少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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少年エルフ、トラブルに遭遇する

「ん~、ベルが見当たらないなぁ……」

 

 リューさんと話し終えた後、闘技場へ向かいながらベルを探すも中々見付からなかった。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)が開催されてる事で、闘技場へ向かう道の周囲には屋台や出店などがある為、住民や冒険者と思われる人がたくさんいる。こんな大勢がいる中、特定の人物を探すのは流石に無理と言わざるを得ない。

 

 つい先ほど屋台で売られているジャガ丸くんを二つ購入し、食べ歩きながらゆっくりと歩き回っている。因みにジャガ丸くんには色々な味があったが、ソース味と塩味を選んだ。小豆クリーム味と言う甘そうなやつもあったけど、惣菜として食べたかったから敢えて選ばなかった。既に一つ目のソース味を食べ終えて、今は塩味を堪能している。

 

「う~ん……塩味も良いけど、やっぱりソース味がいいかな」

 

 買ったジャガ丸くん二つ目を食べながら味を比較している中、ふと誰かにぶつかりそうだったので俺が咄嗟に避けようと――

 

「おや、貴方は……」

 

「ん? ああ、これはこれは」

 

 したが、銀髪の女性が俺を見た途端に声を掛けてきた。反応した俺が振り返ると、以前【ミアハ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ来た、【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・テアサナーレさんだ。互いに相手が知り合いだったので、俺とアミッドさんは揃って足を止めている。

 

 ナァーザさんは『優等生の皮を被った根暗聖女』と言っていたが、初めて会った時にはとてもそんな風には見えなかった。俺がそう疑問を投げても、表面上に騙されてはいけないと言った後、思いっきり彼女を貶すような説明をされたが。

 

「どうも。お会いするのは二度目ですね、テアサナーレさん。あの時はウチの団長と口喧嘩してましたが」

 

「………すみませんが、それは忘れて下さい」

 

 俺が以前に来た時の事を言うと、アミッドさんは恥ずかしそうに少し顔を赤らめながら言い返した。

 

 前に彼女が一人だけで本拠地(ホーム)へ来て借金の返済を催促した際、ナァーザさんが彼女の神経を逆撫でするような事ばかり言っていた。アミッドさんも我慢の限界が訪れたかのように、ナァーザさんと取っ組み合いに発展する始末だ。その時はミアハ様が仲介に入って何とか止めてくれたが。

 

「ゴホンッ……。ところで、ウィリディスさん。【ミアハ・ファミリア】に入ったばかりの貴方に訊くのは少々気が引けるのですが、次の返済までは大丈夫でしょうか?」

 

 話題を変えたかったのか、アミッドさんは表情を切り替えながら訊いてくる。

 

 普通ならそう言う事は俺じゃなくてナァーザさんかミアハさんのどちらかが答えるべき質問だ。けれどこの人は俺がダンジョンでお金を稼いでいる事を知っている。だから、俺に返済出来るかを確認しているのだ。

 

「ええ、まあ。期日までには何とか……」

 

「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

 ベルとダンジョン探索をして以降に稼ぎが少なり、更にそれを半分ずつにしてる事でナァーザさんの機嫌が悪くなっている。今まで数万ヴァリス稼いでいたのに、それがいきなり半分以下となったからな。あの人がそうなるのは無理もない。

 

 しかし、明日以降は暫く俺一人でダンジョンに行く事になる予定だから、いつものように稼げば大丈夫だ。まぁその分、今までの分を取り戻す為に、いつも以上に頑張らないといけないが。

 

 俺の返答を聞いて多少安堵したのか、アミッドさんはこう言ってくる。

 

「ウィリディスさん。私が言うのもなんですが、あまり無理はなさらないで下さい。貴方に何かがあれば、ミアハ様やナァーザだけでなく、貴方の従姉であるレフィーヤさんも悲しみますから」

 

「大丈夫ですよ。俺はこう見えて、それなりに鍛えて……あれ?」

 

 オラクル船団でアークスの訓練を受け、そしてエトワールクラスとなってる俺はそれなりの実戦経験を積んでいる。上層のモンスター程度相手にやられたりしない。けれど、油断し過ぎてると死んでしまう可能性がある。攻撃は緩めても警戒だけは怠るなと、カスラやクーナさんに教えられているので。

 

 そう思ってる中、アミッドさんの台詞に違和感があった。

 

「ちょっと待って下さい、アミッドさん。何で俺があの人の従弟だって、貴女が知ってるんですか?」

 

「この前、遠征から戻った【ロキ・ファミリア】がウチの治療院へいらした際、レフィーヤさんからお聞きました。お二人のファミリーネームが一緒だったので、少しばかり気になりまして」

 

「ああ、そう言う事ですか」

 

 確かにアミッドさんからすれば気になるだろうな。俺とあの人のファミリーネームは同じだから。

 

 レフィ姉さんも聞かれたから答えたんだろうが、あまり知り合いには言わないで欲しい。零細の【ミアハ・ファミリア】にいる俺が、レフィ姉さんのいる【ロキ・ファミリア】という大物派閥と比較されて、周りから何を言われるか分かったもんじゃない。

 

「しかし、レフィーヤさんの従弟であるならば、貴方も【ロキ・ファミリア】に入団してもおかしくないと思うのですが」

 

「あの人と再会したのは、俺が【ミアハ・ファミリア】に入団した後なんです。諸事情があって詳しく言えませんが、小さい頃に事故で生き別れとなってまして……」

 

「……そうでしたか。無粋な事を訊いてしまい、大変失礼しました」

 

 事情を察してくれたアミッドさんは、すぐに頭を下げて謝罪した。

 

 気にしてないと言って頭を上げるように促した後、俺は話題を変えようとある事を質問しようとする。

 

 どうやら彼女は休日で怪物祭(モンスターフィリア)へ来たようだ。けれど本人曰く、『やる事がない為、どこかに怪我人がいないか歩き回っている』らしい。

 

 この人の事は余り知らないが、凄く真面目な人だと言うのはよく分かった。同時に、ナァーザさんが思ってるような人ではないと言う事も。

 

 そう思いながらも、俺は白髪の少年――ベルを見かけなかったのかを確認しようと――

 

 

「モ、モンスターだぁぁぁぁあああああああ!」

 

 

 突如、先程まで賑やかだった周囲の話し声が、喧騒を突き破る叫び声によって一気に変わった。

 

 それを聞いた俺とアミッドさんだけでなく、周囲の人達も声がした方へと視線を向ける。

 

 その先には住民達が必死な顔をしながら、我先にと逃げ出そうとしている。それもその筈、巨人型のモンスターが此方へと向かっているから。

 

「あれは『トロール』……!」

 

 モンスターを見てアミッドさんが驚愕する。

 

 確かトロールはダンジョン20階層以降に現れるモンスターだったな。俺はまだ上層までしか探索してないから、中層以降はまだ先の予定だ。

 

 それはそうと、何故この街中でモンスターが出現したんだ? もしかしてアレは、今回の怪物祭(モンスターフィリア)で使う予定のモンスターなんだろうか。

 

 ミアハ様やナァーザさんから、怪物祭(モンスターフィリア)はモンスターを調教(テイム)するとは聞いた。そう考えると、あの見るからに凶暴そうなトロールもその内の一つだとしたら、一体どうやって調教(テイム)するのか少しばかり気になる。

 

 まぁ、今はそんな事どうでもいい。一先ずあのモンスターを如何にかしないとな。この周囲にいる人達に冒険者は何人かいるが、自分では勝てない相手だと見たのか、一般人と同じく逃走している。

 

 ちょっとは挑む姿勢くらい見せて欲しいなぁと少々呆れながらも、俺はエールスターライトを両剣(ダブルセイバー)形態として展開する。

 

「! お待ちなさい、ウィリディスさん! どこへ行くおつもりですか!?」

 

「どこへって……あのモンスターを倒そうと思ってますが、ダメなんですか?」

 

 何当たり前な事を訊いているんだと内心呆れながら言う俺に、アミッドさんは俺の腕を掴んで阻止してきた。

 

「当たり前です! まだ新人冒険者の貴方では勝てるモンスターではありません!」

 

「そうは言っても、ここは冒険者の誰かが止めないと危ないですよ。俺より先輩らしき、他の冒険者達も逃げていますし」

 

「うっ……で、ですが……!」

 

 俺の台詞に言い返せなかったのか、口籠ってしまうアミッドさん。

 

 一般人や冒険者が逃げ惑っている中、トロールは周囲の事を気にせず只管進んでいる。そして、俺とアミッドさんとの距離も近くなってきた。

 

「ウィ、ウィリディスさん! ここは私が時間を稼ぎますから、貴方は早く逃げて下さい!」

 

「いやいや、いくら貴女でも素手で挑むのは無茶だと思いますが……」

 

 俺の前に出て、逃げろと言ってくるアミッドさんの台詞に呆れた声を出した。

 

 聞いた話だとアミッドさんは『Lv.2』で、後方支援の治療師(ヒーラー)らしい。いくらこの人が俺よりレベルが上でも、まともな攻撃手段を持ち合わせてない状態でモンスターに挑むのは無謀だ。

 

 それに、俺としても彼女を置いて逃げる気なんか毛頭無い。もしも【ディアンケヒト・ファミリア】にいる主神に知られたら、きっと何かしらの報復措置をやってくるかもしれないので。

 

「取り敢えず俺に任せておいてください、テアサナーレさん」

 

「なっ! ちょ、ウィリディスさん!」

 

 再び前に出て、引き留めようとするアミッドさんを振り切った俺は進んでいるトロールの元へと向かう。

 

 すると、俺が向かってくると分かったのか、向こうは進んでいる足を止める。

 

 遠くからでも分かってはいたが、間近で見るとやっぱりデカいなぁ。

 

『ガァァァァアアアアアア!!』

 

 俺が冷静に観察してると、自分をジロジロと見られる事で不快そうに叫ぶトロール。その直後、片方の大きな腕を俺目掛けて振り下ろそうとする。

 

 相手の攻撃に慌てず素早く回避しようと跳躍し、簡単に跳び越えた俺は反撃に移ろうと、トロールの頭目掛けて、(かかと)落としと同時に目の前に両剣(ダブルセイバー)を叩きつける。

 

『ゴッ!』

 

 攻撃を喰らったトロールは激痛によって顔を歪ませるも、俺は気にせずフォトンで作られた巨大剣を形成して蹴り放つ。

 

 巨大剣が命中した瞬間、さっきまであった筈の上半身が粉砕される。核である魔石を失った為か、残った身体は灰となっていった。

 

「よっと……ま、こんなもんか」

 

 空中で巨大剣を蹴り放って宙返りしている俺は、体勢を整えながら地面に着地した。トロールが灰となって絶命したと確認した俺はまずまずの結果だと判断する。

 

 因みにさっき使ったのは、踵落としと同時に放った攻撃の後、大きなフォトン刃を目標に蹴り放つ両剣(ダブルセイバー)エトワール用フォトンアーツ――セレスティアルコライド。エトワール用両剣(ダブルセイバー)で、単発火力の高いフォトンアーツだ。

 

 見ての通り、トロールの身体を簡単に吹き飛ばす威力で、止めを刺す時に有効でもある。本来だったら他のフォトンアーツと一緒に合わせて使うものだが、街中である為にすぐに倒そうと初手で決めた。

 

 下層モンスターでも意外と大した事無かったなと思いながら、アミッドさんのいる所へと戻る。

 

「どうです、テアサナーレさん。俺も充分にやれるって分かったでしょう?」

 

「………………………」

 

 俺が少し自慢気に言うも、アミッドさんは聞いてないのか、口を開けたまま呆然となっていた。

 

「テアサナーレさん? お~い、聞こえてますか~?」

 

 両剣(ダブルセイバー)を持ってない片手で、彼女の顔の前で手を振ると、漸く意識が取り戻したようにハッとする。

 

「ウィ、ウィリディスさん、い、い、今のは、一体……? 先程、巨大な剣を……」

 

「ん~……敢えて言うなら、俺が魔力で作った剣、みたいなものです」

 

 この世界ではフォトンという概念がない。だから敢えて魔力で通す事にした。まぁ誤魔化しても、さっきの剣は俺が作った事に変わりないので。

 

 アミッドさんはまだ頭の処理が追い付いてないのか、未だ片言に近い状態だ。

 

 あ、そう言えばベルは大丈夫かな? 脱走したモンスターに襲われてなければいいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって闘技場にある天頂部分の柱。その上に立っている金髪の少女が街の周囲を俯瞰していた。

 

「……嘘。トロールを一瞬で倒した」

 

 金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタインが目を見開きながら、信じられないように呟く。

 

 彼女が此処にいるのには理由がある。

 

 ついさっき、ギルドから闘技場にいた一部のモンスターが脱走したので手を貸して欲しいと懇願された。断る理由がないとアイズは頷き、同行していた主神のロキも承諾している。

 

 ロキからの指示により、『高所から敵の位置を掌握してから、早急に狙い撃て』と指示により、闘技場の柱の上に立って周囲を見渡していた。

 

 アイズが肉眼でモンスターを補足している最中、あるものが視界に入った瞬間に止めた。彼女の見ている先には巨人のモンスター――『トロール』の他に、あの時の少年がいた。数日前、宴の時にベートが面白可笑しく謗った事を抗議したエルフの少年が。

 

 エルフの少年が酒場からいなくなった後、アイズは数日の間、非常に申し訳ない気持ちになって落ち込んでいた。今は一通り落ち着いて、もし会ったらあの時の事を謝ろうと決めている。エルフの少年の他に、人間(ヒューマン)の少年にもちゃんと謝ろうと。

 

 人間(ヒューマン)の少年は未だに名前は分からないが、エルフの少年は既に判明していた。彼はレフィーヤの従弟で『リヴァン・ウィリディス』。並びに【ミアハ・ファミリア】に所属していると。

 

 名前と所属先のファミリアが分かったから、近い内に彼の本拠地(ホーム)に訪れて謝ろうと思っていた。レフィーヤも従姉として、もう一度謝りたいと言ったので、断る理由がないアイズは当然承諾している。

 

 そんな予定を立てていた際、予想外と言わんばかりに再びリヴァンを見付けた。あろう事か、一人で『トロール』に挑もうとしている所を。

 

 レフィーヤからの話で、リヴァンは冒険者になったばかりの『Lv.1』だと聞かされた。不思議な武器を使ってモンスターを一撃で倒していた、と含めながら。興味深いと思ったアイズは、機会があれば見せて貰おうとも考えていたのは内緒だ。

 

 しかし、いくら腕が立つと言っても、『Lv.1』のリヴァンがトロールに挑むのは無謀だった。ダンジョン20階層より下層から生まれるモンスター相手に、『Lv.1』の冒険者が一人で挑むのは自殺行為も同然だと。

 

 すぐに助けようと、即座に風魔法を展開してリル・ラファーガを使おうとしたが、すぐに止めてしまった。何故なら、リヴァンがトロールの攻撃を回避して跳躍しただけでなく、反撃をして簡単に倒してしまったから。

 

 それらを見ていたアイズは、未だに自分の目が信じられなかった。リヴァンがトロールを簡単に倒したのが余りにも予想外だったので。

 

 普通に考えて、それは絶対にあり得ない。当時『Lv.1』の自分(アイズ)でも、一人でトロールを倒す事が出来なかった。

 

 なのに、リヴァンはやった。『Lv.1』でありながらも、いとも簡単に倒した。その為に――

 

(知りたい。『Lv.1』でありながらも、どうやってあれだけの力を得たのかを……!)

 

 アイズは知りたい欲求に駆られ、今すぐに問い質したい気持ちでいっぱいだった。

 

 けれど、それはすぐに収まる。ロキからの指示を思い出したアイズは、一先ず後回しにしようと脱走したモンスターを仕留める事に頭を切り替える。

 

(あのリヴァンって子、一体何者なの?)

 

 アイズはモンスターを倒しながらも、トロールを簡単に倒したリヴァンについて考えているのであった。




一先ず怪物祭はこれで終わりです。

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