少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
どうぞ!
「はぁっ……やってしまった」
酒場を出た俺は魔石街灯を照らした夜道を歩きながら、先程まで沸々と煮え滾っていた怒りが徐々に冷め始めた。同時に自分はとんでもない事をやらかしてしまったと、物凄く後悔しながら。
いくら言動に問題があったとは言え、都市最大派閥【ロキ・ファミリア】相手に喧嘩を売った挙句、公衆の面前で恥を掻かせた。後々になって、どのような報復をされるのか分かったものじゃない。
向こうがその気になれば、零細の【ミアハ・ファミリア】を潰すなんて一捻りだ。例えば、神ロキが権力を使って俺達をオラリオから追放させるとか、冒険者を使って
俺だけならまだしも、一切無関係なミアハ様とナァーザさんまで巻き込ませる訳にはいかない。その時は、俺がアークスの力を最大限に使って二人を絶対に守るが。
それはそうと、今もずっとベルを探しているが一向に見付からなかった。アイツが行ったと思われる場所を探しても人影すら見当たらない。近くにいた人に尋ねてみても、そんな少年は見てないと返答される始末で完全に手詰まりだ。
「まさかベルの奴……」
街中を探しても一向に見付からないから、もしかするとダンジョンに行ったのではないかと俺は一瞬考えた。
あの
もしも俺がベルの立場で考えるとしたら……ダンジョンに行ってるかもしれない。あのクソ狼を見返す為に強くなろうと。
いや、それはあくまで俺がやるとしたらの場合だ。ベルは負けず嫌いな俺と違って自殺行為な真似をする筈ない……とは言い切れないな。
万が一の可能性もあるかもしれないので、取り敢えずダンジョンに行ってみよう。出来れば俺の取り越し苦労であって欲しいんだが。
そう思いながらダンジョンがある摩天楼施設へ向かっている最中、ふと気になる事があって移動している足を急遽止めた。
……妙だな。人が全然いない。
俺がいるのは道幅がある裏通りで、辺りを見回しても今は俺しかいないから、閑散としている。
さっきまで移動してる最中に何人か歩いている人はいたが、それが急にばったりと途絶えていた。加えて、周囲にいる筈の人の気配すらも完全になくなっている。
余りにも違和感があり過ぎる裏通りに俺が疑問を抱いていると、突如誰かが歩いている靴音が聞こえた。
前方から聞こえてくる靴音に俺が振り向くと、少し先にある曲がり角から誰かが現れる。
「こんばんわ。折角綺麗な月夜なのに、眺めないなんて勿体ないわよ」
現れたのは女性……いや、女神だった。しかもただの女神じゃない。見ただけで魅了されるような美しい女神がいた。
俺が今まで見た女神も当然美しい容姿をしているが、目の前にいる存在は全く違う。まるで存在その物が美の象徴とも呼べる女神だ。
かなり露出が目立つ服装でも、全く下品には見えない。あの女神の気品さ故と言うべきだろう。
「……失礼ですが、どなたですか? 俺は貴女の様なお美しい女神様とお会いした事がないのですが」
けれど、俺にはそんな事は如何でもいい。
一刻も早くベルを探したい気持ちを抑えながらも、確認しながらも尋ねた。
すると、向こうは俺の問いが予想外だったのか、とても意外そうな表情をしている。
「あら、私の事は知らないの? ごめんなさい。てっきり知ってると思って、普通に声を掛けてみたのだけど」
まるで自分の事を知ってて当然みたいな口振りだ。
この女神がそんな風に振舞うって事は……もしかして、かなり大物の神物なのか?
「それじゃあ貴方の為に自己紹介をしておくわね。私はフレイヤ。よろしくね」
……フレイヤ、だと?
フレイヤって確か……【ロキ・ファミリア】と並ぶ都市最高派閥【フレイヤ・ファミリア】の主神じゃないか!
そんな大物の主神が、何でこんな所にいるんだ? 訳が分からないぞ。
「……これは大変失礼しました。まさかこのような所で、美の女神フレイヤ様とお会い出来るとは光栄の極みです」
相手が相手だったので、一先ずは相応の態度を示そうと、謝罪しながら挨拶をしておいた。
だが――
「あらあら、私の前で嘘を吐くなんていけない子ね」
この女神には俺の考えは筒抜けだった。
そう言えばこの世界にいる神って、下界へ降りる時に能力の大半が制限されて一般人同然になっても、下界の
不味いな、すっかり忘れてた。俺の所の主神ミアハ様とはいつも普通に話してるから、嘘を見抜ける事を完全に失念していた。
神フレイヤの機嫌を損ねてしまったと思ったが、向こうはとてもそんな感じがしない。
「でも、これはこれで更に意外だわ。私に会う
その台詞だけを聞けば、どれだけ己惚れてるんだと思うだろう。
だけど、この女神相手にはそう思わざるを得ない。神フレイヤに出会えれば嬉しくなるのは当然と思える程の美しさなので。
「そろそろ、御用件をお伺いしても宜しいですか? かの有名な女神様が、態々こんな裏通りに来てまで、俺と世間話をしに来たのではないでしょう?」
「う~ん……そうね。じゃあ本題に移るわ」
何か気になる節がありそうな感じだが、神フレイヤは俺に用件を告げようとする。
「貴方にお願いがあるの。今後あの子から手を引いてくれないかしら?」
「………は?」
神フレイヤがいきなり訳の分からない事を言った為、俺は思わず首を傾げた。
あの子から手を引けだと? 一体誰の事を言ってるんだ、この女神は?
「またしても大変失礼ですが、どう言う意味でしょうか? それに貴女様の仰る『あの子』とは?」
俺が質問した瞬間、どこからか殺気を感じた。
余りにも突然だった為に武器を構えそうになるも、神フレイヤはこちらの心情を気にせずに答えようとする。
「貴方がダンジョンで一緒に行動している子の事よ」
「ダンジョンで一緒に行動……?」
思わず鸚鵡返しをするも、俺が思い当たる人物と言えば……オラリオで初めて出来た友達――ベル・クラネルの事だった。
それが分かった瞬間、疑問を抱いた。何故、神フレイヤがベルの事を知っているんだ? ってか、何でこの女神は俺にベルから手を引けと言うんだ?
「その顔を見ると分かったようね」
「……ええ、確かに分かりました。しかし、それと同時に分かりませんね。どうしてベルと無関係な筈の貴方様がそのような事を仰るのです? ひょっとしてお知り合いですか?」
「いいえ、私が一方的に知ってるだけよ」
………神フレイヤの言ってる事が矛盾だらけで全然分からなかった。
ベル本人とは顔見知りですらないと言うのに、それを何でこの女神はあんな事を言ったんだ? 本当に訳が分からん。
「神フレイヤ、申し訳ありませんが理由を教えてくれませんか? 俺には貴方様の崇高な御考えが、どうしても理解出来ませんので」
一先ず丁寧に理由を尋ねようとすると――
「それを貴方が知る必要は無いわ。だからもう今後はあの子に会わないでね。分かったかしら?」
「えっ……」
神フレイヤは答えないどころか、命令口調で言ってきた。更には彼女の目の色が変わり、それを見た俺は動けなくなってしまう。
何だ、これは? 俺は何を考えて……ああ、そうか。俺はフレイヤ様の言う通り、今後ベルには近づかないように……って!
「ふざけるな!」
「っ!!」
すぐに意識を取り戻した俺が振り払うと、神フレイヤは驚愕を露わにする。
「はぁっ、はぁっ……あ、危なかった……!」
「嘘……。私の『魅了』を、自力で振り払ったの?」
息切れしている俺に、神フレイヤは聞いてないように独り言を呟いた。
いま『魅了』って言ったよな? ……まさかこの女神、俺を『魅了』しようとしたのか!?
以前にカスラから聞いた事がある。オラクルには宇宙を脅かす存在――ダーカーには『ダークファルス』と言う指揮官がいて、その中にはダークファルス【
既に存在してないが、ユクリータさんじゃない前【
神フレイヤはダークファルスじゃないが、『魅了』と言う能力を持っている。だからついさっき、俺を『魅了』させて強制的にベルから引き離そうとした。
危なかった。どうして俺が女神の『魅了』を自力で振り払われたのかは分からないが、もし引き込まれたら最後、俺は神フレイヤの操り人形となっていただろう。そして二度と友達のベルに会わなくなると言う最悪な展開となって。
「はぁっ、はぁっ……この……やってくれるじゃないか、クソ女神が!」
俺を『魅了』した元凶が神フレイヤだと分かった瞬間、途端に口汚く罵った。
しかし、今の俺には『魅了』を振り払った理由なんか如何でもよかった。ふざけた真似をしてくれた女神に対する怒りで頭がいっぱいだったので。
下界の人間が神相手に手を出すのは本来重罪だが、操り人形にしようとする相手には落とし前を付けさせなければ俺の気が済まん!
「今日は本当に驚く事ばかりね。まさか貴方みたいなエルフの男の子が、『魅了』を弾くなんて思いもしなかったわ」
俺が怒っているのにもかかわらず、あのクソ女神は余裕の表情だった。
あのふざけた態度を今すぐに改めさせてやる!
神フレイヤの態度に激昂した俺は自身の得物――エールスターライトを展開し、
「あらあら、物騒な物を出したわね。それにしても綺麗な武器じゃない。思わず欲しくなっちゃいそうだわ」
「ほざけ!」
人の武器を見て欲しがろうとする神フレイヤに、つくづく自分勝手な女神だと改めて認識した。
それにしても、あの女神は俺が武器を展開してるというのに、未だに涼しい顔をしている。
ああまで余裕な態度を取る理由としては――
「ぐっ!」
突如、何処からか殺気を感じた俺が咄嗟に武器を構えた瞬間、凄まじい衝撃が俺に襲い掛かった。
幸い武器で防いだから俺自身にダメージは無く、衝撃によって吹っ飛ばされてもいない。因みに後者に関しては、静止した状態の時に打ち上げや吹き飛ばしを防ぐエトワールスキル――スタンディングマッシブが発動してくれたので。
そして俺に衝撃を与えた元凶は目の前にいる。黒い衣装を纏った見知らぬ
「ゲスが。女神に刃を向けるのは重罪だぞ」
「何が重罪だ。そっちから先に仕掛けたんだろうが」
好き勝手にほざく
「見たところ、アンタはあの女神の眷族だな。だったら状況は分かってる筈だ。俺は危うくあの女神に『魅了』されそうになったんだぞ」
「フレイヤ様のお言葉は絶対だ。あのまま素直に言う事を聞いてれば良かったものを。そんな事も分からねぇクソガキはさっさとくたばって死ね」
「…………………」
あの自分勝手な女神だけじゃなく、眷族も眷族で好き勝手にほざきやがる……!
ついさっき会った【ロキ・ファミリア】には笑い者扱いされ、そして今度は【フレイヤ・ファミリア】から勝手な命令を下される始末。
噂に聞いた都市最高派閥は、どいつもこいつも自分勝手な連中ばかりだ。嫌になってくる。強ければ何をしても許されるとでも思っているのか?
……もう頭に来た。ミアハ様には大変申し訳ないが、我慢の限界だ。後先の事なんか知るか!
「良いだろう。あのクソ女神の前に、先ずは貴様からぶっ飛ばしてやる」
「言葉に気を付けろ。テメエみたいなクソガキ風情が――ッ!」
分離した剣は
それを見た
「ちっ、外したか」
「テメエ……」
当たらなかった事に舌打ちをする俺に、忌々しそうに呟く
「あらあら、あの剣は分ける事も出来るのね」
まるで他人事のように見て言う神フレイヤは、一先ず無視させてもらう。今は目の前の
「来いよ、クソ猫。俺に喧嘩を売った事を後悔させてやる」
「……たかが『Lv.1』のクソガキが、いい気になってんじゃねぇぞ……!」
あっそ。そうやって精々油断してるんだな。
確かに俺はこの世界で冒険者になったばかりの『Lv.1』だが、アークスとしての実戦経験は積んでいる。そう簡単にはやられたりしない。
そのついでに、鉄壁の防御スキルと回復支援スキルを持ったエトワールクラスの力を披露しよう。貴様の攻撃が大して効いてないって事も教えてやる!
そう決意して武器を構えると、向こうもやる気満々みたいで長槍を水平にして構えた。
「うふふ、あの子がアレン相手にどれだけ戦えるのか楽しみになってきたわ」
完全に観戦状態となってる神フレイヤに気にする事無く、俺と
「そこまでだ」
「「!」」
突如、第三者の声が割って入って来た。それにより俺達は咄嗟に足を止める。
すぐに止めた奴の方へと振り向くと、そこには見慣れない筋骨隆々の男性
「あら、オッタルじゃない。どうしたの?」
神フレイヤは男性
オッタルって……まさか、【フレイヤ・ファミリア】の首領――【
男性
「そろそろお戻りを。
「……そう、残念だわ。折角面白いものが見れると思ったのに」
報告を聞いた神フレイヤは心底残念そうに嘆息した後、
「アレン、戻りなさい」
「フレイヤ様! あんなガキを殺すだけでしたら一瞬で――」
「戻りなさいと言った筈よ、アレン?」
「…………承知しました」
まるで聞き分けの無い子供を窘めるような言い方をする神フレイヤに、アレンは悔しそうな顔をしながらも従った。
あの口の悪い
「ごめんね、悪いけど時間になっちゃったから帰らせてもらうわ」
「……待てコラ」
勝手に終わらそうとするクソ女神の言い分に、俺は待ったを掛けた。
「そっちから仕掛けておいて、都合が悪くなったら帰るって……どんだけ自分勝手なんだよ、アンタは」
「あら、不服かしら?」
「当たり前だ」
俺に勝手な命令を下して『魅了』し、高みの見物を決め込もうとする行動が、何もかも気に入らない。
いくら美の女神でも、これは余りにも自分勝手過ぎる。ここまで人を虚仮にしておいて、黙って見過ごす奴は絶対にいない筈だ。
「何の詫びもなく勝手に帰ろうとするなんて、それは余りにも道理に反しているんじゃないのか?」
すると、神フレイヤが思いも寄らない事を言おうとする。
「……確かに貴方の言うとおりね。その怒りは尤もだわ。だから……ごめんなさい、私が悪かったわ」
「なっ……」
「「フレイヤ様!」」
いきなり神フレイヤが軽く頭を下げた事に俺が戸惑うだけでなく、【
……何なんだ、あの女神は。さっきまで自分勝手に振舞っておきながら、それを急に謝ってくるって。
「どういうつもりだ? 都市最高派閥の主神様が、いきなり謝るなんて」
「貴方にはそうするだけの価値があるのよ」
「価値だと? どういう事だ?」
「うふふ、それはいずれ分かるわ」
何かこの女神に気に入られたような感じがする。俺の思い過ごしで会って欲しいんだが。
そう思ってると、神フレイヤは二人を連れて、どこかへ去ろうとする。
「それじゃあね、リヴァン。また会いましょう」
俺に笑みを浮かべながら別れを告げて姿を消した。
さっきまでの出来事が、まるで何事も無かったかのように静かになる。その数秒後には一般人の気配がして、話し声が段々聞こえてくる。
「……あの女神、一体何を考えているんだ……?」
神フレイヤの行動に疑問を抱く俺は呟くも、それは誰も聞いておらず虚空となって消えていった。
あとその他に、俺はあの女神に名前を名乗った記憶がないし、何で急に親しげに名前で呼んでくるんだ?
☆
「フレイヤ様、本当に放っておいて宜しいのですか? アレは本来、始末する予定だった筈では……」
「気が変わったのよ。私の『魅了』を自力で弾いた時点から、リヴァンもあの子と同様、私の
「……………………」
「アレンは不満なのかしら?」
「……恐れながら申し上げます。あのガキはフレイヤ様に楯突き、貴女様の慈悲によって生かされただけでなく、剰えあろう事か頭を下げさせました。これは到底許される事ではありません」
「いいのよ。私が頭を下げるだけで、穏便に済むなら安いものだわ」
「ですがフレイヤ様、もし【ロキ・ファミリア】の耳に入りでもしたら、少々面倒な事になるのでは?」
「その点は心配ないわ、オッタル。向こうも向こうで少々不味い事になっているのだから」
「と、仰いますと?」
「ついさっき小耳に挟んだのだけれど、どうやらロキの
「では万が一、向こうがこちらの事を追究したとしても……」
「そう言う事よ。でも、あのロキの事だから、色々と根回しをするでしょうね」
「しかし、【ロキ・ファミリア】を黙らせる口実はあっても、あのガキがフレイヤ様を貶めるような事をすれば……」
「大丈夫よ、アレン。リヴァンはそんなおバカな子じゃないわ」
「何故、そう言いきれるのですか?」
「
「……そうですか」
「まぁ他にもあるのだけれど……」
「他にも?」
「ああ、ごめんなさい。今のは聞き流して。私の独り言だから。アレンだけじゃなくオッタルもよ。良いわね?」
「「かしこまりました」」
(………直接リヴァンに会って気付いたけど、妙な魂だったのよね。私ですら分からない何かが、リヴァンの魂を包み込んでいた。一体アレは何なのかしら? まぁリヴァンがあの子と同様、私の物になったその時は是非とも調べさせてもらうわ)
お気付きの方はいるでしょうが、リヴァンの武器は外見を変化させた武器迷彩です。中身はちゃんとした武器を使っていますので。