少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
数日後に【ヘスティア・ファミリア】の冒険者――ベル・クラネルと出会った。白髪に赤目と、華奢な体格で兎をイメージするも優しい少年だったから、おかげですっかりと仲良くなってダンジョン探索している。お互いに名前で呼ぶほどだ。
最初は俺をエルフだと分かったのか、ベルがかなり気を遣うような対応をするも、今は全く気にせず友好的に接している。森にいた頃の俺だったら、他種族の相手を見た途端に物凄く警戒していただろう。けれど、異世界のオラクル船団で俺を引き取ってくれた後見人のお陰で、エルフの風習は殆ど捨て去ってる。それでも一応記憶には留めてはいるが。
まぁ、それはどうでもいい事だ。ダンジョン探索をしながらベルの事を色々と聞いてみたが、どうやら祖父が亡くなったのを切欠にオラリオで冒険者になろうと田舎から出たらしい。皆から憧れる英雄になりたい他、綺麗な女性達に囲まれたハーレムを求めてると言う邪なものも含めて。
いかにも純情な少年が持つ夢だと思いながらも、俺はベルに頑張れと言いながらも、内心複雑な気持ちだった。ハーレムとか云々はどうでもいいとして、俺が気になったのはベルの英雄願望だった。
俺も森で住んでいた幼少期の頃は、ベルと同じく英雄に強い憧れと幻想を抱いていた。しかし、オラクル船団で育った今は考えを改め、そこまで良いものじゃないと若干否定的になっている。
そう考えるようになったのは、オラクル船団で引き取ってくれた後見人が教えてくれたからだ。その後見人が、アークスの六芒均衡で三英雄の一人――カスラなので。
『三英雄と聞こえは良いかもしれませんが、所詮私やクラリスクレイス、そしてあのレギアスですら、影の権力者の傀儡だったんですよ』
そうカスラが自虐的に教えてくれた。アークスを裏で操っていた権力者――ルーサーが死んだ後、一切包み隠さずに全てを語ってくれた。最初は信じられなかったけど、カスラが真剣に言ってたのだから事実だと受け止めている。
けれど、だからと言って英雄全てを否定してはいないし、ベルが英雄に憧れを抱いている事に否定する気もない。自身の考えを他人に押し付け、夢を壊すような事をしたくないので。
さて、ベルとの出会いや自分の過去話は一旦ここまでにしよう。
零細【ファミリア】同士の俺とベルがコンビを組んで一週間以上経ち、現在もダンジョン上層を探索している。
ベルと一緒に複数のコボルドを倒し終えた数分後――
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「ほぁあああああああああああああああああああああああああっ!?」
「おかしいな。このモンスターは中層にいる筈じゃ……」
理由は分からないが牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』に追いかけられている。
悲鳴を上げながら必死に逃げるベル、冷静に考えながら逃げる俺。
確かミノタウロスは中層にいるモンスターの筈。それが何でこんな上層にいるんだ?
まぁ考えるのは後にしよう。一先ずミノタウロスを倒さなければいけない。
しかし、ベルが完全に錯乱状態に陥っている為、守りながら戦うのは少しばかり無理だ。
何故なら――
「ベル、あのミノタウロスは俺が何とかするから――」
「今は走るんだリヴァ~~~~~ン!!」
ベルが俺の腕を掴んだまま、一緒に走らされているので戦える状態じゃなかったから。
自分と同じ新米冒険者だから、あのミノタウロスに勝てないどころか殺されると思って、逃走に専念させようとしてるんだろう。
その気遣いは非常に嬉しいけど、エトワールクラスの俺でも充分にやれる。加えて代償はあれど、エトワールスキル――ダメージバランサーやエトワールウィル、他にも防御系メインの特殊能力も備わっているから、そう簡単に死にはしない。
「あっ、しまった!」
ベルが俺の腕を掴んだまま、曲がった先は行き止まりだった。
『ヴモォオオオオオッ!』
こちらが足を止めた瞬間、追いかけているミノタウロスが叫んできた。
「ひぃっ!」
「来るか……」
逃げ場が無いと恐怖で顔を歪めるベルと、得物の一つである
ここはフォトンの束を前方に激しく放つ
そう考えた俺は、突進してくるミノタウロスにフォトンアーツを放とうとするも――
『ヴゥムゥンッ!!』
「……え?」
突如、誰かが此方へ駆け付けた事によりミノタウロスは背後からの攻撃を受け、一瞬でバラバラと斬り裂かれた。
余りにも予想外な出来事に俺が呆然としたまま、ベルと一緒に返り血を浴びる破目になってしまう。その血は当然、斬り裂かれたミノタウロスだ。
「あの……お二人とも、大丈夫、ですか?」
全身がドス黒い血でベットリ付いている中、見知らぬ女性が声を掛けてきた。その人がモンスターを倒した張本人なので。
その声に視線を向けると、俺は思わず凝視する。
凄く綺麗な人だった。金眼金髪で、女神と見紛うような美しい女性だ。
久々に再会したレフィ姉さんも綺麗になって美少女の部類に入るけど、目の前にいる女性はそれ以上の美少女だと思ってしまう。
(ああ、この人が噂の……レフィ姉さんが言ってた【剣姫】か)
レフィ姉さんと再会し、ダンジョン探索をしている時にあの人が自慢気に語っていたのを思い出した。
『いい、リヴァン。この際だからよ~く覚えといてね。私が所属している【ロキ・ファミリア】には第一級冒険者、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんがいるの。その人は強くて優しくて美しくて、そして完璧! その人を見たらリヴァンでも――』
とまあ、まるで惚気るような長い語りだった。もう途中からどうでも良くなって殆ど聞き流したが。
あのレフィ姉さんがそこまで心酔する人が、今こうして目の前にいるが………本当にそうなのかと少し疑問を抱いている。
何故かは分からないが、自分が思ってるような完璧な人じゃないような気がする。あくまで俺の勘だけど。
「え、あ、ああ。俺はともかく、相方が……」
向こうが声を掛けたので、俺は何でもないように振舞いながらベルを見る。
その直後――
「だぁあああああああああああああああっ!」
「………は?」
何を血迷ったのか、ベルがいきなり逃げ出してしまった。しかも相方の俺を置き去りにして。
余りにも予想外過ぎる行動に、俺は思わず呆然としてしまう。【剣姫】も俺と似たようにポカンとしたまま、ベルが去った後を見ている。
すると、彼女の仲間と思われる獣人の男が笑いながら此方へやって来た。
その人は逃げたベルの事を笑いながら言った後――
「くはははは! テメエもアイツと同じトマト野郎かよ!」
今度は俺の姿を見ながら再び笑い始めた。
言われてみれば、返り血を浴びてる俺は酷い状態だ。目の前の獣人の男が笑うのは無理ないかもしれない。
けれど、いつまでも笑われるのは流石に嫌だったので、この状態をどうにかしようと俺は
この武器は本来エトワールクラスで使う武器ではないが、あるテクニックが搭載されているので所持している。見た目はパラソルだが、一応
「「!」」
武器を切り替えた事に、獣人の男だけでなく【剣姫】も急に驚愕の表情となった。
しかし俺は気にせず、ストームシェードに備わってるテクニックを発動させようとする。
「アンティ」
フォトンの浄化効果で状態異常を治療するテクニック――アンティを口にした。その直後には柔らかく淡い光が俺を包み込むと、全身に浴びた返り血が綺麗さっぱりと消えていく。
エトワールクラスはテクニック使用不可だけど、テクニックを備わってる武器を装備すれば限定で使用する事が出来る。他にもテクニック搭載武器を持ってるが、ここで言う事じゃないので今は割愛させてもらう。
「う、嘘だろ……」
「返り血が、一瞬で消えた……」
獣人の男と【剣姫】が信じられないと言わんばかりの表情だった。
何をそこまで驚いているのかは分からないが、一先ずは返り血が無くなったので気にしないでおくとしよう。今は早くベルを追いかけないと。
そう思った俺はストームシェードを電子アイテムボックスに収納する。
「ではお二方、俺はこれで失礼します。それと【剣姫】さん、助けて頂いてありがとうございました」
二人に挨拶をした後、俺は返り血を浴びたまま逃走したベルが行った道へ走って行く。
地面に血の跡が付着していたので、それを見ながら辿っていると地上どころか、ギルド本部まで続いていた。まさか返り血を浴びたまま都市を走り回るとはな。さぞかし周囲から笑い者の的となっただろう。
そしてそこでやっとベルと合流した後、俺は少しばかり文句を言わせてもらった。俺を見捨てるとは良い度胸してるじゃないかと、少しばかり威圧感を醸し出しながら。
「ご、ごめんリヴァン! 本当にすまなかった!」
「ベル君……」
凄い勢いで謝ってくるベルに、近くにいたギルド職員――エイナ・チュールさんが呆れ顔となるのは当然だった。因みに彼女はベルの担当アドバイザーである。
俺が逃げた理由を尋ねてみたら、どうやら【剣姫】に一目惚れしたようだ。声を掛けられた瞬間、頭が真っ白になって逃げだしてしまったんだと。
それを聞いて少し呆れ気味に苦笑していると――
「ちょっとリヴァンく~ん、私への報告はどうしたの~?」
俺の担当アドバイザー――ミィシャ・フロットさんが不満気な顔をしながら言ってきた。
あの人もベルと同様に最初はエルフの俺に気を遣った接し方をしていた。しかし、俺がエルフの風習を気にする事なく話した事で、今はもうすっかりと仲良くなっている。
「あ、すいません。今行きます」
「もう、ミィシャったら。リヴァン君が来た途端にやる気出すんだから」
俺が彼女がいる受付へ向かってると、エイナさんが何故か呆れるように言ってたが余り気にしないでおいた。
戦闘シーンを書くと言いましたが、書けませんでした。すいません。
次回は豊穣の女主人でのやり取りです。