少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は少々長めです。


ダンメモ編 少年エルフ、従姉と一緒にダンジョンで王族妖精と商売敵に出会う③

 リヴェリアのお陰でフィルヴィスさんから漸く解放された。俺が何を言っても出鱈目だと否定してたのに、リヴェリア本人からの口から言わせないと信じるって……自分で言うのも何だけど、エルフは本当に面倒だ。

 

 結局のところ彼女も同行する事になって、20階層に向けての進行を開始した。そしてここからは本来の役割をやろうと、俺は前衛をやろうと皆から1(メドル)先にいて短杖(ウォンド)を手にしている。

 

「レフィーヤ……フィルヴィス・シャリアは一体どういった人物なんだ?」

 

「あはは……少し、照れ屋さん……かもです……」

 

「照れ屋……か。だが『少し』というのは、少々……」

 

 リヴェリアとレフィ姉さんが会話をしている最中、俺は後ろを振り向く。

 

 聞き耳を立てていたと言うのもあるが、それ以外にもある。

 

 

『グオオォォォッ!』

 

 

 後方からモンスターの気配がしたからだ。

 

 強襲されたところで慌てる必要はない。何故なら――

 

「『ディオ・テュルソス』!」

 

 フィルヴィスさんが速攻で撃退してくれるので。俺は勿論、リヴェリア達も心強いと思っている。

 

 それとは別の問題があった。フィルヴィスさんのいる位置がだ。

 

 少し前に彼女が中衛の魔法剣士だとアミッドさんが言ってた。

 

 本来であれば前衛の俺、中衛のフィルヴィスさん、そして後衛のリヴェリア達三人と言う構図になっている筈だ。

 

 けれど、実際は違う。彼女が請け負う筈の中衛とは別の位置にいる。

 

「レフィーヤ……ああまでしてくれるなら、やはり通常の中衛に迎え入れて――」

 

 

「申し訳ありません! 汚れた私には、この位置でもリヴェリア様に近すぎるほど! 此処よりお守り致しますので、どうかいないものとしてお扱いください! それとリヴァン・ウィリディス! 前衛でリヴェリア様をお守りしているのだから、掠り傷一つでも付けたら承知しないからな!」

 

 

 リヴェリアが提案していると、彼女より遥か後方にいるフィルヴィスさんは聞こえていたのか、前衛の俺にも届くほど大きな声で言った。

 

「何を言っているんだ、あいつは……」

 

「あんな警告をするなら、中衛をやればいいのに……」

 

 意味不明と言わんばかりに、困惑した表情を見せるリヴェリア。

 

 一緒に聞いていた俺も、あの人の言ってる事に呆れるばかりだ。余りにもポンコツ過ぎる発言だったので。本来の位置でやってくれれば問題無いんだが。

 

「魔法剣士が15(メドル)離れた最後衛とは……意味が分からん……」

 

「レフィ姉さん。一体何なんですか、あの人? 訳が分からないんですが……」

 

「て、照れ屋さん、なので……あはは……」

 

 後衛のリヴェリアと前衛の俺から発言に、レフィ姉さんは誤魔化すように苦笑していた。

 

「エルフの方々の王族(ハイエルフ)に対する態度……つい先ほど彼女とリヴァンさんのやり取りを見て既に分かりましたが、本当に聞きしに勝る……ですね」

 

 パーティの中で唯一ヒューマンであるアミッドさんは無表情でありながらも、フィルヴィスさんの行動に少々呆れ気味な様子だ。

 

「まったく、迷惑な話だ……」

 

「リヴェリア……様、下賤なエルフの私は暫く貴女様を高貴なお方と接して――」

 

「そんな気遣いはいらん。お前は普段のまま接してくれ。当然、敬称も必要無い」

 

 俺もそこら辺のエルフと同様に控えめな態度でいようと言うが、リヴェリアよりバッサリと斬り捨てるように却下されてしまった。

 

 因みに俺が呼び捨てにしようとした瞬間、遠く離れている筈のフィルヴィスさんからギロリと睨んできたので思わず敬称を付けてしまった。敬称は必要無いと言われても、それを許さないのがいるから少しばかり対応に困る。

 

 取り敢えずは仕事に専念しようと、前衛の俺は余程の事が起きない限り、リヴェリアに声を掛けないでおこう。下手に話しかけたら、最後衛にいるお方が絶対に突っかかって来るので。

 

 

 

 

 

 

 無駄口をしないまま、難なく18階層へと辿り着いた。

 

「レフィ姉さん、確か次の階層からは『大樹の迷宮』で良いんですよね?」

 

「ええ。リヴァンは初めて行く階層だから、決して油断しないでね」

 

 一旦確認をする為に後衛にいるレフィ姉さんに近付いて訊くと、その通りだと頷いた。

 

 俺たち従姉弟の会話とは別に、リヴェリアはアミッドと話をしている。

 

「20階層で苔を確認できたら、火魔法くらいは私が使おう……ここまで、ほぼ何もしていないからな」

 

「承知いたしました。そのときはお願いいたし……」

 

 

「貴様ぁーーっ! リヴェリア様を顎で使うというのかっ!」

 

 

 二人が会話をしている際、相変わらず離れているフィルヴィスさんが聞き捨てならないと言わんばかりに激高した。

 

 ただお願いをしただけなのに、何故顎で使うと言う解釈になるのかが俺には全く分からない。リヴェリアはあくまで魔導士としての役割を果たそうとしているだけなのに。

 

 

「身分の程を弁えるがいい! 貴様や私のような下賤の身でリヴェリア様に指図など……!」

 

 

「もう、フィルヴィスさーん! 落ち着いてくださーい!」

 

 激昂してるフィルヴィスさんを宥めようと、レフィ姉さんがそう言った。それに反応した彼女はハッとして顔を赤らめている。

 

 

「うっ……す、すまない、レフィーヤ。つい我を忘れてしまった……」

 

 

「我を忘れて、器用にこの距離感は守るんですね……。同じエルフとして尊敬の念を抱きますよ。レフィ姉さんもそう思いません?」

 

「う、うん。わ、私も、あんなフィルヴィスさん、初めて見る……」

 

 若干呆れを含ませながらも、彼女を尊敬する俺とレフィ姉さん。リヴェリアの方は完全に呆れているが。

 

 そんな中、俺達に近付こうとする一人の冒険者が声を掛けようとしてくる。エルフの男性冒険者が。

 

「おお……あ、貴女様は……!」

 

「ん?」

 

 エルフの男性冒険者は明らかにリヴェリアを見ていた。それに気付いた彼女が振り向くも――

 

 

「何者だーー!?」

 

 

 俺達から離れている筈のフィルヴィスさんが叫んだ。

 

 端から見ると、あの人は明らかに無関係の筈なんだが……俺達と同行している自覚は一応あるんだな。

 

「15(メドル)も離れて……本当に器用に会話に参加されますね」

 

「ははは……」

 

 完全に呆れているアミッドさんに、レフィ姉さんはただ苦笑するしかなかった。当然、俺とリヴェリアも同様に呆れている。

 

 俺達の反応を余所に、男性冒険者は気にすることなく再び声を掛けてきた。

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴ様とお見受け致します。見たところ、パーティ編成でお困りの御様子……」

 

「いや、別に困っているほどではないが……」

 

 確かにリヴェリアの言う通り、そこまで困ってはいない。

 

 魔法剣士で『Lv.3』のフィルヴィスさんは、20階層までいける実力者だ。困っているとすれば、離れすぎていると言う点だが。

 

 もう一つの不安要素は、『大樹の迷宮』未経験者である前衛の俺だ。エトワールクラスの俺でも問題無く戦えるが、初めて経験する階層だから、現時点で大丈夫とは言えない。

 

 

「まず何者だ、貴様は! 名を名乗れ、不敬だぞ! ……どこかで見た覚えは、ある気もするが……」

 

 

「えっと……どちら様でしたっけ……? 私も、かすかにお会いしたような記憶はあるんですけど……」

 

 15(メドル)離れてるフィルヴィスさんと、俺の隣にいるレフィ姉さんは知っているようだが、余り印象が無かった人物のようだ。

 

「おぉぉぉい!? 以前、一緒に戦っただろう!? ほら、24階層の食糧庫(パントリー)で! 闇派閥(イヴィルス)と!」

 

 ぞんざいな扱いをされた為、男性エルフはショックを受けながらも、二人に思い出させようとしていた。

 

 24階層の食糧庫(パントリー)? 闇派閥(イヴィルス)? 食糧庫(パントリー)はともかく、闇派閥(イヴィルス)って初めて聞いたな。

 

 流石にこんな空気で尋ねるのは不味いから、地上に戻った後で聞いてみるとしよう。答えてくれるかは分からないが。

 

 男性エルフが口にした単語に、フィルヴィスさんとレフィ姉さんは――

 

 

「……いた、ような気がする」

 

 

「はい……いたような、気も……」

 

「ちょっとレフィ姉さん、それはあんまりじゃ……」

 

 未だにうろ覚えだった。

 

 ちゃんと記憶するレフィ姉さんですらこうなってるって事は、この人は本当に印象が薄かったんだろう。

 

「【ヘルメス・ファミリア】にいたろ!? セインだ! セイン・イール!」

 

 けど、男性エルフはめげずに再度思い出させようとした。

 

 どうやらあの胡散臭い男神の眷族のようだ。男性エルフ――セインさんに恨みはないんだが、神ヘルメスの名前が出た途端に怪しいと思ってしまう。

 

 それとは別に、彼の熱意にレフィ姉さんは何とか記憶の底から引っ張り出そうとするも――

 

「…………すみません」

 

「すまない、私も見識不足のようだ」

 

 結局は無理みたいだった。それどころかリヴェリアですらも知らないようだ。

 

「リ、リヴェリア様まで……!?」

 

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアも知らないと言われたのが止めとなったのか、セインさんはとうとう両膝と両手を地面に付けてKO状態となった。

 

 憐れな。これは流石に同情せざるを得ない。それなりに名を馳せた冒険者かもしれないが、崇拝してる王族(ハイエルフ)にも記憶されてないのは相当ショックだろう。

 

 

 

「な、なるほど……それで20階層まで、このパーティで……」

 

 セインさんがショックを受けて数分後、どうにか話を聞ける状態になってくれた。

 

「やっと、少し立ち直ってくれたみたいですね……」

 

「すまない……悪気はなかったんだが……」

 

 レフィ姉さんとフィルヴィスさんは忘れていた罪悪感があったのか、気を遣うように言っていた。

 

 因みにさっきまで15(メドル)離れていたフィルヴィスさんだが、セインさんの姿を見て此方に近付いていた。と言っても、叫ばずに聞こえる距離までだが。

 

「はっはっはー……気にしちゃいないぜ……! オレはヘルメス様の眷族なんだからな……!」

 

 精神的ダメージを負いながらも、笑みを見せるセインさん。

 

「まあ……なんだ。付いてきてくれると言うなら、ありがたい話ではある……。それにここから先は、前衛を務めてるリヴァンも少しばかり荷が重いからな」

 

「ははは……」

 

 リヴェリアも先程言った事に思うところがあったみたいで、彼の同行を許可していた。

 

 俺としても、セインさんは是非とも一緒に来て欲しい。この人もリヴェリアを崇拝してるエルフけど、同性がいるのといないのでは違う。

 

 凄い今更な話だが、このパーティは女性中心で男が俺だけだった。なので同性のセインさんがいれば気が楽だ。

 

「お任せ下さい! ヘルメス様も、リヴェリア様のためとならば、20階層へ無断で向かうのも許して下さる筈……! それに……」

 

 フィルヴィスさんと違って、セインさんはすぐに同行の了承をした。

 

 すると、何故か俺の方を見てくる。

 

「何て言うか君、リヴェリア様と親しげな気がするのは俺の思い過ごしかな?」

 

「いや~、気のせいですよ~。下賤な身である俺が尊敬するリヴェリア様と親しいなんてあり得ませんから~」

 

「…………」

 

 突如セインさんが嫉妬を含んだ目で見てくるので、素直に答えるのは不味いと思った俺は適当に誤魔化す事にした。

 

 俺の態度にリヴェリアは何か言いたげな表情だったが、フィルヴィスさんの件もあって敢えて言わないでいる。

 

 レフィ姉さんは俺の嘘に気付いていながらも、咄嗟に話題を変えようとする。

 

「あ、そういえば【ヘルメス・ファミリア】の公式最高到達階層って、19階層って見た気が……」

 

 それって本当ならセインさんも俺と同じく20階層は初めてとなる。にも拘らず24階層に行ってたって事は……ギルドには偽の報告をしたと言う事となる。

 

 どうやらあの主神と同様、【ヘルメス・ファミリア】の眷族側も色々と秘密があるようだ。ギルドが知れば速攻で(ペナルティ)を下すだろう。多額の罰金を支払わせる為に。

 

「前衛から中衛をお任せできるのであれば、その辺りは見なかったことにしても……」

 

「恩に着ます、【戦場の聖女(デア・セイント)】」

 

 しかし、アミッドさんは協力してくれる代わりに見過ごそうとしていた。

 

 俺としてもギルドに報告するつもりは微塵も無いので、そこは向こう任せにさせてもらう。

 

「さあ行きましょう、リヴェリア様! このセインの身、貴女様のものと思って存分にお使い下さい!」

 

 心置きなく行けると分かったセインさんは、物凄く張り切って自らリヴェリアの私兵になろうとしていた。

 

「無論だ、リヴェリア様の手は決して汚させはしない……!」

 

「わ、私もがんばりますから……!」

 

「あ、ああ……すまんな、お前たち」

 

 彼に同調してフィルヴィスさんとレフィ姉さんも意気込む事に、リヴェリアが少し引き気味だった。

 

 何だかなぁ……。さっきまでは同行してくれれば心強いと思ってたけど、段々俺が必要無いんじゃないかと言う空気になってきた。

 

「なにか、もう……私達が必要なのか分からないくらい、強力なパーティになってしまいましたね……」

 

「そうですねぇ。俺もそろそろ帰ろうかなぁって思い始めてきました」

 

「よしてくれ……アミッドやリヴァンがいなくなってしまっては、私がいたたまれなくなる……主に精神的にな。それとリヴァン、さり気なく帰ろうとするな」

 

 逃がさないと言わんばかりに、リヴェリアが俺に警告をしてきた。

 

「しかしまぁエルフの俺が言うのもなんですけど、あの人達って王族(ハイエルフ)を尊敬してるどころか、『神聖視』してるんじゃないですか?」

 

「言わないでくれ。私もそう思ってしまいそうだ」

 

「人徳……と考えてはどうでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりおかしいな」

 

「何がおかしいの?」

 

 セインさんが前衛として加わった事により、19階層に進んでから俺は控えとなった。後衛にいるリヴェリア達がモンスターに強襲された時の護衛役として。

 

 その道中、ずっと前から疑問を抱いてる俺が呟くと、それを聞いたレフィ姉さんが訪ねてきた。

 

「モンスターとの遭遇です。此処まで進んでいるのに余りにも少な過ぎるんですよ」

 

 中層に突入してから異常なほどモンスターと遭遇していない。違和感があり過ぎて逆に不気味と思ってしまう。

 

「いいことではないのですか?」

 

「それはそうなんですが……何か腑に落ちないんですよね」

 

 聞いていたアミッドさんからの問いに、拭いきれない俺は眉を顰めたままだ。

 

「いや、リヴァンの疑問は尤もだ。中層のモンスター出現頻度から考えても解せないほどに、遭遇率が低い」

 

 どうやらリヴェリアも俺と同じ事を考えてたみたいだ。

 

 しかし――

 

「リヴェリア様の人徳です!」

 

「魔物も王族(ハイエルフ)の麗しさに恐れをなしてるのでしょう」

 

「高貴な血は下賤なモンスターを寄せ付けないのです!」

 

 レフィ姉さん、セインさん、そしてフィルヴィスさんは全く見当違いな事を言っていた。

 

 リヴェリアのお陰でモンスターと遭遇しないって……そんな訳あるか。ご都合主義にも程がある。

 

 普段から見境なく襲い掛かるモンスターが、王族(ハイエルフ)だけ襲わないんだったら、この世界にいる多くの王族(ハイエルフ)達が魔除け代わりに使われるだろう。

 

「…………」

 

 三人の返答を聞いたリヴェリアは、如何にも居心地が悪そうに無言となっていた。

 

「前々から思ってたんですが、他所の派閥(ファミリア)にいるエルフからも、こんな感じなんですか?」

 

「ああ。分不相応の、過剰な好意とは、こういったものだ……。好意なだけに、無下にも出来ないと言うのが厄介なんだが」

 

「成程。そのお考えが人徳となり、更に人を惹きつけてしまうと。これは俺も考えを改めた方が良さそうですね」

 

「止してくれ。やっとまともに話せるリヴァンまで過剰な好意をぶつけられたら、私はオラリオまで逃げ出すことになってしまう。頼むからお前だけは普段のままでいてくれ」

 

 本気で普通に接して欲しいと言ってくるリヴェリアに、俺は少しばかり困った。少なくともレフィ姉さん達の前では。

 

「いや~、そうしたいのは山々なんですが、他の同胞達から恨まれてしまうんですよね。特にアリシアさんから」

 

「安心しろ。その時は私が黙らせるさ。それに人間関係など、こんな軽口を叩き合うのが丁度いいものさ。堅苦しいのなど、金輪際ごめんだ」

 

 同胞でも一人の冒険者として接して欲しいと言う、リヴェリアの心からの願いのように聞こえた。

 

「リヴェリア様、感動しちゃいました……!」

 

「私でよろしければ、いつでも談笑の御相手に……!」

 

「私も汚れていなければ、側でお守り出来たと言うのに……!」

 

 話を聞いていたレフィ姉さん達エルフの三人は感動しながらも、リヴェリアに対する好感度が益々上がったようだ。寧ろこれは悪化させてしまったような気もする。

 

「……………」

 

「人徳……ですね……」

 

 本心を言った筈が却って失言だったと気付くリヴェリアに、何とも言えない表情をするアミッドさんが苦し紛れのフォローをしていた。

 

 すると、先程までの平穏な時間が急に変わったように、突如大量のモンスターが出現した。叫び声をあげながら、此方に接近している。

 

「っ!? ……【怪物の宴(モンスター・パーティ)】か!」

 

「おお、凄い数だ……」

 

 モンスターが大量発生する現象――【怪物の宴(モンスター・パーティ)】は10階層以降から経験してるが、あれ程の数は初めて見た。更には見た事の無いモンスターまでいる。

 

 あれ程の数だとセインさんやフィルヴィスさんも厳しいだろう。なので此処は俺も前に出て戦う必要がある。

 

 誰もが警戒している中、リヴェリアは途端に不敵の笑みを浮かべる。

 

「フッ……憂さ晴らしには丁度いい……【間もなく、焔は放たれる】――」

 

 あ、どうやらリヴェリアが魔法を使ってモンスターを殲滅するようだ。

 

 レフィ姉さんから話を聞いた。【九魔姫(ナイン・ヘル)】と呼ばれるリヴェリアの魔法は凄まじい威力だと。

 

 初めて見る王族(ハイエルフ)の魔法に少しワクワクしながらも、詠唱を妨げられないよう彼女の盾に――なろうと思いきや、状況が変わった。

 

 こちらに来る大量のモンスターが、突然現れた冒険者によって瞬く間に殲滅していく。

 

 ん? ちょっと待て、あの人はまさか……!

 

「高貴な御方……お見苦しい所をお見せしてしまいました……」

 

 残り一匹のモンスターを倒した後、女性エルフ――リューさんが俺達の前に姿を現した。

 

 何であの人が此処に? 俺の記憶が正しければ、今日はお店が忙しいってベルから聞いたんだが。

 

「……お前か? 我々の先を進み、モンスターを減らし続けていたのは……?」

 

「とんでもありません。私はただ目の前のモンスターを屠っていただけ。貴女様との道程が重なっていたのは、ただの偶然でしょう」

 

 いや、絶対に偶然じゃない。さっきのモンスター出現後に、まるで狙っていたように現れたとしか思えない。

 

 俺の疑問は漸く解消した。中層でモンスターとの遭遇が大してなかったのは、リューさんが殆ど倒していたのだと。

 

「因みに、この階層のモンスターは、今のでほぼ最後です。いずれに向かわれるにせよ、ごゆるりとお進み下さい。では、御免――」

 

 言うべき事を全て言ったリューさんは、すぐに俺達の前からいなくなった。

 

「前衛どころか、最前衛に、あんな冒険者がいらしたんですね」

 

「まったく……モンスターと遭遇しないわけだ……」

 

 大してモンスターと遭遇しなかった理由が分かったアミッドさんとリヴェリアは、去って行ったリューさんを複雑そうに見ていた。

 

 俺も肩透かしを食らった気分で、物凄く複雑な気持ちになっている。『大樹の迷宮』にいるモンスターと戦う機会を失ってしまったので。

 

 その後からも俺の出番は全くなかった。リューさんが一人で大量のモンスターを殲滅したのを見たレフィ姉さん達が、物凄く気合を入れて襲い掛かってくる少ないモンスターを倒し続けたので。

 

 同時に本来の目的であった苔の駆除もされた事で、冒険者依頼(クエスト)が終了となった。

 

「何と言うか……これほど不完全燃焼な冒険者依頼(クエスト)は初めてですね……」

 

「全くだ。リヴァン、もし良かったら今度は私と二人で行かないか?」

 

「良いですよ。と言っても、そんな機会があればの話ですが……」

 

 

 

 

「私がぁぁぁぁぁ! セイイイイイイイイイイインッ!」

 

 どうでもいいですけどセインさん、さっきから喧しいのでもう少し静かにして下さい。段々鬱陶しくなってきましたので。




次回はダンメモの冒険譚を更新します。
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