療用のテクニックを発動すると、対象はベルだけでなく、範囲内にいる俺達にも柔らかな光が包まれた。自分達も含まれたことで予想外だったのか、女性エルフ二人は困惑した様子を見せる。
皮膚が元通りに戻った事を確認した俺は次の行動に移る。
「レスタ」
「「!?」」
さっきとは違う光に包まれ、ベルが追っていた打撲や裂傷がどんどん消えていき、そして完全回復した。同時に傷を負っていたと思われるレフィ姉さんや、全く無傷のリューさんも含めて。
「よし。これでもう大丈夫。もう動いてもいいぞ」
「す、凄い……。傷が全部無くなってる」
信じられないように自分の身体を確認するベル。
因みに傷は治せても、ベルの履いている
「リ、リヴァン、攻撃魔法だけじゃなく、二つの回復魔法も使えるの……!?」
「まぁ一応、ですが」
レフィ姉さんからの問いに少々奥歯に詰まったかのような返答をした。
俺自身が使えるのではなく、武器に搭載されている
いくら相手が従姉でも、【ロキ・ファミリア】に所属している以上は明かすのは無理だ。もし教えてフィン・ディムナやリヴェリアに知られでもしたら、絶対面倒な事になるのが目に見えてるので。
俺の返答を聞いて再び驚いたのか、レフィ姉さんは突然石のように固まっている。
「しかしウィリディスさん。同胞の彼女はクラネルさんと同じく傷を負っているから良いとして、何故無傷である私も治療したのですか?」
「ああ、あの魔法は自分の一定範囲内にいる人も対象となって回復するんです」
「っ! ま、まさか……貴方が使う回復魔法は、一度で複数の者達を治す事が出来ると……?」
「その通りです」
察しが良いリューさんの問いに俺がアッサリ答えると、彼女は信じられないように目を見開く。
既にアンティとレスタを見られてしまった以上、こればかりは流石に誤魔化す事は出来ないので教える事にした。
さて、それはもう良いとして。固まる二人を放置する事にした俺はベルに尋ねようとする。
「ところでベル、何で夕飯前に野営地から抜けてこんな所にいたんだ? 夜の森は危険だって知っている筈だろ」
「そ、それは――」
「まっ、待ってリヴァン!」
問い詰めようとする俺にベルが戸惑う中、突如レフィ姉さんが慌てて前に乗り出してきた。
☆
あの後、事の経緯を全て話してくれた。
どうやら原因を作ったのはレフィ姉さんらしい。(アイズの裸を)覗いた事が許せなかった怒りにより、制裁しようとするベルを散々追い回して野営地から離れたのだと。聞いている俺は複雑な気持ちだった。ベルに対する申し訳無さの他、従姉の暴走した理由に呆れたので。
その結果、二人が夜の大森林を迷う破目になってしまい、何とか野営地に戻ろうとした際、異常事態が起きたそうだ。何でも【ロキ・ファミリア】が敵対している組織の残党を見付けたので、ベルと一緒に尾行をしたようだ。その途中、敵側が前以て仕掛けられていた落とし穴の
一連の話を聞き終えた際、俺と同じく光の奔流を目撃したアイズやアマゾネス姉妹、そしてリヴェリアも馳せ参じた。と言っても殆ど事後処理も同然だったが。彼女達が来た事で、リューさんがいつの間にか去ったのに気付くも、ベル曰く色々と訳ありらしかったので触れないでおいた。
三人が来て早々、リヴェリアより指摘が入った。主に俺に対して。自分達に何も知らせず二人を探しに行くとは何事だという小言を。その時は心配だったので居ても立ってもいられなかったと謝る事にした。
その後は今回の現場を【ロキ・ファミリア】が調査する事になり、部外者である俺とベルはレフィ姉さんと共に、アイズを護衛として野営地に戻った。
レフィ姉さんには俺が新種モンスターを倒した事や、回復魔法を使った件を口外しないで欲しいと頼んだ。【ロキ・ファミリア】として報告しなければならないと拒否されたらそれまでだが、
一夜を明かした翌日。野営地は慌ただしい様子となっている。
今日、【ロキ・ファミリア】は18階層を発つ。昨夜の騒動とは別に、地上からの解毒剤が届いた事により、部隊の進行が可能となったみたいだ。それ故に今は撤収準備の音が頻りに鳴り響いている。
因みに解毒剤を運んでいたのが――
「何でクソエルフが
「相変わらず品が無い喋り方だな、
何と目の前にいる
「そちらの団長から聞いてないのか? 俺やベル達は諸事情があって滞在しているって」
「やっぱり兎野郎もいるのかよ!?」
コイツの言う兎野郎とはベルの事を指しているんだろう。俺やベルが此処へ来た事が相当信じられないようだ。
しかし、現にこうして来ているのだから、今更否定した所で何の意味も無い。
「って事は、あの話も本当なのか!? 兎野郎がアイズの水浴びを覗いたってやつは……!」
「誰から聞いたのかは知らないが、それは本当だ」
「――――――っ!!! 何……だと!?」
俺が答えた瞬間、ベート・ローガが衝撃を受けたような表情となった。
「あ、あの野郎……俺でも出来ねえことを易々と……だと!?」
わなわなと身体を震わせながら戦慄している
「その件はもう終わった話だ。アイズも許しているし――」
「ちょっと待て! 何でテメエがいつの間にアイズを呼び捨てにしてやがる!?」
俺がアイズの名前を言った事に反応したベート・ローガが更に問い詰めようとしてきた。
何なんだ、この
少しからかいを込めて言い返そうと思ったが、見るに見かねたと思われるティオナさんが割って入って来た。
「さっきからうるさいなー。リヴァン君が困ってんじゃーん。ほら行くよー」
「おいこらっ、放せバカゾネス!? 俺はあのクソエルフに訊きたい事が――」
ギャンギャン騒いでいるベート・ローガを、ティオナさんが強制的に連れて行こうとした。凄まじい力なのか、襟首を掴まれている
すると次に、ティオネさんが此方に来て謝ろうとする。
「ごめんなさい。うちのバカ狼が迷惑かけたわね」
「いえいえ、こちらこそ助かりました。ところで、あの
「ええ。貴方が考えている通りよ」
肝心な内容を言わずに問うも、ティオネさんは分かっているように頷いた。
思った通りか。あの
ベート・ローガを連れてくるのが目的だったのか、俺の問いに答えたティオネさんが「それじゃあね」と別れを告げて団員達がいる方へと向かっていった。
そう言えばアイズの話題で思い出したが、【ロキ・ファミリア】は部隊を二つに分けて移動するって言ってたな。迷路や道幅の関係で、遠征に参加している大人数の団員達が17階層以上の層域をいっぺんに進むのは窮屈で困難だから、帰還の際には部隊が二つに分けられると。
さっき会っていた三人やアイズは、前行するパーティに編入されていた。
そして俺やベル達は、後続の部隊に同行させてもらう事で地上へ帰還する手筈だ。因みに後続の中にはリヴェリアが含まれている。帰還中に気安く話しかける事は出来ないので、せめて出発前の挨拶をしておくか。
「リヴァン」
「ん?」
そう思って移動しようとするも、誰かが俺に声をかけてきた。振り返ると、何と前行部隊に組み込まれているアイズだった。既に武装を纏っている完全装備の状態だ。
「どうしました、アイズ。確か貴女は前行のパーティの筈では?」
「うん……でもその前に聞きたい事があって」
「聞きたい事?」
俺が思わず鸚鵡返しをすると、彼女はコクリと頷く。
まさかフィン・ディムナがまた俺に探りを入れようと……いや、それはないか。
余り確信持って言えないが、アイズの様子から見て純粋に何かを聞きたがっている感じだ。裏があるとは思えない。
「17階層にいた
「……………………」
彼女から予想外の質問をされた事に、俺は思わず無言となってしまった。
フィン・ディムナならまだしも、まさかアイズが遠回しな言い方を一切しないで直球で聞いてくるとは……。いや、そこが彼女らしいと言うべきか。
此処に滞在して話をする機会があったのでいくつか分かった。第一級冒険者の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは、かなりの天然な性格であると。ベルとの会話でも、ズレた返答をしているのを目撃した事がある。最初は狙ってやっているのかと疑っていたが、そんな素振りが微塵も感じられなかったので、アレは素なんだと改めて認識した。
だからアイズは裏表とか一切関係無く、ただ純粋に知りたいだけなんだろう。俺が本当に
「突っ込みどころが満載なんですが、何で俺が倒したと思ったんですか? そんな質問をするって事は、何か理由がある筈です」
「……
俺がトロールを倒した? …………ああ、あの事件か。
確かあの時、闘技場で使う筈だったモンスターが脱走して大騒ぎになっていた。その時に偶然鉢合わせたアミッドさんを守ろうと、俺が前に出て
それをまさかアイズが目撃していたとは……凄い偶然だな。あの場に彼女らしき人影は一切見当たらなかったが、恐らく遠くから見ていたんだろう。
まぁ、そんな事よりもだ。下層域に出現するモンスターを倒したのを目撃したアイズはこう思ったんだろう。『Lv.1』である俺が、倒せない筈のモンスターを倒してしまったから、もしかすれば17階層にいる
向こうがあり得ない事象を見てしまった以上、簡単に誤魔化す事は出来ないだろう。さて、どうしようか。
此処は一先ず――
「知りたければ後日に【ミアハ・ファミリア】の
「……分かった」
敢えて教えずに俺がいる本拠地へ来るように言うと、彼女は一瞬考えるも何の疑いもせずに頷いた。
これがフィン・ディムナだったらなら教える気は無いかと諦めるが、アイズの事だから絶対に来るだろう。地上に帰還したら、ミアハ様やナァーザさんに事情を説明しておかないとな。
「ア、アイズさん!」
そう思っていると、誰かがアイズに声を掛けた。
声が聞こえた方へ視線を向けた先には、少し焦ったような顔をしたベルがいる。
どうやら彼女に用があるようだ。ならば俺はリヴェリアに挨拶しに行くとしよう。
「それではアイズ、また会いましょう」
「うん、また」
コクリと頷いたアイズを見た俺は離れて、ベルの方へと向かう。
「リ、リヴァン……アイズさんと一体何を話していたの?」
「ちょっとした店の宣伝だ。ウチの
別に嘘は言っていない。新商品を買ってくれと言ったのは確かなので。
浮ついた話じゃないと分かったのか、ベルは何だかホッとしたような表情になっている。
安堵しているのは何となく察しているが、一先ず気付いていないように振舞いながら、この場を後にした。
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