少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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少年エルフ、色々と敵視される

 リヴェリアの登場に、多くの視線が集まっていた。まるでさっきのフレイヤみたいに、彼女の姿に見惚れている者もいる。

 

 その中で一番凄いのが同胞(エルフ)達だ。他所の【ファミリア】でも、崇拝している王族(ハイエルフ)が目の前にいる事で舞い上がっている。しかも主神以上に敬っている様子だ。

 

 けどそれとは対照的に、俺に対する視線が物凄くキツかった。リヴェリアが俺に話しかけた瞬間に。

 

 理由は既に分かっている。『何故リヴェリア様が、あんな小僧などに!?』と嫉妬してるから。その中には殺意を抱いている同胞(エルフ)もいるだろう。

 

 因みにナァーザさんはミアハ様を連れて既に避難していた。王族(ハイエルフ)のリヴェリアがいるだけで、他のエルフが凄く面倒な事になると知ってるみたいで、『どうぞごゆっくり』と言って逃げたんだ。

 

 俺が何かやった時はああだこうだと指摘するのに、いざ自分が面倒事に巻き込まれそうだと分かった途端に逃げるんだから。本当にあの人はいい性格している。

 

「流石は王族(ハイエルフ)。見目麗しいのは当然の事、その美しいドレスを身に纏って更に貴女の美しさを引き立てていますね」

 

「悪いがそう言った世辞はもう聞き飽きた。出来れば普通に話してくれ」

 

 俺が思ったままの事を言うと、リヴェリアが速攻で切り捨てるように言い放った。

 

 宴に参加してる同胞(エルフ)達の目があったので、取り敢えず王族(ハイエルフ)を敬う姿勢を取ってみたが、どうやらお気に召さなかったようだ。それどころか本当にうんざりしてるような表情をしてる。

 

 本当なら下賤な身である俺がこんな事をしてはいけないんだが……向こうに合わせますか。

 

「これは失礼。ですが王族(ハイエルフ)の貴女がこう言った場に参加すると、俺みたいな事を言うのは当然ですよ。それが嫌なら宴に参加しなければ良かったと思うんですが」

 

「勿論参加する気など無かったさ。だが、あそこにいる主神(ロキ)に参加するよう命じられてしまってな」

 

「なるほど」

 

 参加の理由を知った俺が振り向いた先に、男性用の正装をした朱髪の女神――神ロキがヘスティア様と未だに言い争いをしていた。

 

 それとは別に、神ロキの後ろには金髪金眼の少女――アイズもいる。ダンジョンで見る戦闘衣(バトル・クロス)ではなく、リヴェリアと同じく美しいドレスを身に纏っていた。それによってヘスティア様の後ろにいるベルが見惚れているのが一目で分かる。

 

 俺から見て、今のアイズはまるで絵本の中から飛び出したお姫様みたいだ。ベルがああなるのは凄く分かり、寧ろ当然だと思ってしまう。

 

 すると、ベルと目が合ったアイズは途端に頬を赤らめ、また軽く俯いて、小さく、もじもじと身体を揺らした。そのまま神ロキの体に陰に隠れようとする。

 

「うわぁ……あんな可愛らしいところはレアですねぇ。レフィ姉さんが見たら喜びそうです」 

 

「お前としては、レフィーヤのドレス姿を見たかったのではないのか?」

 

「……まぁ、否定はしません」

 

 数年振りに会ったレフィ姉さんが一段と可愛くなったから、アイズみたいなドレスを着たらさぞかし綺麗だろうなと思っていた。

 

 けど今のあの人は憧憬(アイズ)に夢中になってる事もあって、異性への恋が芽生えるのは暫く先になると思う。

 

 それに加えて、例え恋仲になろうとしても無理だ。俺は【ミアハ・ファミリア】で、レフィ姉さんは【ロキ・ファミリア】。聞いた話だと、他所の【ファミリア】で結婚するのは認められていないそうだ。余計な諍いを起こさない為として。

 

 神ロキとヘスティア様が醜い眷族自慢が勃発し、それを聞いて恥ずかしくなったベルとアイズがお互いの主神を引き剥がそうとている。

 

「あそこにいたら、確実にロキの眷族自慢に付き合わされるところでしたね」

 

「全く、ああいう事は止めてもらいたいものだ。見てるこっちまで恥ずかしくなる」

 

「リヴェリア、自分いつの間にそこにおんねん! そこのエルフの少年と話し終えたんなら、もう行くで!」

 

 呆れながら見ている中、リヴェリアがいなかった事に漸く気付いたロキが此方に向かって叫んできた。

 

 因みにアイズは俺がいる事に気付いて、少し驚いたように見ている。

 

「やれやれ。すまないがリヴァン、また後ほどな」

 

 主神の呼び出しに逆らえないのか、彼女は嘆息しながらも俺に一旦別れを告げ、神ロキとアイズのもとへ向かった。

 

 三人が集まった途端、次第に人集りが出来ていく。特に多くの同胞(エルフ)達が真っ先にリヴェリアに声を掛けている。

 

 崇拝する王族(ハイエルフ)に自分の顔をよく覚えてもらおうとしてるのか、ずっと褒め称える内容ばかりだった。聞こえてくる俺としては呆れているが、向こうからすれば真剣なんだろう。

 

 同胞(エルフ)達を無下に扱う事は出来ないようで、リヴェリアは一人一人と丁寧に対応している。きっと内心ではうんざりしてると思う。

 

 また後ほどと言ってたから、恐らくまた俺に話しかけてくるだろうと思った俺は、取り敢えずミアハ様達のいる所は向かおうとした。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、俺はナァーザさんと一緒にミアハ様に連れられ、知神だと言う神々の挨拶回りをしていた。流石はミアハ様のお知り合いと言うべきか、人の好さそうな女神や男神ばかりだ。

 

 知神と言えば、【ディアンケヒト・ファミリア】は今回来てないようだ。アミッドさんが来たらナァーザさんが即座に絡んで言い争いになるだろうから、それは却って好都合だった。

 

 パーティーが始まって二時間以上経ち、少し疲れた俺はミアハ様達から離れて小休止することにした。

 

「ちっ、余計なのがいるな」

 

 バルコニーにいるベルを見た俺は足を運んで声を掛けようと思ったが、誰かと話しているのを見た途端に止めた。相手が神ヘルメスだったから。

 

 あの胡散臭い男神はミアハ様と違って簡単に気を許せる事が出来ない相手だ。俺と違ってベルはそんな気は全くないようで、何の警戒感もなく話し続けている。

 

 様子を見る限りだと暫く掛かりそうだと思った俺は、ベルと話すのは諦めようと、バルコニーへ向かうのを止めようとする。

 

 そんな中、突然どこからともなく流麗な音楽が流れだし、広間の中央では舞踏が始まろうとする。ついでにまたしてもヘスティア様と神ロキが口喧嘩をしてる姿を見かけるも、敢えて気にしないようにした。

 

 リヴェリアも流石に付き合いきれないと思ってか、アイズを連れてどこかへ行こうとするが、またしても同胞(エルフ)達に捕まっていた。一人だけとなってしまったアイズは居た堪れないのか、リヴェリアから離れ、バルコニーの出入り口近くで佇んでいる。

 

 仲間外れになったみたいと言うか何と言うか……アレはもう完全一人ぼっちになってるな。【剣姫】と呼ばれるアイズは誰しも声を掛けたがっているだろうが、聞いた話だと神ロキが凄く大切にしてる事もあって、下手に手を出せば八つ裂きにされるそうだ。

 

 疚しい事が無ければ問題無いだろうと思った俺は、アイズの気の毒そうな姿を見て話しかける事にした。

 

「やぁ、アイズ」

 

「リヴァン……」

 

 近付いた俺にアイズが振り向いた。相手が知り合いの俺と言う事もあってか、少しばかり安堵したような感じがする。

 

 それから少しの間、俺は彼女の話し相手になった。この前会った件についてとか色々と。

 

 

 

「ベル君、リヴァン君が【剣姫】と話してるよ」

 

「え? ……ええ!? な、何でリヴァンがアイズさんと……!?」

 

 

 バルコニーから話し声が聞こえたが、取り敢えず気にしないでおくとしよう。

 

「よく似合ってますよ、そのドレス」

 

「……正直に言うと、初めて着たからからよく分からない」

 

「アイズはこう言ったパーティーとか参加した事がないんですか?」

 

 俺が問うと彼女はコクリと頷く。

 

 こう言うのは大変失礼だが、確かにアイズにパーティーは合わないと思う。

 

 『豊饒の女主人』とかでの酒場で宴会を楽しむなら問題無い。しかし、こんな豪華な施設で上品な方々と談笑と言う名の腹芸は無理だ。自ら積極的に喋る事をしないアイズからすれば拷問に等しいだろう。

 

 神ロキからすれば、大事な眷族である彼女と一緒に楽しもうと思って連れて来たんだろうが、完全に人選ミスだ。普通に考えれば、連れて来るなら団長のフィン・ディムナが適任だ。あの方はアイズと違って腹芸がしっかりと出来ると思うので。

 

「じゃあ、広間の中央でやってるダンスとかも?」

 

「……やったことない」

 

 おおう。これは致命的だ。

 

 俺がオラクル船団で初めてパーティに出席する際、カスラから一通りの知識を教えられたのに。それをまさか予習無しでぶっつけ本番でやらせるって……神ロキも惨い事をする。

 

 と言うかリヴェリアは教えなかったんだろうか。それとも急な話だったから、教える暇が無かったと言うオチなのかどうかは分からないけど。

 

「良ければ、俺がダンスを教えましょうか? この前、ウチの新商品を買ってくれたお礼として」

 

「え?」

 

 俺が紳士の振る舞いの如く手を差し出すと、アイズはキョトンとしていた。

 

 

「おいおいベル君、早く決断しないとリヴァン君が【剣姫】とダンスしちゃうよ!」

 

「む、無理! 絶対に無理ですけど……でも、でも……!」

 

 

 何やら神ヘルメスとベルから焦りの声が聞こえてくる。

 

 どうやらベルがアイズと踊りたがってるようだ。そこを神ヘルメスが背中を押してるが、優柔不断のベルは行けず仕舞いとなってると言ったところか。

 

 少しばかり情けない友達の為に手を貸そうと、俺はこう言いだした。

 

「アイズ、どうやら貴女と踊りたい相手が向こうにいるようですよ」

 

「え………ベル?」

 

「!」

 

 俺がバルコニーの方へ指し、その方へと視線を向けたアイズは対象と目が合った。直後にベルは石みたいに固まってる。

 

「折角の機会ですし、ベルと踊ってみたらどうですか? いい思い出になると思いますよ。それじゃ俺はこれで」

 

「あ、リヴァン……」

 

 言うべき事を言った俺は、何故か引き留めようとしてくるアイズに気にせず彼女と別れた。

 

 少し離れた所から見守ってると、ベルは神ヘルメスの他、ダンスの誘い方をするミアハ様とナァーザさんの助力もあって、漸く決断して彼女とダンスをする事となった。

 

「う~ん、良いね~。どっちも初々しくて応援したくなっちゃうなぁ~」

 

「何を言っているんだ、お前は」

 

 初めてダンスをするベルとアイズの姿に俺が父親視点で見てると、誰かが呆れたように声を掛けてきた。振り向くとリヴェリアだった。

 

「おや、貴女は同胞(エルフ)達と談笑中の筈では?」

 

「つい先ほど終えたばかりだ。ところで、アイズがあの少年と踊っているのはリヴァンの差し金か?」

 

「人聞きが悪いですね。俺はただ彼女と踊りたがってるベルの事を教えただけですよ」

 

 俺がやったのはそれだけだ。そこを神ヘルメス達が乗っかるようにやったから、決して俺だけじゃない。

 

「もしかして不味かったですか? アイズが別の【ファミリア】とダンスさせるのは」

 

「今も神ヘスティアと言い争ってるロキなら文句を言うかもしれないが、私としては問題無い。というより、よくやってくれたと褒めたいぐらいだ」

 

「理由は?」

 

「アイズがあんな楽しそうに振舞う姿を見るのは久しぶりでな。実に微笑ましい光景だ」

 

 リヴェリアの言う理由がまるで母親みたいに聞こえる。結局は俺と同じじゃないか。

 

 違いがあるとすれば、彼女は俺より遥かに年上――

 

「リヴァン、何か失礼な事を考えていないか?」

 

「いえ、何も」

 

 途端にリヴェリアが睨むように見てきたので、俺は即座に否定しながら考えるのを止める事にした。

 

 鋭いな、この人。もしかして魔導士の他に、超能力者(エスパー)のスキルもあったりして。

 

 ……とまぁ、そんな冗談はどうでも良いとして。俺が余計な事を考えてしまった為にリヴェリアの機嫌が悪くなってしまった。ここはどうにかしないと不味い。さっきから此方を見ている同胞(エルフ)達の目もあるので。

 

「何故か分かりませんが貴女の御機嫌を損ねてしまいましたので、もし宜しければ私と踊って頂けますか?」

 

「む?」

 

 突如俺が手を差し伸べ、恭しく頭を垂れると意外そうな表情をするリヴェリア。

 

 普通なら断られると思うが――

 

「良かろう。私をしっかりとリードしてくれ、同胞の少年よ」

 

「お任せを」

 

 リヴェリアは笑みを浮かべて手を重ねた。

 

 

「リ、リヴェリア様が殿方と踊るなんて……!」

 

「おい誰だあの同胞は……って、よく見たらリヴェリア様が声を掛けた者じゃないか!」

 

「おのれぇ、何故リヴェリア様はあんな礼儀知らずの同胞と……! 私の時は速攻で断られたのに!」

 

 

 その光景を見ていた(主に男性陣の)同胞(エルフ)達は信じられないように見ており、俺に対する嫉妬と殺意の視線を送っていた。

 

 握り合った俺達はそのままダンスホールへ歩んだ後、ダンスを開始する。

 

 言うまでもなく、ダンスもそれなりに出来る。練習相手は主にクーナさんで、最初は色々とダメ出しされまくったのは今でもよく憶えてる。

 

「どうですか、リヴェリア?」

 

「驚いたな。お前がここまで出来るとは思ってなかったぞ」

 

「それは光栄です」

 

 踊りながらも採点を求めるが、返答を聞いただけで俺は充分に満足する。

 

 右、左、右、左、とお互いに動きを合わせて踊る俺とリヴェリア。揃ったステップを踏んでいる俺達に周囲はおおっ、と感嘆の声をあげていた。

 

『――うおおおおおおおおおおおおおおおっ!? アイズたーんっ、ドチビんとこの子と何やっとるんやー!? リヴェリアもリヴェリアで、何でミアハんとこの子と踊っとるんやー!?』

 

『止めるんだベルくーんっ! おのれヴァレン何某ぃぃぃぃ!?』

 

 奥から放たれた絶叫に俺とリヴェリアはダンスしながら振り向いた。視界にはアスフィさんによって捕獲されたヘスティア様と神ロキが怒髪天となっている。

 

「あの、リヴェリア……」

 

「何も言うな。ついでに見なかった事にして欲しい」

 

「あ、はい……」

 

 王族(ハイエルフ)の有無を言わさぬ御勅命に俺は従う事にした。俺としても逆らう理由は一切無い。

 

『……オッタル、ここにミノタウロスの群れを連れて来れないかしら?』

 

『不可能です、フレイヤ様……』

 

『じゃあアレン、ゴライアスを連れて来て』

 

『フレイヤ様、それも無理です……』

 

 何か【フレイヤ・ファミリア】側から物騒な話が聞こえたが、そこは聞かなかった事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 ダンスを終えた俺とリヴェリアは、ダンスホールから離れた。

 

 その後に怒気を纏ったヘスティア様と神ロキが神ヘルメスの背後に立ち、即行で身体を掴んで広間の隅へと連れて行かれた。ぎゃあああああああああああっという神ヘルメスの叫び声が聞こえたが、俺は何も聞かなかった事にする。

 

 数分経ち、処刑を終えた二柱の女神は揃って自身の大事な眷族に迫り、逆らうのを許さないと言わんばかりにダンスをしようと命令している。言うまでもないがヘスティア様はベルに、神ロキはアイズにだ。

 

 これには見ていられないと思ったリヴェリアは、神ロキの暴走を止めようとするが――

 

「――諸君、宴は楽しんでいるかな?」

 

 突如、主催者の神アポロンが登場した事で動きを止めた。

 

 少し忘れかけていた警戒すべき対象が動き出した事に、俺は思い出しながらもジッと見た。

 

 周囲が神アポロンと従者達に注目しており、向こうはベルとヘスティア様の前で止まって正対する形となる。

 

 それといつの間にか舞踏の演奏は止まっており、神アポロンの声が思いのほか響いていた。

 

「遅くなったが……ヘスティア。先日は私の眷族が世話になった」

 

「……世話と言ってるけど、向こうの自業自得じゃないかな?」

 

 二柱の話を聞いて俺はすぐに分かった。間違いなく先日にあった酒場の件だと言う事に。

 

 しかし、ヘスティア様の皮肉に神アポロンは動じる様子を見せない。

 

「そうだな。それは認めよう。だが……いくら私闘とはいえ、徹底的に痛めつけて(・・・・・・・・・)重傷を負わされた(・・・・・・・・)のは頂けないな。その分の代償をもらい受けたい」

 

「………は?」

 

 寝耳に水と言わんばかりに頓狂な声をあげるヘスティア様。

 

 徹底的に痛めつけて重傷を負わされた? どういう事だ? 俺とヴェルフはストレート二発で伸したが、それ以上はやってない。

 

「一体何の話だ!? 聞いた話では君の子が一人でベル君達に挑んで、軽く伸されただけじゃないか! 重傷なんか負わせてないぞ!」

 

「だが私の愛しいルアンは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰って来た。コレを見てもまだ信じられないのかい!?」

 

 そう言って神アポロンがいつの間にか連れて来た、全身を包帯でグルグル巻きのミイラとなってる小人族(パルゥム)の冒険者を見せようとする。

 

「痛えぇ、痛えよぉ~」

 

 呻く奴を見てこう思った。アレは一体何の茶番なのかと。

 

 呆れてみている俺を余所に、ベルとヘスティアは信じられないように見ていた。

 

「リ、リヴァン君、どういう事なんだい!?」

 

 すると、ヘスティア様が助けを求めるよう俺に向かって叫んだ。

 

 全員が一斉に此方へ視線を向けてくるも、神アポロンは気にせず茶番を続けようとする。

 

「そう、彼こそがルアンと直接戦った一人! ヘスティアの子が彼にルアンを徹底的に痛めつけるよう指示を出して実行した!」

 

「はぁ?」

 

 ベルには何もさせずただ見守らせただけで、主に俺がやった筈なんだが。それを何故あたかもベルが主犯みたいな流れにしてるんだ、この男神は?

 

「それを目撃した証人も多くいる。言い逃れは出来ない」

 

 パチンと指を弾くと、ベル達を取り囲む円から複数の男達が歩み出てくる。神や冒険者だ。

 

 連中は揃いも揃って、神アポロンの言葉を肯定するどころか、低劣な笑みを浮かべていた。

 

 どうやらこれは完全に嵌められたようだ。いや、ある意味意趣返しみたいなものだろう。俺が周囲にいた客を利用して私闘の展開にしたように、向こうも偽りの証人を作ってベルを主犯にしようと。

 

「冗談じゃない! こんな茶番に付き合ってられるか! 行くぞ、ベル君!」

 

「ほぉ~? どうやっても罪を認めないつもりか、ヘスティア」

 

 初めから嵌めるつもりで仕組んだろうに、よくもまぁあんな事を抜け抜けと言えるもんだ。

 

 醜悪に歪んだ笑みを浮かべる神アポロンは、口角を吊り上げた。

 

「ならば仕方がない。【アポロン・ファミリア】は、君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」

 

 それを聞いたベルとヘスティア様だけでなく、俺も目を見開いた。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)。謂わば神の代理戦争。ファミリアの間でルールを定めて行われる、派閥同士の決闘。神会(デナトゥス)で事前に手続きや勝負形式、勝利後の要求などの取り決めを行い、戦争遊戯(ウォーゲーム)に敗北した神は勝利した神の要求を絶対に応えなければならない決まりとなってる総力戦。

 

 ギルドの講習で学んだ知識を思い出した俺は、神アポロンの目的が分かった。この男神は戦争遊戯(ウォーゲーム)をする為に仕組んだのだと。

 

 だが、理由が分からない。【ヘスティア・ファミリア】に戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛ける最大の理由が。

 

 ベルやヘスティア様に大変失礼だが、【アポロン・ファミリア】が零細の【ヘスティア・ファミリア】に挑んでもメリットなんか一切無い。雀の涙みたいな資金と、古びた教会の本拠地(ホーム)だけだ。

 

 娯楽好きの神々が面白そうに囃し立ててる中、俺は神アポロンが仕掛ける理由を必死に考えていた。

 

「我々が勝ったら……君の眷族、ベル・クラネルをもらう」

 

 すると、向こうが勝利した時の要求を告げた。

 

「最初からそれが狙いかっ……!」

 

「駄目じゃないかぁ、ヘスティア~? こんな可愛い子を独り占めしちゃあ~」

 

 神アポロンの悍ましい笑みに俺は鳥肌がたった。

 

 どうやらあの変態男神はベルを我が物にしたいようだ。気持ち悪いったらありゃしない。

 

 …………まぁそれはそうと。理由はどうあれ、向こうが『戦争遊戯(ウォーゲーム)』と言う明確な敵対行為をしてきた。もうこれは誰も止める事は出来ない空気になっている。もう周囲にいる神々が賛成の空気を作っているから、誰が言っても耳を貸してくれないだろう。

 

 加えて、ヘスティア様の数少ない味方であるミアハ様と神タケミカヅチ、そして神ヘファイストスや神ヘルメスも助けようとする動きを全く見せない。というより、手が出せないと言った方が正しいか。この空気の前では。

 

 この瞬間、【ヘスティア・ファミリア】は孤立無援だと悟った。

 

「それでヘスティア、答えは?」

 

「受ける義理なんか――」

 

「ここは取り敢えず受けておきましょう、ヘスティア様」

 

「はぁっ!?」

 

 返答を求める神アポロンにヘスティア様が突っぱねようとしてる最中、突然割って入って来た俺に驚きの声をあげた。

 

 誰もが驚愕の視線を送っているが、俺は気にせずベルとヘスティア様に近付いている。

 

「な、何を言ってるんだいリヴァン君!? 君はボクの【ファミリア】の団員がベル君しかいないのを知ってるだろう!?」

 

「勿論分かってます。ですが神アポロンはそれを承知の上で用意周到に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を仕掛けたんです。そんなお方が、ヘスティア様が拒否したところで簡単に諦めると思いますか?」

 

「ッ!」

 

 俺の言葉を聞いたヘスティア様は何かを思い出したような表情となった。対して神アポロンは俺の指摘を聞いても微動だにせず、ただ嫌らしい笑みを浮かべているだけだ。

 

「……念の為に訊くけどアポロン、此処でボクが断った後はどうするつもりなんだい?」

 

「何を言ってるのか分からないなぁ~。そうなれば私は、君が考えを改めるまで気長に待つだけさ」

 

「………そうだった。君がそう言う性格だったのをすっかり忘れてたよ」

 

 しらばっくれた台詞を吐く神アポロンに、ヘスティア様は忌々しそうに口を歪める。

 

 この方がこうなるって事は、相当嫌な性格をしているんだろう。やっぱり引き留めて正解だったな。

 

 拒否しても無駄だと分かったヘスティア様は、次に俺の方へと視線を向けてくる。

 

「でもリヴァン君、引き留めてくれたのはありがたいけど、どの道ボク達が不利である事に変わりはないんだよ。君の事だから、何か考えがあって言ったんだよね?」

 

「勿論です」

 

「リヴァン、一体どんな考えなんだい?」

 

 そうでなかったら、ヘスティア様を引き留めたりはしない。

 

 ベルも俺に何か期待するような目で見ている。

 

「俺が【ヘスティア・ファミリア】の助っ人要因になってベルを勝利させます。ただそれだけです」

 

「「へ?」」

 

 俺が考えを簡潔に述べると、二人は揃って目が点になる。

 

 そして――

 

『……………ぷっ………くくくくく………はははははははははは! あははははははははははははは!!!!』

 

 一部を除くこの場にいる者達が俺を嘲るように見ながら大笑いをしたのであった。

 

 今の内に好きなだけ笑って、後で後悔するといいさ。エトワールクラスがどれだけ恐ろしい力を持っているかじっくり教えてやる。




原作と違う流れにしました。

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